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連帯保証人名下印影を本人の意思に基づかないと認定した高裁判決紹介

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令和 5年12月 9日(土):初稿
○「連帯保証人名下印影を本人の意思に基づくと認定した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和4年6月30日大阪高裁判決(判時2570号19頁)関連部分を紹介します。

○事案を再現すると以下の通りです。
・A社がD信金から借入をする際被控訴人信用保証協会に信用保証委託契約
・A社の被控訴人に対する求償債務等連帯保証契約書に原告実印押印
・C社がA社にプラスチック原料販売
・C社代表取締役Bは控訴人の父
・控訴人は実印・印鑑登録証明書を父Bに預けた
・BはA社経営者Fに控訴人の実印・印鑑登録証明書を預けた-理由はC社のA社に対する売掛金を控訴人に引き継ぐため
・A社事務員Eが求償債務連帯保証契約書に控訴人名義署名・実印押印し印鑑登録証明書交付
・被控訴人は原告の実印押印により連帯保証契約成立と主張
・控訴人は父経営C社のために父Bに実印を預けたものをA社が勝手に使用したと主張


○控訴審判決は、A社事務員Eが控訴人名を記載し押印したことについて、控訴人は、Aとの直接の接点は全くなかった者であり、自ら署名することを困難とする何らの事情もないのに、面識さえない同社の従業員に代筆を委ねるなどということは、通常では考えられない、不自然を通り越して異常な行動というべきであるとして、最終的に保証意思を否認しました。極めて妥当な判断です。

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主   文
1 原判決を取り消す。
2 控訴人と被控訴人との間において、平成16年12月28日付けの債権者を被控訴人、債務者を株式会社A、連帯保証人を控訴人とする信用保証委託契約上の控訴人の被控訴人に対する連帯保証債務が存在しないことを確認する。
3 訴訟費用は、第1審、第2審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 主文同旨

第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人から株式会社A(以下「A」という。)の求償金等債務に係る保証債務の残高通知を受けた控訴人が、被控訴人に対し、当該保証債務の不存在確認を求めた事案である。
 原審は、保証契約の成立を認めて控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が、これを不服として控訴した。

2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者等
 控訴人の父であるBは、プラスチックの成型、加工、販売等を目的とする株式会社C(以下「C」という。)の代表取締役であった。
 A(代表取締役H)は、プラスチック製の日用雑貨・容器・食卓用品の製造、販売等を目的とする株式会社で、Cの取引先であったが、令和2年12月16日会社法472条1項の規定により解散したものとみなされた。

(2)本件保証委託契約

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実、証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(争いのある事実関係について以下のとおり認定した理由は、下記2で補足して説明する。)。
(1)控訴人は、昭和47年×月×日生まれの女性であり、専門学校を卒業したが、平成16年当時、仕事には就いておらず、祖父から相続した不動産の賃料収入を得て生活していた。
 控訴人は、父・Bの経営するCの取締役等になったことはなく、その経営に関与したことはない。Cの債務の保証人になったこともなかった。
 控訴人は実印を持っていたが、必要な場合は父・Bに押印を代行してもらうのが通例で、Bの要請があれば一時的に保管を委ねていた。このようなことから、そもそも自身が実印を管理しているのか両親に管理してもらっているかの区別さえ明確に意識されていない状態であった。

(2)Cは、平成10年頃からAとの取引(Cがプラスチック材料をAに販売)を始め、その取引規模は、多い月で月商3000万円以上になることがあった。このためCはAに対し多額の売掛金(ほとんどは手形金)を有しており、Bは、Aの経営状態を監視する趣旨で、たびたびAの事務所を訪れており、その実質的な経営者であるFや従業員等と話をすることもあった。そうした機会に、BはFに対し、娘(控訴人)がいて不動産を所有しているなどの話をしたこともあった。しかし、控訴人自身は、Aとは何の関係もなく、Aの経営者・従業員とは面識がなかった。
 Bは、Aの債務の保証人になったことはなかった。

(3)Bは、平成16年11月頃、Fから、「Bに万一のことがあった場合、Aに対する売掛金債権をBの娘である控訴人に引き継げるように手続をしてあげる」という話を持ち掛けられた。当時、健康に不安を感じていたBは、これを了承し、Fから必要書類として求められた同年11月18日付けの控訴人の印鑑登録証明書、同月12日付けの控訴人の市民税・府民税(所得・課税)証明書及び同日付けの控訴人の市民税・府民税納税証明書(以下「控訴人関係公的書類」という。)の発行を受けた上、控訴人から一時的に預かった控訴人の実印とともに、これをFに交付した。Bは、Fから持ち掛けられた上記手続の内容について控訴人に特に説明せず、また、控訴人から実印及び印鑑登録カードを預かった際も、会社(C)のために必要という程度の説明しかせず、控訴人も具体的な目的等を尋ねなかった。

(4)Aは、平成16年12月28日付けで被控訴人に保証委託の上、同月30日、D信金から1000万円の貸付を受けた。
 本件契約書の連帯保証人欄の本件署名及び本件印影は、次のようにして作出された。すなわち、Aの事務員として主に事務所で発注の事務を担当していたEは、上司からの指示に基づき、本件契約書の連帯保証人欄に、住所「堺市《番地等略》」、氏名「X」と記載した(本件署名)。Eは、BがAの事務所に訪れた際、Bに娘がおりその名前が「X」であることは聞いて知っていたが、控訴人には会ったことがなく面識はなかった。本件印影は、Aの何者かがBから交付された実印を使用して押捺した。
 Aは、被控訴人との間で本件保証委託契約を締結するに当たり、被控訴人に対し、Bから受け取っていた控訴人関係公的書類とともに、上記のようにして作成した本件契約書を提出した。

(5)Aは、平成18年に不渡事故を起こしたが、その時点で、AのCに対する手形金等債務は1億3100万円に上っていた。このため、BとAは、同年12月26日、AがBに同額の債務を負っていることを承認し、平成19年1月から毎月100万円以上を支払うことを約する内容の債務承認契約書を交わした。この契約書に、控訴人の保証債務やそれを前提とするAに対する事前求償権についての記載は一切ない。

(6)平成20年7月18日、被控訴人は、D信金を吸収合併したG信用金庫に対し、本件借入金債務の残元金323万4532円を代位弁済した。

(7)被控訴人から保証債務の回収業務の委託を受けたL株式会社の担当者は、平成28年11月7日、控訴人肩書地《略》所在の同人宅を訪れたが面会することはできなかったため、電話をかけ、電話口に出た人物が控訴人本人であることを確認した上で、Yのサービサーであり渡したい書類がある旨を告げてその受取を求めたが、控訴人は集合ポストに投函しておくよう求めたためそのとおりにした。同書面には、返済について相談がしたいので同月14日までに担当者を訪れるよう依頼する旨が記載されていた。

 しかし、控訴人としては、全く思い当たることのない書面であり、関係があるとすればBであろうと考え、特に気に留めることもなくBにこれを交付し、控訴人自身が被控訴人又はサービサーに連絡することはなかった。

 なお、被控訴人は、これ以前にも、控訴人宛てに保証債務残高を通知して支払を督促する書面を複数回送付していたが、控訴人は、上記と同様、Bにこれを交付するだけで、特段の対応をしてこなかった。また、Bから被控訴人に対し、保証を否認する趣旨の連絡がされたこともなかった。

2 争点(本件保証契約の成否)について
(1)私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によって顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、その印影は名義人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定されるところ、本件契約書の控訴人名下の印影は控訴人の実印が押捺されて作出されたものであるから、反証のない限り、控訴人本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定され、その結果、民訴法228条4項により、本件契約書は真正に成立したものと推定され、控訴人が本件保証契約を締結したものと認められることになる。しかしながら、以下のとおり、本件においては、控訴人の意思に基づいて当該印影が顕出されたとの事実上の推定を妨げる特段の事情があるというべきである。

(2)本件署名をした者について
ア 前記1(4)で認定したとおり、本件署名は、Aの従業員であったEが上司の指示に基づいて記載したものであり、このことは、Eの証言その他の関係証拠《略》から優に認められる。
 この点、被控訴人は、控訴人が原審で提出した委任状の署名との筆跡の対照により、本件署名は控訴人の手によるものであると主張するが、両者を比較しても特徴的な共通点は見いだせず、上記筆跡の対照から本件署名が控訴人の自署によるものであると認めることはできない。《証拠略》にある署名の筆跡についても同様である。

イ 以上の事実を踏まえて検討するに、そもそも保証契約は保証人が一方的に債務のみを負担する片務契約であって、保証契約の締結に当たって保証人の保証意思の確認が重要となることはいうまでもないところ、保証意思の最も確実かつ直截的な確認方法は本人に自署を求めることである。

逆に、本人の自署でないことが客観的に明らかになっているのに、それが本人の意思に基づくものであると認められるためには、相応に説得力のある事情(例えば、信頼できる親族等に代筆を委ねることが不思議でない状況があったとか、本人に署名を求めることが物理的に困難であったなど)があって然るべきであるが、本件において、そのような事情は一切認められない。

取り分け、控訴人に保証意思があるのに、本人に署名を求めることができなかった(又はあえてそうしなかった)理由は、全く見いだせない。むしろ、控訴人は、Aとの直接の接点は全くなかった者であり、自ら署名することを困難とする何らの事情もないのに、面識さえない同社の従業員に代筆を委ねるなどということは、通常では考えられない、不自然を通り越して異常な行動というべきである。

 適当な保証人を立てることができないために融資を受けられない主債務者が、保証人の署名を偽造するということは、保証を巡るトラブルの典型例であるが、本件において、主債務者のAはわざわざ女性従業員に控訴人名義の署名をさせており、殊更に女性の筆跡を偽装しようとする意図を強く疑わざるを得ない。

(3)控訴人がAのために保証を引き受ける理由、動機について
 Aは、Bが経営していたCの大口の取引先であるが、控訴人自身はCの経営には関与しておらず、Aとは何の関わりもなく、その従業員と面識はなかった。そのような立場の控訴人において、Aのために本件保証契約を締結すべき理由、動機があったとは、到底考えられない。

 この点、被控訴人は、Bを経由して依頼された控訴人がこれを承諾した可能性について主張するが、Bにおいても、そのような依頼をする理由、合理性は認められないというべきである。すなわち、控訴人が保証人になるということは、その所有する不動産を引き当て財産として提供するに等しいところ、控訴人は定職についておらず、不動産収入が頼りの立場であり、このことは当然Bも知っていた。このような事情の下、Bにおいて、自身が経営するCの保証人にもなったことがない実の娘である控訴人に対し、Bすら保証人となっていないAの債務の保証人になるよう依頼したとはおよそ考え難い。Bとして、Aの資金繰りを支援したいという程度の動機はあり得たとしても、娘を重大なリスクにさらすことになる保証人の調整・説得を主導する理由としては、およそ見合わないものと考えざるを得ない。

(4)控訴人の実印が使用されている点について
 本件印影は、控訴人の実印によるものであるが、その保管状況は上記1(1)で認定したようなものであり、「注意深く管理されているはずの実印が使用されている以上、本人の意思に基づくものであることが強く推認される」という前述の真正な成立の事実上の推定が働く根拠が、本件ではそもそも妥当しないというべきである。

(5)控訴人関係公的書類の提出について
 本件契約書が作成された時期に控訴人関係公的書類が被控訴人に提出されるに至った経緯は、上記1(3)、(4)で認定したとおりであり、これが控訴人の保証意思を根拠づけるものでないことは明らかである。

 なお、BがAのFから受けたという説明(Bに万一のことがあった場合にAに対する売掛金債権を控訴人に引き継げるようにする手続を行うこと、控訴人関係公的書類はそのために必要であること)には、会社と個人の債権の混同が疑われるなど、合理性の疑わしい内容も含まれているが、法律知識の乏しいBが上記説明を信じたとしても不思議ではなく(実際、BとAは、前記1(5)のとおり、会社と個人の債権を混同したような債務承認契約書を交わしている。)、上記の趣旨を述べる証人Bの証言の信用性を否定する根拠となるものではない。

(6)被控訴人からの督促書面に対する控訴人の対応について
ア 上記1(7)のとおり、控訴人は被控訴人からの督促書面を複数回受け取りながら、Bにこれを交付するだけで特段の対応をしなかったことが認められる。被控訴人は、これを控訴人の保証意思を基礎づける事情として主張するので、以下判断する。

イ 一般に、全く身に覚えのない保証債務の督促書面が送付されてきた場合、不審に思い、書面の送付元に事実確認を求めたり異議を述べるなどの行動に移すのが、多くの場合に想定される対応であることは確かである。

しかし、多数派とはいえないにしても、何らかの理由によりこれを放置してしまう者も、現実には一定数いるであろうことも否定できないと解される。その理由としては多様なものが考えられるが、例えば、〔1〕単なる怠惰、〔2〕忙しくてそれどころではない、〔3〕誰にどのように言えばいいのかよく分からない、〔4〕自分に関係があるものと思わず、まともに読みもせずにごみ箱行き、〔5〕対応を先延ばしにしているうちに失念してしまった、〔6〕無礼な内容であるからあえて対応しない、〔7〕自分よりも分かっているはずと思われる者に託してしまうなどのケースが考えられる(ほかにも多様なケースがあるであろう。)。

 被控訴人は、その意思に基づかずに保証人とされていることを認識した者は、保証人でない旨を伝えるのが自然かつ合理的であると主張する。

しかし、先に例示したほとんどのケースで、「保証の判を押したわけでもない自分が、この書面を無視したからといって保証責任を負わされることになるはずがない」という意識が、自覚的か無自覚的かはともかく、その背景に存在するものと推察されるところ、その認識自体は客観的に何ら誤りではない。すなわち、保証人になっていない者が督促書面を放置してしまう行動をもって、一概に不自然・不合理などと決めつけることはできないというべきである。

 市井の人々の現実の行動様式として考えた場合、予防法学的に推奨される行動とはいえなくても、上記のような事情により、真実は保証をしていない者に送付された督促書面が黙殺されてしまう事例は、決して少なくないと解される。換言すれば、督促書面に対して特段の対応がなかったとの一事をもって、保証意思があったと推認する推認力は、限定的なものにすぎないというべきである。

ウ 本件において、上記1(7)で認定した控訴人の判断と行動が特に不自然・不合理ということはできず、その趣旨を述べる控訴人本人の供述の信用性を疑うべき事情は見当たらない。すなわち、本件の控訴人は、上記イ〔7〕のケースに当たり、督促書面に対して特段の対応をしなかったことをもって保証意思を推認することはできない。なお、控訴人から督促書面を渡されたBが被控訴人に対し何らの対応もしなかった理由は判然としないが、それがいかなる理由であれ、控訴人の保証意思に関する上記判断に消長を来すものではない。

(7)以上に述べたところを総合すれば、本件保証契約については、控訴人の意思に基づいて締結されたものとはいえないと認めるに足りる特段の事情があるということができる。本件契約書の連帯保証人欄の控訴人作成部分は、真正な成立が認められず、以上の証拠関係の下で、本件保証契約の成立は認めることができない。

3 以上のとおり、控訴人の請求は理由があるから認容すべきところ、これと異なり控訴人の請求を棄却した原判決は失当である。よって、本件控訴は理由があるから、原判決を取消した上、控訴人の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮坂昌利 裁判官 鈴木陽一郎 馬場俊宏)
以上:7,021文字

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