平成13年 8月10日(金):初稿 |
■最初の接見時 最初の接見から、B,C,Dさんが一緒に付いてきてくれました。皆さん、Kさんを立ち直らせたいとの思いでいっぱいでした。 Kさんは、私を顔を合わせるなり、警察官の不満を言います。自分が書いた書面を弁護人に渡したいのに警察が許してくれないと言うのです。これを宅下げと言うのですが、そのためには一定の手続が必要です。担当警察官はその手続を取ろうとしているのに、Kさんは許してくれないと決めつけ警察官に文句を言っているのです。これは警察官とKさんのコミュニケーション不足が原因でした。 手話通訳のBさんからKさんに宅下げ手続を説明して貰い、ようやく警察官とKさんの誤解が解けました。Kさんは必要な書類を作って私宛に書面を渡すことが出来ましたが、コミュニケーションの難しさを最初の接見で痛感させられました。 ■会社の同僚に石をぶつけられた? Kさんは、盗みをしたのは仕事がなくなり、障害年金だけでは生活できないからだと盛んに訴えます。A社長の会社倒産後、別な建設会社に一時勤めましたが、3ヶ月くらいでやめてしまいます。やめた理由を聞くとKさんは、仕事中、他の社員が自分に石をぶつけていじめるからだと言います。 その会社でKさんは道路工事作業を担当しました。真面目で仕事熱心なKさんは、仕事を一生懸命やろうと、我先に道路の掘削作業を進め、他の社員よりずっと先に進んでいきます。その先には危険な場所が待っていました。しかしKさんは、気付かないまま作業を進めます。他の社員は、Kさんに、危ないから進むなと大声で叫びました。しかしKさんには全く聞こえません。 危険を知らせるために走り寄る時間もなくやむなく、他の社員は危険を知らせるため小さな石をぶつけたのです。それがKさんには自分をいじめるため大きな石をぶつけたと感じ、ずっとそう思いこんでいたのです。 この顛末は会社社員の供述記録を見て判りましたが、コミュニケーション障害の重大性を実感しました。 ■説明に対する反応 他の社員が石をぶつけた事情についてBさんの手話通訳で、一生懸命説明しました。しかしKさんは、なかなか理解してくれません。みんな自分をバカにして石をぶつけたんだとと言う確信を容易に変えてくれません。要するにコミュニケーション訓練の機会が少ないためいったん思いこんだことを変えることも困難になっているのです。悪く言うと柔軟性がない、頭が固いと言う表現になります。普通の人ならこのような評価になりますが、生来の聾唖と言う障害を抱えてKさんをこんな評価しても何の解決にもなりません。根気強く説明を続けるしかありません。 (以下次号に続く) 以上:1,096文字
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