令和 3年 5月29日(土):初稿 |
○先日、久しぶりに某公共無料法律相談を担当して受けた質問について調査した判例備忘録です。質問内容は、亡父が所有する土地について、一部を亡父が、その妹に貸し、妹は、借りた部分に木造建物を建てて家族で生活し、亡父(妹からすれば兄)に対し、その土地の固定資産税のうち妹使用部分に相当する金額を毎年亡父(兄)に支払い続け、亡父も妹も亡くなり、自分がその土地を相続した。妹の相続人が、現在の土地所有者の自分に対し、妹の建てた建物敷地部分について借地権があると主張してきたが、固定資産税一部を支払っただけで借地権が認められるかという質問でした。 ○私は、亡父が妹から受け取った固定資産税の一部は、賃料とは評価できないので借地契約ではなく、使用貸借に過ぎないのではと思うと回答しましたが、ちと心配になり、関連裁判例を調べてみました。土地の貸借ではなく、建物の貸借ですが、建物の借主が該建物を含む貸主所有の不動産に賦課された固定資産税等の公祖公課の支払を負担する等原判示事実(原判決理由参照)があるとしても、右負担が建物の使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特段の事情のないかぎり、当該貸借関係は使用貸借であると認めるのが相当であるとした昭和41年10月27日最高裁判決(判タ199号129頁、判時464号32頁)がありましたので、全文紹介します。 ********************************************* 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告人本人および上告代理人○○○○の上告理由について。 建物の借主がその建物等につき賦課される公租公課を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特別の事情のないかぎり、この負担は借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げとなるものではない。 しかして、原審の事実認定は挙示の証拠によつて肯認し得、かかる事実関係の下においては、本件建物の借主たる上告人がその建物を含む原判示各不動産の固定資産税等を支払つたことが、右建物の使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特別の事情が窺われないから、上告人と建物の貸主たる訴外Aとの関係を使用貸借であるとした原審の判断は相当として是認し得るところであり、その他、原判決には何等所論の違法はない。それ故、論旨は採用に値しない。 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠) (注)原判決理由の一部 「控訴人は、昭和25年頃から昭和32年頃まで、A、その父B、その母Cの各所有名義の不動産ばかりでなく、A外9名所有名義の不動産に対する固定資産税のみならず、当初はAの市民税、BやC名義の水利地益税を支払つたこと、右不動産のうちC及びA外9名所有名義のものの固定資産税はAが一人で負担すべきものではないこと、前示期間中に控訴人がA等に代つて支払つた前記税金の総額は合計14万7710円(但し、この金額中には商工組合中央金庫が代納した金5万7288円を含む)であつて、昭和32年度における前示不動産の固定資産税の年額は約3万2800円であること、昭和33年6月頃の本件建物の適正賃料は階下部分について一カ月金6000円、二階部分について一カ月金3856円、合計金9856円であつて年額約11万8000円であることが認められる。」 以上:1,438文字
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