平成20年 3月18日(火):初稿 |
○「セクハラを受けたと上司を退職に追い込んだ重~いツケ1」の話を続けます。 平成18年10月30日東京地裁判決による事案の概要は以下の通りです。 「第二 事案の概要 本件は,地方公共団体の幹部職員であった原告が,部下であった被告Y1(以下「Y1」という。)と性的関係を持ち,セクシャルハラスメントに対する和解金として1006万2500円を支払ったが, 当該和解は,被告Y1の強迫によるものであるとして和解契約の取消,被告Y1がPTSDに罹患したというのは詐病であるとして詐欺による和解契約の取消または合意に基づく性的関係であったにもかかわらず強姦未遂で原告を告訴して逮捕させると脅したことは恐喝罪,詐欺罪,虚偽告訴罪,名誉毀損罪,文書偽造罪等の犯罪に該当するから和解契約が公序良俗違反で無効であると主張して, 被告Y1に対し,支払った和解金1006万2500円の不当利得に基づく返還とうち金500万円と504万2500円についてそれぞれ支払った日から民法所定年5分の割合による損害金を支払を求めたもので, 和解後にも被告Y1が勤務先に対して原告の行為が強姦未遂であるとして懲戒処分を求めたため,原告は停職処分を受けたうえで閑職に左遷され, さらに被告らが知人を介して地方公共団体の長に働きかけたため,退職を強要されやむなく依願退職するに至ったとして, 共同不法行為に基づき,定年まで4年分の給与4751万2360円,定年退職した場合との退職金の差額2109万7203円,退職後の再就職(天下り)による5年分の給与3500万円の合計1億0360万9563円のうち1億円と慰謝料1000万円の損害賠償を求めた事案である。 」 ○原告をA、被告Y1をBとしてまとめるとAの主張は次の2点です。 ①和解無効による和解金全額返還請求 Aは部下Bと性的関係を持ち、それがBセクハラと主張されて和解し、和解金約1006万円支払済みであったところ、この和解契約を詐欺による取消または公序良俗違反での無効であるとして全額返還請求。 ②不法行為による逸失利益・慰謝料請求 Bは和解後もAの勤務先に懲戒処分を求め、その結果、Aは停職処分を受け、最終的に退職に追い込まれたので不法行為に基づく損害賠償として退職による逸失利益約1億円と慰謝料1000万円の合計1億1000万円の支払請求。 ○これに対する判決主文は以下の通りです。 「主文 1 被告Bは,原告に対し,金1006万2500円及びうち金500万円については平成11年9月30日から,うち金506万2500円については平成11年12月27日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告Bは,原告に対し,金6545万3574円を支払え。 3 原告の被告Bに対するその余の請求及び被告Y2(注Bの実母)に対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原告及び被告Bに生じた費用の5分の2と被告Y2に生じた費用を原告の負担とし,原告及び被告Bに生じたその余の費用を被告Bの負担とする。 5 この判決は第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。」 ○判決は、Bに対し、 ①Aから受領した和解金1006万円の全額返還、また ②Aの1億1000万円の請求に対し、約6545万円の支払 を命じました。この結果は、この種事案としては、Aの完全勝利と評価して良いでしょう。私が驚いたのは、Aはいったんはセクハラを認め、和解金として1006万円もの大金を支払っていながら、この和解が無効と引っ繰り返った点と、しかもBには著名弁護士がついていながら、Aは本人訴訟で完全勝利に至ったことです。その事情を判決から徐々に紹介していきます。 以上:1,517文字
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