令和 2年 2月18日(火):初稿 |
○賃貸ビルを有する顧問会社から、令和2年3月1日付で締結する賃貸借契約は、改正民法に従ったものにする必要があるかとの質問を受けました。令和2(2020)年4月1日から施行される改正民法では、賃貸借契約においても、個人の連帯保証人について、極度額を設定する必要があります。しかし、令和2年3月31日までに締結される賃貸借契約については、改正前の現行法が適用になりますので、これまで通りの契約条項で構いません。 ○まもなく、改正民法が施行されますが、個人連帯保証に関する条文は以下の通りです。 改正民法465条の2(個人根保証契約の保証人の責任等) 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。 2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。 3 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。 ○令和2(2020)年4月1日から上記改正民法が施行されますので、賃貸借契約においても改正民法に従った条項にする必要があります。建物賃貸借契約での連帯保証人の条項は、国土交通省住宅宅地審議会答申で作成した標準賃貸借契約連帯保証人型では、以下の通りになっています。 第○○条(連帯保証人) 連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。 2 前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。 3 丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。 4 丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。 ○ポイントは、「極度額を限度」とすることで、この極度額は、当事者間の協議で決めます。この極度額について、国交省HPに「極度額に関する参考資料」が掲載されています。以下、その要旨を紹介します。この資料を参考にすると、賃貸借契約個人連帯保証人極度額は、月額賃料の12ヶ月(1年分)程度が標準になると思われます。 平成30年3月30日 国土交通省 住宅局住宅総合整備課 極度額に関する参考資料 平成29年民法改正(平成32年4月1日施行)において、個人の根保証は極度額を限度として責任を負うこと(改正民法第465条の2第1項)、また、極度額の定めのない保証契約は無効となること(同条の2第2項)が規定され、これらの規定は、住宅の賃貸借契約に基づく賃料や損害賠償債務等を保証する連帯保証人にも適用されることとなります。 これを踏まえて、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)」には、極度額を記載する欄を設けることとしましたが、具体的な極度額の設定にあたっては、貸主及び連帯保証人等の関係当事者間で充分協議を行うことが必要です。 国土交通省においては、具体的な極度額の設定に資するよう、下記調査を実施したところであり、その結果等について、別紙のとおり公表いたしますので、関係当事者間の協議にあたって参考としてください。 (1)家賃債務保証業者の損害額に係る調査 家賃債務保証業者が借主に代わって、貸主に支払った滞納家賃等のうち、借主に求償しても回収することができなかった損害額を調査したものです。 (2)家賃滞納発生に係る調査 賃貸住宅管理会社に対して、家賃滞納の発生から明渡訴訟等に至る1,000 件あたりの件数や平均的な期間、最終的に借主から回収することができなかった家賃額等を調査したものです。 (3)裁判所の判決における連帯保証人の負担額に係る調査 裁判所の判決における連帯保証人の負担額に係る調査裁判所の判決において、民間賃貸住宅における借主の未払い家賃等を連帯保証人の負担として確定した額を調査したものです。 (1)家賃債務保証業者に対する損害額の調査結果 調査の概要 【調査対象】国土交通省の家賃債務保証業者登録制度に登録している家賃債務保証業者 13社 【対象期間】各事業者が保有する平成28 年又は平成29 年のデータのうち直近で集計可能な過去1年分又は直近の1,000 件 ただし、事業者によって集計可能なデータの保有状況が異なるため、具体的な対象期間は異なります。 【調査期間】平成29 年12 月~平成30 年2月 【調査内容】家賃、損害額 損害額については、家賃債務保証業者が借主に代わって貸主に支払った、家賃、共益費、管理費、駐車場料金、更新料、残置物撤去費、修繕費、違約金等の総額から、借主に求償して回収した金額を控除し、求償から一定期間が経過し、損害額として判断された残額としました。 なお、家賃、共益費、管理費以外の費目や、損害額として判断するために 要する一定期間は、事業者ごとに異なります。 【調査方法】メールによる調査票(エクセルファイル)の送付 【集計件数】20,886 件 ※ 求償から一定期間が経過し、損害額とされた残額の調査であるため、損害の発生していない件数は含まれません。 【集計方法】賃料帯を以下の8つに設定し、集計しています。 ① 4万円未満 ⑤ 16 万円~20 万円未満 ② 4万円~8万円未満 ⑥ 20 万円~30 万円未満 ③ 8万円~12 万円未満 ⑦ 30 万円~40 万円未満 ④ 12 万円~16 万円未満 ⑧ 40 万円以上 調査結果 ①賃料4万円未満の物件の損害額 ・10 万円未満が44.5% ・30 万円未満が80.0% ・中央値は11.5 万円、平均値は17.7 万円、最高額は178.4 万円 ②賃料4万円~8万円未満の物件の損害額 ・20 万円未満が51.9% ・40 万円未満が75.7% ・中央値は19.0 万円、平均値は28.2 万円、最高額は346.0 万円 ③賃料8万円~12 万円未満の物件の損害額 ・30 万円未満が43.3% ・70 万円未満が74.6% ・中央値は35.6 万円、平均値は50.0 万円、最高額は418.6 万円 ④賃料12 万円~16 万円未満の物件の損害額 ・40 万円未満が41.8% ・100 万円未満が71.9% ・中央値は49.9 万円、平均値は71.2 万円、最高額は369.3 万円 ⑤賃料16 万円~20 万円未満の物件の損害額 ・50 万円未満が41.3% ・120 万円未満が70.0% ・中央値は64.8 万円、平均値は97.3 万円、最高額は478.5 万円 ⑥賃料20 万円~30 万円未満の物件の損害額 ・70 万円未満が42.0% ・160 万円未満が70.8% ・中央値は85.8 万円、平均値は126.2 万円、最高額は606.8 万円 ⑦賃料30 万円~40 万円未満の物件の損害額 ・70 万円未満が40.3% ・180 万円未満が71.0% ・中央値は104.5 万円、平均値は156.8 万円、最高額は887.4 万円 ⑧賃料40 万円以上の物件の損害額 ・210 万円未満が41.7% ・500 万円未満が72.2% ・中央値は270.0 万円、平均値は437.3 万円、最高額は2,445.3 万円 (2)家賃滞納発生に係る調査結果 (中略) (3)裁判所の判決における連帯保証人の負担額に係る調査 調査の概要 【調査対象】民間賃貸住宅の賃貸借契約における連帯保証人に負担を命じた裁判所の判決 【調査期間】平成29 年11 月~平成29 年12 月 【調査内容】裁判所、裁判年月日、賃料等、滞納月数、確定額、連帯保証人の負担額等 なお、負担額については、判決時点で支払いや明渡しが行われたものとして 負担総額を算出しています。 【対象期間】平成9年11 月~平成28 年10 月(裁判年月) 【調査方法】民間の判例検索システムを用いたキーワード検索(「賃貸借」and「連帯保証」and「住宅」)による調査。 なお、検索結果のうち、 ① 民間賃貸住宅であること ② 使用目的が居住目的のみであること ③ 連帯保証人に負担を命じたものであること を満たすものを抽出しました。 【対象件数】91 件 ※ 91 件の内訳は、最高裁判所1件、東京地方裁判所90 件。東京地方裁判所の判決には、簡易裁判所の控訴審としての判決(1件)を含みます。 調査結果 裁判所の判決において、民間賃貸住宅における借主の未払い家賃等を連帯保証人の負担として確定した額は、平均で家賃の約13.2 か月分でした。 ■ 裁判所の判決における連帯保証人の負担額 負担総額/月額家賃等(月) 平均値 最小値 中央値 最大値 13.2 2 12 33 ※ 負担総額には、未払い家賃のほか、原状回復費用、損害賠償費等が含まれます。 以上:3,727文字
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