令和 2年12月27日(日):初稿 |
○現在ファクタリングと称しての実質貸金業違反高利貸金について貸金業法違反違反で無効と主張して提訴している事案があります。同種事案について判断した令和2年6月18日(令元(ワ)18683号・令元(ワ)25992号)東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)関連部分を紹介します。 ○判決は、ファクタリングと称する取引について「本件契約1~4は,いずれも年109.5%を超える割合の利息の契約をしたことになるから,貸金業法42条1項により全て無効になるというべきである。」、「上記143万円の交付は不法原因給付に当たるものであって,その結果,被告は原告に対して上記143万円の返還債務を負うものではない」と断言しています。 貸金業法 第42条(高金利を定めた金銭消費貸借契約の無効) 貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつて金銭を交付する契約を含む。)において、年109・5パーセント(2月29日を含む1年については年109・8パーセントとし、1日当たりについては0・3パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。)の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は、無効とする。 2 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第5条の4第1項から第4項までの規定は、前項の利息の契約について準用する。 出資法 第5条(高金利の処罰) 金銭の貸付けを行う者が、年109・5パーセント(2月29日を含む1年については年109・8パーセントとし、1日当たりについては0・3パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。 2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年20パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。 3 前2項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年109・5パーセント(2月29日を含む1年については年109・8パーセントとし、1日当たりについては0・3パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。 **************************************** 主 文 1 原告の本訴請求をいずれも棄却する。 2 原告と被告との間において,被告が別紙供託金目録記載の供託金の還付請求権を有することを確認する。 3 原告は,被告に対し,200万円及びこれに対する令和元年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は,本訴・反訴を通じて,原告の負担とする。 5 この判決の第3項は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 原告の本訴請求 (1) 原告と被告との間において,原告が別紙供託金目録記載の供託金の還付請求権を有することを確認する。 (2) 被告は,原告に対し,24万5000円及びこれに対する令和元年7月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告の反訴請求 主文第2項及び第3項と同旨 第2 事案の概要 1 被告が原告に譲渡するとの契約が締結された80万円の請負代金債権(以下「本件債権1」という。)及び58万円の請負代金債権(以下「本件債権2」という。)について,債務者である株式会社カラークラフト(以下「カラークラフト」という。)が債権者不確知を供託原因として供託した(この供託に係る供託金が別紙供託金目録記載の供託金であり,以下,これを「本件供託金」という。)。また,被告が原告に対して債務者をカラークラフトとする150万円の請負代金債権(以下「本件債権3」という。)及び50万円の請負代金債権(以下「本件債権4」という。)を譲渡するとの契約が締結され,後に被告は原告に対して合計200万円を支払って本件債権3及び4を買い戻した。 本件は,原告が,被告に対し,被告から本件債権1及び2を有効に譲り受けたとして,原告が本件供託金の還付請求権を有することの確認を求めるとともに,被告は本件債権1及び2の譲渡に係る各契約につき無効であると主張したことによりカラークラフトにおいて本件債権1及び2につき供託をすべき状況に陥らせて原告の債権を侵害し,これにより原告は通常業務における利益獲得の機会を喪失したとして,上記各契約の債務不履行に基づき,24万5000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年7月19日から支払済みまで商事法定利率(平成29年法律第45号による廃止前のもの)である年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴請求),被告が,原告に対し,本件債権1及び2を譲渡するとの契約はいずれも無効であり,本件債権1及び2はいずれも被告に帰属しているとして,被告が本件供託金の還付請求権を有することの確認を求めるとともに,本件債権3及び4を譲渡するとの契約もいずれも無効であるとして,不当利得返還請求として,200万円の支払及びこれに対する反訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(反訴請求)事案である。 2 前提事実(証拠を記載したもの以外は争いがない。) (中略) 3 争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 本件契約1~4に係る契約は無効であるか否か (中略) 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件契約1~4に係る契約は無効であるか否か)について 本件契約1~4は債権譲渡の形式をとっているものの,いずれも譲渡人である被告が対象となる債権を一定の期日までにその額で買い戻すことができ,原告(本件基本契約に基づいて被告に委任されたものと解される。)は同期日までカラークラフトに対する債権譲渡の通知をしないものとされている(上記前提事実(3)及び(5))。本件契約1~4につき,上記のとおり被告が一定の期日までに対象となる債権を買い戻すことができ,それまではカラークラフトに対して債権譲渡の通知をしないとされたのは,被告の希望によるものであるところ(甲4の1・2,弁論の全趣旨),被告がそのような希望をしたのは,被告主張のとおり,被告がその資金繰りに問題があることを取引先であるカラークラフトに知られないためであることは容易に推察することができる(この点につき,原告は何らの反論及び反証をしない。)。そして,実際に,被告は原告から本件契約3の対象である本件債権3及び本件契約4の対象である本件債権4を本件契約3及び4の買戻特約において定められた期日までに買い戻している(上記前提事実(4))。 これらの事情によれば,本件契約1~4において,被告の資金繰りを取引先であるカラークラフトに知られてその後の事業に問題が生じないようするため,被告が原告から本件契約1~4に定められた買戻特約に従って本件債権1~4を買い戻すことを当然に予定していたということができる。 また,本件契約1~4が前提とする本件基本契約(このことは,証拠(甲3~4の2)及び弁論の全趣旨により明らかである。)において,対象となる債権が債務者における事情により取立てが不能になったとしても,被告は原告に対してこのことにつき一切保証するものではないとしつつも,当該債権に関し,その発生のみならず,債務不履行の状態が将来発生する事情が債務者において存在しないことや解除,相殺等の消滅事由あるいは履行を拒む抗弁事由が存在しないことといった,その回収に当たって将来生ずる可能性のある法律上又は事実上の障害等についてまでも被告が原告に対して「表明保証」するものとされ,この「表明保証」に反する事情が生じた場合には,原告は被告に対して債権譲渡に係る契約を解除して当該債権の額面額を賠償金として請求することができるなどとされている(上記前提事実(2))のであって,当該債権につき債務者(本件ではカラークラフト)から回収することができないときには原告は被告から実質的にその回収をすることができるのであり,その回収におけるリスクを原告が負うことはほとんど想定し難いものとなっている。 これらの事情に照らせば,本件契約1~4の対象である本件債権1~4につき,原告は被告に対してその額面において償還を求めることができるのと等しい結果になっているということができる。なお,本件契約1~4において被告が原告に対して本件債権1~4を「譲渡」するとされているものの,その実質は,原告が被告からこれらに付された買戻特約において定められた金銭を回収するための担保として供されたにすぎないとみることができるものである。 そうすると,本件契約1~4は,経済的に貸付けと同様の機能を有するものと認められ,原告が被告に対して本件契約1~4に基づいて金銭を交付したことは,「手形の割引,売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付」(貸金業法2条1項)として,貸金業法や出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)にいう「金銭の貸付け」に当たるというべきである。 そして,原告は,債権の買取り業及び各種債権の売買を目的とし(上記前提事実(1)ア),そのホームページにおいて,債権譲渡の形式をとる本件契約1~4の如き取引を勧誘しており(弁論の全趣旨),上記のとおり本件契約1~4は「金銭の貸付け」に当たること等に照らせば,貸金業法にいう貸金業を営む者に当たるといえる。 以上を前提として検討すると,上記前提事実(3)イによれば,本件契約3は,被告が平成31年1月31日に113万円を原告から借り入れたのに対し,同年2月25日に150万円を原告に対して返済するということになり,上記前提事実(3)ウによれば,本件契約4は,被告が同月13日に30万円を原告から借り入れたのに対し,同月25日に50万円を原告に対して返済するということになり,上記前提事実(5)イによれば,本件契約1は,被告が同年3月4日に80万円を原告から借り入れたのに対し,同年4月25日に135万円を原告に対して返済するということになり,上記前提事実(5)ウによれば,本件契約2は,被告が同年3月19日に7万円及び同月25日に51万円を借り入れたのに対し,同年4月25日に110万円を返済するということになる。 これによれば,本件契約3については年約478%の利息の契約を,本件契約4については年約2028%の利息の契約を,本件契約1については年約473%の利息の契約を,本件契約2については全額を同年3月19日に借り入れたとしても年約861%の利息の契約をしたことになる。そうすると,本件契約1~4は,いずれも年109.5%を超える割合の利息の契約をしたことになるから,貸金業法42条1項により全て無効になるというべきである。これに反する原告の主張は,実質を何ら考慮しないものであって,採用し難いものである。 本件契約1及び2はいずれも無効である以上,これらにより本件債権1及び2は被告から原告に移転せず,被告に帰属していることになるから,被告の反訴請求のうち,被告が本件供託金の還付請求権を有することの確認を求める部分は理由があることになり,原告の本訴請求のうち,原告が本件供託金の還付請求権を有することの確認を求める部分は理由がないことになる。 また,上記前提事実のとおり,被告は原告に対して平成31年2月25日,200万円を支払って本件債権3及び4を買い戻したところ(上記前提事実(4)),これが本件契約3及び4に基づいて支払われたことは明らかであり,本件契約3及び4はいずれも無効である以上,原告は被告の損失の下において上記200万円を法律上の原因なく利得したことになる。 なお,原告は被告に対して本件契約3及び4に基づいて合計143万円を交付したものの,原告が本件契約3及び4を締結したことは,上記説示を踏まえれば,金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行ったことにほかならないし,上記のとおり,年109.5%を超える割合の利息の契約をしたことになるから,出資法5条3項に違反し,10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金又はその併科という重い刑罰を科される可能性があり,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為であるといえる以上,上記143万円の交付は不法原因給付に当たるものであって,その結果,被告は原告に対して上記143万円の返還債務を負うものではないから,上記200万円のうち143万円の部分も原告が法律上の原因なく利得したものというべきである。 したがって,被告の反訴請求のうち,本件契約3及び4が無効であることを根拠として,不当利得返還請求として,200万円の支払等を求める部分は理由があるというべきである。 2 争点(2)(被告が本件契約1及び2の効力を争うことにつき本件契約1及び2の債務不履行が成立するか否か)について 原告は,被告が理由なく本件契約1及び2の無効を主張し,カラークラフトにおいて供託をしなければならない状況に陥らせ,原告の債権を侵害したことは,本件契約1及び2の債務不履行に当たる旨を主張する。 しかしながら,上記1において検討したとおり,本件契約1及び2が無効である旨の被告の主張は理由があるから,原告の上記主張は前提を欠くものである。したがって,原告の本訴請求のうち,原告の上記主張を前提として被告に対して債務不履行に基づく損害賠償を求める部分は,損害の点について判断するまでもなく,理由がないことになる。 第4 結論 以上によれば,原告の本訴請求は,いずれも理由がないからこれを棄却し,被告の反訴請求は,いずれも理由があるからこれを認容することとする。なお,主文第2項につき,仮執行の宣言は相当でないので,これを付さないこととする。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第10部 (裁判官 岡田紀彦) 以上:6,040文字
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