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H30- 5-21(月):職場上司の妻への性行為強要を理由とする損害賠償請求棄却判例紹介
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○妻が勤務先上司と男女関係になったことについて上司だけでなく勤務先に対しても損害賠償請求ができますかとの質問を受け、関連判例を探したところ、自己の妻Bが職場(被告信金)の上司(被告Y1)から長期間性行為を強要され精神的苦痛を被ったと主張して上司に対して不法行為(民法709条)に基づき,職場に対して使用者責任(民法715条)に基づき,連帯して,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の損害賠償請求をした事案の平成28年12月27日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)が見つかりました。

○ところが、判決は「Bと被告Y1との関係は約6年半にも及んでいる上,必ずしも性行為のみならず,被告Y1がBに対してプレゼントを贈ったり,被告Y1とBとが一緒にイベントに参加したりもしていたことを併せ考えると,被告Y1によるBに対する性行為の強要(本件不法行為)があったと認定することはできない」等として「原告の主張する本件不法行為は認められない」として請求を全て棄却しました。

○「原告の主張する本件不法行為」は、上司による「性行為の強要」でした。「性行為の強要」はなく、妻と上司の不貞行為を理由とする損害賠償請求であれば、現在の判例状況では、少しは損害賠償請求を認めたかも知れません。極めて珍しい事案であり、全文紹介します。

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主  文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨

 Ⅰ 被告らは,原告に対し,連帯して,330万円及びこれに対する平成24年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 Ⅱ 訴訟費用は被告らの負担とする。
 Ⅲ 仮執行宣言

第2 事実関係
Ⅰ 事案の概要

 本件は,自己の配偶者が職場(被告信金)の上司(被告Y1)から長期間にわたって性行為を強要されたことにより,精神的苦痛を被ったと主張する原告が,被告Y1に対しては,不法行為(民法709条)に基づき,被告信金に対しては,使用者責任(民法715条)に基づき,連帯して,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円並びにこれらに対する不法行為の最終日である平成24年12月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

Ⅱ 基本的事実(争いのない事実,括弧内記載の書証及び弁論の全趣旨により認められる事実)
1 当事者等

(1) 原告(昭和45年○月○日生)は,平成9年3月30日,B(昭和46年○月○日生,以下「B」という。)と婚姻し,その間に2人の子(長女C平成11年○月○日生,長男D平成13年○月○日生)をもうけた(甲1)。
(2) 被告Y1は,被告信金の従業員である。

2 B及び被告Y1の被告信金における稼働状況
(1) Bは,平成元年4月,a信用金庫(現在の被告信金)において正社員として働き始め,平成5年12月退職した。
(2) Bは,平成15年頃,被告信金の子会社である人材派遣会社(株式会社b,以下「b社」という。)に就職し,被告信金c支店に派遣され,再び被告信金で働くようになった。
(3) Bは,平成17年,被告信金d支店に異動したところ,同支店において,被告Y1は推進役として稼働していた。
(4) Bは,平成20年7月31日,被告信金e支店に異動した。
(5) Bは,平成25年6月,b社を退職した。

3 Bと被告Y1の性的関係等
(1) 被告Y1とBは,平成18年7月12日から平成24年12月23日までの間,少なくとも月に1回程度は性行為を行っていた。また,この間,被告Y1は,Bにプレゼントを贈ったり,コンサートや野球観戦等のイベントに誘ったり,食事に誘ったりもしていた。
(2) 原告は,平成25年1月17日,Bから,被告Y1との上記関係を聞かされて,これを知った。

4 本件訴えの提起及び消滅時効の援用
(1) 原告は,平成28年7月14日,被告らに対する本件訴えを提起した。
(2) 被告信金は,同年9月1日の本件第1回口頭弁論期日において,原告に対し,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

Ⅲ 争点及びこれに関する当事者の主張
1 被告Y1の原告に対する不法行為の成否(争点1)
(原告の主張)
 被告Y1は,平成18年7月12日,被告信金d支店の送別会の二次会からの帰宅途中,道案内を装ってBをホテルに連れて行き,性行為を強要し,同日から平成24年12月23日までの間,同様に性行為を強要し続けた(以下「本件不法行為」という。)。Bは,被告信金内でBの上司である被告Y1との関係が噂になれば,派遣社員でもある立場の弱い自分が悪者になってしまい,また,子らの教育費を捻出するために被告信金で稼働し続ける必要があったことから,平成18年7月12日の出来事について警察や被告信金に通報することもできず,以後これに乗じた被告Y1からの誘いを断ることができず,性行為に応じざるを得なかった。

 上記のとおり,被告Y1は,原告の配偶者であるBに対し,約6年5か月間の長期にわたって性行為を強要し続けた(本件不法行為)ところ,これを知った原告は多大で計り知れない精神的苦痛を被った(単なる不貞行為の場合以上に大きな精神的苦痛を被った)ものであり,これを慰謝するには300万円を下らず,その1割に相当する30万円は被告Y1の原告に対する本件不法行為と相当因果関係のある損害となる。

(被告Y1の主張)
 被告Y1が,原告の主張する期間,Bと性行為を行っていたことは認めるが,これは全て合意によるものであり,被告Y1において性行為を強要した事実はない。また,被告Y1はBの上司ではなかったし,平成18年7月12日に送別会の二次会が行われたこともない。

2 被告信金の原告に対する使用者責任の成否(争点2)
(原告の主張)
 たとえ,被用者の職務の範囲を逸脱した行為であっても,使用者の事業の執行に密接に関連する行為であれば,外形的,客観的にみて,「事業の執行」に当たるといえるところ,被告Y1による本件不法行為は,退職する従業員を慰労する趣旨で開催された送別会の二次会の帰りに,被告信金内における地位の上下関係を利用して行われ,その後も同上下関係を利用して継続されたものであるから,被告信金は本件不法行為について使用者として責任を負う。

(被告信金の主張)
 被告Y1がBに対して性行為を強要したことは知らない。また,同事実があったとしても,これが「事業の執行」に当たることは争う。特に,Bが被告信金d支店から別支店に異動となった平成20年7月31日以降は,被告Y1はBの上司ではないし,職務執行上の接点は何もない。
 また,被告信金は,セクハラ防止のための雇用管理上の措置を講じており,使用者責任を負うものではない(民法715条1項ただし書)。

3 消滅時効の成否(争点3)
(被告信金の主張)
(1) 原告は,平成25年1月17日に被告Y1とBとの関係及び被告Y1がBの職場の上司であることを知ったというのであるから,不法行為に基づく損害賠償請求権は,平成28年1月17日の経過により時効消滅する。
(2) 債務の承認に関する原告の主張は否認する。被告信金の担当者は,原告からの電話に対し,被告Y1が人事部付となった(降格処分ではない。)と述べただけであって,これは債務の承認ではない。また,同担当者は,同時に事実関係を調査している旨も述べており,事実確認が未了である以上,債務の承認ができるはずがない。

(原告の主張)
 原告は,平成25年7月19日,被告信金人事研修部に電話をかけ,本件不法行為について被告Y1がどのような処分を受けたか尋ねたところ,被告信金の担当者は,事実関係は調査中であると回答したものの,職務のない人事部付となっていることを伝えた。つまり,被告信金は,原告の被告信金に対する使用者責任に基づく損害賠償請求権が存在することを認識した上で,原告に対し,被告Y1に対する降格人事を行ったことを伝えたものであり,黙示に債務を承認したといえる。


第3 当裁判所の判断
Ⅰ 争点1(被告Y1の原告に対する不法行為の成否)について

1 前記基本的事実,証拠(甲3~11[枝番のあるものはこれを含む。])及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) Bは,平成15年頃から,派遣社員として被告信金で働き始めたところ,平成18年4月21日以降,Bが当時勤務していた被告信金d支店における上司であったE(以下「E」という。)との間で数回性行為を行った(これらがEの強要によるものかは明らかではない。)。なお,平成25年になって原告にEとBとの上記関係が発覚し,同年,原告とEとはこの件に関して和解契約を締結した。

(2) Bは,平成18年7月12日から平成24年12月23日まで,被告信金d支店において勤務していた被告Y1との間で,少なくとも月に1回程度は性行為を行った。また,この間,被告Y1は,Bにプレゼントを贈ったり,コンサートや野球観戦等のイベントに誘ったり,食事に誘ったりもしていた。

(3) 原告は,平成25年1月17日,Bと被告Y1との上記関係を知り,同月18日,被告Y1に対し,事実を確認するとともに謝罪を求めたところ,被告Y1は上記関係を認め,以後,損害賠償請求に係る交渉が行われることとなった。

(4) 原告及びBから同交渉の委任を受けたF弁護士(以下「F弁護士」という。)は,同年9月10日,被告Y1から同交渉の委任を受けた被告Y1代理人(金井克仁弁護士)に対し,①被告Y1がBの意思に反して性的暴行等を行ったことを認め,原告及びBに謝罪すること,②被告Y1が損害賠償金として300万円を支払うこと,③被告Y1の妻がBに対する損害賠償請求等を行わないこと,④原告及びBは警察署への被害届を撤回することなどを内容とする合意書案を提示した。

(5) 被告Y1代理人は,同年10月13日,F弁護士に対し,上記合意書案を受けて,①被告Y1がBと性的関係を含む交際を行っていたことを認め,原告に謝罪すること,②被告Y1は原告に対して損害賠償金150万円を支払うこと,③原告及びBは警察署への被害届を撤回することなどを内容とする対案を提示した。

(6) その後もF弁護士と被告Y1代理人との間で交渉は継続されたところ,被告Y1代理人は,平成26年5月8日,F弁護士に対し,最終提案として,①被告Y1がBと性的関係を含む交際を行っていたことを認め,原告に謝罪すること,②被告Y1は原告に対して損害賠償金50万円を支払うこと,③原告及びBは警察署への被害届を撤回すること,④被告Y1の妻がBに対して損害賠償請求をし,Bがその支払を余儀なくされた場合は,被告Y1の負担部分について,被告Y1は,原告及びBと協議することなどを内容とする合意書案を提示した。これに対し,F代理人は,損害賠償金の額が減額された理由を尋ねるなどしたが,被告Y1代理人からは応答がなく,同年12月頃,F弁護士は,原告及びBとの委任契約を解消した。

(7) 原告は,平成28年1月13日,被告Y1に対し,Bが夫子ある身であることを知りながら長期にわたって被告Y1がBと性的関係をもったことにより一生消えない心の傷を負ったこと,被告Y1の上記行為は原告がBに対して有する貞操権を侵害し,夫婦関係の平穏を破壊する不法行為に当たること,慰謝料として500万円を請求することなどを記した内容証明郵便を送付し,同郵便は,同月14日,被告Y1に到達した。

2 上記1で認定した交渉経過に照らせば,Bは,原告に対して,被告Y1に性行為を強要された旨説明したものの,被告Y1においては,Bとの性行為を含む関係を継続してきたことは認めつつ,それが強要によるものであることは認めていないことに加え,Bと被告Y1との関係は約6年半にも及んでいる上,必ずしも性行為のみならず,被告Y1がBに対してプレゼントを贈ったり,被告Y1とBとが一緒にイベントに参加したりもしていたことを併せ考えると,被告Y1によるBに対する性行為の強要(本件不法行為)があったと認定することはできない。

 この点,原告は,被告Y1による強要の証拠として,平成25年2月8日における原告と被告Y1との会話内容(甲21,22)及び同月18日におけるBと被告Y1との会話内容(甲21,23)を挙げるが,そもそも,前者の会話は,被告Y1の勤務時間中に原告が被告会社にかけた電話において交わされたものであり,被告Y1が自由に発言することができない状況下のものである上,被告Y1においては,被告Y1が誘って性行為を持つようになったこと,被告Y1がBとの関係を続けたいと思っていたこと以上の事実を認めたものではなく,これによって性行為の強要があったと認定することは到底できない。

 また,後者の会話も,専らBにおいて,「ホテル誘われて行こうって言ったとき,私,困りますって言ったよね(被告Y1の返答は,覚えていないというもの)」「やめようって何回も言ったよね(被告Y1の返答は,3回言われたことは覚えているというもの)」などと質問して,被告Y1の応答を促すものであるし,同時に,せっかく被告Y1がとってくれたイベントのチケットなので,週末で都合をつけにくかったが,行かないと悪いと思って無理して都合をつけて行ったという趣旨の発言もしているのであって,やはり,被告Y1との性行為を含む関係が,被告Y1に強要されたものであったと認定できるような内容とはいえない。加えて,Bは,同会話において,原告に発覚する前にやめたかった,誠心誠意謝ったら原告が許してくれるかと思ったが許してくれなかった,自分のしたことの大きさが今になって初めて分かったなどとも発言しているのであって,これらの会話も併せ考慮すると,被告Y1に強要されて性行為を含む関係を持ち続けたなど認めることは到底できない。
 以上のとおりであって,原告の主張する本件不法行為は認められない。


Ⅱ 以上からすれば,その余について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとする。
 東京地方裁判所民事第24部 (裁判官 武部知子)
以上:5,842文字
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H30- 5-20(日):禁治産者老人のした公正証書遺言を有効と認めた判例紹介1
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○禁治産宣告を受けた老人のした公正証書による遺言について、遺言能力を欠いていたと認めることができないとして、これを有効と判断した平成9年5月28日名古屋高裁判決(判タ960号249頁、判時1632号38頁)を2回に分けて紹介します。

○事案は、次の通りです。
・被相続人Aは、昭和58年3月、その所有する財産全部を二女Yに相続させる旨の公正証書遺言(以下「第一遺言」という。)をした
・Yは、昭和63年9月、A所有本件不動産について相続を原因とする所有権移転登記を経由した
・Aは、昭和59年4月、禁治産宣告審判を受け、同年7月確定していた
・Aは、昭和59年11月、その所有する財産全部を包括して妻であるBに相続させ、Bを遺言執行者に指定する旨の公正証書遺言(以下「第二遺言」という。)をした
・Bは、昭和63年10月、第二遺言に基づき、遺言執行者として、Yに対し、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めて本件訴えを提起
・Bが平成2年9月、死亡したため、Xは、遺言執行者に選任されて、訴訟を承継した。
・Yは、Aが第二遺言をした当時、多発性脳梗塞に基づく痴呆の状態にあり、遺言能力を欠く状態にあったので、第二遺言は無効であるなどと主張
・一審は、Aの遺言能力及び第二遺言の有効性を肯定し、Xの本訴請求を認容し、Yが控訴


○Yは、第二遺言は、遺言能力を欠いた状態でなされた無効なものであるなどと主張しましたが、本判決は、Aの知的能力は、正常人よりは劣るものの、物事の善悪を判断し、これに対応した行動をとる程度には達していたと解され、これに全財産をBに遺贈するとの第二遺言の内容が比較的単純なものであることをも考慮すると、Aは、法律的な側面も含めてその意味を認識していたものと認めるのが相当であるとしたうえ、第二遺言当時、遺言能力を欠いていたと認めることはできないと判断し、本訴請求を認容した一審判決を支持して、控訴を棄却しました。

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主  文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判

一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求めた。

二 被控訴人
 控訴棄却の判決を求めた。

第二 事案の概要
 本件は、亡甲野A(以下「A」という。)の所有していた不動産について、Aの二女である控訴人が相続を原因とする所有権移転登記を経由したのに対し、公正証書遺言によって全財産の遺贈と遺言執行者の指定を受けた妻(その死亡に伴い、被控訴人が訴訟を承継した。)が右登記の抹消登記手続を求めたもので、Aの財産の帰属を巡って親族間に生じた一連の紛争の一つである。
 控訴人は、右公正証書遺言の効力を争ったが、原審はその有効性を肯定し、被控訴人の請求を認容した。

一 当事者間に争いのない事実(明らかに争わない事実を含む。)
1 Aは、原判決添付物件目録(一)①ないし⑭記載及び同(二)①、②記載の各不動産(以下、それぞれ「本件(一)土地」、「本件(二)土地」という。)を所有していた。

2 Aは、昭和56年11月30日、糖尿病と診断され、昭和57年2月、藤田学園保健衛生大学病院(以下「大学病院」という。)にて白内障の手術を受けた。

3 Aは、糖尿病治療のため大学病院に通院中であった昭和57年8月6日、第一回目の脳梗塞発作を起こし、同月9日、大学病院に入院したが、同年12月21日、退院した。

4 名古屋法務局所属公証人白川芳澄は、昭和58年3月8日、Aを遺言者とする昭和58年第95号遺言公正証書(以下「第一遺言証書」といい、その内容を「第一遺言」という。)を作成しているところ、同証書には、「Aは、その所有する財産全部を控訴人に相続させる。」旨の記載がある。

5 Aは、昭和58年9月26日、心不全を起こして大学病院に第二回目の入院をしたが、同年11月24日に実施されたCTスキャナー検査の結果、Aが再度脳梗塞を起こしていることが判明した。

6 Aの妻である甲野B(以下「B」という。)、長男である甲野C(以下「C」という。)外5名は、昭和58年10月21日、Aに対する禁治産宣告を名古屋家庭裁判所岡崎支部に申し立てた。そこで、同支部から精神鑑定を命ぜられた医師F(以下「F医師」という。)は、昭和59年3月9日、Aに面接した上で、Aは心神喪失の常況にあるとの鑑定結果を提出し、これに基づいて、同支部は、同年4月7日、Aを禁治産者とする旨の審判をし、同審判は、控訴人らの不服申立てを経て、同年7月19日、確定した。

7 名古屋法務局所属公証人西川豊長は、昭和59年11月12日、Aを遺言者とする昭和59年第1797号遺言公正証書(以下「第二遺言証書」といい、その内容を「第二遺言」という。)を作成しているところ、同証書には、「Aは、その所有する財産全部を包括して妻であるBに相続させる。Aは、Bを遺言執行者に指定する。」旨の記載がある。

8 Aは、昭和63年9月13日、腎不全を直接原因(その原因は糖尿病、脳梗塞)として死亡した。

9 控訴人は、第一遺言に基づき、本件(一)土地につき名古屋法務局豊田支局昭和63年9月13日受付第32295号をもって、本件(二)土地につき同法務局鳴海出張所同日受付第20593号をもって、それぞれ同日相続を原因とする所有権移転登記(以下「本件登記」という。)を経由した。

10 Bは、昭和63年10月6日、本件第二遺言に基づく遺言執行者として、控訴人に対し、本件登記の抹消登記手続を求めて本件訴えを提起したところ、同女は、平成2年9月7日、死亡したので、名古屋家庭裁判所岡崎支部は、同年11月14日、Cの申立てにより、被控訴人を第二遺言の遺言執行者に選任した。

             (中略)

四 争点に対する判断
一 争点1について

1 第二遺言に至る経緯について
(一) 当事者間に争いのない前記の事実に、証拠(甲第二号証の一ないし16、第八号証、第12号証、第13号証の一ないし五、第14号証の1、2、第18号証の一ないし2五、第19、20号証、第21号証の1、2、第22、23号証、第24号証の1、2、第25号証、第27号証、第30号証、第33号証、第35号証、第36号証の一ないし五、第37号証の一ないし三、第38号証の一ないし5、第40号証、第42ないし第44号証、第45号証の一ないし七、第48ないし第61号証、乙第六号証、第10ないし30号証、第44ないし第46号証、第48ないし第52号証、第54ないし第59号証、第65ないし第69号証、第71号証、第76ないし第87号証、第90、91号証。ただし、甲第20号証、第22号証、第27号証、第30号証、第48ないし第55号証、第60、61号証及び乙第54ないし第59号証、第76ないし第87号証、第90、91号証については、認定事実に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) Aは、昭和25年8月ころ、愛知県愛知郡豊明村(現在の豊明市)にて水道工事業を営んでいた実家を異母弟の晴昭に委ね、自らは実家を出て、上郷村(現在の豊田市上郷町)にて水道工事業を始めた。その後、Aは、妻であるBの助力もあって、次第に右事業を順調に発展させ、昭和43年8月7日には、本件会社を設立して法人組織で仕事をするようになった。その当時の本件会社の役員は、代表取締役であるA、取締役であるB、C、一代によって構成されており、控訴人は、未だ若年であったため、直接には右事業に関与することはなかった。
 ところで、Aは、何でも自分の意思を通さずにはいられないワンマン的性格で、特に金銭や財産については他人の容喙を許すことはなく、妻であるBに対してすら、自由になる金銭をほとんど持たせないほど徹底していた。また、受注先の大部分が官公庁であった関係で、仕事については責任感が強くかつ几帳面であるが、他人との協調を顧ない頑固さがあった外、女性関係にややルーズで、家庭内がもめることがしばしばあった。

(2) Cは、小学6年生のころからAの手伝いをすることがあったが、高校時代には、現場に出て仕事を手伝うようになり、昭和39年春に高校を卒業した後は、Aの下で従業員として稼働し始めた。しかし、前記のような性格であったAにとって、やや几帳面さを欠くCの仕事ぶりは満足できるものではなかった。

 また、Cは、かねてよりDと交際していたところ、昭和46年初めころ、同女との結婚の希望を表明したが、Aは、豊田市挙母町にあった土着信仰である「庚申さん」の占いの結果を信じてこれに強く反対し、いったんはDとの交際を断つことを約しながら密かにこれを続け、自分の勧めた縁談を断ったCに対して不快感を募らせた。
 これに対し、Bは、Cの立場に同情し、Aに内密で相談を受けたりしていたので、Aは、Bに対しても立腹することがあった。その反面、Aと控訴人との仲は緊密さを増していった。

(3) 勉は、工業高校を卒業した昭和43年3月から、それまでアルバイトをした経験のある本件会社に入社し、勤め始めたが、やがて控訴人と恋愛関係に入り、昭和47年12月15日、Aの知人で市会議員をしていたE夫婦の仲人で挙式した。その際、勉が長男でなかったことと、Aが勉の仕事ぶりを評価し、将来の事業後継者として控訴人夫婦が想定されたことなどの理由で、勉は甲野姓を名乗り(入籍は昭和48年6月13日)、Aらと同居生活を送るようになった。
 他方、Cも、昭和48年5月7日、E夫婦の仲人でDと挙式した(入籍は昭和49年3月12日)が、Aの事業後継者が控訴人夫婦とされた関係で、Cについては折を見て新家を建てることとされ、本家から500メートルほど離れた社宅から本件会社に通勤することとなった。

(4) Bは、従来から、頑固なAとの仲がしっくりいかなかったところ、昭和48年6月ころ、そのワンマン的言動に耐えきれず、Cの手助けで実家に帰った。この時は、Bの実母らが仲裁に入り、同年9月9日ころ、C及びBが、Aの事業の後継者は控訴人夫婦であり、C及びBはAに迷惑をかけたことを謝罪する旨記載された控訴人の起案にかかる誓約書に署名指印することにより、紛議は一応納まった。
 しかし、Cは、その後も仕事を巡ってAと衝突することがあり、昭和48年末ころ、本件会社の勤務をやめ、生命保険会社の外交員として稼働することになったが、半年ほど経過したころ、Aの指示で本件会社に復帰した。ところが、Cは、昭和53年ころ、再び仕事の上でAと衝突し、前記社宅を出て県営住宅に移るとともに、トラック運転手として稼働するようになった(同年6月21日付けで本件会社の取締役辞任登記がなされている。)が、昭和56年8月ころ、Aの指示で、三度、本件会社に復帰することとなった。

(5) 控訴人は、前記のとおり、A夫婦と同居生活を送っていたところ、昭和56年7月末ころ、Aの女性関係を巡って口論となり、家族ともども小牧市に転居することになり、勉も本件会社をやめて別の仕事に従事することとなった。もっとも、右転居後しばらく経過すると、Aは、時々、控訴人方を訪れ、勉と仕事の話をすることがあった。

 ところで、Aは、昭和57年1月中ころ、糖尿病を原因とする白内障により、視力が著しく落ちていたために、僅かなことで怒りやすい精神状態に陥っていた。Bは、このようなAと生活するうち、ノイローゼ状態になり、Cの勧めで3日間ほど静養のためにC宅に引き取られた。その間、DがAの世話をすることになっていたが、Aはこれが気に入らず、受け入れようとはしなかった。
 控訴人は、同月18日、用事でAを尋ねてきて、同人が一人で不自由しているのを見つけ、話し合った結果、勉が本件会社に復帰し、Bをその取締役の地位から外すことなどで合意した(Bについては、同月26日付けで本件会社の取締役退任登記がなされ、これと入れ替わりに勉が取締役に就任した旨の登記がなされている。)。そして、勉は、それまでの仕事の整理がついた同年3月ころ、本件会社に復帰し、稼働し始めた。

(6) Aは、昭和57年2月ころ、大学病院にて白内障の手術を受けて視力を回復し、以後、糖尿病治療のため、同病院に通院するようになったところ、同年6月ころ、家庭内の紛議を解決すべく親族会議が開かれた。
 同会議には、B、C、控訴人、一代、晴昭、キク、大岡夫妻らが出席したが、一代が、Aの事業の後継者は控訴人夫婦とし、Cに対しては新家を作ってやることを提案し、Aも新家を作ってやることに前向きの発言をしたので、Cは、気軽に実家に立ち寄れないような状態では承服できないとの留保付ではあったものの、右提案を概ね受け入れる態度を示した。



以上:5,300文字
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H30- 5-20(日):禁治産者老人のした公正証書遺言を有効と認めた判例紹介2
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○「禁治産者老人公正証書遺言を有効と認めた判例紹介1」を続けます。


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(7) Aは、昭和57年8月6日、業者らの会合の席上、第一回目の脳梗塞発作を起こし、同月9日、大学病院に入院したが、これと入れ違いのように、控訴人の家族は、小牧市の家を引き払って、A宅に転居した。
 その後、控訴人夫婦は、本件会社やAの印鑑、書類などを管理するようになり、その経営の実権を握ったことから、Cとの間で頻繁にトラブルが生じるようになり、ついにはCに対して仕事を与えず、給与も大幅に減額するといった事態も生じた。この間、Cの依頼を受けた晴昭やキクらが、控訴人夫婦に対して善処方を申し入れたことがあったが、同夫婦はこれに応じようとはしなかった。

 なお、Aは、同年12月21日、症状が軽快して大学病院を退院したが、覇気が消え、仕事に対する関心も薄れた様子で、散歩をしたりテレビを見る以外は、寝ていることが多くなった。なお、Aは、昭和58年3月8日、公証人役場に赴いて公正証書遺言の作成を嘱託し、これに基づき第一遺言書が作成されている。

(8) Aは、昭和58年9月26日、心不全を起こして大学病院に二回目の入院をしたが、検査の過程で、第一回目の入院時とは異なる脳梗塞の部位が発見されており、その状態も、Bが誰か分からないほど悪化していた。
 このような状態で、控訴人夫婦が本件会社やAの実印等を保管していることに不安を感じたBやCは、弁護士と相談の上、Aの財産保全を目的として、昭和58年10月21日、晴昭、キクらと共同して、Aに対する禁治産宣告の申立てを名古屋家庭裁判所岡崎支部にする(右申立てについては、F医師による精神鑑定を経て、昭和59年4月7日、Aを禁治産者とする旨の審判がなされ、控訴人らの不服申立てを経て、同年7月19日、確定している。)とともに、同年11月8日ころ、本件会社の取引金融機関に預金の解約等に応じないよう警告したり、市役所に印鑑証明の発行をしないよう要請するなどし、同月11日には、Bの名前で、亡失を理由として印鑑登録の抹消手続をした。

(9) このような動きを知った控訴人夫婦は、昭和58年11月11日夕刻、弁護士及び一代とともに大学病院に入院中のAを訪れ、Bの制止を無視して、前記申立てなどがなされたことと、このままでは本件会社の運営ができないことから、代表者を勉に変更することを求めたところ、Aは、右申立てについては不快感を示したが、代表者変更については、「そうかなあ。」と曖昧な返答をするにとどまった。

 その後、A名義の代表取締役辞任届や大学病院での取締役会開催の議事録等が作成され、同月12日付けで勉が本件会社の代表取締役に就任した旨の登記がなされたが、右各書類のA作成部分の署名押印は、いずれもA自身によるものではなかった。また、同年12月22日付けで、本件会社の株主総会議事録及び取締役会議事録が作成され、これに基づいて勉が代表取締役に重任された旨の登記がなされたが、右議事録には大学病院に入院中のAが出席した旨記載されている上、A作成部分の押印は、A自身によるものではなかった。さらに、勉は、昭和59年1月17日、Aの代理人としてその印鑑登録手続を行ったが、その際に使用された代理権授与通知書のAの押印もA自身によるものではなかった。

(10) 勉は、昭和59年1月24日、本件会社の代表取締役として、取引金融機関に対する前記警告を理由として、Cに対し、懲戒解雇する旨の意思表示を行った。
 また、Aは、本件各土地を含む19筆の土地及び建物三棟等の不動産を所有していたところ、控訴人夫婦らは、保管していたAの印鑑、登記済証などを用いて、これらの不動産につき、自分らを権利者として、昭和58年12月8日受付所有権保存登記、同月23日受付所有権移転登記、昭和59年3月30日受付条件付永小作権設定仮登記、同年4月7日受付根抵当権設定仮登記、同日受付賃借権設定仮登記、同年7月11日受付永小作権設定登記、同年9月13日受付所有権保存登記、同月25日受付所有権移転登記などを次々に経由したり、Aの有する本件会社の株式が控訴人夫婦や一代らに移転したことを示す書類を作成したりした。

(11) Aは、CやBらから控訴人夫婦による前記財産移転行為等を聞かされて立腹し、昭和59年1月29日ころ、Cに対する懲戒解雇の内容証明郵便の末尾に「甲野勉を新社長にする事はゆるさない 又社長にする許可も出していない」との文言を記載し、同年8月16、17日ころには、金庫の鍵や実印の返還を求めたり、土地の所有名義を変えたことについて非難する手記を作成し、さらに同年9月16日ころには、親戚に対して、自分の死後はBに全財産を渡すことを依頼する書類を作成するなどしている。
 なお、控訴人夫婦は、Aの入院中、その入院費用を支弁していたが、終始付添いをしていたBらの生活費については、ほとんど支払うことがなく、見舞いも時々病室に顔を見せる程度であった。

(二) 以上の事実によれば、Aは、第二回目の入院までは、控訴人やその夫である勉に概ね好意的な姿勢を示しているのに対し、Cに対してはしばしば厳しい態度をしていたことが明らかである。したがって、Cに同情的な言動を示すことの多かったBに全財産を遺贈する旨の第二遺言の内容は、右時点までの経緯と符合しない印象を与えることは否定し難い。

 しかしながら、Aは、いったん機嫌を損なうと、良好な関係にあって同居生活を送っていた控訴人夫婦に対しても、転居を余儀なくさせるほどの言動を示すことがあったのは前記認定のとおりである上、Aは、金銭面に細かく、全て自分の指図に従わなければ気がすまないワンマン的性格の持ち主であったから、前記のとおり、控訴人夫婦が、Aの第二回目の入院以降、その保管していた実印、登記済証などを利用して、本件会社の代表取締役変更の手続をしたり、A所有の財産の名義を次々に移転した事実を知って、控訴人夫婦に対する従来の好意的態度を変え、逆に、それまで、Aのワンマン的言動に耐え続けるほかなかったにもかかわらず、最後まで看護のために付き添っているBに感謝の念を抱くようになったと考えることにも相当の根拠があるというべきである。

 そうすると、第二遺言の内容は、これに至るまでの全体の経緯と整合しない不合理なものとはいえず、Aが意思能力を欠いていたことを奇貨として、B及びC夫婦がなさしめたものであるとの控訴人の主張は採用できない。


二 争点2について
1 まず、控訴人は、第二遺言書は民法973条の要件を充たさない無効のものである旨主張し、これに沿う証拠として乙第三号証(承継前の一審原告が本件訴訟提起に際し、資格証明文書として提出したもの)を提出している。
 しかしながら、証拠(甲第一号証、第四号証、第五号証の一、証人西川豊長)によると、第二遺言書の原本には、当初から、Aが、第二遺言当時、心神喪失の状況になかった旨の医師である立会人二名による付記及び同人らの署名押印がなされており、乙第三号証にこれがないのは、謄本作成時における公証人役場の過誤によるものであることが認められる。
 そうすると、控訴人の右主張は、前提事実を欠くものであって、採用できない。

2 次に、控訴人は、第二遺言書は、公証人法36条九号の定める要件、すなわち、立会人二名(長坂及び山本の両医師)が立ち会った旨及びその事由並びにその年齢の記載を欠いているから無効であると主張する。
 しかしながら、第二遺言書に記載された付記の内容に照らせば、右医師らが、民法973条の規定に基づく立会人として第二遺言に立ち会った事実を容易に認識することができるというべきである。

 また、公証人法36条各号掲記の事項の記載を欠く証書がすべて無効となるわけではなく、その効力は、各事項の記載が要求されている趣旨によって個別的に判断されるべきであるところ、立会人の年齢の記載は、これにより立会人の特定を容易にすることに主たる目的があると考えられるから、第二遺言書のように、住所、職業など他の記載から右特定が十分に可能な場合は、年齢の記載を欠くからといって直ちに証書全体の無効原因となるものではないと解するのが相当である。よって、控訴人の右主張は採用できない。

3 さらに、控訴人は、公証人法35条により、第二遺言書を作成した公証人は、Aが禁治産者であることを証する書面を徴し、その時点でAが本心に復していたことを確認すべく立会医師から事情を聴取して、これらの事実を公正証書に記載すべきであるにもかかわらず、これらが尽くされていないと主張する。

 しかしながら、公証人法35条は、公証人が証書を作成するに際し、「自ら」実験した事実を録取し、その方法を記載することを要求することによって、その責任の所在を明確にし、その作成過程に公証人以外の第三者が関与することによる過誤を未然に防止することを目的としているものと解される。
 したがって、遺言公正証書に記載されるべき内容としても、民法が手続要件として定めるものでもって必要十分であり、これを超えて、実体要件が充足されていることを公証人が確信するに至った事実及びその過程の記載が求められるものではないから、控訴人の右主張は採用できない。

4 また、控訴人は、第二遺言については、証人としてK弁護士が立ち会っているところ、同人は、Bから訴訟委任を受けて代理人となっていた者であり、実質的にBと同視すべきであるから、遺言の証人欠格を定めた民法974条三号に抵触し、無効である旨主張する。
 右条項が、当該遺言に関して強い利害関係を有する一定の者の関与を排除し、もって遺言者の意思が正しく遺言に反映されることを目的としていることは控訴人主張のとおりであるけれども、法律関係安定の見地からみて、右は制限的列挙と解すべきである(その性質上、方式の履践が不可能ないわゆる自然の欠格者を除く。)から、Bの訴訟代理人となっていたK弁護士が証人の一人となっているからといって、第二遺言が無効となるものではなく、控訴人の右主張は採用できない

三 争点3について
 控訴人主張の贈与契約締結の事実については、これに沿う証拠(乙第55ないし第57号証、第78号証、第81ないし第83号証、第86、87号証、第90号証)もある。

 しかしながら、右各証拠によっても、右契約成立の際に書面が作成されなかったことが明らかである上、前記(一1(一))のとおり、Aは、金銭面に細かく、それまで他人に財産を譲渡するなどの行為をしたことがなかったこと、その直後に作成された第一遺言では、控訴人に財産全部を遺贈するとの内容になっており、生前に全財産を控訴人夫婦に贈与する旨の本件贈与契約の内容と抵触すること、現実にAの所有にかかる不動産に登記をしたのは、Aに対する禁治産宣告の申立てがなされた後のことで、控訴人主張の贈与契約成立日から相当な月日が経過していること、しかも、登記の内容は、用益物権、担保物権などが多く、所有権に関する登記でも、控訴人主張の贈与契約を登記原因とするものは見当たらないこと(このような登記がなされた理由につき、控訴人及び勉は、前掲各証拠において、贈与税、登録免許税の負担を考慮したものであり、司法書士の指導に従ったまでである旨弁解するが、その内容自体、著しく不合理で採用できない。)、証拠(乙第56号証)によると、A(法定代理人B)が控訴人夫婦らに対し、前掲各登記の抹消登記手続等を求めた別件訴訟において、控訴人夫婦は、当初、前掲各登記はAの所有財産が勝手に処分されないよう、Aから信託を受けてなしたものである旨主張していたことが認められること、以上のような事実を総合すれば、前掲の積極証拠は到底採用できるものではなく、他に控訴人主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

第五 結論
 よって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官渡辺剛男 裁判官加藤幸雄 裁判官矢澤敬幸)
以上:5,039文字
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H30- 5-19(土):低髄液圧症候群発症を否認するも10%労働能力喪失を認めた判例一部紹介1
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○「低髄液圧症候群発症を否認するも10%労働能力喪失を認めた判例要旨紹介」を続きで、平成24年12月17日京都地裁判決(交民45巻6号1478頁、自保ジャーナル1894号59頁)の一部を2回に分けて紹介します。

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主  文
一 被告らは、原告に対し、各自、1084万7207円及び内92万円に対する平成13年12月4日から、内917万6226円に対する平成20年5月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを7分し、その1を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。
四 この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求の趣旨

一 被告らは、原告に対し、連帯して、7175万8461円及び内5589万8059円に対する平成20年5月28日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y1は、原告に対し、95万0638円及び内71万8274円に対する平成20年5月28日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 仮執行宣言

第二 事案の概要
 本件は、自車を運転中、被告Y1(以下「被告Y1」という。)が運転する車両と衝突した原告が、被告Y1に対しては、民法709条又は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条に基づき、人的損害及び物的損害計5661万6333円とこれに対する事故の日から本訴提起日までの遅延損害金から既払金222万2613円を控除した残額1609万2766円の合計7270万9099円及び内5661万6333円に対する本訴提起日の翌日である平成20年5月28日以降の遅延損害金、被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対しては、自賠法三条に基づき、人的損害5589万8059円とこれに対する事故の日から本訴提起日までの遅延損害金から上記既払金を控除した残額1586万0402円の合計7175万8461円及び内5589万8059円に対する平成20年5月28日以降の遅延損害金の支払を求める事案である。

一 争いのない事実(後記(1)、(2)、(7))及び容易に認定できる事実(後記(3)ないし(6))
(1) 交通事故の発生
 次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
① 日時 平成13年12月4日午後0時0分ころ
② 場所 大津市晴嵐一丁目19番地先幹1044号線(大津市道)
③ 関係車両
ア 原告運転の自家用普通乗用自動車(ナンバー〈省略〉)(以下「原告車」という。)
イ 被告Y1運転の自家用普通乗用自動車(ナンバー〈省略〉)(以下「被告車」という。)
④ 態様 原告車と被告車が出会い頭に衝突した。

(2) 責任原因
 本件事故当時、被告Y2は、被告車の運行供用者であった。

(3) 治療経過等
 原告は、本件事故後、後記症状固定診断時までに、次のとおり入通院治療を受けた。

         (中略)

(5) 後遺障害に関する判断
① A医師は、後遺障害診断書に、傷病名頸椎捻挫、腰椎捻挫、腰部髄液漏、外傷性低髄液圧症候群、自覚症状として、「頭痛、頭重感、頸~肩背部・腰部痛、左半身の感覚障害(左手親指、示指等のしびれ等)、めまい、動悸、発汗障害等の自律神経症状、集中力低下、記銘力低下、思考力低下、全身倦怠感等が続いており、就労不能、家事も困難でADLに大きな支障を呈している。」旨、精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果として、「頸椎MRIで脊髄、神経根の圧迫所見はなかった。ブラッドパッチ施行後、不定愁訴は改善傾向にある。」などと記載した(甲4の7)。

② b病院総合診療科のB医師は、後遺障害診断書に、傷病名高血圧症、高脂血症、脂肪肝、自律神経失調症、自覚症状として、「頭重、頭痛、頸部痛、背部痛、腰痛、めまい、動悸、頻脈、血圧の急上昇、耳鳴り、集中力・記憶力・思考力低下、倦怠感、不眠と過眠の交互出現、左半身の痛みとしびれ、発汗異常、体温調節障害、開口障害等あり。症状が不安定で、家事、外出ができない。」旨記載した(甲4の5)。

③ b病院整形外科のC医師は、後遺障害診断書に、傷病名頚部挫傷、自覚症状として「左手拇指示指のしびれ、冷感、頭痛、頭重感、頚部痛、背・腰部痛、左半身の痛み、めまい、耳鳴り、動悸、発汗異常、体温調節障害、集中力低下、記憶・思考力低下、倦怠疲労感、車の運転が恐ろしくてできない、家事ができない。」などと記載した(甲4の6)


ア 損害保険料率算出機構は、平成17年7月ころ、次のとおり判断した(甲26)。
 上記③の後遺障害診断書の自覚症状欄記載の多様な訴えを頚部由来の神経症状として検討すると、画像上、ごく軽度の変性変化が見られるが、外傷による骨折等の器質的変化は認められず、症状は軽快し、筋力が回復し、知覚障害はないとあり、頚部由来の神経症状を裏付ける有意な神経学的異常所見がなく、他覚所見に乏しいことなどから、自賠責上の後遺障害に該当しない。

 上記②の後遺障害診断書の傷病名、治療開始が受傷後約1年6か月であること、食事療法、精神安定剤等の治療であることなどから、同診断書記載の症状は、本件事故との因果関係を捉え難く、自賠責上の後遺障害に該当しない。
 上記①の後遺障害診断書の自覚症状欄に多様な訴えが記載されているが、頸椎、腰椎部に外傷による骨傷等の所見がなく、画像上、髄液漏れが判然と捉えられず、治療が受傷後約2年九か月であり、「不定愁訴と考えられる症状が出現」とあることなどから、自賠責上の後遺障害に該当しない。

イ 原告は、上記判断に対し、異議の申立てをしたが、後遺障害非該当の結論は変わらなかった(甲27)。

(6) 症状固定診断後の通院
 原告は、前記症状固定診断後、f眼科、hクリニック、i病院、g診療所、j病院、k病院等に通院した(甲8の1、8の2の1ないし9、8の3の1・2、8の4の1ないし38、8の5、8の6の1ないし4、8の7の1ないし88、甲9、43の1ないし6)。

(7) 損害填補
 被告の契約するl保険株式会社から原告に対して人身損害について222万2613円が支払われた。

二 主な争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 脳脊髄液漏出症発症の有無

① 原告の主張
 厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究平成22年度総括研究報告書(中間報告)(以下、単に「中間報告」という。)は、低髄液圧症について、起立性頭痛を前提に、一定基準以下の髄液圧又はびまん性硬膜増強所見(脳MRI)のいずれか一方の所見があれば低髄液圧症と「強疑」診断することを提示している。なお、びまん性硬膜増強所見がなくても低髄液圧症を否定できないとされ、硬膜下水腫、硬膜外静脈叢の拡張、小脳扁桃の下垂等も参考所見とされ、それらの総合考慮如何によっては、低髄液圧症の診断される余地がある。

 原告には、本件事故後起立性頭痛があったが、A医師は、原告の頭部MRI所見として、a 小脳扁桃の下垂、b 上矢状洞、皮質静脈の拡大、c 頭頂部硬膜下の液貯留を認め、さらにd 腰部MRミエログラムの元画像で一部髄液漏出が疑われたことなどを根拠に、外傷性低髄液圧症候群、腰部髄液漏れ等と診断した。a、bは、中間報告において低髄液圧症の参考所見とされ、cも硬膜下水腫と見れば参考所見とされるべきものであり、中間報告においては、複数の参考所見がある場合には低髄液圧症の「疑」所見とすることとしており、これだけをとっても原告には低髄液圧症の可能性があることになる。加えて、ブラッドパッチを施行した途端に原告の頭痛に劇的な変化が現れたことからすれば、原告には脳脊髄液の漏出に伴う低髄液圧症が発生していることを強く推認させる。

② 被告の主張
 原告の受診した医療機関の診療録には起立性頭痛の患者に特徴的な訴えについての記載は存在せず、原告に起立性頭痛の症状があったとは認められない。
 髄液圧の測定、ガドリニウムによる硬膜の増強効果の検査がなされておらず、脳脊髄液漏出の画像所見も存在せず、原告の症例を、国際頭痛学会の頭痛分析による診断基準、Mokri教授による診断基準、日本脳神経外傷学会の診断基準及び中間報告の診断基準のいずれに当てはめても、原告の症例は脳脊髄液減少症には該当しない。

 したがって、原告について、脳脊髄液減少症であると確定診断できるだけの医学的根拠はない。
 なお、ブラッドパッチについてはプラセボ効果が出やすいという専門家が多く存在し、また、ブラッドパッチが著効しない患者が全体の7割を占め、3割は効果がほとんど見られないというのであるから、ブラッドパッチの効果をよりどころとして、脳脊髄液漏出の有無を判断することはできない。

(2) 原告の損害

       (中略)


(3) 素因減額
① 被告の主張
 原告の就労が制限されたり、治療が長期化したのは、原告の体質的・心因的要素に基づくものであり、その寄与度に応じ、少なくとも70パーセントの素因減額がなされるべきである。

② 原告の認否
 争う。

(4) 過失相殺
① 被告の主張
 本件事故の態様からして、本件事故の発生については、原告にも2割の過失がある。

② 原告の認否
 争う。

第三 当裁判所の判断
一 責任原因及び過失割合


         (中略)

二 損害
(1) 症状固定前の治療費

① a病院
 前記第2、1、(3)、①の事実によれば、原告は、本件事故により頸椎・左肘・左膝捻挫、左大腿部打撲、腰椎捻挫の傷害を負い、平成13年12月5日から平成14年1月24日までa病院に通院したこと(実通院日数8日)が認められ、甲六号証の一の1・2、7号証、25号証によれば、その治療費、診断書・診療報酬明細書代として、計8万9420円を要したことが認められる。

② b病院
ア 前記第2、1、(3)、②の事実によれば、原告は、平成14年2月8日から平成17年1月5日まで通院し(実通院日数整形外科22日、総合診療内科8日)、頚部挫傷(整形外科)、高血圧症、高脂血症、脂肪肝、自律神経失調症(総合診療内科)と診断され、甲六号証の二の一の一ないし6、6号証の二の二の一ないし6、6号証の二の三の一ないし4、6号証の二の四の一ないし3、6号証の二の五ないし16、7号証、25号証及び弁論の全趣旨によれば、その治療費及び後遺障害診断書代として、整形外科分58万5070円、総合診療内科分2万6940円を要したことが認められる。
イ 上記治療費等のうち、整形外科分はすべて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
 高血圧症、高脂血症及び脂肪肝が本件事故により発症したことを認めるに足りる証拠はない。自律神経失調症は、本件事故による頸椎捻挫に由来するものと推測される。上記認定の内科分の治療等のうち約2割に相当する5400円の限度で本件事故との相当因果関係を認める。
ウ 小計
 本件事故と相当因果関係が認められるのは、計59万0470円である。

③ c歯科医院及びdインプラントセンター
 甲32号証(原告の陳述書)及び原告本人の供述中には、本件事故により歯茎腫脹、前歯欠損、顎関節症となり、c歯科医院及びdインプラントセンターで治療を受けたとする部分があるが、原告がc歯科医院に通院したのは同事故から約5か月経過後であり、dインプラントセンターに通院したのは、それから更に2年以上の空白期間を経た後であるところ、同事故と上記各傷害との間の因果関係、同事故と上記各通院に係る治療費等との間の相当因果関係を認めるべき客観的証拠は存在しない。甲37号証(原告の陳述書)は、上記各症状が脳脊髄液減少症の症状であるとするが、原告が上記疾患に罹患したかどうかは後述する。

④ e医院(内科)
 原告がe医院に通院したのは本件事故から2年以上経過した後であり、甲37号証には、頭痛、むかつき、下痢のため通院したとあるが、本件事故との因果関係を認めるに足りる証拠はない。甲37号証が脳脊髄液減少症によるものであるとする点については後述する。

⑤ f眼科・m薬局
 前記第2、1、(3)、⑥によれば、原告は、右下麦粒腫、右上眼瞼麦粒腫の治療を受けるため平成16年7月12日及び同月22日にf眼科に通院したものと認められるが、上記傷害と本件事故との因果関係を認めるべき証拠はない。甲37号証が脳脊髄液減少症によるものとする点は後述する。

⑥ g診療所
 原告は、平成15年5月30日及び平成16年11月10日にg診療所(内科)に通院したが(前記第2、1、(3)、⑦)、甲37号証には、平成15年5月30日、頭痛、めまい、耳鳴りのため受診したとする部分があるが、甲37号証別紙資料三によっても、上記症状と本件事故との因果関係を認めることはできない。甲37号証が脳脊髄液減少症に関連するとする点は後述する。
 平成16年11月10日の通院については、通院の目的、その際の症状、治療内容等が不明で、その治療費と本件事故との相当因果関係は認められない。


以上:5,392文字
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⑦ hクリニック、i病院
ア 原告は、平成16年9月4日から同年12月25日までhクリニックに通院し、頸椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性低髄液圧症候群、腰部髄液漏等と診断され、同年9月25日、ブラッドパッチを施行され、同日から同年10月2日までの間、ブラッドパッチ後の安静治療目的でi病院に入院した(前記第2、1、(3)、⑧、⑨)。

イ 低髄液圧症候群(「脳脊髄液減少症」もほぼ同義で使用されている。)は、脳脊髄液の漏出により頭痛、めまい、悪心、嘔吐、聴力障害等を引き起こす疾患であり、国際頭痛学会や日本神経外傷学会が作成した診断基準が存在したが、科学的診断基準ではないなどの批判があったところ、平成19年から、日本脳神経学会、日本整形学会、日本神経学会、日本頭痛学会、日本神経外傷学会等の代表、放射線医学、疫学等の専門家から組織された研究班が、脳脊髄液減少症の科学的根拠に基づく診断基準の作成等を目的として研究を開始し、100例の症例の解析を経て平成23年4月中間報告を公表した(甲41)。

 上記経緯によると、中間報告は、現時点におけるわが国での脳脊髄液減少症(中間報告では「脳脊髄液漏出症」)、低髄液症候群(中間報告では「低髄液圧症」)の診断基準等に関する研究の到達点を示すものと認められる。

ウ A医師は、a 小脳扁桃の下垂、b 上矢状洞、皮質静脈の拡大、c 頭頂部硬膜下の液貯留、d 腰部MRミエログラムの元画像で一部髄液漏出が疑われたこと、e ブラッドパッチによる症状軽快を根拠に、原告を脳脊髄液減少症と診断する(甲34)。

エ 原告は、A医師の上記意見を援用し、原告には脳脊髄液の漏出に伴う低髄液圧症が発生していることを強く推認させると主張する。
(ア) しかし、q病院脳神経外科のD医師は、A医師による上記a、b、cに関する画像所見が誤りであるとし、dの所見にも疑問を呈するところ(乙一の一)、これに対するA医師からの具体的な反論は提出されていない。
(イ) 中間報告の提示する低髄液圧症の画像判定基準と解釈(案)には、次の趣旨の部分がある(甲41)。
a 脳MRI。
(a) びまん性の硬膜造影所見
 低髄液圧症の特徴的所見として広く受け入れられている。この所見があれば、低髄液圧症の「強疑」所見とする。なくても同症を否定はできない。

(b) 硬膜下水腫
 外傷や脳萎縮に伴い、低髄液圧症とは関係なくしばしばみられる所見で、本所見単独では診断的意義が乏しい。低髄液圧症の「参考」所見とする。

(c) 硬膜外静脈叢拡張
 重要な所見の一つであるが、客観的判断が難しい。低髄液圧症の「参考」所見とする。

(d) 小脳扁桃の下垂等
 正常所見との境界を明確に規定できない。低髄液圧症の「参考」所見とする。

(e) まとめ
 びまん性の硬膜造影所見を「強疑」所見とし、典型的臨床所見と60mm水柱以下の低髄液圧所見と合わせて低髄液圧症を診断する。その他の脳MRI所見はすべて「参考」所見にとどめる。複数の「参考」所見があった場合には、「疑」所見とする。

b 脊髄MRI
MRミエロ、脳槽シンチ、CTミエロ
 略

(ウ) 中間報告の提示する低髄液圧症の画像診断基準(案)には、次の趣旨の部分がある(甲41)。
 起立性頭痛を前提に、60mmH2O以下の髄液圧とびまん性硬膜造影所見のうち、いずれかの所見があれば低髄液圧症とする。

(エ) 検討
 甲38号証(原告の陳述書)には、平成14年11月当時は、頭痛は寝ているとましになるが起きていると辛くなった旨の部分があるが、同号証のほか、甲32号証、37号証及び原告本人の供述によっても、明確な起立性頭痛(中間報告では、立位・座位後30分以内に増悪とする頭痛(甲41)。)が継続的にあったとは認められない。

 また、60mmH2O以下の髄液圧又はびまん性硬膜造影所見の存在を認めるべき証拠はない。
 原告は、A医師の診断根拠となった小脳扁桃の下垂及び上矢状洞、皮質静脈の拡大は、中間報告における低髄液圧症の画像判定基準である「小脳扁桃の下垂」及び「硬膜外静脈叢拡張」にそれぞれ該当し、頭頂部硬膜下の液貯留所見も、上記判定基準の「硬膜下水腫」と見られる旨主張する。しかし、A医師の画像所見に対しては、上記のとおりD医師は誤りとの意見であり、A医師の所見が正しいと仮定しても、中間報告の画像判定基準によれば、複数の参考所見がある場合として、低髄液圧症の「疑」所見にとどまる。

 以上によると、現時点で最も信頼性が高いと考えられる中間報告における低髄液圧症の画像判定基準、画像判断基準に照らすと、原告が低髄液圧症であると確定診断することはできず、その疑いがあるといえるにとどまる。そうすると、原告が本件事故により低髄液圧症となったことは証明されていないと言わざるを得ない(脳脊髄液漏出症又は脳脊髄液減少症であると認めることもできない。)。
 したがって、甲37号証が脳脊髄液減少症の症状であるとする前記各症状に係る治療費も、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。


オ もっとも、現時点では原告が低髄液圧症であったことが客観的には証明されていないとしても、A医師が原告を外傷性低髄液圧症候群と診断し、ブラッドパッチを施行したことが、当時の臨床医の一般的な医学水準又は低髄液圧症候群についての一般的知見に照らし、明らかに不合理であったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、hクリニック及びi病院の治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

 甲6号証の7、7号証、25号証及び弁論の全趣旨によれば、上記治療費は、hクリニック2万5550円、i病院12万7352円であると認められる。

⑧ 症状固定前治療費計 83万2792円

(2) 症状固定後の治療費
 前記第2、1、(4)により、原告の症状固定日を平成17年1月5日と認める。
 原告には、症状固定後も多彩な症状があったが(甲32、37、38、原告本人)、症状固定後、医学的見地から、症状の悪化を防ぐため特定の治療の継続が必要であったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、症状固定後に支出した治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

(3) 通院交通費
① 甲10号証及び弁論の全趣旨によれば、症状固定前の原告自身の通院のため、a病院分として8000円、b病院分として32万3763円、hクリニック分として2万6440円、計35万8203円を要したことが認められる。
② hクリニックの症状固定後分(原告及び付添人分)、甲10号証により症状固定後分であると認められるj病院分及びk病院分は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められない。
③ i病院の付添人の交通費は、同院入院中の近親者の付添看護の必要性を認めるべき証拠がないので、本件事故との相当因果関係を認め難い。症状固定前のhクリニックの付添人交通費については、後述する。
④ 小括
 本件事故と相当因果関係のある原告自身の通院交通費は、上記①の35万8203円である。

(4) 入院雑費
 i病院の入院8日間につき、1日1300円、計1万0400円(原告主張額9000円)の入院雑費を認める。

(5) 通院雑費
① 甲12号証の一によれば、原告は、a病院通院中、診断書代等の諸費用5890円を支出したことが認められ、上記費用は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

② 甲12号証の一によれば、原告は、b病院通院中、諸雑費として55万7981円を支出したこと、上記支出の相当部分が医師等の病院関係者に対する謝礼、歳暮、手土産代や保証人に対する謝礼、手土産代であることが認められ、これらのうち特に病院関係者に対するものは、原則として、本件事故と相当因果関係のある損害に含まれないというべきである。この点を考慮し、55万7981円の7割に相当する39万0586円(一円未満切り捨て。以下同じ)について本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

③ 甲12号証の一によれば、原告は、症状固定前のhクリニック通院中及びi病院入院中、諸雑費として12万2236円を支出したこと、上記支出の中には、医師、保証人へのお礼(手土産代)のほか、水購入費用4万4100円が含まれていることが認められる。医師へのお礼については上記説示のとおり、原則として本件事故との相当因果関係を認めることはできず、水購入費用についてもこれを認めるに足りる証拠がない。この点を考慮し、12万2236円の6割に相当する7万3341円について本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

④ 症状固定後のhクリニック通院雑費及び日田天然水購入費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められない。
 症状固定前のhクリニック通院中及びi病院入院中の付添人の宿泊代については、後に判断する。

⑤ 本件事故と相当因果関係のある原告自身の通院雑費は、計46万9817円となる。

(6) 通院付添費
① 甲16号証一及び弁論の全趣旨により、a病院への通院8日、b病院への通院22日、hクリニックへの通院7日(症状固定前)、計37日につき1日3000円、計11万1000円の近親者の通院付添費を認める。
② 甲10号証には、b病院への21回の通院につき付添人交通費として計26万8763円を要した旨の記載があるが、上記①の1日3000円の付添費には通常の交通費を含めているから、26万8763円から3万1500円を控除した23万7263円の限度で、別途、付添人交通費を認める。
③ 甲12号証の一によれば、b病院への通院に関し、付添人の宿泊代(及び荷物運送代)として計11万1191円を支出したことが認められるところ、上記①の1日3000円とは別に、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
④ 甲12号証の一によれば、i病院への入院、hクリニックへの通院につき、付添人(家族)の宿泊代として、三回、計7万4710円を支出したことが認められるが、一回1万1090円の三回分計3万3270円の限度で本件事故との相当因果関係を認める(一名を越える近親者の付添の必要性は認められない。)。
⑤ 本件事故と相当因果関係のある近親者付添費は、計49万2724円となる。

(7) 引越関連費用
 甲一号証、17ないし19号証、32号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故当時、夫及び娘二人とともにr市内の持ち家に居住していたが、平成14年、s市内の賃貸マンションに転居し、自宅は売却したことが認められる。甲32号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故に遭わなければ、上記転居及び自宅売却はなされなかったものと推測されるが、上記転居等に伴う出費は、本件事故による通常損害とは認め難く、これが予見可能であったとはいえない。
 したがって、上記転居等に伴う出費につき損害賠償を求めることはできない。

(8) 通院以外の交通費
 甲24号証によれば、原告は、人身事故の届出及び実況見分への立会等のための交通費として計4140円を支出したことが認められ、これは本件事故と相当因果関係のある損害に当たる。転居に関わる交通費は、前記説示と同一の理由により、上記相当因果関係を認め難い。
 
(9) 休業損害
① 原告は、本件事故前、四人家族の主婦として家事労働に従事していたほか、書道教室を開いていたが(甲32、原告本人)、本件事故により頸椎・左肘・左膝捻挫、左大腿部打撲、腰椎捻挫の傷害を負った(前記第2、1、(3)、①)。前記のとおり原告が低髄液圧症を発症したと認めるのは困難であるが、症状固定時までに、頭痛、頭重感、頸~肩背部・腰部痛、左半身の感覚障害(左手親指、示指等のしびれ等)、めまい、動悸、発汗障害等の自律神経症状、集中力低下、記銘力低下、思考力低下、全身倦怠感、冷感、左半身の痛み、耳鳴り、体温調節障害、車の運転が恐ろしくてできない、家事ができない。」などの多彩な神経症状等を自覚し、書道教室は一旦止め、家事労働も制限された(前記第2、1、(5)、①、③、甲37、38、原告本人)が、b病院通院中、症状は徐々に軽減され(甲四の六)、平成16年9月のブラッドパッチ施行により頭痛が顕著に改善したこと(甲38)などを総合考慮し、本件事故の日である平成13年12月4日から平成14年3月4日までの91日間は平均90パーセント、同月5日から平成17年1月5日までの1038日間は平均50パーセントの休業割合を認める。

② 計算
 平成13年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女子・全年齢平均賃金352万2400円を基礎日額として、休業損害を計算すると、579万8931円となる。
 3,522,400×91÷365×0.9≒790,368-a
 3,522,400×1038÷365×0.5≒5,008,563-b
 a+b=5,798,931

(10) 逸失利益
① 前記のとおり、次第に軽減したとはいえ原告には多彩な神経症状等が残存した。頚椎MRIで異常所見がなく(甲4の2)、神経学的異常所見もほとんどない(甲4の6、40)が、3年以上の治療にかかわらずブラッドパッチで頭痛に著効があった以外はめぼしい成果がなく、明らかに難治性であることなどを考慮し、原告は、症状固定時から10年間、労働能力の10パーセントを喪失したものと認める。

② 平成17年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女子全年齢平均賃金343万4400円を基礎収入とし、事故時における逸失利益の現価を計算すると、229万0847円となる。
 3,434,400×0.1×(9.3935-2.7232)≒2,290,847

(11) 入通院慰謝料
 傷害の内容、入通院経過、症状の推移等を斟酌し、208万円を認める。

(12) 後遺障害慰謝料
 後記のとおり本件事故の発生については原告にも過失があり、また、同事故後の原告の症状には原告の内在的な要因が寄与していることを考慮しても、甲32号証、37、38号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故により通常受けるはずの肉体的苦痛や日常生活、社会生活上の不便、悪影響を相当上回る被害を受け、事故の態様及び当初の受傷内容に比し、多大の精神的苦痛を被ったものと認められる。後遺障害慰謝料の判断に当たり、これらを原告固有の特殊な事情としてすべて捨象することは公平を欠くというべきである。本件に顕れたその他の事情も総合し、後遺障害慰謝料は200万円をもって相当と認める。

(13) 物損
 原告車が原告の所有であること又は原告が原告車の所有権留保売買の買主であるなど、原告が、原告車の損傷につき損害賠償請求権者であることを認めるべき証拠はない。
 したがって、原告の修理代金及び評価損の賠償請求は認められない。

三 過失相殺
 前記第3、2、(1)、(3)ないし(6)、(8)ないし(12)の合計1433万7854円に2割の過失相殺をすると、1147万0283円となる。

四 素因減額
 本件事故後の原告の症状は、その多彩さ、強固さ、推移及び他覚所見との対比等からして、同事故によって通常発生する程度、範囲を超えており、原告の精神的脆弱性等の内在的要素が症状に寄与していると考えざるを得ないから、素因減額をすることとし、諸般の事情を総合し、減額割合は2割とする。
 素因減額後の損害額は917万6226円となる。

五 損害填補
 917万6226円に対する本件事故の日である平成13年12月4日から本訴提起の日であることが記録上明らかな平成20年5月27日までの民法所定年5分の割合による遅延損害金の額は297万3594円であり、これから既払額222万2613円(前記第2、1、(7))を控除すると、遅延損害金残額は75万0981円となる。

六 弁護士費用
 本件の事案の内容、訴訟経過及び認容額等を総合し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、92万円と認める。

七 結論
 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対し、被告Y1に対しては民法709条に基づき、被告Y2に対しては自賠法3条に基づき、各自1084万7207円及び内92万円に対する本件事故の日である平成13年12月4日から、内917万6226円に対する平成20年5月28日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。(裁判官 佐藤明)

以上:6,840文字
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H30- 5-18(金):低髄液圧症候群発症を否認するも10%労働能力喪失を認めた判例要旨紹介
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○出合頭衝突の44歳女子の低髄液圧症候群9級主張に対し、疑いがあるにとどまり関係治療費等否認、症状は10年10%労働能力喪失で2割素因減額を適用した平成24年12月17日京都地裁判決(自保ジャーナル・第1894号)要旨を紹介します。

○事案は、44歳女子が乗用車を運転中に被告乗用車に出合頭衝突され、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症し、9級10号後遺障害が残存した主張したものです。判決では、厚労省の研究報告書である、「現時点で最も信頼性が高いと考えられる中間報告における低髄液圧症の画像判定基準、画像判断基準に照らすと、原告が低髄液圧症であると確定診断することはできず、その疑いがあるといえるにとどまる。そうすると、原告が本件事故により低髄液圧症となったことは証明されていないと言わざるを得ない(脳脊髄液漏出症又は脳脊髄液減少症であると認めることもできない。)。したがって、脳脊髄液減少症の症状であるとする各症状に係る治療費も、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない」として否認した。

○休業損害については、原告が「低髄液圧症を発症したと認めるのは困難であるが、症状固定時までに、「頭痛、頭重感、頸~肩背部・腰部痛、左半身の感覚障害(左手親指、示指等のしびれ等)、めまい、動悸、発汗障害等の自律神経症状、集中力低下、記銘力低下、思考力低下、全身倦怠感、冷感、左半身の痛み、耳鳴り、体温調節障害、車の運転が恐ろしくてできない、家事ができない」等、多彩な神経症状等を自覚し、書道教室は一旦止め、家事労働も制限されたが、C病院通院中、症状は徐々に軽減され、平成16年9月のブラッドパッチ施行により頭痛が顕著に改善したことなどを総合考慮し、本件事故の日である平成13年12月4日から平成14年3月4日までの91日間は平均90%、同月5日から平成17年1月5日までの1038日間は平均50%の休業割合を認める」と認定しました。

○逸失利益については、治療により「次第に軽減したとはいえ原告には多彩な神経症状等が残存した。頸椎MRIで異常所見がなく、神経学的異常所見もほとんどないが、3年以上の治療にかかわらずブラッドパッチで頭痛に著効があった以外はめぼしい成果がなく、明らかに難治性であることなどを考慮し、原告は、症状固定時から10年間、労働能力の10%を喪失したものと認める」と認定しました。

○慰謝料については、原告は、「本件事故により通常受けるはずの肉体的苦痛や日常生活、社会生活上の不便、悪影響を相当上回る被害を受け、事故の態様及び当初の受傷内容に比し、多大の精神的苦痛を被ったものと認められる。後遺障害慰謝料の判断に当たり、これらを原告固有の特殊な事情としてすべて捨象することは公平を欠くというべきである。本件に顕れたその他の事情も総合し、後遺障害慰謝料は200万円をもって相当と認める」と認定しました。200万円の慰謝料は赤本基準後遺障害等級13級180万円を少し超えるものです。

○素因減額につき、原告の症状は、「その多彩さ、強固さ、推移及び他覚所見との対比等からして、同事故によって通常発生する程度、範囲を超えており、原告の精神的脆弱性等の内在的要素が症状に寄与していると考えざるを得ないから、素因減額をすることとし、諸般の事情を総合し、減額割合は2割とする」として、素因減額を適用しました。

○この判決で注目すべきは、「現時点では原告が低髄液圧症であったことが客観的には証明されていないとしても、丙川医師が原告を外傷性低髄液圧症候群と診断し、ブラッドパッチを施行したことが、当時の臨床医の一般的な医学水準又は低髄液圧症候群についての一般的知見に照らし、明らかに不合理であったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、Jクリニック及びK病院の治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。」とした点です。

○低髄液圧症候群としての治療について、低髄液圧症候群を発症したとは認めませんでしたが、症状固定までの多彩な神経症状について、休業損害を認め、症状固定後は10年間の逸失利益を認め、更に慰謝料金額を考慮すると実質後遺障害等級13級以上を認めています。低髄液圧症候群発症を否認するとその治療は一切損害賠償の対象とならないとする判例も多いところ、この判決は、被害者の状況を考慮した柔軟で合理的な判決と思います。
以上:1,806文字
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H30- 5-17(木):”サウナと健康との関係-賛成派・反対派医師が誌上対決!”紹介
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○週刊ポスト平成30年5月25日号126頁に「サウナは体に良い?悪い?」賛成派医師と反対派医師が誌上対決!との記事が掲載されています。サウナ好きだった私も、「”サウナは、百害あって一利なし”って本当でしょうか?」に記載した秋津壽男内科医師著作「長生きするのはどっち」のQ19には、こと日本的利用に限ってはと限定しながらも「サウナは百害あって一利なし」を読んで以来、サウナは殆ど利用しなくなっていました。

○ところが上記週刊ポストには、サウナに関する最新の知見として、フィンランド東部に住む53~74歳の1600人を対象に、サウナ利用と脳卒中との関連性について約15年にわたって追跡調査した結果、サウナに週4~7回入る人は、週1回のみの人に比べ、脳卒中のリスクが約61%低かったとの英国ブリストル大学セトー・クヌツォー博士の報告が掲載されています。

○その理由について、クヌツォー博士は、「サウナには血圧を下げる効果がある。それにより自律神経が安定性を増し、抗炎症作用などが期待できるため、脳卒中のリスクが減っていくと考えている」と説明しています。イシハラクリニックの石原結實医師は、「高血圧の一因として塩分摂取過多があるが、サウナに入ると多量の発汗で塩分と水分が排出され、体が温まることで血管も拡張し、高血圧の要因を排除することになる。」と説明し、サウナ肯定派のようで、サウナで発汗すると、心臓の負担が軽くなることに着目して心不全患者にサウナ療法を施し、治療効果を上げている鹿児島大学名誉教授和音療法研究所鄭忠和所長の例もあるとのことです。

○「”サウナは、百害あって一利なし”って本当でしょうか?」に記載した秋津壽男内科医師は、「高温サウナに入ると急激に血圧が上昇、心拍数が増加し、動脈硬化や高血圧を抱えている人、心臓病など循環器系疾患を持つ人、或いは免疫力の落ちている高齢者にとっては、サウナに入ることは自殺行為に等しい」と真逆の説明をされています。

○素人には、一体、どっちが本当なのよと、困惑します。秋津医師の話では、サウナは入る時間も注意が必要で、110度のサウナ室内にどれだけ留まれるかを競うサウナ我慢大会世界選手権で、2010年に2人が倒れ、1人が死亡する事故が起こって以降、その大会は開催されなくなったとのことです。

○この点について、肯定派の石原結實医師も、「よく○分入ると決めている人がいるが、避けた方が良い。自分が気持ちいいと思う段階を超えないように、辛いと感じたら直ぐに出ること」と釘を刺し、クヌツォー博士も「心臓発作や脳卒中をすでに起こしている人、狭心症患者、低血圧の人などはサウナを控えるべきで、”血圧を下げるためにサウナに入る”という考え方はすべきでない。健康不安があればサウナに入るより、医師に相談した方が良い。」とサウナは決して万能ではないと釘を刺しています。

○結局、サウナは、これまで通り、余り利用しないことにしました。利用するとしても100度なんて高温ではない中温のサウナでじっくり体を芯から温めるような利用にします。
以上:1,265文字
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H30- 5-16(水):2018年05月16日発行第221号”弁護士伝授手習鑑”
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横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの平成30年5月16日発行第221号「弁護士伝授手習鑑」をお届けします。

○歌舞伎に菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)と言う演目があることは何となく知っていましたが、歌舞伎を観たのは40年前の司法修習生時代に前記修習の一環としての1回だけで、菅原伝授手習鑑の中身など全く知りません。「歌舞伎への誘い」「菅原伝授手習鑑」によると「寺子屋」は、松王丸が菅丞相の子菅秀才(かんしゅうさい)を救うために自らの子を犠牲にする物語のようです。

○昭和53年4月から7月まで司法研修前記修習で、4ヶ月間松戸市の寮に住み、上野の司法研修所に通いましたが、修習には歌舞伎の他に能楽鑑賞や、高橋竹山氏の津軽三味線鑑賞、数学者広中平祐氏講演等教養をつけるための科目も結構ありました。しかし、歌舞伎もその時1回観ただけで、サッパリ教養は身につかないままで終わっています(^^;)。

○歌舞伎ファンの大山先生は、歌舞伎演目の中身も良く理解され、ホントに洗練された都会の教養を身につけておられると感心しきりです。「山家育ち」なんて言葉も、今時、余り聞いたことがありませんが、私は、正に「山家育ち」です。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

弁護士伝授手習鑑


私は、歌舞伎がかなり好きなんですね。荒唐無稽な話でも、役者さんがカッコいいと、もっともらしく見えるから不思議です。歌舞伎の主人公には、悪人も多いんですが、これがまた魅力的なんです。お嬢吉三なんて、大金を強奪したうえ、被害者を川に叩き落すなんて無茶苦茶なことをしておいて、濡れ手に粟で大金が入ったことを喜んで、「こいつは春から縁起が良いわえ。」なんて見えを切ります。「強盗殺人じゃないか!」と思う一方、ここまで悪い奴だと、かえってスカッとしちゃいます。(おいおい。。。)その一方、歌舞伎の中には、どうしても好きになれない話もあるのです。

菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)は、とても人気のある出し物です。政争に負けた、学問の神様菅原道真の話です。弟子の一人は、道真の子どもを連れて身を隠し、村で寺子屋を開いて、近くの子供達に教えています。そのことを知った道真の敵は、子供を殺してくるように、追手を差し向けます。

ところがこの追手は、かつて道真から恩を受けていたことから悩むんですね。一方、道真の子供をかくまっている弟子は、道真の子を助けるために、自分が教えている寺子屋の子供を、身代わりにしようと考えます。(こんなひどい先生、居て良いのかよ!)

ところが、生徒である村の子供達はいかにもやぼったいので、これでは身代わりとして差し出しても、敵を騙せないと考えます。ここで、「いずれを見ても山家育ち。」なんて、有名だけど、ふざけたセリフが出てくるんです。そこに、洗練された子供がやってきたので、これ幸いと殺して、道真の子供の身代わりにします。この殺された子供というのが、そうなることを予想して、追手が送り出した自分の子供だったというわけです。

自分の子供が死んだことを知った追手が、家に帰って妻に言うセリフが、これまた有名ですが、本当に酷い。「女房喜べ。息子がお役に立ったぞ!」私の感覚では、「いずれを見ても鬼畜の所業」としか思えないんです。しかし、忠義のために自分の子供を犠牲にするという芝居は、非常に観客受けするんですね。このモチーフの熊谷陣屋(くまがいじんや)なんかも、何度も何度も上演されている当たり狂言です。どうも、子供は親の所有物だから、自由にしていいんだという意識が、一般人の中にもあるように思えるのです。

数年前に裁判員裁判が始まったことで、法律専門家と一般の人との、刑の重さについての意識の違いが明確になりました。性犯罪など、裁判員になってから、5割増しで刑が重くなっている気がします。その一方、親が子供を殺すような事件の場合、裁判員の元でもそれほど刑が重くなっていないように感じるのです。

もともと日本の法律では、子供が親を殺した場合は非常に重く罰せられた一方、親が子供を殺した場合には、本当に軽い刑だったんですね。少し前までは、無理心中で子供を殺した親の事件その他、多くの裁判で、当然のように執行猶予が付いてました。

6年前の目黒の事件は、子供にゴミ袋をかぶせて窒息死させたんですが、これでも親には執行猶予がついています。大阪で起こった、二人の幼児を閉じ込めて餓死させた事件では、親は懲役30年とされ、非常に重い刑だと報道されていました。でもこれ、他人の子供に同じことしていたら、「当然、死刑、最低でも無期懲役だろう!」とマスコミも世論も言ったはずです。

「女房喜べ。息子は生きているぞ。」こんな当然の言葉が名セリフと言われるように、国民の意識が変わっていけば良いなと、歌舞伎ファンとして思うのでした。

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◇ 弁護士より一言

先日、外で落としたお菓子を、「3秒以内に拾えば大丈夫!」と言って、食べてしまったんですね。
見ていた息子が妻に、「ママ、パパが拾って食べちゃったよ?いいの?」なんて聞きました。

すると妻が、平然と言ったのです。「パパは山家育ちだから大丈夫。」失礼な!パパだって、洗練された都会の教養を身に着けているんだぞ、と言いたかったのですが、説得力がないので止めました。
親の気持ちとしては、息子は「山家育ち」で良いので、元気に育って欲しいものです。
以上:2,341文字
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H30- 5-15(火):民法969の2「通訳人の通訳による申述又は自書」と判断した判例紹介1
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○亡Aの子である原告が、平成24年8月10日付け遺言公正証書による亡Aの遺言(前遺言)及び平成24年12月11日付け遺言公正証書による亡Aの遺言(本件遺言)において遺言執行者として指定された被告Y1並びに亡Aの子である被告Y2及び同被告Y3に対し、本件遺言の無効確認を求めるとともに、被告Y2及び被告Y3に対し、本件遺言に基づいて同被告らが払い戻した亡Aの預貯金につき、不当利得の返還を求めました。

○これに対し、本件遺言は、亡Aの遺言能力を欠くものとはいえないと判断し、亡Aが人工呼吸器の装着により発話が不明瞭で、公証人にとって聴取が困難であった本件において、頻繁に亡Aを見舞って会話をし同人の発話内容を理解できる訴外Fが亡Aから聞き取り理解した内容を公証人に伝え、公証人が自ら聞き取ったと思う内容と付合するかを確認するという方法は、民法969条の2第1項にいう「通訳人の通訳」の範疇に含まれ、また、被告Y2と交際していた訴外Fは、推定相続人との間に証人及び立会人の欠格事由に相当する親族関係があるとはいえず、通訳人の資格に係る民法974条2号に違反しないと判断して、遺言を有効とし、原告の請求を棄却した平成27年12月25日東京地裁判決(判時2361号61頁)を2回に分けて紹介します。

第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第2号の口授に代えなければならない。この場合における同条第3号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。

第974条(証人及び立会人の欠格事由)
 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族

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主  文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 原告と被告らとの間で,東京法務局所属公証人Bの作成に係る平成24年12月11日付け同年第136号遺言公正証書による亡A(以下「亡A」という。)の遺言(以下「本件遺言」という。)が無効であることを確認する。
2 被告Y2は,原告に対し,257万3581円及びこれに対する平成25年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Y3は,原告に対し,257万3581円及びこれに対する平成25年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,東京法務局所属公証人Bの作成に係る平成24年8月10日付け同年第087号遺言公正証書による亡Aの遺言(以下「前遺言」という。)中の条項では,亡Aの一部の株式以外の全財産を亡Aの長男,長女及び二女である原告,被告Y2及び被告Y3に各3分の1の割合で相続させるものとされていたところ,本件遺言では,前遺言の上記条項を撤回し,亡Aの一部の株式以外の全財産を被告Y2及び被告Y3に各2分の1の割合で相続させるものとされたことから,原告が,①前遺言及び本件遺言において遺言執行者として指定された被告Y1並びに被告Y2及び被告Y3に対し,本件遺言が無効であることの確認を求めるとともに,②被告Y2及び被告Y3に対し,本件遺言に基づいて被告Y2及び被告Y3がそれぞれ払い戻した亡Aの預貯金各772万0743円につき,不当利得返還請求として,前遺言による原告の指定相続分3分の1に相当する各257万3581円及びこれに対する相続開始の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

             (中略)


第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件の事実経過として,以下の事実が認められる。
(1) 亡Aは,長年にわたり,夫のCとともに本件各社等を経営し,本件各社の各代表者(a社の共同代表取締役及びb社の株式会社への組織変更後の代表取締役)を務めていたが,平成16年頃から慢性閉塞性の肺疾患等にり患し,平成23年4月頃から肺疾患等の治療のため入退院を繰り返し,同年11月には肺腺癌の放射線治療のため入院するなど,病状が徐々に進行していたことから,同月頃から上記各社等の事業や自らの財産の承継の在り方について検討するようになった(前記前提事実(2)ア及びウ,甲31,38,丙1)。

(2)
ア 平成23年12月26日,亡A及びCと原告との間で,その当時債務超過の状態にあったb社につき,亡A及びCの有するb社の株式の全部を原告に売り渡す旨の本件売買契約が締結され,平成24年1月17日,b社について有限会社から株式会社への組織変更がされた(前記前提事実(2)ア及びイ)。

イ 平成24年3月2日,亡Aの自宅において同人の口述を聴取したD公証人によって旧遺言公正証書が作成され,その内容は,旧遺言条項①ないし③のとおり,亡Aの有する自宅など不動産の大半に係る持分を原告に相続させるというものであり,付記事項にも,会社の事業継承がうまくいくことを願い,亡Aの財産を原告を中心に相続させる旨の意向が記載されていた(前記前提事実(3))。

(3)
ア 平成24年4月頃,本件株式交換及び本件株式併合(以下併せて「本件株式交換等」ともいう。)並びに本件株式売買契約に基づき,当時資産超過の状態にあったa社をb社の完全子会社として前者の株式1株につき後者の株式1000株を割り当て,b社の株式1000株を1株に併合した上で,亡A及びC(以下,併せて「亡Aら」という。)の有するb社の株式の全部を原告に譲渡することを内容とする諸手続が終了したが,同年5月下旬頃以降,亡Aらは,原告に対し,本件株式交換等の内容は事前に説明を受けておらず了承していない,本件株式売買契約はこれらを前提とするものではない等の異議を述べ,本件株式交換等の決議及び本件株式売買契約の成否や効力を争う亡Aら及び被告Y2らと原告との間で,本件各社の株主権等をめぐり争いが生じた(前提事実(2)イ,甲31,38,丙1)。

イ 平成24年5月及び同年6月下旬から7月上旬頃まで,亡Aは2回の入退院をしたが,同年5月下旬以降,原告は,亡Aから,本件各社を原告に乗っ取られた,原告に事業承継をした覚えはないと等と度々言われ,亡Aに本件各社の取締役の辞任を求めたがこれを拒まれた後,同年6月26日,入院中の亡Aの病室を訪れ,亡Aに対し,同人を本件各社の取締役から解任する旨を告げた。

 そこで,同年7月中旬頃,亡Aは,a社の顧問弁護士であった被告Y1を自宅に呼び,遺言公正証書を作り直し,原告及び被告Y2らが協力して本件各社を経営していくように,亡Aの財産を原告,被告Y2及び被告Y3に3分の1ずつ相続させる内容に改めてほしい旨を要請し,亡Aの上記の意向を受けた被告Y1の依頼により,B公証人が亡Aの自宅を訪れて遺言公正証書を作成し直すこととなった。
 a社から亡Aに対し同年7月分の同人の役員報酬は支払われていたこと等から,同月の時点では,亡Aは,原告が実際に自分を本件各社の取締役から解任することまではしないものと認識していた。
 (以上につき,前提事実(2)ウ,甲31,丙1,原告本人)

ウ 平成24年8月10日,亡Aの自宅において同人の口述を聴取したB公証人によって前遺言公正証書が作成され,その内容は,前遺言条項①ないし⑦のとおり,旧遺言を撤回し,亡Aのb社の株式を原告及び被告Y2らに一定の株数ずつ相続させ,それ以外の一切の財産を原告,被告Y2及び被告Y3に各3分の1の割合で相続させ,遺言執行者として被告Y1を選任し,祭祀承継者として原告を指定するというものであり,付記事項にも,原告及び被告Y2らが互いに協力して本件各社の経営等に当たり,原告が謙虚な気持ちで親族や社員に接することを願う旨の記載がされている。

 また,前遺言条項④には,上記アの経緯に係る亡Aの異議の内容として,亡Aは,平成23年12月16日に本件株式売買契約を締結したが,b社の株式会社への組織変更後に原告が本件株式併合の株主総会決議があったかのような議事録を勝手に作成して1000分の1の代金しか支払わなかったため,残代金の支払を催告した上で本件株式売買契約を解除したので,前遺言当時においてb社の株式3900万1000株の全てを有している旨が付記されている。 (以上につき,前記前提事実(4))

(4)
ア 平成24年8月13日,亡Aは,急性呼吸不全を契機として再び入院し,同年10月上旬頃に呼吸不全の増悪のため咽喉部に人口呼吸器が装着され,その後は,人口呼吸器のために声がかすれて小さくなり医師等には発話の内容が聞き取りにくくなることがあったが,頻繁に入院中の亡Aを見舞い同人と会話をしていた被告Y2ら及び被告Y2の交際相手であるFは,亡Aの声がかすれて小さくなったときでも,聞き慣れた同人の声質や話し方等を判別することにより,発話の内容を理解することができた(前記前提事実(2)ウ,甲7,38,乙ロ3,丙1,証人E,証人F,弁論の全趣旨)。

イ 平成24年10月31日,亡A及び被告Y2らの同意の下に,苦痛の緩和のために亡Aへのモルヒネ剤の投与が開始され,同年11月中旬頃以降,亡Aは,看護師らに対して不安や寂しさを頻繁に訴えたり,被告Y2らに対してはそれらがうまく伝わらずに時折つじつまの合わない言葉を発したりするようになったが,看護師1名の診療経過記録中には,その間の亡Aの状態につき,1度紙に意味不明なことを書いて伝えようとしたこと以外は,「しっかり書き表わせる」,「発言もしっかりされている」との記載(同年12月11日の記録)がある(甲8ないし22)。

ウ 平成24年10月25日,a社の共同代表取締役及びb社の取締役であった原告は,本件株式交換等及び本件株式売買契約によって本件各社の一人株主となったとの認識を踏まえ,本件各社の取締役から亡Aを解任した旨を記載した同年6月29日付け各株主総会議事録及びb社の代表取締役に原告を選任した旨を記載した同日付け取締役会議事録(いずれも原告の作成に係るもの)を添付して商業登記申請を行い,同年10月25日付けで,本件各社に係る亡Aの取締役解任及び代表取締役退任の登記(同年6月29日解任及び退任)並びにb社に係る原告の代表取締役就任の登記(同日就任)がされたが,これらの登記について亡Aへの告知はされなかった(前記前提事実(2)ア,丙1,弁論の全趣旨)。
 a社から亡Aに対し平成24年8月分から10月分までの同人の役員報酬は支払われていたが,同年11月分の同人の役員報酬が支払われなかったことから,これを知った亡Aは,同月中旬頃,被告Y2に依頼して本件各社の登記簿を確認したところ,上記解任等の登記がされていることが判明した(なお,原告は,同年11月26日,本件各社の経理担当の従業員であった被告Y2に対しても,本件各社の代表取締役として,a社につき懲戒解雇,b社につき普通解雇の各意思表示をしており,これらの解雇の効力も別途の訴訟で係争中である。)。
 (以上につき,甲31,丙1,原告本人)

 そこで,平成24年11月下旬頃,亡Aは,容態の安定している時に被告Y1を本件病院に呼び,遺言公正証書を更に作り直し,原告及び被告Y2らが協力して本件各社を経営していくように,b社の株式は前遺言のとおり原告及び被告Y2らに相当数ずつ相続させるが,亡Aのb社の株式以外の財産については被告Y2及び被告Y3に各2分の1ずつ相続させる内容に改めてほしい旨を要請した。その直後に亡Aの容態は一時悪化したが,同月30日に容態が安定した時点で本件病院を訪れた被告Y1は,亡Aが,しばらく話をすると声がかすれて小さくなり聞き取りにくくなる状態ではあるものの,なお上記のとおり遺言公正証書の作り直しをしたいとの意向を示していることを確認した。

 そして,同年12月上旬頃,亡Aの上記の意向を受けた被告Y1の依頼により,B公証人が本件病院に赴いて遺言公正証書を作成し直すこととなり,同月の時点では亡Aの手の筆圧が不十分で筆談も困難な状態であったため,亡Aの申述が聞き取りにくい場合の通訳人の確保を求める同公証人の要請を受けた被告Y1の調整により,上記アの事情を踏まえ,Fが通訳人としてその作成に立ち会うこととなった。
 (以上につき,乙ロ3,丙1,証人F,証人B)

エ 平成24年12月11日,本件病院において入院中の亡Aと面接したB公証人によって本件遺言公正証書が作成され,その内容は,本件遺言条項①ないし③のとおり,前遺言の各条項のうちb社の株式並びに遺言執行者及び祭祀承継者に関する条項は維持するがそれ以外の条項は撤回し,亡Aの有するb社の株式以外の一切の財産を被告Y2及び被告Y3に各2分の1の割合で相続させるというものであった(前記前提事実(5))。

 同日,亡Aによる遺言内容の申述のうち,前半部分はB公証人が通訳を介さずに自らその内容を聞き取ることができたが,後半部分は声がかすれて小さくなり,同公証人は,後半部分の聞き取りにくい発話のうち,亡Aの顔に近づくなどして相応の部分を聞き取るとともに,自ら聞き取ったと思う内容の正確性に疑義がありその確認に慎重を期した方がよいと判断した部分についてはFに通訳を依頼した。Fは,耳を亡Aの口元に近づけるなどして当該部分の発話を聞き取ってその内容をB公証人に伝え,同公証人は,その内容が自ら聞き取ったと思う内容と一致することを確認した。 (以上につき,乙ロ3,証人F,証人B)

 同日,B公証人は,通例の手続の流れに従い,亡Aの受け答えの態度,表情及び言葉,遺言内容の申述及び読み聞かせの各確認の全過程における亡Aの態度,聞き取った言葉と遺言内容の単純さ(b社の株式については前遺言の内容を変えず,その他の財産は娘2人に半分ずつ分けるというもの)等を総合した上で,本件遺言について亡Aには遺言能力があると判断し,本件遺言公正証書を作成した(証人B)。

(5)
ア その後,亡Aは,病状の進行により徐々に呼吸困難が増悪して全身状態が衰弱し,癌性胸水及び肺炎の悪化等により,平成25年1月29日に本件病院で死亡した(甲7,22)。

イ 亡Aの死後,C及び被告Y2らがb社及び原告に対し株主の地位の確認及び上記決議の不存在の確認を求める別件訴訟が提起され,その第1審では,本件株式交換等及びこれを前提とする本件株式売買契約はそれぞれ有効に成立している等として,C及び被告Y2らの上記各請求を棄却する旨の判決がされた(前記前提事実(2)イ,甲38。なお,一件記録によれば,本件口頭弁論終結後,別件訴訟の控訴審(東京高等裁判所平成27年(ネ)第3095号)では,C及び被告Y2らの控訴を棄却する旨の判決がされたが,その理由中においては,原告の依頼を受けた税理士等がスキームを立案した本件株式交換等につき,亡Aは,事業承継に係る当該スキームの目的や概要を認識した上で手続を行うことに同意したものの,事前にはその複雑な内容の詳細までは必ずしも十分に理解しておらず,当該各手続の終了後に,本件各社の顧問税理士から当該各手続によって本件各社がメインバンク等の管理下に置かれることとなったなどと説明を受け,また,一人株主となった原告から取締役の辞任を求められるようになったことから,本件株式交換等の決議及びこれを前提とする本件株式売買契約の成否や効力を争うこととなり,死後の当該訴訟の提起に至った旨の認定がされていることがうかがわれる。)。


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○「民法969の2「通訳人の通訳による申述又は自書」と判断した判例紹介1」の続きです。


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2 争点1(遺言者の遺言能力の欠如の有無)について
(1) 前記1(1)から(5)までの事実経過等に照らすと,亡Aは,平成23年4月以降の入退院や病状の進行及び本件各社や家族の状況等を踏まえ,①当初は,本件各社の事業承継の観点から,亡Aの財産を長男の原告を中心に相続させる意向を示し,その意向に沿って,債務超過状態にあるb社の株式を全て原告の保有とする本件株式売買契約を経て旧遺言公正証書の作成をしたが,②その後,本件株式交換及び本件株式併合につき,これにより資産超過状態にあるa社の株式も実質的に原告が(完全親会社となるb社の一人株主として)全て保有することとなり,原告が支払義務を負うb社の株式の売買代金が1000分の1に減額されることにつき了承していない等として異議を述べ,原告からは本件各社の取締役からの解任を示唆されるなど,原告との間で争いが生じたことから,a社の顧問弁護士であった被告Y1を通じて遺言公正証書の作り直しをB公証人に依頼して,旧遺言を撤回し,亡Aの有するb社の株式を原告及び被告Y2らに一定の株数ずつ相続させ,それ以外の一切の財産を原告,被告Y2及び被告Y3に各3分の1の割合で相続させる内容の前遺言公正証書を作成し,これに上記異議の内容や原告が被告Y2らと協力して謙虚な気持ちで本件各社の経営等を行うよう願う旨を付記し,③その後,実際に行われることはないものと認識していた本件各社の取締役からの解任及びその登記の手続が原告によって現に行われていることが判明したことから,被告Y1を通じて再び遺言公正証書の作り直しをB公証人に依頼して,b社の株式以外の財産に係る事項につき前遺言を撤回し,上記の株式以外の一切の財産を被告Y2及び被告Y3に各2分の1の割合で相続させる内容の本件遺言公正証書を作成したものと認められ,上記3通の遺言公正証書はいずれも当該各時点における原告との関係等を踏まえた亡Aの意向に基づいて作成されたものと認めるのが相当である。

(2) 他方,前記1(4)イのとおり,前遺言公正証書の作成後,平成24年11月中旬頃以降,同年亡Aは,病状の進行に伴って看護師らに対して不安や寂しさを頻繁に訴えたり,同年10月末に投与を開始されたモルヒネ剤の影響や被告Y2らに対して上記の心境がうまく伝わらないことから,時折つじつまの合わない言葉を発したりするようになり,また,看護師らの診療経過記録中には,(ア)被告Y3が,亡Aはしっかりした人だったので,おむつのままでも平気であるなど,わけが分からなくなってくるのを見るのは家族としてつらいと述べており,同被告がモルヒネ剤の使用を拒む背景には,亡Aのつじつまの合わない言動に対するショックも大きい様子である旨の記載(同年11月13日),(イ)被告Y3が,最近の亡Aはつじつまの合わないことやわけの分からないことをよく言うと述べていた旨の記載(同月14日),(ウ)被告Y2が,本件病院に泊まっていかないのかと同被告に尋ねるなど,亡Aは近頃意味の分からないことをよく言うと述べていた旨及び時折,猫が布団の中にいる等のつじつまの合わない発言がある旨の記載(同年12月7日),(エ)亡Aが早朝のやや興奮気味のときに「理由など聞くも全てのことにうなづきわからず」との記載(同月9日),(オ)ビリルビン値の上昇による意識障害やモルヒネ剤,睡眠剤の使用による不穏,せん妄がある旨の記載(同月10日午後2時45分)等があること(甲11,12,16ないし18)を踏まえると,同年11月中旬頃以降,主にモルヒネ剤の投与の影響により,亡Aについては心身の状態が不安定になるときに判断能力の一定程度の低下をうかがわせる言動がみられるようになったということができる(なお,同年12月5日の診療経過記録には,午前に苦痛を訴えた後に「話がしたい。誰かにきいてもらってもいい。」と述べた後,しばらくして「そんなこと言った?」と述べたとの記載もあるが(甲15),入院治療中の高齢者に通常みられる程度の物忘れの類であるということができ,夕刻以降は落ち着いて過ごし,身の置き所のなさ,不安や現状への疑問,納得できていないこと等を話したとの記載(甲15)に照らしても,これをもって直ちに判断能力の低下の徴表とまで評し得るものとはいい難い。)。

 しかしながら,(a)本件病院における亡Aの主治医であったE医師は,モルヒネ剤等の投薬により記憶力や判断能力への影響を来す可能性はあるが,常に影響があるとは限らず,影響の有無や程度もその日の状況や時間帯等によって変動すると考えられるので,亡Aの主治医の立場で,自らの記憶と診療経過記録の記載から,本件遺言当時における亡Aの判断能力の状態を正確に判定することは困難である旨を証言していること(証人E)に加え,(b)平成24年11月中旬頃から同年12月11日までの看護師らの診療経過記録中には,亡Aのつじつまの合わない言動等に関する上記(ア)ないし(エ)のような記載がある一方で,①それらの大半は,被告Y2らが母娘の会話中の亡Aの精神的に不安定な言動を看護師に伝えたものや寝起き直後の半睡又は不安定な状態で述べられたものとみられる上,②同日(本件遺言の当日)の担当看護師の記録として,それまでの亡Aの入院中の状態につき,1度紙に意味不明なことを書いて伝えようとしたこと以外は,「しっかり書き表わせる」,「発言もしっかりされている」との記載もあること(前記1(4)イ),③上記(エ)の記載のある同月9日の記録中にも,午前に1人でいると落ち着かないが午後に被告Y2らが来院して近くにいると呼吸が安定した旨の記載があり,上記(オ)の記載のある同月10日の記録中にも,午後4時頃には,不安とか寂しいとか思っていて家族に伝えたいが,家族が来ると言葉に出せないので代わりに伝えてくれないかと看護師に対し自らの心情を客観的に説明する内容の話をした旨の記載があること等に照らすと,本件遺言がされた同月11日及びその前の数日の当時,亡Aは,日々の状況や時間帯及び事柄の内容等によって,心身の状態が安定していて一定の事柄につき自らの考えや意思を示し得る判断能力を有していることが言動や態度等から看取される状態にある時と,心身の状態が不安定でそのような判断能力の一定程度の低下をうかがわせる言動がみられる時とが混在する状態にあったものとみるのが相当である。

 そして,長年にわたり本件各社を夫とともに経営してきた亡Aにとって,本件各社の事業と自らの財産を3人の子にどのように承継させるかは当時の最大の関心時といえる事柄であり,前遺言から本件遺言への遺言内容の変更は,本件各社の事業の承継の在り方をめぐり原告との間で争いが生じた上,原告によって亡Aの本件各社の取締役からの解任及びその登記の手続が行われたことを知ったのを受けて,旧遺言から前遺言への変更よりも更に原告の取得する財産を減じ,b社の株式以外の財産の相続割合を各人に3分の1ずつから娘2人に2分の1ずつに変更するという単純な内容のものであって,①同年11月中旬頃及び同月30日の時点で,a社の顧問弁護士であった被告Y1が亡Aの容態の安定している時に亡Aから上記変更の意思を伝えられて確認し(前記1(4)ウ),②同年12月11日の時点で,B公証人が,通例の手続の流れに従い,上記のような遺言内容の単純さに加え,亡Aの受け答えの態度,表情及び言葉,遺言内容の申述及び読み聞かせの各確認の全過程における亡Aの態度,聞き取った言葉等を総合し,本件遺言について亡Aに遺言能力があると判断し,現に上記の遺言内容の申述を通訳人の通訳による補助を得て確認していること(前記1(4)エ)に照らすと,本件遺言は,亡Aの心身の状態が安定していて一定の事柄につき自らの考えや意思を示し得る判断能力を有していることが言動や態度等から看取される状態にある時にそれを示し得る事柄について行われたものと認めるのが相当であり,この判断を覆すに足りる事情を認めるに足りる的確な証拠はない。

(3) 原告は,前記第2の3(1)のとおり,本件遺言は遺言者の意思能力を欠いた状態で作成されたものであり,遺言者の真意に基づくものではない旨主張するが,前記1(1)から(5)までの事実経過等を踏まえて上記(1)及び(2)において認定し説示したところによれば,原告の上記主張は採用することができない(原告の供述(甲31,原告本人)の内容も,原告が,亡Aの平成24年8月23日の入院後,原告と会うことが亡Aのストレスになるとの理由で面会を制限され,平成25年1月29日の死亡に至るまで亡Aと一度も面会をしておらず,原告の影響を排除して被告Y2らの都合の良いように作成されたのが本件遺言公正証書であるように思える旨の推測を述べるものにとどまり,また,上記入院の前後を通じて亡Aが前記1(3)ア,イ及び(4)ウ(上記(1)②及び③)の本件各社に係る争いの経緯につき原告に対し怒っていたことを認識していた旨を述べるなど,上記の判断を左右するに足りるものとはいえず,他に上記の判断を左右するに足りる的確な証拠はない。)。

(4) したがって,本件遺言は,遺言者の遺言能力を欠くものということはできない。

3 争点2(通訳による申述に係る民法969条の2第1項違反の有無)について
(1)
ア 公正証書遺言は,遺言書の作成に公証人が関与することにより法律に適合した遺言の内容が確保され,公証役場で公正証書を保管するため紛失や改ざんのおそれがなく,遺言書について家庭裁判所の検認の手続を要しない等の利点があるところ,公正証書遺言の方式の特則を定める民法969条の2は,遺言者の口述(口授)を公証人が聴取して筆記するという同法969条所定の手続が遺言者の言語機能障害や聴覚障害等のために困難である場合でも,遺言内容の正確性の確認が担保される方法である通訳人の通訳による申述又は自書をもって口述(口授)に代えることにより,公証人の関与の下での公正証書遺言の利用を可能にするため,平成11年法律第149号によって新設された規定である。このような立法趣旨に鑑み,民法969条の2第1項にいう「口がきけない」場合には,言語機能障害のために発話不能である場合のみならず,聴覚障害や老齢等のために発話が不明瞭で,発話の相手方にとって聴取が困難な場合も含まれると解するのが相当であり,本件のように,老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人口呼吸器が装着されたことにより,声がかすれて小さくなるために発話が不明瞭で,発話の相手方にとって聴取が困難な場合も,これに含まれるものというべきである。

イ そして,上記の立法趣旨及び「口がきけない」場合の意義等に照らせば,民法969条の2第1項にいう「通訳人の通訳」は,遺言内容の正確性の確認が担保される方法である限り,手話通訳のほか,読話(口話),触読,指点字等の多様な意思伝達方法が含まれるものと解され,同項の法文上も通訳の方法や通訳人の資格に何ら限定は付されていない以上,本件のように,発話者が老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人口呼吸器が装着されたことにより,声がかすれて小さくなるため発話が不明瞭で,公証人にとって聴取が困難であり,自ら聞き取ったと思う内容の正確性に疑義がありその確認に慎重を期する必要がある場合に,頻繁に発話者を見舞って会話をしていた経験から,聞き慣れた同人の声質や話し方等を判別することにより発話の内容を理解することができる者が,その判別により理解した内容を公証人に伝え,公証人が自ら聞き取ったと思う内容と符合するかを確認するという方法も,同項にいう「通訳人の通訳」の範疇に含まれるものと解するのが相当である。

(2)
ア 原告は,前記第2の3(2)のとおり,民法969条の2第1項にいう「口がきけない」場合の意義に関し,言語機能障害については,言語能力に完全な障害があって言葉による意思疎通を図ることができない場合に限定され,部分的に発話できない場合については,遺言の趣旨が理解できない程度の発話しかできない場合に限定される旨主張するが,上記(1)ア及びイにおいてみた同条の立法趣旨及び通訳方法の多様性等に照らすと,所論のように殊更に狭義に限定して解釈すべき理由は見当たらず,原告の上記主張は採用することができない。

イ なお,原告は,前記第2の3(2)のとおり,「口がきけない」場合の範囲を緩やかに広げると,通訳人の欠格事由の定めがない以上,近親者が通訳人の身分で公正証書遺言に立ち会えることになり,証人及び立会人の欠格事由の規定の趣旨に反するとも主張するが,後記4(1)アのとおり,民法969条の2第1項の通訳人について証人や立会人に係る同法974条各号のような欠格事由の規定が設けられていないのは,通訳人の能力として求められる意思伝達方法の特質や多様性等(証人や立会人との差異)を考慮したことによるものと解され,所論のように「口がきけない」場合の範囲を殊更に狭義に限定して解釈しないからといって,証人や立会人に係る欠格事由の規定の趣旨に抵触するものとはいえず,原告の上記主張も採用の限りではない。

(3) したがって,本件遺言は,通訳による申述に係る方式につき,民法969条の2第1項に違反するものということはできない。

4 争点3(通訳人の資格に係る民法974条2号等違反の有無)について
(1)
ア 民法969条の2第1項の通訳人については,証人や立会人に係る同法974条各号のような欠格事由の規定が設けられていないところ,これは,証人や立会人の場合と異なり,前記3(1)イのような通訳人の能力として求められる意思伝達方法の特質や多様性等に照らすと,仮に同条各号所定の者らを一律に通訳人から排除した場合には,当該遺言者の通訳に適する意思伝達方法の能力を備えた適格者を確保し得ない事態の生ずる蓋然性が想定され,前示の同法969条の2の立法趣旨に沿わない結果の招来を避け難い一方で,そのような能力を備えた者の中から当該者の属性や人的関係も踏まえた適格性を公証人が個別に判断して通訳人の人選及び通訳の実施の適否を決することによって,遺言内容の正確性の確認を担保し得ることを踏まえたものと解される。

したがって,民法969条の2第1項の通訳人について,証人及び立会人に関する同法974条各号の規定が類推適用されるものではなく,通訳人の通訳による公正証書遺言が無効であるか否かは,公証人による当該通訳を介しての遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあるため公証人の筆記の内容が遺言者の真意に基づかないものといえるか否かという個別の判断によるべきものと解するのが相当である。


イ また,本件において,Fは,前記1(4)アのとおり,推定相続人である被告Y2の交際相手であり,本件遺言の当時に同被告との間で婚姻関係と同視し得るような関係(原告の主張に係る婚約関係ないし事実婚状態)にあったことを認めるに足りる的確な証拠はなく(Fは,その陳述書(乙ロ3)及び証言において,平成23年春頃から被告Y2と交際しているが結婚の約束まではしていない旨を述べており,弁論の全趣旨によれば住所を異にすることが認められる。),推定相続人の配偶者と同視し得る地位にあるとはいえない以上,推定相続人との間に証人及び立会人の欠格事由に相当する親族関係があるとはいえないから,民法974条2号の類推適用をいう原告の前記第2の3(3)の主張は,その前提を欠くものであって,いずれにしても採用の限りではない。

ウ そして,前記1(4)ア及びエの認定事実によれば,Fは,本件遺言の当時,推定相続人である被告Y2ら以外に前記3(1)イのような亡Aの通訳に適する意思伝達方法の能力を備えた唯一の者であったものと認められ,本件遺言公正証書の作成の際,その能力に適した意思伝達方法でその通訳を行い,B公証人も,その通訳内容につき自ら聞き取ったと思う内容との符合を検証して適切に確認を行ったものといえるから,本件遺言において同公証人がFに通訳人として通訳をさせたことにつき,遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあったとは認められず,これを欠いたとする原告の前記第2の3(3)の主張は採用することができない。

(2) したがって,本件遺言は,通訳人の資格に係る方式につき,民法974条2号及び969条の2第1項に違反するものということはできない。

5 小括
 以上によれば,本件遺言が無効であるとは認められないから,原告と被告らとの間において本件遺言が無効であることの確認を求める原告の被告らに対する請求は理由がなく,また,本件遺言に基づいて被告Y2らが亡Aの死亡後に同人の預貯金のうち各2分の1ずつを払い戻したことについて不当利得が成立するとは認められないから,本件預貯金相当額の返還及びその遅延損害金の支払を求める原告の被告Y2らに対する請求も理由がない。

第4 結論
 以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判官 岩井伸晃)
以上:7,157文字
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H30- 5-14(月):父の母に対する親権に基づく子の引渡請求が権利濫用とされた判例紹介
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○母が子を連れて別居後、離婚に際して父が子の親権者となるも、母が事実上、子の監護を継続していたことについて、子の親権者となった父である抗告人が、法律上監護権を有しない母を債務者とし、親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として、長男の引渡しを求めた仮処分命令の申立てをしました。

○これに対し、原審平成29年6月6日福岡高裁那覇支部決定では、本件申立ての本案は家事事件手続法別表第2の3の項所定の子の監護に関する処分の審判事件であり、民事訴訟の手続によることができないから、本件申立ては不適法であるとして却下しました。そこで抗告人の父が許可抗告しました。

○これに対し、平成29年12月5日最高裁決定(判タ1446号62頁)は、抗告人が母に対して親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求めることは、権利の濫用に当たるとして、本件申立ては却下すべきものであり、これと同旨の原審の判断は、結論において是認することができるとして、抗告を棄却しました。その全文を紹介します。

○決定要旨は以下の通りです。
離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることは,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。
(1)子が7歳であり,母は,父と別居してから4年以上,単独で子の監護に当たってきたものであって,母による上記監護が子の利益の観点から相当なものではないことの疎明がない。
(2)母は,父を相手方として子の親権者の変更を求める調停を申し立てている。
(3)父が,子の監護に関する処分としてではなく,親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない。


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主   文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
抗告代理人○○○○の抗告理由について
1 本件は,離婚した父母のうちその長男(以下,単に「長男」という。)の親権者と定められた父である抗告人が,法律上監護権を有しない母(以下,単に「母」という。)を債務者とし,親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として,長男の引渡しを求める仮処分命令の申立てをした事案である。

2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
(1)抗告人と母は,平成22年9月,長男をもうけ,婚姻の届出をした。
(2)母は,平成25年2月,長男を連れて抗告人と別居し,それ以降,単独で長男の監護に当たっている。
(3)抗告人と母は、平成28年3月,長男の親権者を抗告人と定めて協議離婚をした。
(4)母は,平成28年12月,東京家庭裁判所に対し,抗告人を相手方として,長男の親権者を母に変更することを求める調停の申立てをした。 
(5)抗告人は,平成29年4月,母を債務者として,本件申立てをした。

3 原審は,本件申立ての本案は,家事事件手続法別表第2の3の項所定の子の監護に関する処分の審判事件であり,民事訴訟の手続によることができないから,本件申立ては不適法であるとして却下すべきものとした。

4 しかしながら,離婚した父母のうち子の親権者と定められた一方は,民事訴訟の手続により,法律上監護権を有しない他方に対して親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができると解される(最高裁昭和32年(オ)第1166号同35年3月15日第三小法廷判決・民集14巻3号430頁,最高裁昭和45年(オ)第134号同年5月22日第二小法廷判決・判例時報599号29頁)。
 もっとも,親権を行う者は子の利益のために子の監護を行う権利を有する(民法820条)から,子の利益を害する親権の行使は,権利の濫用として許されない。

 本件においては,長男が7歳であり,母は,抗告人と別居してから4年以上,単独で長男の監護に当たってきたものであって,母による上記監護が長男の利益の観点から相当なものではないことの疎明はない。そして,母は,抗告人を相手方として長男の親権者の変更を求める調停を申し立てているのであって,長男において,仮に抗告人に対し引き渡された後,その親権者を母に変更されて,母に対し引き渡されることになれば,短期間で養育環境を変えられ,その利益を著しく害されることになりかねない。

 他方,抗告人は,母を相手方とし,子の監護に関する処分として長男の引渡しを求める申立てをすることができるものと解され,上記申立てに係る手続においては,子の福祉に対する配慮が図られているところ(家事事件手続法65条等),抗告人が,子の監護に関する処分としてではなく,親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない。

 そうすると,上記の事情の下においては,抗告人が母に対して親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求めることは,権利の濫用に当たる
というべきである。

5 以上によれば,本件申立ては却下すべきものであり,これと同旨の原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は,原決定の結論に影響を及ぼさない事項についての違法をいうものにすぎず,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官木内道祥の補足意見がある。

 裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
 親権は,子の監護及び教育をする権利であると同時に義務であって,子の利益のために行使されるべきものである(民法820条)。所有権が対象に対する排他的支配権であって,権利であるが故にその行使を妨害されないという妨害排除請求権が認められるのとは異なり,単に親権者であることからその親権の行使が認められるのではなく,その行使が子の利益のためにするものであってはじめて権利の行使として許容される。親権の行使が「子の利益を害するとき」は民法834条の2による親権の停止の事由となり,親権そのものが停止されるに至るのであるから,親権を行使する個々の場面でも,子の利益を害するものが許されないことはいうまでもない。

 父と母のいずれが子を監護することが適切かを子の利益を基準として定め,適切な者への子の引渡しを求める手続としては,家庭裁判所の子の監護に関する処分及びそれを前提とする保全処分という手続がある。この手続においては,子が15歳以上であれば必ずその陳述が聴取され(家事事件手続法152条2項,157条2項),子が15歳未満であっても,子の陳述の聴取,家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法によって子の意思の把握がはかられ,子の年齢及び発達の程度に応じて,その意思が考慮されなければならないのであり(同法65条),実務上,ほとんどの場合に,家庭裁判所調査官が関与し,子の意思の把握に大きな役割を果たしている。更に,子に意思能力があれば,裁判所は職権で子を利害関係人として手続に参加させることができ,子の手続代理人として弁護士を選任するなどして子の意思を手続に反映させることも可能である(同法42条3項,23条2項)。このように,家庭裁判所は,子の利益のために後見的な役割を果たすことがその職責とされているのである。

 これに対し,民事訴訟の手続による親権に基づく子の引渡請求の本案訴訟及びそれを本案とする民事保全処分においては,権利の存否及び保全の必要性について,専ら,当事者(本件でいえば,子の父と母)が裁判所に対して主張と証拠の提出を行わなければならず,裁判所が子の利益のために後見的役割を果たすことは予定されておらず,そのための道具立ては用意されていない。

 父と母の間における子の引渡請求という紛争においては,子の利益という観点から,また,当事者の負担及び手続の実効性の観点からも,家庭裁判所における手続こそが本来的なものとして設けられているのである。
 本件では,現在7歳となる子は,平成25年2月の別居以来,4年以上,母が単独で監護に当たっており(少なくとも本年3月末までは)母による監護について抗告人である父があらかじめ同意しており,その監護態様に異議が述べられたことがあるとは認められない。本件の申立てにおいても,母による監護が子にとって不相当であるという疎明はされていない。すると,そのような監護状態にある子を主たる監護者である母から引き離して抗告人に引き渡すことは,抗告人が親権者であるとはいえ,子の利益を害するおそれがあるというべきである。

 抗告人が家庭裁判所における子の監護に関する処分としての子の引渡しを求めるのであれば,子の利益を害するおそれについて十分な審理を行った上での家庭裁判所の認定・判断が期待できるが,抗告人は,あえてその方法によることなく,民事訴訟の手続による親権に基づく子の引渡請求を本案とする民事保全処分としての子の引渡しを求めているのであり,そのことからは,抗告人への子の引渡しが子の利益を害するおそれがあることを否定する事由を見いだすことはできない。

 このような抗告人の親権に基づく母に対する子の引渡請求は,子の利益のためにするものということはできず,権利の濫用として許されないものである。
(裁判長裁判官 木内道祥 裁判官 岡部喜代子 裁判官 山崎敏充 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林景一)
以上:3,847文字
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H30- 5-13(日):中心性頚髄損傷覚書-追突事故による傷害でも起こることがあります
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○当事務所で扱う交通事故訴訟では、ここ数年、頚髄に関する事案が多く、頚髄損傷についての覚書です。

・頚髄損傷大まかな分類
骨傷性頚髄損傷:頚髄を保護する頚椎椎体の圧迫・破裂・脱臼骨折等により頚髄を直接損傷するもの
非骨傷性脊髄損傷:椎体の骨折等はないが、頚部等に強い衝撃が加わり、脊髄が過伸展・過屈曲されて脊髄の中心部を損傷するもの

非骨傷性頚髄損傷には、頚髄の中心部が損傷する中心性頚髄損傷があるが、中心性頚髄損傷は単純X線所見には縛られない臨床的な症候群であり、非骨傷性頚髄損傷とは別の概念と考えるべきとの解説もあります(エキスパートのための脊椎・脊髄疾患のMRI第2版547頁)。頚髄は、脳と同じく中枢神経であり、いったん損傷されると回復はほぼ困難とされている。

・中心性脊髄損傷について
発症原因

コンタクトスポーツによる頚椎の過屈曲・過伸展でおこる。交通事故の追突事故でも起こりうる。過伸展損傷以外の原因でも起こりうる。
過伸展時の黄色靱帯のたるみによる後方からの頚髄圧迫と、頚椎の不安定型損傷による後方すべりによる圧迫が考えられている。

症状
外傷後の手のしびれ,何も触れないほどの痛み,自発痛が特徴
①下肢より上肢に強い運動麻痺
②比較的予後はよく、改善は下肢より起こるが、手指の巧緻運動障害は回復しにくい
③高齢者の過伸展損傷に多い。高齢者の方が回復が不良。
④後縦靱帯骨化症などによる脊柱管狭窄を有する患者に多い
 頚髄は脳からの電気信号を末梢組織に伝える役割を果たし、横断面でみると,中心に近づくほど上肢に分布する神経の線維が通っているため,中心部が衝撃によって障害を受ける中心性頚髄損傷では上肢に強く症状が出る。

損傷部位
古典的には頚髄中心部に出血や浮腫が起きた場合、側索椎体路では内側から外側に向かって頚髄、胸髄、腰髄の順に繊維が走行するために、上肢への神経路が下肢に比べて損傷を受けやすい。
上肢への神経路の損傷があることから、損傷レベルとしてはC3/4,C4/5,C5/6が主体となる。しかし、損傷の最強点は、頚髄の中心部とは限らない。

MRI診断
不完全型脊髄損傷である中心性頚髄損傷では、頚髄出血はまれで、浮腫や腫脹を呈することが多い。病変部ではT2強調画像で高信号を呈するが、異常信号を認めないこともしばしばある。
もとからある圧迫性頚髄症と外傷に伴う浮腫の区別は困難だが、後者の方がT2強調像では高信号が上下に長い傾向がある。

治療
受傷後早期にステロイドを使用することで,浮腫を防ぎ,二次損傷を予防する。頚部の安静保持のためにカラーを使用することもある。重症例では改善が認められないため,超早期の診断と治療が必要。
手術(頚髄減圧・固定)を行うかについては議論があり、不安定型の損傷や椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症などによる脊柱管狭窄例では、手術が選択されることが多い。
以上:1,181文字
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