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建物所有目的土地使用貸借期間50年を認めた地裁判決紹介

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令和 5年 3月 7日(火):初稿
○土地について建物所有を目的とした使用貸借権の確認訴訟についての相談を受け、関連裁判例を探していたところ、建物所有目的期間50年の使用貸借を認めた平成23年3月31日東京地裁判決(ウエストロージャパン)が見つかりました。その関連部分を紹介します。

○原告は,母Bの希望で、平成6年ころから,本件土地1,2及び原告土地上に存在した旧建物を取り壊して,新たに原告家族及びBが居住するための二世帯住宅を建築することを計画し,被告らも本件建物の大体の建築位置及び設計プランを示して,その承諾を受けた上で、建物を建築していました。

○原告は、3500万円もの建築資金を要する建物の敷地として土地を提供したものは,社会経済的利益の保護の観点及び提供者の一般的意思解釈により,新築した建物が朽廃するまでか,災害で滅失する期間の使用貸借契約を締結したと主張し、判決は、被告は,原告が本件建物の所有者となることを十分認識しつつ,その敷地として本件土地1を無償で使用することを承諾したものと認められ,本件建物所有を目的として,平成7年9月30日から50年間の使用貸借権を有することの確認を求める限度で理由があるとしました。

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主   文
1 原告が,別紙物件目録2記載の土地のうち別紙図面2の点イ,ロ,ハ,ニ,ホ,ヘ,イを順に直線で結んだ範囲内の土地について,貸借期間を平成7年9月30日から50年間,別紙物件目録5記載の建物の所有を目的とする使用貸借権を有することを確認する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求

(1) 別紙物件目録2記載の土地が原告の単独所有であることを確認する。
(2) 原告が別紙物件目録1記載の土地について,平成7年3月25日締結,貸借期間を平成7年9月30日から50年間,普通建物所有を目的とする使用貸借権を有することを確認する。

2 予備的請求
 原告が,別紙物件目録1,2記載の土地について,平成7年3月25日締結,貸借期間を平成7年9月30日から50年間,普通建物所有を目的とする使用貸借権を有することを確認する。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地1」という。)について,使用貸借権の確認を求めるとともに,別紙物件目録2記載の土地(以下「本件土地2」という。)について,主位的に原告の単独所有であることの確認を求め,予備的に使用貸借権の確認を求めた事案である。
1 争いのない事実等(当事者に争いがないか,後括証拠又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実)
(1) 原告(昭和20年○月○日生),A(昭和22年○月○日生,以下「A」という。)及び被告(昭和24年○月○日生)は兄妹である。
 原告らの実母であるB(大正11年○月○日生,以下「B」という。)は,平成18年10月1日死亡し,原告,A及び被告の3名が相続した。

(2) 本件土地1は現在まで被告が所有しており,本件土地2はB死亡時において,同人の所有であった。
 本件土地1,2に隣接して,原告の所有する別紙物件目録3,4記載の各土地(以下「原告土地」という。)が存在し,各土地の位置関係は別紙図面1のとおりである。(甲2,3)
 なお,原告土地及び本件土地2の一部を敷地として,別紙図面2のとおり,原告所有の共同住宅(以下「原告アパート」という。)が存在している。

(3) 原告は,Bが,庭が広く日当たりの良いきれいな家に住みたいと希望したことから,平成6年ころから,本件土地1,2及び原告土地上に存在した建物(以下「旧建物」という。)を取り壊して,新たに原告家族及びBが居住するための二世帯住宅(別紙物件目録5記載の建物,以下「本件建物」という。)を建築することを計画し,被告及びAにも本件建物の大体の建築位置及び設計プランを示して,その承諾を受けた。

(4) Bは,遅くとも平成7年3月25日までには,原告に対し,本件土地2を,本件建物の敷地として無償で使用することを承諾した。

(5) 原告は,平成7年3月25日,本件建物の建築請負契約を締結し,本件建物は,同年9月30日,完成した。(甲6)

(6) Bは,平成12年ころ,原告及び被告の了解を得て,自己の小遣いを得る目的で,本件土地1,2の南側部分に駐車場(以下「本件駐車場」という。)を設置し,第三者に賃貸した。
 本件各土地並びに本件建物及び本件駐車場の位置関係は,別紙図面2のとおりである。

(7) 本件建物は,その1階部分をBが,その2階部分を原告家族が,それぞれ住居として使用していたが,原告は,B死亡後,本件建物の1,2階部分を分離して,1階部分を住居として使用し,2階部分を第三者に賃貸しているほか,Bに替わって本件駐車場を賃貸し,賃料を受領している。

(8) 被告は,平成19年,東京家庭裁判所に対し,原告及びAを相手方として,Bの遺産分割調停(同庁平成19年(家イ)第2951号)を申し立てたが,原告が本件土地1,2の使用貸借権を主張して本訴を提起したため,平成20年11月25日,取り下げた。
 なお,上記調停の第7回期日(平成20年3月5日)において,相続人全員の間で,本件土地2がBの遺産に含まれること,Aには特別受益があり,同人にはBの遺産分割の対象となる遺産について具体的相続分がないことが確認された。(甲8)

         (中略)

2 争点及び当事者の主張
(1) 本件土地1の使用貸借契約の相手方
ア 原告の主張
 原告は,被告に対し,旧建物を取り壊して,原告が本件建物を新築すること,大体の建物位置及び設計プランを話して,被告はこれを承諾した。
 そこで,原告は,遅くとも本件建物の建築請負契約を締結した平成7年3月25日までには,被告との間で,本件土地1全体について,本件建物所有目的で,期間を本件建物朽廃時までとして,使用貸借契約を締結した。
 本件建物新築の目的は,平成6年ころから,Bの庭の広い明るい日差しがたくさん入る新しい家に住みたいとの強い希望をかなえることであったが,新築の煩雑な具体的計画を進め,3500万円余りの新築資金全額を工面し,本件建物を建てたのは原告であり,本件土地1の使用貸借を受けたのは,原告である。

イ 被告の主張
 被告は,平成6年ころ,Bから,自宅を建て替えたいと言われ,実母であるBのためであれば仕方がないと思い,本件建物と庭の設置に同意した。
 なお,当時,原告からは,本件土地1全体に抵当権をつけないと住宅ローンが組めないと言われたのみで,本件土地1を貸して欲しい旨の申入れはなかった。被告は,仕方なく抵当権設定手続及びその借換えに協力したが,あくまでBのためであり,仮に原告のためであれば,貸すこと自体に躊躇し,契約条件等を交渉しなければ,兄妹であっても安易に自己所有地を無償で貸すことはあり得ない。
 したがって,被告は,Bに対し,本件土地1を使用貸借したものであり,原告との間で,使用貸借契約を締結したものではない。

(2) 本件土地1の使用貸借契約終了の有無
ア 被告の主張
(ア) 使用借主の死亡
 上記(1)イで述べたとおり,本件土地1の使用借主はBであり,同人の死亡(民法599条)により,使用貸借契約は終了した。

(イ) 目的に従った使用収益の終了
 被告は,Bの自宅を建て替えたいという希望を聞き入れて,本件土地1を使用貸借したものである。実際に,新築後,Bが本件建物の1階に居住しており,日当たりの良い部屋と広い庭を利用したのはBである。なお,原告家族が,本件建物の2階に居住していたが,被告には,自己所有地を無償で提供して,原告の生活を支える義理も意思もないのであって,原告家族の居住は使用貸借の目的になり得ない。

 このように,被告は,Bの住みたい家及び広い庭のために,本件土地1の使用を許可したものであり,本件建物新築時の使用貸借の目的は,Bが日当たりのよい広い庭のある家に住むことである。
 また,被告は,平成12年ころ,Bが小遣いを得るため,庭の一部を駐車場にすることを希望したことから,これを承諾した。原告は,本件駐車場を原告所有のアパートの住民に賃貸しているようであるが,原告の利益のために,被告が本件土地1を無償で貸し続ける義理も必要性も全くなく,本件駐車場設置時の使用貸借の目的は,Bが小遣いを得るための駐車場を設置することである。

 上記で述べたとおり,本件土地1の使用貸借の目的は,Bが日当たりの良い庭の広い家に住むこと及びBが小遣いを得るために駐車場を設置することであり,Bが死亡した以上,目的に従った使用収益は終了したことから,民法597条2項に基づき,被告は本件土地1の賃貸借契約を解約する。
 仮に,本件建物の敷地部分の使用収益が終了していないとしても,その余の庭及び本件駐車場部分については,すでに目的に従った使用収益が終わっており,被告は,同部分(別紙図面2の水色斜線部分)の使用貸借契約を解約する。

(ウ) 用法違反による解除
 使用貸借という特殊な信頼関係の契約の下では,契約の内容で建物の利用方法を限定した場合には,借地上の建物を賃貸することは借地の用法違反になるというべきである。
 本件では,被告は,上記のように,Bが日当たりの良い庭の広い家に住むこと及びBの小遣い稼ぎのために駐車場を設置することを契約の内容として,Bのために本件土地1を貸したものである。
 しかしながら,原告は,B死亡後,被告に無断で本件建物の2階部分を賃貸しており,借地の用法に反し許されないと解すべきである。
 よって,本件土地1全体につき,原告の用法違反により,民法594条3項に基づき,使用貸借契約を解除する。

(エ) 信頼関係破綻による解除
 原告と被告は,Bの世話,介護や父親の遺産関係の紛争などを通じて関係が冷え切っており,無償で土地を貸し続けるという特殊な信頼関係を継続するような状況にない。
 被告は,その所有する本件土地1を使えないにもかかわらず,原告は,本件建物の2階部分及び本件駐車場を賃貸して多大な利益を受けている。

 しかしながら,被告が,原告の生活費を補填する理由はなく,このような著しい不均衡を許したくなるような信頼関係もない。
 したがって,当初の目的であるBが死亡し,原告,被告の信頼関係が破綻し,あたかも全てが原告所有地であるかのように,貸した部分の賃料まで原告が収受するに至った本件では,信頼関係は地を掃うに至ったというべきであり,被告は,民法597条2項の類推適用により,使用貸借契約を解除する。

イ 原告の主張
(ア) 本件土地1の使用貸借契約は,旧建物と同じように,本件建物の劣化による建替時期又は完全に朽廃する時期までを使用貸借の期間とするものである。
 被告は,使用貸借契約締結の際,Bが,常識に照らせば20年位で寿命が終わることが分かっていたのであるから,本件建物の新築以前に,原告に対し,使用貸借期間について,土地使用に期限を設ける旨申し入れる期間が十分にあった。

 そうであるにもかかわらず,被告は,かなり堅固な造りで高額な建築費用がかかり,耐用年数が長いことが容易に予測できた状況下で,原告による本件建物の新築内容に何ら異議をとどめず承知しており,本件建物の朽廃時までを期間とする使用貸借を承諾していたものである。なお,本件建物は,保存行為を適切に行えば,60年,70年と使用可能であるが,建築業者の説明に従い,期間を50年と控えめにした。

 判例に照らしても,3500万円もの建築資金を要する建物の敷地として土地を提供したものは,社会経済的利益の保護の観点及び提供者の一般的意思解釈により,新築した建物が朽廃するまでか,災害で滅失する期間の使用貸借契約を締結したと認められる。
 また,本件駐車場は,原告アパートの賃借人のためにBが造ったものであり,本件建物の日照を一切妨害しないという前提で若干の改良を加えただけで,本件建物付属の庭の利用方法から逸脱するものではない。原告は,被告から本件駐車場設置の承諾を得ており,Bの小遣いが欲しいというのは,本件駐車場設置の動機に過ぎず,本件駐車場部分の使用貸借権者が変更されたことはない。

 被告は,本件建物の新築価格,形状,材料,配置等一切を承知の上,本件土地1を原告に使用貸借したので,本件建物が,Bの庭の広い,日の当たる家という希望に基づき,南側に可能な限り広い庭を取り,その結果,北側に建物配置が偏った設計であり,広い庭と北側に詰めた建物は不動産として一体であることを十分了解した上で,本件土地1の使用貸借をしたものであるから,南側部分のみ使用貸借契約を解除することは許されない。

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について

 上記争いのない事実等のとおり,本件では,原告及びBが,平成6年ころから,本件土地1,2及び原告土地上に存在した旧建物を取り壊して,二世帯住宅を新築する計画を立て,被告に対し,本件建物の大体の建築位置及び設計プランを示して,その承諾を得たことに争いはなく,これを受けて,原告は,平成7年3月25日,本件建物の建築請負契約を締結したことに加えて,証拠(甲18)によれば,被告は,原告が本件建物の建築資金を借り入れるに当たり,本件土地1を担保として提供していることが認められる。

 これらの事実に照らすと,被告は,原告が本件建物の所有者となることを十分認識しつつ,その敷地として本件土地1を無償で使用することを承諾したものと認められ,遅くとも本件建物の建築請負契約が締結された平成7年3月25日までには,原告に対し,本件土地1を使用貸借したと認めるのが相当である。


2 争点(2)について
(1) 使用借主の死亡
 上記1で述べたとおり,本件土地1の使用借主は原告と認められることから,Bが借主であることを前提とする被告の主張には理由がない。

(2) 目的に従った使用収益の終了
ア 本件では,上記争いのない事実等記載のとおり,Bが,平成12年ころ,原告及び被告の承諾を得て,本件駐車場を設置したことに争いはない。
 原告は,本件駐車場は本件建物の敷地と一体である旨主張するが,原告ではなくBが本件駐車場を設置し,第三者に賃貸していたことに照らすと,本件建物の敷地とは使用の主体も態様も明らかに異なっているといえ,一体であるとはいえない。
 したがって,本件土地1のうち本件駐車場に係る部分については,原告及び被告が,Bが本件駐車場を設置することを承諾したことにより,当然に使用貸借契約が終了したものと認められる。

イ また,証拠(甲9,乙12,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件建物は,きれいで日当たりが良く庭の広い家に住みたいというBの希望を受けて,設計,建築されたものであり,被告としても,実母であるBの上記希望をかなえるために,原告に対し,本件土地1を無償で使用することを承諾したものと認められる。

 原告は,本件土地1の使用貸借は,普通建物所有を目的とする旨主張するが,使用貸借は,賃貸借とは異なり,専ら借主のみが利益を受ける契約であり,特殊な動機又は人的関係に基づくことが通常であることに照らすと,民法597条2項にいう「目的」とは,単に建物所有目的といった一般的抽象的なものではなく,契約成立当時における当事者の意思から推測される個別具体的なものと解するべきである。

 原告は,本件建物の新築時のBの年齢や本件建物の構造等に照らせば,被告は,本件土地1の使用貸借が,本件建物の朽廃時まで存続することを了解していた旨主張する。
 確かに,被告が,B死亡後の本件建物の存続を全く考慮することなく,本件土地1を使用貸借したとは考え難い。

 しかしながら,他方で,原告と被告との関係に照らして,B死亡後も,本件建物の朽廃時までという長期間にわたり,原告に対し,無償で本件土地1の使用を認めるつもりであったと解することはできず,本件土地1のうち本件建物が存在する範囲は,北側3分の1程度に過ぎないことも併せ考えると,B死亡後は,本件土地2の遺産分割の問題と併せて,改めて本件建物の土地利用権の設定について協議する意図であったと認めるのが相当である。
 したがって,本件土地1については,Bの死亡により,同人が庭の広い新しい家に住むという目的に従った利用が終了したことから,使用貸借契約が終了したものと認められる。

(3) 小括
 以上によれば,その余の終了原因について検討するまでもなく,本件土地1について,原告が使用貸借権を有するとは認められない。

         (中略)

第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,本件土地2のうち本件駐車場に係る部分を除いた土地(別紙図面2の点イ,ロ,ハ,ニ,ホ,ヘ,イを順に直線で結んだ範囲内の土地)について,本件建物所有を目的として,平成7年9月30日から50年間の使用貸借権を有することの確認を求める限度で理由があるから,その限りで認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却し,主文のとおり,判決する。(裁判官 剱持亮)
以上:7,087文字

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