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平成17年 4月23日(土):初稿 |
第3 信頼回復措置請求 知的財産権の侵害により,その業務上の信用を害された被侵害者(知的財産権者のほか,専用実施権者も含む)は,侵害者に対して,損害の賠償にかえ,またその賠償とともにその信用を回復するのに必要な措置を請求することができる。その代表例は謝罪広告。 (ア)通説 侵害者の営業努力,特許侵害における侵害者固有の技術的要素,商標権侵害における侵害者固有のキャラクター等から,侵害者の販売数量の全てを権利者が上げることができなかった場合を指す。 (イ)有力説 通説が挙げる事情は,侵害品と権利者の商品が排他的関係(侵害品が販売された分,権利者が利益を逸失した)にあると擬制した法の趣旨に反するとし,「・・・権利者が販売することができない事情」とは,以下の場合を指すとする。 ① 侵害品がその性質上限定された期間内においてのみ需要され,その販売期間内に費消されるものである場合(生解食品,インフルエンザワクチン)。権利者が同じ商品を同時期に販売しようと準備していなかったのであれば,上記販売期間内に権利者が販売することは潜在的にもあり得ないから。 ② 侵害品の販売の際に特許権の存続期間が残り僅かになっていた場合 ③ 侵害品の販売後に法令等により特許発明の実施品の販売が規制された場合 ④ 新技術の開発により当該発明が陳腐化した場合 オ 1項の推定規定と他の推定規定との関係 (ア)1項の推定規定と2項の推定規定→選択的。 (イ)1項の推定規定と3項の推定規定 → 上記ウ,エにより権利者が販売による利益を逸失したとはいえないとしても,無許諾の実施に対し実施料を取り損ねているのは確かなので,3項の推定規定が及び得る。 (2)2項の推定規定 侵害者が侵害行為によって利益を得た場合には,その利益をもって被侵害者の利益と推定する。 ア 推定の及ぶ範囲 本推定規定は,損害が発生することを前提に損害額を推定するものだから,①侵害者の故意過失,②権利侵害,③損害の発生,④侵害と損害の因果関係(ただし,推定される損害との因果関係を除く)を立証しなければならない。 イ 侵害によって得た利益 侵害者の純利益とする説,粗利益とする説あり。これに対し,限界利益説を取る判例が多数存在する。 ウ 侵害者の寄与度による減額と推定覆滅の範囲 侵害者が侵害行為によって得た利益中に,侵害者の営業努力等の寄与度があれば,損害額は減額される。 寄与度の存在を侵害者が立証した場合に,本推定そのものが全て覆滅されるか争いがあり,全部覆滅されるとする判例もあるが,多数の 学説は,寄与度の存在を侵害者が立証すると,その限度で本推定が覆滅されるとする。 (3)3項の推定規定 被侵害者が,特許発明等を実施あるいは使用許諾する場合に受けるべき金銭(実施料・使用料)をもって,侵害行為による損害とする。 ア 本規定の趣旨 特許権・実用新案権は,それ自体財産的価値があるので,損害の発生と損害額を擬制するものとする説が有力。 ただし,商標権については,それ自体財産的価値はなく,当該登録商標に顧客誘因力がない場合には,本規定は及ばないとする判例がある。つまり,損害の発生については推定であり,損害額について擬制するという解釈。 イ 実施料相当額の算定 (ア)権利者が過去に許諾した際の額(率),一般適用率(世間相場)が基本(特許の場合,一般適用率を算定する方法としていわゆる利益三分法や国有特許に関する特許料率が参酌される場合がある。)。 (イ)特許権,実用新案権,意匠権等では,当該権利への売上成果への参与や利用率,権利の残存期間等の要素が勘案される。 (ウ)商標権侵害や不正競争行為による商品等表示の侵害事件では,当該商標・表示の著名性,顧客誘因力,使用の程度・方法等の要素を勘案して使用量率が決定される。 (エ)なお,実施あるいは使用許諾する場合に受けるべき金銭とは,世間で一般に通常受けられる金銭という意味ではなく,客観的に見て相当な実施料。一般適用率のみを基準にするわけではないことに注意。 ウ 本規定の効果 本規定が損害額を擬制するものだとしても,侵害特許等の利用率や侵害商標等の売上に対する寄与率について反論,反証が許される。 3 相当な損害の認定 (1)損害が生じたことが認められる場合において損害を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは,裁判所は口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる(特許法105条の3)。 (2)民事訴訟法248条の「損害の性質上,その額を立証することが極めて困難であるとき」に比べ,損害を立証するために必要な事実の立証が極めて困難であれば足りる。例えば,侵害商品の販売数量や販売価格,利益率が分かれば(推定規定を介して),損害額の立証ができるから,損害の性質上,その額の立証が極めて困難とはいえないとしても,上記侵害商品の販売数量や販売価格,利益率の立証が,「当該事実の性質上,極めて困難」であれば,本規定の適用がある。 (3)なお,原告側の損害の発生及び当該事案の性質上立証が極めて困難であることの立証責任は原告にある。 4 書類提出制度 民訴法220条の文書提出命令の範囲拡張により,独自の存在意義は少ない。 5 損害計算のための鑑定制度 6 損害賠償請求と比較した場合の不当利得返還請求権のメリット・デメリット ア メリット 消滅時効10年 イ デメリット 被告に利得が必要な点。侵害者が善意なら現存利益,悪意なら侵害当時に受けた利得しか返還請求できない。 以上:2,500文字
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