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R 7-12-25(木):取調状況記録媒体の文書提出命令申立拒否判断を違法とした最高裁決定紹介2
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○「取調状況記録媒体の文書提出命令申立拒否判断を違法とした最高裁決定紹介1」の続きで、令和6年10月16日最高裁決定(判時2633号○頁)の後半理由部分を紹介します。

○事案は判決文だけではちと判りづらいのですが、なんとか時系列で整理します。
r1.12.5;横領事件被疑者としてF学園理事長G・E等逮捕・勾留
容疑は学校法人F所有地売買代金のうち21億円をGが横領したというもの
r1.12.9以降の取調でEは、18億円の貸付先がFではなくG個人であることをXに説明したと取調担当H検事に供述
r1.12.16;X(申立人)が横領についてEの共謀者として逮捕、K検事がXの取調担当
r1.12.25;Xら横領罪で起訴、起訴時事実はXが18億円貸付先がG個人であることを認識し横領の故意・共謀があった
弁護人はXは18億円について再建費用としてFに貸し付けられると認識していたので故意・共謀は認められないと主張
r3.10.28;大阪地裁はXに無罪判決、同年11.12確定
r4.3;XはEに対し虚偽供述で逮捕・起訴に至らせたことについて損害賠償請求
r4.3;Xは検事らの違法な取調で損害を蒙ったとして損害内金7億7000万円の国家賠償請求訴訟提起(基本事件)
r4.○;Xは、H検事らのE取調状況録音録画について文書提出命令申立
r5.3.24;X・E間に和解成立、Eはその取調録音録画の証拠採用について反対しないことが和解内容に記載
r5.9.19;大阪地裁は、E取調状況録音録画は開示による弊害がなく公判不提出部分の提出を拒否することは、保管検察官の裁量権の範囲を逸脱し又は濫用として一部開示決定
国が抗告
r6.1.22;大阪高裁は、公判不提出部分の提出を拒否は不合理ではなく、裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用とは言えないとして原決定を変更し当該部分の提出命令申立てを却下
Xが許可抗告


○その許可抗告審が令和6年10月16日最高裁決定で理由部分は以下の通りです。一般論として、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであると認められるときは、裁判所は、当該文書の提出を命ずることができるとしています。

******************************************

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1)本件の経緯に照らせば、本件供述は、抗告人が本件横領事件について逮捕、勾留及び起訴されるに当たり、その主要な証拠と位置付けられていたということができるところ、本件公判不提出部分は、検察官のEに対する取調べの過程を客観的に記録したものであること等からすると、抗告人と相手方との間において、法律関係文書に該当するということができる。

(2)刑訴法47条は、その本文において、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」と規定し、そのただし書において、「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」と規定しているところ、本件公判不提出部分は、同条により原則的に公開が禁止される「訴訟に関する書類」に当たることが明らかである。

 ところで、同条ただし書の規定によって「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否かの判断は、当該「訴訟に関する書類」が原則として公開禁止とされていることを前提として、これを公にする目的、必要性の有無、程度、公にすることによる被告人、被疑者及び関係者の名誉、プライバシーの侵害、捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり、当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである。

そして、民事訴訟の当事者が、民訴法220条3号後段の規定に基づき、上記「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても、当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが、当該文書が法律関係文書に該当する場合であって、その保管者が提出を拒否したことが、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであると認められるときは、裁判所は、当該文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である(最高裁平成15年(許)第40号同16年5月25日第三小法廷決定・民集58巻5号1135頁等参照)。このことは、当事者が提出を求めるものが、検察官の取調べにおける被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体であったとしても異なるものではない。

(3)
ア これを本件についてみると、本件本案訴訟においては、抗告人が、EはH検事がEを脅迫するなどの言動をしたためにH検事に迎合して虚偽の本件供述をした旨を主張するのに対し、相手方が、EはH検事の説得により真実である本件供述をしたと評価し得る旨を主張して、Eが本件供述をするに至ったことに対するH検事の言動の影響の有無、程度、内容等が深刻に争われている。

しかるところ、本件公判不提出部分には、H検事の言動がその非言語的要素も含めて機械的かつ正確に記録されているのであるから、本件本案訴訟の審理を担当する原々審が、本件公判不提出部分は本件要証事実を立証するのに最も適切な証拠であり、本件反訳書面や人証によって代替することは困難であるとして、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いと判断したことには、一応の合理性が認められ、このような原々審の判断には相応の配慮を払うことが求められるというべきである。

 原審は、抗告人が主張するH検事の言動のうち当事者間に争いがあるものは、発言内容が重視されるものに限られる上、当該言動についても本件公判提出部分や本件反訳書面の取調べにより推認することができるとして、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いものではないと判断している。

しかしながら、Eが本件供述をするに至ったことに対するH検事の言動の影響の有無、程度、内容等を受訴裁判所が判断するに当たって検討の対象となるのは、抗告人の主張において言語的に表現されたH検事の個々の言動に限られるものではなく、証拠に現れるH検事の言動の全てが上記の検討の対象となるものである。そして、H検事の言動がその非言語的要素も含めて機械的かつ正確に記録された本件公判不提出部分は、H検事の言動について、本件反訳書面や人証と比較して、格段に多くの情報を含んでおり、また、より正確性が担保されていることが明らかであるし、本件公判提出部分を取り調べることによって、本件公判不提出部分に係るH検事の言動のうち本件反訳書面に現れていないものを検討する必要がなくなると解すべき事情もうかがわれない。そうすると、この点について、原審の上記判断は合理的なものとはいえない。

 そして、上記のとおり、原々審の上記判断には相応の配慮を払うことが求められることも踏まえると、原々審の上記判断のとおり、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いとみるのが相当である。

イ また、抗告人とEとの間に本件和解が成立し、本件和解において、Eが本件記録媒体の証拠採用に反対せず、抗告人もEのプライバシーの保護に最大限配慮することを明確に合意しているなどの本件の事実関係の下では、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出されること自体によって、Eの名誉、プライバシーが侵害されることによる弊害が発生するおそれがあると認めることはできない。

これに加えて、本件横領事件に関与したとされる者のうち、抗告人については無罪判決が確定し、抗告人以外の者について捜査や公判が続けられていることもうかがわれないことからすれば、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出されることによって、本件横領事件の捜査や公判に不当な影響を及ぼすおそれがあるとはいえないし、将来の捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害が発生することを具体的に想定することもできない。

ウ 以上の諸事情に照らすと、本件公判不提出部分の提出を拒否した相手方の判断は、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものというべきである。

5 以上と異なる原審の前記3の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定のうち本件公判不提出部分に係る本件申立てを却下した部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、相手方に本件公判不提出部分の提出を命じた原々決定は正当であるから、上記部分につき相手方の抗告を棄却することとする。
 なお、原々決定には明白な誤りがあるから、職権により主文第2項のとおり更正する。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官三浦守、同草野耕一の各補足意見がある。
 裁判官三浦守の補足意見は、次のとおりである。

     (中略)

令和6年10月16日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 草野耕一 裁判官 三浦守 裁判官 岡村和美 裁判官 尾島明

(別紙)目録
 検察官のEに対する取調べにおいてEの供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体のうち、次の(1)から(5)までの日時の部分
(1)令和元年12月6日午後7時17分から午後11時2分まで
(2)令和元年12月7日午後5時20分から午後9時25分まで
(3)令和元年12月8日午後5時20分から午後8時24分まで
(4)令和元年12月9日午後5時17分から午後8時21分まで(ただし,午後5時39分47秒から午後6時27分58秒までを除く。)
(5)令和元年12月12日午後6時4分から午後9時52分まで
以上:4,125文字
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R 7-12-24(水):取調状況記録媒体の文書提出命令申立拒否判断を違法とした最高裁決定紹介1
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○弁護士4人で毎月1回Zoom会議として判例時報の勉強会を開催し、判例時報令和7年12月1日2633号が私の担当で令和8年1月初めに何れかの判例をピックアップしてレポートしなければなりません。同号掲載判例では、トップに◎をつけた最高裁判例として、検察官が被疑者として取り調べた者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体が、民事訴訟法220条三号所定のいわゆる法律関係文書に該当するとして文書提出命令の申立てがされた場合に、刑事訴訟法47条に基づきその提出を拒否した上記記録媒体の所持者である国の判断が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとされた令和6年10月16日最高裁決定(判時2633号○頁)が掲載されており、これをレポートする必要があります。

○民事・刑事訴訟法の問題で、受験科目に民事訴訟法を選択せず、刑事訴訟を選択して結構勉強しましたが、刑事事件引退宣言をしてここ20年近く刑事事件をしなかった私は刑訴法もスッカリ忘れており、難解な判例です(^^;)。以下、関係条文です。
民事訴訟法第220条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
 (略)
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。

刑事訴訟法47条
訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。


○その最高裁決定について、〔最高裁判所裁判集民事〕では、以下の通り解説されています。
刑事事件の被疑者の1人として逮捕、勾留され、上記刑事事件について起訴されたが、無罪判決を受けたXが、上記の逮捕、勾留及び起訴が違法であると主張して国家賠償を求める本案訴訟において、検察官がEを上記刑事事件の被疑者の1人として取り調べる際にAの供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体のうちXに係る上記刑事事件の公判において取り調べられなかった部分について、民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由として文書提出命令の申立てをした

これについて刑訴法47条に基づきその提出を拒否した上記部分の所持者である国の判断は、次の(1)~(3)など判示の事情の下では、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものである。
(1)上記本案訴訟においては、EがXとの共謀の有無に関連して従前と異なる供述をするに至ったことに対する検察官Hの言動の影響の有無、程度、内容等が深刻に争われているところ、その審理を担当する原々審は、上記部分がHのEに対する取調べの具体的状況及び内容を立証するのに最も適切な証拠であり、上記記録媒体の一部分の反訳書面や人証によって代替することは困難であるとして、上記部分を取り調べる必要性の程度が高いと判断した。
(2)Xが、Eに対し、Eが上記の供述をしたこと等によりXをえん罪に陥れたと主張して損害賠償を求める訴訟において、XとEとの間に訴訟上の和解が成立し、上記和解において、Eが上記記録媒体の証拠採用に反対せず、XもEのプライバシーの保護に最大限配慮することを明確に合意している。
(3)上記刑事事件に関与したとされる者のうち、Xについては無罪判決が確定し、X以外の者について捜査や公判が続けられていることもうかがわれない。

○この最高裁決定の前半部分は以下の通りです。最高裁決定としては長いもので2回に分けて内容検討します。

********************************************

主   文
1 原決定中、別紙目録記載の部分に関する部分を破棄し、同部分につき相手方の抗告を棄却する。
2 原々決定主文第1項及び1頁25行目に「D」とあるのをいずれも「E」と更正する。
3 抗告手続の総費用は相手方の負担とする。

理   由
 抗告代理人○○○○、同○○○○の抗告理由について
1 抗告人は、複数の者が共同して実行したとされる学校法人Fを被害者とする大阪地方検察庁の捜査に係る業務上横領事件(刑訴法301条の2第1項3号に掲げる事件。以下「本件横領事件」という。)の被疑者の1人として逮捕、勾留され、本件横領事件について起訴されたが、無罪判決(以下「本件無罪判決」という。)を受け、これが確定した者である。

本件の本案訴訟(大阪地方裁判所令和4年(ワ)第2537号損害賠償請求事件。以下「本件本案訴訟」という。)は、抗告人が、上記の逮捕、勾留及び起訴が違法であるなどと主張して、相手方に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めるものである。

 本件は、抗告人が、検察官がEを本件横領事件の被疑者の1人として取り調べる際にEの供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体(以下「本件記録媒体」という。)等について、民訴法220条3号所定の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき」(以下、同号のこの部分を「民訴法220条3号後段」といい、この場合に係る文書を「法律関係文書」という。)に該当するなどと主張して、文書提出命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。

本件では、本件記録媒体であって相手方が所持するもののうち、抗告人に係る本件横領事件の公判(以下「本件刑事公判」という。)において取り調べられなかった別紙目録記載の部分(以下、この部分を「本件公判不提出部分」、本件刑事公判において取り調べられた部分を「本件公判提出部分」といい、両者を併せて「本件対象部分」という。)について、相手方が同号に基づく提出義務を負うか否かなどが争われている。

2 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
(1)本件横領事件は、概要、Fの理事長であったG、不動産の売買等を事業内容とする会社の代表取締役を務めていた抗告人及びEほか数名が、共謀の上、Fを売主とする土地の売買契約の手付金として支払われた21億円をGがFのために業務上預かり保管中、これを同人らの用途に充てる目的で横領したというものであった。Gは、抗告人から第三者を通じて貸金18億円を受領し、これによってFの経営権を取得した後、上記手付金をもって上記貸金を返済したとされており、本件横領事件では、抗告人とG及びEらとの共謀の有無に関連して、抗告人が貸付先をG個人又はFのいずれと認識していたのかという点が問題となった。

 Eは、本件横領事件の被疑者として、令和元年12月5日に逮捕され、同月6日に勾留されたところ、逮捕された後の当初の取調べでは、抗告人に対して上記貸金の貸付先がG個人であるとの説明はしておらず、その使途はFの再建費用であると説明した旨の供述をしていたが、同月9日以降の取調べでは、抗告人に対して貸付先がG個人であることを説明した旨の供述(以下「本件供述」という。)をするようになった。

 抗告人は、本件横領事件の被疑者として、同月16日に逮捕され、同月17日に勾留された後、同月25日に本件横領事件について起訴された。本件刑事公判において、Eは、抗告人に対して貸付先がG個人であることを説明した旨の証言をしたが、その証言内容の信用性が争われ、本件記録媒体のうち同月9日の取調べに係る約50分間の部分(本件公判提出部分)が取り調べられた。令和3年10月28日に本件無罪判決が言い渡され、その理由中において、上記証言内容は信用することができない旨の判断が示された。

(2)
ア 抗告人は、令和4年3月、本件本案訴訟に係る訴えを提起した。
 抗告人は、本件本案訴訟において、H検事が取調べ中にEを脅迫するなどの言動をしたため、EはH検事に迎合して虚偽の本件供述をするに至ったものであって、本件供述には信用性がなく、抗告人にはその逮捕当初から本件横領事件の嫌疑が認められない旨を主張し、H検事の上記言動のうち、非言語的要素(人の言動のうち、口調、声の大きさ、表情、身振り等の非言語的なものをいう。以下同じ。)として、大きな音が響き渡る強さで机を叩いたこと、Eを大声で怒鳴りつけたこと等を指摘し、相手方に本件記録媒体及びその反訳書面を証拠として提出することを求めた。

これに対し、相手方は、逮捕当初は抗告人をかばう供述をしていたEが、H検事の説得によって真実である本件供述をするに至ったと評価することが十分可能であるなどと主張し、本件記録媒体の一部分の反訳書面(以下「本件反訳書面」という。)を証拠として提出したが、本件記録媒体は提出しないとの意向を示した。なお、本件反訳書面には、H検事の言動のうち非言語的要素についても、その一部を言語的に表現したものが記載されている。

 抗告人は、同年12月、本件申立てをした。抗告人は、本件対象部分により証明すべき事実について、H検事のEに対する取調べの具体的状況及び内容(以下「本件要証事実」という。)であるとしている。

イ 抗告人は、本件申立てに先立ち、Eが本件供述をしたこと等により抗告人をえん罪に陥れたなどと主張して、Eに対し、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。令和5年3月、上記訴えに係る訴訟において、抗告人とEとの間で、Eが、本件本案訴訟において本件記録媒体が証拠採用されることを前向きに検討し、反対しないことを確認し、抗告人が、本件記録媒体中のEの顔にモザイクをかけ、声を加工し、プライバシー情報を出さず、報道機関に実名報道を避ける旨を申し入れるなど、Eのプライバシーの保護に最大限配慮することを確認すること等を内容とする訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。

(3)原々審は、令和5年9月、相手方に本件対象部分の提出を命じ、その余の本件申立てを却下する決定(原々決定)をした。原々審は、本件公判不提出部分の取調べの必要性について、本件供述の信用性の判断においては、H検事の言動のうち非言語的要素も重要であり、これが客観的に記録されている本件公判不提出部分は、本件要証事実との関係で最も適切な証拠であって、本件反訳書面や人証によって代替することは困難であるから、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いとした。
 相手方は、原々決定に対し、即時抗告をした。

3 原審は、相手方に本件公判提出部分の提出を命ずべきものとする一方、要旨次のとおり判断し、本件申立てのうち本件公判不提出部分に係る部分を却下した。
 抗告人は、本件刑事公判において本件記録媒体の複製物の提供を受け、これによりEの取調べにおけるH検事の言動を把握した上で、本件本案訴訟において上記言動について具体的な主張立証を行っているところ、抗告人の主張するH検事の言動について、相手方はおおむね争わないとしており、当事者間に争いがあるのは、重要とはいい難いものを除けば、H検事がEを恫喝したかどうかといった発言内容が重視されるものに限られる上、これについても本件公判提出部分や本件反訳書面を取り調べることによって推認することができるから、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いものではない。

また、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出された場合には、これが抗告人側から報道機関等を通じて広く公開される可能性があるところ、Eが本件和解によって本件記録媒体に含まれる自己の名誉やプライバシーといった権利利益の全部を真意に基づいて放棄したなどとみることはできず、本件公判不提出部分が提出されることによってEの名誉、プライバシーが侵害されるおそれがないとはいえない。以上に照らすと、本件公判不提出部分の提出を拒否した相手方の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとまではいえない

以上:4,841文字
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R 7-12-23(火):共有持分放棄を原因とする登記引取請求を認めた地裁判決紹介
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○民法第255条で「共有者の1人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」と規定されています。この規定に基づきA・B各持分2分の1の共有土地持分権者Aが持分を放棄した場合、その持分についてAからBに移転登記をする手続は、Bを権利者、Aを義務者とする共同申請登記手続になります。

○この場合、権利者Bが登記手続に協力しない場合、AはBに対し登記引取請求訴訟を提起し、その判決に基づき単独で登記することになります。その判決例を探していたところ令和6年12月23日東京地裁判決(LEX/DB)が見つかりましたので紹介します。

*********************************************

主   文
1 被告eは、原告に対し、別紙物件目録1記載の各土地の各共有持分24分の1について、令和6年4月8日共有持分放棄を原因とする原告から被告eへの持分移転登記手続をせよ。

     (中略)

14 被告bは、原告に対し、別紙物件目録4記載の土地の共有持分2分の1について、令和6年4月8日共有持分放棄を原因とする原告から被告bへの持分移転登記手続をせよ。

     (中略)

47 被告hは、原告に対し、別紙物件目録11記載の各建物の各共有持分12分の1について、令和6年4月8日共有持分放棄を原因とする原告から被告hへの持分移転登記手続をせよ。
48 訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請

 主文同旨

第2 事案の概要
1 本件は、別紙物件目録1ないし11記載の不動産について共有持分を有していた原告が、その持分を放棄したことにより民法255条に基づき当該持分は他の共有者に帰属した旨を主張し、他の共有者である被告らに対し、登記引取請求権に基づき、原告から被告らへの上記の各不動産に係る持分全部移転登記手続を求める事案である。

2 当事者の主張

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 被告g及び被告h関係について
 被告g及び被告hは、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって、被告g及び被告hにおいては、同被告らに関係する請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなす。

2 被告f関係
 被告fは、答弁書を提出したものの、同被告に関係する請求原因事実を争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。

3 被告e関係
 被告eに関係する請求原因事実については、当事者間に争いがない。

4 被告d関係
 被告dに関係する請求原因事実のうち別紙訴状(写し)「第2 請求の原因」(ただし、6項及び9項を除く。)欄記載のものは、当事者間に争いがない。
 被告dに関係する請求原因事実のうち別紙訴え変更申立書(写し)「第2 請求の原因の変更」欄記載のもの(別紙訴状(写し)「第2 請求の原因」の6項及び9項に係る部分を変更したもの)は、同被告において争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。

5 被告b関係
(1)被告bに関係する請求原因事実(別紙訴状(写し)「第2 請求の原因」の4項ないし7項、9項及び10項に係る部分)のうち、被告bにおいて自認する部分は当事者間に争いがなく、証拠(甲2、5、6)及び弁論の全趣旨によれば、その余の部分に係る事実が認められる。

 この点、被告bは、原告が令和6年4月8日になした本件各不動産の共有持分の放棄の意思表示について、意思表示の受領能力はなかった旨を主張するが、民法255条所定の共有者の一人が行うその持分の放棄は、相手方を必要としない単独行為であると解されるから、他の共有者の意思能力(意思表示の受領能力)の有無のいかんによらず、放棄の意思表示がされた時点で効力を生ずるものといえる。したがって、被告bの上記主張は、本件各不動産に関し、原告が被告bとの関係でもその共有持分を放棄した旨の前示の認定を左右するに足りるものとは認められず、採用することができない。

(2)被告bは、要旨、原告が本件各不動産に係る共有持分を放棄したとして他の共有者に持分全部移転登記手続を求めることは、共有者間の公平を害するから、権利濫用ないし信義則に反するものとして許されない旨を主張する。
 そこで検討するに、原告が本件各不動産(被告bが共有者となっているもの。以下同じ。)の共有持分を放棄したことにより、実体法上、被告bを含む他の共有者は原告が放棄した共有持分を原始取得したことになるものと解されるところ、本件各不動産の不動産登記記録には、原告が持分を有している旨が公示されており、現在の実体的権利関係に符合していないのであるから、原告は、被告bを含む他の共有者に対し、不動産登記記録に公示された権利関係を現在の実体的権利関係に符合させるべく持分の全部移転登記手続を求める登記請求権を有するものと解するのが相当である。

しかして、民法255条は、所有者のない不動産を国庫に帰属させる原則(民法239条2項)を修正して、共有物については、他の共有者に所有者のない持分を帰属させる旨を規定したものであるから、被告bが主張する事情をもって直ちに原告がなした共有物の持分の放棄及びこれを原因とする持分権の移転登記手続の請求が、その権利を濫用し、あるいは信義則に反するとは断じ得ない。

また、証拠(甲7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、本件各不動産については、高額の固定資産税が課税される見込みである一方で、不動産の活用により相応の金額の収益が得られていることが認められ、また、原告は、被告bが共有者となっている不動産につき、その種別や収益性の多寡によらず、全て一律に持分を放棄していることが認められることからすれば(弁論の全趣旨)、実質的にみても、原告による本件各不動産の持分の放棄が、被告bとの関係で権利の濫用に当たり、あるいは信義則に反するものと認めることは困難といわざるを得ない。したがって、被告bの上記主張は採用することができない。

第4 結論
 よって、原告の請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第25部
裁判官 片野正樹
以上:2,566文字
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R 7-12-22(月):好意を告白し性関係をもった男性の不法行為責任を否認した地裁判決紹介
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○「婚姻意思装い性関係をもった男性の不法行為責任を認めた最高裁紹介」の続きで、この最高裁判決法理を援用した最近の判例として、令和6年12月26日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○原告女性が、既婚者である被告男性から、同意なく又は既婚者でないなどと偽られ、性的関係をもたされるなどしたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき550万円の損害賠償請求をしました。

○これに対し、本件の全証拠によっても、被告が積極的に詐言を用いて既婚者でない旨虚偽の事実を述べたとは認められないなどとして、請求を棄却しました。判決は、原告は、被告が複数回にわたり好意を伝えていたことを指摘するが、不貞関係にある当事者間においてそのようなやりとりがあったとしても、直ちに被告が将来的に原告と婚姻する意思をほのめかしたと解することはできないとして、性的関係をもった動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合で、男性側の性的関係をもった動機、詐言の内容程度及びその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰謝料請求は許されるとの要件を厳しく判断しています。

○女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価されるのは、結構ハードルが高いと覚えておくべきでしょう。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、550万円及びこれに対する令和4年3月5日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は、原告が、既婚者である被告から、同意なく又は既婚者でないなどと偽られ、性的関係をもたされるなどしたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、第1記載のとおり損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか、文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨により優に認められる事実。なお、以下では特に断らない限り証拠は枝番号を含む。)
(1)
ア 原告は、昭和60年生まれの女性であり、ADHDの診断を受けているほか、ASD傾向も多分に併存しており、衝動性のコントロール不良などの症状がある。(甲2、3)
イ 被告は、原告の2歳年上の男性であり、令和元年当時原告が所属していた大学院の研究室の先輩である。被告は既婚者であり、妻と子がいる。

(2)原告と被告は、令和元年11月、名古屋市の大学で行われていた学会で知り合った。
 被告は、令和2年4月又は5月頃、原告の学会発表の練習に付き合ったり、書面作成などの学術的な事項について指導したりしていた。

第3 争点及び当事者の主張

     (中略)

第4 当裁判所の判断
1 認定事実


     (中略)

3 争点(1)(不法行為の成否)について
(1)令和2年6月13日の路上での行為について
ア 前記のとおり、被告が、令和2年6月13日午後10時頃、C駅に向かう路上で、原告に対して背後から抱きつき、キスをしたり下着に手を入れたりしたことが認められる(認定事実(2))。

イ 原告は、この被告の行為について、同意なく行われたものであると主張する。
 しかし、前記行為の翌日頃、原告が被告に対し、「凄い甘えてきて嬉しかったですが、心配もしてますよ」、「B先輩から『A好きだよ』と言われて本当にドキドキしました。…私もB先輩大好きなので本当に嬉しかったです。」などのメッセージを送っていること(認定事実(3)イ・ウ)、原告が令和2年7月頃被告に送った手紙に「帰宅するため駅へ向かう途中で、Bさんからいきなり抱きついて、『好きだ』と告白し、急にキスしてきた時は夢かと思いました。まさかB先輩と両想いであると夢にも思わなかったからです。嬉しさの反面、路上でそれ以上の行為を求められて驚き、赤面しました。」などの記載があること(認定事実(4)ウ)に照らすと、原告も被告の行為を受入れていたと解するのが自然であり、同年6月13日の路上における被告の行為が、原告の同意なく行われたものであったとは認められない。

ウ したがって、令和2年6月13日の路上での行為について、被告の不法行為は成立しない。

(2)令和2年6月13日以降の性的関係について
ア 前記のとおり、原告と被告が、令和2年6月13日、同年10月14日、同年11月23日、同月27日及び令和3年4月22日に、それぞれ性的関係をもったことが認められる(認定事実(2)、(6)~(9))。

イ 原告は、令和2年6月13日の性的関係について、被告が既婚者でない旨虚偽の事実を述べて原告を誤信させた旨主張する。
(ア)しかしながら、令和2年6月14日頃、「これだけは確認したかったのですが、私にご家族のことを伝えなかったのはワザとですか?隠していましたか?」との原告からの質問に対し、被告は、「基本的に自分は自分自身以外のことを人には言わないです」と返信しており(認定事実(3)キ)、本件の全証拠を検討しても、被告が積極的に既婚者でない旨虚偽の事実を述べて原告を欺いたとは認められない。

 また、原告が、同年10月14日、αのビジネスホテルにおいて、同年6月13日のことに関し、「やっぱ話してて楽しかったから、私もスッゴイ楽しかった。その後地獄に叩き落とされたけど、いやお店の人が教えてくれたの、こいつ妻子持ちで、奥さんも来たことがあって、子供も抱いてきたことあるよって」と述べたこと(認定事実(5)オ)、同年7月頃原告が被告に送った手紙に「Bさんとの恋が叶わないと知り、私はとても失望しました。その事実を知って、私は呑んだ後、直ぐに家に帰って儚い恋心を払拭するために朝まで泣こうと決めたのです。その時は後悔と失意でいっぱいでした。帰宅するため駅へ向かう途中で、Bさんからいきなり抱きついて,『好きだ』と告白し、急にキスしてきた時は夢かと思いました。」、「Bさんを心から感じられたことは、叶わない恋でも嬉しいことでした。」との記載があること(認定事実(4)ウ)に鑑みると、原告は、同年6月13日、居酒屋で被告と飲食をしている際、同店の店員から聞き、被告に妻子がいることを知ったと認められる。

したがって、同日、ホテルで性的関係をもつより前に、原告は被告が既婚者であると知っていたといえるから、原告が錯誤に陥っていたとは認められない。原告は、被告に妻子がいることを確定的に知ったのは同月17日である旨供述する(原告本人)が、前記認定に照らして採用できない。
 以上から、被告が既婚者でない旨虚偽の事実を述べて原告を誤信させた旨の原告の主張は採用できない。 

(イ)ところで、女性が、男性に妻のあることを知りながら性的関係をもったとしても、その一事によって貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求が当然に許されないと解すべきではなく、性的関係をもった動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合で、男性側の性的関係をもった動機、詐言の内容程度及びその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰謝料請求は許されるものと解される(最高裁判所昭和44年9月26日第二小法廷判決・民集23巻9号1727頁参照)。

 しかし、前記のとおり、本件の全証拠によっても、被告が積極的に詐言を用いて既婚者でない旨虚偽の事実を述べたとは認められない。原告が前記居酒屋に行くまで被告を既婚者でないと信じていたのは、性交渉経験がないという趣旨の被告の冗談を、自らの障害特性等の影響によって冗談として受け止めることができなかったことに起因する可能性が高いと考えられる。また、令和2年10月14日以降の性的関係をみても、被告が断ったにもかかわらず原告の求めに応じる形で性的関係を持つに至っていることがうかがわれ、不貞関係を継続することに積極的であったのはむしろ原告であったと推認される反面、被告の違法性が著しく大きいことを基礎づける事情や証拠は存在しない。

(ウ)したがって、令和2年6月13日の性的関係について、被告の不法行為は成立しない。

ウ 原告は、同年10月14日以降の各性的関係について、原告が好意を持っていることに乗じ、被告が将来的に原告と婚姻する意思をほのめかして原告を誤信させた旨主張する。
(ア)しかし、被告が将来的に原告と婚姻する意思をほのめかして原告を誤信させたことを認めるに足りる証拠はない。

(イ)原告は、被告が複数回にわたり好意を伝えていたことを指摘するが、不貞関係にある当事者間においてそのようなやりとりがあったとしても、直ちに被告が将来的に原告と婚姻する意思をほのめかしたと解することはできない。また、原告は、令和2年8月29日の「Aさんのことは好ましいと思うし、産んでもらえるとそれはそれでうれしいと思ってて、でも、身勝手すぎるよなとも思ってるし」(甲21)や、同年10月13日の「そら産んでもらいたいって思うわけよ」(甲9)との被告のメッセージを指摘する(なお、弁論の全趣旨【第1回弁論準備手続調書参照】に照らし、これらのメッセージが捏造されたものであるとの被告の主張は採用できない。)。

しかし、前者のメッセージについては明確な意思を表示したものとはいえず、後者のメッセージについては、続けて原告が「認知しなくてもいいから。」と返答していることや、同年11月27日に、原告が被告に対し、「産むよ。」、「いや先輩には責任はないから。私が、勝手に育てる」などと述べていること(認定事実(8))に鑑みると、いずれも被告が将来的に原告と婚姻することを前提としたやりとりであるとは解されないから、被告が婚姻する意思をほのめかしたものとは認められない。原告の前記主張はいずれも採用できない。

(ウ)したがって、同年10月14日以降の各性的関係についても、被告の不法行為は成立しない。

4 よって、その余の点について検討するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第15部
裁判官 坂本清士郎

以上:4,350文字
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R 7-12-21(日):婚姻意思装い性関係をもった男性の不法行為責任を認めた最高裁紹介
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○「婚姻意思装い性関係をもった男性の不法行為責任を認めた高裁判決紹介」の続きで、その上告審昭和44年9月26日最高裁判決全文を紹介します。

○被上告人女性が、アメリカ国籍の上告人男性に対し、上告人が真実結婚する意思がないのに意思があるごとく甘言を弄し、これを信じて錯誤に陥った控訴人と情交を重ねたのちに被上告人との関係を絶ったことにより精神的苦痛を受けたと主張し、原審東京高裁は60万円の慰謝料の支払いを認めました。

○これに対し上告人が上告しましたが、最高裁判決も、被上告人が上告人に妻のあることを知りながら上告人と情交関係を結んだことは公序良俗に反するが、この事態を出現させた主たる原因は上告人にあり、本件においては民法708条但書の規定により同条本文の適用は排除されるとして被上告人の請求を一部認容した原判決を支持し、誤信につき被上告人の側に過失があったとしても上告人の帰責事由の有無に影響せず、慰謝料額の算定において配慮されるにとどまると判示して、上告を棄却し、この最高裁判決は、その後の同種事案についてのリーディング判決になりました。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○、同○○○○、同○○○○の上告理由について。
 原判決によれば、被上告人は、昭和15年10月15日生の女性で高等学校卒業後の昭和35年3月1日から埼玉県所沢市の在日米軍兵站司令部経理課に事務員として勤務することになり、右経理課の上司で米国籍を有する上告人と知合い、間もなく通勤のため上告人から自動車による送り迎えを受けることになり、また映画館、ナイトクラブ等に連れていつてもらうほどの仲になつたこと、上告人には当時妻ミチコと三人の子があつたが、それ以前から長らく妻とは不仲で、同居はしているものの寝室を共にしない状態であつたので、上告人は被上告人と交際するうちに性的享楽の対象を被上告人に求めるようになつたこと、上告人は、昭和35年5月頃被上告人に対し右の如き家庭の状態を告げるとともに、被上告人が19才余で異性に接した体験がなく、思慮不十分であるのにつけこみ、真実被上告人と結婚する意思がないのにその意思があるように装い、被上告人に妻と別れて被上告人と結婚する旨の詐言を用い、被上告人をして、上告人とミチコとの間柄が上告人のいうとおりであつて上告人はいずれはミチコと離婚して自分と結婚してくれるものと誤信させ、昭和35年5月21日から同36年9月頃までの間10数回にわたり被上告人と情交関係を結んだこと、ところが、上告人は、昭和36年7月頃被上告人から妊娠したことを知らされると同年9月頃から被上告人と会うのを避けるようになり、被上告人が昭和37年1月1日男子順を分娩した際その費用の相当部分を支払つたほか全く被上告人との交際を絶つたこと、上告人と被上告人間に情交関係のあつた当時上告人の妻には離婚の意思がなく、上告人が近い将来妻と離婚できる状況にはなかつたが、被上告人は、このことに気付かず、むしろいずれは自分と結婚してくれるものと期待して、上告人に身を委ねたところ、その結婚への期待を裏切られ、上告人の子である順の養育を一身に荷わねばならなくなつたこと、上告人は、かつて昭和34年11月からC某という女性と情交関係を結び、日ならずして昭和35年から昭和36年にかけて被上告人と情交関係を結んだほか、その後もDとも情交関係を結んでいたことがそれぞれ認められるというのである。

 思うに、女性が、情交関係を結んだ当時男性に妻のあることを知つていたとしても、その一事によつて、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰藉料請求が、民法708条の法の精神に反して当然に許されないものと画一的に解すべきではない。すなわち、女性が、その情交関係を結んだ動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合において、男性側の情交関係を結んだ動機その詐言の内容程度およびその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、右情交関係を誘起した責任が主として男性にあり、女性の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し、男性の側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰藉料請求は許容されるべきであり、このように解しても民法708条に示された法の精神に反するものではないというべきである。

 本件においては、上告人は、被上告人と婚姻する意思がなく、単なる性的享楽の目的を遂げるために、被上告人が異性に接した体験がなく若年で思慮不十分であるのにつけこみ、妻とは長らく不和の状態にあり妻と離婚して被上告人と結婚する旨の詐言を用いて被上告人を欺き、被上告人がこの詐言を真に受けて上告人と結婚できるものと期待しているのに乗じて情交関係を結び、以後は同じような詐言を用いて被上告人が妊娠したことがわかるまで1年有余にわたつて情交関係を継続した等前記事実関係のもとでは、その情交関係を誘起した責任は主として上告人にあり、被上告人の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し、上告人の側における違法性は、著しく大きいものと評価することができる。

したがつて、上告人は、被上告人に対しその貞操を侵害したことについてその損害を賠償する義務を負うものといわなければならない。また、被上告人の側において前記誤信につき過失があつたとしても、その誤信自体が上告人の欺罔行為に基づく以上、上告人の帰責事由の有無に影響を及ぼすものではなく、慰藉料額の算定において配慮されるにとどまるというべきである。そうとすれば上告人の責任を肯認した原審の判断は正当であつて、所論の違法はなく、論旨は採用しえない。
 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)
以上:2,487文字
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R 7-12-20(土):婚姻意思装い性関係をもった男性の不法行為責任を認めた高裁判決紹介
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○「婚姻意思装い性関係をもった男性の不法行為責任を否認した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審昭和42年4月12日東京高裁判決(判時486号43頁、判タ208号115頁)理由部分を紹介します。

○原審判決は、原告女性の請求は、民法第708条(不法原因給付)「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。」との規定に示された法の精神に鑑み、容認するはできないとして棄却していました。

○控訴審判決は、控訴人女性が被控訴人男性に妻のあることを知りながら被控訴人と情交関係を結んだことは公序良俗に反するが、この事態を出現させた主たる原因は被控訴人にあり、本件においては「不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。」民法708条但書の規定により同条本文の適用は排除されるとして、控訴人の200万円の慰謝料請求について60万円を認めました。

○控訴審判決は、「控訴人が被控訴人の妻のあることを知りながら被控訴人と情交関係を結んだ行為が公序良俗に反することは否定できないが、不法性は明らかに被控訴人の方が大きく、このような公序良俗違反の事態を現出させた主たる原因は被控訴人に帰せしめられるべきものとすべきである。してみると、本件においては、民法第708条但書の規定により同条本文の規定の適用は排除され、控訴人の慰藉料請求は是認されるとするのが相当」と理由付けをしていますが、極めて妥当な判決です。

○被控訴人男性は、上告しており、上告審最高裁判決は別コンテンツで紹介します。

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主   文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は控訴人に対し、60万円およびこれに対する昭和38年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うべし。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第1、2審を通じてこれを2分し、その各1を控訴人および被控訴人の各負担とする。

事   実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、200万円およびこれに対する昭和38年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張および証拠の関係は、次に付加するもののほかは、原判決の事実の部に書いてあるとおりである。

第一、主張

     (中略)

理   由
一、慰藉料請求権の成否について。

(一)原審における証A、当審における証人Bの各証言、原審および当審における控訴人および被控訴人各本人尋問の結果と、本件弁論の全趣旨とをあわせ考えると、次の事実を認めることができる。
 控訴人は、昭和15年10月15日、父里一、母マツの三女として出生し、城右高等学校卒業後、昭和35年3月1日から、埼玉県所沢市にある在日米軍兵站司令部経理課に、事務員として勤務することとなつて、右経理課の上司で、米国籍を有する被控訴人と知り合つた。控訴人は、間もなく、通勤のため、被控訴人から自動車による送り迎えを受けるようになり、また、被控訴人に映画館、ナイトクラブ等に連れていつてもらうほどの仲となつた。その当時、被控訴人はミチコ・メンスを妻とし、同女との間に3人のこどもまであつたが以前からミチコとの間がうまくいかず、ミチコと同居はしているものの寝室を共にしないという状態であつたところ、前記のように控訴人と交際しているうち、性的享楽の対象を控訴人に求めるようになつた。

そして、被控訴人は、昭和35年5月頃、控訴人に対し、前記家庭の状態を告げるとともに、控訴人が19才余で、思慮不十分であるのにつけこんで、真実は、ミチコと近い将来において離婚できる事情にはなく(この点は、証拠説明とともに、後記(二)(ハ)において詳述する。)、また、控訴人と結婚する意思がないのに、控訴人に対し、「妻と別れて控訴人と結婚する。」と述べ、控訴人をして、被控訴人とミチコとの間柄が被控訴人のいうようなものであれば、被控訴人はいずれはミチコと離婚して自分と結婚してくれるであろうと誤信させ、昭和35年5月21日頃、東京都港区麻布のホテルにおいて、控訴人に情交を求め、これを承諾させて、享楽の目的を遂げ、その後昭和36年9月頃までの間、10数回にわたり、そのつど控訴人と結婚すると述べて控訴人を欺き、控訴人と情交関係を結んだ(控訴人と被控訴人とが、昭和36年9月頃までの間、10数回にわたり情交関係を結んだ(最初の日がいつであるかを除く。)ことおよび当時被控訴人と妻ミチコとの間に三人のこどもがあつたことは、当事者間に争いのない事実である。)。ところが、被控訴人は、昭和36年7月頃、控訴人から妊娠したことを知らされるや、同年9月頃から、控訴人と合うことを避けるようになり、控訴人が昭和37年1月1日男子順を分娩した際、その費用の相当部分を支払つたほか、まつたく控訴人との関係を絶つにいたつた。

     (中略)

(三)前記(一)の認定事実によると、被控訴人は控訴人と結婚する意思がないのに右意思があるように装つて控訴人を欺き、控訴人の誤信に乗じて情交関係を結ばせ、控訴人の意思決定の自由、貞操、名誉を侵害したものとすべきであり、また前記(一)の事実関係によると控訴人が被控訴人の右加害行為により精神的苦痛を被つたものと認めるのが相当である。そして、法例第11条によると、不法行為によつて生ずる債権の成立および効力は、その原因たる事実の発生した地の法律によるべきものであり、本件について日本民法が法例第11条の指定する準拠法となることは前記(一)の事実関係から明らかであるところ、被控訴人の行為は日本民法第709条、第710条所定の不法行為の構成要件を充足するから、被控訴人は控訴人に対し、控訴人が被つた精神的損害の賠償として相当額の慰藉料を支払うべき義務があるものといわなければならない。

二、慰藉料請求の許否について。
 被控訴人は、「控訴人は、被控訴人に妻があることを知りながら被控訴人と情交関係を結んだものであるから、控訴人の行為は公序良俗に反するものであり、控訴人がこれにより精神的損害を被つたとしても、民法第708条本文の規定の類推適用により、右損害の賠償として慰藉料を請求することは許されない。」と主張し、これに対し、控訴人は、「被控訴人と妻ミチコとは、当時、事実上の離婚状態にあつたものであるから、控訴人の行為は公序良俗に反しない。したがつて、控訴人の慰藉料請求に対して民法第708条の類推適用はない。仮に右主張が理由がないとしても、被控訴人が控訴人と情交関係を結んだ動機ないし目的、行為の内容の諸点からみると、被控訴人の行為には許し難い不法性があり、一方、控訴人は、被控訴人から欺かれて被控訴人と情交関係に入つたものであり、不法はもつぱら被控訴人の側にあるから、民法第708条但書の規定により同条本文の規定の類推適用は排除される。」と主張するので、以下この点について判断する。

(一)おもうに、女性が男性に妻のあることを知りながら、男性と、長期間にわたり継続的に、情交関係を結ぶ行為は、一般的にいえば、男性の、妻に対する貞操義務違反に加担する違法な行為であるのみならず、男性と共同して、夫婦共同生活を支配する貞潔の倫理にもとる行為に出たことにもなつて、民法第90条にいう公序良俗に反するものとの非難を免れず、女性がこれにより貞操等を侵害され、精神的苦痛を被ることがあつてもその損害の賠償を請求することは、結局自己に存する不法の原因により損害の賠償を請求するものであり、このような請求に対しては、民法第708条本文の規定の類推適用により、法的保護を拒むべきである。この限りにおいて、被控訴人の主張は正当なものを含むものといわざるをえない。

しかしながら、夫婦が離婚の合意をして、別居し、または、夫婦間にこれに類似する事情が生じ、夫婦共同生活の実体がまつたく存在しなくなり、婚姻解消の法律的手続を履むことだけが残されているという状態、すなわち事実上の離婚状態が生じている場合には、夫と性的関係をもつた妻以外の女性が、これにより貞操等を侵害され、精神的苦痛を被つたとして、その損害の賠償を請求するのに対し、民法第708条本文の規定を類推適用して法的保護を拒否することが必ずしも適当でないことがあるであろう。

さらにまた、夫と妻とが事実上の離婚状態になつていなくても、夫が妻以外の女性に対して欺罔手段を用いて情交関係を結び、女性の貞操等を侵害した場合において、(右情交関係が公序良俗に反することは否定することができないが)右関係を結ぶについての双方の動機ないし目的、欺罔手段の態容、男性に妻があることに対する女性の認識の有無等諸般の事情を斟酌して双方の不法性を衡量してみて、公序良俗違反の事態を現出させた主たる原因は男性に帰せしめられるべきであると認められるときは、民法第708条但書により同条本文の適用は排除され、女性の精神的損害の賠償請求は許容されるべきものと解するのが相当である。

(二)これを本件についてみるに、昭和35年5月当時、被控訴人と妻ミチコとの間がうまくいかず、被控訴人がミチコと同居はしているものの寝室を共にしないという状態であつたことは先に説明したとおりである。しかし、このことだけを根拠にして、被控訴人とミチコが事実上の離婚状態にあつたということができないことはいうまでもなく、このほか、控訴人と被控訴人とが情交関係を継続していた間に被控訴人とミチコとが事実上の離婚状態にあつたことを肯認するに足りる証拠はない。

また、真正にできたことについて争いのない甲第三、第四号証と原審および当審における被控訴人本人尋問の結果とをあわせ考えると、ミチコは、昭和38年7月26日、被控訴人を相手どり、浦和地方裁判所に対し離婚請求の訴を提起し(同裁判所昭和38年(タ)第13号事件)、昭和38年8月16日、ミチコと被控訴人とを離婚する旨の判決の言渡があり、右判決はその頃確定した事実を認めることができるが(右認定を妨げる証拠はない。)、右事実は、被控訴人とミチコとが事実上の離婚状態にあつたとは認められないという前記判断を左右するに足りないとすべきである。そうすると、被控訴人とミチコとが事実上の離婚状態にあつたことを前提として、控訴人の慰藉料請求に対しては民法第708条の類推適用はないとする控訴人の主張は採用することができない。

(三)しかし、
(イ)被控訴人は、性的享楽の目的を遂げるために、控訴人が若年で思慮不十分であるのにつけこみ、真実は控訴人と結婚する意思がないのに、その意思があるように装い、妻と離婚して控訴人と結婚すると述べて、控訴人を欺罔し、控訴人をして、被控訴人が自分と結婚してくれるものと誤信させて、情交関係を結ばせ、爾後、同じ欺罔手段を用いて、1年有余にわたつて情交関係を継続させたものであり、一方、控訴人は、被控訴人のことばをそのまま信じ切つて、情交関係を結んだのである(前記一(一)参照)。

(ロ)控訴人は、被控訴人に妻があることを知つてはいたが(その故にこそ、控訴人は、被控訴人との関係について、「道徳的に考えたらまちがつている」と呵責の念にかられたこともあつたことは、前記乙第一号証の一ないし八によりこれを窺うことができる)、被控訴人から妻ミチコとの不和の状態を知らされたこともあつて、妻と離婚するということばを真に受けていて、被控訴人と結婚することができるという期待をもつて、被控訴人に身を委せたのである(前記一(一)参照)。

(ハ)また、前記甲第三号証に当審における証人Bの証言、被控訴人本人尋問をあわせ考えると、被控訴人は、ミチコと離婚する前である昭和34年11月から、Cと称する日本人女性と情交関係を結び、日ならずして、昭和35年から昭和36年にかけて、控訴人と情交関係を結んだほか、その後、Dとも情交関係をもつたことを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない(被控訴人とミチコを離婚する旨の前記判決は、被控訴人がC某および控訴人と情交関係を結んだことを被控訴人の不貞行為であるとし、これを離婚原因に当るものと判断している。そして、被控訴人Dとの関係は、ミチコがこれを指摘したにかかわらず、前記判決においては、肯認されなかつたが、現在、被控訴人はDとの関係を自認している。)。

以上(イ)ないし(ハ)に掲記した諸般の事情をあわせ考えると、控訴人が被控訴人の妻のあることを知りながら被控訴人と情交関係を結んだ行為が公序良俗に反することは否定できないが、不法性は明らかに被控訴人の方が大きく、このような公序良俗違反の事態を現出させた主たる原因は被控訴人に帰せしめられるべきものとすべきである。してみると、本件においては、民法第708条但書の規定により同条本文の規定の適用は排除され、控訴人の慰藉料請求は是認されるとするのが相当である。

三、慰藉料額について。
 よつて,慰藉料額について判断する。原審および当審における控訴人本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせ考えると、控訴人がはじめて被控訴人と情交関係を結んだのは19才余の時期であり、それまでに異性に接した体験のない控訴人は、前記のとおり被控訴人から欺かれて情交関係を結び、果ては、結婚への期待を裏切られ、被控訴人の子である順の養育を一身に荷わなければならなくなつたもので、その精神的苦痛は多大なものがあることを認めることができる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)。ただ、控訴人が被控訴人に結婚の意思があるものと誤信させられたとはいえ、結婚前の情交はこれを慎むのが良識ある女性のあり方であることをおもうと、控訴人がより慎重に身を処したならば、前記のような結果を回避し、精神的苦痛を幾分軽くすることができのではないかと考えられるのである。

そして、以上の事情に、(イ)本件不法行為の態容、(ロ)控訴人の財産状態(原審および当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、一時、バーのホステスとして働いていたこともあつたが、その後、美容学校の学生に転じ、定収入がないことが窺われる。)、(ハ)被控訴人の財産状態(原審における証人Eの証言により真正にできたものと認められる乙第三号証に原審における証人Eの証言、被控訴人本人尋問の結果をあわせ考えると、被控訴人は昭和39年9月3日当時において月収手取り額234ドルの収入があつたことを認めることができ、その後右収入額が減つたことを認めるに足りる証拠はない。)(ニ)順に対しては、同人が成人する頃までの間、被控訴人から月額1万円の養育料が支払われることとなつていること(後記四参照)等の諸事情をあわせ考えると、被控訴人が控訴人に支払うべき慰藉料の額は60万円をもつて相当とすべきである。

四、慰藉料請求権の放棄の有無について。

     (中略)

このような状況に逢着した調停委員は、控訴人に対し、控訴人に慰藉料請求権があるかどうか疑わしいとの理由を挙げ、その支払の調整に難色を示す一方、双方に対し、養育費の月額として25ドル(前同様の計算によると合計219万円)を提案して、考慮を促した。そこで、控訴人は、慰藉料請求はしばらく保留することとし、とりあえず、養育費に関する調停委員案を容れることとした。

被控訴人側では、E弁護士が被控訴人に対し、慰藉料を兼ね合わせるということで右調停委員案を容れるよう説得に努めて、被控訴人の諒解を得たので、調停委員に対し、さきの提案を応諾すると回答し、昭和38年3月8日の最終期日において、被控訴人が順に対し養育費として月額1万円を支払うという基本的な方向において双方の意見の一致をみ、前記のような調停条項ができあがつた。

(三)右調停成立にあたつて、E弁護士から家事審判官あるいは調停委員に対し、同弁護士の被控訴人に対する前記説得のいきさつが報告されたことはなく、また、家事審判官から双方に対し、養育費という名目の額の中に実質上慰藉料を含ませるというような説明がされたこともなかつた。さらに、控訴人から慰藉料を請求しないという言明がされたこともない。
 このように認められる。そして、右(一)ないし(三)の認定事実をあわせ考えると、控訴人が右調停成立の際慰藉料請求権を放棄した事実はなかつたものと認めるが相当である。

四、むすび
 以上説明したとおりであつて、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し60万円およびこれに対する昭和38年7月23日(この日が本件訴状送達の日の翌日であることは記録上明らかである。)から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余の請求は棄却すべきである。よつて、これと異なる範囲において原判決を主文第一項ないし第三項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第96条、第89条、第92条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 新村義広 裁判官 中田秀慧 裁判官 蕪山厳)
以上:7,063文字
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R 7-12-19(金):婚姻意思装い性関係をもった男性の不法行為責任を否認した地裁判決紹介
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○たまたま見つけた令和7年からは60年も前の男女関係に関する判例として昭和40年2月24日東京地裁判決(判時416号75頁、判タ175号166頁)を紹介します。

○原告女性が、アメリカ国籍の被告男性に対し、被告が真実結婚する意思がないのに意思があるごとく甘言を弄し、これを信じて錯誤に陥った原告と情交を重ねたのち、原告と会うことを避けつづけて原告との関係を絶ったことにより、精神的苦痛を受けたと主張し、慰謝料200万円の支払いを求めて提訴しました。

○これに対し、上記判決は、不法行為の原因事実発生地である日本の民法を準拠法と認め、本件事実は日本民法上の不法行為を構成するが、原告は被告に配偶者があることを知っており、かかる請求は民法708条の精神に鑑み認められないとして、原告の請求を棄却しました。

○判決は、被告は真実結婚する意思がないのにこれある如く装い甘言を弄し、右甘言を信じ錯誤に陥つた原告と昭和35年5月頃から昭和36年9月頃まで情交を重ねたものであつて、畢竟被告は不法に原告の貞操を弄びこれを侵害して来たものであつて、原告はこれにより甚大なる精神的苦痛をうけたものというべきであると認定しています。

○しかし結論として、原告は被告と情交関係を結んだ当時、被告が妻ミチコと不和になつていることの認識をもつていたとしても、被告が妻と事実上離婚又はそれに類する状態に至つていたものと信じていた等の事実はこれを認むるに足りず、結局原告の本訴請求は、民法第708条に示された法の精神に鑑み、容認するはできないとしています。

○とんでもない判決だと思いますが、控訴審で覆されており、別コンテンツで紹介します。

*********************************************

主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

事   実
 原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金200万円及びこれに対する昭和38年7月23日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は昭和15年10月15日父里一の三女として出生し、昭和34年3月末日東京都城石高等学校を卒業後、昭和35年3月1日より埼玉県所沢市の在日米軍兵站廠司令部経理課に事務員として勤務していたものであり、被告は原告の上司として同司令部に勤務していたものであるが、被告は原告が当時19歳の未成年者にして思慮浅薄なるに乗じ、昭和35年3月末頃、原告に対し、結婚する意思がないのに、近いうち結婚すると申向けて原告を誘惑し、その旨原告をして誤信させたうえ情交関係を結び、その後昭和36年頃まで十数回にわたり関係を結んで原告の貞操権を侵害したものである。

 原告はこのため、将来ある青春を一朝にして崩され、精神的苦痛に悩んでいる現状であるが、被告は前記司令部に勤務し俸給月額金27万円位その他諸手当等にて30万円位の月収を得ている。よつて諸般の事情を考慮すれば、被告は原告の蒙つた精神的損害に対し金200万円を支払うべき義務あるものと考えられる。

 よつて原告は被告に対し右不法行為による慰藉料として金200万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和38年7月23日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
と述べた。証拠(省略)

 被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、
「原告と被告とが、原告主張の頃、情交関係を結んだことは認めるが、その余の事実は否認する。」
と述べ、抗弁として、

一、原告は被告と情交関係を結んだ当時から、被告に妻子が居ることを承知していたのであり、それを承知の上で関係を結んだのであるから不法原因給付の規定の精神からして、原告からの損害賠償の請求は許されない。

二、仮に被告に何らかの責任があるとしても、昭和38年3月8日、東京家庭裁判所八王子支部において、原被告間の子里照を申立人とし、原告を申立人法定代理人とし、被告を相手方とする昭和37年(家イ)第107号認知事件の調停が成立したが、その際原告は本件慰藉料請求権を放棄したのである。
と述べた。証拠(省略)

理   由
一、原告と被告とが、昭和35年3月末頃から昭和36年6月頃まで十数回にわたり情交関係を結んだことは当事者間に争いがない。

 証人里マツの証言、原告本人尋問の結果及び被告本人尋問の結果の一部に弁論の全趣旨を綜合すると、原告は昭和15年10月15日父里一の三女として出生し、昭和34年3月末日城石高等学校を卒業後、昭和35年3月1日より埼玉県所沢市の在日米軍兵站廠司令部経理課に事務員として勤務していたこと、被告はアメリカ合衆国の国籍を有し、原告の上司として同司令部に勤務していたこと、原告は右職場に勤務するようになつて10日程たつた頃より、被告から自動車による通勤の送り迎えを受けるようになり、また被告に映画見物やナイトクラブに連れていつてもらつたりする程の仲となつたが、

被告は当初から原告と結婚する意思がないのに、原告に愛情を告白し、「自分には妻があるけれども、妻とは別れ、いずれ帰米しなければならないが、そのときには原告を連れて行く」旨述べ、暗に原告と結婚する意思があるようにほのめかして原告を欺き、原告は被告の甘言を盲信し被告に原告と結婚する意思あるものと誤信し、同年5月21日頃東京都麻布の某ホテルにおいて被告と情交関係を結び、爾来昭和36年9月頃まで継続的に情交関係を結んだが、

被告はその都度妻とは別れて原告と結婚する旨述べていたこと、昭和36年7月頃原告は被告の子を妊娠したことに気付き、被告に出産すべきか妊娠中絶をすべきかを相談した際、被告は出産することを希望し、原告は被告の希望を入れて昭和37年1月1日男子順を分娩したこと、原告は昭和36年8月10日前記勤務先を退職したが、同年9月頃から被告は原告と会うことを避けつづけて原告を棄て去つたこと

を認めることができ、右認定に反する被告本人尋問の結果の一部は原告本人尋問の結果に照し措信しえない。

 右認定事実によれば、被告は真実結婚する意思がないのにこれある如く装い甘言を弄し、右甘言を信じ錯誤に陥つた原告と昭和35年5月頃から昭和36年9月頃まで情交を重ねたものであつて、畢竟被告は不法に原告の貞操を弄びこれを侵害して来たものであつて、原告はこれにより甚大なる精神的苦痛をうけたものというべきである。

二、法例第11条によれば、不法行為によつて生ずる債権の成立及び効力はその原因たる事実の発生した地の法律によるものとされているので,本件は原因事実発生地である日本の法律によるべきである。
 而して前記認定事実は日本民法上の不法行為の構成要件に該当する。

しかし、前記認定事実によれば、原告は当初から被告に正妻あることを認識しながら、被告と情交関係を結んだことが明らかである。しかして、配偶者ある男子と情交関係を結ぶことはその配偶者との婚姻関係が事実上の離婚又は相手方の長期間に亘る行方不明等これに類する状態になつている等特別の場合を除き、我国の公の秩序善良の風俗に反する行為であり、たとえ配偶者ある男子が真実結婚する意思がないのに拘らずこれあるが如く装つて欺罔し、これを信じて情交関係に入つた者が、貞操を蹂躙せられ精神的苦痛を受けても、相手方男子に配偶者があることを知つていた以上(その婚姻状態が事実上の離婚等になつていると信じた場合を除き)その損害の賠償を請求するのは、畢竟自己に存する公序良俗に違反する行為によつて生じた損害の賠償を請求することとなるから、かかる請求に対しては民法第708条に示された法の精神に鑑み、保護を与えるべきではないと考えられる。

ところで本件についてこれをみると被告本人尋問の結果によれば、被告とその妻ミチコとは昭和30年頃から不和になり昭和33年頃からは肉体関係も杜絶し、同じ家ではあつても部屋を別にしていたこと、被告は昭和38年9月頃浦和地方裁判所の判決により妻ミチコと裁判上の離婚をしたことが認められるけれども、右の事実のみでは原告が被告と情交関係を結んだ当時、被告が既に妻ミチコと双方離婚意思を確定している事実上の離婚又はそれに類する状態にあつたとは認め難く、他にこれを認め得る資料はない。

また原告本人尋問の結果によつても、原告は被告と情交関係を結んだ当時、被告が妻ミチコと不和になつていることの認識をもつていたとしても、被告が妻と事実上離婚又はそれに類する状態に至つていたものと信じていた等の事実はこれを認むるに足りない。従つて結局原告の本訴請求は、前判示のとおり、民法第708条に示された法の精神に鑑み、容認するを得ない

三、よつて、その余の抗弁について判断するものでもなく、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 田中宗雄 小河80次 岡崎彰夫)


以上:3,712文字
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R 7-12-18(木):医学的に説明可能であるかどうかで12・14級を分けた地裁判決紹介
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○原告車と被告車の衝突事故に関し、原告が、被告に対し、本件事故により、原告車が損傷し、原告が受傷し、①頸部痛,両手のしびれ感やふるえ、②右趾のしびれ感のいずれも12級後遺障害で、併合11級後遺障害を負ったとして、民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づく約1341万円の損害賠償をしました。

○これに対し被告は、①、②いずれも医学的証明がないとして14級後遺障害は認めるも12級は否認し、併合11級後遺障害は争い、且つ、素因減額を主張して争いました。

○この事案で、本件後遺障害のうち①頸部痛、両手のしびれ感やふるえは後遺障害等級12級相当、②右趾のしびれ感については、後遺障害等級14級相当であり、原告の後遺障害は、併せて後遺障害等級12級相当であるとして、約809万円の損害を認めた令和6年7月19日札幌地裁判決(自保ジャーナル2176号37頁)関連部分を紹介します。

○後遺障害について判決は、①頸部痛、両手のしびれ感やふるえはMRI検査等により明らかとなった本件頸部等の所見により生じたものであると医学的に説明可能であることから後遺障害等級は12級相当であると認め、②右趾のしびれ感は、原告が通院した医師が,X-pの他覚的所見そのものは変性変化であり,外傷性の所見である可能性は低く,それによって生じた症状「右趾のしびれ感」は事故がなければ生じていなかった可能性は否定できないという回答にとどまり、原告に認められるL4/5椎間板腔狭小化等による神経への影響は判然せず医学的に説明可能ではないので14級に留まるとしました。

○被告の素因減額主張については、被告らが指摘する従前の事故は本件事故の10年以上前のもので、本件事故による治療や後遺障害に影響を与えたとは認められないとして排斥しました。なお、本件には過失割合等の争いもありましたがその部分は省略します。

*********************************************

主   文
1 被告は,原告に対し,808万9530円並びにうち100万0600円に対する令和4年2月10日から支払済みまで年3分の割合による金員及びうち708万8930円に対する令和4年12月26日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

     (中略)

事実及び理由
第一 請求の趣旨
1 第1事

 被告は,原告に対し,1341万6002円並びにうち161万3182円に対する令和4年2月10日から支払済みまで年3分の割合による金員及びうち1180万2820円に対する令和4年12月26日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

    (中略)

第二 事案の概要
 本件は,原告が運転する自動車(以下「原告車」という。)と被告が運転する自動車(以下「被告車」という。)との間で生じた交通事故(以下「本件事故」という。)に関し,原告が,被告に対し,本件事故により,原告車が損傷し,原告が受傷し,後遺障害を負ったなどとして,民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償請求(遅延損害金の起算日は,161万3182円(弁護士費用及び物損の合計額)については事故日である令和4年2月10日であり,1180万2820円(人身損害)については保険支払日である令和4年12月26日である。)をする(中略)事案である。

1 前提事実

     (中略)

2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)過失割合

     (中略)

(2)本件事故による原告の後遺障害の程度
(原告の主張)
 原告には,他覚的所見として,C5/6,C6/7椎間板腔狭小化及び椎間板膨隆・椎体後縁骨棘,並びにL4/5椎間板腔狭小化が認められる。上記所見が外傷性でなかったとしても,本件事故前,原告には当該他覚的所見による症状はなかったにもかかわらず,原告は,本件事故後から,一貫して「頸部痛,両手しびれ感,両手のふるえ」や「右趾しびれ感」を訴え,同症状が症状固定日においても継続している。

 したがって,原告は,本件事故前には無症状であったが,事故後に画像により確認される他覚的所見に起因するこれらの症状(「頸部痛,両手しびれ感,両手のふるえ」や「右趾しびれ感」)が発現したものであり,後遺障害等級12級相当の後遺障害が生じたといえ,それが2以上残存しており,全体として,後遺障害等級併合11級相当の後遺障害が残存したというべきである。

(被告らの主張)
 原告の主張は否認ないし争う。原告の後遺障害が後遺障害等級14級相当であることについては争わないが,いずれについても,本件事故によって原告の後遺障害が発現したことについて,医学的な証明がされているという程度には至っておらず,原告には,後遺障害等級12級相当の後遺障害は認められず,全体として,後遺障害等級併合11級相当の後遺障害が残存したとはいえない。

(3)素因減額の有無
(被告らの主張)
 原告は,従前の事故により,頸部痛,右手しびれ,右手のふるえについて後遺障害等級14級の認定を受けていることから,頸部痛については経年変性を超えた疾患として残存していた。
 このことから,頸部痛に基づく神経障害を原因とした原告の左手しびれ感,左手ふるえ感については,原告の疾患が本件事故による外傷と相まって生じたものである。同頸部痛を原因とする左手しびれ感等の後遺障害について減額を認めない場合,後遺障害を二重評価していることになるから,公平の観点から素因減額が認められるべきである。

(原告の主張)
 被告らの主張は否認ないし争う。

     (中略)

第三 当裁判所の判断
1 認定事実


     (中略)

3 争点(2)(本件事故による原告の後遺障害の程度)
(1)原告に残存した後遺障害

 前記1の認定事実,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,原告には,症状固定時(令和4年8月9日時点)において,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」及び「右趾のしびれ感」が残存したことが認められる(以下,これらを「本件後遺障害」という。)。

(2)「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」
 原告には,本件事故後において,本件所見のうち,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」に関するものとして,「C5/6,C6/7の椎間板腔狭小」,「C5/6,C6/7変転」(頸椎後弯アライメント),「椎体後縁骨棘あり」,「硬膜のう 軽度圧迫」(以下「本件頸部等の所見」という。)が認められるところ(前記認定事実(1)ア),これらの所見が本件事故によって生じた外傷性のものであると認めるに足りる証拠はない。

 しかし,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故当時70歳ではあったものの,本件事故前において,業務上の支障なく,フレンチ料理の店舗において,自ら調理をするとともに,他の調理人を統括する業務を行っていたことが認められるところ,本件事故後において,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」等の症状が出現したこと(前記(1),前記前提事実(2),(3),(5),前記認定事実(1)),原告は,本件事故があった前年(令和3年)の給与所得(支払金額)は478万6928円であったが,本件事故があった年(令和4年)には給与所得(支払金額)は235万8030円となり,令和5年4月には上記料理店を退職していること(前記認定事実(3))が認められ,これらの事実によれば,本件事故により,原告に「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」の症状が発生するようになったと認められる。

 その上,前記認定のとおり,原告が通院していたcクリニックの医師が,原告には椎間板の狭小化,骨棘などの変性変化により,頸部痛が発生,遷延化すること及び脊髄の圧迫により,両手しびれ感,両手のふるえが発生,遷延化することが考えられ,上記所見の状態に外傷が加わることによって症状が発生した可能性は否定できず,原告は,事故前は不自由なく調理人としての仕事を全うされていたことを考えると事故がなければ,原告には「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」の症状が発生しなかったと考えられる旨回答している(前記認定事実(2))ところであり,医師による上記回答を踏まえると,本件事故前には「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」の症状が特段生じていなかったにもかかわらず,本件事故の衝撃等による外力が本件頸部等の所見に加わり,それに伴って,本件頸部等の所見に伴う症状が顕在化したものと認められる。

 したがって,本件後遺障害のうち,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」は,本件事故と相当因果関係があるものであり,MRI検査等により明らかとなった本件頸部等の所見により生じたものであると医学的に説明可能であることから後遺障害等級は12級相当であると認めることが相当である。

(3)右趾のしびれ感
 原告には,本件事故後において,本件所見のうち,「右趾のしびれ感」に関するものとして,L4/5椎間板腔狭小化が認められるところ,原告が通院してcクリニックの医師が,X-pの他覚的所見そのものは変性変化であり,外傷性の所見である可能性は低く,それによって生じた症状「右趾のしびれ感」は事故がなければ生じていなかった可能性は否定できないという回答にとどまっており(前記認定事実(2)),原告に認められるL4/5椎間板腔狭小化等による神経への影響は判然としない。

 以上を踏まえると,右趾のしびれ感については,原告に認められたL4/5椎間板腔狭小化の所見により,医学的に説明可能であるとまではいえず,後遺障害等級12級相当であるとまではいえず,後遺障害等級14級相当にとどまる。

(4)被告らの主張について
 被告らは,原告に残存した「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」については,原告の主張する神経症状を発現させるほどの圧迫等の痕跡があることは伺えず,有意な神経学的所見は存在せず,本件事故による障害部位と自覚症状が整合しているとはいえないなどとして,医学的な証明がされておらず、後遺障害等級14級にとどまる旨主張する。

 しかし,前判示のとおり,原告には,本件頸部等の所見(「C5/6,C6/7の椎間板腔狭小」,「C5/6,C6/7変転」,「椎体後縁骨棘あり」,「硬膜のう 軽度圧迫」)が存在すると認められるところ(前記認定事実(1)ア),本件頸部等の所見は,頸椎MRIの検査等により明らかとなったものであり,他覚的所見といえる。

また,本件頸部等の所見によると,C6やC7の脊髄,C5/6やC6/7の神経根に障害が生じていると考えられるところであり,これらの所見に伴う神経症状としては,第1から第3指までの感覚障害が生じ得るところであることや,原告の担当医が,原告には椎間板の狭小化,骨棘などの変性変化により,頸部痛が発生,遷延化すること及び脊髄の圧迫により,両手しびれ感,両手のふるえが発生,遷延化することが考えられる旨回答していること等を踏まえると,本件頸部等の所見は,原告に残存した「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」の後遺障害と整合するものといえ,前判示のとおり,本件後遺障害のうち,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」は,本件頸部等の所見により生じたものであると医学的に説明可能であるといえ,被告らの上記主張は採用することができない。
 
(5)結論
 以上によれば,本件後遺障害のうち「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」は後遺障害等級12級相当であり,右趾のしびれ感については,後遺障害等級14級相当であると認められるところであり,原告に残存した後遺障害は,併せて後遺障害等級12級相当であると認められる。

4 争点(3)(素因減額の有無)
 被告らは,原告が,従前の事故により,頸部痛,右手しびれ,右手のふるえについて,後遺障害等級14級の認定を受けており,素因減額をすべきである旨主張する。

 しかし,被告らが指摘する従前の事故は本件事故の10年以上前のものであり,本件事故前に,原告が,従前の事故の影響による治療を受けていた形跡がうかがわれないこと等に照らすと,従前の事故が,本件事故による治療や後遺障害に影響を与えたとは認められない。
 なお,本件所見は,いずれも加齢に伴うものと考えられるため,これを根拠に素因減額を行うことは相当ではない。

 よって,被告らの上記主張は採用することができない。

5 争点(4)(原告の損害額)

     (中略)

第四 結論
 以上によれば,原告及び被告の請求は,主文記載の限度で理由があり,その余の請求は理由がないので棄却するとともに,原告会社の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第3部
裁判官 濱岡恭平
以上:5,189文字
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R 7-12-17(水):2025年12月16日発行第403号”権利のための逃走”
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○横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの令和7年12月16日発行第403号「権利のための逃走」をお届けします。

○イェーリングの「権利のための闘争」は学生時代法学概論等で習いましたが、概要を習っただけで、原本まで読んでいません。大山先生に「法律を学ぶ人の必読書」なんて言われると恥ずかしい限りです(^^;)。「権利は「与えられるもの」ではなく、「勝ち取るもの」であり、自分の権利を守るための戦いは、自分自身のためだけでなく、法と社会全体への貢献でもある、という強いメッセージが込められています。 」なんて解説されています。今でもヒマですがさらにヒマになったら文庫本を買って読んでみます。

○権利を実現するための最終手段は訴訟ですが、訴訟はコストがかかり、コストとの兼ね合いでコストが合わないので止めた方が良いのではとアドバイスすることは良くあり、多くのお客様は納得されます。しかし中には幾らコストがかかっても構いませんから徹底してやって下さいと言うお客様が稀に居て、さてこの事件を受けるべきか否かで悩むこともあります。

○交通事故事件の場合、弁護士費用特約保険が普及してご本人にコスト負担がなくなったため、昔だったら事件にならない事件の訴訟が増えています。請求額10数万円の物損請求事件で、過失割合が熾烈な争いになり、弁護士費用特約を利用して数十万円の鑑定費用をかけて訴訟で争っている事件があります。請求額が小さいため弁護士費用は鑑定費用よりズッと低額で、本音は「逃走」したくても「闘争」せざるを得ないが辛いところです(^^;)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

権利のための逃走

「権利のための闘争」は、今から150年も前にイェーリングという法学者によって書かれました。現代でも、法律を学ぶ人の必読書とされています。法や権利についての有名な言葉が沢山出てきます。「権利は自然に与えられるものではなく、侵害に対して闘うことによって初めて現実のものとなる」なんて有名ですね。法律に「権利」として書かれていても、現実にそのために戦わなければ、権利は現実化しないというわけです。例えば現代日本でも、生活保護の支給額をめぐってのデモや裁判な度が行われています。生活保護の権利は憲法に明記されていますが、それを現実化するためには「闘争」が必要ということです。

確かに生活保護のためにデモしている人たちを見て、「デモする元気があるなら、まず働けよ!」と言いたくなる気持ちも分かります。でも、制度としての生活保護の権利の為に戦うこと自体は正しいことだと思うのです。本の中でイェーリング大先生は、わずかな金額を騙し取られたことから、大金を使って裁判を起こした人の話が紹介されています。1万円の為に、100万円かけて裁判するような感じです。多数派の人の感覚だと、「バカなことをするな」みたいに思うはずです。イェーリングの時代の人たちも、そういう風に考えたようです。しかしイェーリング大先生は、「バカだというやつがバカだ」みたいな勢いで、こういう訴訟を大絶賛しちゃうのです。それによって、正義が回復して、権利が現実のものになったというわけです。

こういうのを聞くと、境界紛争の相談に来た方を思い出します。隣地との境界に関して、10センチほど争いがありました。田舎の土地でしたので、金額にすればせいぜい数万円程度の話です。ところが裁判で争うとなれば、土地の測量から始まって、全部で200万円くらい必要になります。「損得を考えたら裁判は止めた方が良いですよ。数万円お金を払って和解してらどうでしょう?」なんてアドバイスしたんですが、聞いてくれません。「先生のような人には、土地を奪われた人の気持ちなど分からないんでしょう!」とまで言われました。正直「どうも困ったな」と思いましたが、イェーリング先生なら、「立派な人だ。あんたの方が困った弁護士だ!」とおっしゃいそうです。ううう。。。

権利の為にどこまで闘うのかは、本当に難しい問題です。先日ネットニュースを見ていたら、飲食店で暴れた迷惑客の話がありました。朝4時に来て、ビールを出せと言って大暴れして、店の備品を壊したそうです。ただ、被害にあったお店は、被害届は出さないと言っているとのことでした。ニュースのコメント欄では、「そんなのを放置するな」「厳しく罰しろ」なんて意見が沢山ありました。確かにもっともな意見ですが、被害届を出すと本当に面倒なんです。現場検証の対応をすればお店を閉めないといけません。警察や検察での事情聴取の為に、2~3日ほど時間を取られることになります。大体の場合、飲食店で暴れるような人は、お金を持っていません。親族からも見放されているような人が多数派です。頑張って被害届を出したり、損害賠償請求したりしても、一銭も取れなかったということになりかねない。

イェーリング先生には怒られますが、「闘争」は止めて、その場から早く「逃走」した方が絶対に得なんです。もっとも、日本企業は海外で、かなり不当な訴訟でもすぐに和解金を払って終わらせるから良い鴨になっているなどと言われてました。ちょっと脅すとすぐにお金が取れるので、効率が良い。だからまた同じような訴訟を起こされる。欧米の企業は、費用をかけても断固闘うので、そのような紛争に巻き込まれること自体少なくなるそうです。私が勤めていた会社が、マイクロソフトなどと共同被告として訴えられたことがありました。当方はすぐに和解したんですが、MSは断固戦い抜いてました。「闘争」と「逃走」どちらを選ぶのか難しいところです。

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◇ 弁護士より一言

若い頃は山登りが好きでした。頂上まで登れなければ意味がないように思っていたのです。しかし還暦を過ぎてからは、「頂上」に拘らないだけではなくて、「山下り」が好きになったのです。ロープウェイなどで登れるところまで行ってから山を下ります。山と闘わないで逃げているみたいですが、このくらいが丁度良い。来年もゆっくり山下りを楽しみたいものです。

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R 7-12-16(火):週刊ポスト令和7年12月26日号”棺桶まで自分で歩く”紹介
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○週刊ポスト令和7年12月26日号に2000人の最期を看取った体験から見えた答え在宅ケアの名医萬田緑平医師「棺桶まで自分で歩く力をつけよう」都の記事が掲載され、大変、分かりやすく参考になりました。令和7年11月刊同医師著「棺桶まで歩こう」(幻冬舎新書)の要約版で、早速、Amazonに注文しました。以下、その備忘録です。

・根性と気力
歩くスピードと歩幅で余命が測れる
スタスタと歩ける人なら10年以上、椅子から腕を使わず立ち上がれるなら1年以上、ちょこちょこ歩きなら余命数年
自宅で最後まで家族や友人と一緒に笑い好きな物を食べ、「ありがとう」と言って逝くケースは日本人の1割に満たない
日本の医療現場は超延命治療で本人の意思とは無関係にただ「生かされている」患者が多数

自分で歩くことの重要性-歩くために必要なのは筋肉だけでなく、「根性」と「気力」換言すれば「脳の若さ」
がんでも他の病気でも亡くなる直前まで自分で歩けていた人こそ「ピンピンコロリ」と呼ぶに相応しい

・背筋を伸ばす
歩くために重要なことは体幹の筋肉と持久力
座る・立つ・歩くためには「背筋を伸ばす」必要、この時に使うのが体幹の筋肉と持久力
体幹の筋肉と持久力を鍛えるには、何かにもたれかからすに、背筋を伸ばして座っている時間をできるだけ長くする
背筋を30分伸ばして座っていられる人は30分歩くことができる

歩行時に背筋をビシッと伸ばし、できるだけゆっくり、大股で歩くこと、ちょこちょこ歩きは歩けなくなる一歩手前
大股でゆっくり歩けるなら、おしりの筋肉を使って歩くことを意識する
※スタスタ歩くと大股でゆっくり歩くのは矛盾-この辺りは著作で確認
歩ける筋肉をつけるにはタンパク質が重要、プロティンを積極的にのむのもよい

・入院でピンピンコロリが遠のく
死ぬまで幸せに生ききるためには歩くことと同じくらい「病院で最期を迎えない」ことが重要
入院すると「ピンピンコロリ」は遠のく、高齢者は入院でせん妄症状が出て認知症になりやすい
自宅に帰ってせん妄症状がスッカリ治まるケースが多数

「薬の飲み過ぎ」に注意-降圧剤・高脂血症・糖尿病薬により生きながらえてもその先は認知症
歩くことで高血圧・高脂血症・糖尿病を予防・改善につなげる-歩けることは脳が若いので認知症になりにくい

自分の足で歩き、自らの意思で最期を決めるのが「生ききること」
他人に棺桶に入れられるのではなく、自分で歩いて棺桶に入るのが理想の最期


○これまで、胸を張って背筋を伸ばし、スタスタ早歩きすることを意識し、さらに薬は可能な限り飲まない、ワクチンも一切摂らないをモットーとしてコロナワクチンもインフルエンザワクチンも摂ったことがありません。この記事で、その意をさらに強くしました。ゆっくり大股で歩くのとスタスタ歩きのどちらが良いのか、この著作が届いたらシッカリ確認します。大股でスタスタ歩くのが良いかも知れません。
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R 7-12-15(月):映画”栄光のバックホーム”を観て-横田慎太郎氏の生涯に感動
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○令和7年12月14日は早朝午前8時10分からTOHOシネマズ仙台5番シアターで映画「栄光のバックホーム」を観てきました。日本語字幕付で上映されていたからです。聴覚障害者の私は、難聴者用ヘッドホンをつけても邦画の日本語が半分しか認識出来ず、邦画は日本語字幕付でないと鑑賞できません。そこでTOHOシネマズ仙台HPの上映スケジュールで日本語字幕付邦画を探すのですが、なかなか見当たりません。今般、TOHOシネマズHPトップに日本字幕ニュースがあるのに気付きました。「TOHOシネマズでは、耳の不自由な方に映画を楽しんでいただけるよう、期間限定で「日本語字幕付き上映」を行っております。」と説明されており、日本語字幕付映画とその上映館・上映スケジュールが掲載されています。映画「栄光のバックホーム」は、令和7年12月14日現在3番目に掲載されていました。

○現在上映中の映画「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」も日本語字幕付で鑑賞したいのですが、残念ながら、上映館は東北ではTOHOシネマズ秋田だけで、仙台では上映されていません。TOHOシネマズ秋田は日本語字幕付映画の殆どに上映館と掲載されているのに、TOHOシネマズ仙台は半分も上映館になっていないのが残念なところです。映画「新解釈・幕末伝」は、来年1月3~6日の4日間だけTOHOシネマズ仙台でも日本語字幕付で上映されるので鑑賞しようと思っています。

○さて映画「栄光のバックホーム」ですが、映画コムでは「阪神タイガースにドラフト2位で入団し、将来を期待されながらも、21歳で脳腫瘍を発症して引退を余儀なくされた元プロ野球選手・横田慎太郎の軌跡を、松谷鷹也と鈴木京香の主演で映画化。」と説明されていますが、涙・涙の連続映画でした。横田慎太郎選手は実在の人物で実話の映画化ですが、私は全く知りませんでした。折角、恵まれた体躯と極めて高い身体能力を持って生まれついたのに21歳で脳腫瘍を発症し、一時は緩解しても、まもなく再発し、さらに再々発を繰り返し、脊髄にまで転移し、その闘病生活の物語でもあります。

○8ヶ月の未熟児として生まれた私は、生まれながらにして「蒲柳の質」即ち虚弱体質でしょっちゅう病気ばかりしており、特に幼児時代から高校時代まで煩った両耳の中耳炎によって聴覚障害者となり、現在6級の身体障害者に認定されている私は、涙ぐましい健康努力を継続していることもあり、幸い腫瘍などの大きな病気は発症せず、70代半ばの現在まで生き延びています。この横田慎太郎氏は3歳から野球を始め、高校野球部では大活躍し、ドラフト会議で2位指名を受けた阪神に入団し、さあ、これからだという21歳の若さで脳腫瘍を発症し、その後の人生が一転します。

○腫瘍(しゅよう)とは、体内の細胞が異常に増殖してできた「細胞の塊」の総称でその中で悪性のモノがガンと呼ばれるとのことです。横田氏の症状は腫瘍と説明されていましたが、神は、何故、元気な若者に対し腫瘍を繰り返し発症させて生命を奪ってしまうのか。大きな不条理を感じる映画でした。しかし世の中には腫瘍に限らず生まれつき或いは幼少時から身体に障害を抱えて懸命に生きている方々も大勢居ます。横田氏は腫瘍でプロ野球選手引退後もこのような方々を元気づける講演等を継続する努力をし懸命に生きたことが評価されています。

○映画としてはちと首をかしげる面もありましたが、実在の横田慎太郎氏の真摯に生きた生涯には大いに感動させられました。

『栄光のバックホーム』予告編-スペシャルロングバージョン【11月28日公開】


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R 7-12-14(日):グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を認容した高裁判決紹介2
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○「グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を認容した高裁判決紹介1」の続きで、令和7年7月23日東京高裁判決(LEX/DB)の理由部分後半を紹介します。

○高裁判決でも投稿記事目録内容は省略されていますが、原審判決と控訴審判決の内容から
本件記事1は、「レントゲンも撮らずに、銀歯の下を見てみるしかないと言われ・・・銀歯を取られそうになりました。・・・」、「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚きました」、「その後違う歯医者で診ていただき、レントゲン撮影後、銀歯は取る必要ないとの判断でした。」
本件記事2は、原告が本件記事2の投稿者に施術する際、まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をした
となっています。

○高裁判決は
本件記事1については、
控訴人は、レントゲン検査を行えば、銀歯を取る必要があるかどうかについて適切な判断を行えたにもかかわらず、レントゲン検査を行わずに銀歯を取ろうとするなど不適切な診療を行う歯科医師であるとの印象を与えるものであり、控訴人の社会的な評価を低下させる
公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められるが、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はない
として、

本件記事2については、
虫歯を残したまま被せ物をしてはいけない状況であるにもかかわらず、被せ物をしたものとして読むと考えられ、控訴人の社会的評価は低下すると認められるもので、
公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められるが、摘示事実は、事実に反している可能性が高く、その重要な部分が真実であることをうかがわせる事情ははない
本件記事2の投稿者に係る医療記録等の客観証拠を提出することはおよそ不可能であり、そのような状態で投稿者に客観的証拠の提出を求めることは相当ではない

との理由で、いずれも削除を認めました。

○原審判決は、投稿記事で摘示された事実の不存在について、投稿された医師に立証責任がある如く読めるもので、投稿された側には極めて厳しすぎる判決であり、高裁判決の判断が妥当と思われます。

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主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を削除せよ。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣

 主文同旨

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、歯科医院の院長である控訴人が、オンライン地図サービスであるGoogleマップに、同歯科医院についての口コミとして投稿された別紙投稿記事目録記載の各記事により名誉権を侵害されたとして、Googleマップを運営する被控訴人に対し、名誉権に基づき、上記各記事の削除を求めた事案である。
 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が控訴した。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、控訴人の請求はいずれも理由があると判断する。その理由は以下のとおりである。

1 判断の枠組みについて

     (中略)

2 本件記事1について
(1)
ア 本件記事1は、「レントゲンも撮らずに、銀歯の下を見てみるしかないと言われ・・・銀歯を取られそうになりました。・・・」との記載の後に「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚きました」との記載があり、以上の記載を併せて一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準としてみると、控訴人が、レントゲンを撮らず、事前に説明を行うことなく銀歯(被せ物。以下同じ。)を取り歯を削ろうとしたことを主張するものと解され、事実を摘示したものと認められる。

 そして、本件記事1の投稿者の診察当時の客観的な症状等は明らかでないものの、本件記事1において、上記記載に続けて「その後違う歯医者で診ていただき、レントゲン撮影後、銀歯は取る必要ないとの判断でした。」との記載があり、これを前記記載と併せて読むと、上記摘示事実は、一般の閲覧者に対し、控訴人は、レントゲン検査を行えば、銀歯を取る必要があるかどうかについて適切な判断を行えたにもかかわらず、レントゲン検査を行わずに銀歯を取ろうとするなど不適切な診療を行う歯科医師であるとの印象を与えるものであり、控訴人の社会的な評価を低下させると認められる。

イ 被控訴人は、歯科医師の説明や検査が十分かどうかは投稿者による主観的な評価に過ぎず、また、社会的評価の低下を認めるためには、一般の閲覧者が一定程度信用する具体的な事実の記載があることが必要であるところ、本件記事1には具体的な事実は記載されていないから、社会的評価を低下させない旨主張する。

しかし、本件記事1には「十分な説明、検査なしに」、「もう行きません」などの投稿者の意見や感想等を記載したと読める部分もあるものの、上記アに挙げた記載も含め、患者と控訴人との口頭のやり取りを含む控訴人の言動等を記載したと読める部分があり、閲覧者は、前記の摘示された事実については、投稿者が体験した診療の経過を記載したものとして読むと認められるのであり、上記アに説示するとおり、本件記事1は控訴人の社会的評価を低下させるものと認められるから、被控訴人の前記主張は採用できない。

 また、被控訴人は、本件サイトには本件歯科医院について好意的な評価も多数あることを指摘するが、同時に好意的な評価が多数掲載されているかどうかは、閲覧する時点によって変わり得ることであるし、本件サイトは、ネットユーザー一般が、利用する施設の選択等のための情報を手軽に収集するために閲覧するものであり、前記1(2)イ(イ)説示のとおり、閲覧者は、必ずしも対象者に関する口コミを一つ一つ熟読して、他の口コミと読み比べたり、投稿者の特性や背景等を想定したりしながら、子細に検討するわけでもなく、短時間で全体として目を通すのが一般的と考えられることも考慮しても、本件記事1は、他の多数の口コミの中にあってもなお、控訴人の社会的評価を低下させると認められるから、被控訴人の上記指摘は失当である。

(2)次に、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないと認められるかについて、以下検討する。
ア 本件記事1の投稿は歯科医師による治療行為に関するものであるから、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
 真実性については、控訴人の陳述書(甲27)は、控訴人は、通常、治療前に問診、視診、検査(口内写真及びエックス線写真撮影)という手順を踏むことが記載されており、この記載が虚偽のものであることをうかがわせる事情は認められないから、同陳述書により前記の記載に係る事実が認められる。また、控訴人において、特定の患者について、上記の通常の診療に係る手順をあえて変更して、何ら検査をせずに銀歯を取ろうとするような事態は、通常想定し難い。そうすると、本件記事1について、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はないと認められる。

イ 被控訴人は、甲27は一般的な治療の流れを述べたにすぎず、それから外れた治療が行われる可能性を排斥するものではない、歯の状態や歯科医師の知識・経験等を踏まえ即座に治療しようとすることが不自然とはいい難く、また、本件歯科医院に対する口コミには治療に当たって説明がなかった旨のものが複数あるから、本件記事1が真実であることがうかがわれるなどと主張する。

しかし、控訴人において、通常の診療手順と異なる診療を行うことが考え難いことは上記アに説示するとおりである。また、本件歯科医院に対する他の口コミの中には、説明も断りもなく歯を削り出したとか説明が分かりにくいなど本件記事1と同旨のものがあるが(乙36)、口コミが摘示する事実の真実性を検討する場面において,他の口コミが有する証拠の価値は低いというべきであるし、低い証拠価値であることを前提としても、本件においては、他方で、患者の話を丁寧に聞いてしっかり説明してくれる、病状や治療方針を分かりやすく説明してくれるなどの、対象者に肯定的な口コミも複数存在することが認められるのであり(乙36)、以上を総合して考慮すると、被控訴人の上記主張は採用できない。

(3)したがって、本件記事1の削除請求は、理由がある。
 

3 本件記事2について
(1)原判決「3 本件記事2について」の(1)は、6頁15行目の「(1)」を「(1)ア」に改め、同頁20行目末尾に改行の上、次のとおり加えるほかは、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。

「イ 被控訴人は、本件記事2には具体的事実は記載されていないから、一般の閲覧者が直ちにその内容を信用するとはいえないし、治療の経緯等によっては必ずしも不適切でなかった場合も想定され、社会的評価が低下するとはいえない旨主張する。

しかし、本件記事2が事実を摘示するものであることは、上記アに説示するとおりであって、具体的事実が記載されていないとはいえない。また、仮に治療の経緯等によっては虫歯を残したまま被せ物をする事態があるとしても、本件記事2の閲覧者はそのような読み方はせず、虫歯を残したまま被せ物をしてはいけない状況であるにもかかわらず、被せ物をしたものとして読むと考えられ、控訴人の社会的評価は低下すると認められるのであるから、被控訴人の上記主張は採用できない。」

(2)原判決「3 本件記事2について」の(2)及び(3)を、次のとおり改める。
「(2)違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないと認められるかについて、以下検討する。
ア 本件記事2の投稿は歯科医師による治療行為に関するものであるから、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
 真実性については、控訴人の陳述書(甲27)は、控訴人は、通常、施術後に虫歯の削り残しがないか入念にチェックしていること、治療後に本件歯科医院に対し、削り残しがあるのに被せ物をされたという趣旨のクレームが寄せられたことはないことがそれぞれ記載されており、これらの記載が虚偽のものであることをうかがわせる事情は認められないから、同陳述書により前記の各記載に係る事実が認められ、そうすると、本件記事2は事実に反している可能性が高く、本件記事2について、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はないと認められる。

 なお、真実性をうかがわせる事情がないと判断された場合であっても、サイト運営者においてはこの点についての反証が可能であり、実際にサイト運営者において投稿者に連絡をして反証を行うかどうかは、サイト運営者の判断に委ねられているというべきである。また、投稿者の本件歯科医院における治療時期や治療内容は明らかでなく、本件歯科医院における治療後に歯が痛み出して別の歯科医で治療を受けるまでの経緯等も明らかでないが、前記(1)ア説示のとおり、本件記事2は、本件歯科医院の歯科医師は、投稿者に虫歯が大きく残っている状態で、その歯に被せ物をしたという事実を摘示したものと認められるのであるから、前記の各事情が明らかでないことにより、真実性についての前記の判断が左右されるものではない。

イ 被控訴人は、本件記事2に記載された事実の反真実性を立証する客観的な証拠は何ら提出されていない、虫歯菌が残ったまま詰め物等をしてしまうことは多いとされており(乙32)、本件歯科医院においても虫歯が残ったまま被せ物をした可能性を否定できない、本件歯科医院に対する口コミには歯科医師等の技術が乏しい旨の口コミが複数あるから、本件記事2の記載は真実であることがうかがわれるなどと主張する。

しかし、本件記事2は、本件訴え提起(令和5年12月21日)の4年前に仮名で投稿されたものであり(甲3)、本件歯科医院における治療時期や治療内容が明らかでないから、被控訴人において投稿者に意見照会をするなどして、これらについての手がかりが得られない限り、控訴人において、本件記事2の投稿者に係る医療記録等の客観証拠を提出することはおよそ不可能であり、そのような状態で投稿者に客観的証拠の提出を求めることは相当ではない。

また、被控訴人が主張するように、虫歯菌が残ったまま詰め物等をしてしまうことが多いとしても、前記(1)ア説示のとおり、本件記事2は、本件歯科医院の歯科医師は、投稿者において虫歯菌ではなく虫歯が大きく残っている状態で、その歯に被せ物をしたという事実を摘示したものと認められるのであるから、被控訴人の主張はその前提を欠き失当である。さらに、本件歯科医院又は対象者について医療の技術がないという趣旨の口コミが複数投稿されていることが認められることについては(乙36)、口コミが摘示する事実の真実性を検討する場面において、他の口コミが有する証拠価値は低いというべきであるし、低い証拠価値を前提にしたとしても、本件においては、他方で、対象者による治療が的確で信頼できた、対象者にとても丁寧に処置してもらえたなどの対象者に肯定的な口コミも複数存在することが認められるのであり(乙36)、以上を総合して考慮すると、被控訴人の上記主張は採用できない。

(3)したがって、本件記事2の削除請求は、理由がある。

4 以上の認定、判断は、その余の被控訴人の主張によって左右されるものではない。

第4 結論
 以上のとおり、前記第3の判断と異なり、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は失当であって、控訴人の控訴は理由があるから、原判決を取消して控訴人の請求をいずれも認容することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官 古谷恭一郎 裁判官 間史恵 裁判官 島村典男

別紙 投稿記事目録(省略)
以上:5,671文字
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