令和 6年 4月26日(金):初稿 |
○「テントが借地借家法上の建物に該当するとした地裁判決紹介」の続きで、借地借家法の「建物」認定に関する判例として、昭和61年1月30日東京地裁判決(判タ626号164頁、判時1222号83頁)関連部分を紹介します。 ○判決は、本件賃貸借の賃借物件の中心は、右機械を始めとする立体駐車場設備一式にり、本件建物部分は右設備の使用に必要な範囲内においてそれに附随して賃借物件とされたに過ぎず、通常の建物の賃貸借においては、契約当事者の合意、建物の構造等に照らし、建物自体の使用に主眼があるものであるところ、本件賃貸借においては、その賃借物件の用途を立体駐車場としての使用に限定している原告と被告との合意及び右物件の構成等に照らし、本件建物部分の使用そのものに独自の価値があるとはいえないとして、借家法の適用を否定しました。 ********************************************* 主 文 一 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物部分を明け渡せ。 二 原告の被告に対する昭和57年12月17日から昭和60年11月22日まで1か月340万円の割合による金員の支払を求める請求を棄却し、原告の被告に対する同月23日から右一の明渡済みまで1か月340万円の割合による金員の支払を求める訴えを却下する。 三 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告が1000万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 一 請求の趣旨 1 主文一同旨 2 被告は、原告に対し、昭和57年12月17日から右明渡済みまで一か月340万円の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 仮執行宣言 二 請求の趣旨に対する答弁 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 第二 当事者の主張 一 請求原因 (中略) 3 本件賃貸借は借家法にいう建物の賃貸借ではない。 (一)本件賃貸借は、本件建物部分内に組み込まれた立体駐車場設備一式の賃貸借であって、建物自体の賃貸借とは異なるものである。右設備の特殊性から本件建物部分を附随して利用することになるが故に、本件建物部分も、本件賃貸借の賃貸物件としたが(右1参照)そのことによって、本件賃貸借が建物賃貸借となるわけではない。 (二)したがって、本件賃貸借には借家法の適用はなく、右2の(三)の期間満了により終了した。 (中略) 二 請求原因に対する答弁 (中略) 2(一)同3は争う。 (二)本件賃貸借は借家法にいう建物の賃貸借である。 (1)本件賃貸借の賃借物件である本件建物部分は、1階から10階に及ぶ立体駐車場車庫の部分と1階の車路、管理室等の部分とから成っているが、いずれも本件ビルのそれ以外の部分と障壁・周壁等によって明確に区画され、独占的排他的支配が可能な構造規模を有する。 (2)本件賃貸借は、立体式屋内駐車場を経営するための営業用建物の賃貸借と解すべきものであり、駐車場設備一式(機械を中心とする。)の賃貸借はこれに附随するものというべきである。経済的にも、本件建物部分の空間の方が右設備一式よりもはるかにコストが高いのである。 (3)このことは、本件賃貸借において、駐車場設備たる機械の性能、品質の変更が、原告の承諾を得れば被告においてもすることができるとされていること及び右機械の滅失、毀損による機能停止が本件賃貸借の終了事由とされていないことや契約書上は原告の負担とされている電気、水道、ガス等の経費を被告が負担していることにも表われている。 (中略) 理 由 一 請求原因1(本件賃貸借の成立)及び2(その更新)の事実は当事者間に争いがない。 二 本件賃貸借が借家法にいう建物の賃貸借に当たるか、否かについて検討する。 1 本件建物部分がそこに存する立体駐車場設備一式と共に本件賃貸借の賃借物件とされていることは、右一のとおり当事者間に争いがなく、右の賃借物件が全体として駐車場を構成するもの(これを本件駐車場と称している。)であることは当事者間に争いがないものと認められる。 (中略) 2 〈証拠〉に弁論の全趣旨を合せ考えると、次の事実が認められる。 (一) 本件建物部分は、本件ビルの一部であり、その1階から10階までに相当する高さ約31メートル、床面積85・92平方メートルの立体駐車場車庫すなわちハイ・ガレージと称される部分とその1階の床面積236・53平方メートルの駐車場管理室及び駐車場用車路の部分から成つており、永続性のある材質により屋蓋、周壁を有すると共に、本件ビルのそれ以外の部分と区画され、独占的排他的支配が可能である。 (二) 右のハイ・ガレージの部分に垂直循環式立体駐車(場)設備機械2基(1基30台分計60台分)が設置され、1階のハイ・ガレージ入口部分にその運転盤、右入口の直前にターン・テーブル(方向転換装置)、その付近に消火設備等が備えられ、立体駐車場設備一式を成している。 (三) 右(二)の立体駐車場設備一式は右(一)の本件建物部分に組み込まれ、両者が一体となつて全体として本件駐車場を構成しているものということができるが、更に、詳細にこれを見ると、次のとおりである。 すなわち、本件建物部分のうち、ハイ・ガレージの部分は、自動車を保管する車庫部分であるが、自動車の保管のためには、もつぱらそこに設置された垂直循環式立体駐車(場)設備機械が用いられ、その建物部分は右機械を覆い、それを屋内に収容する点に効用を有するのみで、右設備機械を離れて独自の価値を有するものではないし、また、駐車場管理室及び駐車場用車路の部分も、ハイ・ガレージの部分の車庫としての使用に必要な管理担当者の事務室の部分及びハイ・ガレージの部分と外部とを結ぶ自動車の通路の部分であつて、ハイ・ガレージの部分を離れて独立の効用を有するものではない。そして、本件賃借物件の用途は、原告と被告との合意からも、右物件の構成等からも、立体駐車場として自動車を保管するということに限定されている。 3 右1、2の事実によると、本件賃貸借は、立体駐車場としての本件駐車場の賃貸借ということができるが、建物の賃貸借に当たるか否かの観点から見ると、立体駐車場設備一式の賃貸借というべきであり、借家法にいう建物の賃貸借に当たらないものと解するのが相当である。なぜなら、本件賃貸借を、立体駐車場としての賃貸借と見る限り、本件建物部分は、ハイ・ガレージの部分も、管理室、車路の部分も共に、垂直循環式立体駐車(場)設備機械の効用を発揮するためのものであつて、そのままでは、右機械を離れて独自の価値を有するものではなく、したがつて、本件賃貸借の賃借物件の中心は、右機械を始めとする立体駐車場設備一式にあるというべきであり、本件建物部分は右設備の使用に必要な範囲内においてそれに附随して賃借物件とされたに過ぎないものと考えられるからである。 右の判断に関し、若干ふえんする。 (一) 被告は、本件建物部分は建物の賃貸借の対象となり得る独立性を備えた建物の一部であり、本件賃貸借は駐車場の経営をするための営業用建物の賃貸借と解すべきである、と主張している(請求原因に対する答弁2の(二)の(1)、(2))。 なるほど、本件建物部分が建物の賃貸借の対象となり得ることは、右2の(一)の事実に照らし明らかなところであるが、通常の建物の賃貸借においては、契約当事者の合意、建物の構造等に照らし、建物自体の使用に主眼があるものであるところ、本件賃貸借においては、既に述べたとおり、その賃借物件の用途を立体駐車場としての使用に限定している原告と被告との合意及び右物件の構成等に照らし、本件建物部分の使用そのものに独自の価値があるとはいえないのであるから、被告の右主張は採り難い。なお、一般に、倉庫や車庫の賃貸借も、建物の賃貸借と解されているが、それは、倉庫や車庫となつている建物自体の使用に主眼が置かれるが故であり、本件の場合と異なることはいうまでもない。 (二) また、被告は、本件建物部分の空間の方が立体駐車場設備一式よりはるかにコストが高い、と主張し(請求原因に対する答弁2の(二)の(2))、それにより、本件賃貸借が本件建物部分の賃貸借であることを支えようとするが、本件建物部分の空間の価値そのものを確定するに足る証拠はなく(右空間を店舗ないし事務所として利用する場合の価値をいうとすれば、それは、右空間自体の価値とはいえない。)また、仮に、右空間の価値が高価なものであるとしても、それは、主として本件ビルの所在する場所すなわちその土地の価格を反映することによるものと推測され、そうであれば、そのような場所に所在する立体駐車場設備もその土地の価格を反映して右設備自体の価値より高価となるとも考えられるので、右空間の方が当然に右設備よりはるかに高価であるとは断定できず、右被告の主張は、そのままこれを採用するわけにはいかない。 (三) 被告は、本件駐車場の電気、水道、ガスの経費を被告が負担していることは、本件賃貸借が建物の賃貸借であることを示すものであると主張するが(請求原因に対する答弁2の(二)の(3))、被告において本件の立体駐車場設備一式を賃借して全面的に管理し、それに附随して本件建物部分を占有している以上、右の経費を被告が負担するのは当然のことであり(前掲乙第三号証の本件賃貸借の契約書第九条には、右の経費は原告の負担とする旨の規定があるが、被告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、締約当初から、原告が被告に対し、右の経費の支払を請求し、被告が原告に対し、何らの異議もなく当然のこととして、これを支払つていることが認められ、これによると、右規定が当事者の合意内容をそのまま表現しているかには疑問がある。)、また、前掲乙第三号証の本件賃貸借の契約書第10条の被告は書面により原告の承諾を得なければ、物件の原状を変更しないものとする旨の規定や、同第12条の賃貸借期間に生じる物件の滅失、毀損による機能の停止についての負担を、その原因により、原告又は被告に分担する旨の規定も、右各規定にいう物件が立体駐車場設備一式を成す機械等を指すとしても、本件賃貸借が右設備一式の賃貸借であるとする前記判断に牴触するものとは考え難い。 以上:4,300文字
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