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婚約・内縁関係中不貞行為に関する平成24年6月22日東京地裁判決全文紹介1

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平成27年12月19日(土):初稿
○「婚約中の女性を口説いて婚約破棄させた場合の責任」で、B男が、D男と婚約中のE女と男女関係になり、それが原因でD男・E女の婚約が解消になった場合、B男はD男に不法行為責任を負うかどうかは微妙である旨説明していました。

○このB男の立場の方から、D男から厳しい損害賠償請求を受けているがどの程度の損害賠償責任を負うのでしょうかという相談を受けました。D男・E女が夫婦関係にある場合は、間男の責任であり、私自身は間男・間女?無責任説を支持しているところ、このHPの大分類「男女問題」中分類「不倫」で、裁判例を多数紹介しています。

○今般、婚姻関係ではなく婚姻予約段階でのカップルの一方と男女関係になり、その婚姻予約が破棄された場合の男女関係となった方の相談を受けて、この場合の裁判例を探していますが、なかなか見つかりません。現時点では、原告が、被告Y1に対し、原告と被告Y1との間には内縁関係及び婚約が成立していたのに、被告Y1が被告Y2と不貞関係を持ったことにより内縁関係が破綻し、婚約が不当に破棄されたと主張し、被告Y1・Y2に対し、不法行為に基づく慰謝料等の支払を求めた事案についての平成24年6月22日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)が見つかりましたので、先ず全文を2回に分けて紹介します。

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主  文
1 甲事件被告は,甲事件原告に対し,55万円及びこれに対する平成22年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 甲事件原告のその余の請求及び乙事件原告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用中,甲事件原告と甲事件被告との間に生じた部分はこれを20分し,その1を甲事件被告の,その余を甲事件原告の各負担とし,乙事件原告と乙事件被告との間に生じた部分は乙事件原告の負担とする。
4 この判決の第1項は,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 甲事件
(1) 甲事件被告は,甲事件原告に対し,1248万3019円及びこれに対する平成22年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 仮執行宣言

2 乙事件
(1) 乙事件被告は,乙事件原告に対し,440万円及びこれに対する平成22年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 仮執行宣言

第2 事案の概要
1 本件は,甲事件原告・乙事件原告(以下「原告」という。)が,甲事件被告(以下「被告Y1」という。)に対し,原告と被告Y1との間には内縁関係及び婚約が成立していたところ,被告Y1が乙事件被告(以下「被告Y2」という。)と不貞関係を持ったことにより上記内縁関係が破綻し,上記婚約が不当に破棄されたとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料等の損害合計781万0825円及びその遅延損害金(訴状送達の日の翌日である平成22年8月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに,上記内縁関係及び婚約の解消に際し,被告Y1が原告に対して従前両者が飼育していた猫につきその将来の飼育費用を被告Y1において負担する旨を約したとして,その費用相当額467万2194円及びその遅延損害金(同上)の支払を求め(甲事件),また,被告Y2に対し,被告Y2が被告Y1と上記不貞行為に及んだことにより上記内縁関係に係る内縁配偶者としての原告の権利が侵害されたとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料等の損害合計440万円及びその遅延損害金(訴状送達の日の翌日である平成22年8月14日から支払済みまで同割合による遅延損害金)の支払を求める(乙事件)事案である。

2 前提となる事実
 以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1)
ア 原告は,昭和46年○月○日生まれの女性である。
イ 被告Y1は,昭和48年○月○日生まれの男性である。被告Y1は,平成12年10月17日,前妻と協議離婚した。
ウ 被告Y2は,昭和40年○月○日生まれの女性である。

(2) 原告と被告Y1は,平成13年春ころ,同じ職場で働いていたことを機に交際を始め,同年9月ないし10月ころ,横浜市港北区太尾町所在の賃貸マンション(以下「太尾町のマンション」という。)において同居を開始した。その後,原告と被告Y1は,平成15年11月ないし12月ころ,同区師岡町所在の賃貸マンション(以下「師岡町のマンション」という。)に共に転居し,同所においてその同居関係を継続した。

(3) 被告Y1は,平成17年10月10日,同日付けの「婚約誓約書」と題する書面(以下「本件誓約書」という。)に署名押印し,これを原告に交付した。本件誓約書には,以下の記載がある。(甲3の1)
 「 私,Y1は,Xと婚約することを宣誓し,以下の約束事を遵守すると共に,誓いの証として婚約指輪を渡します。
 【約束事】
 1.お互いをパートナーとして尊重し,相手を悲しませ,傷つける行為・行動・態度(浮気(“誤解を招くような”も含む),嘘,隠し事,不正,裏切り等)をとらないこと
 2.婚約指輪は常に身に付け,婚約中であることを周囲に明言すること
 3.お互いがお互いの「良き理解者」であるよう勤め,信頼関係を築くために日々の努力を怠らないこと
 4.共同生活や猫に関することは,全て2人で協力し合って行うこと
 5.発生した問題は,納得いく結論が出るまで誠心誠意キチンと2人で話し合って解決し,後に持ち越さないこと
 6.不貞・不正行為や本誓約事項の不履行による信頼関係の損失及び,それらにより婚約関係(共同生活)の継続が困難になった場合は,加害側は素直に自身の非を認め,その後の信頼修復の為の諸条件,慰謝料(第三者機関利用費用含む)・共有資産分与他等の賠償問題に,誠意を持って真摯に対応すること
 以上」

(4) 被告Y2は,被告Y1と同じ職場に勤めており,原告が平成15年12月に退職をするまでは,原告とも同僚又はその上司という関係にあった。被告Y1と被告Y2(以下,併せて「被告ら」ともいう。)は,平成21年6月ころから,私的な交際を始めた。

(5) 被告Y1は,平成21年9月23日,師岡町のマンションから出て行き,以来,原告と被告Y1とは,別居状態となった。

(6)
ア 原告は,平成22年7月24日,甲事件に係る訴えを提起し,その訴状は,同年8月13日,被告Y1に送達された。
イ 原告は,平成22年8月1日,乙事件に係る訴えを提起し,その訴状は,同月13日,被告Y2に送達された。

3 争点及び当事者の主張の要旨
(1) 被告Y1に対する損害賠償請求について

ア 原告
(ア) 被告Y1の不法行為責任について
a 原告と被告Y1との間の内縁関係及び婚約の成立について
 平成13年9月ころに同居を開始した原告と被告Y1との関係は,実質的には婚姻生活を営む意思に基づいており,法律上の夫婦と異ならない精神的,肉体的,経済的結合という実体を有していたものであって,同月ころには,原告と被告Y1との間に内縁関係が成立したことは明白である。
 また,被告Y1が原告に対して本件誓約書を交付した平成17年10月ころには,原告と被告Y1との間に婚約が成立していたことも明らかである。

b 被告Y1の不法行為について
 被告らは,遅くとも,平成21年6月ころまでには,男女関係を有し,不貞関係となり,当該不貞関係は,同年7月中旬には,原告に発覚した。
 被告Y1は,それを契機として,原告を次第に疎んじるようになり,同年9月23日夜,話合いを求める原告に対し,「そんなに金が欲しいのか。」などと述べ,行き先も告げずに自宅である師岡町のマンションを出て行ったまま帰宅しなくなり,同年10月下旬には,被告Y2と同居していることが原告に発覚した。

 その後,原告は,被告Y1から,師岡町のマンションからの退去を求められるなどしたため,被告Y1との関係継続は不可能と判断するとともに,平成22年1月,師岡町のマンションを退去して転居することを余儀なくされた。
 このように,原告と被告Y1との内縁関係は,被告らの不貞行為により,同月ころ破綻し,また,原告と被告Y1との婚約も,遅くとも同月ころまでには,被告Y1により不当に破棄されたものというべきであるから,被告Y1は,法律上保護されるべき内縁配偶者又は婚約の一方当事者としての原告の権利を侵害したものとして,不法行為責任に基づき,原告に対し,原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

(イ) 原告の損害額について
 原告の損害額は,以下のとおり,合計781万0825円である。
a 慰謝料 600万円
 被告Y1の不法行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するに相当な金額は,600万円を下らない。
b 転居費用 62万6275円
 原告は,被告Y1の不法行為により内縁関係が破綻し婚約が破棄されたことに伴い,被告Y1がその名義で賃借していた師岡町のマンションからの転居を余儀なくされ,そのための費用として62万6275円を支出した。
c 調査会社費用 47万4550円
 原告は,被告Y1が師岡町のマンションに帰らなくなり,その居場所も知らせず,誠実に話合いを行う姿勢も見せなかったことから,やむを得ず,調査会社に依頼して,被告Y1の居住場所や被告らの交際の継続の有無等について調査せざるを得なくなり,そのための費用として47万4550円を支出した。なお,仮に,当該費用がいわゆる特別損害に当たるとしても,本件誓約書の文言に照らし,被告Y1においては,当該費用に係る損害が予見可能であったものというべきである。
d 弁護士費用 71万円
 被告Y1の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,71万円とみるべきである。

イ 被告Y1
(ア) 被告Y1の不法行為責任について
a 原告と被告Y1との間の内縁関係及び婚約の成立について
 原告と被告Y1との間に内縁関係及び婚約が成立していた旨の原告の主張は争う。

 原告と被告Y1との同居関係は,交際関係にあった両者が,平成13年10月ころ,それぞれ賃借していたマンションがともに賃借期間の満了時期を迎えたことを契機として始まったものであったが,その後,被告Y1は,被告Y1よりも飼育する猫の方に多くの愛情を注ぐ原告に対し,愛情を感じられなくなり,上記の同居関係を惰性で続けていたにすぎない。原告と被告Y1は,同居期間中も,寝室を別にしており,両者間の性交渉は,同居当初から年2,3回程度にとどまり,平成17年5月ころ以降は全く存せず,また,互いの親族との間での交流もほとんどない状態であった。

 本件誓約書は,被告Y1とその勤務先の女性派遣社員との関係を邪推した原告から強硬にその作成を迫られた被告Y1が,やむなくこれに応じたものであるにすぎず,被告Y1においては,原告との間で婚約等をする意思を有していなかった。
 原告及び被告Y1がともに夫婦関係を形成する意思を有していなかったことは,約8年間の同居期間中,格別の支障が存しなかったにもかかわらず,婚姻の届出をしようという話にならず,現にその届出がされていないことからも明らかである。

b 被告Y1の不法行為について
 前記aのとおり,原告と被告Y1との間には内縁関係も婚約も成立していなかったものであるから,被告Y1と被告Y2との関係は,不貞関係と評価されるべきものではなく,被告Y1は,原告に対して不法行為責任を負うものではない。
(イ) 原告の損害額について
 争う。

(2) 被告Y1に対する猫の飼育費用に係る請求について
ア 原告
(ア) 被告Y1は,平成21年9月13日,原告に対して内縁関係及び婚約を解消したい旨を申し入れた際,当時原告と共に飼育していた3匹の猫に関し,原告に対し,「猫は自分では面倒をみることができないので,3匹とも引き取ってほしい。猫たちは子どもと同じ存在なので,飼育費用は支払う。」旨を述べ,原告も,これを了承し,もって,原告と被告Y1との間に,今後の猫の飼育費用を被告Y1が原告に支払う旨の合意(以下「本件飼育費用支払合意」という。)が成立した。

(イ) 前記3匹の猫のうち,平成21年11月に他界した1匹(○○)を除く2匹(△△及び□□)に係る飼育費用については,被告Y1が,本件飼育費用支払合意に基づき,原告に対して支払義務を負うところ,その額は,以下のとおり,合計467万2194円である。
a 恒常的な飼育費用 合計369万5139円
(a) △△ 167万6112円
 △△に係る恒常的な年間飼育費用は,別表1のとおり,23万5813円であるところ,飼い猫の平均寿命が約16年であることから,本件飼育費用支払合意の成立時において7歳であった△△の余命が9年であるものとして,その将来にわたる飼育費用につき中間利息を控除して算定すると,以下のとおり,167万6112円となる。
 23万5813円×7.1078=167万6112円

(b) □□ 201万9027円
 □□に係る恒常的な飼育費用は,別表2のとおり,年間20万3971円であるところ,飼い猫の平均寿命が約16年であることから,本件飼育費用支払合意の成立時において2歳であった□□の余命が14年であるものとして,その将来にわたる飼育費用につき中間利息を控除して算定すると,以下のとおり,201万9027円となる。
 20万3971円×9.8986=201万9027円

b □□の健康診断費用 2万5320円
 □□の健康診断費用については,8歳以降,前記a(b)において基礎とした額よりも年間5250円増加するところ,これにつき中間利息を控除して算定すると,別表3のとおり,2万5320円となる。

c 器具等の買替費用 95万1735円
 △△及び□□を飼育していく上では,恒常的な飼育費用とは別に,器具等の買替えが必要となるところ,それぞれの器具等の価格,買替えを要することとなる時期等を考慮して,その費用につき中間利息を控除して算定すると,別表4のとおり,95万1735円となる。

イ 被告Y1
(ア) 本件飼育費用支払合意の成立の事実は否認する。
(イ) 原告主張の飼育費用の額は争う。

(3) 被告Y2に対する損害賠償請求について
ア 原告
(ア) 被告Y2の不法行為責任について
a 原告と被告Y1との間の内縁関係の成立について
 前記(1)ア(ア)aのとおり,平成13年9月ころには,原告と被告Y1との間に内縁関係が成立していたことは明白である。

b 被告Y2の不法行為について
(a) 前記(1)ア(ア)bのとおり,原告と被告Y1との内縁関係は,被告らの不貞行為により,平成22年1月ころ破綻したものであり,被告Y2は,被告Y1との不貞行為によって原告との内縁関係を破綻させ,法律上保護されるべき内縁配偶者としての原告の権利を侵害したものであるから,不法行為責任に基づき,原告に対し,原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

(b) 被告Y2は,被告Y1との不貞行為の当時,原告と被告Y1が長期間同居していることを知っており,原告と被告Y1が夫婦同然の関係にあることを十分に知悉していたものであるから,原告に対する権利侵害につき故意があり,また,仮に,原告と被告Y1が夫婦同然の関係にあるとの認識までは有していなかったとしても,原告と被告Y1が長期間同居していることを知っていた以上,原告に対する権利侵害につき過失があるものというべきである。

(イ) 原告の損害額について
 原告の損害額は,以下のとおり,合計440万円である。
a 慰謝料 400万円
 被告Y2の不法行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するに相当な金額は,400万円を下らない。
b 弁護士費用 40万円
 被告Y2の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,40万円とみるべきである。

イ 被告Y2
(ア) 被告Y2の不法行為責任について
a 原告と被告Y1との間の内縁関係の成立について
 原告と被告Y1との間に内縁関係が成立していた旨の原告の主張は争う。

b 被告Y2の不法行為について
(a) 前記aのとおり,原告と被告Y1との間には内縁関係も婚約も成立していなかったものであるから,被告Y1と被告Y2との関係は,不貞関係と評価されるべきものではなく,被告Y2は,原告に対して不法行為責任を負うものではない。
(b) 被告Y2は,被告Y1と私的な会話をするようになってから,原告と被告Y1が長年同居を続けていることを知ったが,被告Y1から,原告は単なる同居人であって,原告との婚姻は全く考えていないなどと聞かされ,原告との希薄な同居生活の実態の説明等を受けていたため,原告と被告Y1との関係については,法律上保護に値するようなものではないとの認識を持った上,平成21年6月下旬ころ,被告Y1との間の交際を始めたものであり,同年7月中旬に原告からの電話を受けたことを契機として,原告と被告Y1との関係が単なる同居人という関係以上のものではないかと疑問を抱くに至り,同年9月23日に被告Y1から原告との間で同居関係の解消をすることにつき話がついた旨の報告を受けるまで,被告Y1との間に距離を置いていたものである。
 このような被告Y2については,仮に原告と被告Y1との間に法律上保護に値する内縁関係が成立していたとしても,原告が主張するような故意又は過失はなく,さらに,仮に何らかの過失があったとしても,そのことと上記内縁関係の破綻との間に因果関係はないものというべきである。

(イ) 原告の損害額について
 争う。
以上:7,245文字

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