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親権者指定の具体例-昭和55年8月5日東京地裁判決

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平成23年 6月 8日(水):初稿
○「親権の概観-離婚の際の親権者指定基準概観2」で、親権者指定の具体的基準について私なりの感想を記述していましたが、中途半端なままになっていました。当事務所でも、離婚に際し、子供の親権者指定が熾烈な争いになっている事件を多数扱っていますが、殆どが和解で終了し、親権者指定について判決まで至った例は記憶にありません。私の感想では,殆どの事案が「乳幼児期における母性優先」で母親が親権者に指定されています。「継続性の原則」で父親が親権者に指定される例もありますが、ごく希な割合です。

○この熾烈な親権者争いに対する判決例として、昭和55年8月5日東京地裁判決がありますので、紹介します。
概要は、夫(父親)が離婚を決意して家出した妻(母親)の許から子供を連れ戻し、夫(父親)が、2年余にわたつて養育している事案について、妻(母親)をその親権者と定め、子の引渡しを命じたものです。

事案は以下の通りです。
 原告(母)と被告(父)は、昭和46年7月に婚姻したが、遺産争いから被告の兄弟間に不和が生じ、それが原因になつて夫婦関係もまた不和となり、原告は、昭和51年7月には離婚を考え、昭和52年9月9日夫婦間の2人の子供(女児4歳5ヶ月及び男児2歳5ヶ月)を連れて実家へ帰つた。
ところが被告(父)は、昭和53年4月4日、なんら事前の話し合いもないまま突然保育園から帰る途中の二人の子供を原告の抵抗を振り切つて連れ去り、以後原告(母)と会わさず、被告が養育しながら現在に至つている。


判決の重要部分をそのまま掲載します。
ポイントは太下線にしていますが、
①親権者指定基準大原則は、子供の現在及び将来の幸福、利益
②乳幼児期における母性優先
③父親・母親自身の直接の接触による世話
④父親自身による監護始期・きっかけの不当性

です。父親が2年間以上単独で監護しているので「継続性の原則」で父親を親権者にしても良さそうなものですが、子供が6歳、4歳とまた小さいこと、何より母親の方が直接の接触による世話が出来ることが、母に指定されたポイントと思われます。2年間頑張って育てた父が子供と離れなければならないことは誠に気の毒で、裁判官も断腸の思いで母に指定したのでしょう。

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二 次に親権者の指定につき判断するに、右指定については子供の現在及び将来の幸福、利益を主眼として定めるべきところ、一般的には幼児の場合母親の膝下で監護されるのが最も自然で幸福であるといえるが、母親が親権者として不適当な場合または母親のもとを離れ、父親のもとで既に相当期間養育され、父親と幼児との間に愛情関係や安定した生活関係が生じている場合など特段の事情がある場合などには父親が親権者として適当な場合も考えられるので、この点につき検討する。

 前掲各証拠によれば
1 原告(母)は実母として長女A及び長男Bをその出生以来被告(父)によつて連れ去られるまでのそれぞれ5年間及び3年間にわたつて監護し、特に長男出生後の昭和50年夏から被告(父)が寝室を別にするようになつた後も二人の子供とは一緒に寝ていたこと、しかもこの間の監護状況にはとりたてて非難すべき点はなく、二人の子供は比較的安定した平穏な生活を送つていたこと、原告の実家の父母は原告が長男を出産する際長女を預つたりしていたこと、これに対し、被告の実母は既に死亡し、実父は二人の子供の世話をしようとしたことはほとんどないこと、被告(父)自身も原告(母)と同居中は風呂へ入れたりおむつの後始末をしたことはほとんどなく、しつけや遊ぶ相手をしたことも余りないこと

2 父である被告は不動産業を営み、自宅で仕事をしているとはいえ仕事で外で活動しなければならない日もあり、子供達の身回りの世話を自ら担当して直接養育監護することができない恐れがあり、家族もこれを補つて充分な世話をする余裕がなく、結局は他人にまかされることになり、他の方法では代替し難い親との充分な日常の接触が不十分なまま大きくなる恐れが大きいこと、これに対し、原告は自宅で翻訳業の仕事をしているが、その仕事の性質上これが監護の支障となることはほとんどないものと予想され、自ら子供達と起居を共にして直接養育監護にあたることができるし、実家の助力も期待できること、

3 経済的基盤については、双方共不都合な点はないことのほか、法律上当然の義務である養育費の分担により心配はないこと、

4 子供達は、原告(母)のもとから連れ去られて以降約2年にわたり被告(父)のもとで監護され、ある程度継続的な生活関係、監護環境が形成されるに至つているのであるが、右監護の発端である子供達を連れ去つた行為は、前記一認定のような事情からして正当なものではなく、その後の監護環境も母親である原告と子供達を面会させないなど、精神的に子供達は不安定な状態にある。

5 被告(父)は子供達を原告(母)に渡すことを強く拒み、一方、原告(母)も子供達を引取ることを強く望んでいる。
 右のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

 以上によれば、原告と被告の両名は、いずれも劣らぬ子供達に対する深い愛情に基づき、それぞれ自己の手もとにおいて子供達を養育することを強く望んでいるものであるが、前記諸事情を総合して考えるに、本件においては子供達にとつて母親である原告に監護、養育されることがその幸福に適するものと判断される。

 よつて原、被告間の未成年の二人の子の親権者を原告と定め、被告に対し人事訴訟法15条2項により右二人の子供を原告に引渡すよう命ずることとする。


以上:2,321文字

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