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転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-医師側反論

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平成24年10月 4日(木):初稿
○「転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-因果関係等」を続けます。
今回は,医師側の反論です。




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【請求原因に対する認否及び反論】 
一 請求原因一の事実は認める。 
二 請求原因二(2)、(3)の事実は認める。 
同二(1)の事実は知らず、(4)の事実は否認する。
 

(1)原告らは、Bが心室細動を発症したと主張するが、そのように判断するに足りる臨床所見はなく、いかなる機序で死亡するに至ったのかは特定されていないのであって、心破裂、脳梗塞又は急性大動脈解離などの合併症が発症した可能性を否定することはできない。

(2)被告病院は、原告らに対し、Bの死因を究明するため解剖するよう求めたが、原告らは同意しなかったために死因究明が困難になったのであって、解剖しなかったことによる立証上の不利益は、原告らが負うべきである。解剖しなかったことによって明らかにできなかったことを、自己に有利に解釈して援用することは信義則上許されない。 

三 請求原因三の主張はいずれも争う。 
(1)原告らは、A医師が心電図検査の実施直後に転送義務を負っていたと主張する。 
 しかしながら、当日は日曜日であり、被告病院近隣の専門病院はいずれも休診日で、転送を受け入れるためには、休息中の多数のスタッフを緊急に呼び出さなければならない事情があったから、被告病院としては、それら病院に配慮し、自己の施設で可能な基本的な検査を実施すること、すなわち心電図検査及び血液検査の結果を添えた上で転送要請することが事実上求められていた。そして、同地域において病院間の協力態勢は確立されていなかった。 

 そこで、A医師は、血液検査の結果を得てからでないと転送要請することができなかったのであり、心電図検査実施直後に近隣の専門病院に転送要請することは困難であった。 

 また、臨床の現場では、急性心筋梗塞の疑いのある患者に対しては全例において所定の検査として血液検査を実施しているのであって、そのような実情のもとで、A医師が被告病院で実施可能な血液検査を実施し、その検査結果も添えて近隣の専門病院に転送要請しようとすることは自然であって、それを非難することはできないはずである。 

 本件においては、休診日で被告病院の検査態勢が縮小されていたなどの事情があって、血液検査の報告が遅れる結果になったために、転送要請をするまでに思いのほか時間がかかってしまったのである。 

 なお、A医師は、13時50分ころには高砂市民病院に転送要請しているのであって、平日であれば、Bは14時過ぎには高砂市民病院に到着し、14時30分前にCCUに入室することが可能であったはずである。本件において転送の実行が14時30分ころになり、その途中でBに異常が発生したのは、高砂市民病院における休診日の人的設備の限界によるものであって、これをA医師の責めに帰すことはできない。 

(2)原告らは、A医師がBにモニターを装着しなかったなどと責め、不整脈管理義務を怠っていたと主張する。 
 しかしながら、A医師は、Bを診断後速やかにモニターを装着して監視を続けていた。処置室にモニターが常備されているのに、心筋梗塞の疑いのある患者にモニターを装着しないことなどあり得ない。 
 Bの急変は、処置室内で救急隊のストレッチャーに移し替えようとしてモニターを外していたときに生じたのである。Bをストレッチャーに乗せて移動している間はモニターを取り外していたが、移動中にモニターを装着しても波形にノイズが伴うから無意味であるから、この間の取り外しをもって過失があったとはいえない。 

 このように、A医師はモニタリングをしていたのであって、不整脈管理義務の懈怠はない。 
 また、原告らは、心室細動を予防するためにリドカインを投与すべきであったと主張するが、14時30分ころにBの症状が急変するまでの間に不整脈などは発生していないし、リドカインの予防投与は急性心筋梗塞の治療として推奨できないとする研究成果もあり、一次性心室細動に対するリドカインの予防的投与は一般的に行われなくなっているから、リドカインの予防投与をしなかったことを過失ということはできない。 

四 請求原因四の主張はいずれも争う。 
(1)仮に、A医師が血液検査の結果を待たずに、12時45分ころ、専門病院に転送要請していたとしても、その後転送受入れの承諾を待ち、救急車を呼び搬送をし、医療スタッフを呼び出して治療に着手し、完了するまで相当の時間がかかるのであって、Bの容態が14時30分ころに急変したことからみて、Bを救命できた可能性はなかった。 

(2)原告らは、Bに心室細動が生じ、症状が急変したことを前提に主張するが、上記二(2)で述べたように、心室細動が生じたということはできないはずである。 

(3)心筋梗塞の発症と死亡との因果関係の実態はつかみにくいとされているから、本件事案における転送時間の差がどの程度死亡率に影響したかを統計的に数値で示すことは不可能である。 

 また、仮に実際よりも早い時期にBが専門病院に転送されていたとしても、専門病院において、いつの時点で専門医が到着し、治療に着手できたかも不明であって、転送時期の問題だけで救命の能否を論じることも相当でない。 
 さらに、専門病院に転送し、CCUで監視されていたとしても、そのことによって救命できたかは明らかでない。CCUで監視しても10パーセント近くは死亡するのであり、すべての患者が救命できるわけではないのである。 

(4)急性心筋梗塞の致死率は高く、専門施設に収容されたことによる死亡率の改善も僅かであるから、本件において、転送が実現し、専門病院における治療がされたとしても、Bが救命できたかは大いに疑問である。 

五 請求原因五の主張は争う


以上:2,431文字

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