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税務申告での決算報告書への記載だけでは債務承認とならない

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令和 3年 5月30日(日):初稿
○10年前に父が亡くなり、父の遺言で父が経営していた会社の全株を相続して、父の会社の経営を引き継いで、税務申告もしてきたが、父の時代から決算報告書に記載していた未払金債務・借入金債務をそのままにして毎年の税務申告書添付決算報告書に記載し続けてきたところ、最近になって決算報告書上の未払金・借入金の債権者から、返済を催告されるようになったが、支払をしなければならないのでしょうかとの相談を受けました。

○その未払金・借入金は、10年前の決算書に記載されていたが、その内容や発生時期は全く不明とのことです。債権者は身内であり、おそらくその債権者もその内容について知らないと思われるとのことでした。だとすると決算処理上だけの架空債務の可能性が強いものですが、仮に実際の債務としても消滅時効が成立している可能性が高いと説明しました。

○問題は、毎年の決算報告書に記載を継続していることが、債務承認に当たるかどうかです。そこで裁判例を調べると、決算報告書に記載しただけでは債務承認にはならず、その決算報告書を記載された債権者に交付するなどして確認させた場合は、債務承認になるのが原則のようです。以下、この点に関する参考判例として、昭和59年3月27日最高裁判決(判タ524号195頁、判時1111号100頁)全文と、最近の判例として平成30年3月23日東京地裁判決(ウエストロージャパン)関連部分を紹介します。

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昭和59年3月27日最高裁判決
主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○の上告理由について
 原審の適法に確定したところによれば、A工業株式会社(以下「A工業」という。)は、昭和47年から昭和51年までの間B物産株式会社(以下「B物産」という。)がA工業の経営状況や信用状態の調査あるいは相互の債権債務の照合等をするため、B物産に対する手形金債務及び買掛金債務を記載した決算報告書を作成してB物産に提出し、B物産ではその決算報告書の内容について説明を求めたり記載内容の確認をしていた、というのであるから、右事実関係のもとにおいては、A工業は決算報告書に記載された自己の債務の存在を承認したものと解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (安岡滿彦 横井大三 伊藤正己 木戸口久治)


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平成30年3月23日東京地裁判決
主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実(2)及び(3)によれば,Cが,平成9年9月17日頃,被告に対し,本件弁済の資金とするために少なくとも5953万5400円を貸し付けた事実は認められるが,それから本件訴訟の提起までには約19年が経過していることが明らかであり,被告は5年間の商事消滅時効を援用している。

2 これに対し,原告は,以下のとおり時効の完成を争っているが,いずれも理由がないといわざるを得ない。

(1) 原告は,被告が返済可能な状態になるまで本件貸付けの弁済をCが猶予したと主張する(前記第2の3(2)ア)。しかしながら,Cと被告代表者であるAがそのような猶予を合意した事実を認めるに足りる的確な証拠はない上,証拠(甲27,33,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成17年頃までに財務状況の再建を果たし,同年10月には,本件不動産をa社から買い受けた事実が認められるところ,その時点からであっても本件訴訟の提起までに商事消滅時効の期間が経過していることは明らかであるから,いずれの点からも上記主張は失当である。

(2) 被告の決算報告書にCからの借入金が記載されていたことは前記第2の2(3)のとおりであるが,債務の承認は相手方たる債権者に対して表示することを要するところ,この決算報告書がCに示されていた事実その他,被告による債務の承認行為があったことを認めるに足りる証拠はない。

かえって,Cは,本件弁済の以前から,平成7年6月頃にはAらと居住していた自宅を出され(甲43),平成8年11月6日にはA夫妻が自己及びDと同じ墓地に埋葬されることを拒否するとの条項を含む遺言公正証書を作成する(乙2)など,Aとの仲は良好でなかったと認められる上,その後は,平成14年4月10日には被告の取締役を辞任し(乙1),平成20年7月には本件施設に入所していること等の事情に照らせば,Cが平成27年3月23日に死亡する前の5年間はもとより,それより遥かに以前の時期から,被告がCに債務の承認に当たる行為をしていたとは考え難い。

(3) 時効完成後の債務承認について
 原告は,Aが,6月30日の電話で原告に対し,借入れとして計上してある金額は被告として誠意をもって返済すると述べ,8月15日の電話でBに対し,決算書に載っている本件貸付けの額を単純に3人で割った1666万6666円プラス利息に関しては誠意をもって対処すると述べたと主張し(前記第2の3(2)ウ),原告らはその旨を供述している(甲33,34,証人B,原告本人)。しかしながら,Aは陳述書においてかかる発言をしたことを明確に否定している(乙10)上,次の諸事実に照らせば,上記供述は到底採用できない。

ア 仮にAが原告に対し,6月30日の電話で原告主張のような発言をしていたのであれば,その約1か月半後に出され,Cの遺産として原告らがCから聞かされていた被告に対する金銭債権がある旨が記載されている本件内容証明において当然に言及があってしかるべきであるのにそれがなく,かえって,原告らが6月23日書簡で話合いをしたい旨を申し出たのに全く応答がなかった旨が記載されている。

イ そもそも6月30日の電話の内容が原告主張のようなものであったのであれば,同日中にAが原告宅を訪問したのに原告が面会を拒絶し,本件内容証明に至るまで自己からAに対し全く連絡しなかったということも理解し難い。原告は,Aに対する悪感情等をその理由として述べているが,上記電話の前の6月23日書簡で会って話をしたいと自ら呼びかけていることに照らしても,原告の面会拒絶は,その前にあった電話での会話内容が自己の意に沿うものでなかったからであると考えざるを得ない。

ウ 8月15日の電話については,そもそもBは本件貸付けの債権者ではないから,Bに対するAの発言が,相手方たる債権者に対して表示されたものとはいえない。また,Bの供述内容自体を見ても,6月30日の電話が原告主張のようなものであったことを前提としている点において採用し難い上,陳述書における記載と証人尋問における供述とが整合していないこと(証人B・12頁),Aが,被告の決算書をすぐに出すと言いつつ,そこに記載されている金額を3で割ると1666万6666円プラス利息になるなどと,わざわざ記載と矛盾する内容を述べたというのは不自然であること,その前に税理士から相続税を支払わなければならない金額の貸金債権があると聞いてそれが5000万円以上であると考えたことはBが自認していること(証人B・5,12頁)等に照らせば,Bの供述は信用性に欠けるというほかなく,Bの方から5000万円という数字が出てきた旨をいうAの供述の方が明らかに自然である。

(4) さらに,原告は,被告による消滅時効の援用が権利濫用であるとも主張しているが,被告が税務申告の決算報告書に記載していた借入金について消滅時効を援用することが原告に対する関係で権利濫用になるとは考え難く,独自の主張といわざるを得ない。

3 よって,その余につき判断するまでもなく,本件請求は理由がないから棄却する。
 東京地方裁判所民事第37部
 (裁判官 上田哲)
以上:3,378文字

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