サイト内全検索
 

[全 6005頁] 本日 昨日累計
ご訪問有り難うございます。当HPは、私の備忘録を兼ねたブログ形式で「桐と自己満足」をキーワードに各種データを上記14の大分類>中分類>テーマ>の三層構造に分類整理して私の人生データベースを構築していくものです。
なお、出典を明示頂ければ、全データの転載もご自由で、転載の連絡も無用です。しかし、データ内容は独断と偏見に満ちており、正確性は担保致しません。データは、決して鵜呑みにすることなく、あくまで参考として利用されるよう、予め、お断り申し上げます。
また、恐縮ですが、データに関するご照会は、全て投稿フォームでお願い致します。電話・FAXによるご照会には、原則として、ご回答致しかねますのでご了承お願い申し上げます。
■ 携帯電話やスマートフォーンでご覧いただいてます皆様へ。下記からもアクセス可能です。ご利用下さい
・モバイル版トップページ http://komatsu-law.com/ ・交通事故関係 http://komatsu-law.com/koutu/
・男女問題関係 http://komatsu-law.com/danjyo/ ・相続家族関係 http://komatsu-law.com/souzoku/
相談専用ホームページ
  

H30-10-21(日):労災保険給付被害者の政府に優先する自賠責保険金全額請求認容地裁判例紹介
ホーム > 交通事故 > 交通事故重要判例 > 「労災保険給付被害者の…」←リンクはこちらでお願いします
○被害者が、事故を原因とする労災保険給付を受けている場合でも、加害者に対し賠償請求できる全額がてん補されていない限り、被害者は、政府に優先して自賠責保険の保険会社に損害賠償額の支払を求めることができるとした平成28年8月29日東京地裁判決(自保ジャーナル1992号49頁、交通事故民事裁判例集49巻4号1035頁)を紹介します。

○この判決は、控訴審平成28年12月22日東京高裁判決、上告審平成30年9月27日最高裁判決と続きますので、順次紹介します。

*********************************************

主   文
1 被告は、原告に対し、276万7821円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その2を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、581万円及びこれに対する平成27年2月20日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、原告が、cが運転する自動車との交通事故により負傷し、cが加入する自賠責保険会社である被告に対し、自動車損害賠償法(自賠法)16条1項に基づき、損害賠償額の支払と遅延損害金(起算日は訴状送達の日の翌日である。)の支払を求める(被害者請求)事案である。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について

(1)証拠(各項記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 救急搬送等(乙1の2の4頁)
 本件事故により原告トラックは大破し、原告は、ハンドルにはさまれたが自力で脱出した。
 原告は、救急搬送時、主に左肩痛を訴え、後頸部痛あり、歩行可能、呼吸苦なしと観察された。

イ 足柄上病院での診察等(乙1の2から4)
 原告は、平成25年9月9日午前0時54分ころ、足柄上病院に救急搬送された。
 原告は、意識消失なし、頭部打撲なし、脳神経症状亢進(up)と診察され、左肩及び右下肢等の疼痛の訴えにつき、レントゲン撮影による精査を受けたが、明らかな骨傷は認められず、同日午前2時ころ退院した。この間、看護師は、原告の両上肢が挙上可であることを観察した。
 診察担当医師は、左肩関節挫傷、右踵骨痛、右膝関節挫傷、骨盤部挫傷、頸椎捻挫により全治2週間と診断した。

ウ 秦野赤十字病院での診察等(乙2の2、3)
(ア)原告は、平成25年9月9日、秦野赤十字病院を受診し、左肩痛、右膝痛、骨盤(左)疼痛を訴えて、左肩腱板断裂、右膝打撲、骨盤打撲の診断を受け、同月25日に頸椎捻挫の傷病名が追加され、平成26年10月31日まで、リハビリを中心とする加療のために通院した。

(イ)初診時から平成26年3月まではd医師(d医師)が原告を診察した。
 診察時の肩関節可動域の測定結果等は以下のとおりである。
平成25年9月9日 左肩関節 屈曲80度、外転80度
          右肩関節 可動域全域
同年10月9日   左肩関節 屈曲90度、外転90度
同年11月18日  左肩関節 屈曲130度、外転130度
同年12月16日  左肩関節 屈曲100度、外転100度
平成26年1月20日 左肩関節 屈曲130度、外転130度
 原告は、同月23日、秦野赤十字病院総合相談室で、平成25年9月中旬ころから、右上腕部の痛みを感じて医師へ伝えたものの、そのうち治まりますよと言われて経過観察となったが、約5か月経っても症状の改善はなく、右腕の挙上と回転をすることができないと不安を訴えた(乙2の2の7頁)。
 同年2月24日の診察時、d医師は左肩関節及び右肩関節の可動域を測定した(診療録に記録されている測定結果は判読できない)。
 同年3月24日の診察時の肩関節可動域の測定結果は、左肩関節が屈曲150度、外転100度、右肩関節が屈曲150度、外転90度である。

(ウ)平成26年4月28日及び同年5月26日はe医師が診察した。同医師は、左肩MRIの結果、著明な断裂はなく、交通事故との関連はなさそうである等と判断し、原告に対し、リハビリは自宅中心に行うこととして病院でのリハビリを中止し、症状固定としてよいかもしれないと話し、検討を促した。

(エ)平成26年6月17日以降はf医師(f医師)が診察した。
 同日、原告は、f医師に対し、左肩、右肩の挙上ができないことを訴え、肩関節の可動域は、左肩関節が屈曲80度、外転70度、右肩関節が屈曲80度、外転70度であると測定された。
 その後の診察で、原告は両肩の外転の制限を訴え続け、各診察時、両肩関節の外転可動域は60度から80度の間の数値が測定された。
 同年11月7日、f医師は、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(後遺障害診断書)を作成し、症状固定日は同年10月31日、傷病名は右肩腱板損傷、頸椎捻挫、右膝・骨盤打撲及び頸椎捻挫、自覚症状は両肩可動域制限と疼痛、頸椎可動域制限、頸部痛、右手痺れ及び左でん部の疼痛、肩関節の可動域は、右(他動)が屈曲110度、外転80度、伸展15度、外旋30度、内旋90度、左(他動)が屈曲105度、外転85度、伸展15度、外旋20度、内旋90度であると診断した。

エ 左肩関節の所見
 左肩関節について、平成25年9月9日に撮影した左肩単純レントゲンでは、明らかな外傷性変化は認められない。同年10月25日に撮影した左肩MRIでは、肩峰下骨棘による軽度の腱板圧迫が認められ、棘上筋腱内に一部高輝度所見(T2強調像で部分的な信号上昇)が認められる。関節内の液体貯留は正常範囲で、明らかな腱板断裂所見は確認できないが、棘上筋腱が断裂している可能性があり、肩峰下に認められる軽度の骨棘と腱板がインピンジメントを起こしている可能性を否定できない。ただし、骨棘は加齢による変性である(乙2の13、5)。

オ 右肩関節の所見
 右肩関節について、平成26年2月24日に撮影した右肩単純レントゲンでは、明らかな外傷性変化は認められない。同年5月2日に撮影した右肩MRIでは、肩峰下骨棘による軽度の腱板圧迫が認められ、腱板内の輝度変化(T2強調像で淡い高信号)はあるが、明らかな断裂所見までは認められない(乙2の13、5)。

カ 頸部の所見
 頸部について、平成25年9月25日に撮影した頸椎単純レントゲンでは、明らかな外傷性変化は認められない。平成26年9月5に撮影した頸椎MRIでも明らかな外傷性変化は認められない(乙2の13、5)。

(2)
ア 左肩の機能障害等について
 前記(1)アからウのとおり、原告は、本件事故直後から顕著な左肩痛を訴え、左肩関節の可動域制限が認められるところ、同エのとおり、画像所見上、肩峰下骨棘による軽度の腱板圧迫と棘上筋腱内の一部高輝度所見が認められるなど、棘上筋腱に断裂の損傷が生じていることを示す客観的所見がある。

 そして、骨棘自体は加齢による変性であるとしても、本件事故の外力は、原告トラックが大破するほどの衝撃であり、原告は重量物運搬の職に従事し、本件事故時までに可動域制限などの腱板の症状が顕著に出現していたことを認めるべき証拠はないことをふまえると、原告が訴える顕著な左肩痛及び左肩関節の可動域制限は、本件事故により生じたと認められる。

 そこで、左肩関節の可動域制限の程度をみると、前記(1)ウのとおり、左肩関節の可動域は、リハビリによって平成26年5月まで順調に改善し、医師がリハビリの中止を提案するまでに至っていたにもかかわらず、翌月から外転の測定結果が顕著に悪化しているところ、悪化の医学的原因は明らかでなく、症状の自然的経過であるとは認められない。したがって、後遺障害診断書に記載された可動域測定結果が本件事故によって生じた左肩関節の可動域制限を示すものとは認められない。
 以上によれば、本件事故によって生じた左肩関節の可動域制限は、屈曲、外転ともに100度以上に回復したと認められ、左肩関節の障害は、疼痛の評価を含み、肩関節の機能に障害を残すものとして12級6号に該当すると認められる。

イ 右肩の機能障害等について
 前記(1)ウ(イ)のとおり、原告は、平成26年1月に、平成25年9月中旬ころから右上腕部の痛みがあること、右腕の挙上と回転ができないことを訴えているが、それまで右肩の症状を訴えておらず、平成25年9月9日には右肩関節の可動域制限はなかったことが認められ、右肩の症状の出現経緯は、外傷性損傷の炎症期が2、3日であることに整合しない。
 同オのとおり、右肩関節に外傷性の損傷が生じていることをうかがわせる客観的所見もなく、原告が主張する右肩の機能障害等が本件事故によるものとは認められず、後遺障害には該当しない。

ウ 頸部の症状について
 前記(1)アのとおり、原告は、救急搬送先の足柄上病院で脳神経症状の亢進が認められ、頸椎捻挫と診断されており、以降、秦野赤十字病院でも、2回目の診察時に頸椎捻挫と診断され、治療が継続されたことが認められる。診療録上、原告の頸部に関する愁訴の内容が明らかでない期間もあるが、前記(1)カのとおり、頸部について、画像検査による精査が続けられ、原告が頸部に関する愁訴を訴え続けていたことが認められる。
 本件事故の態様、診察経緯等の一切の事情をふまえ、原告の頸部の症状は、後遺障害等級14級9号に該当すると認められる。

エ 結論
 したがって、原告の後遺障害等級は、併合12級に該当する。

2 争点(2)について
(1)原告の損害

ア 傷害の損害
〔1〕慰謝料
 原告の傷害の内容、通院期間(原告の症状の推移、診察経過に照らし、13か月の通院について、本件事故との相当因果関係が認められる。)、通院日数等を考慮すると、傷害の慰謝料は158万円とするのが相当である。

〔2〕休業損害
 証拠(甲8の5)によれば、本件事故前の原告の収入は、1日当たり1万6495円であることが認められる。
 休業期間について、前記1(2)アのとおり、本件事故による原告の左肩の可動域制限は平成26年5月までに改善していることが認められるが、原告の職業は重量物の運搬を含む4トントラックの乗務員であり、前記の改善した状況でも、診察担当医師は、就業が全く不可能であると診察していて(甲2、6、8の4)、労務に復帰できる状態にまでは回復していなかったと認められる。その約3か月後である平成26年9月17日に、原告は斎藤商運を退職しており(甲8の4)、原告が、平成26年10月末日までの418日間、稼働することができなかったのは、本件事故による受傷が原因であると認められ、原告の休業損害は、以下の計算式により689万4910円である。
(計算式)=日額1万6495円×418日

〔3〕合計 847万4910円
イ 後遺障害による損害
〔1〕慰謝料
 原告の後遺障害の程度、内容、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると290万円が相当である。

〔2〕逸失利益
 原告の逸失利益は、以下の計算式により、364万9311円である。
(計算式)=1万6495円×365日×0.14(労働能力喪失率)×4.3295(労働能力喪失期間である5年のライプニッツ係数)

〔3〕合計 654万9311円
 なお、被告は、左肩の機能障害等の後遺障害に関し、骨棘は加齢による変性であり、本件事故時に原告にすでに存在していたから素因減額すべきであると主張するが、加齢による変性である骨棘が本件事故時までにすでに存在していたとしても、年齢相応の経年性の変化の範囲を超えた疾患であることを認めるに足りる証拠はなく、損害の算定にあたって素因減額するのが相当であるとは認められない。

(2)まとめ
 したがって、労災保険給付につき損害のてん補をすると、傷害の損害の残額は436万7655円((計算式)=847万4910円-410万7255円)であり、後遺障害の残額は156万6821((計算式)=654万9311円-498万1490円)であり、原告は、被告に対し、120万円(傷害)及び156万7821円(後遺障害)の合計276万7821円を請求できる。

 これに対し、被告は、原告が労災保険給付を受けているため、同給付額について原告の権利を取得した政府と按分すべきであると主張する。
 しかし、自賠責保険は、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図ることを目的とする制度であり(自賠法1条)、自賠法16条1項は、被害者請求によって、被害者が少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害のてん補を受けられることにして、その保護を図るものである。したがって、被害者が、交通事故が原因で労災保険給付を受けたとしても、加害者に対し賠償を求めることができる損害額の全てがてん補されていなければ、その未てん補損害の額につき、政府に優先して、自賠責保険の保険会社から損害賠償額の支払を受けられるというべきである。

 これに対し、被告は、労災保険給付が損害のてん補を目的とすることを挙げ、被害者が労災保険給付によってすでに自賠責保険金額の損害のてん補を受けている場合には、さらに自賠責保険金額の救済を与えられるものではない等と主張する。しかし、労災保険給付は、労働者を保護し、あるいは労働者の福祉の増進に寄与するために給付されるものであり(労働者災害補償保険法(労災保険法)1条)、同法12条の4に基づき政府が取得するのは、労災保険制度が保護する労災保険受給者の権利である。交通事故の被害者である労災保険受給者が、労災保険給付によっては加害者に対し賠償を求めることができる損害額の全てがてん補されていないにもかかわらず、同人の有する損害賠償請求権の一部を政府が取得したことによって、自賠責保険における現実の支払を受けられなくなることは、自賠法16条1項の趣旨に沿わないし、労災保険法12条の4の趣旨にも沿わない。したがって、労災保険給付によって自賠責保険金額の損害のてん補を受けたとしても、加害者に対し賠償を求めることができる損害額の全てがてん補されていなければ、被害者が政府に優先して自賠責保険の保険会社に損害賠償額の支払を求めることができるというべきである。

3 争点(3)について
 自賠法16条の9は、被害者請求があった場合に、保険会社が履行遅滞に陥る時期を定める規定であり、被害者請求の行使方法による限定はないから、訴訟上の被害者請求にも当然に適用される。したがって、保険会社は、被害者請求があった後、当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは遅滞の責任を負わない。

 保険会社が確認する損害賠償額について、自賠法16条の3が、保険会社は、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(支払基準)に従って支払うべきことを定め,支払基準には、休業損害の原則的な日額や上限額、傷害の慰謝料の日額などが定められているから、訴訟外の被害者請求では、当該請求を受けた保険会社は、支払うべき損害賠償額を迅速に算定することができ、かかる事情を踏まえ、社会通念上、保険会社において損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過したときには、遅滞の責任を負うことになる。

 これに対し、訴訟上の被害者請求では、裁判所が、支払基準によることなく、当事者の主張立証に基づき、個別的な事案ごとの損害賠償額を算定するのであるから(最高裁平成17年(受)第1628号同18年3月30日第一小法廷判決・民集60巻3号11242頁)、当該請求を受けた保険会社は、被害者請求訴訟の判決が確定しなければ、支払うべき損害賠償額を確認することができないことになる。 
 したがって、本判決が確定するまで被害者請求の履行期は到来せず、被告は遅滞の責任を負わないというべきであり、遅延損害金の起算日は、本判決確定の日である。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は主文の限度で理由があるから認容し、その余は棄却することとして、主文のとおり判決する。
 仮執行宣言は相当でないから付さない。
東京地方裁判所民事第27部 裁判官 松川まゆみ
以上:6,704文字
ホーム > 交通事故 > 交通事故重要判例 > 「労災保険給付被害者の…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-20(土):自筆証書遺言書有効性判断に動画内容を参考にした地裁判例紹介
ホーム > 相続家族 > 遺言書 > 「自筆証書遺言書有効性…」←リンクはこちらでお願いします
○遺言書作成を依頼された場合、遺言者が高齢で判断能力が問題になりそうなケースでは、私は遺言時の状況を動画撮影しています。自筆証書遺言の場合は、真意に基づく遺言であることが判るような質問・回答を繰り返し、動画に撮影します。公正証書遺言の場合も真意に基づいて作成されたと判るように公証人との遣り取りを動画撮影します。

○判例時報最新2379号に自筆証書遺言の有効性の判断に当たり、四つの途切れたファイルが合成された動画の実質的証拠力について、動画に顕れた被撮影者(被相続人)の言動、遺言書や動画の保管状況及びこれに関する撮影者の説明の合理性その他諸般の事情を総合して判断すべきであるとした平成29年3月22日東京高裁判決が紹介されています。

○この高裁判決の原審平成28年4月7日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)の一部を紹介します。「亡Aが自書したことを前提とする本件遺言の確認状況が本件動画に記録されていることや,そこで確認された遺言と本件遺言が同一と認められること,本件遺言の作成に関与したBがこれを預かり検認期日まで保管していたことに照らせば,本件遺言は亡Aの自書によるもので,亡Aの名下の印影も,亡Aの実印や銀行印による印影と異なるとはいえ,これが偽造されたことを窺わせる事情はなく,亡Aにより押印されたものと認めるのが相当」と動画内容を遺言書の有効性判断の資料としています。

*********************************************

主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 東京家庭裁判所平成26年(家)第8080号遺言書検認申立事件において検認された亡Aに係る別紙記載の自筆証書遺言は無効であることを確認する。

第2 事案の概要
 本件は,亡A(以下「亡A」という。)の法定相続人である原告が,亡Aの作成名義に係る別紙記載の自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)は偽造されたもので法定の要件を欠くため無効であると主張して,本件遺言の無効確認を求める事案である。
1 争いのない事実等
(1) 亡A(大正14年○月○日生)は,平成26年7月22日に死亡した。
(2) 原告は亡Aの次女,被告は亡Aの長女であり,亡Aの法定相続人は原告及び被告のみである。
(3) 被告は,本件遺言につき,東京家庭裁判所に遺言書検認の申立てを行い(同庁平成26年(家)第8080号),平成26年10月8日,その検認手続が行われた(甲1)。
(4) 本件遺言は,亡Aの全財産を被告に相続させることを内容とするものである(甲1)。

         (中略)


第3 争点に対する判断
1 前記争いのない事実等及び証拠(甲1,6,25,33,乙1,2,4ないし6)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1) 本件遺言は,洋紙1枚に筆ペンを筆記具として記入されたもので,その全文は「遺言 私の全財産をYに相続させる 2013 2・8 A」と読めるものであり,その運筆は全体に弱々しいものの,判読は十分可能である。
 本件遺言の亡Aの名下には,「A」と読める朱色の印影があるが,これは亡Aの実印や銀行印に使用されていた印章によるものではない。

(2) 本件遺言が封入された封筒は,筆ペンを筆記具として本件遺言と同一と思われる筆跡により「遺言」「A」と記入され,本件遺言の亡Aの名下にある印影と同じ印影により封緘されている。

(3) 本件動画は,亡Aの姿及び音声を中心としてB及び被告の音声が併せて収録されたものである。
 本件動画の冒頭で,Bは,亡Aに対し,本件遺言を亡Aが記入したことを前提として,「今お書きになられたお手紙をお読みいただいてよろしいですか。」と促し,亡Aは,これを承諾して本件遺言を読み上げ,「そうです。」と述べた。
 次に,Bは,亡Aに対し,記入した本件遺言を封筒に入れておいたほうがよいとして封筒にも遺言と書くように促し,亡Aがこれに応じて,封筒に「遺言」と記入しながら「ひどい字になっちゃいました。」と述べ,裏に「A」と記入しながら「上手だね,うっとりしちゃうわ。」などと述べた。

(4) 本件動画に写された本件遺言は,亡Aの名下の押印がないものであった。また,本件動画で亡Aが記入した封筒は,本件遺言の検認期日で開封された本件遺言が封入された封筒とは異なるものであった。

(5) 本件動画では,複数回にわたり,本件遺言の作成日付と同一の平成25年2月8日付けの日刊新聞の1面にある年月日欄が収録されている。

(6) 本件録音は,Bが亡Aに対し,「先日お書きになられたご遺言書のこと」について話すよう促した後に,亡Aが「この間私が書いたものね。手が思うように動かないので,とても達筆とはいえないわね。大切なことは書いておいたのでYに渡しておいてくださいね。このままにしておくと,Yがそれこそ一株ももらえないことになって可哀想なので遺言書を書いたのよ。」と述べる様子が録音されている。


(1) 以上の認定事実を総合すると,亡Aは,B及び被告の立会いのもと,平成25年2月8日に自室のベッドの上で本件遺言の全文,作成日付及び氏名を自書した上,これを自ら読み上げて内容が自己の意思と相違ないことを確認しており,その後に押印及び封入を経て本件遺言が作成・保管され,亡Aの死亡後にこれが検認されたと認めるのが相当であり,本件遺言の作成日付も同日を記載したものと特定できるというべきであって,日付が不特定であるとか偽造ないし改ざんされたとは認められない。

原告は,本件動画には亡Aが本件遺言を自書する様子や名下に押印する様子が撮影されていないことを指摘するが,前記認定事実のとおり,亡Aが自書したことを前提とする本件遺言の確認状況が本件動画に記録されていることや,そこで確認された遺言と本件遺言が同一と認められること,本件遺言の作成に関与したBがこれを預かり検認期日まで保管していたことに照らせば,本件遺言は亡Aの自書によるもので,亡Aの名下の印影も,亡Aの実印や銀行印による印影と異なるとはいえ,これが偽造されたことを窺わせる事情はなく,亡Aにより押印されたものと認めるのが相当である。

 また,本件遺言が封入されていた封筒は,本件動画で亡Aが記入した封筒とは異なるものであるが,各筆跡を対照してみるといずれも亡Aが自書した本件遺言と同一の筆跡と認めるのが相当であり,ことさら封筒だけを偽造する理由が見当たらないことにも照らせば,亡Aが本件動画で記入されたものとは別の封筒を作成して本件遺言を封入したと認めるのが相当であり,かかる封筒の異同を被告が自ら明確にしなかったからといって,本件動画の証拠能力及び証拠価値を否定すべきものとは認められない。

(2) さらに,前記認定事実によれば,本件遺言の内容は,亡Aの全財産を被告に相続させるという単純なものである上,本件録音によれば,亡Aは,亡C及び亡Aが築いた財産であるb社の株式等がすべて原告に相続されるのではなく,被告にも応分に相続されることを望む意思を表明していることが認められ,これが本件遺言の内容と整合することや,亡Aが他に遺言書を作成したとの事実が認められないことに照らすと,亡Aには,前記内容の本件遺言を作成する動機に欠けるところはないというべきである。

(3) そうすると,本件遺言は,法定の様式に従って亡Aが作成した自筆証書遺言として有効であると解するのが相当である。

3 この点,原告は,本件遺言の内容が原告と被告の紛争を発生させるようなもので,その内容自体が著しく不自然,不合理であり,亡Aに本件遺言をする動機がないとして,本件遺言が偽造されたと主張するが,原告が主張するような亡C及び亡Aによる被告に対する5億円を下らない資金援助があったとの事実を認めるに足りる的確な証拠はないといわざるを得ず,被告にも相応の資産を相続させたいと亡Aが考えて本件遺言を作成したのであれば,その内容は動機と整合するものというべきであるから,原告との紛争を誘発しかねない内容であることをもって,直ちに本件遺言の効力を否定すべきものとは認められない。

また,原告は,亡Aがアルツハイマー型認知症により理論的な思考,発語ができない状態にあったとも主張して本件遺言が偽造されたとするが,原告は,亡Aが認知症の治療を受けていたとか亡Aに記憶障害があったとの具体的なエピソードを何ら示しておらず,亡Aにつき遺言能力が失われていたと認めるに足りる証拠はない。

 原告は,被告が遺言書検認申立書には本件遺言の保管者を被告と記載しながら,検認期日においてBが保管していた旨に訂正したことなどから(甲1,26),本件遺言の保管状況が不自然,不可解であると主張するが,本件遺言の作成から検認に至るまでの保管状況及びこれを巡る原告と被告との間のやり取り(甲13ないし16(各枝番を含む。))を見ても,本件遺言の偽造を窺わせるような不自然,不可解なところは認められず,この点の原告の主張は採用できない。さらに,原告は,原告が本件遺言の偽造を主張した際に被告が偽造という言葉に過剰な反応を示したことが,被告が本件動画や本件遺言の偽造に関与したことを示すものであるとも主張するが,偽造の主張に対して否定的な反応を示すこと自体に不自然な点は見られず,かかる原告の主張も採り得ない。

 他にも,原告は,本件遺言が亡Aの自書・押印によるものではなく無効であるとしてその根拠を縷々主張するが,いずれも前記認定を覆すに足りるものではない。

4 以上の次第で,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判官 小崎賢司)
 〈以下省略〉
以上:4,006文字
ホーム > 相続家族 > 遺言書 > 「自筆証書遺言書有効性…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-19(金):被担保債権免責抵当権は民法167条2項が適用されるとした最高裁判決紹介
ホーム > 貸借売買等 > 金銭貸借 > 「被担保債権免責抵当権…」←リンクはこちらでお願いします
○抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には、民法396条は適用されず、債務者及び抵当権設定者に対する関係においても、当該抵当権自体が、同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかるとした平成30年2月23日最高裁判決(判タ1450号40頁、判時2378号3頁)全文を紹介します。

○事案は以下の通りです。
・Xは,平成13年2月13日Yとの間で金銭消費貸借取引契約を締結し、その有する建物共有持分について,債務者をX,根抵当権者をY,債権の範囲を金銭消費貸借取引などとする根抵当権を設定してその旨仮登記、
・Xは以後,金銭の借入れと返済をしていたが,平成17年11月24日,破産手続開始の決定(同時廃止)を受け、本件根抵当権の担保すべき元本が確定
・Xは、免責許可の決定を受け,同決定は,平成18年2月24日に確定
・Xは,本件貸金債権につき消滅時効が完成し,本件根抵当権は消滅したと主張して,Yに対し,本件根抵当権の設定仮登記の抹消登記手続を求めた
・原審は,(1)本件貸金債権は,免責許可の決定の効力を受ける債権であるから,消滅時効の進行を観念することができない,(2)民法396条により,抵当権は債務者及び抵当権設定者に対してはその担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないから,Xの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないとし,Xの請求を棄却


○関係民法条文は以下の通りです。
第167条(債権等の消滅時効)
 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。

第396条(抵当権の消滅時効)
 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない


○抵当権は、別除権として、破産手続によらないで行使することができますので、免責の効力を受けないことは,当然のことであると解されています。関係破産法条文は以下の通りです。
破産法第2条(定義)
 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第12章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
(中略)
9 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利をいう。

第65条(別除権)
 別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
2 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。


***************************************

主  文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。 

理  由
 上告代理人○○○○の上告受理申立て理由について

1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人は,平成13年2月13日,第1審判決別紙1物件目録記載の建物の上告人持分について,極度額を300万円,債権の範囲を金銭消費貸借取引,債務者を上告人,根抵当権者を被上告人とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定し,同日,その旨の根抵当権設定仮登記がされた。

(2) 上告人は,平成13年2月13日,被上告人との間で,金銭消費貸借取引契約(以下「本件契約」という。)を締結し,以後,本件契約に基づき金銭の借入れと返済をしていたが,平成17年9月28日を最後に,返済をしなくなった。

(3) 上告人は,平成17年11月24日,破産手続開始の決定を受け,同時に,破産手続廃止の決定を受けた。
 上告人が上記破産手続開始の決定を受けたことにより,本件根抵当権の担保すべき元本が確定した。本件根抵当権の被担保債権は,本件契約に基づく被上告人の上告人に対する債権(以下「本件貸金債権」という。)である。

(4) 上告人は,平成18年1月26日,免責許可の決定を受け,同決定は,同年2月24日に確定した。
 本件貸金債権は,上記免責許可の決定の効力を受けるものである。

2 本件は,上告人が,本件貸金債権につき消滅時効が完成し,本件根抵当権は消滅したなどと主張して,被上告人に対し,上記仮登記の抹消登記手続を求める事案である。

3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1) 本件貸金債権は,免責許可の決定の効力を受ける債権であるから,消滅時効の進行を観念することができない。

(2) 民法396条により,抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対してはその担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないから,上告人の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。

4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 免責許可の決定の効力を受ける債権は,債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり,上記債権については,もはや民法166条1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないというべきである(最高裁平成9年(オ)第426号同11年11月9日第三小法廷判決・民集53巻8号1403頁参照)。このことは,免責許可の決定の効力を受ける債権が抵当権の被担保債権である場合であっても異なるものではないと解される。

(2)
ア 民法396条は,抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,被担保債権と同時でなければ,時効によって消滅しない旨を規定しているところ,この規定は,その文理に照らすと,被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提としているものと解するのが相当である。そのように解さないと,いかに長期間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することとなるが,民法が,そのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。

イ そして,抵当権は,民法167条2項の「債権又は所有権以外の財産権」に当たるというべきである。
 論旨は,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合の抵当権自体の消滅時効期間は被担保債権の種類に応じて5年(商法522条)や10年(民法167条1項)である旨をいうが,そのように解することは,上記の場合にも被担保債権の消滅時効の進行を観念するに等しいものであって上記(1)と相いれず,また,法に規定のない消滅時効の制度を創設することになるものであるから,採用することができない。

ウ したがって,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,民法396条は適用されず,債務者及び抵当権設定者に対する関係においても,当該抵当権自体が,同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかると解するのが相当である。

(3) 以上のことは,担保すべき元本が確定した根抵当権についても,同様に当てはまるものである。

5 以上によれば,免責許可の決定の効力を受けることによって消滅時効の進行を観念することができなくなった債権を被担保債権とする抵当権は,民法396条により,債務者及び抵当権設定者に対しては時効によって消滅しないことを理由に,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。

 しかしながら,上記事実関係の下においては,本件根抵当権を行使することができる時から20年を経過していないことは明らかであるから,上告人の請求には理由がないことになる。
 したがって,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官山本庸幸の補足意見がある。

 裁判官山本庸幸の補足意見は,次のとおりである。
 抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合に民法396条が適用されない理由について,若干の補足をしたい。
 民法396条は,債務者及び抵当権設定者が被担保債権について弁済をしないで抵当権の時効消滅を主張することは信義に反するため,これらの者については抵当権自体の時効消滅を認めないという趣旨の規定であると解される。本件のように,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受けることにより訴えをもってその強制的実現を図ることができなくなっている場合には,債務者及び抵当権設定者がそのような被担保債権に対する弁済をせずに抵当権の時効消滅を主張しても,信義に反するとはいえないのであり,上記のような同条の趣旨に照らしても,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,同条の適用はないというべきである。
 (裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之) 
以上:3,792文字
ホーム > 貸借売買等 > 金銭貸借 > 「被担保債権免責抵当権…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-18(木):算定表上限2000万円超過年収の義務者養育費を算定した高裁決定紹介
ホーム > 男女問題 > 養育費・認知 > 「算定表上限2000万…」←リンクはこちらでお願いします
○「算定表上限2000万円超過年収の義務者養育費を算定した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審である平成26年6月30日福岡高裁決定(判タ1410号100頁、 判時2250号25頁 )を紹介します。

○年収6171万円の医師である抗告人父は、相手方母との間で子A・Bに対し、1人当たり月額20万円の養育費を支払うと定めて離婚しましたが、その後、再婚し再婚相手の子E・Fと養子縁組し、更に再婚相手との間に実子Gが生まれたことで、A・Bの養育費を月額11万円に減額することを求めていました。

○一審熊本家裁は、東京・大阪養育費等研究会が提唱する算定方式によれば、A・Bの養育費は月額15万円が相当としましたが、抗告人の多額の年収からは、努力すれば、前記算定方式により算定された1人当たり月額約15万円と調停で合意された1人当たり月額20万円との差額を補うことは可能であるとして月額20万円の養育費を維持しました。

○福岡高裁決定では、調停離婚後、申立人(抗告人)は再婚し、再婚相手の子E・Fと養子縁組をし、その後、新たにGが出生しているが、これらはいずれも調停時には想定されていなかった事情であり、これらによってそれぞれの生活状況は大きく変化し、申立人(抗告人)が負担すべき未成年者の養育費の算定結果も相当程度変わっているというのであるから、民法880条にいう「事情に変更を生じたとき」に該当するというべきである判断して、平成25年×月までは月額20万円としても、その後は月額17万円に減額しました。

****************************************

主   文
1 原審判を取り消す。
2 当事者間の熊本家庭裁判所平成19年(家イ)第××号夫婦関係調整調停事件において平成20年×月×日に成立した調停条項3項を「申立人は,相手方に対し,前項記載の長女A及び長男Bの養育料として,平成20年×月から平成25年×月まで,一人につき1か月20万円ずつ,平成25年×月から同人らがそれぞれ満20歳に達する日の属する月まで,一人につき1か月17万円ずつを,毎月×日限り,相手方名義の○○銀行○○支店普通預金口座(口座番号××××)に振り込む方法で支払う。ただし,振込手数料は申立人の負担とする。」と変更する。
3 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 即時抗告の趣旨及び理由
 本件即時抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」,「即時抗告申立書訂正申立書」,「抗告理由書」,「準備書面」(各写し)に記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 本件について,一件記録により認められる事実は,以下のとおり補正するほか,原審判「理由」第2の1のとおりであるから,これを引用する。
 原審判2頁16行目の「現在,」を削除し,同17行目の「監護養育している」を「監護養育していた」と,3頁6行目の「夫」を「元夫」とそれぞれ改め,同3頁14行目の後に改行の上,「(7)相手方は,平成26年×月×日,夫Eと離婚した。」を加える。

2 抗告人が負担すべき養育費の算定
(1)抗告人の基礎収入額

 抗告人の妻Dは,未成年者ら(A及びB)を扶養する義務を負わず,その年収は330万円で,抗告人や相手方に比較すれば著しく低いことを考えると,未成年者らの養育費算定にあたっては,E,F,Gの養育費は専ら抗告人が負担しているものとして,抗告人の基礎収入の算定にあたっては妻Dの収入を合算しない一方,妻Dを抗告人の扶養者ではないとみなすのが相当である。

 そして,上記1で引用した認定事実(5)の抗告人の年収額は社会保険料控除前の金額であり,市県民税(所得・課税)証明書の記載等からも,給与所得者として基礎収入額を算定すべきであるが,年収2000万円までの基礎収入割合は概ね34ないし42パーセント(ただし高額所得者の方が割合は小さい。東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」判例タイムズ1111号285頁参照)とされているところ,年収2000万円を超える高額所得者の場合は,基礎収入割合はさらに低くなると考えられるから,抗告人の職業及び年収額等を考慮して,抗告人の基礎収入割合を27パーセントとするのが相当であり,その基礎収入額は1666万4000円(1000円未満四捨五入。以下同じ。)となる。

 この点について,抗告人は,基礎収入割合を25.6パーセントとすべきと主張するが、基礎収入割合は収入金額のみから機械的に算出されるものではなく,収入の増加に応じて常に一律の割合で減少していくものでもないから,抗告人の上記主張は採用することができない。

(2)相手方の基礎収入額
 相手方は,夫Cと離婚したというのであり,もともとCは未成年者らと養子縁組をしていないから,法律上扶養義務を負わず,相手方の基礎収入額の算定にあたってCの収入を考慮すべきではない。 
 そして,上記1で引用した認定事実(5)の相手方の年収額は社会保険料控除前の金額で,市県民税(所得・課税)証明書の記載等からも,給与所得者として扱われるべきところ,その職業及び年収額等を考慮すると,基礎収入割合を35パーセントとするのが相当であり,基礎収入額は349万8000円となる。

(3)養育費の算定
 未成年者らが抗告人と同居していたと仮定した場合の未成年者らの生活費に充てられる金額を算定すると,抗告人の生活指数を100,E、F、G未成年者らの生活指数をそれぞれ55として,年間488万8000円となる(計算式:1666万4000円×(55+55)÷(100+55+55+55+55+55))。
 この金額を,抗告人と相手方の基礎収入額で按分すると,抗告人が未成年者らのために負担すべき費用は年間404万円となり(計算式:488万8000円×1666万4000円÷(1666万4000円+349万8000円)),1か月では33万7000円(一人当たり16万9000円)となる。

(4)変更の可否及び金額についての検討
 抗告人及び相手方は,調停離婚後,それぞれ再婚し(ただし,相手方はその後離婚している。),抗告人は,EG及びFと養子縁組をし,その後,新たにGが出生しているが,これらはいずれも調停時には想定されていなかった事情であり,これらによってそれぞれの生活状況は大きく変化し,上記(3)のとおり,抗告人が負担すべき未成年者の養育費の算定結果も相当程度変わっているというのであるから,民法880条にいう「事情に変更を生じたとき」に該当するというべきである。

 そして,上記(3)の算定結果のほか,抗告人及び妻D,相手方の職業及び収入額,生活状況,それぞれの未成熟の子らの生育状況等を総合考慮すると,平成25年×月から,未成年者らの一人あたりの養育費月額20万円を月額17万円に変更するのが相当である。
 この点について,相手方は,未成年者らが医師や看護師等を目指して大学に進学する可能性が高く,満20歳に達した後も学費が必要であるなどと主張するが,現段階では未成年者らの進路は未確定であり,この点についての相手方の主張は理由がない。

3 結論
 以上のとおりであるから,これに反する原審判を取消した上,主文第2項記載のとおり養育費についての調停条項の変更を認めるのが相当であるので,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 一志泰滋 裁判官 金光健二 裁判官 小田島靖人)
以上:3,054文字
ホーム > 男女問題 > 養育費・認知 > 「算定表上限2000万…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-17(水):算定表上限2000万円超過年収の義務者養育費を算定した家裁審判紹介
ホーム > 男女問題 > 養育費・認知 > 「算定表上限2000万…」←リンクはこちらでお願いします
○「算定表上限2000万円超過年収の義務者婚姻費用を算定した判例紹介」の続きで、算定表上限2000万円を遙かに超える年収6171万円の高収入を得ている医師である申立人父の養育費について判断した平成26年1月24日熊本家裁審判(判時2250号27頁、判タ1410号108頁)全文を紹介します。

○申立人父は、相手方母との間で子A・Bに対し、1人当たり月額20万円の養育費を支払うと定めて離婚しましたが、その後、再婚し再婚相手の子E・Fと養子縁組し、更に再婚相手との間に実子Gが生まれたことで、A・Bの養育費減額調停を出して不調に終わっていました。審判は東京・大阪養育費等研究会が提唱する算定方式によれば、A・Bの養育費は月額15万円が相当としました。

○しかし、「(申立人の収入が)これだけ高額であれば、申立人が調停での合意内容を維持するべく、申立人の生活費を少なくして養育費に充てることは可能なはずである。いったん調停で合意をして養育費を決めた申立人が、これらの努力をしさえすれば、前記算定方式により算定された1人当たり月額約15万円と調停で合意された1人当たり月額20万円との差額を補うことは可能であると思われる」として、月額20万円を維持しました。

**********************************************

主   文
一 本件申立てを却下する。
二 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第一 申立ての趣旨

 申立人は、相手方に対し、A及びBの養育費として、1人当たり月額11万2494円を支払う(申立人は、調停申立ての際、相当額に減額することを求めたが、審問において1人当たり月額11万2494円を支払うことを求める旨述べた。これに対して、相手方は、減額せずに1人当たり月額20万円が支払われるべきであるという。)。

第二 当裁判所の判断
一 認定事実

 一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1)申立人(昭和40年×月×日生)と相手方(昭和42年×月×日生)は、平成10年×月×日婚姻し、両者の間にA(平成11年×月×日生)及びB(平成14年×月×日生)が生まれた。

(2)申立人と相手方は、平成20年×月×日、A及びBの親権者をいずれも相手方とし、申立人が相手方に対して、A及びBの養育費として、平成20年×月からA及びBがそれぞれ満20歳に達する日の属する月まで、1人当たり月額20万円を支払う旨定めて、調停離婚した(熊本家庭裁判所平成19年(家イ)第××号夫婦関係調整調停事件)。申立人は、現在、この調停の合意内容のとおり、1人当たり月額20万円の養育費を支払っている。

(3)相手方は、平成21年×月×日、Cと婚姻し、現在、同人、A及びBと同居して、A及びBを監護養育している。

(4)申立人は、平成22年×月×日、Dと婚姻し、同日、同人の子であるE(平成11年×月×日生)及びF(平成13年×月×日生)と養子縁組をした。また、Dとの間にG(平成24年×月×日生)が生まれた。申立人は、現在、D、E、F及びGと同居して、E、F及びGを監護養育している。

(5)申立人は、医師の資格を有し、医療法人の代表者として働いており、平成24年分の総収入額は6171万6840円であった(=給与収入額6155万3230円+雑所得額16万3610円。この金額は社会保険料が控除される前のものである。)。

 申立人の妻Dは、申立人住所地を本店所在地とし、かつ、申立人が代表者となっている医療法人の事業に関連する事業を行っている株式会社の経営者として働いており、平成24年分の総収入額は330万円であった。

 相手方は、薬剤師の資格を有し、薬局の経営者として働いており、平成24年分の総収入額は999万3504円であった(=給与収入額960万円+不動産所得額39万3504円。この金額は社会保険料が控除される前のものである。)。相手方の夫Cは、相手方経営の薬局で働いており、平成24年分の総収入額は240万円であった。なお、雑所得額や不動産所得額について、公租公課、職業費及び特別経費を控除する対象として総収入額に含めることに疑義はあるが、本件では給与収入額と比較して少額なので、上記のとおり総収入額に算入するのが相当である。

(6)申立人は、相手方に対し、平成25年×月×日、前記(2)記載のとおりの養育費を相当額に減額して支払うとの調停を申し立てたが(熊本家庭裁判所平成25年(家イ)第××号、第××号)、同年×月×日、調停不成立となって本件審判手続に移行した。

二 申立人が負担すべき養育費の標準的な金額及び民法880条該当性について
(1)申立人が負担すべき養育費の標準的な金額については、東京・大阪養育費等研究会が提唱する算定方式(判例タイムズ1111号285頁参照、以下、同文献については、頁数のみで示す。)を採用して算定するのが相当である。これにより、権利者及び義務者の総収入額や未成年者の人数、年齢を考慮して一応の養育費の金額を算定し、特段の事情があれば、修正を加えて算定することになる。

(2)これを本件についてみると、申立人の平成24年分の総収入額6171万6840円に基礎収入割合0・27を乗じると基礎収入額は、1666万3547円となる(=6171万6840円×0・27、1円未満は四捨五入した。以下同じ)。申立人の妻Dの平成24年分の総収入額330万円に基礎収入割合0・40を乗じると基礎収入額は、132万円となる(=330万円×0・40)。相手方の平成24年分の総収入額999万3504円に基礎収入割合0・36を乗じると基礎収入額は、359万7661円となる(=999万3504円×0・36)。相手方の夫Cの平成24年分の総収入額240万円に基礎収入割合0・42を乗じると基礎収入額は、100万8000円となる(=240万円×0・42)。

 なお、相手方は、申立人や相手方を自営業者として算定すべきであると主張するが、自営業者の総収入額に当たる「課税される所得金額」は、既に給与所得者の職業費に該当する費用及び社会保険料が控除されているから、前記算定方式では、自営業者と給与所得者の基礎収入割合が異なるとされているところ(289頁*11参照)、申立人と相手方の総収入額は社会保険料の控除前のものであり、資料によると、給与収入額が記載されている市県民税所得証明書においては、職業費も控除されていないので、申立人及び相手方を給与所得者として算定するのが相当である。そして、申立人のような高額所得者については、基礎収入割合をいくらにすべきか問題となるが、高額所得者の場合、貯蓄や資産形成に回る部分が大きくなり、その全てが生活に消費されるわけではないことや申立人の主張(計算根拠)を考慮して、基礎収入割合を0・27とした(松本哲泓「婚姻費用分担事件の審理-手続と裁判例の検討」家庭裁判月報62巻11号77頁参照)。また、相手方は、その夫Cが前妻との間の子の養育費として月額9万9000円を支払っているので、総収入額から控除するべきである、申立人の妻が前夫から養育費を受給している場合には、総収入額に含めるべきである旨主張するが、いずれもこれらを裏付けるに足りる資料はないので考慮しない。

 次に、A及びBの生活費を算定する。申立人及びその妻Dの基礎収入額の合計は、1798万3547円であり(=1666万3547円+132万円)、この金額から申立人、その妻D、E、F、G、そしてAとBの生活費が賄われるところ、AとBの生活費に充てられる金額は、460万0443円となる(=1798万3547円×(55+55)÷(100+55+55+55+55+55+55))。なお、申立人及びその妻Dの基礎収入額を合計すると、A及びBを養育する義務のないDがA及びBの生活費の一部を負担することになるが、Dの収入は、申立人住所地を本店所在地とし、かつ、申立人が代表者となっている医療法人の事業に関連する事業を行っている株式会社からのものであること、申立人の基礎収入額と比較してDのそれが少ないことから、申立人及びその妻Dの基礎収入額を合計するのが相当である(岡健太郎「養育費・婚姻費用算定表の運用上の諸問題」判例タイムズ1209号八頁参照)。申立人は、Dの生活費指数を55ではなく、100とすべきであると主張するが、Dは、申立人と同居しており、住居費の負担がないのであるから55とするのが相当である(291頁注二参照)。

 申立人の養育費負担額は、AとBの生活費460万0443円を申立人側(申立人及びその妻D)と相手方側(相手方及びその夫C)の基礎収入額で按分すべきであるから、366万2468円となる(=AとBの生活費460万0443円×申立人とその妻Dの基礎収入額の合計1798万3547円÷(1798万3547円+相手方の基礎収入額359万7661円+相手方の夫Cの基礎収入額100万8000円))。ここでは、相手方及びその夫Cの基礎収入額を合計しているが、Cが相手方経営の薬局で働いており、かつ、その金額が相手方の基礎収入額と比較して少ないことから両者を合計するのが相当である。

 以上により、前記算定方式によると、A及びBの1人当たりの養育費は、月額15万2603円となる(=366万2468円÷2人÷12か月)。

(3)民法880条該当性について
 本件養育費減額申立ては、申立人と相手方との間で養育費を1人当たり月額20万円とする調停が成立していることを前提としているから、減額が認められるためには、まず「事情に変更を生じた」(民法880条)といえる場合でなければならない。この点、同調停成立時には、申立人が生活保持義務を負う対象としてAとBの2人がいただけであるが、現在では、同義務の対象として妻Dがいる他、養育すべき子が合計5人いるのであるから、「事情に変更を生じた」というべきである。もっとも、民法880条は「事情に変更を生じた」場合には直ちに協議内容を変更しなければならないとするものではなく、変更を「することができる。」としているのであるから、変更することが相当かどうかを検討する。

 申立人は、1人当たり20万円の養育費を支払う旨の調停を成立させたにもかかわらず、その意思に基づいて、調停成立後約1年2か月で再婚及び養子縁組をし、約3年後に子をもうけた。予期しない収入の減少というのであればともかく、自らこのような状況を作り出すことにより、いったん成立した調停の効力を覆すのを認めることには慎重であるべきといえる。

 また、申立人が6年制の大学教育を受けた医師であり、しかも多額の収入があることからすると、AとBが少なくとも4年制の大学教育を受け終わるまで養育費が支払われるのが相当であるにもかかわらず、養育費を定めた調停においてそのような合意がなされなかったのは、毎月の養育費の金額が高額であり、養育費支払の終期である満20歳に達する日の属する月から4年制の大学卒業時までは既に支払われた毎月の養育費の一部を充てることを予定していたからであるというべきである。それにもかかわらず、同じ終期のままで養育費の月額だけを減額することには慎重であるべきといえる。

 さらに、申立人の基礎収入額を算出する際に検討したとおり(前記二(2)),高額所得者の場合、収入が貯蓄や資産形成に回る部分が大きくなり、その全てが生活に消費されるわけではないことを考慮して、基礎収入割合を0・27と相当低くしたのであるから、申立人が調停での合意内容を維持するべく、貯蓄や資産形成に回る部分を少なくして養育費に充てることは可能なはずである。申立人自身の生活費について、前記二(2)においてA及びBの生活費を算定したのと同様に考えると、年額418万2218円(月額34万8518円)となるが(=申立人及びその妻Dを併せた基礎収入額1798万3547円×100÷(100+55+55+55+55+55+55))、これだけ高額であれば、申立人が調停での合意内容を維持するべく、申立人の生活費を少なくして養育費に充てることは可能なはずである。

 いったん調停で合意をして養育費を決めた申立人が、これらの努力をしさえすれば、前記算定方式により算定された1人当たり月額約15万円と調停で合意された1人当たり月額20万円との差額を補うことは可能であると思われるのに、これらの努力をせずに直ちに減額することを認めるのは相当ではない。したがって、本件では「事情に変更を生じた」(民法880条)とはいえるが、調停で合意された1人当たり20万円という養育費は減額しないこととする。

三 以上からすると、申立人の相手方に対する養育費減額の請求は認められない。よって、本件申立ては理由がないから却下することとし、主文のとおり審判する。
以上:5,292文字
ホーム > 男女問題 > 養育費・認知 > 「算定表上限2000万…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-16(火):2018年10月16日発行第231号”弁護士における理屈と人情”
ホーム > 事務所 > 大山滋郎弁護士ニュースレター2 > 「2018年10月16…」←リンクはこちらでお願いします
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの平成30年10月16日発行第231号「弁護士における理屈と人情」をお届けします。

○我妻栄博士は、明治30年生まれで昭和48年に76歳で亡くなられていますが、私が大学に入学した昭和46年当時存命で、その民法講義シリーズは、司法試験受験者の必読書と言われていました。私も全巻購入しましたが、なにせ分厚くて教科書としては使用せず、薄い本を教科書として、我妻民法講義は、不明点等を調べるための辞書・参考書代わりに使用しました。

○我妻先生の「法律における理屈と人情」と言う著作は、聞いたことはありますが、読んではいませんでした。アマゾンで調べるとなんと1944円で新品が販売されています。1955年昭和30年発行ですから63年も前です。63年後にも新品があるということは余り売れなかったのでしょうか。或いは不朽の名作として版を重ねているのでしょうか。早速アマゾンで購入しました。

○「常識と人情が法律論の一般確実性を崩さずに通るようにすること、それが法律家の任務であります。」との締め括りは、頭では判っても、実践は大変難しいことですが、改めて肝に銘じます。

*******************************************
横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

弁護士における理屈と人情


法律を勉強した人なら、今回は我妻栄先生だなと思ったはずです。50年ほど前に亡くなった、日本の民法界を代表する大学者です。この大先生が、一般人向けに書いたのが「法律における理屈と人情」です。「法律家は、とかく、理屈っぽいとか、融通がきかないとか、杓子定規だとかいわれます。そのとおりだと思います。」なんて、砕けた文章で始まります。

我妻大先生は、「法律家は人情を理解しない」「法律の筋さえ通ればよいと思っている」と批判されていると指摘します。その例として、建築物の高さ制限の規定を上げます。ある人が建物を建てようとしたら、法の規定より少しだけ高いから認められなかったというんですね。その人は、「その位は融通をきかせるべきじゃないか。法律は全く杓子定規だ。」と怒っているんです。

これに対して我妻先生からは、凄い「決め台詞」が出てきます。「杓子定規は法律の生命」というものです!学生の頃この言葉を知り、本当に感動しました。建物の高さ規制の場合、杓子定規を止めるには、担当の役人に裁量権を認めるしかありません。しかし、役人が裁量権を持てば、そこに付け入ろうと、それこそ賄賂等の働きかけがなされます。杓子定規というのは、どんな人でもその条件さえ満たせば認められるものなのだから、一般の人、力の弱い人を守ってくれる、そこに「法律の生命」があるということでした。

最近でも、医科大学での不正入試の事件がありましたよね。有力官僚の子息は、「杓子定規」なテスト結果と無関係に、「人情」的な配慮で入学できました。一方、女性受験生の場合は、テストの点という杓子定規の基準では合格できた人も、不合格になっています。大学当局が、「人情」のある合格判断をしたので、弱い立場の女性がはじかれたのです。こう考えますと、「杓子定規」はまさに法律の生命だと思えてきます。

我妻先生は、「杓子定規」が大切な事例として、検察官が刑事事件を起訴するかどうか判断する場合を挙げています。これって確かに、私が沢山の刑事事件を扱う中で、強く感じることです。痴漢や盗撮などの比較的軽い犯罪の場合、現場の検察官に相当広い裁量が認められています。つまり、同じような罪を犯しても、起訴されるかどうかは、検察官次第ということになるのです。これは、やはりおかしい気がします。(もっとも、緩い検察官にあたると、素直に喜んじゃいますけど。。。)

というわけで、我妻大先生は、理屈と杓子定規の大切さを説明するんですが、その一方、法律家も「人情」を忘れてはいけないとアドバイスされます。杓子定規な解決では、どうしても個々の事案では、常識と人情に反する、おかしな結論になる場合もあります。だからといって、「常識をただ常識として、人情をただ人情として通す。それでは法律論ではない。」と、我妻先生は手厳しい。「常識と人情が法律論の一般確実性を崩さずに通るようにすること、それが法律家の任務であります。」と締め括っています。法律の生命は杓子定規だが、人情を入れて「杓子定規」の内容を改善していくのが法律家の使命だということでしょう。

こういう文章を読むと、法律家の端くれとして、本当に恥ずかしくなります。弁護士の場合、自分の依頼者のために全力で当たります。「杓子定規」な解決よりも、依頼者を少しでも有利にするように頑張ることになるわけです。しかし、それが単なる「特別扱いの要求」に過ぎないなら、法律家失格でしょう。自分を信頼して依頼してきたお客様と共に、「法は人情と常識を無視している」と怒り、本気で解決策を考える。しかしその一方、法律家としての「杓子定規」の大切さを忘れない。そんな弁護士になりたいものです。

*******************************************

◇ 弁護士より一言

「お腹が痛い。」と言っていた中学1年生の息子が、トイレから出てきたんです。本当に軽い気持ちで、「ウンチでた?」なんて聞いたら、「そういう下品な下ネタは本当にやめて!」と言われちゃいました。ついこの前まで、私が「運賃」と言うだけで喜んでいたのに。「パパ、僕はもう中学生だよ。いつまでもそんなことで喜ぶわけないじゃないか。」だそうです。
り、理屈はそうでも、人情が。ううう。。。
以上:2,350文字
ホーム > 事務所 > 大山滋郎弁護士ニュースレター2 > 「2018年10月16…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-15(月):池上彰の世界を知る学校”紹介-中東問題の本質”は土地問題”3
ホーム > 趣味 > 歴史等 > 「池上彰の世界を知る学…」←リンクはこちらでお願いします
○「池上彰の世界を知る学校”紹介-中東問題の本質”は土地問題”2」の続きの備忘録です。

・ユダヤ人に有利なパレスチナ分割案が作られた
イギリスが統治を放棄後、国連がパレスチナに調査団を送り、ユダヤ人たちは調査に全面協力するも、アラブ人は一切協力せず、その結果、パレスチナ全体の56%をユダヤ人、43%をアラブ人、残り1%に当たるエルサレムを国際管理の土地とするとの分割案を作成し、1947年11月国連総会で決議採択、
ユダヤ人の強い希望でネゲブ砂漠全てユダヤ人としたが、ここにはウラン鉱山があり、このウランを元に巨大な核兵器製造工場と貯蔵施設を建設、その上空は飛行禁止区域とする

・建国直後のイスラエルは何故中東戦争に勝てたか
1948年第一次中東戦争(独立戦争)では、攻め込んだアラブ連合軍(レバノン・シリア・トランスヨルダン・イラク・エジプト)は連携がなく、且つ、武器は前時代的なものであったところ、イスラエルは大量に近代兵器を買い集め、撤退するイギリス軍から武器を盗み取り、更にイギリス軍相手のテロで訓練を積んでいたことから、イスラエルが圧勝し、国連が認めた以上の土地を取得

・「パレスチナ難民」は増え続ける
イスラエルに占領されたパレスチナの地に住んでいたイスラム教徒のアラブ人たちは、レバノン・シリア・イラク、ヨルダン川西岸地区、エジプト占領ガザ地区等に逃げ込み「パレスチナ難民」と呼ばれ、1948~1973年までの4回の中東戦争で230万人が難民となった
「パレスチナ難民」救済国連組織がUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)、難民全般を救済する組織はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)で緒方貞子弁務官が有名、
パレスチナ難民のキャンプは各地にあるが1948から現在まで70年以上も継続し、500万人に増加、難民キャンプはテントが原則だが長期化によりコンクリート二階建て建物もあり、難民の高齢化により医療費増加が重大問題となっている

・アメリカが止めた第二次中東戦争
1956年エジプトはそれまでイギリス・フランスが支配してきたスエズ運河を国有化して通行料(標準的貨物船で一隻当たり1000~2000万円)を政府が取得、怒ったイギリス・フランスはイスラエルをそそのかしてエジプトを攻撃させて第二次中東戦争(スエズ動乱)始まる
「スエズ動乱」についてカナダ外相レスター・B・ビアソンがスエズ運河の安全を守り、イスラエルのエジプト侵攻をやめさせるために、国連平和維持軍創設を提唱し、アメリカも支持してスエズ動乱は収まる

・イスラエル軍の圧倒的勝利に終わった第三次中東戦争
1964年アラブ諸国側が「パレスチナ解放機構(PLO)」設立、エルサレム旧市街を含めた東エルサレム(「嘆きの壁」所在地)のヨルダン支配にイスラエルの不満高まり、一触即発状態となる
1967年6月5日イスラエルがアラブ諸国空軍基地に奇襲攻撃し、僅か6日間でアラブ諸国は降伏し第三次中東戦争はイスラエル軍の圧倒的勝利に終わり、イスラエルはエジプトガザ地区、ヨルダン川西岸地区も占領し東エルサレムも支配下に置き、エルサレムは永遠の首都であると宣言、
しかし国際社会はこれを認めず世界各国大使館はテルアビブにあるが、2017年12月6日、トランプ大統領がエルサレムを首都と公式に認め、2018年5月、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移した、

・核兵器を使いそうになった第四次中東戦争
1973年アラブ諸国がイスラエルに奇襲攻撃を仕掛け第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争)始まる、「ヨム・キプール」とは「贖罪の日」と呼ばれるユダヤ教の最大休日で、この日は絶食で何もしないで静かに過ごす日に奇襲攻撃、イスラエル情報機関モサドはアラブ奇襲情報を得て首相に伝えるも動かず、奇襲を受けてから、「ヨム・キプールを守る必要はない」と宣言しようやくイスラエル軍も防戦に入るが大きな損害を受けた
この時イスラエル軍は核攻撃の準備をし使用寸前までいったが、イスラエル軍が息を吹き返し戦況が有利になったことで核攻撃は中止

・テロが起きて気づかされること-ノルウェーによる「オスロ合意」成立
イスラエルは4回の中東戦争全て勝利して領土を拡大するも、アラブ諸国側ではパレスチナ解放機構(PLO)が1969年アラファトが議長になって一気に過激組織に変貌し、パレスチナだけでなく世界各地でテロを繰り広げるようになり、「テルアビブ空港乱射事件」もその一つ、
テロが繰り返されることによって、世界中の人々がパレスチナ人たちの苦境に注目するようになり、「中東問題をなんとかしよう」と手を上げたのがノルウェー。
1993年ノルウェー首都オスロでイスラエル側とパレスチナ側で秘密協議が開かれ「オスロ合意」が成立

・中東問題を解決しないと世界平和はない
オスロ合意」とは、「パレスチナはイスラエルを国家として承認、その代わりガザ地区・ヨルダン川西岸地区からイスラエルは5年間手を引き、パレスチナ自治政府による自治を認め、その5年間の間に今後を協議する」というもので、パレスチナ自治政府議長にアラファトが就任、
しかしオスロ合意に調印したイスラエルのラビン首相が1995年に暗殺され強硬派ネタニヤフ首相になると一気に歩み寄りが止まり、パレスチナ側もアラファト議長率いるファタハはオスロ合意に基づくイスラエルとの共存を主張するも、対抗する1987年成立ハマスがイスラエルの存在を認めないと主張し、パレスチナ解放運動自体が分裂したが、2011年になってハマスが路線転換でイスラエルとの共存を認めるようになる
中東地域は、ユダヤ教・イスラム教・キリスト教の三大宗教の聖地であるエルサレムがあり、世界の産油量40%を占める石油大産地で、中東地域の治安情勢は世界中の国々に影響し、中東問題が解決しない限り世界平和はあり得ない

以上:2,404文字
ホーム > 趣味 > 歴史等 > 「池上彰の世界を知る学…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-14(日):池上彰の世界を知る学校”紹介-中東問題の本質”は土地問題”2
ホーム > 趣味 > 歴史等 > 「池上彰の世界を知る学…」←リンクはこちらでお願いします
○「池上彰の世界を知る学校”紹介-中東問題の本質”は土地問題”1」の続きの備忘録です。

・アフリカウガンダに「イスラエル」ができていたかもしれない
「ユダヤ人の国を作る」との合意→「土地なき民に、民なき土地を」のスローガンで、ユダヤ人の国を作るため人口密度の少ない場所としてウガンダが候補になる
ウガンダは、標高が高く涼しくて暮らしやすい場所でイギリスの植民地だった、ウガンダにイスラエルが建国されていたなら、現在の中東問題は起きなかった

・イスラム教徒にとっても「替えのきかない」土地
「シオニズム」とは「シオンの丘」に帰ろうと言う意味、「シオンの丘」は「ユダヤの王国の神殿があった場所」
旧約聖書の「アブラハムが我が子イサクを神に捧げようとする」話しの舞台が「シオンの丘」、紀元前10世紀頃ソロモン王によりエルサレム(ユダヤの)神殿が作られるも、バビロニアやローマ帝国により破壊され、残っていた西の外壁が現在のユダヤ人の聖地「嘆きの壁」
エルサレム神殿跡地にあった聖なる岩はイスラム教開祖ムハンマドが天に昇って神に会い、戻ってきた場所、イスラム教徒たちが岩のドームを作り金箔を貼って「黄金のドーム」としてイスラム教聖地の一つとなる
イエスが最後の晩餐をしたとされる丘もエルサレム神殿の丘の直ぐ近くにある
イスラエルの建国の地は、ユダヤ人、イスラム教徒、キリスト教徒いずれにとっても、替えのきかない重要な土地→中東地域は泥沼の戦争を続ける

黄金ドームと嘆きの壁


・「ジハード=戦争」ではない
「ジハード」とは「イスラムの教えを守るための努力」を言い、一日5回の祈り、ラマダンの日の絶食も「ジハード」の一つ、イスラムの土地を異教徒から守るために自分のみを犠牲にしても戦うことも「ジハード」、この「ジハード」を実行することは世界16億人いるイスラム教徒全ての共通理念
イスラムの聖地に建てられたイスラエルというユダヤ人国家に対し、自分たちの土地を守るために武器を持つことはイスラム教徒なら当然遂行すべき「ジハード」、
中東問題が解決しない限り「ジハードの対象であるイスラエルを支援しているアメリカを攻撃することも、さらにアメリカを味方する国を攻撃することもジハードである」と考える過激な勢力が生まれ続ける

・イギリスが三枚舌を使った
パレスチナ地方は、イスラエルが建国されるまではイギリスの委任統治領、委任統治とは国際連盟によって統治を委託されること
イギリスの三枚舌
①マクマホン書簡-メッカ統治者フセインに第一次世界大戦が終わったらパレスチナにアラブ人の土地を作っても良いと約束→アラブ人のオスマン帝国に対する反乱、映画「アラビアのロレンス」参照
②バルフォア宣言-イギリスはパレスチナにユダヤ人のナショナルホームを設立することを支持する、ユダヤ人の金持ちから資金を集めるため
③サイクス=ピコ協定-イギリス・フランス・ロシアの三カ国によってオスマン帝国領を山分けしようとの秘密協定、ロシア革命政府がこの秘密協定を世界中に暴露、結局、オスマン帝国跡地は、イラク・クウェート・パレスチナはイギリス、シリア・レバノン周辺はフランスの支配圏になった

・イギリス軍に対するテロとイギリスのパレスチナ統治放棄
バルフォア宣言により大勢のユダヤ人が「パレスチナに自分たちの国を作ろう」と移り住む→イスラム教徒アラブ人とのトラブル発生
ユダヤ人過激派がイギリス委任統治領から独立したユダヤ人国家を作るためイギリス軍に対するテロ攻撃始める→イギリス軍本部のあるキングデイビッドホテルに爆弾テロで一般客含めて90名以上の犠牲者
1947年2人のイギリス兵がユダヤ過激派に誘拐・殺害されて遺体がエルサレムの街に吊された→イギリス国内にパレスチナ撤退の世論が高まり、イギリスはパレスチナ統治を放棄し、その後の統治を国際連合に丸投げ

以上:1,580文字
ホーム > 趣味 > 歴史等 > 「池上彰の世界を知る学…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-13(土):池上彰の世界を知る学校”紹介-中東問題の本質”は土地問題”1
ホーム > 趣味 > 歴史等 > 「池上彰の世界を知る学…」←リンクはこちらでお願いします
○「池上彰の世界を知る学校”紹介-ソ連からロシアへ3」の続きの備忘録です。

・ナチスドイツのユダヤ人虐殺を「見て見ぬふり」?
ナチスドイツはドイツ本国だけで18万人、ヨーロッパ全体で600万人のユダヤ人を虐殺、ポーランドにあるアウシュビッツ収容所が最も有名
第二次世界大戦中には、ナチスドイツのユダヤ人虐殺についてユダヤ人に手を差しのべる動きは国家としても個人としても殆どなかった-「見て見ぬふり」
ヨーロッパ人の中には「ユダヤ人が酷い目に遭っても構わない」との心理を持つ人々がそれなりの数いた
多くのユダヤ人が虐殺された事実から、二度とこのような悲劇が起こらないように1948年「ユダヤ人のための国家」イスラエルが建国された

・イエスを十字にかけたユダヤ人
ユダヤ人がヨーロッパで嫌われた原因の一つは聖書「マタイによる福音書」-ユダヤ教の改革運動をしていたイエスはユダヤ教の老師たちに睨まれ、捕まって、ローマ帝国ゴルゴタの丘の十字架に架けられ処刑
このときローマ帝国総督ピラトは、集まったユダヤ人にイエスを殺すべきかと問うと、ユダヤ人たちは「イエスを殺せ。その血の報いが我が子孫にかかってもよい」と言った
ユダヤ人の王国はローマ帝国に滅ぼされ、ユダヤ人たちは土地を追われたディアポラス(大離散)により、大勢のユダヤ人がヨーロッパに住むようになった
ローマ帝国の国教キリスト教徒たちは「イエスを十字架にかけたユダヤ人は、自分の子孫が血の報いを受けても構わないと言った」としてユダヤ人に接する→ユダヤ人差別の大きな根拠

・お金に強いユダヤ人の印象
中世ヨーロッパで差別の対象だったユダヤ人には「職業選択の自由」がなかった→誰もなりたがらない「金貸し」金融業にユダヤ人が取り組む
ユダヤ人は「土地の所有」も認められなかった→子孫に受け継がせるものは「現金」か「人から奪われることのない財産」即ち教育
ユダヤ人が現代においても教育を大事にするのは歴史的に「土地を相続させることができない」との制約を課せられていたから
差別を受けながらよく働き、よく学ぶユダヤ人たちから多くの金持ちが誕生→ヨーロッパのキリスト教徒から「あいつら、しぶとく金儲けしやがって」と益々嫌われ差別が広がる
シェイクスピアの「ヴェニスの商人」の「金儲けのためなら何でもする」シェイロックという金貸しが当時のヨーロッパの典型的ユダヤ人像
1904年日露戦争時日本は戦費調達のため発行した国債を買ったのがユダヤ人、当時ロシヤでもユダヤ人への差別が激しく、ロシヤが負けて政治体制が変わりユダヤ人差別がなくなることを期待した

・ヨーロッパ人自らの贖罪のために
ユダヤ人たちは「反ユダヤ主義」に対抗するためユダヤの王国があった場所に自分たちの国を作る運動「シオニズム運動」起こす
このきっかけは1894年当時フランスの軍人だったユダヤ人アルフレド・ドレフェスがスパイ容疑で逮捕され証拠が無いのに終身禁固刑を言い渡された完全な冤罪の「ドレフェス事件
ユダヤ人たちは「差別や偏見から逃れた生活を送るために、自分たちの国を作るしかない」と決意を固める
シオニズム運動は、第二次世界大戦後、ナチスドイツの行った残虐行為の実態が明らかになったことで世界的に一気に盛り上がる
ユダヤ人への差別・虐待を薄々知っていながら見ぬふりをしていたヨーロッパ人の中からも助けの手を差しのべなかったことを悔やみ、自らの贖罪のために「ユダヤ人に何かをしてあげなければならない」と考える人が出てきた→シオニズム運動が急ピッチに進行

以上:1,455文字
ホーム > 趣味 > 歴史等 > 「池上彰の世界を知る学…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-12(金):算定表上限2000万円超過年収の義務者婚姻費用を算定した判例紹介
ホーム > 男女問題 > 結婚 > 「算定表上限2000万…」←リンクはこちらでお願いします
○別居中の夫婦間において、妻である相手方が、夫である抗告人に対し、毎月相当額の婚姻費用の支払を求める事案について、いわゆる標準算定方式を前提としつつ、義務者の年収がいわゆる算定表の上限額である2000万円を相当程度超えている場合において、基礎収入を算定するに当たっては、税金及び社会保険料の各実額、職業費並びに特別経費に加え、貯蓄分を控除すべきであるとした平成28年9月14日東京高裁決定(判タ1436号113頁)全文を紹介します。

○抗告人夫の平成26年年収は、給与収入2050万円、不動産収入474万円、配当収入1038万円合計3562万円(いずれも経費を控除した後の所得金額)のところ、相手方妻の平成26年年収は75万円程度でした。婚姻費用は、ほぼ裁判所が作成した算定表で決められますが、その上限は2000万円で3562万円となると算定表に記載がありません。

○この東京高裁決定では、「(抗告人の)職業費及び特別経費の合計額は1391万5750円(3939万9067円×(職業費18.92%+特別経費16.40%)),考慮すべき貯蓄分は181万3682円((3939万9067円-1348万9317円)×0.07)となり,税金及び社会保険料の実額は1348万9317円であるから,これらを抗告人の給与収入総額3939万9067円から控除すると,抗告人の基礎収入は,1018万0318円となる。」として婚姻費用月額20万円としました。感覚的には、随分少ないと感じます。

*********************************************

主   文
1 原審判を次のとおり変更する。
(1)抗告人は,相手方に対し175万円を支払え。
(2)抗告人は,相手方に対し,平成28年×月から抗告人及び相手方が別居を解消し又は離婚するまで,毎月×日限り,月額20万円を支払え。
2 手続費用及び抗告費用は各自の負担とする。 

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨及び理由は,抗告状及び抗告理由書に記載のとおりである。

第2 事案の概要
本件は,相手方が抗告人に対し,毎月相当額の婚姻費用の支払を求める事案である。
相手方は,平成27年×月×日,東京家庭裁判所に対し,抗告人に婚姻費用の分担として毎月相当額の支払を求めるとの調停を申し立てた(同裁判所平成27年(家イ)第××号)が,平成28年×月×日,同調停は不成立で終了し,審判手続に移行した。
原審は,抗告人に対し,婚姻費用分担金として,平成27年×月から平成28年×月までの未払分130万5000円及び同年×月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで毎月×日限り22万円を相手方に支払うことを命ずる審判をした。
これに対し,抗告人が,抗告人により有利な審判に代わる裁判をすることを求めて抗告した。

第3 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)婚姻,別居等

ア 抗告人(昭和37年×月×日生)と相手方(昭和39年×月×日生)は,平成3年×月×日に婚姻し,平成5年×月×日に長女であるC(以下「長女」という。),平成7年×月×日に長男であるD(以下「長男」という。)が出生した。
イ 抗告人及び長男は,平成26年×月,相手方肩書住所地の家(以下「相手方宅」という。)を出て,抗告人肩書住所地の賃貸物件(以下「抗告人宅」という。)に居住するようになり,相手方と別居した。
ウ 長女は,同年×月,相手方宅を出て抗告人宅に居住するようになり,相手方と別居した。
エ 長女は,平成27年初め頃から,抗告人宅を出て,一人暮らしをするようになった。

(2)生活状況等
ア 相手方
(ア)相手方は,相手方宅に単身居住している。
(イ)相手方は,平成26年は75万4113円の収入を得た。

イ 抗告人
(ア)抗告人は,抗告人宅に私立大学に通う長男とともに居住しているほか,一人暮らしをしている私立大学に通う長女の生活費を負担している。
(イ)抗告人は,平成26年は,給与収入として2050万円を得たほか,不動産収入473万9254円及び配当収入1038万円(ただし,いずれも経費を控除した後の所得金額)を得た。そして,抗告人は,社会保険料として170万9804円,所得税及び復興特別所得税として888万8213円,平成26年中の所得に係る平成27年度の住民税として289万1300円をそれぞれ支払った。
(ウ)抗告人は,長女の大学の費用として,平成26年度に,授業料年額72万円,施設費年額30万円,長男の大学の学費として年額123万4500円を負担した。

(3)支払抗告人は,平成27年×月以降平成28年×月までの間に,申立人に対し,月額7万5000円ずつ,合計105万円を支払った。

2 婚姻費用の算定等
(1)相手方は,平成26年に75万4113円の給与収入を得ており,平成27年以降も同程度の収入を得る稼働能力があるものと考えられる。これに収入額に応じた基礎収入率(42%)を乗じて基礎収入を算定すると,31万6727円(小数点以下切捨て。以下,同じ。)となる。
(2)他方,抗告人は,平成26年に給与収入として2050万円を得たほか,不動産収入473万9254円及び配当収入1038万円(ただし,いずれも経費を控除した後の所得金額)を得ており,平成27年以降も同程度の収入を得る稼働能力があるものと考えられる。この不動産収入及び配当収入を0.8(1-職業費の割合0.2)で除して給与収入に換算すると1889万9067円となり,抗告人の給与収入総額は3939万9067円となる。
 この額は,いわゆる標準算定表(判例タイムズ1111号285頁参照)の義務者の年収の上限額2000万円を大幅に超えていることに鑑み,抗告人の基礎収入を算定するに当たっては,税金及び社会保険料の実額(1348万9317円)を控除し,さらに,職業費,特別経費及び貯蓄分を控除すべきである。

(3)この点,相手方は,収入が増加するほど収入に占める職業費及び特別経費の割合が低下する旨主張する。また,相手方は,いわゆる標準算定方式は,年収2000万円以下の者でも一定程度の貯蓄をしていることを前提に制度設計されており,抗告人についても標準算定方式を準用して基礎収入を算定すれば足りるのであって,平均貯蓄額のような曖昧な概念を持ち出すべきではないとか,貯蓄率の考慮は必須なものではないとか,仮に年収2000万円程度の者の平均的な貯蓄額と年収3900万円程度の者の平均的な貯蓄額との差額を考慮するのであれば,年収1500万円の者の貯蓄率31.7%とそれ以上の年収の者の貯蓄率31.9%との差額である0.2%にとどめるべきであるとかとも主張する。

他方で,抗告人は,標準算定方式は年収2000万円を基準としてそこまでは貯蓄考慮を一律行わないという政策的な取扱いをしているだけであって,これを超える場合には差額にとどめず純粋に貯蓄率を反映させるべきであり,家計調査年報の,総世帯のうち勤労者世帯の貯蓄率が,全収入の平均で21.4%であることからこの割合が控除されるべきであるとか,仮に差額のみを考慮するものとしても,家計調査年報の,二人以上の世帯のうち勤労者世帯の貯蓄率が,年収1500万円以上が31.9%,1500万円未満の各収入の貯蓄率の平均値が16%であることから,その差額の15.9%が控除されるべきであるとかと主張する。

(4)この点,職業費については,抗告人の場合と年収2000万円以下の場合とでその占める割合が大きく変わるとは考えられないから収入比18.92%とすべきである。他方で,特別経費については,一般に高額所得者の方が収入に占める割合が小さくなり,その分貯蓄や資産形成に回る分が増える傾向にあると考えられる。そして,年収2000万円以下の者でも相応の貯蓄はしているはずであり,抗告人のこれまでの貯蓄額が判然としない本件事案においては,抗告人についてのみ純粋に平均的な貯蓄額の満額を控除すべきではなく,標準算定表の上限である年収2000万円程度の者の平均的な貯蓄額との差額のみを考慮すべきである(標準算定方式では,特別経費について年収1500万円以上の者について収入比16.40%との前提に立っているが,年収2000万円程度の場合でも同様の収入比に立っており,この中に貯蓄的要素を既に加味しているともいえる。)。

もっとも,本件では,年収2000万円程度の者の貯蓄額と3900万円程度の者の貯蓄額との比較ができる有意な資料がないことから,その差額について推認するほかないところ,抗告人が引用する家計調査年報の,総世帯のうち勤労者世帯の貯蓄率は,年収1018万円以上が27.3%,全収入の平均が21.4%であること,二人以上の世帯のうち勤労者世帯の貯蓄率が,年収1500万円以上が31.9%,全収入の平均が19.8%であること,その他本件に現れた一切の事情を考慮して,特別経費については年収1500万円以上の者の収入比とされる16.40%とするとともに,抗告人について,総収入から税金及び社会保険料を控除した可処分所得の7%分を相当な貯蓄分と定めることとする。

(5)そうすると,職業費及び特別経費の合計額は1391万5750円(3939万9067円×(職業費18.92%+特別経費16.40%)),考慮すべき貯蓄分は181万3682円((3939万9067円-1348万9317円)×0.07)となり,税金及び社会保険料の実額は1348万9317円であるから,これらを抗告人の給与収入総額3939万9067円から控除すると,抗告人の基礎収入は,1018万0318円となる。

 そして,標準算定方式により婚姻費用分担額を算定すると,{(31万6727円+1018万0318円)×100
(100+100+90+90)-31万6727円}÷12≒20万3804円となる。

(6)抗告人は,平成26年度に長女の大学の授業料等として102万円,長男の大学の学費として123万4500円を負担した(合計額は225万4500円)ところ,標準算定方式が前提とする学校教育費の平均額の2人分合計約66万円は標準算定方式において考慮されているから,当該考慮済みの額を控除した残額を,抗告人と相手方が,基礎収入の比により負担すべきこととなる。そうすると,相手方が負担すべき金額は,月額4000円弱となる。

(7)以上を含め本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,抗告人が相手方に支払うべき婚姻費用は,月額20万円とするのが相当である。

(8)そうすると,抗告人が分担すべき婚姻費用は,平成27年×月(調停申立時)以降平成28年×月までの間で,合計280万円(20万円×14か月)となるところ,抗告人は,上記期間において,合計105万円を支払ったことから,これを控除すると,175万円となる。

(9)抗告人は,抗告人と相手方との間には,長女誕生後別居を経て現在に至るまで,相手方への固有の配分額が月額10万円程度を下回らなければ異存がない旨の合意があった旨主張する。しかし,上記の内容とする旨の明示の意思表示があったとの抗告人の主張はないところ,抗告人によれば,抗告人は,別居開始後数か月間,相手方に月額20万円を支払っていたのであり,その後一方的に10万円に減額したにすぎないのであるから,従前の抗告人の支払状況に鑑みれば,黙示の合意が成立するとはいえず,ほかに黙示の合意が成立したことを認めるに足りる資料はない。

3 結論
 以上によれば,抗告人は,相手方に対し,婚姻費用分担金として,平成27年×月(調停申立時)から平成28年×月までの280万円(20万円×14か月)から既払金105万円を控除した175万円,同年×月から抗告人と相手方が別居を解消し又は離婚するまで毎月20万円を支払う義務がある。
 よって,原審判は失当であるから,原審判を変更することとして,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 山田俊雄 裁判官 鈴木順子 裁判官 菊池章) 
以上:4,958文字
ホーム > 男女問題 > 結婚 > 「算定表上限2000万…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-11(木):ウェブサイト中傷記事削除業務は弁護士法第72条違反とした判例紹介
ホーム > 法律その他 > なんでも参考判例 > 「ウェブサイト中傷記事…」←リンクはこちらでお願いします
○他人に代わりウェブサイトに掲載された記事を削除するための業務の依頼を受ける旨の契約は弁護士法72条に違反し無効であり、弁護士法72条違反の契約を締結した点で原告Xが不法原因に関与しているとしても,その不法原因は専ら被告Yの側にあるから,不法原因給付に関する規定は適用されず,Xにおいてその契約が無効であり,代金支払債務が存在しないことを知っていたともいえないとして代金の返還を命じた平成29年2月20日東京地裁判決(判タ1451号237頁)を紹介します。

○原告Xは被告Yに対し、1000万円の慰謝料と100万円の弁護士費用も請求していますが、これらはいずれも本件契約を締結した被告Yの行為が不法行為に当たると評価できないとして、棄却されました。

*********************************************

主   文
1 被告は,原告に対し,49万8750円及びこれに対する平成28年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを23分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,1149万8750円及びこれに対する平成28年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が,〇〇との事実を摘示して原告の名誉を毀損すると原告が主張する別紙ウェブサイト一覧表の各ウェブサイトに掲載された各記事(以下,各記事それぞれを掲載されたウェブサイトごとに「本件記事1」などといい,これらを合わせて「本件各記事」という。)を削除するための業務を被告に依頼する旨の契約(以下,本件各記事に係る契約を合わせて「本件契約」という。)を締結したところ,本件契約は弁護士法72条本文に違反するため無効であると主張して,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,本件契約に基づいて支払った代金49万8750円及びこれに対する訴状送達の日である平成28年2月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告が原告を弁護士法違反行為に加担させたこと及び原告から適切な権利行使の機会を奪い,本件各記事の削除ができない状態を継続させ,原告の人格権侵害状態を継続させたことが原告に対する不法行為に当たると主張し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の合計1100万円並びにこれに対する不法行為後の日であり,訴状送達の日である平成28年2月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告の被告に対する問合せ(甲1)
 原告は,平成24年9月頃,被告に対し,メールで,原告が〇〇とされ,インターネット上で誹謗中傷を受け,現在でも,原告の名前を検索すると,〇〇に関連するページが表示されることについて,「(原告の氏名),〇〇」などのキーワードを,大手検索エンジンであるヤフーやグーグルでの検索結果から除くように対応してもらうことが可能かどうか及びその場合の報酬の見積りについて問い合わせた。
 被告担当者は,平成24年10月9日,原告に対し,原告が削除を求める情報が掲載されているホームページを複数挙げ,そのうち,本件記事11の削除業務の代金として20万円(税別),ミラーサイトである本件記事1,2及び12の削除業務の代金として各5万円(税別)の見積りを示した。

(2)本件記事1,2及び12についての削除依頼等(甲1,2,弁論の全趣旨)
ア 削除依頼等
 原告は,平成24年10月13日,被告に対し,本件記事1,2及び12の三つの記事の削除を依頼した。
 被告担当者は,平成24年10月15日,原告に対し,正式な御見積書兼申込書,業務委託契約書及び秘密保持契約書(それぞれ2部)を送付するので,業務委託契約書及び秘密保持契約書に氏名を記入し,捺印した上で,各1部を被告に返送するよう伝え,原告は,翌日,被告に対して,指示された書類を送付した。

イ 代金の請求及び支払等
 その後,本件記事1及び2は削除され,被告担当者は,平成24年10月26日,原告に対し,本件記事1及び2の削除が成功した旨のメールを送信した。
 そして,被告担当者は,平成24年11月6日頃,原告に対し,本件記事1及び2の削除業務に係る代金の請求書を送付し,原告は,同月8日,被告に対し,10万5000円を支払った。

ウ 削除依頼の撤回等
 被告担当者は,その後,原告に対し,本件記事12は被告において削除することができない旨通知した。これを受け,原告は,本件記事12の削除依頼を撤回した。本件記事12は,その後,サイト自体が閉鎖となり,記事も消去されている。

(3)本件記事11についての削除依頼等(甲1,弁論の全趣旨)

         (中略)

(8)被告名で作成された削除業務に関する書類(乙2)
 被告名で作成された「ミラーサイト対策の注意事項」と題する書面が証拠として提出されているところ,この書面には,注意事項として以下のような記載がされている。
 1,メールは,匿名のフリーメールアドレスを使う
 2,法的な論拠を主張するのではなく,中傷で困っている状況を伝える
 判断,説得,反論はしない事。
 また,上記書面には,レスやスレッドの削除を求める場合の文章の参考として,以下のような記載がされている。
 【レス削除】
 このサイトのレスに中傷に相当する内容が含まれていますので
 お手数ですが,指定のレスの削除をお願いします
 レス番号
 【スレッド削除】
 このサイトのレスに中傷に相当する内容が含まれていますので
 スレッドの削除をお願いいたします。
 URL

2 争点1(本件契約が弁護士法72条本文に違反するか)について
(1)弁護士法72条本文前段の成立要件について

 弁護士法72条本文前段は,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で,業として,法律事件に関する法律事務を取り扱うことを禁止するところ,前提事実(1)のとおり,被告が弁護士法人でないことは明らかであるので,その他の要件について検討する。

(2)「法律事件」について
 弁護士法72条本文前段にいう「法律事件」とは,法律上の権利義務に関し争いや疑義があり,又は,新たな権利義務関係の発生する案件をいうと解される。
 本件契約は,原告が,被告に対し,〇〇との事実を摘示し,原告の名誉を毀損すると主張する本件各記事をウェブサイト上から削除するための業務を依頼するものである。そのため,ウェブサイト運営者側の表現の自由と対立しながら,これにより本件各記事が削除され,原告の人格権の侵害状態が除去されるという効果を発生させることになるのであるから,単純かつ画一的に行われるものとはいえず,新たな権利義務関係を発生させるものである。
 したがって,本件において,被告がウェブサイトの運営者に対して本件各記事の削除を求めることは,「法律事件」に該当する。

(3)「法律事務」について
 弁護士法72条本文前段の要件として,法律事件に関する「鑑定,代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務」を取り扱うことが必要とされているところ,「その他の法律事務」とは,法律上の効果を発生,変更する事項の処理や,保全,明確化する事項の処理をいうと解されている。
 上記1で認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件各記事の削除のために,別紙削除フォーム1ないし3のような各ウェブサイトが設けた通報用のフォームを用いて,ウェブサイトの運営者に対して「ウェブサイト上に投稿されたコメントにより迷惑を被っている」旨の情報を提供し,削除を依頼したものと認められる。

 この点について,被告は,単に通報用のフォームを用いて,情報を提供し,削除を依頼しただけであるから,このような業務は「法律事務」に当たらない旨主張する。
 しかしながら,被告が用いた通報用のフォームは,別紙削除フォーム1ないし3のように削除対象URL,削除を求める理由等を入力し,ウェブサイトの運営者に対して迷惑を被っている旨の情報を提供すると,原告の人格権行使の結果としてウェブサイトの運営者側で各記事を削除するというものである。そのため,当該フォームに入力して迷惑を被っている旨の情報を提供する行為は,原告の人格権に基づく削除請求権の行使により,ウェブサイトの運営者に対し,削除義務の発生という法律上の効果を発生させ,原告の人格権を保全,明確化する事項の処理といえる。
 したがって,本件各記事の削除のために被告が行った上記の業務は「その他の法律事務」に当たるといえ,被告の上記主張を採用することはできない。

(4)「業とする」ことについて
 「業とする」とは,反復的に又は反復の意思をもって法律事務の取扱い等をし,それが業務性を帯びるに至った場合をさすと解すべきである(最高裁昭和47年(オ)第751号同50年4月4日第二小法廷判決・民集29巻4号317頁参照)。
 前提事実(1)のとおり,被告は,「〇〇」と称して,インターネット上のネガティブ情報への対処を業務として行い,上記1(2)アのとおり,見積書兼申込書,業務委託契約書及び秘密保持契約書等の定型文書を作成していたことからしても,上記法律事務の取扱いを反復的に行っていたことは明らかである。
 したがって,被告は,上記法律事務の取扱いを業として行っていたといえる。

(5)「報酬を得る目的」について
 「報酬」とは,法律事務の取扱いのための対価をいい,額の多少や名称を問わないが,法律事務の取扱いとの間に直接的又は間接的に対価関係が認められることが必要であると解される。
 前提事実(3)のとおり,被告は,本件契約に基づき,本件記事1ないし10の削除業務の対価として,原告から金員を受け取っているから,被告には,「報酬を得る目的」があるといえる。

(6)まとめ
 以上によれば,本件契約は,弁護士法人でない被告が,報酬を得る目的で,かつ,業として,原告の法律事件に関して法律事務を取り扱うことを内容とするものであり,全体として,弁護士法72条本文前段により禁止される行為を行うことを内容とする契約であるといえる。

3 原告の被告に対する不当利得返還請求について
(1)原告の請求について

 上記2のとおり,本件契約は,全体として弁護士法72条本文前段により禁止される行為を行うことを内容とするものであるから,その余の原告の主張(本件記事10に係る行為が「周旋」に当たるか)について判断するまでもなく,民法90条に照らし無効となる(最高裁昭和37年(オ)第1460号同38年6月13日第一小法廷判決・民集17巻5号744頁参照)。

 そして,前提事実(3)によれば,原告は,被告に対し,本件契約に基づき,本件記事1ないし10の削除業務に係る代金として合計49万8750円を支払っているから,当該金員につき,原告の損失,被告の利得及び損失と利得との間の因果関係が認められ,被告の利得について法律上の原因が存在しないから,上記金員は被告の不当利得となる。したがって,原告は,被告に対し,不当利得金49万8750円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年2月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。なお,原告は,訴状送達の日である同月24日から発生する遅延損害金の支払を求めている。しかし,不当利得者の返還義務は期限の定めがない債務であって,債務者は履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うところ(民法412条3項),本件において,訴状送達の日より前に原告が被告に対して当該債務の履行の請求をしたと認めるに足りる証拠はない。そのため,訴状送達の日から発生する遅延損害金の支払を求める部分については理由がない。

(2)被告の主張について
 被告は,原告は被告が行う事務内容を認識しながら,被告に対して本件契約に基づく代金を支払ったのであるから,当該給付は不法原因給付又は非債弁済に該当し,原告は被告に対して不当利得の返還を請求することはできない旨主張する。
 確かに,上記2で判断したとおり,本件契約は弁護士法に違反するから,それに基づいて支払った代金は,不法原因給付に当たる。しかし,契約成立に至った経過において,給付者に多少の不法の点があったとしても,受益者にも不法の点があり,前者の不法性が後者のそれに比し極めて微弱なものに過ぎない場合には,民法90条及び708条の適用はなく,給付者は受益者に対して,既に交付された物の返還を請求することができると解するのが相当である(最高裁昭和27年(オ)第13号同29年8月31日第三小法廷判決・民集8巻8号1557頁参照)。

 本件において,甲15及び弁論の全趣旨によれば,被告が本件契約の誘因としてインターネット上の記事を削除する業務について広告を掲載し,それを見た原告が被告に対し記事の削除について問合せをしたことが認められる。また,上記2で判断したとおり,被告は,業として弁護士法に違反する行為を行っていた。これらの事情に照らせば,原告が,自ら被告に対して問合せをして本件契約を締結したという点において不法原因に関与しているとしても,不法原因は専ら被告の側にあるといえるので,被告の不法原因給付に関する主張は採用することができない。
 また,原告が,本件契約に基づき本件各記事の削除業務に対する代金を被告に支払った際に,本件契約が弁護士法72条に違反し無効なものであること及びその結果として代金支払債務が存在しないことを知っていたと認めるに足りる証拠はない。そのため,原告の被告に対する報酬の支払は,非債弁済には当たらない。
したがって,被告の非債弁済に関する主張も採用できない。


4 争点2(被告の原告に対する不法行為の成否)について
(1)弁護士法違反行為に加担させたとの主張について

 原告は,被告により,違法な行為に加担させられ,遵法意識を傷つけられたため,精神的苦痛を被ったのであるから,原告に対する不法行為が成立すると主張する。
 確かに,上記2のとおり,本件契約は,弁護士法に違反し,無効な契約である。
 しかし,原告は,被告に対し,自ら本件各記事の削除を依頼して本件契約を締結したのであるから,結果的に本件契約が弁護士法に違反する違法で無効なものであったとしても,本件契約を締結した被告の行為が不法行為に当たると評価できるものではない。

(2)適切な権利行使の機会を奪い人格権侵害状態を継続させたとの主張について
 原告は,被告の行為により,原告の人格権を侵害する記事の削除をすることができない状態が約4か月継続し,その間,大きな精神的苦痛を被ったと主張する。
 しかし,被告との間で本件契約を締結したとしても,原告が他に弁護士に依頼するなどして,仮処分を申し立てるなどの行為をすることが何ら妨げられるわけではないから,本件契約を締結した被告の行為が不法行為に当たるとはいえない。

(3)まとめ
 上記(1),(2)のとおり,被告の行為は原告に対する不法行為に当たらないから,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。

第4 結論
 以上によれば,原告の請求は49万8750円及びこれに対する平成28年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 原克也 裁判官 髙祐子 裁判官 小久保珠美) 

ウェブサイト一覧表〈省略〉
削除フォーム1~3〈省略〉 
以上:6,573文字
ホーム > 法律その他 > なんでも参考判例 > 「ウェブサイト中傷記事…」←リンクはこちらでお願いします
H30-10-10(水):後遺障害悪化による損害賠償請求を前訴既判力に抵触しないとした判例紹介
ホーム > 交通事故 > 交通事故重要判例 > 「後遺障害悪化による損…」←リンクはこちらでお願いします
○交通事故に基づき後遺障害が残存したと主張して提起された損害賠償請求の訴え(前訴)について一部認容判決が確定した後に,後遺障害が悪化したと主張して提起された後遺障害に係る損害賠償請求の訴え(後訴)が,前訴確定判決の既判力に抵触しないとした平成29年10月25日東京地裁判決(判タ1451号194頁)の主文と判断部分を紹介します。

○交通事故の判決確定後に予想外に新たな後遺障害が「発生」した場合の新たな損害賠償請求は、別訴として当然に認められます。しかし同じ後遺障害が「悪化」した場合は、別訴とは認められないとの考えもありますが、本判決は前訴既判力に抵触しないとして再訴を認めました。しかし、後遺障害の悪化は認められないとして請求は棄却でした。

**************************************

主    文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,4209万円及びこれに対する平成27年8月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

         (中略)

2 当事者の主張
(1) 原告

ア 原告は,本件事故により,不全頚髄損傷,頚椎捻挫,頭部打撲,脳挫傷及び両肩関節打撲傷の傷害を負い,歩行困難(現在T字杖歩行にて移動,数十m歩行で1度休む),右上肢しびれ,両下肢痛(痛くて眠れないことあり)及び頚に針で刺したような痛みの自覚症状を残し,平成27年8月27日に症状固定した。

イ 原告の上記症状は,自賠法施行令別表第二(以下「別表第二」という。)第3級3号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの)に該当する。

ウ 原告には,後遺障害分として2219万円,後遺障害慰謝料として1990万円の損害(合計4209万円)が生じた。

エ よって,原告は,被告に対し,民法715条及び自賠法3条に基づき,4209万円及びこれに対する後遺障害等級変更日である平成27年8月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2) 被告
 原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償請求は,前訴判決によって解決済みであり,原告の本訴請求は既に解決した事件の蒸し返しである。
 仮に,原告の症状が前訴判決確定後に悪化しているとしても,それは本件事故前から存在する頚髄症の悪化であるから,本件事故との因果関係はない。原告の身体障害者手帳において,4級から3級に更新され,障害名も頚髄症であることは,その証左である。したがって,本件事故と原告の障害との間に因果関係はなく,被告は原告の損害を賠償する責任はない。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実,証拠(乙1,2のほか,後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故及び前件訴訟について,以下の事実が認められる。
(1) 原告(昭和12年○月○日生。男性。本件事故当時70歳)は,変形性頚椎症のため,平成2年4月5日から順天堂浦安病院に通院していた。平成19年3月24日,同病院での頚椎レントゲン検査の結果,第2,3及び4ないし7頚椎の前縦靭帯の高度の骨増殖が認められ,第5/6頚椎間の狭小化が認められた。同年4月19日,昭和大学附属豊洲病院で頚椎MRI検査が行われ,第3ないし第6頚椎の脊柱管は狭窄し,特に第3/4頚椎間と第5/6頚椎間は著しい狭窄を呈し,第5/6頚椎間の脊髄に輝度変化が認められた。以上の検査結果を踏まえて,原告は頚髄症と診断された。

(2) 原告は,平成19年7月17日から順天堂浦安病院に入院し,同月24日に頚椎C3-C6椎弓形成術の手術(以下「本件手術」という。)を受けた。同年8月7日,原告頚椎MRI検査が行われ,第3/4頚椎間の脊髄は上記手術前と同じく圧迫されたままで,第5/6頚椎間では上記手術前よりやや開大しているものの,狭窄が残っていた。原告は,同年9月9日,同病院を退院し,車を運転して帰宅した。この時点で,両手足にしびれがあり,やや痙性歩行であるが,独歩は可能であり,筋委縮はないが,知覚は鈍麻していた。

(3) 原告は,平成19年9月15日,福島県内で本件事故に遭い,搬送先の病院において,頭部CTで異常所見はなかったが,頚部痛,両手のしびれ及び巧緻障害が認められ,不全頚髄損傷,頚椎捻挫,頭部打撲,脳挫傷及び両肩関節打撲傷と診断され,入院となった。原告は,翌16日,順天堂浦安病院に転院したところ,肩関節痛,頭部痛があり,両下肢足背にしびれがあったが,神経学的な問題はなく,同病院の担当医は,基本的には本件事故前の症状と大きな変化はなく,除圧されており,さらに頚髄損傷のような症状が出ることは考えにくく,運動障害はないと判断した。同月18日,原告の頚椎MRI検査が行われた。その画像によると,頚椎管は開放されており,第3/4,第5/6頚椎レベルに脊髄軟化症があり,同レベルでの脊柱管狭窄は著しいものとされ,上記(2)の所見(同年8月7日に行われた頚椎MRI検査の所見)と画像上異なるものではなく,事故に起因すると思われる異常所見は認められなかった。原告は,同年11月1日,同病院を退院した。

(4) 順天堂浦安病院の担当医は,平成19年11月15日,傷病名につき頚椎捻挫(不全頚髄損傷),症状固定日につき同日,既存障害につき平成19年7月24日の頚髄症術後,自覚症状につき頚部痛,両上肢のしびれ,耳鳴り及び左頚部から下肢への痛み,他覚症状及び検査結果につき,上下肢とも深部腱反射亢進はない,筋力低下は認めない,両上肢に軽度知覚低下あり,JOA(頚髄症)合計10.5点,障害内容の増悪・緩解の見通しなどにつき,頚椎術後間もない事故のため,正確な判断は困難であるが,事故前後で上肢のしびれ,握力低下は増しているとの後遺障害診断書を作成した。同医師は,平成21年4月3日及び同年5月20日にも,症状固定日につき平成19年11月15日とする原告の後遺障害診断書を各作成した。 (乙5ないし7)

(5) 損害保険料率算出機構は,平成20年3月7日,上記(4)の後遺障害診断書上の原告の自覚症状について,自賠責保険の障害等級表上,本件事故後の障害が既存(本件事故前)の障害より重くなったとは捉え難いとして,加重に至らず非該当と判断した。 (乙8)

(6) 原告は,平成21年5月20日,車の助手席に乗っていたところ,追突事故に遭い,頚椎捻挫と診断された。 (乙9)

(7) 東京都は,平成21年8月18日,原告に対し,障害名を頚髄症による下肢機能障害【両下肢機能障害】,身体障害程度等級を4級とする身体障害者手帳を交付した。 (乙10)

(8) 原告は,本件事故前に本件手術により頚髄症の症状は改善していたところ,本件事故によって不全頚髄損傷,頚椎捻挫,頭部打撲,脳挫傷及び両肩関節打撲傷の傷害を負い,平成21年4月に頚部痛,両上肢のしびれ,耳鳴り,左頚部から下肢の痛み等の症状(以下「本件症状」という。)を残存して固定した,本件症状は別表第二第5級2号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当する後遺障害であると主張して,Bに対しては民法709条に基づき,被告に対しては民法715条及び自賠法3条に基づき,治療費等,通院交通費,休業補償,入通院慰謝料,後遺障害慰謝料(1400万円),後遺障害逸失利益(1295万0387円),慰謝料の加重(200万円)及び弁護士費用の総額4149万5764円及びこれに対する事故日である平成19年9月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める訴えを,東京地方裁判所に提起した(平成21年(ワ)第29007号損害賠償請求事件)。

 被告及びBは,原告が本件事故によって頚椎捻挫以外の傷害を負ったことを否認するなどし,本件症状は平成19年11月5日に固定した,本件症状と本件事故との間に因果関係はないなどと主張して原告の請求を争った。

 東京地方裁判所は,平成22年6月30日,原告が本件事故により頚椎捻挫,両肩関節打撲傷及び頭部打撲の傷害を負ったと認められるが,頚髄損傷及び脳挫傷の傷害を負ったとは認められない,症状固定日は平成19年11月15日である,客観的所見に照らすと,仮に本件事故後に原告の症状の悪化があるとしても,本件手術後に再度頚髄症が悪化していることによるものと考えられ,本件事故による後遺障害が残存したとは認められないなどと判断し,本件事故と相当因果関係のある原告の損害額(元本)について,治療費等109万1355円,通院交通費0円,休業補償0円,入通院慰謝料45万円,後遺障害慰謝料0円,後遺障害逸失利益0円,慰謝料の加重0円の小計154万円9755円から既払金76万0075円を控除した残損害額78万9680円に弁護士費用8万円を加えた86万9680円と認定し,原告に連帯して同金員及びこれに対する平成19年9月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう被告及びBに命じ,その余の請求を棄却する判決(前訴判決)を言い渡した。

(9) 原告は,前訴判決を不服として,上記(8)の請求の全部認容を求めて東京高等裁判所に控訴した(東京高等裁判所平成22年(ネ)第5142号)。
 原告は,控訴審において,第一審(上記(8))での主張に加え,本件事故によって外傷性脳損傷にり患し,本件症状により就労することが困難となった,この後遺障害は平成23年1月31日に症状固定をし,その程度は別表第二第5級2号に該当すると主張した。
 東京高等裁判所は,平成23年3月7日に口頭弁論を終結し,同年5月18日,控訴審での上記主張については原告が本件事故により(軽度)外傷性脳損傷にり患したとは認められないと判断したほか,前訴判決は相当であると判断して,控訴棄却判決を言い渡した。

(10) 原告は,上記控訴審判決を不服として,最高裁判所に上告したが(最高裁判所平成23年(オ)第1640号),最高裁判所は,平成23年10月25日,上告棄却決定をし,これにより前訴判決は確定した。(乙3,4)

2 検討
(1) 被告は,原告の本訴請求は既に解決した事件の蒸し返しであると主張するので,以下検討する。
ア 前記1の認定事実によれば,前件訴訟は,原告が被告及びBに対し,民法715条及び自賠法3条に基づき,本件事故によって原告に生じた後遺障害分の損害を含む人的損害の賠償を請求する訴訟であり,前記第2の1及び2に記載したとおり,本件訴訟は,原告が被告に対し,民法715条及び自賠法3条に基づき,本件事故によって原告に生じた後遺障害分の損害の賠償を請求する訴訟である。そうであれば,前件訴訟の請求権と本件訴訟の請求権は,本件事故によって原告に生じた人的損害につき,民法715条及び自賠法3条に基づく損害賠償請求権という一個の債権の一部を構成するものであると認められる。そして,前記認定のとおり,前件訴訟については前訴判決が既に確定している。

 このように,確定判決後に同一訴訟物の訴えが提起された場合,後訴(本件訴訟)は,前訴(前件訴訟)の確定判決の既判力に拘束されるというべきである。もっとも,前訴において,一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合には,前訴の訴訟物は,上記債権の一部の存否のみであって全部の存否ではなく,したがって,上記一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求には及ばないと解するのが相当である(最高裁判所昭和35年(オ)第359号昭和37年8月10日第二小法廷判決・民集第16巻8号1720頁)。

イ これを本件についてみると,前記1の認定事実によれば,原告は,前件訴訟において,本件事故によって不全頚髄損傷,頚椎捻挫,頭部打撲,脳挫傷(ないし外傷性脳損傷)及び両肩関節打撲傷の傷害を負い,平成21年4月に症状固定した別表第二第5級2号に該当する後遺障害である神経症状(本件症状)を残したと主張して,傷害分に加え,後遺障害分の損害の賠償を請求している。他方で,前記第2,2(1)に記載したとおり,原告は,本件訴訟において,本件事故によって不全頚髄損傷,頚椎捻挫,頭部打撲,脳挫傷及び両肩関節打撲傷の傷害を負い,平成27年8月27日に症状固定した別表第二第3級3号に該当する神経症状(歩行困難,右上肢しびれ,両下肢痛及び頚部痛)を残したと主張して,後遺障害分の損害の賠償を請求している。

 このように,原告は,前件訴訟において,平成21年4月に症状固定した神経症状(本件症状)が別表第二第5級2号の後遺障害に該当することを前提とする後遺障害分の損害の賠償を請求しており,後遺障害の特質に照らせば,これをもって原告が一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示していたと認めうるから,原告が,平成21年4月には本件症状が症状固定しておらず,つまり,その後に症状が悪化するなどし,平成27年8月27日に症状固定した別表第二第3級3号に該当する神経症状を残したと主張して後遺障害分の損害の賠償を請求する(本訴請求)ことが,直ちに確定した前訴判決の既判力に抵触して許されないとまでいうことはできない。

(2) そこで,原告が本件事故による傷害によって平成27年8月27日に症状固定した別表第二第3級3号に該当する神経症状を残したと認められるかについて,検討を進めることとする。
ア 前記1の認定事実によれば,原告は,本件事故によって頚椎捻挫,両肩関節打撲傷及び頭部打撲の傷害を負ったとは認められるが,頚髄損傷及び脳挫傷(ないし外傷性脳損傷)の傷害を負ったとは認められず,症状固定日は平成19年11月15日であり,客観的所見に照らすと,仮に本件事故後に原告の症状の悪化があるとしても,本件手術後に頚髄症が悪化していることによるものと考えられ,本件事故により後遺障害が残存したとは認められないものである。

イ これに対し,①本件事故により頚髄症の悪化を画像上認めるとする,東京慈恵会医科大学附属第三病院のC医師作成の診断書(甲3),②原告には歩行困難,右上肢しびれ,両下肢痛及び頚部痛の神経症状が残存しているとする,順天堂東京江東高齢者医療センターのD医師が平成28年6月24日に作成した後遺障害診断書(甲4),③東京都が,原告に対し,平成21年8月18日に交付して平成27年9月8日に更新した,障害名を頚髄症による体幹機能障害【歩行困難】,身体障害程度等級を3級とする身体障害者手帳(甲5)がある。

 しかし,①については,前記1の認定事実によれば,原告は,本件事故前(本件手術後)である平成19年8月7日と本件事故後である同年9月18日に頚椎MRI検査を受けたところ,事故後の画像所見は,事故前の画像所見と異なるものではなく,事故に起因すると思われる異常所見は認められなかったものであるから,上記C医師の診断書だけをもって直ちに上記認定が覆るとはいえない。

②については,上記D医師の後遺障害診断書では,症状固定日が空欄になっており(甲4),これをもって原告の症状が平成19年9月15日には症状固定していなかったことや,平成27年8月27日に症状固定したことを裏付けるものではない。

③については,平成21年8月18日の交付時には障害名を頚髄症による下肢機能障害【両下肢機能障害】,身体障害程度等級を4級とされている(前記1(7))のに対し,平成27年9月8日の更新時には障害名を頚髄症による体幹機能障害【歩行困難】,身体障害程度等級を3級とされていること(甲5)からは,原告の症状が悪化したことが推認できるものの,前記認定のとおり,原告は本件事故前から頚髄症にり患しており(前記1(1)),本件事故によって頚髄損傷の傷害を負ったとは認められないこと(上記ア)からすれば,これは原告の頚髄症の症状が悪化したことによるものと認められる。また,原告の症状が身体障害者福祉法ないし東京都身体障害者手帳に関する規則上の身体障害程度等級が3級(体幹の機能により歩行が困難なもの)とされたからといって,それが直ちに別表第二第3級3号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの)に該当することを推認させるともいえない。これらの他に,原告が本件事故による傷害によって平成27年8月27日に症状固定した別表第二第3級3号に該当する神経症状を残したことを認めるに足りる証拠はない。

ウ したがって,原告が本件事故による傷害によって平成27年8月27日に症状固定した別表第二第3級3号に該当する神経症状を残したとは認められない。

(3) なお,原告は,本件訴訟の第1回口頭弁論期日(平成29年9月13日)において,被告代表取締役(当時)が,本件事故後に順天堂浦安病院に見舞いに訪れた際に,原告に「ちゃんと保障します。」と約束したことを履行してほしい旨を述べており,これをもって原告が本件事故によって生じた人的損害を被告が賠償する旨の契約が口頭で締結されたと主張していると解する余地があるが,被告代表取締役が上記の発言をしたことを認めるに足りる証拠はないし,仮に上記の発言をしたとしても,これをもって直ちに原告が主張するような契約が締結されたとは認められないから,採用できない。

3 結論
 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第27部 (裁判官 吉岡透)
以上:7,267文字
ホーム > 交通事故 > 交通事故重要判例 > 「後遺障害悪化による損…」←リンクはこちらでお願いします