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転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-判決理由1

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平成24年10月 4日(木):初稿
○「転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-判決理由1」を続けます。
今回から判決理由です。相当の長文ですが、数回に分けて紹介します。


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理由 
第一 急性心筋梗塞について
 
 《証拠省略》によれば、次の医学的知見が認められる。 
 急性心筋梗塞は、冠動脈の狭窄又は閉塞により血流障害がもたらされた結果、その冠動脈の支配する心筋組織に壊死が生じ、正常な機能を失った状態をいい、突然死に至る危険が大きな疾患である(《証拠省略》。平成13年12月に発行された、いわゆる「ガイドライン」である。)。 
 心筋梗塞を発症すると、責任血管の閉塞によりその血管支配領域の心筋傷害が数時間のうちに心内膜側より心外膜側へ向かって進行し、不可逆的な壊死に陥る。そのため責任血管の再開通は早ければ早いほど心筋のダメージが少なくて済む。 

二 急性心筋梗塞の症状及び診断 
(1)急性心筋梗塞発症直後の自覚症状は、一般に30分以上持続する漠然とした強い広範囲の胸痛である。他覚症状は、急激な自覚症状の出現に付随してみられる顔面蒼白や悪心、苦悶顔貌、冷汗などが一般的である。 

(2)心電図所見として、急性心筋梗塞発症後、最初にあらわれるのはST波上昇とT波増高であるが、ST波上昇を生じる前にST波低下やST波がピーンと張ったような形を一過性にとることもある。冠動脈の閉塞によってST波上昇が生じ、閉塞が持続すると、心筋は血流障害の度合いが強まって虚血から壊死へと進展する。 
 胸部症状が認められ、特徴的な心電図変化(ST波の上昇、T波・U波の変化、異常Q波・新たな脚ブロックの出現など)が認められれば診断は容易である。 

 心筋梗塞の早期診断において、心電図はもっとも簡便で診断価値の高い検査である。心筋梗塞の患者の約50パーセントには、心電図上ST波上昇がみられるとされ、心電図上ST波上昇が認められる患者の実に90パーセント以上が実際に心筋梗塞である(《証拠省略》。なお平成13年12月発行のガイドラインである。)。 

(3)生化学マーカー(血液検査)による診断は、簡便かつ信頼性の高い検査としてその有用性が広く認められているが、冠動脈血流の途絶による心筋細胞障害を示すマーカーの検出には、発症後かなりの時間を要することに留意する必要がある。一定時間以上の虚血は心筋細胞の細胞膜に変化をもたらし、その結果、細胞内の高分子蛋白は心筋間質に移動し、心筋内微小循環、リンパ循環に流入し、ある程度以上の濃度になった時点で末梢血における検出が可能となる。 

 最近開発されたトロポニンTは梗塞発症後3時間で有意の上昇を示すとされている。 
 心筋梗塞発症2時間未満に得られた血液のデータでは心筋逸脱酵素が上昇していないため、血液検査は有用性が低く、時間が経過してから血液検査を再施行するのがよい。 

(4)世界保健機構(WHO)の診断基準においては、症状、心電図、生化学マーカーの三つにより診断され、三つの基準のうち、少なくとも二つが当てはまる場合に心筋梗塞と診断される。 

三 急性心筋梗塞の死亡率 
(1)急性心筋梗塞の死亡事故は、発症後から数時間以内がもっとも高頻度であり、最初の1時間に急性心筋梗塞死亡例の約半数が死亡する。その際に観察される不整脈の大部分は、心室頻拍・心室細動といった致死的不整脈である。 
 心室細動とは、心室があちこちで不規則に細かく痙攣した状態であり、心臓がポンプとしての機能を失った状態であって、臨床的には心停止と同じである。急性心筋梗塞の早期に起こりやすい。心室細動か心停止かは心電図上は一目瞭然である。 

(2)急性期再灌流療法が積極的に施行されるようになり、急性心筋梗塞の死亡率は10パーセントを切るまでに低下したと報告されるようになった。しかし、多くの報告では、来院できた患者を母集団として計算しており、病院到着以前に死亡した症例は含まれていない。 

(3)再灌流療法導入以前の院内死亡率は20パーセントであったのに対し、導入後は10パーセント又は五パーセント前後へと減少しているとされる。 

(4) 心筋梗塞の予後(死亡率)を予想するもっともよい指標は、左室機能である。 

四 急性心筋梗塞等に対する治療 
(1)心筋梗塞急性期に再灌流療法が行われるようになり、入院後の死亡率は低下し、院内の急性期死亡率は10パーセントを下回るようになった。 
 再灌流療法は、発症後12時間以内に達成されるときに有効とされ、発症から再疎通までの時間が短いほど効果が大きいとされ、発症から治療開始までの時間の短縮が救命率の上昇と予後の改善に結びつくのである。 

(2)急性心筋梗塞治療の基本は虚血心筋の救済であり、早期診断・早期治療開始がポイントとなる。薬理学的な血栓溶解療法より、PCIが治療成績において勝り、ステント留置術が加わったことにより治療成績は一段と向上して広く普及している(《証拠省略》。平成14年4月発行)。 

(3)再灌流療法の有益性は発症から血行再建までの時間が短いほど大きいので、診断・治療開
始における迅速さが要求される。特に、発症12時間以内のST波上昇型又は脚ブロック型の心筋梗塞であれば、再灌流療法のよい適応である。 

 一般に再灌流療法は発症後早期ほどその効果は大きく、12時間以上を過ぎると効果がほとんどなくなる。発症早期の病院受診と速やかな治療開始が重要である。 

(4)急性心筋梗塞であると診断した場合、速やかにCCUに搬送し、収容までの間、血管確保、酸素投与、ニトログリセリンやモルヒネなどによる除痛はもとより、重篤な合併症であるポンプ不全、致死性不整脈の予防処置と対処を行うべきである。 

(5)心室細動に対する治療等
 心室細動が発生した場合、発生から自己心拍再開までの時間が中枢神経障害を回避する決定因子であるため、直ちに除細動の措置をとらなければならない。心肺蘇生法を開始するよりも、まず除細動が必要なのである。除細動の方法としてもっとも有効なものは除細動器による電気的除細動である。 

 心筋梗塞発症直後に発症する一次性心室細動(最初の1時間に発生する心室細動)から救命するためには、可及的速やかに電気的除細動を行うことが重要である。 
 また、CCUにおいて、急性心筋梗塞の死亡率を著明に減少させることができたのは、モニタリングや除細動器によって心室細動をコントロールすることができるようになったことが大きい。 


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