仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 貸借売買等 > 賃貸借 >    

ゴルフ練習場敷地賃貸借契約に借地借家法適用を認めた地裁判決紹介

貸借売買無料相談ご希望の方は、「貸借売買相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 4年 1月27日(木):初稿
○ゴルフ練習場の敷地の賃貸借契約について建物所有目的であるとして借地借家法の適用が肯定された令和3年3月30日金沢地裁判決(判時2500号63頁)関連部分を紹介します。

○事案は以下の通りです。
・原告らは、本件各土地の所有者(共有持分各2分の1)
・被告は、昭和52年9月1日にゴルフ練習場の経営等を目的として設立された会社であり、本件各土地及びその周辺土地(以下「本件周辺土地」という。)を使用してゴルフ練習場「Z」(以下「本件ゴルフ練習場」という。)を経営
・本件周辺土地の所有者は、被告、P1(被告の取締役(元代表取締役))、P2(被告の代表取締役)及びP3(被告の取締役)
・P4は、昭和52年頃、被告との間で、P4所有の本件各土地につき、その使用目的をゴルフ練習場として、土地賃貸借契約(以下「本件土地賃貸借契約1」という。)を口頭で締結
・P4は、昭和59年3月×日死亡し、P5が相続により本件各土地の所有権を承継し、P5は、平成2年11月×日死亡し、P6が相続により本件各土地の所有権を承継し、P6は、平成27年10月×日死亡し、原告らが相続により本件各土地の所有権を承継
・原告X1は、被告の元取締役(平成28年10月15日辞任、同月26日登記)、原告X2は、被告の元監査役(平成28年10月15日辞任、同月26日登記)、P6は、被告の元監査役(平成27年10月7日辞任、同月26日登記)、P4は、被告の元取締役(昭和59年11月30日退任、同年12月14日登記)、被告は、平成28年10月、監査役を廃止
・本件建物は、昭和56年7月15日に新築され、昭和57年4月7日に増築された2階建の打席棟建物で、平成2年3月2日に室内練習場及びポンプ室が増築
・P6と被告は、平成26年11月21日頃、同日付けの土地賃貸借契約書(以下「甲7の土地賃貸借契約書」という。)を取り交わし
・同契約書には、賃貸人をP6、賃借人を被告、契約の目的たる土地を本件各土地、契約の目的を本件建物の所有、契約期間を平成26年11月1日から平成28年10月31日までの2年間、賃料を月額58万7900円とする旨の記載
・P6と被告が借地借家法に基づき、上記のとおりの土地賃貸借契約を締結する旨の記載
・原告らは、被告に対し、平成29年6月2日、本件土地賃貸借契約につき、民法617条1項1号により、解約の申入れ(以下「本件解約申入れ」という。)明渡請求


○当初ゴルフ練習場として、口頭契約で賃貸した土地に昭和56年7月15日に建物が新築され、平成26年に期間2年として建物所有を目的とすると明記した賃貸借契約書を交わしましたが、原告は、借地借家法を知らない素人が作成した契約書であり、建物所有は従たる目的なので、借地借家法は適用にならないと主張しました。

○しかし判決は、昭和42年12月5日最高裁判決を援用し、建物に当たるような形式のゴルフ練習場を建築し、所有する目的で土地の賃貸借をすることが契約当事者間で特に合意された等の特段の事情があると認められる場合には、建物の所有を目的とする賃貸借にあたり、借地借家法(旧借地法)の適用を受けるとして、原告の請求を棄却しました。当然の判例と思います。

*********************************************

主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告らに対し、別紙目録記載3の建物を収去して同目録記載1、2の各土地を明け渡せ。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、ゴルフ練習場の敷地である別紙物件目録記載1、2の各土地(以下「本件各土地」という。個別には、上記番号に従って「本件土地1」などという。)を所有し、本件各土地に係る賃貸借契約上の賃貸人である原告らが、当該土地賃貸借契約は、建物所有を目的とするものではなく、借地借家法の適用を受けないから、民法617条1項1号により、解約申入れの1年後に終了した旨主張して、本件各土地上の別紙目録記載3の建物(以下「本件建物」という。)の所有者である被告に対し、土地所有権又は土地賃貸借契約終了に基づき、本件建物を収去して本件各土地を明け渡すよう求める事案である。

2 前提事実(争いのない事実等。書証は、以下、特記なき限り、枝番号を含む。)

         (中略)


3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)建物所有目的の抗弁の成否
(被告の主張)
 以下に述べるとおり、本件土地賃貸借契約2は、建物所有を目的とするものであり、借地借家法の適用を受けるというべきである。

 すなわち、P6と被告は、平成26年11月21日、甲7の土地賃貸借契約書を取り交わして、本件土地賃貸借契約2を締結したところ、〔1〕甲7の土地賃貸借契約書には、本件土地賃貸借契約2が建物所有を目的とするものである旨の記載があることや、〔2〕本件建物の構造は、堅固で多層階なものであること、〔3〕本件土地賃貸借契約2の締結当時、本件各土地は、本件ゴルフ練習場の運営継続に必要不可欠な本件建物の敷地として使用されていたこと、〔4〕P6と被告は、本件土地賃貸借契約2の締結に当たり、上記各事実を認識し、そのことを了解した上、本件建物の敷地である本件各土地の地代を大幅に値上げしたこと等の本件事実関係の下においては、本件土地賃貸借契約2は、建物所有を目的とするものであると認められるから、借地借家法の適用を受ける。

 なお、仮に、本件土地賃貸借契約1が建物所有を目的とするものであると認められないとしても、同契約締結後の昭和56年から昭和57年にかけて本件各土地上に本件建物が新築され、その際、当時の本件各土地の所有者(賃貸人)であるP4が、本件建物の建築資金の借入れのため本件各土地に担保権を設定することを承諾したこと等に照らせば、昭和57年頃に黙示の合意によって本件土地賃貸借契約1の目的が建物所有に変更され、当該変更後の契約が本件土地賃貸借契約2に引き継がれたというべきであるし、そうでないとしても、上記〔1〕ないし〔4〕の事情等に照らせば、本件土地賃貸借契約2の締結に伴って、建物所有を目的とする賃貸借契約に変更されたというべきである。

(原告らの主張)
 本件土地賃貸借契約2及び本件土地賃貸借契約1につき、建物所有を目的とすることは否認し、借地借家法の適用を受けることは争う。

 本件ゴルフ練習場は、広大な土地を利用したものであり、本件各土地は、その一部にすぎないし、本件建物のみで独立してゴルフ練習場として利用することもできない。そして、本件のように、ゴルフ練習場として使用する目的でされた土地の賃貸借契約は、土地全体をゴルフ練習場として直接使用することを目的としているのであって、ゴルフ練習場のため建物を築造、所有することが予定されていたとしても、それは、土地使用(ゴルフ練習場)の主たる目的ではなく、従たる目的にすぎないから、建物所有を目的とするものであるとはいえない。

 甲7の土地賃貸借契約書については、作成名義人であるP6及びその作成に関与した原告X1の両名とも、法律専門家ではなく、建物所有目的の土地賃貸借契約を締結したとの認識を有しておらず、借地借家法の内容についても知らなかった。しかも、もともと本件土地賃貸借契約1は、建物所有を目的とするものではなく、かつ、本件土地賃貸借契約2は、本件土地賃貸借契約1を更新したものにすぎず、同契約の内容を変更するものではない。

 また、本件建物が新築されても、上記のとおり、建物所有は、主たる目的ではなく、従たる目的にすぎないから、本件建物の新築によって土地賃貸借の目的が建物所有に変更されることはない。

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点に対する判断の前提となる認定事実

(1)Aは、昭和47年頃、P4及びP1から、同人らの所有地(P4所有の本件各土地を含む。)を賃借し、これらの賃借土地上に施設を設けてゴルフ練習場を開設し、その運営を開始したものの、昭和51年8月及び同年9月の2回の手形不渡りにより事実上倒産した。

 P4及びP1は、Aに賃貸した同人らの上記所有地(上記ゴルフ練習場用地)がAの債権者らによって不法に占拠される等の事態を避けるため、昭和52年9月に本件ゴルフ練習場を経営するための会社である被告を設立した。そして、被告は、Aから同社所有の上記ゴルフ場の施設を購入するとともに、同社の債務を引受け、併せて、P4及びP1から、本件ゴルフ練習場として使用する目的で、同人らの所有地(P4所有の本件各土地を含む。)を賃借した。また、P4とP1の協議により、P1が、被告の代表取締役に就任し、同じく同社の取締役に就任したP4と相談しながら本件ゴルフ練習場を経営し、その余の被告の役員については、P1及びP4の各家族の中から同数を選出することになった。

(2)本件ゴルフ練習場の施設は、被告の設立時点では、Aから購入した状態のままであり、地面に柱を立てて、打席の背後と上部に雨露を凌ぎ日光を防ぐ程度の簡単な屋根を設けたものであり、打席数は15であった(この施設を以下「旧施設」という。)。その設置場所は、P4の所有地上であった。

 やがて、本件ゴルフ練習場の利用客数が増加したため、被告(代表取締役P1、取締役P4)は、旧施設を取り壊し、これと同じ場所に、昭和56年から昭和57年にかけて大型遊技場(打席棟)を建築した。この新施設(本件建物)は、雨風を避けるための屋根と3面壁を備えた鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建の堅固な構造物であり、打席数は82であり、その敷地の大半は、本件土地2である。

本件建物の上記建築の費用は、総額約1億2000万円であり、金融機関からの借入金により賄われ、同債務を担保するため本件建物並びにP4及びP1の所有地(本件各土地を含む。)に担保権が設定された。その後、P4は、昭和59年に死亡し、同人の子であるP7(原告X1の父)が被告の取締役に就任したところ、被告(代表取締役P1、取締役P7)は、平成2年に約8000万円を費やして室内練習場及びポンプ室を建築し、その費用は、本件建物の新築時と同様に金融機関からの借入金により賄われ、同様に担保権が設定された。

そして、本件ゴルフ練習場の敷地のうち、打撃場部分(本件各土地を含む。)の面積は、1万9510平方メートル(うち本件各土地の面積合計5879平方メートル)であり、本件建物の床面積は、1階797・46平方メートル、2階1095・51平方メートルである。

(3)被告は、平成26年7月頃、取引銀行の一つである北國銀行から、被告の北陸信用金庫からの借入金債務の全部について北國銀行への借換えをするよう提案を受けたため、P7及び原告X1にその旨を告げて相談したところ、P7及び原告X1から、〔1〕P7の連帯保証の解約、〔2〕本件各土地に設定された被告の借入金債務に係る担保権の解除と設定登記の抹消、〔3〕本件各土地の地代の増額等を要求された。また、その頃、〔4〕被告は、本件ゴルフ練習場の長期かつ安定的な経営を図る目的で、本件各土地に係る賃貸借契約書の作成を希望しており、原告X1も、将来の相続に備えて、本件各土地に係る賃貸借契約の内容を明確化する目的で、土地賃貸借契約書の作成を希望していた。そこで、これ以降、被告とP7及び原告X1との間で、上記〔1〕ないし〔4〕の各事項に関する協議が行われた。

(4)上記(3)の協議の際、原告X1は、知人の不動産業者に依頼して作成させた乙3の土地賃貸借契約書を被告に交付し、被告は、これを踏まえて対案として作成した甲7の土地賃貸借契約書を原告X1に交付した。そして、平成26年11月頃、原告X1は、甲7の土地賃貸借契約書の作成について、P6に相談をして、同人の了解を得て、同人の印章を同契約書の賃貸人欄に押捺し、被告は、上記不動産業者を通じて、同契約書の交付を受けた。

同契約書により、本件各土地の地代の月額は、従前の1平方メートルあたり550円から1平方メートルあたり1200円に増額された。また、その頃、北陸信用金庫の借入金債務に係る北國銀行からの借換分については、P7の連帯保証の解除、担保権の解除等がされた(なお、北國銀行の平成元年当時の融資分については、その対象外である。)。

2 建物所有目的の抗弁の成否
(1)借地借家法2条1号(旧借地法1条)にいう「建物の所有を目的とする」とは、土地の賃貸借の主たる目的がその土地上に建物を所有することにある場合を指し、その主たる目的が建物の所有以外の事業を行うことにある場合は、借地人が貸主からその事業のために必要な付属の事務所、倉庫等の建物を建築し、所有することの承諾を得ていたとしても、これに含まれないものと解される。

そして、以上の見地からすれば、ゴルフ練習場として使用する目的でされた土地の賃貸借は、後記特段の事情のない限り、建物の所有を目的とする賃貸借とはいえず、借地借家法(旧借地法)の適用を受けないものの、上記条項にいう建物に当たるような形式のゴルフ練習場を建築し、所有する目的で土地の賃貸借をすることが契約当事者間で特に合意された(この合意を以下「反対の特約」という。)等の特段の事情があると認められる場合には、建物の所有を目的とする賃貸借にあたり、借地借家法(旧借地法)の適用を受けると解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和42年12月5日判決・民集21巻10号2545頁参照)。

(2)これを本件についてみると、本件土地賃貸借契約1が締結された昭和52年の時点では、当時の本件ゴルフ練習場の旧施設の形態や構造等に照らせば、P4と被告が反対の特約をした事実を認めることはできない。

 しかしながら、前示1(2)の昭和56年から昭和57年にかけて新築された本件建物(打席棟)の形態や構造、規模等からすれば、本件建物は、借地借家法2条1号(旧借地法1条)にいう「建物」に当たるものと認められる。

そして、この認定事実に、新築された本件建物は、これ以降、本件ゴルフ練習場の継続的な運営上必要不可欠の施設となったこと、前示のとおり、被告は、本件建物の巨額な新築費用を金融機関からの借入金で賄い、本件各土地を含む本件ゴルフ練習場の敷地の当時の所有者であるP4及びP1は、当該敷地に同借入金債務のための担保権を設定することを承諾したこと、P4は、被告の当時の取締役でもあり、これらのことを熟知しており、かつ、その後も本件各土地の地代を収受していたこと等の諸事情を総合すると、本件各土地は、本件建物の新築に伴って、ゴルフ練習場としての使用と本件建物の敷地としての使用がともに主たる目的となったものと認められ,また、P4と被告は、昭和57年頃、明示又は黙示的に、反対の特約を伴う新規の建物所有目的の土地賃貸借契約の締結又は本件土地賃貸借契約1の目的を建物所有に変更する合意をしたものと認められる(なお、本件各土地のうち、本件土地1は、単体では本件建物の敷地ではないものの、その位置、形状、面積、利用状況等に照らして、隣接する本件土地2と一体的に本件建物の敷地として機能しているものと認められるから、本件各土地の全体について一体的に建物所有の目的を認めるのが相当である。)。

 そして、その後の本件土地賃貸借契約2の締結時点においても、従前と同様に、本件建物は、本件ゴルフ練習場の継続的な運営上必要不可欠の施設であり、本件各土地は、ゴルフ練習場としての使用と本件建物の敷地としての使用がともに主たる目的となっており、本件各土地の当時の賃貸人(P6)は、その地代の収受を続けていたところ、これらの点に、当時の本件建物の形態や構造、規模等(平成2年の増築後のもの)及び前記前提事実(4)のとおりの甲7の土地賃貸借契約書の記載内容等を併せ考えると、本件土地賃貸借契約2は、本件各土地の賃貸借が、従前(本件建物の新築の際に反対の特約を伴って新規に締結された建物所有目的の土地賃貸借契約又は建物所有目的に変更された本件土地賃貸借契約1)と同じく、建物所有を目的とすることが確認されたものであると認められるから、借地借家法(旧借地法)の適用を受ける。


なお、本件土地賃貸借契約2のうち、契約期間を2年とする合意については、借地借家法3条(旧借地法2条)により、その効力を有しない。 

3 以上によれば、本件土地賃貸借契約2は、本件解約申入れの1年後に終了しないし、他の終了原因についての主張立証もない。
 よって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。(裁判官 加島滋人)

別紙 物件目録
1 所在 白山市a町
  地番 b番1
  地目 雑種地
  地積 2937平方メートル

2 所在 白山市a町
  地番 c番1
  地目 宅地
  地積 2942・00平方メートル

3 所在 白山市a町c番地1、d番地1、e番地1、b番地1、f番地
  家屋番号 c番1
  種類 遊技場
  構造 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
  床面積 1階  797・46平方メートル
      2階 1095・51平方メートル
  附属建物
  符号 1
  種類 ポンプ室
  構造 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
  床面積 18・63平方メートル

以上:7,132文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
貸借売買無料相談ご希望の方は、「貸借売買相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 貸借売買等 > 賃貸借 > ゴルフ練習場敷地賃貸借契約に借地借家法適用を認めた地裁判決紹介