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立退料50万円での賃貸人解約申入賃貸借終了を認めた地裁判決紹介

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令和 4年 2月17日(木):初稿
○以下の借地借家法第27・28条による賃貸人からの解約申入と正当事由補完としての財産上給付額(立退料)に関する判例を探しています。

第27条(解約による建物賃貸借の終了)
 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。
2 前条第2項及び第3項の規定は、建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。

第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。


○本件建物を被告に賃貸していた原告が、主位的に賃貸借契約は債務不履行により解除された、又は解約申入れにより終了したとして、予備的に立退料との引き換えに同契約は解約申入れにより終了したとして、本件建物の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めました。

○これに対し、債務不履行解除は認めず、本件建物の倒壊危険性が高いことなどの事実のみで本件解約申入れが正当理由を有するとはいえないとして主位的請求を棄却するも、原告が提示した立退料50万円は正当事由を補完する額として相当であるから、立退料と引き換えに本件賃貸借契約は本件解約申入れにより終了したと認めた平成30年1月26日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)結論・判断部分を紹介します。

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主   文
1 原告の主位的請求をいずれも棄却する。
2 被告は,原告から50万円の支払を受けるのと引き換えに,原告に対し,別紙「物件目録」記載2の建物を明け渡せ。
3 被告は,原告に対し,平成29年11月1日から別紙「物件目録」記載2の建物明渡し済みまで1か月4万8000円の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は,被告の負担とする。
5 この判決2項及び3項は,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨

(主位的請求)
 1 被告は,原告に対し,別紙「物件目録」記載2の建物を明け渡せ。
 2 被告は,原告に対し,平成29年11月1日から別紙「物件目録」記載2の建物明渡し済みまで1か月4万8000円の割合による金員を支払え。

(予備的請求)
 主文2項及び3項と同旨。

第2 事案の概要
 本件は,別紙「物件目録」記2載の建物(以下「本件建物」という。)を被告に賃貸していた原告が,被告に対し,(1) 主位的に,上記の賃貸借契約が,①債務不履行を理由とする解除,又は②解約申入れにより終了したとして,本件建物の明渡しと,平成29年11月1日(解除の日の後の日又は解約申入れの日から6か月が経過した日の後の日)から明渡済みまで1か月4万8000円の割合による損害金の支払を求め,(2) 予備的に,立退料の支払を申出をした上で,上記の賃貸借契約が解約申入れにより終了したとして,立退料との引き換えによる本件建物の明渡しと,同日から明渡済みまで同割合による損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等
 次の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲1,2,3の1及び2,甲7)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。
(1) 原告のCとの間の土地賃貸借契約
 原告は,昭和41年頃,C(以下「C」という。)に対して,別紙「物件目録」記載1の建物(以下「本件共同住宅」という。)の底地となる土地を賃貸した(以下,この土地賃貸借契約に基づく借地権を「本件借地権」という。)。

(2) 本件共同住宅の建築等
 C及びD(以下「D」という。)は,昭和45年3月,本件共同住宅(a荘)を建築し,これを持分2分の1ずつで共有した。
 Dは,昭和63年11月22日に死亡し,Cは,Dの本件共同住宅に対する共有持分2分の1を相続した。

(3) 本件賃貸借契約の締結
 Cは,被告に対し,平成元年4月9日,本件建物(a荘102号室)を,居住目的で,賃料等を月額4万8000円とし,これを毎月末日限り翌月分を支払う旨の約定で賃貸し,本件建物を引き渡した(以下,この建物賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。

(4) 本件借地権及び本件共同住宅の売買
 原告は,Cから,平成2年5月15日頃,本件借地権及び本件共同住宅を買い取り,本件賃貸借契約の賃貸人たる地位が,Cから原告に移転した。

(5) 本件賃貸借契約の経過等
 原告と被告は,平成17年3月頃,本件賃貸借契約について,居住目的で,期間を同年4月9日から平成19年4月8日までの2年間とし,賃等料を月額4万8000円とし,これを毎月27日限り翌月分を支払う旨の約定で,更新することを合意した。
 本件賃貸借契約は,上記の合意更新に係る期間の満了時に法定更新され,以後,期間の定めのない契約となった。

(6) 被告の後見開始
 被告については,平成27年3月20日確定の裁判により,後見が開始され,B弁護士がその成年後見人に選任され,同月27日,その旨の登記がされた。

(7) 原告による本件賃貸借契約の債務不履行解除及び解約申入れ
 平成28年8月時点において,本件共同住宅を使用していたのは,被告のみであったところ,原告は,同月26日,被告の成年後見人に対し,通知書(甲3の1)を送付し,被告の債務不履行行為を理由として,本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示(以下「本件解除」という。)をし,併せて,本件賃貸借契約につき解約申入れの意思表示(以下「本件解約申入れ」という。)をした。

2 争点
(1) 主位的請求の原因①―被告が債務不履行行為に及び,本件賃貸借契約は,本件解除により終了したかどうか(争点1)
(2) 主位的請求の原因②―本件解約申入れに正当理由があり,本件賃貸借契約は,本件解約申入れにより終了したかどうか(争点2)
(3) 予備的請求の原因―原告が立退料の支払の申出をしたことにより,本件解約申入れが正当理由を備えるに至り,本件賃貸借契約は,本件解約申入れにより終了し,原告が被告に対し,立退料の支払と引き換えに本件建物の明け渡しを求め得るかどうか(争点3)

3 争点1に関する当事者の主張

         (中略)



第3 当裁判所の判断
 1 争点1について

 原告は,被告が,①原告に無断で本件建物の玄関扉を交換し,②本件共同住宅の他の部屋の扉に板を打ち付け,③本件建物内に住宅用火災報知器の設置を拒絶し,④本件建物の外部に複数の目覚まし時計を設置して鳴らすなどし,⑤本件建物内に大量のゴミを放置するという債務不履行行為に及んだとして,本件賃貸借契約が本件解除により平成28年8月26日に終了した旨を主張し,その債務不履行に係る事実の証拠として,甲第8号証,第9号証の1,第12号証(Eの陳述書)を提出する。

 しかしながら,上記の証拠のうちの被告の債務不履行行為に関する記載部分は,これを裏付け得る客観的な資料を伴うものではなく,被告が上記①~④の行為に及んだ事実については,上記の証拠をもって認められるものではなく,他にこの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

 また,被告が上記⑤の行為に及んだ事実については,同年3月10日頃まで本件建物内に大量のゴミが放置された状態になっていたことは,当事者間に争いがないものの,上記の証拠をもって,その後も引き続き本件建物内に大量のゴミが放置されていたことを認めるに足りない。そして,同日頃まで本件建物内に大量のゴミが放置された状態になっていたことをもって,本件賃貸借契約における原告と被告との間の信頼関係が破壊されたとまで認めることはできない。
 そうすると,原告は,債務不履行を理由に本件賃貸借契約を解除し得るものではなく,本件賃貸借契約は,本件解除により同年8月26日に終了したとは認められないものというべきである。

2 争点2について
 証拠(甲1,2,6,11の1~3,甲12)及び弁論の全趣旨によれば,本件共同住宅は,昭和45年3月に建築された木造建築物であり,既に建築後40年以上が経過していること,原告が株式会社耐震設計に依頼して耐震診断を行ったところ,その平成29年2月16日時点における評点(=保有する耐力/必要耐力)は,2階X方向が0.347,2階Y方向が0.271,1階X方向が0.189,1階Y方向が0.207であり,本件共同住宅は,倒壊する危険性が高い建物であると判定されたこと(なお,評点0.7未満については,倒壊する危険性が高い建物であると評価されるところ,本件共同住宅は,0に近い評点であり,倒壊する危険性がかなり高い建物であるということができる。),平成25年,被告以外の最後の賃借人が退去し,それ以降,本件共同住宅の耐震性その他の状況から,新規の賃借人を募集することができないでいること,本件共同住宅をそのまま放置すると,原告の損害が拡大する可能性があり,原告は,その損害の拡大を防ぐために,本件共同住宅を取り壊すことを計画していること,被告は,現在,サービス付き高齢者向け住宅に実質的な生活の本拠を移しており,本件建物を居住として使用していないこと,本件共同住宅の近隣において,本件建物と同程度の賃料,床面積,設備(トイレ付き)の建物は,他にも存在することが認められる。他方,被告が現在,週2回程度,本件建物に赴き,日中を本件建物で過ごしている事実を認めるに足りる証拠はなく,また,被告について,今後,本件建物において生活をしなければならない特段の理由もうかがわれない。

 しかしながら,これらの事情のみからは,必ずしも原告が本件建物の返還を受ける必要性が被告が本件建物を使用する必要性よりも優位し,本件解約申入れが正当理由を有するものであると断じることはできない。
 そこで,立退料支払の申出による正当理由の補完について検討する。

3 争点3について
 原告が,平成29年9月28日に被告代理人成年後見人に送達された同日付け追加的変更申立書により,被告に対し,立退料として50万円の支払を申し出たことは,当裁判所に顕著であるところ,弁論の全趣旨によれば,50万円という金額は,本件建物と同程度の床面積,設備を有する他の建物に転居するための費用として十分なものであると認められ,本件における原告の正当事由を補完する立退料の額としては,相当なものであるというべきである。

 前記認定判断したところに,上記の立退料支払の申出に係る事情を併せれば,原告が本件建物の返還を受ける必要性が被告が本件建物を使用する必要性よりも優位し,本件解約申入れには正当事由があるものというべきである。

 したがって,本件賃貸借契約は,本件解約申入れにより,同年2月26日の経過をもって終了したものというべきである。

4 結論
 以上によれば,原告の主位的請求は,理由がなく,予備的請求は,理由がある。
 よって,主文のとおり,判決する。 東京地方裁判所民事第32部 (裁判官 中吉徹郎)
以上:4,667文字

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