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平成17年 8月 6日(土):初稿 |
第5章 新実用新案法の概要と同法に基づく権利侵害訴訟 第1節 改正前実用新案制度と改正の経緯 1 改正前実用新案制度・・・特許権と等質の内容 違いは,保護の対象範囲の広狭,権利存続期間,出願料等の価額 → 個人の場合は安価な実用新案登録のほうを利用する傾向が強かった。 → 実用新案制度修正論や廃止論が出ていた。 → 平成5年改正は,修正論の方向での改正。ただ,無審査主義 への転換を考えると,修正というより「新しい実用新案制度」というべきか。 2 平成5年改正の経緯 趣旨・・・出願後のきわめて短期間に実施が開始され,しかもライフサイクルが短い技術については,早期に権利保護をはかる必要がある。権利付与前審査主義を採用していては適切な保護をはかれない。 また,裏の趣旨として特許庁の審理負担の軽減のねらいもあったといわれている。 批判・・・実用新案権が容易に登録されすぎてその有効性についての争いが多発して裁判が長期化する。また,有効な武器とならず利用者激減が予想される(なお,改正前は年間15,000件台→平成14年度8,000件台の減少)。 制度移行上の注意点:新制度と改正前制度の2本建て状態 → 適用法条に注意を要する 第2節 新実用新案法の概要 ~ 平成16年に,平成5年大改正の見直改正がおこなわれた(平成17年4月1日施行)見直し改正の要点は,①実用新案登録に基づく特許出願制度の導入,②実用新案権の存続期間の延長,③訂正の許容範囲の拡大。なお,平成16年4月1日施行にて秘密保持命令の導入,権利無効の抗弁の新設 が特許法改正とあわせて行われた。 1 目的と保護対象 実用新案法第1条「この法律は,物品の形状,構造又は組み合わせに係る考案の保護及び利用を図ることにより,その考案を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とする」 ・「考案」=自然法則を利用した技術的思想の創作(2条1項) ・「考案」のうちでも技術的思想が物品の形態に具現化された「形状,構造又は組み合わせ」に係るものに限定。方法や物質自体をも保護対象とする特許より狭い。 ・「物品」=動産,流通に置かれ取引対象となる建物等の不動産(ex.組み立てハウス),半製品,物品の一部(ex.スプーンの柄) ・物品の「形状」=外部から観察できる物品の外観的形態 ・物品の「構造」=機能的構造。各部材や構成要素の有機的配置や結合。 ・物品の「組み合わせ」=単独の物品を組み合わせて使用価値を生ぜしめたもの(ex.ボルトとナット,トランプ) 2 無審査登録制 登録要件の実体審査を経ず,方式審査さえパスすれば登録される(注:著作権のように著作物の成立と同時に何らの方式を要せず権利が自動的に発生するというもの(無方式主義)ではない)。 *方式審査について 出願の明細書に権利範囲を明確に示す「実用新案登録請求の範囲」を記載し,当業者が技術内容を容易に理解できる程度の「詳細な説明」を記載した書面が必要(実5条) さらに,出願されても,以下の基礎的要件を満たさず公報掲載が不適当なものは外される(実6条の2)→ 補正命令 → 補正しなければ却下(実2条の3) ①物品の形状,構造,組み合わせに係るもの ②公序良俗又は公衆の衛生を害するものでないこと ③出願の願書の要式,請求項の記載要件を満たさぬもの ④明細書若しくは図面に必要な事項が記載されており記載が著しく不明確でないこと → 無審査登録制では,実体審査なくして独占権たる実用新案権が発生するので,第三者を混乱に陥れる可能性がある。 → そこで,権利行使にあたってはさまざまな制約を課している(第三者との利害調整)。 3 実用新案技術評価書について (1)趣旨 無審査主義により無用の争いが生じる危険を未然に防止するため,請求があれば審査官が作成するもの。特許庁のサービスとして客観的判断材料を提供。 (2)請求 だれでも何度でも,原則として実用新案権消滅後でも請求できる(実12条) いつでもできる(例外 ①無効審判により無効とされた後,②実用新案登録に基づく特許出願をした後)。取り下げ不可。 (3)評価項目は,公知,進歩性,先願性 (4)評価書作成期限は法定されていないが,有効な権利行使の条件たるものであるから問題。しかし,実務では迅速に作成されているよう。 (5)評価書の役割 (a)権利行使のための要件 技術評価書を提示して警告した後でないと差止請求や損害賠償請求をできない(実29の2)。 否定的評価を為されても権利行使は可能だが,平成16年新設の無効の抗弁(実)30→特許104の3)を出されると危険。 Q 「実用新案出願中」「実用新案登録」の表示(実51)と評価書提示義務 → 予告するのみで侵害警告とまではいえず評価書の提示義務なし (b)賠償責任の回避手段 評価書に基づいて警告や差止請求などの権利行使をしたならば,その後に登録が無効となったとしても,免責される(実29の3) (6)評価書の利用上の留意点 評価書作成に要する期間は数ヶ月なので,出願と同時に作成請求をすれば権利設定と同時くらいに権利行使も可能となると思われる。 他方,権利者が評価書請求をしてしまうと,実用新案登録に基づく特許出願ができなくなる(評価書を先行技術調査の代用手段として利用されることを回避する趣旨)(特許46の2第1項2号)ので注意。 以上:2,184文字
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