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ご訪問有り難うございます。当HPは、私の備忘録を兼ねたブログ形式で「桐と自己満足」をキーワードに各種データを上記14の大分類>中分類>テーマ>の三層構造に分類整理して私の人生データベースを構築していくものです。
なお、出典を明示頂ければ、全データの転載もご自由で、転載の連絡も無用です。しかし、データ内容は独断と偏見に満ちており、正確性は担保致しません。データは、決して鵜呑みにすることなく、あくまで参考として利用されるよう、予め、お断り申し上げます。
また、恐縮ですが、データに関するご照会は、全て投稿フォームでお願い致します。電話・FAXによるご照会には、原則として、ご回答致しかねますのでご了承お願い申し上げます。
     

R 7-11-17(月):2025年11月16日発行第401号”弁護士の値札”
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○横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの令和7年11月16日発行第401号「弁護士の値札」をお届けします。

○人間収益機会説と言う言葉は聞いたことがありませんでした。GoogleのAI解説では、「「人間収益機械説」という言葉は一般的な学術用語や広く認知された概念ではありません。文脈から推測すると、「人間を収益を生み出す機械」として捉える考え方を指していると考えられます。」とされています。人的資本論と人間機械論に関連している可能性があるとのことですが、「この言葉自体は広く定着した学術用語ではありません。」と結論づけています。GoogleAI解説はホントに便利です。法律上の論点の解説も、良く勉強しており、下手な弁護士に聞くよりズッと正確に解説してくれます。AIの普及で、弁護士の値札は益々下がるだろうと実感しています。

○その弁護士の値札ですが、弁護士個人では無く資格としての価値をGoogleAIで検索すると司法試験塾で有名な伊藤真弁護士が主催する伊藤塾HPの「統計データで実証!士業の将来性ランキングTOP10|2025年版」では、弁護士は、社会保険労務士・行政書士に次いで3位でした。以下、税理士・公認会計士・土地家屋調査士・司法書士と続いています。「士業資格の難易度・年収ランキング!8士業・10士業にて比較【2025年最新」の「8士業・10士業の難易度ランキング:合格率より」によると司法書士が1位で弁護士はなんと10位でした。

○私が司法試験を受験した昭和50年代は受験者が3万人前後のところ合格者は500人前後、合格率は1.○%で国家試験ではダントツの難関でした。従って弁護士値札もダントツに高かったのですが、平成に入ってからの司法改革で合格者も増え、合格率も上がったことで、弁護士値札は激減しています。さらに近時のAIの普及で弁護士値札は下がる一方と思われます。弁護士個人個人として値札を上げる努力が必要で、その努力の賜の大山先生の値札はダントツに高く付くでしょう(^^)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

弁護士の値札

資本主義というのは、全てのものに「値札」が付いている社会だそうです。何でもかんでもお金で評価できてしまう。このようなお金万能の考えに対して、お金では評価できないものが存在するという考えも有力です。例えば「人間」は、お金では評価できないというわけです。それについては、こんな話があります。立派な衣装を身につけた王様が、一人の賢者に「今の私の価値はどのくらいだと思うか?」と質問しました。これに対して賢者はある金額を言うのですが、それを聞いた王様は「この服だけでも、お前が答えた金額くらいの価値があるぞ!」怒ります。それに対して賢者は、「ですから、その服の値段を申し上げました」と言い返したという話です。人間の価値はお金では測れないということでしょう。

確かにもっともな意見ですが、それでは話が面白くなりません。というわけで、「人間」にはどのような「値札」が付けられているのかを考えてみます。まず、就職のときには、その人の値札は、「年収」という形で表示されることになりそうです。定年後の再就職先を探すのに、今まで1000万円を貰っていた人が、その「値札」のままではどの会社も買ってくれなかったなんて話をよく聞きます。終身雇用の中、今まで勤務していた会社では、世間相場よりも高い金額を、「値札」として付けて貰えていたのかもしれません。そういえば、就活だけでなく婚活の場合でも、人間に値札が付くという話を聞きました。結婚相談所では年収、学歴、職業、容姿といった様々な要素が数値化され、男女それぞれに「値札」を付けるそうです。そして、その数値に基づいて「釣り合いの取れる相手」が紹介されるのです。もっとも相談所の利用者たちは、誰もが自分の価値を実際よりも高く見積もるので、いわゆる「高望み」をしてしまうそうです。わ、私も他人のことは言えませんけど。

ということで、法律の話です。実は法律の世界では、もっともシビアに人間に「値札」を付けているのです。例えば交通事故で亡くなった人に対する賠償金が幾らになるのかといった話です。これなんてもう、国家権力の一翼を担う裁判所が、真正面から人間の金銭価値を計算することになります。「人間の命に差をつけるのはけしからん」という考え方もありそうですが、そうはならないんですね。露骨に言うと、ここでも基本的には被害者の収入をもとに「命の値段」が計算されることになります。裁判にまで資本主義の論理が浸透しているのかという気もします。しかし例えば、現在稼いでいる一家の大黒柱が亡くなった場合と、高齢で収入のない方が亡くなった場合、前者の賠償金額を大きくした方が良いと考える国民の方が多数派のように思えます。

さらには「人間収益機械説」なんて学説もありました。人が亡くなったことを、収益を生む機械が壊れたのと同じように考えて、損失を計算しようということでしょう。ここまで行くと、かえって清々しい思いさえしてしまうのです。(おいおい。。。) ただ、お金を稼いでいない人間の「値段」は低いとなると、例えば専業主婦の場合はどう考えるのかみたいなことも議論されました。さらに言えば、男性に比べて女性の賃金は統計的に低いことは間違いありません。そうなると、「男性の値札」の方が、「女性の値札」よりも高くなってしまう。これは男女平等から見ると問題です。しかし、夫が亡くなったときの賠償金額の受け手は妻ですから、あまり問題視されてこなかったのでしょう。

というわけで最後に、弁護士の「値札」はどのように付ければよいのかも考えちゃいます。訴訟でどれだけ多額の賠償金を勝ち取ったかみたいな基準はありそうです。でも結局のところ、資本主義社会の中の弁護士は、自分たちに「値札」を付けたうえで、お客様の判断を待つしかないようです。お客様から、「大山弁護士のこの値札では安すぎる!」なんて言って貰える弁護士になれたら良いなと思うのです。

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◇ 弁護士より一言

妻は自分の誕生日には母親(94歳)に、メッセージを書いてもらいます。「今日は何の日でしょう?」と聞いても忘れていたけれど「今日は私の誕生日だから何か書いてね!」と頼むと、「 からだに気をつけていつまでも長生きしてね」と書いてくれたそうです。書く方と書かれる方が逆な気もしますが、親は有難いものです。プライスレスなプレゼントをもらえたと妻も喜んでいました。

以上:2,784文字
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R 7-11-16(日):特別受益制度の平成30年法改正と”生計の資本”の意義
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○民法第903条特別受益制度についての質問を受けました。
以下、平成30年改正についての備忘録です。

改正前903条1項
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

改正後903条1項
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

変更点は
改正前「前3条の規定により算定した相続分の中から」
改正後「第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中から」
で、
民法902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)追加されたことによる算定根拠条文表示が変わっただけで実質変更はありません。

903条2項は変更無し

改正前903条3項
被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

改正後903条3項
被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

「遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」が単に「その意思に従う。」と変更されました。その理由は、遺留分制度自体が改正され、特別受益の「持ち戻し免除」と遺留分の関係が整理されたためと説明されています。遺留分制度の改正については別コンテンツで説明します。

改正後新設規定
903条4項

婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
この新設が改正の目玉で、配偶者を保護する目的で、これにより、生前贈与された自宅の価格を相続財産に持ち戻さなくて済むようになり、配偶者が遺産分割で不利益を被る事態を防ぎ、老後の生活保障を安定させることを目指しています。

○特別受益制度でやっかいなのは「生計の資本として贈与」 の意味です。
これは、相続人が自らの生活や職業、事業などの基盤を築くために受けた、扶養義務の範囲を超えるような多額の贈与を指し、被相続人からの「遺産の前渡し」とみなされます。

具体例は以下の通りです。
・住宅購入資金の援助:親が子のマイホーム購入のために提供した資金。
・事業資金の援助:子が新しく事業を始めたり、事業を拡大したりするための資金提供。
・不動産の贈与:土地や家屋そのものを贈与した場合。
・学費:通常の学費ではなく、特定の相続人のための多額の留学費用など、特に高額な教育費。
・独立開業のための資金:親元から独立して生活を始める際の経済的支援。

通常の生活費や一般的な教育費など、扶養義務の範囲内での援助は特別受益には当たらず、あくまで、個人の「生計の基盤」を形成するための、まとまった財産の移転が対象です。
以上:1,420文字
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R 7-11-15(土):死亡による人身傷害保険金請求権の請求権の帰属等についての地裁判決紹介2
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○「死亡による人身傷害保険金請求権の請求権の帰属等についての地裁判決紹介1」の続きで、令和5年2月27日東京地裁判決(LEX/DB)理由部分を紹介します。

○関連条文は保険法第2条(定義)の六号「損害保険契約 保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものをいう」、七号「傷害疾病損害保険契約 損害保険契約のうち、保険者が人の傷害疾病によって生ずることのある損害(当該傷害疾病が生じた者が受けるものに限る。)をてん補することを約するものをいう。」、九号「傷害疾病定額保険契約 保険契約のうち、保険者が人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行うことを約するものをいう。」です。

○被告保険会社の主張について判決は、
・当該被保険者の法定相続人がその順序により固有の権利として原始的に取得するので、亡Aの法定相続人であるFらが保険金請求権を取得し、Bがこれを取得することはない
→(判決)被保険者の相続人が、被保険者が取得した保険金請求権を、相続により承継的に取得するというべき

・賠償義務者の有無を問わず、民法711条に定める固有の慰謝料請求権を対象とする趣旨ではなく、Fらも保険金請求権を取得するのであって、原告らのみが保険金請求権を取得することはない
→(判決)保険契約者及び保険者において、このような事態を想定して、人身傷害保険に係る契約を締結したとはにわかに考え難い。

・父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的苦痛等による精神的損害の上限額が1500万円であって、原告らがこれを全額請求できるわけではない
→(判決)保険金請求権者以外の遺族の有無に応じて、精神的損害に係る死亡保険金について、その請求額を制限した定めは見当たらない


と被告保険会社主張を悉く否認しました。

○これに対し被告保険会社が控訴し、最高裁判決によれば控訴審も第一審と同じ結論と思われます。最高裁判決も同じ結論で、別コンテンツで解説します。

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第3 争点に対する判断
1 争点1(本件事故により生ずる亡Eの収入に係る逸失利益の額)について


     (中略)

2 争点2(被保険者が死亡した場合の保険金請求権の帰属する主体)について
(1)
ア 人身傷害保険は、保険者が、人身傷害事故によって、被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害に対して、人身傷害条項及び基本条項に従い、被保険者を含む保険金請求権者に人身傷害保険金を支払うとされていることからすると(前提事実(1)ア(ア)、(ウ))、被保険者との関係では、人身傷害事故によって被保険者に生ずることのある損害を填補することを目的としているというべきであって、損害保険契約(保険法2条6号)に当たると解される。

また、人身傷害事故によって被保険者が傷害を被ったことの直接の結果として死亡したことによる損害が発生した場合に、保険者が死亡保険金として支払うべき損害の額は、人身傷害条項損害額基準により算定された葬儀費、逸失利益、精神的損害及びその他の損害の合計額とされており(前提事実(1)ア(カ)、イ(ア))、一定の上限の範囲内で、人身傷害条項損害額基準に従って算定される損害額に応じて定まるものとされていることからすると、人身傷害保険のうち上記の死亡保険金に関する部分については、損害保険契約の一類型である傷害疾病損害保険契約(同条7号)に当たると解される。

 そして、傷害疾病損害保険契約については、被保険者の死亡によって生ずる損害を填補するものが存在することを前提に、損害保険契約の規定の適用に係る読替規定を置いている(保険法35条)ものの、同法上、損害保険契約において、被保険者以外の者が保険金請求権者となることは想定されていない。また、ある者が死亡したことによって生ずる損害については、当該損害の発生について責任を負う加害者が存在する場合には、死亡した被害者は加害者に対し、死亡によって生ずる当該損害に係る損害賠償請求権を取得するものと解されていることに照らすと(最高裁昭和38年(オ)第1408号同42年11月1日大法廷判決・民集21巻9号2249頁参照)、法的には、当該損害は、被害者本人に生ずるものと観念されているとみることができる。

 そうすると、被保険者が人身傷害事故によって死亡した場合、人身傷害保険の死亡保険金は、被保険者が被る損害を填補するために被保険者に支払われることになるのであって、被保険者の相続人が、被保険者が取得した保険金請求権を、相続により承継的に取得するというべきである。人身傷害条項3条〔1〕(前提事実(1)ア(ウ)〔1〕)のただし書の定めは、この趣旨を注意的に定めたものと解するのが相当である。

イ 被告は、
〔1〕損害保険契約における被保険者は、人身傷害事故の客体であると同時に保険給付を受ける者でもあるのに対し、人身傷害保険は、被保険者と保険金請求権者を区別しており(前提事実(1)ア(ア))、人身傷害保険における被保険者は、生命保険契約及び傷害疾病定額保険契約と同様に、人身傷害事故の客体ではあるが保険給付を受ける者ではないこと、
〔2〕人身傷害条項3条〔1〕(前提事実(1)ア(ウ)〔1〕)が「相続人」ではなくあえて「法定相続人」と規定しているのは、読替規定(保険法35条)が適用される傷害疾病損害保険契約でないことを確認するためであること、
〔3〕人身傷害保険が、損害を被った被保険者のほか、父母、配偶者、子といった遺族の損害も填補すること(前提事実(1)ア(ウ))からすると、
人身傷害保険は、典型契約である損害保険契約ではない旨主張する。

(ア)上記〔1〕についてみると、人身傷害条項3条〔1〕において、保険金請求権者として被保険者が掲げられていることに照らすと、人身傷害保険が損害保険契約であることを否定する根拠となるものとはいえない。

(イ)上記〔2〕についてみると、相続人の範囲及び順位は全て民法上法定されており(民法第5編第2章参照)、その意味では相続人はいずれも「法定相続人」ということができるのであるから、人身傷害条項3条〔1〕のただし書と保険法35条との用語の違いをもって、人身傷害保険が傷害疾病損害保険契約でないことを確認するものということはできない。

(ウ)上記〔3〕についてみると、人身傷害保険においては、被保険者のほか、父母、配偶者、子等の遺族も保険金請求権者とされているところ(人身傷害条項3条〔2〕(前提事実(1)ア(ウ)〔2〕))、保険法2条7号かっこ書が、傷害疾病損害保険契約により填補される損害は、「当該傷害疾病が生じた者が受けるものに限る。」と定めていることからすると、身体に直接傷害を被ったわけではない被保険者の配偶者、父母又は子に発生した損害部分は、傷害疾病損害保険契約に含まれるものではない。しかし、この点は、被保険者に生じた損害を填補する傷害疾病損害保険契約に、被保険者が人身傷害事故に遭った場合に父母、配偶者又は子に固有の損害が生じた場合にこれを填補する特約を付したものと考えることもできるのであって、このような特約が保険法上の強行規定に反して無効とすべき理由もないことに照らすと、人身傷害条項3条〔2〕の規定が存在することをもって、人身傷害保険が損害保険契約や傷害疾病損害保険契約に当たらないということはできない。

(エ)以上に照らせば、被告の上記主張は採用できない。

(2)被告は、人身傷害保険金を支払うべき損害の額が、人身傷害条項損害額基準に基づき算定されていることをもって、定額給付の定額性が満たされているとみて,人身傷害保険は傷害疾病定額保険契約(保険法2条9号)に当たると解するべきであるとの主張を前提として、人身傷害保険において被保険者が死亡した場合には、被保険者の法定相続人が死亡保険金を固有の権利として原始的に取得する旨主張する。

 しかし、人身傷害条項損害額基準では、死亡保険金について、葬儀費については、60万円を超える場合には、120万円を限度に必要かつ妥当な実費としており(前提事実(1)イ(イ))、その他の損害については、事故と相当因果関係のある範囲内で、社会通念上必要かつ相当な実費としており(前提事実(1)イ(オ))、実損を填補することを企図していることが明らかである。また、逸失利益についてもその計算方法は訴訟における逸失利益の算定方法とほぼ同様であり(前提事実(1)イ(ウ))、精神的損害についても金額は訴訟の場合よりも低廉ではあるものの、被保険者の属性ごとにその額を算定するという点で訴訟における精神的損害の算定方法と類似している(前提事実(1)イ(エ))。

そうすると、人身傷害条項損害額基準は、被保険者に生じた実損を填補することを企図してその上限及び算定方法を定めたものというべきであって、被保険者に生じた損害の程度によって保険金の給付額が異なるのであるから、定額による給付を定めたものとみることはできない。このことは、労働者災害補償制度等から給付を受けた場合は、これを除いた額が保険金となる(前提事実(1)ア(オ))ことからも裏付けられる。 
 したがって、人身傷害保険を保険者が人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行うことを約する傷害疾病定額保険契約と解することはできず、被告の主張はその前提を欠く。


(3)被告は、保険法2条は、同条1号の要件を満たす保険契約であれば、同条が規定する類型に該当しない非典型契約であっても、許容されるのであり、人身傷害保険は、社会のニーズに対応した合理的な保険契約であって、非典型契約と解するべきであるとの主張を前提として、人身傷害保険において被保険者が死亡した場合には、被保険者の法定相続人が死亡保険金を固有の権利として原始的に取得する旨主張する。

被告は、そのように解する論拠として、
〔1〕一般的な保険契約者(被保険者)の合理的意思としては、被保険者が死亡した場合に発生する保険金請求権が相続債権者の引当財産となるよりも相続人に取得されることを期待するはずであって、そのような合理的意思を考慮して、約款が作成されている一方で、被保険者の債権者による被保険者の死亡保険金を債権の引当てとすることへの期待は法的保護に値しないのであるから、人身傷害保険を損害保険契約と解して、死亡保険金を被保険者の相続債権者の引当てとすべきではない、
〔2〕人身傷害保険は、その発売当時、損害保険契約でも生命保険契約でもない第三分野として位置付けられており、保険金請求権者が人保険の特殊性としてその権利を原始取得すると解釈・運用されていたのであって、保険法が施行された後も、従前どおりの解釈・運用が続けられていたのであるから、保険法が施行されたことのみによって、同じ文言、規定でありながら、人身傷害保険の法的性格を変えるほどの転換をすべきでない
などと主張する。

ア 上記〔1〕についてみると、人身傷害保険においては、生命保険契約における保険法43条のような保険金受取人の指定・変更ができる旨の定めがないこと、上記(1)イ(イ)説示のとおり、「相続人」と「法定相続人」の語義に差異があるとはにわかに見いだし難く、まして、一般の保険契約者においてその差異を十分に理解しているとはいえないことからすると、人身傷害条項3条〔1〕において、被保険者が死亡した場合にはその法定相続人が保険金請求権者となる旨記載されていることのみをもって、保険契約者において、自らが死亡した場合に、保険金が自己の債権者よりも法定相続人に配分されることを期待するはずであると直ちにいうことはできない。

そして、被保険者が、人身傷害事故によって、傷害を被ったが死亡しなかった場合においては、被保険者が保険金を取得し、これが被保険者の債権者の引当てとなることからすると、被保険者の債権者において、死亡保険金をその債権の引当てとすることについての期待が法的保護に値しないものと断ずることはできないし、被保険者においても、自らが死亡した場合のみ、保険金を自らの債権者の引当てとせず、法定相続人に帰属させるとの合理的意思があったということはできない。かえって、保険契約者ないし被保険者において、相続放棄により自らの債務を負担しない法定相続人よりも、自らの債務を負担する相続人に死亡保険金を取得することを期待するとみることもできるのであって、人身傷害条項3条〔1〕の定めから、一般的な保険契約上の合理的意思を確定することは困難である。

 また、被告が主張するように、被保険者が死亡した場合の保険金請求権者がその法定相続人に原始的に帰属すると考えると、被保険者に対する賠償義務者がある場合に、相続放棄した法定相続人が保険金請求権を取得し、相続人が賠償義務者に対する損害賠償請求権を取得することになる一方で、保険金を支払った保険者は賠償義務者に対して代位できない結果、一つの損害について保険者と賠償義務者が請求権に応じて各支払を行うと二重に損害を填補するという事態が生じるのであって、保険契約者及び保険者において、このような事態を想定して、人身傷害保険に係る契約を締結したとはにわかに考え難い。
 したがって、被告の上記〔1〕の主張は採用できない。


イ 上記〔2〕についてみると、証拠中(乙7)には、人身傷害保険の設計・解釈・運用について、被告の主張に沿う保険実務家の意見を記載した部分が存在する。

 しかし、証拠(甲7)によれば、本件と類似する事案において、保険会社側が人身傷害保険は傷害疾病損害保険契約であって、死亡保険金の部分も被保険者が取得し、これが相続人に承継されると主張していることが認められる。このことからすれば、上記の保険実務家の意見をもって、人身傷害保険に関する実務において、被保険者が死亡した場合の保険金請求権を被保険者の法定相続人が原始取得すると解釈・運用されていたというには疑問がある。

その上、保険実務上、上記のような解釈・運用がされていたことをもって、当然に人身傷害保険の法的性質についての解釈が定まるということはできない。かえって、上記のような解釈・運用がされていたとして、保険保護を受けられていた潜在的、抽象的な保険金請求権者が想定されているにもかかわらず、平成22年4月に施行された現行保険法が保険契約を損害保険契約、生命保険契約、傷害疾病定額保険契約という類型化をしたことを踏まえると、同法施行後に締結された人身傷害条項を含む保険契約については、できる限り上記のような類型の中で、人身傷害保険を捉えるべきである。
 したがって、被告の上記〔2〕の主張は採用できない。

(4)以上によれば、亡Aが本件事故によって生じた保険金請求権を取得し、その相続人であるAがこれを相続により承継取得したと認められる。

3 争点3(原告らが精神的損害に係る保険金請求権を全額行使できるか)について
(1)被告は、人身傷害保険は、「被保険者の死亡により本人のほか、父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的損害等による損害」を「精神的損害」とした上、被保険者の属性別の定額給付を規定したことから、原告らが、精神的損害についての保険金請求権全額を取得できない旨主張する。
 しかし、上記2(2)のとおり、精神的損害に係る死亡保険金についても定額給付を定めたものとみることはできないのであって、これを前提とする被告の主張は採用できない。

(2)また、被告は、被保険者の死亡により被保険者のほか、父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的苦痛等による精神的損害の上限額が1500万円であって、原告らがこれを全額請求できない旨主張する。
 しかし、人身傷害条項及び人身傷害条項損害額基準によれば、被告が人身傷害保険金を支払うべき損害の額は、人身傷害事故によって被保険者に傷害を被った直接の結果として死亡したことによる損害が発生した場合に、人身傷害条項損害額基準により算定された金額の合計額とされ(前提事実(1)ア(カ))、精神的損害の額は、被保険者が一家の支柱でない場合で65歳以上のときは、1500万円とするとされており(前提事実(1)イ(エ))、保険金請求権者以外の遺族の有無に応じて、精神的損害に係る死亡保険金について、その請求額を制限した定めは見当たらないのであるから、被告の主張は採用できない。

(3)したがって、原告らは、被告に対し、亡Eの精神的損害に係る死亡保険金を全額請求できる。


第4 結論
 以上によれば、Aが亡Eから相続により取得した保険金請求権を、原告らがAの相続により、その法定相続分に応じて取得したと認められるところ、その保険金の額は、争点(1)において説示した収入に係る逸失利益1066万2000円のほか、葬祭費120万円(前提事実(1)イ(イ))、年金に係る逸失利益26万7545円(同(ウ))及び争点(3)において説示した精神的損害1500万円の合計2712万9545円から遺族一時金合計471万7100円(前提事実(4))を控除した2241万2445円となる。
 よって、原告らの請求は、主文第1項の限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第12部
裁判長裁判官 成田晋司 裁判官 吉田祈代 裁判官 池口弘樹
以上:7,148文字
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R 7-11-14(金):死亡による人身傷害保険金請求権の請求権の帰属等についての地裁判決紹介1
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○「死亡による人身傷害保険金請求権の請求権の帰属等についての最高裁判決紹介」の続きで、その第一審令和5年2月27日東京地裁判決(LEX/DB)を2回に分けて紹介します。

○前記最高裁判決の事案を解明するための第一審令和5年2月27日東京地裁判決(LEX/DB)ですが、判決文が大変長いので、先ず請求部分を紹介し、判決理由部分は別コンテンツで紹介します。
事案は次のとおりです。
・亡Aが、被告保険会社との間で人身傷害特約を含む自動車保険契約を締結し、令和2年1月、自損事故によって死亡
・亡Aの相続人である子F・G・H3名が相続放棄し(Aは妻とは離婚済み)、Aの母Bが相続人となる
・Bが亡A相続人として、被告保険会社に対し、亡Aの死亡での人身傷害特約による損害保険金(「死亡保険金」)3000万円の支払を求めて提訴
・Bが死亡し、B相続人X1,X2が訴訟承継して、各1500万円ずつを被告保険会社に請求


○これに対し被告保険会社は、人身傷害特約死亡保険金請求権は
・当該被保険者の法定相続人がその順序により固有の権利として原始的に取得するので、亡Aの法定相続人であるFらが保険金請求権を取得し、Bがこれを取得することはない
・賠償義務者の有無を問わず、民法711条に定める固有の慰謝料請求権を対象とする趣旨ではなく、Fらも保険金請求権を取得するのであって、原告らのみが保険金請求権を取得することはない
・父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的苦痛等による精神的損害の上限額が1500万円であって、原告らがこれを全額請求できるわけではない
と主張しました。

○これに対する東京地裁判決理由は、別コンテンツで紹介した上で、最高裁判決を解説します。

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主   文
1 被告は、原告らに対し、2241万2445円及びこれに対する令和4年2月4日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その7を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告らに対し、各自1500万円及びこれに対する令和4年2月4日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 A(以下「亡A」という。)は、被告との間で、人身傷害条項を含む総合自動車保険契約を締結した後、被保険車両の操作中の事故により死亡した。亡Aは、配偶者と離婚しており、その第一順位の相続人は、子であるF、G及びHの3名(以下、この3名を併せて「Fら」という。)であったが、Fらは亡Aの相続放棄をしたため、亡Aの母であるB(以下「B」という。)が亡Aの相続人となった。
 Bは、上記事故によって亡Aが被告に対し上記保険契約に基づく保険金請求権を取得し、これをBが相続により承継取得した旨主張して、被告に対し、同請求権に基づき、亡Aの死亡に伴う損害保険金(以下「死亡保険金」ということがある。)3000万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である令和4年2月4日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めて、本件訴訟を提起した。
 本件訴訟の係属中、Bが死亡し、Bの子である原告らが、本件訴訟を承継し、被告に対し、各自上記死亡保険金の法定相続分に当たる1500万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。

2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)本件保険契約の締結
 亡Aが代表取締役の地位にあった有限会社武石建設(以下「武石建設」という。)は、損害保険会社である被告との間で、平成31年2月6日頃、同月9日午後4時から令和2年2月9日までを保険期間とし、除雪構内専用車を被保険車両として、以下の内容を含む総合自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。(甲1、2、乙12)

ア 人身傷害条項(以下、人身傷害条項を含む保険契約を「人身傷害保険」という。)
(ア)保険金を支払う場合(1条)
 被告は、急激かつ偶然な外来の事故(被保険車両の運行に起因する事故又は被保険車両の運行中の、飛来中・落下中の他物との衝突、火災、爆発若しくは被保険車両の落下に限る。)により被保険者が身体に傷害を被ること(以下「人身傷害事故」という。)によって、被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害(6条(後記(カ))に定める損害の額)に対して、人身傷害条項及び基本条項に従い、保険金請求権者に人身傷害保険金を支払う。

(イ)被保険者(2条(1))
 人身傷害条項における被保険者は、被保険車両の正規の乗車装置若しくはその装置のある室内に搭乗中の者、被保険車両の保有者又は被保険車両の運転者に該当する者をいう。

(ウ)保険金請求権者(3条)
 「この人身傷害条項における保険金請求権者は、人身傷害事故によって損害を被った次のいずれかに該当する者とします。
〔1〕被保険者。ただし、被保険者が死亡した場合は、その法定相続人とします。
〔2〕被保険者の父母、配偶者または子」

(エ)保険金を支払わない場合(4条(2)〔6〕)
 被告は、被保険者の自殺行為によって、被保険者に発生した傷害による損害に対しては、保険金を支払わない。

(オ)支払保険金の計算(5条(1)、(2))
 1回の人身傷害事故につき被告の支払う人身傷害保険金の額は、6条(1)(後記(カ))の規定により決定される損害の額と損害防止費用及び権利保全行使費用の合計額とする(5条(1))。
 労働者災害補償保険法を含む労働者災害補償制度によって既に給付が決定し又は支払われた額等がある場合において、その合計額が保険金請求権者の自己負担額(6条(1)(後記(カ))の規定により決定される損害の額並びに損害防止費用及び権利保全行使費用の合計額から5条(1)に定める人身傷害保険金の額を差し引いた額をいう。)を超過するときは、被告は、5条(1)に定める人身傷害保険金の額からその超過額を差し引いて人身傷害保険金を支払う(5条(2))。

(カ)損害の額の決定(6条(1))
 被告が人身傷害保険金を支払うべき損害の額は、人身傷害事故によって被保険者に、傷害を被った直接の結果として、〔1〕治療を要したことによる損害、〔2〕後遺障害が発生したことによる損害又は〔3〕死亡したことによる損害が発生した場合に、その区分ごとに、それぞれ人身傷害条項損害額基準により算定された金額の合計額とする。

イ 人身傷害条項損害額基準(死亡による損害に関する部分に限る。)
(ア)死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、精神的損害及びその他の損害とする(第3の柱書)。

(イ)葬儀費(第3の1参照。甲25の1及び2)
 葬儀費は60万円とする。ただし、立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合には、120万円を限度に必要かつ妥当な実費とする。なお、亡Aの葬儀費用は120万円を超えており、同額が損害とされることとなる。

(ウ)逸失利益(第3の2)
 逸失利益が認められる場合は、原則として、収入額から生活費を控除した額に就労可能年数に対応するライプニッツ係数を掛けて算出する。
 ただし、被保険者が年金等の受給者である場合には、年金等の額から生活費を控除した額に、平均余命に対応するライプニッツ係数から就労可能年数に対応するライプニッツ係数を控除した係数を掛けて算出された額を加算する。
 なお、亡Aの年金に係る逸失利益は26万7545円である。

a 家事従事者以外の有職者の収入額は、現実収入額(原則として、事故前1年間に労働の対価として得た収入額とし、事故前年の確定申告書、市区町村による課税証明書等の公的な税務資料により確認された額とする。)、18歳に対応する年齢別平均給与額又は年齢別平均給与額の50パーセントに相当する額のいずれか高い額とする。
 現実収入額の立証が困難な者については、18歳に対応する年齢別平均給与額又は年齢別平均給与額の50パーセントに相当する額のいずれか高い額とする。(第3の2(1)〔1〕)
b 生活費は、被扶養者(被保険者に現実に扶養されていた者)がいない場合、収入額に対する50パーセントの割合とする(第3の2(2)〔1〕)。
c 就労可能年数に対応するライプニッツ係数は、被保険者の死亡時の年齢別就労可能年数及びライプニッツ係数により、67歳の就労可能年数は9年であり、そのライプニッツ係数は7.108である(第3の2(2)〔2〕)。

(エ)精神的損害(第3の3)
 精神的損害とは、被保険者の死亡により本人のほか、父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的苦痛等による損害をいう。精神的損害の額は、被保険者が一家の支柱でない場合で65歳以上のときは、1500万円とする。

(オ)その他の損害(第3の4)
 上記(イ)から(エ)まで以外の死亡による損害は、事故との相当因果関係のある範囲内で、社会通念上必要かつ妥当な実費とする。

(2)保険事故の発生
 亡A(昭和27年○○月○○日生まれ)は、令和2年1月28日、秋田市内において、住宅解体作業のため本件保険契約上の被保険車両であった除雪構内専用車を操作中に、重機に挟まれて胸腔内臓器破裂により死亡した(甲3。以下、この保険事故による亡Aの死亡を「本件事故」という。)。

(3)Fらによる相続の放棄
 亡Aの子であるFらによる相続放棄の申述が、令和2年3月10日、受理された(甲5の1から6の3まで)。

(4)遺族一時金の支払
 亡Aの母であるBは、労働者災害補償保険一時金として令和3年6月頃に350万円、また国民年金遺族一時金として同年10月頃に121万7100円を受領した(甲4、乙10、11)。

(5)本件訴えの提起及び訴訟の承継
 Bは、令和3年12月28日、本件訴えを提起したが、令和4年9月23日に死亡し、Bの子(亡Aの兄)である原告らが本件訴訟を承継した(甲5の1から6まで)。

3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件事故により生ずる亡Aの収入に係る逸失利益の額

(原告らの主張)
 亡Aは、本件事故当時、武石建設の役員として稼働し報酬を得ていたのであるから、亡Aの本件事故前1年間の現実収入である年額300万円の50パーセントに就労可能年数に対応するライプニッツ係数7.108を掛けた1066万2000円を、収入に係る逸失利益として算定すべきである。

(被告の主張)
 武石建設の借入金は平成29年3月以降増加しているが利息すら払えておらず、外注費及び労務費が売上高の半分を超えている上、亡Aに対する家賃も未払の状態であったこと(甲22〔17頁〕、23〔26頁〕、24〔14、24、27頁〕)、亡Aに対する現実の支払実績が明らかでないこと(乙8)、亡Aが障害者控除を受けていること(乙9)、労災補償の給付日額が3500円であり(乙10)、労働の対価部分も明らかでないことなどからすると、亡Aが武石建設から役員報酬として年額300万円を現実に得ていると立証できているとはいえない。そうすると、18歳に対応する年齢別平均給与額224万8800円と年齢別平均給与額の50パーセントに相当する額193万0800円のうち、最も高額な224万8800円を収入額として、逸失利益を算定すべきであり(前提事実(1)イ(ウ)(a))、逸失利益は、799万2235円となる。

(2)保険金請求権の帰属する主体(人身傷害保険の被保険者が人身傷害事故により死亡した場合の保険金請求権が、被保険者に帰属し、その相続人がこれを承継取得するのか、被保険者の法定相続人に該当する者がその順序により固有の権利として原始的に取得するのか。)

(原告らの主張)
 人身傷害保険の被保険者が人身傷害事故により死亡した場合の保険金請求権は、当該被保険者に帰属し、その相続人がこれを承継取得するものと解すべきであるから、本件事故によって亡Aが保険金請求権を取得し、その相続人であるBが承継取得する。その理由は、別紙1のとおりである。

(被告の主張)
 人身傷害保険の被保険者が人身傷害事故により死亡した場合の保険金請求権は、当該被保険者の法定相続人がその順序により固有の権利として原始的に取得すると解すべきであるから、本件事故によって亡Aの法定相続人であるFらが保険金請求権を取得し、Bがこれを取得することはない。その理由は、別紙2のとおりである。

(3)原告らが精神的損害に係る保険金請求権を全額行使できるか
(原告らの主張)
 人身傷害条項3条柱書からすると、同条〔2〕は民法711条に定める固有の慰謝料請求権のみを対象とする趣旨の約款であって、被保険者の損害とは別個のものであるから、本件請求とは重複するものではない。

 そして、本件のような自損事故の場合には被保険者の生命を侵害した加害者が存在しないのであるから、第三者の不法行為によって被保険者が死亡した場合の慰謝料を認めた人身傷害条項3条〔2〕の要件には該当しない。
 したがって、本件では人身傷害条項3条〔2〕が適用されない。

(被告の主張)
ア 被保険者の父母、配偶者及び子が保険金請求権者となるのは、人身傷害保険の「死亡による損害」として、「被保険者の死亡により本人のほか、父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的損害等による損害」を精神的損害とした上、被保険者の属性別の定額給付を規定したことによる(人身傷害条項損害額基準第3の3)ものであって、賠償義務者の有無を問わず、民法711条に定める固有の慰謝料請求権を対象とする趣旨ではない。
 そして、人身傷害条項3条〔2〕によれば、Fらも保険金請求権を取得するのであって、原告らのみが保険金請求権を取得することはない。

イ また、被保険者の死亡により被保険者のほか、父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的苦痛等による精神的損害の上限額が1500万円であって、原告らがこれを全額請求できるわけではない。

以上:5,790文字
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R 7-11-13(木):死亡による人身傷害保険金請求権の請求権の帰属等についての最高裁判決紹介
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○保険金請求権者につき「被保険者。ただし、被保険者が死亡した場合はその法定相続人とする。」との定めがある自動車保険の人身傷害条項に基づく人身傷害保険金の請求権は相続財産になること及び死亡保険金の額は、人身傷害保険金を支払うべき被保険者の精神的損害の額が本件精神的損害額の全額であることを前提として算定されるべきであって、被保険者の死亡により精神的損害を受けた被保険者の近親者が存在することは死亡保険金の額に影響を及ぼすものではないことを明言した令和7年10月30日最高裁判決(裁判所ウェブサイト)全文を紹介します。

○死亡事故についての人身傷害保険金請求権の性質について重要な論点を含む事案で、第一審は令和5年2月27日東京地裁判決(LEX/DB)、第二審は令和5年10月3日東京高裁判決(現時点では判決文未登載)で、事案解明のために第一審判決を別コンテンツで紹介して、判決説明を試みます。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
第1 事案の概要

1 本件は、Aが車両を運転中に自損事故を起こして死亡したことについて、Aの相続人であるBが、当該車両に係る自動車保険契約の保険者である上告人に対し、当該保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害条項(以下「本件人身傷害条項」という。)に基づくAの人身傷害保険金の請求権を相続により取得したと主張し、人身傷害保険金の支払を求めて提起した訴訟である(Bが第1審係属中に死亡し、被上告人らが相続により本件訴訟を承継した。)。

 これに対し、上告人(※保険会社)は、本件人身傷害条項の定めによれば、上記請求権は、Aの相続財産に属するものではなく、Aからの相続について相続放棄をしたAの子らが原始的に取得している旨、仮に被上告人らが上記請求権を取得しているとしても、本件人身傷害条項において精神的損害の額として定められている金額の一部は、当該子らが保険金として取得すべきものであるから、当該金額の全額を被上告人らが取得することを前提として上記人身傷害保険金の額を算定することはできない旨主張するなどして争っている。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1)Aが代表者を務める会社は、平成31年、上告人との間で、本件人身傷害条項のある普通保険約款が適用される自動車保険契約を締結した。

(2)本件人身傷害条項には、要旨、次のような定めがあった。
ア 上告人は、急激かつ偶然な外来の事故(被保険車両の運行に起因する事故等に限る。)により被保険者が身体に傷害を被ること(以下「人身傷害事故」という。)によって、被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害に対して,保険金請求権者に人身傷害保険金を支払う。

イ 被保険者は、被保険車両の正規の乗車装置若しくはその装置のある室内に搭乗中の者、被保険車両の保有者又は被保険車両の運転者をいう。 

ウ 保険金請求権者は、人身傷害事故によって損害を被った次のいずれかに該当する者とする。
(ア)被保険者。ただし、被保険者が死亡した場合はその法定相続人とする。
(イ)被保険者の父母、配偶者又は子(以下、上記(ア)に該当する者を保険金請求権者とする定めを「本件条項1」と、上記(イ)に該当する者を保険金請求権者とする定めを「本件条項2」といい、本件条項1によって保険金請求権者が定まる人身傷害保険金のうち、被保険者が人身傷害事故により死亡した場合に生ずるものを「死亡保険金」という。)

エ 1回の人身傷害事故につき上告人の支払う人身傷害保険金の額は、下記オにより決定される損害の額並びに損害防止費用及び権利保全行使費用の合計額から、当該損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者が既に取得したものの額等を控除するなどした額とする。

オ 人身傷害保険金を支払うべき損害の額は、被保険者に、傷害を被った直接の結果として、〔1〕治療を要したことによる損害、〔2〕後遺障害が発生したことによる損害又は〔3〕死亡したことによる損害が発生したときに、損害の区分ごとに、それぞれ人身傷害条項損害額基準(以下「本件損害額基準」という。)により算定された金額の合計額とする。

カ 本件損害額基準の死亡による損害に関する部分は次のとおりである。
(ア)死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、精神的損害及びその他の損害とする。
(イ)葬儀費は、60万円とする。ただし、立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合には、120万円を限度に必要かつ妥当な実費とする。
(ウ)逸失利益は、原則として、収入額から生活費を控除した額に就労可能年数に対応するライプニッツ係数を掛けて算出する。
(エ)精神的損害とは、被保険者の死亡により本人のほか、父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的苦痛等による損害をいう。精神的損害の額は、被保険者の属性別に、〔1〕被保険者が一家の支柱である場合は2000万円、〔2〕被保険者が一家の支柱でない場合で65歳以上のときは1500万円、〔3〕被保険者が一家の支柱でない場合で65歳未満のときは1600万円とする(以下、これらの金額を「本件精神的損害額」と総称する。)。
(オ)その他の損害は、人身傷害事故と相当因果関係のある範囲内で、社会通念上必要かつ妥当な実費とする。

(3)Aは、令和2年1月、上記保険契約の被保険車両を運転中に自損事故を起こし、これにより死亡したものであって、本件人身傷害条項における被保険者(以下、単に「被保険者」という。)に当たる。

(4)Aの子らはいずれもAからの相続について相続放棄の申述をし、これらが受理されたため、Aの母であるBがAの遺産を単独で相続した。Bは第1審係属中の令和4年9月に死亡し、Bの子である被上告人らが本件訴訟を承継した。

第2 上告代理人古笛恵子の上告受理申立て理由第3から第5までについて
1 所論は、本件条項1が、保険金請求権者について、あえて「被保険者が死亡した場合はその法定相続人とする」と定めていることなどからすると、死亡保険金の請求権は、被保険者の第1順位の法定相続人であるAの子らに原始的に帰属し、被保険者の相続財産に属しないと解されるにもかかわらず、当該請求権が被保険者の相続財産に属するとした原審の判断には法令の解釈適用の誤りがあるというものである。

2 本件人身傷害条項によれば、人身傷害保険金は人身傷害事故により生ずる損害に対して支払われるものとされ、本件条項1の柱書きは、保険金請求権者を「人身傷害事故により損害を被った」者とする旨を定めている。また、本件人身傷害条項では、人身傷害保険金を支払うべき損害の額について、損害項目に応じて、これを実費、あるいは、損害の程度等を踏まえた特定の方法により算定される額としており、人身傷害保険金の額は、人身傷害事故により生ずる具体的な損害額に即して定まるものとされている。そして、損害を填補する性質の金員の支払等がされた場合は、当該金員の額を控除するなどして人身傷害保険金を支払うものとされている。これらの点からすれば、本件人身傷害条項において、人身傷害保険金は、人身傷害事故により損害を被った者に対し、その損害を填補することを目的として支払われるものとされているとみることができる。

 そして、本件人身傷害条項では、人身傷害事故により被保険者が死亡した場合においても、精神的損害につき被保険者「本人」等が受けた精神的苦痛による損害とする旨の文言があり、逸失利益につき被保険者自身に生ずるものであることを前提とした算定方法が定められていることからすれば、死亡保険金により填補されるべき損害が、被保険者自身に生ずるものであることが前提にされているといえる。

 以上のような本件条項1の文言、本件人身傷害条項の他の条項の文言や構造等に加え、保険契約者の通常の理解を踏まえると、本件条項1は、人身傷害事故により被保険者が死亡した場合を含め、被保険者に生じた損害を填補するための人身傷害保険金の請求権が、被保険者自身に発生する旨を定めているものと解すべきである。本件条項1のただし書は、死亡保険金の請求権について、被保険者の相続財産に属することを前提として、通常は法定相続人が相続によりこれを取得することになる旨を注意的に規定したものにすぎないというべきである。
 したがって、死亡保険金の請求権は、被保険者の相続財産に属するものと解するのが相当である。
 よって、所論の点に関する原審の判断は是認することができる。

第3 上告代理人古笛恵子の上告受理申立て理由第2(ただし、排除されたものを除く。)について
1 所論は、被保険者の死亡により精神的損害を受けた被保険者の父母、配偶者又は子(以下、父母、配偶者又は子を併せて「近親者」という。)が存在する場合、死亡保険金の額について、人身傷害保険金を支払うべき被保険者の精神的損害の額が本件精神的損害額の全額であることを前提として算定することはできないにもかかわらず、これができるとした原審の判断には法令の解釈適用の誤りがあるというものである。

2 本件条項2は、保険金請求権者として、人身傷害事故により損害を被った被保険者の近親者を掲げており、本件損害額基準は、被保険者が死亡した場合の被保険者の近親者の精神的損害について定めているから、被保険者の死亡によって固有の精神的損害を受けた近親者は、本件条項2に基づき、これを填補するための人身傷害保険金の請求権を取得するものと解される。

そして、人身傷害保険金を支払うべき損害の額は、本件損害額基準により算定された金額の合計額であるとされているところ、本件損害額基準では、被保険者の死亡により「本人のほか、父母、配偶者、子等の遺族が受けた」精神的損害の額として、被保険者の属性に応じた区分ごとに単一の金額である本件精神的損害額が定められている。そうすると、本件精神的損害額は、被保険者自身及びその近親者の精神的損害の填補として支払われるべき人身傷害保険金の総額を定めたものと解するのが相当である。

 その上で死亡保険金の額についてみると、本件人身傷害条項によれば、被保険者の近親者が存在しない場合には、人身傷害事故により死亡した被保険者の精神的損害の額が、本件精神的損害額の全額であることを前提として、死亡保険金の額を算定すべきこととなる。そして、本件条項2により保険金請求権者となる近親者が存在することによって、被保険者が受けた精神的苦痛等が減少するものとはいえず、本件人身傷害条項においても、当該近親者が存在する場合に当該近親者の保険金の額と死亡保険金の額とを調整する旨の定め等は存在しない。

加えて、被保険者の近親者が固有の精神的損害について保険金を請求する意思がない場合において、死亡保険金の額が減額されるとすれば、本件精神的損害額の全額に満たない額しか支払われないことになってしまい、本件損害額基準が被保険者の属性ごとに単一の金額である本件精神的損害額を定めていることとそぐわないものといわざるを得ない。

これらの点に加え、保険契約者の通常の理解を踏まえると、本件人身傷害条項は、被保険者が人身傷害事故により死亡した場合には、被保険者の近親者が存在するときであっても、人身傷害保険金を支払うべき被保険者の精神的損害の額が本件精神的損害額の全額であることを前提として、死亡保険金の額を算定するものとしていると解すべきである。そして、そのように解したとしても、本件人身傷害条項は、死亡保険金の請求権と、本件条項2に基づく被保険者の近親者の保険金の請求権について、上告人が、後者の請求権の金額の範囲内で、全ての保険金請求権者のために各保険金請求権者に対して履行をすることができる旨定めていると解することができるから、上告人において二重払の負担を負うものではないというべきである。

 以上によれば、死亡保険金の額は、人身傷害保険金を支払うべき被保険者の精神的損害の額が本件精神的損害額の全額であることを前提として算定されるべきであって、被保険者の死亡により精神的損害を受けた被保険者の近親者が存在することは死亡保険金の額に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
 よって、所論の点に関する原審の判断は結論において是認することができる。

第4 結論
 以上のとおりであるから、論旨はいずれも採用することができない。なお、その余の上告受理申立て理由は、上告受理の決定において排除された。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 堺徹 裁判官 安浪亮介 裁判官 岡正晶 裁判官 宮川美津子 裁判官 中村愼)
以上:5,253文字
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R 7-11-12(水):旧民法900条4号非嫡出子相続分規定を憲法違反とした最高裁判決紹介
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○「平成13年相続に平成25年改正相続法を適用した家裁審判紹介」の続きで、この判決の根拠となった平成25年9月4日最高裁判決(民集67巻6号1320頁、判時2197号10頁、判タ1393号64頁)関連部分を紹介します。

○平成13年7月に死亡したAの遺産につき、Aの嫡出子(その代襲相続人を含む。)である相手方らが、Aの嫡出でない子である抗告人らに対し、遺産の分割の審判を申し立てた事件で、原審平成24年6月22日東京高裁決定は、民法900条4号ただし書の規定のうち、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(本件規定)は、憲法14条1項に違反しないと判断し、本件規定を適用して算出された相手方ら及び抗告人らの法定相続分を前提に、Aの遺産の分割をすべきものとし、Aの嫡出でない子である抗告人が特別抗告をしました。

○これに対し最高裁判決は、Aの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたとして、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反し無効であるとし、原決定を破棄し、更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻しました。最高裁判決としては大変長いもので、ポイント部分のみ紹介します。

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主   文
原決定を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理   由
 抗告人Y1の抗告理由第1及び抗告人Y2の代理人○○○○,同○○○,同○○○○○の抗告理由3(2)について
1 事案の概要等
 本件は,平成13年7月▲▲日に死亡したAの遺産につき,Aの嫡出である子(その代襲相続人を含む。)である相手方らが,Aの嫡出でない子である抗告人らに対し,遺産の分割の審判を申し立てた事件である。
 原審は,民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(以下,この部分を「本件規定」という。)は憲法14条1項に違反しないと判断し,本件規定を適用して算出された相手方ら及び抗告人らの法定相続分を前提に,Aの遺産の分割をすべきものとした。
 論旨は,本件規定は憲法14条1項に違反し無効であるというものである。

2 憲法14条1項適合性の判断基準について
 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。

     (中略)

3 本件規定の憲法14条1項適合性について
(1)憲法24条1項は,「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。」と定め,同条2項は,「配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と定めている。これを受けて,民法739条1項は,「婚姻は,戸籍法(中略)の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。」と定め,いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用している。一方,相続制度については,昭和22年法律第222号による民法の一部改正(以下「昭和22年民法改正」という。)により,「家」制度を支えてきた家督相続が廃止され,配偶者及び子が相続人となることを基本とする現在の相続制度が導入されたが,家族の死亡によって開始する遺産相続に関し嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする規定(昭和22年民法改正前の民法1004条ただし書)は,本件規定として現行民法にも引き継がれた。

(2)最高裁平成3年(ク)第143号同7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁(以下「平成7年大法廷決定」という。)は,本件規定を含む法定相続分の定めが,法定相続分のとおりに相続が行われなければならないことを定めたものではなく,遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であることをも考慮事情とした上,前記2と同旨の判断基準の下で,嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1と定めた本件規定につき,「民法が法律婚主義を採用している以上,法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが,他方,非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものである」とし,その定めが立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって,憲法14条1項に反するものとはいえないと判断した。

 しかし,法律婚主義の下においても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分をどのように定めるかということについては,前記2で説示した事柄を総合的に考慮して決せられるべきものであり,また,これらの事柄は時代と共に変遷するものでもあるから,その定めの合理性については,個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され,吟味されなければならない。

     (中略)

しかし,嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする本件規定の合理性は,前記2及び(2)で説示したとおり,種々の要素を総合考慮し,個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし,嫡出でない子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題であり,法律婚を尊重する意識が幅広く浸透しているということや,嫡出でない子の出生数の多寡,諸外国と比較した出生割合の大小は,上記法的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえない。

キ 当裁判所は,平成7年大法廷決定以来,結論としては本件規定を合憲とする判断を示してきたものであるが,平成7年大法廷決定において既に,嫡出でない子の立場を重視すべきであるとして5名の裁判官が反対意見を述べたほかに,婚姻,親子ないし家族形態とこれに対する国民の意識の変化,更には国際的環境の変化を指摘して,昭和22年民法改正当時の合理性が失われつつあるとの補足意見が述べられ,その後の小法廷判決及び小法廷決定においても,同旨の個別意見が繰り返し述べられてきた(最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小法廷判決・裁判集民事196号251頁,最高裁平成14年(オ)第1630号同15年3月28日第二小法廷判決・裁判集民事209号347頁,最高裁平成14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号397頁,最高裁平成16年(オ)第992号同年10月14日第一小法廷判決・裁判集民事215号253頁,最高裁平成20年(ク)第1193号同21年9月30日第二小法廷決定・裁判集民事231号753頁等)。特に,前掲最高裁平成15年3月31日第一小法廷判決以降の当審判例は,その補足意見の内容を考慮すれば,本件規定を合憲とする結論を辛うじて維持したものとみることができる。

     (中略)

(4)本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は,その中のいずれか一つを捉えて,本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得るものではない。しかし,昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
 以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。
 したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。


     (中略)

5 結論
 以上によれば,平成13年7月▲▲日に開始したAの相続に関しては,本件規定は,憲法14条1項に違反し無効でありこれを適用することはできないというべきである。これに反する原審の前記判断は,同項の解釈を誤るものであって是認することができない。論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく原決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
以上:3,853文字
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R 7-11-11(火):肉体関係の有無問わず不貞行為を認めた地裁判決紹介
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〇原告が、原告の夫と被告との不貞行為により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料300万円と弁護士費用等の請求をしました。

○原告は、被告は原告の夫Aと令和2年11月以降毎日電話・LINEで連絡を取り令和3年2月にはAが借りたマンションに住み、Aと不貞行為に及んだと主張すると、被告はAとは肉体関係はなく交際もせず、Aの会社業務を手伝っただけで、LINEメールの遣り取りも冗談に過ぎず不貞行為はないと主張しました。

○これに対し、被告とAとのメッセージのやり取りは、ほぼ毎日のように行われており、Aから被告に対し、直接好意を伝えるメッセージや、被告からも頻繁にメッセージを送っており、また、Aが被告のために本件マンションを賃借したこと、Aが被告に金銭の援助をしていたこと、Aが本件マンションをしばしば訪れて被告と会っていたこと、同人らに抱き締めるなどの身体的接触があったことを示すやり取りも認められ、原告の婚姻共同生活の平和を侵害するものとして、不貞行為に当たるものと認めるのが相当であり、肉体関係の有無や、被告としてはAと交際するつもりがなかったことは、この判断を左右しないとして、慰謝料100万円の支払を命じた令和6年4月10日東京地裁判決(LEX/DB)判決本文を紹介します。

○Aが原告との離婚を決意したのは、それまでの原告の言動等にも一因があることがうかがわれるが、それを考慮しても、本件の事実経過や各証拠に照らせば、婚姻関係破綻の直接的な原因は、被告との不貞関係にあったと認定しています。不貞行為を原因としての婚姻破綻が認められると慰謝料は、100万円程度になるのが普通です。

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主   文
1 被告は、原告に対し、110万円及びこれに対する令和2年11月27日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する令和2年11月27日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、原告が、原告の夫と被告との不貞行為により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等330万円及びこれに対する不法行為後の日である令和2年11月27日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(証拠等を記載しない事実は当事者間に争いがない。以下,証拠について枝番を全て挙げる場合には枝番の記載を省略する。)
(1)原告と訴外A(以下「A」という。)は、平成26年に婚姻した夫婦である。(甲1)
(2)被告は、勤務していた飲食店に客として訪れたAと知り合い、遅くとも令和2年11月27日以降、Aとの間で、LINEのメッセージや電話により頻繁に連絡を取り合う関係にあった。被告は、令和3年5月頃以降、Aが経営する会社(以下「本件会社」という。)名義で借りたワンルームマンション(被告の肩書住所地のマンション。以下「本件マンション」という。)に寝泊りしている。 

(3)原告は、令和4年5月5日頃、Aと被告との間でやり取りされたLINEのメッセージを見て、同人らが不貞関係にあると考え、Aの携帯電話から、被告に対し、Aとの関係を解消するようにとのメッセージを送った。(甲2、5)
(4)Aは、令和4年10月13日頃、自宅を出て原告と別居し、原告に対し、弁護士を通じて離婚協議を申入れた。(乙3、弁論の全趣旨)

3 争点及び当事者の主張
(1)不貞行為の有無
(原告の主張)
 被告は、遅くとも令和2年11月27日以降、毎日、AとLINEや電話で連絡を取り、令和3年6月には、本件会社の寮としてAが借り上げた本件マンションに住み、Aから生活費等を渡され、A名義のクレジットカードで買い物等をしていた。Aは、本件マンションを度々訪れて宿泊し、被告と不貞行為に及んだ。

(被告の主張)
 被告は、Aから仕事を与えられたり、一緒に飲みに行ったりする仲であり、Aとの間に肉体関係はなく、交際もしていない。被告は、令和3年5月頃、当時の交際相手からモラハラやパワハラを受けていることをAに相談したところ、Aから、本件会社の業務を手伝うことを条件に、被告が日本にいるときの居住場所を用意する旨の申出を受けて、本件マンションに寝泊りするようになった。もっとも、被告は、1年のうちの大半は海外に滞在しており、日本にいるのは4か月程度であるし、被告が海外に滞在している間は別の者が本件マンションを利用していたのであり、Aが被告を本件マンションに住まわせていたというわけではない。Aから受けた送金は仕事の対価である。被告からAに対して「愛している」、「好きだ」といったメッセージを送ったことはないし、その他のメッセージも、冗談や、Aの機嫌を取るために送ったに過ぎない。

(2)損害額
(原告の主張)
 原告とAの婚姻生活は、本件不貞行為が発覚するまで良好であったが、本件不貞行為により婚姻関係が破綻した。被告は謝罪するどころか不貞行為の事実を否認し、慰謝料の支払を拒否するなど不誠実な対応を取っていることにより、原告の精神的苦痛は拡大しており、その損害は300万円を下らない。
 また、被告の態度により本件訴訟の提起を余儀なくされたことにつき、上記損害額の1割に当たる30万円を弁護士費用として請求する。

(被告の主張)
 争う。Aは、原告のAに対する嫉妬深い言動や精神的DV等に嫌気が差し、離婚を決意したのであって、婚姻関係破綻の原因は、主として原告にある。

第3 争点に対する判断
1 争点1について

(1)前提事実に加え、証拠(甲2、5)及び弁論の全趣旨によれば、被告とAとのLINEのメッセージのやり取りは、ほぼ毎日のように行われており、Aから被告に対し、「愛してる」といった直接好意を伝えるメッセージや、自らを「彼氏」、被告を「彼女」と称するメッセージが送られているほか、被告からも頻繁にメッセージを送っており、Aと連絡が取れない際には別紙のとおり自身の気持ちを伝えるメッセージを送ったりしていたことが認められる(甲2の5、5頁)。また、Aが被告のために本件マンションを賃借したこと(甲5、47頁、139頁等)、Aが被告に金銭の援助をしていたこと(甲5、35頁等)、Aが本件マンションをしばしば訪れて被告と会っていたこと、同人らに抱き締める等の身体的接触があったこと(甲2の5、6頁)を示すやり取りも認められる。
 以上によれば、被告とAの関係は、原告の婚姻共同生活の平和を侵害するものとして、不貞行為に当たるものと認めるのが相当である。

(2)被告は、Aとの間に肉体関係はなく、LINEのメッセージについてもAの機嫌を取っていただけであるなどと主張し、これに沿う証拠(乙3)を提出する。しかし、上記(1)の交際態様は客観的にみて原告の平穏な婚姻共同生活の維持という権利ないし法的利益に対する侵害と認められるものであり、肉体関係の有無や、被告としてはAと交際するつもりがなかったことは、上記判断を左右しない。
 また、Aからの送金が仕事の対価であることを示す的確な証拠はなく、その他、不貞行為に当たらないことを示す事情として被告が主張する事情はいずれも、上記判断を左右するものとはいえない。

2 争点2(損害額)について
 前提事実に加え、証拠(甲4、7から10)及び弁論の全趣旨によれば、原告とAは、Aと被告との関係発覚を契機として別居に至ったものと認められる。Aが離婚を決意するに至ったことについては、それまでの原告の言動等にも一因があることがうかがわれるものの(乙3)、このことを考慮しても、本件の事実経過(前提事実(3)、(4))や上記各証拠に照らせば、婚姻関係破綻の直接的な原因は、被告との不貞関係にあったというべきであるから、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料として、100万円を認めるのが相当である。
 また、原告が弁護士に委任して訴訟提起することを余儀なくされたことにつき、その1割に当たる10万円を、損害として認めるのが相当である。

第4 結論
 よって、原告の請求は主文1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第37部 裁判官 中井彩子
以上:3,544文字
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R 7-11-10(月):映画”劇映画 孤独のグルメ”を観て-実に美味そうな食事シーンたっぷり
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○令和7年11月9日(金)は、午後AmazonPrimeで映画「劇映画 孤独のグルメ」を鑑賞しました。2025(令和25)年1月製作で、映画コムでは「原作・久住昌之、作画・谷口ジローによる同名漫画を実写化し、グルメドキュメンタリードラマの代名詞的存在として長年にわたり人気を集めるテレビドラマ「孤独のグルメ」シリーズの劇場版。主演の松重豊が自ら監督を務め、主人公・井之頭五郎が究極のスープを求めて世界を巡る姿を描く」と解説されています。

○私は原作漫画を読んだことはありませんが、松重豊氏は好きな俳優の1人で、何となく面白そうだと感じて鑑賞しました。AmazonPrimeを開くと良く表示されていたからです。松重豊氏は、随分前になりますが、NHK大河ドラマ「毛利元就」で毛利元就二男吉川吉春役を演じたのは初めて観ましたが、最近ではNHKTV小説「カムカムエヴリバディ」「ひなた編」で、ベテラン大部屋俳優・伴虚無蔵役を巧みに演じていたのと良く覚えています。

○その松重豊氏が監督を務めたというのは鑑賞中は判っていませんでしたが、コメディとしては、笑える場面が結構あり、面白く鑑賞できました。松重氏演ずる輸入雑貨の貿易商・井之頭五郎が主人公ですが、「グルメ」と銘打つだけあって食事シーンがストーリーの3分の1位占めています。最初のパリ市内のフランス料理レストランでのオニオンスープとビーフシチューの食事シーンから始まり、実に美味そうに松重氏が、料理を食します。空腹時に観たらお腹が鳴りそうです。

○松重氏演ずる主人公は、冒頭飛行機内での爆睡で二度の食事を取り逃し、空腹を抱えてパリに降り立ちます。出てくるパリの街並みは、「第16回業革シンポ海外視察旅行感想-料理等雑感」記載の平成21年5月視察旅行でパリに二泊し、散歩して良く覚えており、映画でも懐かしくパリの街並みを鑑賞しました。主人公がパリのフランス料理店に居ると、パリ在住の女優杏氏が登場したので、実際、本物のパリで撮影をしたのだろうと思っていました。ところが、映画コムのレビューの中にスタジオでの合成画面の如き記載があり、ちとガッカリしました。その後、韓国領の島や韓国の街も登場しますが、全てスタジオでの合成との報告です。

○その真偽は不明ですが、パリ・五島列島・韓国・東京と続く、松重氏の如何にも美味そうに食する食事シーンは、一見に値します。

『劇映画 孤独のグルメ』本予告<主題歌:ザ・クロマニヨンズ「空腹と俺」>【2025年1月10日(金)公開】


「孤独のグルメ」集大成プロジェクトムービー≪テレビ東京開局60周年特別企画≫


以上:1,081文字
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R 7-11- 9(日):映画”アメリカン・ギャングスター”を観て-アメリカ無法地帯に驚く
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○令和7年11月8日(土)は、ツルカメフラメンコアンサンブル練習日で、ベースギターを含めたメンバー5名全員で練習をしました。やはりベース音が入ると演奏に厚みがでます。しかし、難聴の私には、音が重なると重低音が良く聴き取れないのが辛いところです。チャルダッシュはこの二週間殆ど弾いていなかったのですが、しばらく練習を怠ると指の動きがスムーズにできなくなることを実感しました。歳を取るほど常に指ならしをしていないと指の動きが鈍くなり、短時間でも毎日指をならすことが重要と実感しました。

○練習終了後、夕食を取りながら、恒例の映画鑑賞として、最近購入した4KUHDソフトで2007年製作映画「アメリカン・ギャングスター」を鑑賞しました。令和7年9月19日に2874円で購入していましたが、この11月9日には32%引き4498円で販売されています。4KUHDソフトの販売価格は時期によって大きく変動します。4KUHDソフトには劇場上映版と30分増しのエクステンデッド版がついていました。

○映画は冒頭にこの映画は実話に基づきますとの表示が出て始まりました。映画コムでは「60年代末から70年代初頭にかけてのニューヨーク・ハーレムにアフロ・アメリカン、フランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)が作り上げた麻薬王国の興亡と彼を追う刑事リッチー・ロバーツ(ラッセル・クロウ)の執念の捜査が描かれる。」と解説されています。1955年11月から1975年4月まで約20年間続いたベトナム戦争後半時期に重なる時代の映画です。

○主人公麻薬王フランク・ルーカスを演じる1954年生まれのデンゼル・ワシントン氏53歳、相主人公刑事リッチー・ロバーツを演じる1964年生まれのラッセル・クロウ氏43歳時の作品です。劇中のフランク・ルーカスは30代から40代の設定のはずですが、令和7年現在70歳を越えたデンゼル・ワシントン氏が53歳時に40代を若々しく演じています。ストーリー前半は、黒人フランクが、仕えていた親分の死をきっかけに麻薬王にのし上がる過程と、刑事リッチーが家庭崩壊になりながら徹底した麻薬捜査官になる過程が代わる代わる描かれます。しかしその過程の説明不足で良く理解出来ない部分が多くありました。エクステンデッド版を再鑑賞したいと思っています。

○後半から結末にかけては、ストーリーもシンプルで良く理解出来ましたが、最後の麻薬王フランクと刑事リッチーの対決で明らかにされる当時のアメリカ捜査官とマフィアや麻薬取引者との癒着ぶりにはただただ驚きながら、映画冒頭の実話に基づく映画との説明が納得できました。しかし、令和7年から100年以上も前なら判るのですが、60年ばかり前でこれほどアメリカが無法地帯が残っていたのには驚きでした。

アメリカン・ギャングスター


American Gangster Official Trailer #1 - Denzel Washington, Russell Crowe Movie (2007) HD


以上:1,250文字
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R 7-11- 8(土):義父母の不貞行為配偶者に対する慰謝料請求を棄却した地裁判決紹介
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○被告夫とその妻亡Dは平成16年に婚姻し、長男・長女をもうけましたが、平成30年10月頃から被告が不貞行為を発覚する令和2年8月まで2年間継続し、Dはこれが原因で、同年9月にうつ病を発症して心療内科に通院し、令和3年5月に首吊り自殺をしました。

○そこで亡Dの両親である原告らが、亡Dの夫である被告の不貞によりうつ病を発症し自殺したことについて、原告らが、被告には妻の心身への配慮を十分にする義務があったにもかかわらず、これを怠ったことが不法行為を構成する旨を主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として各1650万円の請求をしました。

○これに対し、亡Dが通院を始めた頃から、被告は、上記通院を含むDの様子を一番近くで見ていたというべきであり、Dの心身を気遣うべき立場にあったとはいえるが、他方、Dは、自殺に至るまで、自殺企図に及んだり、被告に対して自殺をほのめかしたことがあるとまで認めるに足りる証拠はなく、Dの死亡について、原告ら主張に係るDの心身への配慮を十分にする義務を被告が怠ったことにより、Dを死亡させたとまで断ずることはできないととして、原告らの請求をいずれも棄却した令和6年4月22日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○亡D自身は被告夫に対し貞操義務違反を理由に慰謝料請求権を有していますが、これを相続するのは配偶者である被告とその長男・長女で、亡D両親は不貞行為による損害賠償請求権はありません。そこでDが死亡したことについて、Dは、被告の不貞行為により、原告らに自殺をほのめかすようになり、心療内科にも通っており、被告はそれを認識しながら、Dの心身への配慮を十分にせず、その結果、被告は、原告らの子であるDを死亡させたたことは被告の不法行為を構成すると主張しました。

○親として被告によって子Dを奪われた無念は判りますが、判決は原告らがDの死により深い悲しみにあることは認められるものの、被告に対する請求を基礎付ける義務違反はこれを認めるに足りないといわざるを得ないとしており、やむを得ない結論と思われます。

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主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は、原告Aに対し、1650万円及びこれに対する令和4年3月25日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Bに対し、1650万円及びこれに対する令和4年3月25日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告らの子が、同人の夫である被告の不貞によりうつ病を発症し自殺したことについて、原告らが、被告には妻の心身への配慮を十分にする義務があったにもかかわらず、これを怠ったことが不法行為を構成する旨を主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求する事案である。

2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠(〔 〕内の数字は関係証拠等の該当頁を指す。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、証拠等の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。)
(1)当事者について
ア 原告A(以下「原告A」という。)は、被告の義父であり、被告と婚姻関係にあったD(昭和54年○月生。以下「D」という。)の実父である。
 原告B(以下「原告B」という。)は、被告の義母であり、Dの実母である。
 原告らの間には、長男であるE(以下「E」という。)及び長女であるDの2名の子がおり、EはDの兄にあたる(原告A本人尋問〔23、24〕)。
イ 被告は、Dが令和3年5月22日に死亡するまで、Dの夫であった者である。

(2)被告の不貞行為について
 被告とDは、平成16年9月に婚姻し、被告とDの間に、平成18年に長男、平成26年には長女が生まれ、円満な家族関係を築いていた。
 しかし、被告は、平成30年10月頃から、F(以下「F」という。)と継続的に不貞行為を行っていた。被告とFとの不貞関係は、令和2年8月27日にDに発覚するまで、約2年間にわたって続いた。
 Dは、同年9月17日から心療内科に通院するようになり、被告も、Dが心療内科に通院していたことを認識していた。

3 争点及び争点に関する当事者の主張の骨子

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 当事者間に争いのない事実、上記第2の2の前提事実(以下単に「前提事実」という。)並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 Dは、令和2年8月27日に被告の不貞を知って以来、被告は猛省をしているが不眠、食欲不振、動悸、息切れ及び感情の波があるとのことで、同年9月14日に心療内科であるaを受診し、カウンセリングの希望により心療内科であるbに通院を始めた(前提事実、甲11)。Dは、同日、うっすらと涙を浮かべつつ、まとまった話をし、死については「考えることもある。」と述べ、医師はうつ病との診断をした。(甲11)

 Dは、上記クリニックの受診を継続し、同月28日には調子は多少楽になった、被告については、「こちらが真剣に話しているのに寝ることとかもあって、病院に行ったらADHDだと。」と述べ、同年10月12日にも多少楽になった、被告のADHDについて「薬も飲み始めたみたい。」と述べ、同月は投薬中のセディールのペースは減った。同年11月には、「もやもやが続いている」と述べ、医師は、調子に応じた生活を送ること、今は薬に頼ってもいいとしてプルゼニドの投薬を試行した。

Dは、同年12月15日の受診においては、「気分の波がいいときは夫も反省しているからと許せる気持ちにもなる。しかし、夫婦としては、夫の不倫の『質の悪さ』を許せない。」など述べ、医師は、今後は年明けから隔週で50分の受診とする方針とし、月2回の通院はDが亡くなるまで続いた。Dは、令和3年1月26の通院の際に「年が変わって切り替えようとしたけど、年末に夫と喧嘩をして無理。私がよせばいいいのに、性格的に白黒つけたがるから、いろいろ聞いてしまった。感情的に一方的に怒っていたら、息子が起きた。」など述べ、同年2月9日の受診の際には、「夫に出て行ってほしいと言いました。でもいざ出て行かれそうになると寂しくなってしまった。」など述べ、同年3月30日、「主人が暗い。落ち込み、10キロくらい痩せている。元気がないと、私も何か責めることができず、励ましたりご飯を勧めたりしている。」など述べ、波はあるが薬の頻度は減り、同日の受診及び同年4月27日の受診において、困っていることとして突発的なイライラを挙げた。

また、同年5月18日の受診においては、調子については、だいぶ良く、友達夫婦とバーベキューに行き、被告の不貞行為を知っている友人なので、「夫は周りからいじられたり、怒られたり、人から言ってもらえると私としてはすっきりした。」など述べ、波はあるが調子は落ち着いてきた旨、睡眠は薬を飲まなくても大丈夫になり、食事は食欲が出てきた旨を述べた。上記クリニックの診療録において、希死念慮についての記載は、上記初診時の記載のみで他にはない。(甲11)

 被告とDは、令和2年8月27日から令和3年5月22日までの間、Dは被告の上記の不貞行為について悩み、時には上記診療中のDの供述にあるような夫婦喧嘩がありながらも、同月18日頃には少し落ち着いていたところ、同月21日夜、Dが被告の不貞行為について問いただし、被告の回答に対しDが怒りを覚え「信じていたのに残念」など述べ、明け方くらいにお互いに寝た方が良いということになり被告とDは眠りについた(甲11、12、13、乙5、原告ら本人尋問の結果、被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨)。

 Dは、同月22日、クローゼットで首を吊り自殺した。被告は,Dの搬送先の病院にて、泣きながら原告らに謝罪をした(甲11、12、13、乙5、原告ら本人尋問の結果、被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨)。

 被告は、同年6月3日、上記クリニックに電話をし、最近は落ち着いていたが、被告の不貞行為の証拠写真を持っており、夜にまた思い出して夜中まで不安定だった、そのようなときはプロチゾラムを飲んで寝ており、同日もそうであったこと、翌朝Dは起きたが頭痛がする旨を述べ再び寝室に行ったこと、様子を見に行ったら首をつっていたこと、まだ受け止めきれないが子も小さいので何とか頑張っていこうと思うなど述べた。同クリニックの医師は、同月18日受診時には落ち着いているように見えたが、突発的な衝動性は残っていて、自殺に至ったとの所見をもった。(甲11)

2 争点(1)について
 上記認定事実によれば、Dが上記通院を始めた令和2年9月頃から、被告は、上記通院を含むDの様子を一番近くで見ていたというべきであり、Dの心身を気遣うべき立場にあったとはいえるが、他方、上記認定事実によれば、Dは、上記自殺に至るまで、自殺企図に及んだり、被告に対して自殺をほのめかしたことがあるとまで認めるに足りる証拠はなく、かえって、令和3年5月中旬頃には医師の見立てによっても落ち着いた状態であったことが認められる。
 以上によれば、Dの死亡について、原告ら主張に係るDの心身への配慮を十分にする義務を被告が怠ったことにより、Dを死亡させたとまで断ずることはできないといわざるを得ない。
 

3 結論
 以上によれば、原告らがDの死により深い悲しみにあることは認められるものの、被告に対する請求を基礎付ける義務違反はこれを認めるに足りないといわざるを得ない。
 よって、原告らの請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第25部 裁判官 宮崎雅子
以上:4,045文字
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R 7-11- 7(金):過去の婚姻歴・子供の存在秘匿判明元妻に60万円慰謝料認定地裁判決紹介
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○原告元夫が、被告元妻の有責行為により被告との離婚を余儀なくされたとして、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金約2175万円の支払を求めました。損害内訳概要は、結婚に際し購入した指輪等合計約202万円、結婚により失った退職金約1186万円、治療費・通院慰謝料約95万円、離婚慰謝料500万円、弁護士費用約200万円です。

○原告と被告は婚活サイトで知り合い、平成26年10月から交際を始め、平成28年8月に婚姻しました。被告は平成30年8月、被告が自宅に戻らないことが増え始めて不審を抱き、被告の戸籍を取り寄せ、被告の前夫との二度の婚姻歴と2人の子供が居ることが判明し、被告前夫マンションに行き、2人の子供の面倒を見ていることを打ち明けられて離婚に至ったとして離婚慰謝料500万円を請求しました。

○これに対し、被告が自宅に戻らない頻度が増えたことに不審を抱いた原告が調査をしたことをきっかけとして、被告が離婚歴や子がいることを隠して前夫のマンションに通い続けていたことが、原告に発覚したにもかかわらず、被告が、原告の十分な理解を得ぬまま、それまでと同様、前夫のマンションに通い、原告よりも前夫との関係を優先していると疑われても仕方のない状況を継続したため、原被告の婚姻関係が破綻するに至ったとして慰謝料60万円と弁護士費用6万円の支払を命じた令和6年8月15日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○原告元夫とすれば元妻は前夫との二度の婚姻歴・2人の子供の存在を隠して結婚し、その上、結婚後も隠れて前夫との子供の面倒を見ていたことにショックを受けて抑うつ状態となりメンタルクリニック通院を余儀なくされ、正に踏んだり蹴ったりの酷い目にあったとして失った退職金まで含めて2175万円も請求しました。しかし認められたのは慰謝料僅か60万円だけで、おまけに元妻からの貸金反訴が26万円認められ、踏んだり蹴ったりがさらに酷くなったと、抑うつ状態が悪化したのではと心配になる事案です。

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主   文
1 被告は、原告に対し、66万円及びこれに対する平成30年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は、被告に対し、26万5489円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを100分し、その97を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本

 被告は、原告に対し、2175万7149円及びこれに対する平成30年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 反訴
 原告は、被告に対し、26万5489円及びこれに対する平成27年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件本訴は、原告が、被告の有責行為により被告との離婚を余儀なくされたとして、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金2175万7149円及びこれに対する不法行為日(離婚成立日)である平成30年9月29日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 本件反訴は、被告が、原告のために支出した株式の購入代金の返済を受けていないとして、原告に対し、消費貸借契約に基づき、株式購入代金103万0884円の一部26万5489円及びこれに対する平成27年11月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実
 後掲証拠(特に断りのない限り、枝番を含む。以下同じ。)によれば、次の事実が認められる。
(1)当事者(甲1)
 原告(昭和45年生)と被告(昭和50年生)は、平成28年8月9日に婚姻し、平成30年9月29日に離婚した元夫婦である。原告と被告の間に、子はいない。

(2)当事者が婚姻する前の婚姻歴
ア 原告は、平成12年3月4日、前妻と婚姻して一子(平成13年生)をもうけたが、平成27年11月5日、子の親権者を前妻と定めて前妻と調停離婚した(甲1)。
イ 被告は、平成14年1月6日、前夫と婚姻して二子(平成17年生、平成19年生)をもうけ、平成24年8月1日、子の親権者を前夫と定めて前夫と離婚したものの、平成26年10月3日、前夫と再婚し、同年11月21日、子の親権者を前夫と定めて前夫と再離婚した(甲2の1ないし5)。

2 争点

     (中略)

第4 当裁判所の判断
1 本訴について

(1)前提事実、証拠(後掲証拠のほか、甲21、乙27、乙32、証人K、原告、被告)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠は採用することができない。
ア 婚姻に至る経緯
 原告と被告は、平成26年10月3日(被告の前夫との再婚日)、婚活サイトで知り合いメッセージのやり取りを始め、遅くとも同月19日までに、交際を開始した。
 原告は、上記サイトの自己紹介欄に、離婚歴ありと事実と異なる記載をしていたが、同日、被告に対し、婚姻中である旨を明かした。他方、被告は、上記サイトの自己紹介欄に未婚で子なしと事実と異なる記載をしていたが、原告に対し、自身の婚姻歴や子の有無を明かすことはなかった。
 原告と被告は、交際を続け、平成28年8月9日、婚姻した。

イ 婚姻中の生活状況
(ア)被告は、原告の子をもうけるために、平成28年12月及び平成29年3月から同年8月頃までの間に不妊治療を受けた(乙23)。
(イ)原告は、被告が、平成29年11月、勤務先から米国駐在の内示を受けたことから、同年12月31日、それまで勤務していた会社を退職し、被告の米国駐在に同行する準備を進めた(甲11、甲12、乙24)。
(ウ)原告と被告は、平成30年8月、同月に旅行することを企図し、メッセージのやり取りをした(甲16の2)。

ウ 離婚に至る経緯
(ア)被告は、原告の婚姻後も、前夫のマンションに通って子の面倒をみており、面倒をみた後に自宅に戻らずに宿泊することもあったが、原告には嘘を吐いて隠していた。
(イ)原告は、平成30年8月頃、自宅に戻らない日が増え始めた被告を不審に思ったことから、自宅に置いてあった被告の財布を確認したところ、子が書いた手紙と中学校の入館証を見つけた。そこで、原告は、被告の戸籍を取り寄せたところ、被告に前夫との二度の婚姻歴があること、前夫との間に二子をもうけていることを知った。

(ウ)原告は、平成30年8月31日、被告の前夫のマンションに行き、被告が現れるのを待っていたところ、被告が上記マンションに入るところを確認したので、被告に連絡を取った。被告は、同日、原告に対し、自身に婚姻歴があり前夫と間に二子をもうけていることを認めた上で、前夫との子の面倒をみるために前夫のマンションに毎日通っていたこと、前夫とは接触していないことなどを話した。
 原告は、被告との婚姻関係を修復しようと試みたが、被告は、その後も、前夫のマンションに通い続け、自宅を留守にすることを続けた。

(エ)原告は、平成30年9月28日、翌日が前夫との子の運動会なので実家に泊まる旨のメッセージを送ってきた被告に腹を立て、被告に対し、「あなたとは離婚する」、「子供の面倒をみるのは、我慢するけど、そのために家に帰ってこないことは我慢できない」とのメッセージを送った(乙33)。
 被告は、同月29日、原告に電話をして原告の離婚意思を確認した上で、離婚届を提出した。上記離婚届は、原告が、以前に被告と口論した際に署名したものであった。

(2)争点1(被告の不法行為の成否)について
ア 上記(1)で認定した事実によれば、平成30年8月、被告が自宅に戻らない頻度が増えたことに不審を抱いた原告が調査をしたことをきっかけとして、被告が離婚歴や子がいることを隠して前夫のマンションに通い続けていたことが、原告に発覚したにもかかわらず、被告が、原告の十分な理解を得ぬまま、それまでと同様、前夫のマンションに通い、原告よりも前夫との関係を優先していると疑われても仕方のない状況を継続したため、原被告の婚姻関係が破綻するに至ったものと認められるから、原被告の婚姻関係が破綻した主たる原因は、被告にあるといえる(なお、上記(1)で認定した事実によれば、被告は、原告の同意を得て離婚届を提出したものと認められる。)。

イ これに対し、被告は、被告の婚姻歴及び前夫との子の存在が発覚する前から、原被告の婚姻関係は、原告が被告に対して与えた過度の経済的負荷(自動車、マンション及び株式の購入並びに多額の生活費の負担)や、暴力、暴言及び脅しにより、破綻の危機にあったから、破綻の主たる原因は、被告の行為ではないと主張する。

 しかし、後記2(1)イで認定するとおり、被告が主張する自動車やマンション、株式の購入は、いずれも婚姻前のものであり、被告はそれでもあえて原告と婚姻したのであるから、これらの購入が、原被告の婚姻関係を破綻させる原因になったとはいえない。また、証拠(甲21、乙2ないし乙4、乙32、原告、被告)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告は、婚姻直後から、些細なことが原因で喧嘩をすることがあり、その中で、原告が、離婚に言及したり、離婚届に署名するなど、原被告の婚姻関係には、被告の離婚歴や子が発覚する前から必ずしも円満であるとは言い難い面があったことは否定できないものの、上記(1)イで認定した婚姻中の生活状況の内容に照らすと、原告が、被告に対し、婚姻関係の修復を困難にするほど、多額の生活費を負担させたり、過度の暴力や暴言、脅しをしたりしていた事実までは認められない。
 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

ウ 以上によれば、被告は、原告に対し、離婚を余儀なくさせたことについて、不法行為責任を負う。

(3)争点2(消滅時効の成否)について
 被告は、原告の主張する損害賠償請求権のうち虚偽の事実の告知に係る部分については、消滅時効が完成したと主張する。

 しかし、離婚に伴う損害賠償請求権は、離婚が成立したときに初めて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知ったこととなるものと解するのが相当であるところ(最高裁昭和43年(オ)第142号同46年7月23日第二小法廷判決・民集25巻5号805頁参照)、原被告の離婚が成立したのは、平成30年9月29日であるから、本訴請求に係る損害賠償請求権の消滅時効期間は同日から進行することになる。そして、弁論の全趣旨によれば、原告は、令和3年9月24日、本訴請求に係る損害賠償請求について東京簡易裁判所に調停(同裁判所同年(ノ)第471号)を申し立てたこと、同調停は、同年12月8日、不成立により終了したことが認められ、また、原告が、同月18日、本訴の提起をしたことは、当裁判所に顕著である。そうすると、原告は、被告との離婚が成立した日から3年が経過する前に調停の申立てをし、同調停の不成立から6か月が経過する前に本訴の提起をしたということになるから、本訴請求に係る損害賠償請求権の消滅時効は完成していない(民法147条)
 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

(4)争点3(原告に生じた損害及びその額)について
ア 結婚に際し購入した物品等の費用について
 証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告と婚姻するに当たり、マリッジリング等を購入したことが認められる。
 しかし、原告が、被告に離婚歴や子がいることが発覚した後に被告との関係修復に努めたこと(上記(1)ウ(ウ))に照らすと、被告が離婚歴や子がいることを隠して原告と婚姻したこと自体が、原被告の婚姻関係を破綻させる原因になったとは認められないから、結婚に際し購入したマリッジリング等の費用が、原被告の婚姻関係の破綻と相当因果関係のある損害であるとは認められない。

イ 退職金について
 原告は、被告の虚偽の告知がなければ被告と婚姻することはなく、被告の米国駐在に同行するために退職することもなかったとして、定年退職した場合に想定される退職金と実際に受領した退職金との差額が損害であると主張する。
 しかし、証拠(乙24、乙32、被告)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から退職を思いとどまるよう忠告を受けたにもかかわらず、キャリアアップのために、勤務先の会社を退職して被告の米国滞在に同行することを決断したものと認められ、この事実に照らすと、原告の主張する退職金の差額相当額が、原被告の婚姻関係の破綻と相当因果関係のある損害であるとは認められない。

ウ 治療費及び通院慰謝料について
 証拠(甲6ないし甲10)によれば、原告は、平成30年8月から同年12月にかけて、心療内科や耳鼻咽喉科等に通院し、治療や薬の処方を受けたことが認められる。
 しかし、これらの通院治療の対象となった原告の症状の主たる発生原因が、原被告の婚姻関係の破綻にあったと認めるに足りる的確な証拠はなく、上記通院治療に伴う費用や精神的苦痛が、原被告の婚姻関係の破綻と相当因果関係のある損害であるとは認められない。

エ 精神的慰謝料について
 原告は、被告の上記(2)アで認定した有責行為により離婚せざるをえなくなり、精神的苦痛を被ったものと認められる。
 他方、被告が、前夫のマンションに通い続けていたのは、前夫との子の面倒をみるためであって、被告と前夫との間に内縁関係があったとは認められない。また、上記1(2)イで説示したとおり、原被告の婚姻関係には、被告の離婚歴や子がいることが発覚する前から円満であるとは必ずしも言い難い面があったことは否定できず、原被告の婚姻期間も約2年1か月と短く、子もいない。
 これらの事情に加え、本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の離婚に伴う精神的苦痛に対する慰謝料としては60万円が相当である。


オ 弁護士費用について
 本件事案の内容、審理の経過、認容する請求の内容その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、被告による不法行為と相当因果関係にある弁護士費用相当額は6万円とするのが相当である。

カ 小括
 以上によれば、被告は、不法行為に基づき、原告に対し、66万円の損害賠償金及びこれに対する不法行為日(離婚成立日)である平成30年9月29日以降の改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
以上:6,071文字
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R 7-11- 6(木):期間4年の不貞行為について慰謝料100万円を認めた地裁判決紹介
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○被告が原告の夫Cと、平成29年から令和3年まで約4年間に不貞行為を継続し、令和3年にはCの子を出産して精神的苦痛について慰謝料600万円の支払を求めました。

○被告は、Cは被告以外にも肉体関係をもった女性が居たことを知りながらCと関係を持ったもので既に原告とCの夫婦関係は破綻していたこと、不貞行為発覚後も原告とCは同居を継続し婚姻関係が破綻していない等の理由で責任がないと主張しました。

○これに対し、本件不貞行為前に、原告とCが別居していたとか、具体的な離婚協議に入っていたといった事情は認められず、原告とCの婚姻期間は、本件不貞行為の開始時点で、24年余りのところ、不貞行為の期間は約4年に及び、被告はCの子を妊娠、出産したことや、原告とCは、離婚しておらず、本件不貞行為発覚後も、同居を継続していることが認められる等の事情から慰謝料を100万円と認めた令和6年8月8日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

○被告は、Cについて関係を始めた当時、他にも女性関係があったので原告との夫婦関係は破綻していたと主張しましたが、これに対し、そのようなケースに破綻を認め不貞相手に対する慰謝料請求を認めないと、共同不法行為責任を負うことになる不貞をした配偶者に対する不貞の慰謝料請求も認められないことになり、不貞行為を繰り返す者を利することにもなりかねず不合理と認定しています。そのようなCを利することになるとの認定ですが、本件で最も責任があるのはCと思われます。Cは原告に有利な証言をする証人となっているようですが、被告はCに対しどのように対処しているのか不明です。

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主   文
1 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する令和5年2月2日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを6分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、600万円及びこれに対する令和5年2月2日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、被告が原告の夫であるC(以下「C」という。)と不貞行為をしたとして、原告が、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料600万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年2月2日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いがないか、掲記の証拠等により容易に認められる事実)
(1)
ア 原告とCは、平成4年11月6日に婚姻した(甲1)。
イ 原告とCとの間には、子はいない(甲1、弁論の全趣旨)。

(2)
ア 被告は、平成29年2月頃にCと知合い、その後、同年より交際を開始した(争いがない。)。
イ 被告は、平成29年以降、Cが婚姻していることを知りながら、Cとの交際を継続し、令和3年5月に妊娠し、令和4年○月○日に出産をした(争いがない。)。
 上記被告が出産をした子は、DNA鑑定の結果、Cの子であることが確定し、令和4年5月6日、Cにおいて認知をした(争いがない。甲1)。

(3)なお、原告は、令和3年8月頃、Cから、被告と交際していること知らされ、また、同年12月頃、被告がCの子と思われる子を妊娠していることを知らされた(甲7、弁論の全趣旨)。

2 争点
 本件では、被告がCと不貞行為を行っていたこと(以下「本件不貞行為」という。)については争いがなく、本件の争点は、以下のとおりである。
(1)本件不貞行為の開始時点で原告とCの婚姻関係は破綻していたか
(2)被告が原告とCの婚姻関係は破綻していると認識したことについて、被告に過失がないといえるか
(3)原告の損害

3 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)について
(被告の主張)
 Cは被告と交際するより前に原告以外の複数の女性と交際し、連日のように25時から26時に帰宅していた上、その様子が被告を含む周囲の人間にも知られており、その直後に被告と交際を開始してからも、被告が交際相手であるとの前提で行動し、積極的に妊娠にも協力した上、被告のためにマンションの賃借人となっており、タイで買春までしていることからすれば、被告と交際した当時においては既に原告とCとの婚姻関係が破綻していることは明らかである。したがって、被告の不法行為は成立しない。

(原告の主張)
 被告は、本件不貞行為の開始時には既に原告とCの婚姻関係は破綻していた旨主張するが、争う。原告とCは、婚姻後、現在に至るまで同居を続け、本件不貞行為が発覚するまでの間、離婚の話をしたこともなかったのであり、原告とCの夫婦関係は円満であった。

(2)争点(2)について
(被告の主張)
 仮に、原告とCの婚姻関係が破綻していなかったとしても、Cが原告以外の女性と交際していた(肉体関係を持っていた)ことなどを知りながら、被告がCと交際を開始したことからすれば、被告には、Cと交際を開始した当時、原告とCの婚姻関係が破綻していると認識したことについて過失がなかったことは明らかである。

(原告の主張)
 争う。
 Cが被告との交際期間中も自宅に帰っていたことや、妊娠が発覚するまで被告がCに対して離婚を求めたことはなく、被告はCとの関係を単なる愛人関係として捉えていたといえることなどからすれば、被告が、本件不貞行為の当初から、原告とCの婚姻関係が破綻しているとの認識を有していなかったことは明らかである。

(3)争点(3)について
(原告の主張)
 原告とCの婚姻関係は、本件不貞行為以前と同様の夫婦関係に戻ることは不可能であり、本件不貞行為によって、原告とCの婚姻関係は破綻に至ったことは明白である。
 原告は、被告の本件不貞行為により、著しい精神的苦痛を受けた。加えて、その後の被告の対応や行動によっても、更なる精神的苦痛を受けた。原告の受けた損害は600万円を下らない。

(被告の主張)
 争う。本件不貞行為が発覚後も、原告はCと同居しており、離婚等の予定もないとのことであり、本件不貞行為により、原告とCの婚姻関係が破綻に至ったとはいえない。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について

(1)被告は、被告の本件不貞行為より前に、Cが複数の女性と不貞行為をしていたから、原告とCの婚姻関係は既に破綻していたと主張するものであると解される。
 確かに、不貞行為は離婚事由(民法770条1項1号)とされているが、不貞行為があっても、必ず当該夫婦が離婚に至るわけではなく、相手方配偶者がこれを宥恕し、婚姻関係を継続することも見られるところである。

不貞行為があり、別居に至ったとか、具体的な離婚協議に入っていたといった事情があれば格別、そのような事情がない限り、不貞行為があったことから、直ちに婚姻関係が破綻したと認めることは困難であると解する。そして、本件において、本件不貞行為前に、原告とCが別居していたとか、具体的な離婚協議に入っていたといった事情は認められない(証人C(陳述書(甲8)を含む。以下同じ。)、原告本人(陳述書(甲7)を含む。以下同じ。)、弁論の全趣旨)。

 なお、仮に、本件のようなケースで破綻を認め、不貞相手に対する慰謝料請求を認めないとすると、共同不法行為責任を負うことになる不貞をした配偶者に対する不貞の慰謝料請求も認められないことになると解されるが、それでは、不貞行為を繰り返す者を利することにもなりかねず、不合理である。

(2)以上からすれば、本件不貞行為より前に原告とCの婚姻関係が既に破綻していたと認められないことになるが、訴訟の経緯等に鑑み、更に検討を加える。
ア 被告は、Cが平成27年より前にDに宿泊した女性と不貞関係にあったと主張するが、証人Cはこれを否定するところ、被告本人(陳述書(乙20)を含む。以下同じ。)によっても、このような話をCなどから聞いたというにとどまっており、客観的な裏付けがあるわけではなく、この女性と不貞関係にあったと認めるに足りない。

イ 被告は、Cが平成27年から平成28年頃、キャバクラに勤務していた女性と不貞関係にあったと主張するが、証人Cはこれを否定するところ、被告本人によっても、このような話をCから聞いたというにとどまっており、客観的な裏付けがあるわけではなく、この女性と不貞関係にあったと認めるに足りない。

ウ 被告は、Cが平成28年から平成29年までE(以下「E」という。)という女性と不貞関係にあったと主張する。この点についても、証人Cは不貞関係を否定する供述をしている。
 もっとも、証拠(証人C、被告本人)によれば、Cは、平成29年1月に、E、F(Cの友人の男性歯科医)、Fの知人女性及びG(Cの知人の男性歯科医)の5人で韓国旅行に行っているところ、この旅行にEが行くことを原告に伝えていなかったことが認められる。このように伝えていないことからすると、Eとの関係について後ろめたいところがあったことがうかがわれる。

 ただ、これ以上に客観的な裏付けはなく、CがEと不貞関係にあったと断じることは困難である。なお、仮に、不貞関係にあったとしても、直ちに婚姻関係の破綻が認められるものではないことは、上述したとおりである。

(3)その他被告の主張立証内容を検討しても、本件不貞行為の開始時点で原告とCの婚姻関係が既に破綻していたと認めるべき証拠はない。

2 争点(2)について
 被告は、Cと交際を開始する時点で、被告はCと原告の婚姻関係は既に破綻していると認識していたものであり、このように認識したことについて過失はない旨主張する。
 そして、このように認識した理由として、Cが原告以外の複数の女性と不貞関係にあったことを知っていたことを挙げる。もっとも、被告は、C等から聞いて知ったというにすぎず(被告本人)、不貞関係の客観的な証拠を有していたわけでない。

 また、被告本人は、Cから夫婦関係は既に破綻していると言われたと述べるが、それ以上に、別居しているとか、具体的に離婚協議をしているといったことを聞いていたわけではない。
 加えて、被告の認識を前提とすれば、Cは、妻がいながら、複数の女性と交際するような不倫をいとわない人物ということになるが、そのような人物が夫婦関係は破綻しているなどと甘言を弄して交際に入ろうとすることは、容易に想像できるところであり、このような言葉を信じたとすれば、軽率といわざるを得ない。

 以上の検討からすれば、被告がCと原告の婚姻関係は既に破綻していると認識していたとしても、このように認識したことについて被告に過失がなかったとはいえない
というべきである。その他被告の主張立証内容を検討しても,被告がCと原告の婚姻関係は既に破綻していると認識したことについて被告に過失がなかったと認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 

3 争点(3)について
 前記前提事実からすれば、原告とCの婚姻期間は、本件不貞行為の開始時点で、24年余りであったところ、本件不貞行為の期間は約4年に及んでおり、被告はCの子を妊娠、出産したことが認められる。もっとも、他方で、証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告とCは、離婚しておらず、本件不貞行為発覚後も、同居を継続していることが認められる。
 以上の事情、その他本件に表れた諸事情を総合的に勘案すれば、原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料として、100万円を認めるのが相当である。


4 まとめ
 以上より、被告は、原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年2月2日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

第4 結論
 よって、原告の請求は、主文第1項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法64条本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部
裁判官 烏田真人
以上:4,997文字
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