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平成27年12月19日(土):初稿 |
○「婚約・内縁関係中不貞行為に関する平成24年6月22日東京地裁判決全文紹介1」の続きで裁判所の判断です。 ********************************************* 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提となる事実に証拠(甲3の1・2,甲4から6まで,18,19,乙1,丙1,原告本人,被告Y1本人,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができ,他にこれを左右するに足りる証拠は存しない。 (1) ア 原告と被告Y1は,平成12年7月ころ,ともにa株式会社に勤務していたところ,原告が被告Y1の所属部署に異動したことを契機として知り合いとなり,平成13年春ころ,電話番号及びメールアドレスの交換をし,私的な交際を始め,徐々にその親密度を深めた。そして,原告と被告Y1は,原告が賃借していたマンションの賃借期間の満了時期を迎えることとなったことを機に,同居をすることとし,一緒に転居先を探し,同年9月ないし10月ころ,ともに太尾町のマンションに転居し,以来,同居生活を始めた。太尾町のマンションにおける同居生活の期間中,原告と被告Y1は,生活費を分担して負担し,また,家事については,主として原告がこれを行っていた。 イ 原告は,被告Y1と交際を始める前から,猫の飼育に強い興味を有しており,被告Y1との同居を始めた後の平成14年初めころから,飼育用の猫を探し始め,同年3月ころ,雌の子猫1匹を購入し,△△と名付けた。さらに,原告は,平成15年3月ころ,野良猫を保護し,◇◇と名付け,自宅で飼育することとした。 ウ 原告は,平成15年秋ころ,仕事を辞めてインテリア関係の学校に通いたいという意向を持ち,被告Y1の賛同を得て,上記学校に通い始めた。そして,原告と被告Y1は,より低廉な家賃の賃貸マンションに転居することとし,同年11月ないし12月ころ,被告Y1の名義で賃借した師岡町のマンションに前記2匹の猫と共に転居し,同所においてその同居関係を継続した。師岡町のマンションにおける同居生活の期間中,家賃及び水道光熱費については被告Y1が,食費や猫の飼育費用については原告が主として負担していた。 エ 平成16年6月に◇◇が死亡した。原告は,同年10月ころ,野良猫を保護し,○○と名付け,自宅で飼育することとした。 オ 原告は,平成17年9月ころ,被告Y1が勤務先の同僚の女性社員と二人で買い物や食事をしたことなどを知り,被告Y1との関係の継続に不安を感じ,被告Y1に対し,そのような女性との付き合いについての強い嫌悪感を示すとともに,前記内容の文面の本件誓約書に署名押印をするよう迫り,被告Y1も,これに応じた。なお,本件誓約書の表題及び文面はすべて原告において考案し,作成したものであった。 カ 原告は,平成19年8月,野良猫を保護し,□□と名付け,自宅で飼育することとした。 キ 平成20年10月ころ,○○が体調を崩し,それ以降,毎日自宅での点滴等の介護が欠かせない状態となった。原告は,猫に対する強い愛情から,そのような介護に献身するとともに,被告Y1にも協力を求めた。なお,○○は,平成21年11月に死亡した。 (2) ア 被告Y1は,原告との同居生活を開始するに当たり,原告に対する恋愛感情は有していたものの,過去の離婚経験等から,原告と婚姻をしようとする意思は有してはいなかった。そのため,被告Y1は,自身の母やその余の親族に対し,格別に原告を紹介したことはなく,実家の冠婚葬祭に原告を招いたこともなかった。また,原告も,被告Y1との同居生活を開始するに当たっては,被告Y1との婚姻について漠然と意識していたにとどまっていた。 イ 被告Y1と原告との間には,同居開始後,時折性交渉があったものの,◇◇の死亡後はほとんどその機会はなくなり,○○が体調を崩した平成20年10月以降は全くその機会は失われていた。 ウ 被告Y1と原告は,本件誓約書の作成前のみならず,その作成後においても,婚姻の届出や挙式について,その具体化に向けて何らかの行動をとったことはなく,その時期等について具体的に話し合ったこともなかった。また,被告Y1と原告は,本件誓約書の作成後,指輪の購入のために店舗を訪れたこともあったが,結局,購入には至らなかった。なお,本件誓約書の作成後,被告Y1は,原告の求めに応じ,ミクシィの日記に原告と婚約した旨を掲載したことがあったが,職場や友人らに対して原告と婚約した旨を告げたことはなかった。 エ 被告Y1は,猫について,格別嫌いではなかったものの,原告が専ら猫に対して強い愛情を注ぐことにより,いわば猫を中心とした生活を送ることを余儀なくされることについて,耐え難さを感じるようになっていた。 (3) ア 被告Y2は,被告Y1と同じ職場に勤めており,原告が平成15年秋ころに退職をするまでは,原告とも同僚又はその上司という関係にあった。被告Y2は,被告Y1がその上司になった後の平成21年6月ころから,被告Y1との間で私的な会話をするようになり,その中で,被告Y1は,被告Y2に対し,原告について,長年同居しているが,単なる同居人のようなものであり,原告と婚姻する意思は有していない旨等の説明をした。被告Y2は,被告Y1からの原告についての説明の内容や,同居している原告のためではなく,専ら猫の世話をするという原告との約束を果たすために自宅に戻ろうとしているように見受けられた被告Y1の態度等から,原告と被告Y1との関係については,単に同居しているにすぎないものとの認識を有し,被告Y1との間で,互いに好意を抱き合うようになり,私的な交際を始め,同月23日ころには肉体関係を持った。 イ 原告は,平成21年6月ころ,被告Y1の行動に不審な点を感じ,被告Y1の携帯電話のメールの履歴から,被告Y1が被告Y2と私的な連絡を交わしていることを発見し,同年7月18日,被告Y1に対し,被告Y2との関係について問い詰めた。これに対し,被告Y1は,被告Y2とは私的に交際しており,肉体関係もあった旨を認めた。そのため,原告は,被告Y1の携帯電話から被告Y2の携帯電話に電話をかけ,被告Y2に対し,被告Y1とは長年同居関係にある旨,自宅にいる要介護の猫のためにも被告Y1が外泊したりすることはとても迷惑であるので,そのようなことは止めてほしい旨,今後のことは原告と被告Y1との間で話し合う意向である旨等を申し述べた。これを聞いた被告Y2は,原告と被告Y1との関係が自分の従前の認識とは異なるものであると感じ,原告に対し,了解した旨を伝えた。 ウ 被告Y2は,平成21年7月19日ころ,被告Y1と面談した。その際,被告Y1は,被告Y2に対し,原告が昨夜は別れることを了承する旨述べたが,今日になってその意向を撤回した旨,しかし被告Y1には原告との同居関係を続ける意思はなく,原告とはしっかり話し合っていくつもりである旨を報告した。被告Y2は,被告Y1と原告との関係については,両者間においてお互いが納得するようきちんと話し合った方がよいと考え,その旨を被告Y1に伝えるとともに,被告Y1との間に距離を置くこととした。 エ 被告Y1は,平成21年8月,原告との話合いの中で,原告に対し,別居をしたい,今後のことを考えたい,もう猫の面倒はみられない等の意向を伝え,さらに,同年9月13日には,原告に対し,同居関係を解消したい旨を述べた。これに対し,原告は,慰謝料や猫の飼育費用等につき納得のいく条件の提示があれば同居関係の解消を考える旨答えたが,その後も,両者間の協議は調わなかった。 オ 被告Y1は,平成21年9月23日,原告との前記協議が調わないまま,師岡町のマンションから出て行き,以来,原告とは別居状態となった。そして,被告Y1は,同日,被告Y2に対し,原告と合意して同居関係を解消した旨を伝え,以来,被告Y2の自宅において,被告Y2と同居するようになった。なお,しばらくの間,被告Y1の所在は原告に判明しなかったが,同年10月下旬,原告が依頼した調査会社の調査結果により,被告Y1が被告Y2と同居していることが原告にも判明した。 カ 平成21年11月は師岡町のマンションの賃借期間の満了時期であったところ,被告Y1は,原告の求めに応じ,その更新手続をとったが,原告は,平成22年1月,師岡町のマンションから退去した。 2 被告Y1に対する損害賠償請求について (1) 被告Y1の不法行為責任について ア 原告と被告Y1との間の内縁関係及び婚約の成立について (ア) 前記認定事実を踏まえ,原告と被告Y1との間に内縁関係及び婚約が成立していたとする原告の主張について検討する。 (イ) まず,内縁関係の成否についてみるに,前記認定のとおり,原告と被告Y1との同居関係は,平成13年9月ないし10月ころから平成21年9月23日までの間,途中での転居を経て,合計約8年間にわたり継続したものであって,その開始当初においては,開始の経緯等からして単なる同棲生活の域を出ないものであったことが窺われるものの,その共同生活の継続に従い,事実上夫婦と同視し得る共同生活関係の形成が進み,遅くとも,原告が被告Y1に対して原告との同居関係の維持,貞操義務の負担等の確認を求めたものとみるべき前記内容の本件誓約書が作成された平成17年10月10日の時点では,原告と被告Y1との間に内縁関係が生ずるに至っていたものと認めるのが相当である。 (ウ) また,婚約の成否についてみるに,被告Y1が,同日,「婚約誓約書」と題する前記内容の本件誓約書を作成し,これを原告に交付していることは,前記認定のとおりである。しかしながら,本件誓約書自体,原告と被告Y1との婚姻の具体的な予定に係る記載を含むものではない上,その後,原告と被告Y1との同居関係が解消された平成21年9月23日までの約4年間にわたり,原告又は被告Y1が,婚姻の届出や挙式について,その具体化に向けて何らかの行動をとったことはなく,その時期等について具体的に話し合ったこともなかったことなどの前記認定の事実経緯に照らせば,本件誓約書の作成交付については,原告及び被告Y1の双方とも,両者間の同居関係の維持継続等を確認する趣旨のものであるとの認識を有していたにとどまるものとみるのが相当であって,これをもって直ちに原告と被告Y1との間に法律上の婚姻を行うことについての合意が調い,婚約が成立したものと認めることは困難であるというべきである。そして,本件証拠上,本件誓約書の作成の前後を通じ,約8年間に及ぶ原告と被告Y1との同居期間中に,原告と被告Y1との間に婚約が成立したものと評価し得る事情は窺われないところであるから,被告Y1との婚約の成立に関する原告の主張は理由がないものといわざるを得ない。 イ 被告Y1の不法行為について 前記のとおり,原告と被告Y1との間には内縁関係が成立していたものと認められるところ,上記内縁関係については,前記認定の事実経緯を経て,平成21年9月23日に被告Y1が自宅である師岡町のマンションを出て行ったことによって破棄されたものと認めることができる。そして,前記認定の事実経緯によれば,飼い猫の死亡や発病等を契機として,飼い猫に強い愛情を注ぐ原告と,そのような原告のためにいわば飼い猫を中心とした生活を強いられることに苦痛を感じるようになった被告Y1との関係が徐々に希薄なものとなっていたことが窺われ,そのこと自体については被告Y1に格別の責任があったものとは認められないが,当該事情を踏まえても,被告Y1において,原告との協議が調わないまま上記内縁関係を破棄するに至ったことについては,これを正当化し得る事情があったものとまでは認め難く,原告に対する不法行為と評価することができるものというべきである。 (2) 原告の損害額について ア 慰謝料等 原告が被告Y1による前記内縁関係の破棄によって被ったものと認めるべき精神的苦痛を慰謝するに相当な金額については,原告及び被告Y1の各年齢,上記内縁関係が継続したものとみるべき期間の長さ等のほか,上記内縁関係が上記破棄の時点において相当程度希薄なものとなっていたことが窺われることなど,前記認定の事実経緯を含む本件に現れた一切の事情を総合考慮し,これを50万円と認める。 なお,原告は,前記のとおり,転居費用及び調査会社費用として支出した各金員も被告Y1による上記内縁関係の破棄による損害である旨主張するが,当該各金員はいずれも直ちに被告Y1による上記内縁関係の破棄と相当因果関係を有する損害であると認めるべきものではないから,原告の上記主張は採用せず,原告が当該各金員を支出したことについては,当該事情を上記慰謝料の算定に当たって考慮するにとどめることとする。 イ 弁護士費用 被告Y1による前記内縁関係の破棄と相当因果関係のある弁護士費用の額については,5万円と認めるのが相当である。 (3) 以上によれば,原告の被告Y1に対する損害賠償請求は,被告Y1に対して55万円及びこれに対する不法行為の日の後の平成22年8月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 3 被告Y1に対する猫の飼育費用に係る請求について (1) 原告は,前記のとおり,被告Y1が,平成21年9月13日,原告に対して内縁関係及び婚約を解消したい旨を申し入れた際,当時原告と共に飼育していた3匹の猫に関し,原告に対し,「猫は自分では面倒をみることができないので,3匹とも引き取ってほしい。猫たちは子どもと同じ存在なので,飼育費用は支払う。」旨を述べ,原告も,これを了承し,もって,原告と被告Y1との間に本件飼育費用支払合意が成立した旨主張し,原告の供述(甲19,原告本人)中にはこれに沿うとみるべき部分も存する。しかしながら,当該部分は,被告Y1が同日原告に対して上記内容の発言を行い,それに対して原告が被告Y1に対して具体的な支払金額の提示を求めたところ,結局,被告Y1からはその提示がなかったなどとする内容のものであって,当該内容自体,被告Y1において高額な費用負担を約することとなる本件飼育費用支払合意に係る確定的な意思表示を行ったものと認めるには足りないというほかないものであって,直ちに採用することはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠も存しないから,原告の上記主張は採用することができない。 (2) したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告Y1に対する猫の飼育費用に係る請求は理由がないものというべきである。 4 被告Y2に対する損害賠償請求について (1) 原告と被告Y1との間の内縁関係の成立について 原告と被告Y1との間に内縁関係が生ずるに至っていたものと認めるのが相当であることは,前記2(1)ア(イ)のとおりである。 (2) 被告Y2の不法行為について 前記のとおり,被告Y2は,平成21年6月ころから被告Y1との間で私的な交際を始め,同月23日ころには被告Y1と肉体関係を持ち,以来,原告から電話を受けた同年7月18日までの間,被告Y1との交際を続けたものの,同日以降は被告Y1との間に距離を置き,被告Y1が原告との同居関係を解消した同年9月23日以降,被告Y1と同居するようになったことが認められる。 原告は,原告と被告Y1との内縁関係は,被告らの不貞行為により平成22年1月ころ破綻したものであり,被告Y1との不貞行為の当時,被告Y2は,原告と被告Y1が夫婦同然の関係にあることを十分に知悉しており,また,仮にそうでないとしても,原告と被告Y1が長期間同居していることを知っていたことからして,被告Y2には故意又は過失がある旨主張するが,前記認定説示のとおり,上記内縁関係は平成21年9月23日に被告Y1によって破棄されたものと認められるところ,前記認定の事実経緯によれば,上記内縁関係の継続中に被告Y2が被告Y1との間で肉体関係を含む交際を続けていたのは,同年6月23日ころから同年7月18日までの間であって,同日以降は上記内縁関係が破棄されるまで被告Y1との間に距離を置いており,また,同年6月23日ころから同年7月18日までの間についても,被告Y2は,原告について,被告Y1と長年同居していることは知っていたものの,被告Y1からの説明等から,被告Y1とは単なる同居人以上の関係ではないとの認識を有していたことが認められるところであるから,被告Y2については,実際には原告と内縁関係にあった被告Y1との間で上記交際を行ったことについて,故意があったものと認めることはできず,また,その際に原告と被告Y1とが長年同居していることを知っていたとしても,前記認定の諸事情に照らせば,そのことをもって直ちに過失があったものと認めることもできないというべきである。 以上のとおり,被告Y2が同年6月23日ころから同年7月18日までの間に被告Y1との間で肉体関係を含む交際を行ったことについては,原告に対する不法行為と評価し得るものではなく,また,本件証拠上,被告Y2のその余の行為について,原告に対する不法行為と評価すべきものを認めることもできない。 (3) したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告Y2に対する損害賠償請求は理由がないものというべきである。 5 よって,原告の本訴各請求のうち被告Y1に対する請求については前記の限度で理由があるからこれを認容し,被告Y1に対するその余の請求及び被告Y2に対する請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 (裁判官 相澤哲) 以上:7,306文字
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