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ご訪問有り難うございます。当HPは、私の備忘録を兼ねたブログ形式で「桐と自己満足」をキーワードに各種データを上記14の大分類>中分類>テーマ>の三層構造に分類整理して私の人生データベースを構築していくものです。
なお、出典を明示頂ければ、全データの転載もご自由で、転載の連絡も無用です。しかし、データ内容は独断と偏見に満ちており、正確性は担保致しません。データは、決して鵜呑みにすることなく、あくまで参考として利用されるよう、予め、お断り申し上げます。
また、恐縮ですが、データに関するご照会は、全て投稿フォームでお願い致します。電話・FAXによるご照会には、原則として、ご回答致しかねますのでご了承お願い申し上げます。
     

R 7- 4-16(水):令和6年5月17日民法等一部改正法律(令和6年法律第33号)親の責務関係条文
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○「令和6年5月17日民法等一部改正法律(令和6年法律第33号)概要紹介」の続きです。
法務省HPの「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」に、令和6年5月17日民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)についての「法律【PDF】」に「民法等の一部を改正する法律」として41頁に渡り、改正法の中身が記載されています。

○以下、概要中の「第1 親の責務等に関する規律を新設」に記載された新設の民法817条の12・13と改正される民法818・819条を紹介します。

第四編第三章に次の一節を加える。
第三節 親の責務等

第三節 親の責務等
第817条の12(親の責務等)

 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。

第817条の13(親子の交流等)
 第766条(第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の場合のほか、子と別居する父又は母その他の親族と当該子との交流について必要な事項は、父母の協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければなない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求により、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、父又は母の請求により、前2項の規定による定めを変更することができる。
4 前2項の請求を受けた家庭裁判所は、子の利益のため特に必要があると認めるときに限り、父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
5 前項の定めについての第2項又は第3項の規定による審判の請求は、父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)もすることができる。ただし、当該親族と子との交流についての定めをするため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

第818条を次のように改める。

第818条(親権)

 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。
2 父母の婚姻中はその双方を親権者とする。
3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。
 一 養親(当該子を養子とする縁組が2以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)
 二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの

第819条第1項中「一方」を「双方又は一方」に、「定めなければならない」を「定める」に改め、同条第2項中「父母の」の下に「双方又は」を加え、同条第3項ただし書中「協議で、」の下に「父母の双方又は」を加え、同条第4項中「父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父」を「母」に改め、同項に次のただし書を加える。
ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。

第819条第6項中「子の親族」を「子又はその親族」に改め、「他の一方に」を削り、同条に次の2項を加える。

7 裁判所は、第2項又は前2項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
 一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
 二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。

8 第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
以上:2,023文字
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R 7- 4-15(火):二重瞼形成手術について債務不履行を否認した地裁判決紹介
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○弁護士JPと言うサイトの「美容整形で失敗された! 返金は難しいって本当?」との記事によると近年美容整形でのトラブルが増加傾向にあり、「全国の消費者センターに寄せられた、美容医療に関するトラブルの相談は2017年の1878件から2021年の2766件へと、4年で1000件近くも増加しています。」とのことです。同記事では、整形を受けた本人が美容整形が失敗と思っても、整形費用等返金が期待できるのは、法的な根拠に基づいて、明らかな医療ミスが認められた場合に限られ、返金された事例が少なく、美容整形のために支払った費用よりも、返金額が大幅に少ない事例もあるとのことです。判例時報令和7年4月1日号に掲載された返金が認められなかった事案の関連部分を紹介します。

○被告医療法人社団が経営する被告診療所で二重瞼形成手術を受けた原告男性診療時30歳が、被告診療所の医師の注意義務違反によって左右瞼の外観が非対称になったなどと主張して、被告に対し、民法415条に基づき、慰謝料200万円等合計約250万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めました。

○これに対し、判決は、二重瞼形成手術について手技上の注意義務違反又は債務不履行があったと認められるためには、少なくとも、同手術によって形成された左右瞼の外観が、一般人から見て、対称性について違和感をもつ程度に至っていると認められることが必要であり、且つ、説明義務が訴外C医師にあったと認められるためには、C医師が、原告が目頭から目尻部分までを切開する「全切開法」を希望していることを認識できたことが必要であるところ、仮に原告がC医師に対して本件手術を「全切開法」で行ってほしいと伝えていたとしても、〔1〕原告はC医師に対して原告が述べる「全切開法」が目頭から目尻部分までを切開する方法を意味することを伝えていないこと、〔2〕被告診療所では部分切開法よりも切開幅が大きいものをすべて全切開法としていたことからすれば、C医師が原告の上記希望を認識できたとは認められないから、C医師に説明義務がないなどとして、請求は全て棄却されました。

********************************************

主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、249万7396円及びこれに対する令和4年6月9日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、被告が経営する池袋皮フ科形成外科(以下「被告診療所」という。)で二重瞼形成手術を受けた原告が、被告診療所の医師の注意義務違反によって左右瞼の外観が非対称になったなどと主張して、被告に対し、民法415条に基づき、損害賠償金及びこれに対する令和4年6月9日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(争いがない事実又は後掲証拠若しくは弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、昭和63年○月生まれの男性である。被告診療所で診療を受けた平成30年(以下、同年の記載を省略する。)12月6日当時、30歳であった。
イ 被告は、被告診療所を経営する医療法人社団である。C医師(以下「C医師」という。)及びD医師は、被告の被用者であり、原告の診療を担当した医師である。

(2)診療経過

     (中略)

3 争点
(1)C医師の手技上の注意義務違反の有無(争点1)
(2)C医師の説明義務違反の有無(争点2)
(3)原告の損害(争点3)

第3 当裁判所の判断
1 争点1(C医師の手技上の注意義務違反の有無)

(1)左右瞼の外観の非対称について
 人間の顔は、通常、完全に左右対称ではなく、左右の眉毛位置の差などがあるため、二重瞼の形成に当たって左右瞼の外観を完全な対称の形にするのは困難である(甲9・28頁、証人C医師)。したがって、二重瞼形成手術について手技上の注意義務違反又は債務不履行があったと認められるためには、少なくとも、同手術によって形成された左右瞼の外観が、一般人から見て、対称性について違和感をもつ程度に至っていると認められることが必要というべきである。

 これを本件についてみると、原告の容貌を撮影した写真(甲8、16)によれば、本件手術によって形成された原告の左右瞼の外観は、一般人から見て、対称性について違和感をもつ程度に至っていると認められない。したがって、左右瞼の外観の非対称について、C医師に手技上の注意義務違反又は債務不履行があったとは認められない。

(2)右瞼上の傷跡について
 本件手術の内容からすれば、右瞼上に多少の傷跡が残ることは避けられないところ、原告の容貌を撮影した写真(甲8、16)によれば、原告が両眼を開いた場合は、右瞼上の傷跡のある場所が隠れるため、右瞼上の傷が外から見えないと認められ、また、原告が両眼を閉じた場合も、右瞼上の傷跡が、一般人から見て、違和感をもつ程度に目立っているとは認められない。したがって、右瞼上の傷跡について、C医師に手技上の注意義務違反又は債務不履行があったとは認められない。

(3)右瞼の引き込み力による違和感及び頭痛について
 原告は、左瞼には違和感がないが、右瞼には引っ張られる違和感(引き込み力による違和感。以下「本件違和感」という。)があると供述する。また、原告には本件手術前から頭痛があったところ(原告本人)、原告は、本件手術前後で頭痛の位置が違う感じがすると供述する。

 しかし、原告は、本件手術前から右側にも頭痛があった、今はどちらかといえば左側の頭痛が軽くなった感じがすると供述するにとどまり、本件違和感によって新たに頭痛が発生したとか、本件違和感によってそれまでの頭痛が悪化したと供述しなかった。また、原告は、頭痛の原因は正確には分からない旨供述した。そうすると、原告の供述によって、本件違和感によって頭痛が生じたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

 また、原告は、頭痛以外に、本件違和感によって日常生活にどのような支障が生じているのか具体的に供述しないことからすれば、本件違和感は、仮にそれが存在するとしても、日常生活に支障を生じさせるような違和感ではなく、受忍限度の範囲の違和感と認められる。そして、本件手術の内容からすれば、そのような違和感は、手技上の注意義務違反がなくても生じうると考えられるから、本件違和感の存在からC医師に手技上の注意義務違反があったと認めることはできない。

(4)以上によれば、C医師に手技上の注意義務違反があったという原告の主張はいずれも理由がない。

2 争点2(C医師の説明義務違反の有無)
(1)認定事実
 証拠(甲7、甲15、乙7の1及び2、乙8、乙10、原告本人、証人C医師)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、12月6日、C医師に対し、被告診療所が提供していた二重瞼形成の施術メニューである埋没法(10万円)、部分切開法(15万円)及び切開法(23万円)の中から切開法を希望し、手術を受けたことが周囲に明らかにならないような奥二重気味の自然な二重瞼にしたい旨述べた。

イ C医師は、12月6日、原告に対し、原告の問診票(乙7の1)の裏(乙7の2。原告の問診票の裏は別紙1のとおり。)に手書きで図を書いて示しながら、本件手術について、以下の説明を行った。
(ア)原告の希望する奥二重気味の自然な二重瞼の仕上がりにするためには、切開した皮膚を瞼板の上にある挙筋瞼膜に縫い付けて、折り目を付けて二重瞼を形成する。そのため、切開部位がくぼむような傷跡が縫合箇所に残る。

(イ)瞼の皮膚が加齢によりたるみが生じている等の理由で瞼縁(睫毛の生え際である瞼の縁部分)と切開線との距離が広くなっている場合には、この距離を短くする必要が生じるため、切開線の皮膚を切除することになる。切開線の皮膚を切除する場合に切開幅を別紙2の【図3’】の青線の長さ程度にとどめると、切開線の中央部分と始点・終点部分との皮膚のテンションの差から、始点・終点付近に皮膚の余りが生じてしまい、ドッグイヤーと呼ばれる膨らみが発生する。そこで,ドッグイヤーの発生を防止するため、別紙2の【図3’】の赤枠の端から端まで切開する必要が生じる。

(ウ)しかし、原告のように皮膚のたるみが見られない場合には、瞼縁と切開線の距離が広くならないので、皮膚を切除する必要がなく、切開幅が短ければ短いほど傷跡を小さく目立ちにくくすることができるため、切開幅を別紙2の【図3’】の青線の長さ程度に抑えても二重瞼が十分に形成可能である。 

(エ)本件手術後には腫れが残り、目立たなくなるまでは2、3週間程度が必要である。その後3か月程度は腫れが気になることが多いが、次第に腫れは収まっていく。

ウ 原告は、本件手術の当日である12月20日、「私は、上記内容に不明点はなく、疑問点は質問しその説明を受け、治療方針や治療内容をすべて十分理解し納得しましたので手術・処置・施術を受けることに承諾いたします。」と記載されていた「手術・処置・施術等に関する承諾書」(乙8)に署名し、本件手術を受けた。

(2)事実認定の補足説明
 C医師は、上記(1)の認定に沿う陳述(乙10)及び証言をするところ、C医師の陳述及び証言は、裏付けとなる客観的な証拠(原告の問診票の裏(乙7の2)に説明の際に示された図が記載されている。なお、原告も、それらの図のうち別紙3の青い丸で囲んだ図は覚えていると供述している。)があるだけでなく、内容に不自然不合理な点も見当たらないから、信用することができる。したがって、C医師は、原告に対し、本件手術について、上記(1)の認定のとおり説明したと認められる。この認定に反する原告の供述は、採用することができない。

(3)手術方法に関する説明義務違反について
 原告は、C医師は本件手術を目頭から目尻部分までを切開する「全切開法」で行わないことを原告に説明する義務があったと主張する。
 しかし、原告の主張する説明義務がC医師にあったと認められるためには、C医師が、原告が本件手術を目頭から目尻部分までを切開する「全切開法」で行ってほしいと希望していることを認識できたと認められることが必要であると解されるところ、仮に原告がC医師に対して本件手術を「全切開法」で行ってほしいと伝えていたとしても、
〔1〕原告はC医師に対して原告が述べる「全切開法」が目頭から目尻部分までを切開する方法を意味することを伝えていないこと(原告本人、証人C医師)、
〔2〕「全切開法」といっても内容は医療機関によって異なり、「全切開法」が必ず目頭から目尻部分までを切開する方法を意味するとは限らず(甲9ないし14、弁論の全趣旨)、被告診療所では部分切開法よりも切開幅が大きいもの(目頭から目尻部分までを切開する方法を含む。)を全て切開法としていたこと(証人C医師)
からすれば、C医師が、原告が本件手術を目頭から目尻部分までを切開する方法で行ってほしいと希望していることを認識できたとは認められない。したがって、C医師に原告の主張する説明義務があったとは認められない。


 また、C医師は、原告に対し、切開の幅について、別紙2の【図3’】の赤枠の端から端まで(目頭から目尻部分までに近いと認められる。)ではなく、それよりも短くなる同図の青線の長さ程度に抑えると説明しているから(上記(1)イ)、C医師は、原告に対し、本件手術が目頭から目尻部分までを切開するものではないことを説明したと認められるところ、原告は、C医師の説明によって本件手術が目頭から目尻部分までを切開するものではないことを認識したにもかかわらず、目頭から目尻部分までを切開する方法で本件手術を行ってほしいと述べず、そのまま本件手術を受けているから(上記(1)イ)、原告がC医師から原告の主張する手術方法に関する説明を受けていれば本件手術を受けなかったとも認められない。
 以上によれば、原告の手術方法に関する説明義務違反の主張は理由がない。

(4)手術内容や手術後の状況に関する説明義務違反について
 C医師は、原告に対し、別紙2の【図3’】を示しながら、〔1〕切開する部位、〔2〕切開する幅や大きさを説明し、〔3〕切開後の傷跡の状態の見込みについても、切開部位がくぼむような傷跡が縫合箇所に残ることや、一定期間は腫れが残ることを説明しているから(上記(1)イ)、上記〔1〕から〔3〕までの点についてC医師に説明義務違反があったとは認められない。

 また、原告は、C医師は〔4〕手術後の瞼の引き込み感やこれが日常生活に与える影響等を説明する義務があったと主張するが、既に説示したとおり、本件違和感は、仮にそれが存在するとしても、日常生活に支障を生じさせるような違和感ではなく、受忍限度の範囲にとどまっている違和感と認められるから、そのような違和感が本件手術によって生じることがあることを説明する義務がC医師にあったということはできない。
 したがって、原告の手術内容や手術後の状況に関する説明義務違反の主張も理由がない。

第4 結語
 以上によれば、争点3について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第14部 裁判長裁判官 村主隆行 裁判官 川嶋彩子 裁判官 和田義光
以上:5,548文字
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R 7- 4-14(月):不正アクセス禁止法備忘録-ロック解除して初めて不正アクセスか
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○妻が夫のスマホのline等のメールデータを無断で読んで写真撮影するなどの行為は不正アクセス禁止法に違反しませんかとの質問を受けました。IDやパスワードで保護されたデータを、IDやパスワードを入力して閲覧した場合は、不正アクセス禁止法に違反しますが、そのような保護がされていないメールデータを閲覧するだけでは、不正アクセス禁止法には違反しないと覚えていましたが、不正アクセス禁止法の条文をシッカリ確認したことはありませんでした。そこで、以下、不正アクセス禁止法の条文の備忘録です。

○不正アクセスの定義は、以下の不正アクセス禁止法第2条第4項に、
アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為
アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報(識別符号であるものを除く。)又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為
と大変難しい表現で記述されています。
 特定電子計算機とはパソコンやスマホを言い、識別符合とはID・パスワードのことで、要するにパスワード等でロックがかけられているパソコン・スマホにパスワードを入力してログインしてロックされたデータを閲覧できる状態にすることを言うようです。従ってロックされていないlineデータを見ただけでは不正アクセスには該当しないようです。

○不正アクセスに至らなくても、無断で夫や妻のスマホを見る行為は違法ではないかとの質問を受けましたが、プライバシー権(私生活情報コントロール権)の侵害に当たることは間違いありません。スマホlineを無断で見たことを理由に不法行為として慰謝料請求が認められた裁判例を探しているのですが、現時点では見つかっていません。

○「メールデータを違法収集証拠として請求を棄却した裁判例紹介2」では、別居して離婚調停中の妻の携帯電話メールデータを取得した夫がそのデータを不貞証拠として提出しましたが、違法収集証拠として排斥された珍しい裁判例を紹介しています。

不正アクセス行為の禁止等に関する法律
第1条(目的)

 この法律は、不正アクセス行為を禁止するとともに、これについての罰則及びその再発防止のための都道府県公安委員会による援助措置等を定めることにより、電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪の防止及びアクセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序の維持を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

第2条(定義)
 この法律において「アクセス管理者」とは、電気通信回線に接続している電子計算機(以下「特定電子計算機」という。)の利用(当該電気通信回線を通じて行うものに限る。以下「特定利用」という。)につき当該特定電子計算機の動作を管理する者をいう。
2 この法律において「識別符号」とは、特定電子計算機の特定利用をすることについて当該特定利用に係るアクセス管理者の許諾を得た者(以下「利用権者」という。)及び当該アクセス管理者(以下この項において「利用権者等」という。)に、当該アクセス管理者において当該利用権者等を他の利用権者等と区別して識別することができるように付される符号であって、次のいずれかに該当するもの又は次のいずれかに該当する符号とその他の符号を組み合わせたものをいう。
一 当該アクセス管理者によってその内容をみだりに第三者に知らせてはならないものとされている符号
二 当該利用権者等の身体の全部若しくは一部の影像又は音声を用いて当該アクセス管理者が定める方法により作成される符号
三 当該利用権者等の署名を用いて当該アクセス管理者が定める方法により作成される符号
3 この法律において「アクセス制御機能」とは、特定電子計算機の特定利用を自動的に制御するために当該特定利用に係るアクセス管理者によって当該特定電子計算機又は当該特定電子計算機に電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機に付加されている機能であって、当該特定利用をしようとする者により当該機能を有する特定電子計算機に入力された符号が当該特定利用に係る識別符号(識別符号を用いて当該アクセス管理者の定める方法により作成される符号と当該識別符号の一部を組み合わせた符号を含む。次項第一号及び第二号において同じ。)であることを確認して、当該特定利用の制限の全部又は一部を解除するものをいう。
4 この法律において「不正アクセス行為」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
一 アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く。)
二 アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報(識別符号であるものを除く。)又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者の承諾を得てするものを除く。次号において同じ。)
三 電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機が有するアクセス制御機能によりその特定利用を制限されている特定電子計算機に電気通信回線を通じてその制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為

第3条(不正アクセス行為の禁止)
 何人も、不正アクセス行為をしてはならない。

第4条(他人の識別符号を不正に取得する行為の禁止)
 何人も、不正アクセス行為(第2条第4項第一号に該当するものに限る。第6条及び第12条第二号において同じ。)の用に供する目的で、アクセス制御機能に係る他人の識別符号を取得してはならない。

(中略)

第11条(罰則)
 第3条の規定に違反した者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
以上:2,682文字
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R 7- 4-13(日):映画”スリーピー・ホロウ”を観て-映像美は堪能できますが
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○令和7年4月3日(土)は、午後、最近Amazonで購入したばかりの4KUHDソフトで1999(平成11)年製作映画「スリーピー・ホロウ」を鑑賞しました。購入したのは割引率が59%と高かったことと、「4Kソフトは、美術の見事さを味わうにはHDR効果が最大限生かされており、4K環境の整っている方にはお勧めのソフトである。」との画質にこだわる私には魅力的なレビューがあったからです。

○映画コムでは、「1799年、ニューヨーク。市警の捜査官イカボッドは身の毛もよだつ事件の捜査に向かう馬車に揺られていた。行き先は郊外の村“スリーピー・ホロウ”。異様な雰囲気が漂うこの村で、人々を恐怖に陥れている“首なし”連続殺人事件が起きていたのだ。」と説明されています。映画冒頭から、連続して2件の首切り事件が発生し、生々しい切られた首が描写されますが、どういう訳か余りグロテスクさが感じられません。

○映画は冒頭古いニューヨークの街並みやスリーピー・ホロウ村の映像が出てきますが、「4Kソフトは、美術の見事さを味わうにはHDR効果が最大限生かされ」とのレビュー通りです。ダークが基調ですが、令和7年からは25年も前の映画とは思えない、目を見張る素晴らしいものでした。この映像美だけでも観る価値のある映画です。

○ストーリーは、正にファンタジーホラー映画で、首切り場面や切り落とされた首が多数出てきますが、それほどグロテスクさが感じられず、グロ嫌いな人でもさほど抵抗なく鑑賞できると思われます。出演者は、観たことのある役者が次々と登場する大変豪華な顔ぶれです。冒頭法廷場面で判事役のドラキュラ伯爵を始め、スリーピー・ホロウ村の顔役には、ハリー・ポッターシリーズのダンブルドア校長など、どこかで見たことがある役者ばかりです。しかし、顔は判ってもその出演映画が思い出せない方が多かったのが残念でした。

○残念ながらファンタジーホラーのストーリーは馴染めませんでした。ジョニー・デップ氏演ずるニューヨーク市警捜査官イカボッドは、科学捜査を信念とする捜査官の触れ込みですが、その科学がいい加減でどこが科学なのよと言いたくなりました。また捜査官としても当初の予想を覆す全く頼りない存在で、クリスティーナ・リッチ氏演ずるヒロインとのロマンスもちぐはぐで中途半端さと不自然さを感じるばかりでした。およそ感動を味わえる映画ではありませんでしたが、映像美は楽しめますので、その意味では観る価値があります。

映画「スリーピー・ホロウ」(2000) 日本版劇場公開予告編 Sleepy Hollow Japanese Theatrical Trailer


首なし馬主の物語 | スリーピー・ホロウ | 映画シーン


以上:1,126文字
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R 7- 4-12(土):NHKテレビ小説”あんぱん”母子再開のシーンにホロリと涙す
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○「NHKテレビ小説”あんぱん”母子別離のシーンにじわじわ涙す」の続きです。毎朝、ツルカメフィットネススタジオでトレーニング後、NHKテレビ小説「あんぱん」を熱心に観ています。前作「おむすび」がサッパリ面白くなくて、観たり観なかったりだった反動もありますが、子役達の演技が心に響くからです。お昼に自宅に帰って再放送まで観ています。

○「NHKテレビ小説”あんぱん”母子別離のシーンにじわじわ涙す」では、松嶋菜々子氏演ずる母登美子が用事があり直ぐ帰ると言いながら、もう帰ってこないのではとの不安を抱えて母を見送る9歳の木村優来君演ずるたかしの切ない表情にじわじわ涙を流しましたが、令和7年4月11日(金)の放映では、その母から久しぶりにハガキが届き、ハガキに書いてある母の住所の家を訪ねて、玄関から出てくる母との再会ノーシーンから始まりました。

○再開した母登美子の第一声は、「何しに来たの!」で、これはキツいと感じました。たかしもその言葉に呆然とします。さらに直後に人力車で、母の再婚相手の中年男性とその連れ子と思われる女の子が現れ、母にどうしたと聞くと、実の子を「親戚の子が訪ねてきた」と、たかしの前で弁解し、女の子は登美子に「お母様」と呼びかけます。たかしは、これで全てを悟りました。母はたかしに、早く伯父さんのところ帰れと言って、食事代としてお金を渡しますが、たかしは、受け取ったお金を猛然と投げつけ、母の前を走り去ります。

○御免与町からはるばる母を訪ねて高知市まで来たのに、思いもよらぬ厳しい仕打ちを受け、とぼとぼと海辺を帰るたかしの姿にホロリと涙が出てきました。たかしは、御免与町の町外れでたまたまあんぱん売りののぶとその母に会い、お腹が空いているだろうとあんぱんを貰って食べると少しずつ元気を取り戻します。伯父宅に帰ると、母と別離の時を思い出して描いた母の絵を、母との決別を覚悟したかのごとく、思いっ切り引き裂きます。

○以上の過程をたかし役の9歳の木村優来君は、巧くとの表現には当たらない、実に自然に表現しています。可愛さ・けなげさが自然に伝わる演技力は凄いものです。ドラマまで登場する御免与町は実在せず、実在の町は御免町のようです。御免町から高知市までは相当の距離があり、小学1年生の子供が歩いて行くには到底無理と思われます。しかし、あんぱんの面白さには、そんな野暮な突っ込みは不要です。
以上:994文字
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R 7- 4-11(金):令和6年5月17日民法等一部改正法律(令和6年法律第33号)概要紹介
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○法務省HPの「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」に、令和6年5月17日民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)についての「改正の概要PDF」が掲載されており、その内容を紹介します。民法家族法が大幅改正されていますが、それに伴って民法物権法・民事執行法・人事訴訟法・家事事件手続法も改正されており、シッカリ見直す必要があります。

○改正の背景・課題の一つとして、「現状では(離婚後の)養育費・親子交流は取決率も履行率も低調」とありますが、正に実感するところで、この概要に従って、徐々に各改正条文内容を確認して、このHPに掲載していきます。

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民法等の一部を改正する法律の概要民法等の一部を改正する法律の概要
令和6年5月法務省民事局

【検討の経過】
令和3年2月法務大臣から法制審議会へ諮問
令和6年2月法制審議会から法務大臣に答申
令和6年3月法律案閣議決定
令和6年5月成立・公布
➡公布から2年以内に施行予定

【背景・課題】
・父母の離婚が子の養育に与える深刻な影響、子の養育の在り方の多様化
・現状では養育費・親子交流は取決率も履行率も低調
・離婚後も、父母双方が適切な形で子を養育する責任を果たすことが必要

第1 親の責務等に関する規律を新設
○婚姻関係の有無にかかわらず父母が子に対して負う責務を明確化 民法817の12
(子の心身の健全な発達を図るため子の人格を尊重すること、父母が互いに人格を尊重し協力すること等)
○親権が子の利益のために行使されなければならないものであることを明確化 民法818等

第2 親権・監護等に関する規律の見直し
1 離婚後の親権者に関する規律を見直し 民法819等

○協議離婚の際は、父母の協議により父母双方又は一方を親権者と指定することができる。
○協議が調わない場合、裁判所は、子の利益の観点から、父母双方又は一方を親権者と指定する。
➡父母双方を親権者とすることで子の利益を害する場合には単独親権としなければならない。
例:子への虐待のおそれがあるケース※虐待やDVは身体的なものに限らない。
DVのおそれや協議が調わない理由その他の事情を考慮し、親権の共同行使が困難なケース
○親権者変更に当たって協議の経過を考慮することを明確化※不適正な合意がされたケースにも対応

2 婚姻中を含めた親権行使に関する規律を整備 民法824の2等
○父母双方が親権者であるときは共同行使することとしつつ、親権の単独行使が可能な場合を明確化
・子の利益のため急迫の事情があるとき(DV・虐待からの避難、緊急の場合の医療等)
・監護及び教育に関する日常の行為(子の身の回りの世話等)
○父母の意見対立を調整するための裁判手続を新設

3 監護の分掌に関する規律や、監護者の権利義務に関する規律を整備 民法766、824の3等

第3養育費の履行確保に向けた見直し
○養育費債権に優先権(先取特権)を付与(債務名義がなくても差押え可能に)民法306、308の2等
○法定養育費制度を導入(父母の協議等による取決めがない場合にも、養育費請求が可能に)民法766の3等
○執行手続の負担軽減策(ワンストップ化)や、収入情報の開示命令などの裁判手続の規律を整備
民執法167の17、人訴法34の3、家手法152の2等

第4安全・安心な親子交流の実現に向けた見直し
○審判・調停前等の親子交流の試行的実施に関する規律を整備 人訴法34の4、家手法152の3等
○婚姻中別居の場面における親子交流に関する規律を整備 民法817の13等
○父母以外の親族(祖父母等)と子との交流に関する規律を整備 民法766の2等

第5その他の見直し
○養子縁組後の親権者に関する規律の明確化、養子縁組の代諾等に関する規律を整備 民法797、818等
○財産分与の請求期間を2年から5年に伸長、考慮要素を明確化 民法768等
(婚姻中の財産取得・維持に対する寄与の割合を原則2分の1ずつに)
○夫婦間契約の取消権、裁判離婚の原因等の見直し 民法754、770
以上:1,687文字
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R 7- 4-10(木):中国人妻から日本人夫への養育費請求を中国での算定方法認めた高裁決定紹介
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○「中国人妻から日本人夫への養育費請求を日本での算定方法認めた家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和4年9月8日東京高裁決定(判時2616号○頁、判タ1526号119頁)関連を紹介します。

○中国に居住する元妻(原審申立人)が日本に住所を有する元夫(原審相手方)に対し、当事者間の子の養育費の支払を求め、原審令和4年4月28日横浜家裁小田原支部審判(判タ1526号123頁)が、準拠法である中国法において法的効力が認められている最高人民法院による司法解釈に関する意見書に基づいて養育費を算定することは相当でないとして、日本における算定方法を参考にして養育費を算定したのに対し、上記意見書に基づいて養育費を算定するのが相当であるとした上で、結論において原審判は相当であるとして抗告を棄却しました。

○高裁決定では、意見書7項が,固定収入がある場合,養育費は一般的にその月の総収入の20から30%の比率に基づいて支払う旨定めており、抗告人の総収入は,令和2年が1041万1092円,令和3年が1033万6916円であるのに対し,相手方は,平成31年1月以降稼働しておらず,収入がないことが認められ,仮に抗告人の固定収入の20から30%の比率を基準とすると,抗告人が支払うべき養育費の額は,年額200万円から300万円程度となるとして、意見書に基づいても同じ結論としました。

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主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人の負担とする。

理   由
第1 本件抗告の趣旨及び理由

 本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「抗告」と題する書面,同主張書面1及び同主張書面2に記載のとおりであり,これに対する相手方の意見は,別紙答弁書に記載のとおりである。

第2 事案の概要(略称は,新たに定義しない限り,原審判のものを用いる。)
1 本件は,平成20年に抗告人と婚姻し,抗告人との間で,平成23年*月に長男である未成年者を,平成26年*月に長女をもうけたものの,平成29年11月30日にされた離婚判決(以下「本件離婚判決」という。)により抗告人と離婚し,未成年者を扶養するものと定められた相手方が,抗告人に対し,未成年者の養育費の支払を求めた事案である。

2 原審は,抗告人が支払うべき未成年者の養育費を月額10万円とし,抗告人に対し,令和2年8月から令和4年3月までの未払養育費の合計である200万円を直ちに,同年4月から未成年者が満18歳に達する日の属する月まで月額10万円を毎月末日限り,それぞれ相手方に支払うよう命じる旨の審判(原審判)をした。これに対し,抗告人は,原審判を不服として即時抗告した。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,抗告人に対し,令和2年8月から令和4年3月までの未払養育費200万円を直ちに,令和4年4月から未成年者が満18歳に達する日の属する月まで月額10万円を毎月末日限り,それぞれ相手方に支払うよう命じるのが相当であると判断する。その理由は,原審判を後記2のとおり補正し,当審における抗告人の主張に対する判断を後記3のとおり付加するほかは,原審判「理由」第2の1ないし5(原審判1頁21行目冒頭から同6頁22行目末尾まで)に記載のとおりであるので,これを引用する。

2 原審判の補正
(1)原審判2頁25行目冒頭から同3頁1行目末尾までを以下のとおり改める。

     (中略)

(6)原審判3頁16行目末尾に行を改めて以下のとおり加える。
 「(2)中華人民共和国民法典(2021年1月1日施行)には,以下の規定がある。
ア 1084条
 父母と子の間の関係は,父母の離婚によって解消しない。離婚後,子が父又は母のいずれが直接に撫養しているかを問わず,依然として父母双方の子である。
 離婚後,父母は子に対し依然として撫養・教育・保護の権利を有し,義務を負う。(以下略)
イ 1085条
 離婚後,一方が子を直接撫養するとき,他方は一部又は全部の撫養費を負担しなければならない。負担する費用の額及びその期間の長さは,双方の協議による。協議が調わないときは,人民法院が判決する。
 前項の規定する協議書又は判決は,子が必要な場合に,協議書又は判決で決定された額を超える合理的な請求を父母のいずれかに提起することを妨げない。」

     (中略)

(11)原審判4頁18行目の「中国婚姻法」から同20行目の「解される。」までを以下のとおり改める。
 「そのような場合であっても,中華人民共和国民法典1085条は,「子が必要な場合」には,判決で決定された額を超える合理的な請求を父母のいずれかに提起することを妨げない旨規定している。」

(12)原審判4頁21行目の「約1041万円」の後に「ないし約1033万円」を加える。

(13)原審判4頁24行目冒頭から同6頁3行目末尾までを以下のとおり改める。
 「(2)この場合,抗告人が支払うべき養育費の額については,法的効力を有する意見書7項をもとに,適切な金額を定めるのが相当である。
 そして,意見書7項が,固定収入がある場合,養育費は一般的にその月の総収入の20から30%の比率に基づいて支払う旨定めていることは,前記認定事実のとおりである。さらに,前記認定事実によれば,抗告人の総収入は,令和2年が1041万1092円,令和3年が1033万6916円であるのに対し,相手方は,平成31年1月以降稼働しておらず,収入がないことが認められ,仮に抗告人の固定収入の20から30%の比率を基準とすると,抗告人が支払うべき養育費の額は,年額200万円から300万円程度となる。


 しかしながら,他方,意見書7項は,〔1〕子女の養育費の金額は,子女の実際の需要,父母双方の負担能力及び現地の実際の生活水準に基づいて決定することができる,〔2〕特殊な状況の場合,上記の比率を適切に引上げ又は引き下げることができる旨定めていることも,前記認定事実のとおりであり,収入以外の考慮要素として,子女の実際の需要,父母双方の負担能力,現地の実際の生活水準等を挙げているところである。そして,一件記録によれば,〔1〕抗告人はDに,相手方はEに居住しているところ,我が国とEとでは生活に要する費用に少なからず差異があり,Eにおける方が相当程度少額であること,〔2〕抗告人と相手方との間には,未成年者のほかに長女がいるところ,長女の養育費は全て抗告人が負担していること,〔3〕抗告人は,相手方と離婚後,再婚して男児Aをもうけ,長女のほか,無職である再婚相手及び男児Aについても扶養していることがそれぞれ認められる。

 以上の事実によれば,本件において,相手方が未成年者のほかに男児Bを養育していること(ただし,男児Bについては,その実父も養育費の一部又は全部を負担する義務を負う。)を勘案しても,抗告人が未成年者について負担すべき養育費については,総収入の20から30%よりも引き下げるべき事情があるというべきであり,さらに,特殊な状況の場合に養育費の比率の引上げ又は引下げを許容する意見書7項の趣旨に照らし,上記で認定した各減額事由に加え,本件記録上認められる諸般の事情を総合的に考慮すると,抗告人が負担すべき養育費は月額10万円と決定するのが相当である。」

(14)原審判6頁4行目の「(4)」を「(3)」に改め,同8行目の「や前記改定標準算定方式」を削除し,同12行目の「(5)」を「(4)」に改める。

3 当審における抗告人の主張に対する判断
(1)抗告人は,〔1〕相手方が無職であることを認めるに足りる資料がないこと,〔2〕相手方は,平成29年の時点で200万人民元(約3600万円)を持っており,少なくともこれに対する年5%の割合による利息収入を得ていたはずであること,〔3〕相手方は,令和元年6月に不動産譲渡所得税として8万5411.78人民元を納税しているところ,不動産売却時の所得税率が約1%であることからすると,不動産売却収入として854万1100人民元(約1億5000万円)を得ているはずであり,少なくともこれに対する年5%の割合による利息収入を得ているはずであること,〔4〕相手方には潜在的稼働能力があること、〔5〕相手方は令和2年8月まで抗告人に対して養育費の請求をしなかったことからすると,本件離婚判決以降,相手方の収入状況が大きく悪化したとは認められず,中華人民共和国婚姻法37条又は中華人民共和国民法典1085条所定の「子が必要な場合」等に該当しない旨主張する。

 しかしながら,上記〔1〕について,資料(相手方の個人所得税納税記録及び就業失業登記証)及び手続の全趣旨によれば,相手方は平成31年1月以降,就労していないことが認められ,一件記録を精査しても,相手方が就労していることを認めるに足りる資料はない。 

 また,上記〔2〕について,資料(原審で提出された甲1の1・2)によれば,相手方が○○の不動産を売却し,代金として200万人民元を得た(代金額が200万人民元であることについては,当事者間に合意がある。)のは平成28年8月であることが認められるが,相手方がその後もこれを費消せず,金融機関に預金して利息収入を得ていたことを認めるに足りる資料はない。

 さらに,上記〔3〕について,資料(相手方の個人所得税納税記録)によれば,相手方は,令和元年6月に不動産譲渡所得税として8万5411.78人民元を納付したことが認められるものの,これについて,相手方は,本件離婚判決により相手方に対して187万9030人民元の債権を取得した抗告人が,相手方所有の不動産について強制執行の申立てをし,当該不動産を抗告人名義に変更することにより上記債務の弁済に充てたことによって生じた納税義務であり,相手方は不動産の売却収入を得ていない旨主張しているところであり(その主張が虚偽であることを窺わせる資料はない。),一件記録を精査しても,相手方が不動産を売却して854万1100人民元を得たことや,これを金融機関に預金して利息収入を得ていることを認めるに足りる資料はない。

 加えて,上記〔4〕について,前記認定事実によれば,相手方は,現在10歳の未成年者及び2歳の男児Bを監護養育していることが認められ,当面は育児のため就労が制限されており,潜在的稼働能力があるとまでは認められない。
 上記〔5〕については,相手方が令和2年8月まで抗告人に対して養育費の請求をしなかったからといって,未成年者の養育費の額を変更することにつき「子が必要な場合」に当たらないということはできない。
 以上によれば,抗告人の上記主張は,いずれも採用することができない。

(2)抗告人は,E民の平均消費支出は年間3万3188人民元(約68万円。月額5万6000円)であるので,特段の事情がない限り,未成年者の養育費は月額5万6000円程度で十分であり,これを超える請求は,中華人民共和国婚姻法37条又は中華人民共和国民法典1085条所定の「合理的な請求」に当たらない旨主張する。

 しかしながら,意見書7項は,子女の養育費の金額は,子女の実際の需要,父母双方の負担能力及び現地の実際の生活水準に基づいて決定することができ,固定収入がある場合,養育費は一般的にその月の総収入の20から30%の比率に基づいて支払う等と規定しているのであり,必ずしもE民の平均消費支出額のみが「合理的な請求」の基準になるわけではない。そして,本件において認められる諸般の事情を総合的に考慮すると,抗告人が負担すべき未成年者の養育費を月額10万円とするのが相当であることは,補正の上引用する原審判「理由」第2の4(2)において認定説示したとおりである。
 したがって,抗告人の上記主張も採用することができない。

4 以上によれば,抗告人が負担すべき未成年者の養育費は,月額10万円とすることが相当であり,抗告人に対し,令和2年8月から令和4年3月までの養育費である200万円を直ちに,令和4年4月から未成年者が満18歳に達する日の属する月まで月額10万円を毎月末日限り,それぞれ相手方に支払うよう命じるのが相当であるところ,これと同旨の原審判は結論において相当であるので,本件抗告を棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 神野泰一 裁判官 土屋毅)

以上:5,102文字
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R 7- 4- 9(水):中国人妻から日本人夫への養育費請求を日本での算定方法認めた家裁審判紹介
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○申立人(元妻)と相手方(元夫)は、2008年(平成20年)9月8日に中華人民共和国駐日本国大使館において婚姻の登記をし、日本で生活をしていましたが、次第に関係が悪化し、申立人は、2015年(平成27年)10月、当事者間の2人の子を連れて中国へ帰国し、相手方と別居して、その後中国において離婚判決がなされました。

○その判決において、長男である未成年者は申立人が扶養し、長女は相手方が扶養するものと定められ、養育費は、各扶養者が自ら負担すると定められたため、相手方は、長女を引き取ったところ、申立人が、相手方に対し、未成年者の養育費の支払を求める調停を申し立て、同調停は不成立となり、本件審判手続に移行し、相手方が、申立人に対し、未成年者の養育費として相当額を支払うことを求めました。

○この事案で、当該判決において、養育費は、各扶養者が自ら負担するものと判断されたから、未成年者については、申立人が負担することとなるが、中国婚姻法37条に基づくと、「子女が必要な時」であれば、申立人は、相手方に対し、必要な生活費及び教育費の負担を求めることは可能であると解され、申立人妻は現在も職に就いていない状態である一方、相手方夫は約1041万円の給与収入を得ていることからすれば、本件において、申立人は、相手方に対し、準拠法である中国法において法的効力が認められている最高人民法院による司法解釈に関する意見書に基づいて養育費を算定することは相当でなく、日本における算定方法を参考として、未成年者の養育費の請求をすることができるというべきであるとて養育費の相当額を算定し、令和2年8月から令和4年3月までの養育費の合計額は、200万円(10万円×20か月)となり、相手方は、申立人に対し、同額を直ちに支払うべきであり、また、相手方は、申立人に対し、未成年者の養育費として、令和4年4月から、未成年者が満18歳に達する日の属する月まで、月額10万円を支払うべきであるとして支払を命じた令和4年4月28日横浜家裁小田原支部審判(判タ1526号123頁)全文を紹介します。

○日本人夫が抗告しており、その結果は別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 相手方は,申立人に対し,200万円を支払え。
2 相手方は,申立人に対し,令和4年4月から,未成年者が満18歳に達する日の属する月まで,毎月末日限り,月額10万円を支払え。
3 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

 相手方は,申立人に対し,未成年者の養育費として相当額を支払え。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1)申立人(1984年*月生)と相手方(1978年*月生)は,2008年(平成20年)9月8日に中華人民共和国駐日本国大使館において婚姻の登記をし,日本で生活をしていたが,次第に関係が悪化し,申立人は,2015年(平成27年)10月,当事者間の2人の子(本件事件の未成年者である長男(2011年*月*日生)及び長女(2014年*月*日生))を連れて中国へ帰国し,相手方と別居した。

(2)申立人と相手方に対しては,2017年(平成29年)11月30日,中国において,離婚判決がなされた。判決において,長男である未成年者は申立人が扶養し、長女は相手方が扶養するものと定められ,養育費は,各扶養者が自ら負担すると定められた。相手方は,令和元年5月,長女を引き取った。(住民票上は令和元年9月24日転入)

(3)申立人は,令和2年8月27日,相手方に対し,未成年者の養育費の支払を求める調停を申し立てたが(横浜家庭裁判所小田原支部令和*年(家イ)第*号),同調停は,令和3年10月22日,不成立となり,本件審判手続に移行した。

(4)申立人は,就業していたが失業し,平成31年1月から令和2年12月まで,稼働収入は0円であり(添付資料2,3),現在も職に就いていない。 

(5)相手方の収入は,令和2年において約1041万円である(令和3年12月6日発行の課税証明書)。

2 国際裁判管轄及び準拠法
(1)国際裁判管轄
 本件は,中国に居住する申立人(元妻)が,日本に住所を有する相手方(元夫)に対し,妻が扶養する旨定められた当事者間の長男である未成年者の養育費の支払を求める事案である。国際裁判管轄については,家事事件手続法3条の10が適用され,同条によれば,同条に規定する扶養義務者であって申立人でないものの住所が日本国内にあるときに該当するから,日本の裁判所が管轄権を有することになる。

(2)準拠法
 扶養義務の準拠法に関する法律2条1項によれば,扶養権利者の常居所地法によるところ,申立人の常居所は中国であるから,中国法が準拠法となる。

3 中国法における規定等
(1)中華人民共和国婚姻法(1981年1月1日施行,以下「中国婚姻法」という。)には,以下の規定がある。
36条 父母と子女との間の関係は,父母の離婚によって消滅しない。離婚後,子女が父又は母のいずれに直接扶養されるかにかかわらず,依然として父母双方の子女である。
 離婚後も,父母は子女に対し依然として扶養及び教育の権利義務を有する。
(以下略)
37条 離婚後,一方が扶養する子女について,他の一方は必要な生活費及び教育費の全部又は一部を負担するものとし,負担する費用の金額及び期間の長短については,双方で協議し,協議が成立しない場合は,人民法院が判決する。
 子女の生活費及び教育費に関する協議又は判決は,子女が必要な時に父母のいずれかに対し協議又は判決が当初定める金額を超える合理的な要求をすることを妨げない。

(2)中国には,司法解釈作業に関する規定が制定されており(法発(2007)12号・最高人民法院2006年12月11日制定),同規定の第5条には,「最高人民法院が公布する司法解釈は,法的効力を有する。」と定められている。そして,養育費については,1993年(平成5年)11月3日付で最高人民法院による「人民法院の離婚事件審理における子女扶養問題の処理に関する若干の具体的意見」という書面(法発(1993)30号・以下「意見書」という。)が公布されている。同意見書によれば,次のとおり記載されている。

7 子女の養育費の金額は,子女の実際の需要,父母双方の負担能力及び現地の実際の生活水準に基づいて決定することができる。固定収入がある場合,養育費は一般的にその月の総収入の20から30%の比率に基づいて支払う。(略)但し,一般的に月の総収入の50%を超えてはならない。
 固定収入がない場合,養育費の金額は,当年の総収入または同業の平均収入に基づいて上記の比率を参考に決定する。
8 養育費は定期的に支払わなければならないが,条件がある場合は,一括で支払うことができる。

11 養育費の支払期間は,一般的に子女が18歳までとする
12 未だ独立して生活していない成年に達した子女が,以下の各号のいずれかの事由に該当し,また,父母が支払能力を有する場合,依然として必要な養育費を負担しなければならない。
(1)労働能力を喪失した,または労働能力を完全には喪失していないが,その収入が生活を維持するに不足する場合。
(2)未だ就学中である場合。
(3)独立して生活する能力及び条件を確実に備えていない場合。

4 判断
(1)前記1において認定した事実によれば,判決において,養育費は,各扶養者が自ら負担するものと判断されたから,未成年者については,申立人が負担することとなるが,中国婚姻法37条に基づくと,「子女が必要な時」であれば,申立人は,相手方に対し,必要な生活費及び教育費の負担を求めることは可能であると解される。そして,前記1に認定したところによれば,申立人が現在も職に就いていない状態である一方,相手方が約1041万円の給与収入を得ていることからすれば,本件において,申立人は,相手方に対し,未成年者の養育費の請求をすることができるというべきである。

(2)そうすると,相手方が支払うべき養育費の額が問題となるところ,意見書7項が参考になる。しかし,意見書7項については,「その月の総収入」とは父母双方の収入を指すものであるのか,また,同項の「子女の実際の需要」や「現地の実際の生活水準」は不明であって,意見書7項に基づいて養育費を算定するのは相当ではない。

 そうすると,条理に従い,日本における養育費の算定方法を参考にすることが相当である。日本では,未成年者の養育費額を算定するに当たっては,義務者及び権利者の各基礎収入の額(総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して推計した額)を定め,その上で,義務者が未成年者と同居していると仮定すれば,未成年者のために充てられたはずの生活費の額を,生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって算出し,これを,権利者と義務者の基礎収入の割合で按分して,義務者が分担すべき養育費額を算定するとの方式(以下「改定標準算定方式」という。司法研究報告書第70輯第2号)に基づくのが相当であるから,本件においても,同様の方式に基づくこととする。

(3)義務者である相手方の収入は,1041万円とするのが相当である。権利者である申立人の収入は,現状,0円であるが,過去において稼働していたことからすれば,稼働能力を有しているものと認めることが相当であり,このことは,意見書7項の規定(固定収入がない場合)にも合致する。

そして,上記のとおり,改定標準算定方式に従い,日本に居住する相手方の収入を義務者の収入とする以上,権利者である申立人の収入についても,日本における収入額を参考するのが相当であるところ,申立人と同年齢(35歳から39歳)で企業規模計・学歴計の女性の平均賃金程度の収入を得る稼働能力があるものと認めるのが相当であり,その収入額は,約397万円(令和2年度)とするのが相当である。
(計算)きまって支給する現金給与額27万3800円,年間賞与その他特別給与額68万8300円
27万3800円×12月+68万8300円=397万3900円

 これらの申立人と相手方の収入をもとにし,上記方式に基づく改定標準算定表(表1)養育費・子1人表(子0~14歳)にあてはめると,相手方が負担すべき養育費の額は,月額10万円とするのが相当である。

(4)相手方は,申立人につき,資産を保有している旨を主張しているところ,仮に,申立人に資産があるとしても,養育費は,生活費であって,生活費は,双方が得る収入から支出されるものであるから,原則として,当事者の有する資産の額等は,養育費の算定に当たって考慮されるものではなく,このような考え方は,意見書7項や前記改定標準算定方式にも表れているところである。そして,本件において,特に,申立人が資産を有することを考慮しなければならない事情は,一件記録上,うかがわれない。相手方の主張は採用できない。

(5)本件審判において形成すべき養育費の始期については,申立人が本件審判手続に先行する調停が申し立てられた令和2年8月とし,終期は,意見書11項に基づき,未成年者が満18歳に達する日の属する月とするのが相当である。申立人は,未成年者が大学を卒業するまでの養育費の支払を求めているが,意見書12項に照らし,現時点で定めることは相当ではない。

5 まとめ
 以上によれば,令和2年8月から令和4年3月までの養育費の合計額は,200万円(10万円×20か月)となり,相手方は,申立人に対し,同額を直ちに支払うべきである。また,相手方は,申立人に対し,未成年者の養育費として,令和4年4月から,未成年者が満18歳に達する日の属する月まで,月額10万円を支払うべきである。
 よって,主文のとおり,審判する。
以上:4,944文字
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R 7- 4- 8(火):婚姻破綻を理由に不貞慰謝料請求を棄却した地裁判決紹介
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○原告夫が、被告に対し、遅くても令和3年6月までに、原告の妻である補助参加人を被告賃借マンションに住まわせ、被告自身も宿泊して被告と継続的に不貞行為して精神的苦痛を与えたとして、不法行為に基づき、慰謝料500万円等及び遅延損害金の支払を求めました。

○被告は、被告補助参加人(原告妻)と、被告が参加人の住居として賃借した本件マンションに宿泊した事実は認めても不貞行為はなく、また原告と補助参加人は平成30年11月から別居状態で、被告が補助参加人と知り合った令和2年3月時点で婚姻破綻が明らかであったと主張しました。

○これに対し、原告の妻である補助参加人を被告賃借マンションに住まわせ、被告自身も宿泊する行為は、原告と参加人の婚姻共同生活の平和を侵害し得るものとして、不貞行為に当たるとしながら、原告と参加人は、令和3年6月の宿泊までに、別居状態となってから2年以上が経過し、その間、原告と補助参加人との間には婚姻費用分担請求・夫婦関係調整申立事件等が係属し、子の監護をめぐって引き続き係争状態にあったから、婚姻関係が破綻していたなどとして、請求を棄却した令和5年12月8日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。

○不貞行為慰謝料請求について婚姻破綻を理由に請求棄却を求める例は多数ありますが、婚姻破綻が認められる要件は大変厳しくなかなか認められませんが、本件は不貞行為時点から2年以上前に別居状態となっており婚姻破綻は明らかな事案でした。不貞配偶者が補助参加人として裁判に参加するのも珍しい事案です。

********************************************

主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、550万円及びこれに対する令和3年6月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、原告の妻と被告との不貞行為により精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき、慰謝料等550万円及びこれに対する不法行為の日である令和3年6月7日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(証拠等を記載しない事実は当事者間に争いがない。)
(1)原告(昭和52年生)は、平成25年12月、被告補助参加人(昭和55年生。以下「参加人」という。)と婚姻し、長男D(平成27年○月生。以下「長男」という。)をもうけた。(甲1)
 参加人は、平成30年11月2日、長男を連れて自宅を出て行き、原告と別居した。
(2)被告(昭和50年生)は、東京都内にある会社の代表取締役を務める男性であり、配偶者及び子がいる。(甲2)
(3)被告は、令和3年6月7日、被告が参加人の住居として賃借したマンション(以下「本件マンション」という。)に、参加人と宿泊した。

3 争点
(1)被告と参加人の不貞行為の有無
(2)(1)の当時、原告と参加人の婚姻関係が破綻していたか
(3)原告の損害額

4 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(不貞行為の有無)について
(原告の主張)
 被告は、遅くとも令和3年6月7日までに、被告が賃借した本件マンションに参加人と長男を住まわせ、被告自身も本件マンションに宿泊するなどして、参加人との間で継続的な不貞関係にあった(以下「本件不貞関係」という。)。

(被告の主張)
 被告は、社会貢献活動の一環として、シングルマザーや子どもに対する支援を行っており、令和2年3月頃、参加人から連絡を受けて、日用品等の支援を行うようになった。被告は、その後、参加人が当時居住していたアパートからの転居を余儀なくされ苦慮していたことから、本件マンションを賃借して参加人を居住させ、家賃については参加人から月額6万円の支払を受け、被告が差額を負担する形で、参加人を援助している。被告は、参加人の引越しを手伝った際に、時間が遅くなり、結果的に本件マンションに宿泊したことはあったが、不貞行為などない。

(参加人の主張)
 参加人は、令和2年3月頃、シングルマザーや子どもに対する支援を行っていた被告と知り合い、以降、被告から、日用品等の支援を受けたり、本件マンションを賃借して家賃の一部を援助してもらったり、長男の遊び相手や習い事の送迎等の手助けをしてもらったりしているが、不貞関係にはない。

(2)争点(2)(婚姻関係破綻の有無)について
(被告の主張)
 原告と参加人は、平成30年11月から別居状態にあり、被告が参加人の引越しを手伝っていた令和3年6月の時点では別居から2年半以上が経過し、その間、原告と参加人との間では弁護士が関与して離婚に向けた協議、調停等も行われていた。原告と参加人との婚姻関係は、被告が参加人と知り合った令和2年3月頃の時点で破綻していたことが明らかである。

(被告補助参加人の主張)
 参加人が長男と共に自宅を出たのは、原告の参加人に対する精神的・経済的DVに加え、長男に対する暴言や暴力により、長男が原告を嫌悪するようになったためである。原告と参加人の婚姻関係は、平成30年11月2日の別居の時点で、既に破綻していた。

(原告の主張)
 原告と参加人の間に、参加人が主張するような問題は存在せず、別居直前まで、婚姻関係に問題はなかった。原告は、別居については参加人の精神疾患が多分に影響しているものと考え、別居後も、参加人に対し、粘り強く翻意を求め、翻意を期待していたのであり,婚姻関係が破綻していたなどとは到底いえない。

(3)争点(3)(損害額)について
(原告の主張)
 原告は、本件不貞関係及び当該関係に長男も巻き込まれていることを知り、極めて大きな衝撃を受けた。被告は、「シングルマザーと子どもに対する支援を行う企業経営者」との触れ込みで既婚女性に接近し、住居を与えた上で不貞行為に及んでおり、被告の行為は計画的かつ悪質である。原告が本件不貞関係によって被った損害は、本件訴訟提起のために必要な弁護士費用10%を含め、550万円を下らない。 

(被告の主張)
 争う。

第3 争点に対する判断
1 認定事実

 前提事実に加え、後掲各証拠(証拠について枝番を全て挙げる場合には枝番の記載を省略する。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)原告と参加人の関係
ア 原告は、平成30年11月2日に参加人が別居した後、同年中に、夫婦関係調整(円満調整)調停を申し立てた。(甲5)
 参加人は、平成31年3月、夫婦関係調整(離婚)調停及び婚姻費用分担調停を申し立てた。(丙3、5)
 原告は、令和元年6月、長男について、子の監護者指定及び引渡し審判を申し立てた。(甲9)
 (以下、原告と参加人間に係属したこれらの事件を併せて「本件各事件」という。)

イ 婚姻費用分担調停は、令和2年10月27日、不成立となり審判に移行し、夫婦関係調整(離婚)調停及び同(円満調整)調停もそれぞれ不成立となった。婚姻費用分担事件については、令和3年1月20日に審判がされ、同年5月31日に原告の抗告が棄却されて確定した。(丙4から6)
 子の監護者指定・引渡し審判については、調停に付されたものの、令和3年9月28日に調停不成立となり、令和4年8月31日、長男の監護者を参加人と定める旨の審判がされた。(甲9)

(2)被告と参加人の関係
ア 被告は、令和2年3月頃、参加人と知合い、参加人に対し、日用品や食料品を贈るなどの支援をしていた。(丙2、被告本人)
イ 参加人は、当時居住していたアパートの取壊しに伴い転居しなければならなくなり、被告は、同年10月、参加人の転居先として、被告名義で本件マンションを賃借した。(丙2、被告本人)
ウ 参加人は、同年11月、上記アパートを退去して一旦実家へ戻り、令和3年7月24日までに、本件マンションへ荷物を運び込み、長男と共に本件マンションに入居した。(丙2)
エ 被告は、参加人が忙しい時期に長男を遊びに連れて行くなど、長男とも関わりがあり、参加人と長男が本件マンションに入居してからも、複数回にわたり本件マンションに宿泊した。(丙2、被告本人)

(3)本件訴訟に至る経緯等
ア 原告は、令和3年3月、知人を通じて、被告が参加人と共に長男の卒園式に参列していたことを知り、その後、同知人に調査を依頼して、被告が同年6月7日に本件マンションに宿泊したことを知った。(甲3、原告本人)
イ 原告は、令和4年1月17日、本件訴えを提起した。
ウ 被告は、同年4月26日、本件マンションにおいて、参加人に対する訴訟告知書を「同居者」として受領した。

2 争点(1)(不貞行為の有無)について
(1)被告は、令和3年6月7日、参加人と本件マンションに宿泊したことが認められ、かかる行為は、原告と参加人の婚姻共同生活の平和を侵害し得るものとして、不貞行為に当たり得るものであると認められる。

(2)これに対し、被告本人は、社会貢献活動の一環として参加人を支援していたに過ぎず、不貞行為はない旨を供述するが、被告が参加人以外の女性に対してもかかる支援を行っていることを示す的確な証拠はなく、被告が本件マンションに継続的に滞在していることが窺われること(認定事実(2)エ、(3)ウ)に照らしても、被告本人の上記供述は採用できない。

(3)なお、原告は、参加人と被告が令和3年6月以前から不貞関係にあった旨を主張するが、上記時期以前に不貞行為があったことを認めるに足りる証拠はない。

3 争点(2)(婚姻関係破綻の有無)について
(1)前提事実(1)及び認定事実(1)によれば、原告と参加人は、令和3年6月までに、別居状態となってから2年以上が経過し、しかも、その間、同人らの間には本件各事件が係属し、令和3年6月の時点でも、子の監護をめぐって引き続き係争状態にあったものと認められる。
 かかる状況に照らせば、原告と参加人との婚姻関係は、被告が本件マンションに宿泊したことが認められる令和3年6月以前に、破綻していたと認めるのが相当である。

(2)なお、原告は、別居直後において、夫婦関係調整(円満調整)調停を申し立て、参加人と連絡を取るなどして(甲11)、婚姻継続の意思を有していたことが窺えるものの、参加人は自ら別居して平成31年1月以降は原告との連絡にも応じず(甲11)、夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てて婚姻解消に向けて行動していたこと、その後原告から監護者指定・引渡し審判を申し立てるに至り、令和2年10月までに円満調整を含めて調停不成立となっていたことからすれば、仮に原告が参加人と被告との関係が発覚するまでは婚姻継続の意思を持ち続けていたとしても、そのことをもって婚姻関係が修復可能であったとは認め難い。
 その他、原告は、婚姻関係が破綻していなかったことを示す事情として、参加人の精神疾患の影響を主張するが、上記判断を左右するものとは解されない。

4 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

第4 結論
 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第37部 裁判官 中井彩子
以上:4,601文字
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R 7- 4- 7(月):映画”戦場にかける橋”を観て-見応えある名画です
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○令和7年4月6日(日)は午後、最近購入したばかりの4KUHDソフトで映画「戦場にかける橋」を鑑賞しました。1957(昭和32)年製作で同年アカデミー賞の作品賞・監督賞等7部門で受賞した超有名な映画です。映画コムでは「ピエール・ブールの同名小説を名プロデューサー、サム・スピーゲルと巨匠デビッド・リーンのコンビで映画化した戦争大作。第2次世界大戦下の1943年、ビルマとタイの国境付近にある捕虜収容所を舞台に、捕虜となったイギリス人兵士と、彼らを利用して橋を造りたい日本軍人たちの対立と心の交流を描く。」と解説されています。

○TV等で何度も放映されているはずで、私も一度は鑑賞したことがあるかと思っていましたが、実際鑑賞してみると、全く記憶ある場面がなく、初めての鑑賞でした。令和7年からは70年近く前の映画で、4KUHD化により映像がどれだけ精細化されているか期待しましたが、残念ながら映像は、粗さが目立つものでした。しかし、映画の内容は、ストーリーの運びと言い、最後の結論と言い、見応えのある素晴らしい映画でした。

○洋画字幕映画ですので、出演日本人軍人も基本的に英語で話し日本語字幕が付きましたが、日本人軍人同士の話しは日本語で、日本語には日本語字幕が付かないため難聴の私には、ヘッドホンで使用しても聞き取れず歯がゆい思いをしました。設定には日本語の日本語字幕をつけるものはありません。この映画では日本語会話の場面が少なく鑑賞に差し支えはなかったのですが、映画「戦場のメリークリスマス」はBDソフトで鑑賞しようとしたら、日本人同士の日本語会話場面が多く、やはり日本語会話には日本語字幕を設定できず、鑑賞を諦めていました。

○この映画は、太平洋戦争中にタイとミャンマーを結んでいた旧日本陸軍によって建設・運行された泰緬鉄道(たいめんてつどう)の話しで、実話を元にしていると思っていました。しかしネット検索すると、結末は異なり、大量の死者を出した過酷な建設労働から、英語圏ではむしろ「死の鉄道(Death Railway)」の名で知られ、現在は観光名所となっているとのことです。映画では苛酷な建設労働場面はありますが、前半はメインテーマは日本人将校と英国人将校の心情の遣り取りで、後半は、折角、英国人捕虜の努力によって完成された橋が消滅するまでの過程を描き、最後は戦争のむなしさを訴えるものでした。

○後半、完成された橋の爆破を目指すまでの展開は、ハラハラドキドキの連続で緊迫感は凄まじく、正に手に汗握り固唾をのんでの鑑賞で、ラストの衝撃は凄まじいもので、戦争のむなしさを痛感させられました。クワイ河マーチがこの映画の主題曲だったのは初めて知りました。

戦場にかける橋 (字幕) - 予告編


クワイ河マーチ (ミッチ・ミラー楽団)


以上:1,156文字
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R 7- 4- 6(日):映画”イコライザー THE FINAL”を再鑑賞して-Prime Video初利用
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恐れ入りますが、本ページは、会員限定です。

以上:21文字
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R 7- 4- 5(土):他宗派戒名授与を理由とする墓地使用権取消処分を無効とした地裁判決紹介
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○Aは真言宗の宗教法人Y寺の檀徒で、Y寺の墓地1区画に墓石3基を建立していましたが、Aの子であるXは、その夫のBが死亡したので、Y寺の住職からBの戒名を授かりましたが、その住職の言動に不信感を生じたことから、知り合いの天台宗の寺からら戒名を授かり、Bの戒名として使用しました。

○Y寺は、Xが他宗派から戒名を授与されたこと等を理由に、Y寺の定めた墓地使用規則上の墓地使用許可取消事由に当たるとして、Aの墓地使用許可を取り消し、その取消し書面を貼付した杭看板をAの使用墓地に設置しました。
Y寺の墓地使用規則は、以下の通りです。
第8条 墓地を使用している檀徒が信仰をかえて Y寺の檀徒でなくなった場合は、その後新たに焼骨の埋蔵をすることができない。
第11条 管理者は、次の場合には墓地使用の許可を取消するものとする。
(中略)
第3号 信仰を異にして真言宗の教義にそむき、管理者及びY寺信徒の宗教感情を著しく害すると認めるとき。


○これに対し、Aは、①墓地の永代使用権を有することの確認、②Bの焼骨の墓地埋蔵に対する妨害禁止、③Y寺に対する損害賠償として弁護士費用10万円を請求し、Aは訴訟中に死亡し、Xがその地位を相続承継し、Xの請求を全て認めた令和5年6月12日東京地裁判決(判時2615合併号120頁)関連部分を紹介します。

○差戻し前第一審東京地裁は、本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないとして、訴えを却下し、控訴審東京高裁が「法律上の争訟」に当たるとして一審判決を取り消し差し戻しとして、差し戻し後の判決です。戒名だけを他宗派から授かっただけでは信仰を変えたことにならず、宗教感情を著しく害することにも当たらないとしたもので妥当な判決と思います。

********************************************

主   文
1 原告が別紙物件目録記載の土地について墓地の永代使用権を有することを確認する。
2 被告は、亡B(令和元年10月14日死亡)の焼骨を原告が別紙物件目録記載の土地に埋蔵することを妨害してはならない。
3 被告は、原告に対し、10万円を支払え。
4 訴訟の総費用は、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文1項から3項までと同旨。

第2 事案の概要
 本件は、被告が所有する別紙物件目録記載の土地(以下「本件墓地区画」という。)の永代使用権を取得したと主張するA(以下「A」という。)が、被告に対し、被告による墓地使用許可の取消しが無効であるとして、〔1〕本件墓地区画の永代使用権を有することの確認を求めるとともに、〔2〕上記永代使用権に基づく妨害予防請求として、Aの子である原告の死亡した夫であるB(以下「亡B」という。)の焼骨を本件墓地区画に埋蔵することの妨害の禁止を求め、さらに、〔3〕被告の一連の行為が不法行為に該当するとして、弁護士費用10万円の損害賠償を求めた事案である。

 差戻し前の第1審(東京地方裁判所令和2年(ワ)第23390号)は、本件訴えは、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないとして、訴えを却下するとの判決をした。Aは、同判決を不服として控訴したところ、差戻し前の控訴審(東京高等裁判所令和4年(ネ)第1363号)は、本件訴えは、その判断に当たり宗教上の教義、信仰の内容に立ち入らざるを得ないものではないから「法律上の争訟」に当たるとして、差戻し前の第1審判決を取り消して、本件訴訟を東京地方裁判所に差し戻すとの判決をした。Aは令和5年1月5日に死亡し、Aの子である原告がその訴訟上の地位を承継した。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 被告等
(ア)被告は、主たる事務所を栃木県足利市α×××番地に置く、真言宗豊山派に属する宗教法人である。C(以下「C」という。)は被告の代表役員であり、被告の住職である。Cは、住職の職務と並行して、タクシー会社の乗務員としても稼働している。(争いがない)

(イ)被告の「宗教法人『医王寺』規則」(以下「本件法人規則」という。)9条では,代表役員は、この法人を代表し、その事務を総理すること(1項)、及びこの法人の事務は、この規則に別段の定めがある場合を除く外、責任役員の定数の過半数で決し、その責任役員の議決権は、各々平等とすること(2項)がそれぞれ定められている(甲11)。

イ 原告等
(ア)Aは、昭和49年9月24日、同人の出生地である栃木県足利市に所在する被告運営の墓地内の広さ約39.5平方メートル(約11坪)の一区画(本件墓地区画)の使用の承諾を受け、被告の墓籍簿に登録された(以下、これによりAが取得した本件墓地区画の使用許可を「本件墓地使用許可」という。)。 

 Aは、本件墓地区画に、東京都内に所在していた戦死した夫一族の墓所から、夫らの墓を移設することとし、被告の先々代住職に新墓地開眼供養を行ってもらい、奈良県の石材店に注文した墓石三基(Aの夫分並びに夫の先祖2名分及び同46名分)を建立して祀っていた。また、Aは、本件墓地使用許可を受けて以降、被告の檀徒として、被告に対し、継続して護寺会費を支払っており、毎年、盆の時期にはA方で被告住職による供養を受けてきた。なお、Aは高齢のため、晩年は施設に入居し、生活していたが、本訴提起後である令和5年1月5日、死亡した。
(以上について、甲2の写真〔1〕及び〔4〕、甲13、乙1、弁論の全趣旨)

(イ)原告はAの子であり、Aの死亡により、その唯一の相続人として、Aの権利義務の一切を承継した。

(ウ)亡Bは原告の夫であり、原告との婚姻に際し、原告の氏を称したものであるが、令和元年10月14日に死亡した。

(エ)原告は、亡Bの焼骨(以下「本件焼骨」という。)を本件墓地区画に埋蔵しようと考えている。(甲13、弁論の全趣旨)

(2)被告の墓地使用規則
 被告の墓地使用規則(以下「本件墓地使用規則」という。)には以下の規定がある。(甲9)

     (中略)

オ 第8条
 墓地を所用している檀徒が信仰をかえて医王寺の檀徒でなくなった場合は、その後新たに焼骨の埋蔵することができない。

カ 第11条
 管理者は、次の場合には墓地使用の許可を取消するものとする。
(第1号及び第2号 省略)
第3号 信仰を異にして真言宗の教義にそむき、管理者および医王寺檀徒の宗教感情を著しく害すると認められるとき。

(3)亡B死亡後の経緯
ア 亡Bは、令和元年10月14日に死亡したことから、原告は、葬儀の段取り等について打合せをするため、被告の固定電話やCの携帯電話に複数回架電し、翌日の夜半にようやく連絡がついたものの、Cは飲酒していた状態であった。その後、原告の依頼に基づき、Cは、同月16日午後6時30分頃、亡Bの枕経を上げた。その際、Cは、原告に対し、C自らが考えた亡Bの戒名が記載された半紙を提示し、戒名及び法要代として75万円を提示した。(甲13、弁論の全趣旨)

イ 原告は、Cに対し、令和元年10月20日に予定されていた亡Bの通夜及び同月21日に予定されていた本葬の読経を要請したところ、Cの予定が合わず、Cは代行導師を手配した(争いがない)。

ウ 原告は、Cが亡Bの人となりや生前の職業、業績等について喪主である原告から予め聴取することなく戒名を提示したこと等に不満を抱く中、亡Bが生前に、毎年数回、大津市に所在する天台宗寺院である最乗院に通って、同院の住職と親しく交流していたことを思い出し、同住職に架電して、亡Bの戒名の付与を依頼し、同住職から亡Bの戒名を得た(甲13、弁論の全趣旨)。

エ 原告の娘は、令和元年10月17日、Cに対し、「昨夜はご苦労様でした。戒名の件、父が尊敬し親しくさせて頂いているご住職様に付けていただきました。従って、お経は通夜告別式のみお願い致します。」と伝えた(争いがない)。

オ 令和元年10月21日、Cが手配した代行導師により、亡Bの通夜、本葬及び初七日法要の読経が行われた。上記本葬の際に、原告は、枕経並びに通夜及び本葬の読経の費用として用意した23万円を代行導師に渡そうとしたが、代行導師は、これは被告が受け取るべきものであるとして受領しなかった(甲13、弁論の全趣旨)。そこで、原告は、同年11月29日付けで同額の預金小切手を被告宛てに郵送したが、被告は上記小切手を原告に返送した(甲5の1ないし3)。

(4)本件墓地使用許可取消しの意思表示
 被告は、令和元年11月3日付けで、被告が授けた戒名に異を唱え、他宗の戒名を授与された件(本件墓地使用規則8条)、被告は一切関係ないとの言動及び葬送所作読経料未払いの件(同11条3号)を理由として、本件墓地使用許可を取消し、本件墓地区画を令和2年4月30日までに返還するよう求める旨を記載した原告宛ての墓地使用許可取消通知書(以下「本件通知書」という。)を送付するとともに、原告の住所氏名を記載したままの状態で、本件通知書と同じ内容を印刷した紙を杭看板に貼付して、これを本件墓地区画に設置して掲示した(甲2の写真〔3〕、甲3。なお、現在、同看板は撤去されている。)。

(5)差戻し前第1審における本件墓地使用許可の取消しの意思表示
 被告は、差戻し前第1審の第3回弁論準備手続期日において、改めて、Aに対し、本件墓地使用規則11条3号に基づき、本件墓地使用許可を取り消す旨の意思表示をした(顕著な事実)。

(6)被告は、被告運営の墓地を含む敷地の外壁に、「墓地分譲募集中」と記載した大型看板を設置しているが、その看板には、「墓地1区画7万円~12万円」との記載及び連絡先電話番号の記載がされている(甲2の〔7〕及び〔8〕の写真)。

(7)Aは、その後も、被告に対し、毎年、応分の護寺会費を支払ってきた(争いがない。)。

2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、
〔1〕被告による本件墓地使用許可の取消しの可否
〔2〕不法行為の成否及び損害額
の2点である。


     (中略)

第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告による本件墓地使用許可の取消しの可否)について

(1)被告は、原告の行為が本件墓地使用規則11条3号に掲げる墓地使用許可の取消事由に該当する旨主張するから、まずこの点について検討する。

(2)本件墓地使用規則は、8条において、「墓地を所用している檀徒が信仰をかえて被告の檀徒でなくなった場合」には、新たな焼骨の埋蔵ができなくなると規定する一方、11条3号において、「信仰を異にして真言宗の教義にそむき、管理者および被告檀徒の宗教感情を著しく害すると認められるとき」には墓地使用許可を取り消す旨規定している(前記前提事実(2)オ、カ)。すなわち、被告においては、その墓地を使用する檀徒が信仰を変えて被告の檀徒ではなくなった場合でも、墓地への新たな焼骨埋蔵ができなくなるのみである一方、本件墓地使用規則11条3号に掲げる事由に該当する場合には、墓地使用許可が取り消される結果、新たな焼骨埋蔵ができなくなるのみでなく、設置した墓石を撤去した上で先祖の供養場所を他に探さなければならなくなるという、はるかに重大な権利制限がもたらされることになる。そうすると、墓地の使用者の行為が墓地使用許可の取消事由に該当するか否かの判断に当たっては、当該行為が「信仰をかえて被告の檀徒でなくなった場合」よりも更に重大な信頼関係の破壊をもたらすものであるか否かを検討する必要があるというべきである。

(3)これを本件についてみると、原告は、亡Bにつき、Cから提示された戒名ではなく、天台宗の寺院の住職から戒名を得て、このことを事後的にCに伝えている(前記前提事実(3)ウ、エ)。しかし、これらは、当時本件墓地使用許可を有していたAではなく原告が行ったものであり、Aがこれらにどの程度関与していたかは、本件各証拠に照らしても明確ではない。

また、原告は、亡Bの通夜、本葬及び初七日法要の読経をCに依頼し、これらはCが手配した代行導師によって被告の宗派に沿った方式で行われているのであり、原告ないしAは、これらの読経費用を被告に送付しているほか(前記前提事実(3)オ)、被告に対する毎年の護寺会費の支払も続けている(前記前提事実(7))。

これらに照らせば、Aは、「信仰をかえ」たり「被告の檀徒でなくなった」りしたもの(本件墓地使用規則8条)ですらないというべきである。そして、原告が、上記のとおり亡BにつきCから提示した戒名を受けるのではなく天台宗の僧侶から戒名を受けることとしたのは、あらかじめ原告から亡Bの生前の人となり等を聴き取ることなく亡Bの戒名を提示し、上記戒名に含まれる文字(「空」)の意味について問われた際にも、亡Bと特段関係のない抽象的な返答をするにとどまり、その後、上記戒名を記載した半紙を原告に手渡すことすらしなかった(前記前提事実(3)ア)というCの対応によるものであることに加え、被告がその運営する墓地敷地外壁に、金額を記載した「墓地分譲中」との大型看板を掲示していることから(前記前提事実(6))、墓地使用許可に当たり、墓地使用者が被告の宗派に沿った信仰を有することを必ずしも厳格に要求しているものではないとうかがわれることも考慮すれば、原告の上記言動をもって、墓地使用許可の取消しという重大な権利制限の結果を生じさせるほどに被告とAとの間の信頼関係が破壊されたと評価することはできない。

(4)したがって、Aにつき本件墓地使用許可の取消事由(本件墓地使用規則11条3号)に該当する行為があったとは認められないから、本件墓地使用許可の取消しについての手続的瑕疵の有無について判断するまでもなく、本件墓地使用許可が取り消されたとはいえない。

(5)小括
 そうすると、Aは本件墓地使用許可に基づく本件墓地区画の永代使用権を有していたこととなり、原告は、Aの死亡により上記永代使用権を承継したものであって、上記永代使用権を有することとなる。

 なお、原告の言動がAにつき「信仰をかえて被告の檀徒でなくなった」場合(本件墓地使用規則8条)に当たると評価することができないことは前述のとおりであるから、被告が、Aないし原告が本件焼骨を本件墓地区画に埋蔵することを妨害し得る根拠は見当たらない。それにもかかわらず、被告は、本件墓地区画に本件通知書と同内容の掲示をするなどして(前記前提事実(4))、Aないし原告が本件焼骨を本件墓地区画に埋蔵することを妨害してきたのであるから、原告は、被告に対し、本件焼骨を本件墓地区画に埋蔵することへの妨害の禁止を求め得るというべきである。

2 争点(2)(不法行為の成否及び損害額)について
(1)原告は、被告が本件墓地区画に本件墓地使用許可を取り消した旨の掲示をしたこと等がAに対する不法行為に該当する旨主張する。

(2)そこで検討すると、被告は、Aにつき本件墓地使用許可を取り消すべき事由がないにもかかわらず、本件通知書を発出したのみならず、本件墓地区画に、Aの子である原告の氏名及び住所を記載したままの状態で、本件通知書と同内容の掲示を行って(前記前提事実(4))、Aに上記事由がある旨を流布したものであるから、上記行為は、Aに対する不法行為(名誉毀損)を構成するというべきである。そして、上記不法行為の内容、本件訴訟に至る経緯その他本件にあらわれた一切の事情に照らせば、上記不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用は、10万円を下らないと認められる。

(3)したがって、被告は、原告に対し、弁護士費用相当額10万円の損害を賠償する義務があるというべきである。

3 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部
裁判長裁判官 新谷祐子 裁判官 森川さつき 裁判官 志村敬一

(別紙)物件目録
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