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連帯保証人名下印影を本人の意思に基づくと認定した地裁判決紹介

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令和 5年12月 8日(金):初稿
○信用保証協会に対する保証委託契約上の求償金等債務を連帯保証する旨の保証契約につき、連帯保証人名下の名義人の実印による印影は、本人の意思に基づいて顕出されたと推定を妨げる事情がないとして保証意思を認めた令和3年12月14日大阪地裁判決(判時2570号24頁参考収録)関連部分を紹介します。

○事案は以下の通りです。
・A社がD信金から借入をする際被告信用保証協会に信用保証委託契約
・A社の被告に対する求償債務等連帯保証契約書に原告実印押印
・C社がA社にプラスチック原料販売
・C社代表取締役Bは原告の父
・原告は実印・印鑑登録証明書を父Bに預けた
・BはA社に原告の実印・印鑑登録証明書を預けた
・A社事務員Eが求償債務連帯保証契約書に原告名義署名・実印押印し印鑑登録証明書交付
・被告は原告の実印押印により連帯保証契約成立と主張
・原告は父経営C社のために父Bに実印を預けたものをA社が勝手に使用したと主張


○民訴法の以下の条文により、私文書は本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定されます。そこで、被告は原告の実印押印があり、連帯保証契約は真正に成立したと主張し、大阪地裁判決は、原告の当時の資力や収入からすると、原告が本件保証契約を締結することがおよそ考えられないようなものではなく、その後の原告やBの態度等とも特に矛盾するものではないことも考慮すると、Bが、原告実印を用いてAのために原告を保証人とする本件保証契約を締結することが、原告の意思に反するものであったいうことはできないとして保証意思を認定しました。

○署名は、原告自身では無く、A社事務員が行い、署名に際し、被告信保が原告意思を確認することも無かったと思われますが、それでも色々被告有利な理屈をこねて原告の保証意思を認定する姿勢は、正に被告信保に忖度しているとしか思えない判決ですが、この判決は大阪高裁で覆されており、別コンテンツで紹介します。

民訴法第228条(文書の成立)
 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
  (中略)
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。


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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 原告と被告との間において、原告から被告に対する平成16年12月28日付けの債権者を被告、債務者を株式会社A、連帯保証人を原告とする信用保証委託契約上の連帯保証債務が存在しないことを確認する。

第2 事案の概要
 本件は、株式会社A(以下「A」という。)のD信用金庫(以下「D信金」という。)に対する借入金債務について、被告がD信金との間で信用保証契約を締結して信用保証を行い、原告との間で上記信用保証契約に基づいて生じるAの求償金債務等を連帯して保証する旨の連帯保証契約を締結したとして、訴外において被告が原告に対して上記連帯保証契約に基づく保証債務(主たる債務はAに対する求償金債務等)の内容を通知したことを受けて、原告が被告に対し、上記連帯保証契約の不成立を主張して、上記連帯保証債務が存在しないことの確認を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者等
 被告は、大阪府内の中小企業等への信用保証を業とする特殊法人である。被告は、平成26年5月19日に「Y’」を現在の名称に変更した上で、同日付けで「I」を吸収合併した。
 原告は、昭和47年×月×日生まれの女性である。原告の父は、株式会社C(以下「C」という。)の代表取締役を務めていたBである。

(2)被告とAとの間の保証委託契約等
ア Aは、平成16年12月30日、D信金から1000万円を借り入れた。
 Aは、上記借入に先立つ同月28日、被告との間で、信用保証委託契約(以下「本件保証委託契約」という。)を締結し、被告は、同日、本件保証委託契約に基づいて、D信金との間で、被告が上記1000万円の借入金債務(以下「本件借入金債務」という。)を保証する旨の信用保証契約を締結した。

 なお、本件保証委託契約では、被告がD信金に弁済したときは、Aは、被告に対し、その弁済額及びこれに対する弁済日の翌日以降の年14・6%の割合(年365日の日割計算)による損害金並びに避けることのできなかった費用その他の損害(以下「求償金等債務」という。)を償還する旨が定められていた。

イ 被告とAとの間で作成された本件保証委託契約について作成された信用保証委託契約書(以下「本件契約書」という。)には、本件保証委託契約に基づく弁済により生じたAの被告に対する求償金等債務を保証人が連帯保証する旨が定められていた(第11条)。
 本件契約書の連帯保証人欄には、原告の氏名が署名されていたほか、原告の実印(以下「原告実印」という。)による押印がなされていた。

     (中略)

2 争点
 被告と原告との間の保証契約の有無

3 争点に対する当事者の主張

【被告の主張】
(1)原告は、平成16年12月28日、被告との間で、Aが本件保証委託契約に基づいて被告に対して負担する求償金等債務を連帯保証する旨を契約した(以下、被告が、原告との間で締結したと主張する上記保証契約を「本件保証契約」という。)
(2)本件契約書の連帯保証人欄における原告名下の押印は、原告実印によるものであるから、原告の意思に基づいて押印されたものであると推認され、本件契約書が真正に成立したことが推認される(民訴法228条4項)。そして、特段の事情のない限り、原告は本件契約書どおりに本件保証契約を締結したことが認められることになる。

     (中略)

【原告の主張】
(1)原告が、被告との間で、本件保証契約を締結した事実は否認する。
(2)CではAに対してプラスチックの原料を販売していたところ、Bは、Cから、Bに万一があった場合には、原告にCの事業を承継できるようにしておきたいので、原告実印とその印鑑証明書をAに持参するように申し向けられた。Bは、原告に対し、Aからの上記説明は伝えずに、Cのために必要があるので原告実印及び印鑑登録カードを借りたい旨を申し向けて、原告から原告実印及び印鑑登録カードを受け取った。そして、Bは、Aの上記説明を信用して、原告実印とBが取得した印鑑登録証明書を預けた。Aは、それを利用して本件契約書に原告名義の署名押印を偽造した。なお、本件契約書の原告名義の署名は、平成16年当時、Aの事務員であったEが行ったものである。
 以上のとおり、本件契約書の原告名義の署名及び原告名義の押印は、原告の意思によりされたものではないから、二段の推定は働かず、本件保証契約の成立は認められない。

第3 争点に対する判断
1 認定事実

 掲記の証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)原告の就労状況、資産状況等


     (中略)

2 争点についての判断
(1)前提事実(2)のとおり、本件契約書には、連帯保証人がAの被告に対する求償金等債務を連帯保証する旨が定められていることに加えて、本件契約書の連帯保証人欄には原告実印による印影が存在する。このような場合、反証のない限り、同印影は原告本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定されることになる結果、本件契約書は、民訴法228条4項の「本人又はその代理人の署名又は押印があるとき」との要件を満たし、本件契約書が真正に成立したものと推定されることになる。そして、この場合には、特段の事情のない限り、原告が本件保証契約を締結したものと認められることになる。

 原告は、上記事実上の推定に対して、本件契約書に原告実印により顕出された印影は、原告の意思に基づくものではないと主張している。そのため、本件において、本件保証契約の成否を検討するに当たり、本件契約書に原告実印により顕出された印影が存在することによる上記事実上の推定を破るような事情の有無を判断することになる。

(2)
ア 認定事実(2)ア、イのとおり、Aは、Cの主要な取引先であり、Aが経営難となり、売掛金が回収できないとなると、Cの経営自体に重大な影響が生じ得る関係であった。こうした事情に照らすと、Cの経営者であるBにおいて、Aの資金繰りを助けるためにAに協力する動機や必要性があったものと考えられる。

 これに加えて、認定事実(3)イのとおり、Bが、原告の市民税・府民税(所得・課税)証明書等といった原告の資力を証明する書面をAに渡したこと及びBが原告実印をAに渡したことの事実を併せて考えると、Bは、Aに原告実印を渡す際には、原告実印が原告を保証人とする本件契約書の作成に用いられることを認識していたものと推認される。

イ これに対し、原告は、Aから本件保証契約のことは何も聞かされていないと主張し、Bの陳述書では、Bに万一があれば、Cの事業をスムーズに承継してもらうために予め手続をしておきたいので、原告実印等を持参するように言われたなどと述べられている。なお、Bの尋問では、B及びCが、A又はその代表者に対して有する債権を原告に承継させる手続に必要であったなどと証言されている。

 前提事実(1)、認定事実(2)アのとおり、Bは、平成16年当時、代表取締役としてCの経営を行っており、少なくとも経営に必要な判断ができる程度の能力を有していたものと認められる。Bの述べるところによれば、そうした能力を有するBが、容易には理解し難いような原告実印等が必要とされる理由に基づいて、原告実印等をAに渡し、さらに、原告実印の返却を受ける際には、原告実印を用いて作成された書面の内容すら確認しなかったというのであり、Bの上記証言は、およそ不自然、不合理なものというほかなく、Bの上記証言を信用することはできない。

(3)
ア 次に、原告実印の管理状況等について検討すると、原告は、自ら原告実印を管理していることを前提として、BからCのために必要である旨の説明を受けて原告実印を交付した旨を主張しており、原告やBの陳述書でもそのように述べられている。
 これに対し、尋問では、Bは、上記陳述書の内容を否定して、Bが原告の実印等を管理していた、原告の実印を使用することについて原告の同意は得ていなかったなど証言し、原告も、平成16年当時、Bに実印等を預けていた、あるいは母のJに預けていたなど供述して、原告が原告実印の管理を行っていなかったなどを述べる。

 原告がBに原告実印を渡したという経緯は、上記のとおり二段の推定の事実上の推定に対する反証にとって重要な事情であるから、原告代理人弁護士においても十分に確認がされているものと考えられる。そうであるにもかかわらず、尋問において、従前の主張や尋問を前提として作成された陳述書とは全く異なる管理状況について述べられていること自体が、尋問における原告やBの上記供述等の信用性を大幅に減殺するものといわざるを得ない。

 また、原告は、原告実印が重要なものであること自体を認識していたというのであり、そのような認識を有していながら、原告実印等をB等に預けたままにしていたとする原告やBの供述等は容易には信用し難い。
 したがって、原告実印の管理状況が、尋問において原告やBが供述するような管理状況であったと認めることはできない。原告が原告実印を管理していたものというべきである。

イ 上記アのとおり、原告が原告実印を重要なものとして自ら管理していたことを前提とすれば、原告は、Bから原告実印を貸すよう求められれば、当然、Bに対し、その使途を確認するものと考えられる。そして、上記(2)アで述べたとおり、Bが、原告実印が原告を保証人とする保証契約の締結に用いられることを認識していたものと認められるから、原告に対してもそうした趣旨を説明しており、原告も、その説明を聞いた上で、Bに原告実印を交付したものと考えられる。

そして、前提事実(2)、認定事実(1)イのとおり、Aの借入金は1000万円であること、他方、平成15年当時、原告が所有する不動産により850万円以上もの不動産所得を得ていたことを指摘できるところ、原告が負担する可能性のある保証債務の額と原告の資力、収入とが著しく均衡を失するものではないことからすると、その保証契約の内容からして、本件保証契約を締結することが明らかに原告の意思に反していたということもできない。

 加えて、認定事実(4)のとおり、原告は、サービサーの職員からYのサービサーであることを告げられて、かつ、原告からの指示に基づいて上記職員が集合ポストの中に書面まで交付したのに、その後、原告は、サービサーや被告に対して何らの確認もしなかったというのである。こうした原告の対応、態度は、原告が、その意思に基づいて保証人となっていることをうかがわせるものであるといえる。

ウ これに対し、原告は、BからAのために原告を保証人とする本件保証契約を締結するなどの説明を受けたことはなかったなど事実上の推定を破る事情を主張する。
 しかし、上記(2)イで述べたとおり、そもそもBの証言は信用できない。また、原告がBから何らの説明も受けることなく、重要なものと理解している原告実印をBに預けるということも容易に考え難い。そうすると、上記イのとおり、Bは原告に対し、Aのために保証契約を締結するという使用目的を説明したことは十分に考えられるところである。したがって、原告の主張は採用できない。

エ 上記ウのとおり,被告が主張する事実上の推定を破る事情は認められず、上記イの事情も存在することをも踏まえると、本件契約書に顕出された原告実印の印影が、原告の意思に基づいて押印されたものということができる。 

オ なお、仮に、原告やBが述べるとおり、原告が原告実印の管理を全面的にBやJに委ねていたとしても、原告が許可なく実印の使用を禁じた、あるいは実印の使用を特定の目的に限定していたといった事情は認められないから、原告が必要な範囲でBによる使用権限を付与していたと考えることができる(現に、原告が、Bが原告の実印を使用する際、Bからその使用理由について説明されたことはなかったと供述している。また、原告がBに説明を求めたといったことについて何ら言及がない。)。

 そして、上記(2)ア、イのとおり、Bと原告が親子であること、Bが営むCとAとの経済的な結びつきがあったこと、原告の当時の資力や収入からすると、原告が本件保証契約を締結することがおよそ考えられないようなものではなかったこと、その後の原告やBの態度等とも特に矛盾するものではないことも考慮すると、Bが、原告実印を用いてAのために原告を保証人とする本件保証契約を締結することが、原告の意思に反するものであったいうことはできない。
 したがって、仮に、原告やBが尋問で述べたような管理状況であったとしても、本件契約書に顕出された印影は、原告の意思に基づくものであったということができる。


(4)以上のとおり、本件契約書の連帯保証人欄に原告実印による印影が原告本人の意思に基づいて顕出されたものと認められ、本件契約書中の連帯保証人部分について、原告の意思に基づいて真正に成立したものと認められるから、本件契約書に基づいて、原告と被告との間で本件保証契約が締結されたというべきである。

3 小括
 前提事実(4)のとおり、Aは被告に対し、〔1〕残元金321万1832円、〔2〕確定遅延損害金395万7537円(詳細は別紙計算書《略》のとおり)、〔3〕上記〔1〕に対する平成29年4月29日から支払済みまで約定利率の範囲内である年14%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金等の求償金等債務を負担しているところ、原告は被告に対し、本件保証契約に基づいて上記〔1〕~〔3〕を内容とする保証債務を負っていることになる。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 織川逸平)

別紙 計算書《略》
以上:6,657文字

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