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同僚の言動を違法とは認定せず会社の責任を否定した地裁判例紹介

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令和 2年 2月19日(水):初稿
○「上司の言動をパワハラと認定せず会社の責任を否定した地裁判例紹介」の続きで、被告会社の従業員である原告が、同じく被告会社の従業員である被告B及び被告Cの悪質かつ非人道的な発言により、多大な精神的苦痛を被った旨主張し、被告B及び被告Cに対しては不法行為(民法709条)に基づき、被告会社に対しては使用者責任(民法715条1項)に基づき、慰謝料及び弁護士費用の合計330万円と遅延損害金の連帯支払を求めました。

○これに対し、被告Bが本件発言をしたこと自体は非難に値するが、感情的になってしまった点において、全くもって理解できないものではなく、また、本件発言はその場限りのものであって、一方的かつ執拗なものではないうえに、被告Bは、煙草を一服して興奮状態が静まった後、原告に対して謝罪の言葉を述べており、本件発言が違法とまでは認め難く、また、被告Cは、本件発言のうち、退職を迫る趣旨の発言に賛同する意を示したものと認められるところ、本件発言は違法とまでは認め難いから、被告Cの言動も違法とは認められないとして、原告の請求をいずれも棄却した平成31年1月23日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。

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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,連帯して330万円及びこれに対する平成30年2月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,被告○○株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員である原告が,同じく被告会社の従業員である被告B(以下「被告B」という。)及び被告C(以下「被告C」という。)の悪質かつ非人道的な発言により,多大な精神的苦痛を被った旨主張し,被告B及び被告Cに対しては不法行為(民法709条)に基づき,被告会社に対しては使用者責任(民法715条1項)に基づき,慰謝料及び弁護士費用の合計330万円並びにこれに対する不法行為の後の日(被告Cに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)被告会社は,ビルの清掃請負及び管理等を業とする株式会社である。
 原告,被告B及び被告Cは,いずれも被告会社の従業員である。
(2)原告は,持病の継続加療目的で総合病院を受診したところ,平成29年3月10日実施の造影MRI検査等により肝細胞癌と診断され,同年4月21日に大学付属病院に入院の上,同月29日に手術を受け,同年5月13日に退院した。(甲6,7)
(3)原告は,上記入院等に伴い,被告会社での勤務を休んでいたが,退院の数日後から勤務を再開した。(原告本人)
(4)被告Bは,平成29年8月28日(以下「本件当日」という。),被告会社の本社事務室において,原告に対し,「お前は,ここにいる価値がない。なぜ,ここにいるのだ。退職しろ。」,「お前は,そのまま癌で死んでしまえばよかったのだ。」などと発言した(以下「本件発言」という。)。
 本件発言があった際,同事務室内又はその付近に,被告C及び被告会社の常務取締役E(以下「E常務」という。)等が居合わせていた。

2 争点
(1)本件発言の違法性の有無(被告Bの不法行為責任)
(2)被告Cの言動及びその違法性の有無(被告Cの不法行為責任)
(3)本件発言が被告会社の「事業の執行について」(民法715条1項)なされたものか否か(被告会社の使用者責任)
(4)損害額

3 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件発言の違法性の有無)について

【原告の主張】
 本件発言は、癌の再発という死の恐怖に直面している原告に対するものとして,悪質かつ非人道的というほかなく,原告の人格権を侵害し,違法である。
 被告Bが本件発言に至る経緯として主張するところは,被告会社における曖昧な管理体制や被告BとE常務との不十分な意思疎通等に起因するものであり,原告に責められるべき事情はない。また,本件発言後の謝罪は,自発的かつ真摯なものとはいえず,その後の被告Bの言動からして,反省は見受けられない。 

【被告Bの主張】
 被告Bは,原告の入院中,原告が責任者となっていたドン・キホーテa店(以下「a店」という。)の清掃業務につき,原告の代役を務めるなどして苦労してきたところ,本件当日,原告に対し,欠員の穴埋めをお願いしたのに,これを無下に断られ,やるかたなく感じた。被告Bは,この時の原告の態度が過去の原告によるパワーハラスメントを想起させるものであったことも相まって,感情的になり,本件発言に至ってしまった。
 このように,本件発言に至る経緯には原告にも責められるべき事情がある上,本件発言は感情的になされた1回限りの発言であり,しかも,被告Bはすぐに原告に対して謝罪し,原告もこれを受入れている。したがって,本件発言に違法性はない。

(2)争点(2)(被告Cの言動及びその違法性の有無)について
【原告の主張】
 被告Cは,違法な本件発言に「そうだ。」と言って同調し,原告の精神的苦痛を増大させた。かかる被告Cの言動も,原告の人格権を侵害するものとして,違法である。

【被告Cの主張】
 本件発言に違法性はない。また,被告Cは,本件発言のうち,「退職しろ。」といった部分につき,「そうだ。」と述べたに過ぎず,そのような被告Cの発言に違法性はない。

(3)争点(3)(本件発言が被告会社の「事業の執行について」(民法715条1項)なされたものか否か)について
【原告の主張】
 本件当日,E常務の下,欠員補充という被告会社の業務体制に関する話し合いが行われていたものであり,本件発言は,その話し合いの場において発せられたものである。したがって,被告Bの本件発言及びこれに同調する被告Cの発言は,被告会社の事業の執行について行われたものというべきである。

【被告会社の主張】
 本件発言は,従業員同士が個人的に担当業務の調整を試みた際に出たものであり,被告会社の関与はない。従業員同士での担当業務の話し合いの中で,本件発言のように,人の生死に関わる言葉が出てくることは,被告会社において到底予測できないものである。したがって,被告Bの本件発言及びこれに同調する被告Cの発言は,被告会社の事業の執行について行われたものとはいえない。

(4)争点(4)(損害額)について
【原告の主張】
 原告は,被告Bの本件発言及びこれに同調する被告Cの発言により,計り知れない精神的苦痛を受けたものであり,これを金銭的に慰藉するには300万円を下らない。
 また,原告は,本件訴訟の追行を弁護士に委任し,報酬として30万円の支払を約束した。
 したがって,原告には上記金額の合計330万円の損害が生じている。

【被告らの主張】
 争う。

第3 争点に対する判断
1 認定事実

 前記前提事実,関係各証拠(証人E常務,原告本人,被告B本人,被告C本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1)原告,被告B及び被告Cの立場等
ア 被告会社は,ビルの清掃請負及び管理等を業とし,正社員10名ほどの規模で,120件ほどの清掃現場を抱えていた。被告会社では,慢性的な人手不足にあり,役員を含め,人手の足りない業務を補い合う状況であった。
イ 原告は,昭和24年○月○○日生まれの男性であり,平成24年2月1日,被告会社に採用された。原告は,社長室長やb営業所長という肩書の下,主として,清掃業務の受注や立上げ(受注した清掃現場における作業体制の確立等)等,営業に関する業務を担当していた。
ウ 被告B及び被告Cは,いずれも,管理課長という肩書の下,複数の清掃現場において,現場責任者としてアルバイト従業員等を管理して清掃業務を遂行する立場にあり,人手の足りない場合には,清掃作業を分担するなどしていた。

(2)本件発言に至る経緯
ア 原告は,前職の人脈を通じ,a店の清掃業務を受注し,原告と被告Bがその業務の立上げ等を行った。
イ 被告Bは,原告の入院以降,a店の清掃業務における現場責任者を務めていたところ,本件当日の数日前,本件当日のa店におけるシフトに欠員が出ることが明らかになった。そこで,被告Bは,同店のトイレ清掃を原告に分担してもらおうと考え,E常務にその旨提案した。
ウ E常務は,原告が退院後間もないこともあり,被告Bの提案に難色を示した。しかし,被告Bは,原告が癌の手術を受けたことを知っていたものの,トイレ清掃であれば身体的な負担は大きくない上,原告が1泊2日の出張を要望するほど回復していると考えていたため,E常務の承諾を得て,直接,原告に対してトイレ清掃の分担を要請することとした。

(3)本件発言の状況
ア 本件当日の朝,被告B,被告C,E常務及び総務の女性職員が本社事務室に出勤し,その後,原告が午前8時40分頃に出勤した。
イ 被告Bは,出勤した原告に対し,a店におけるトイレ清掃を分担するよう要請した。原告は,被告Bが体調を気遣う発言をしなかったことや,十分な説明もないまま上記要請をしたことに気分を害し,「無理。」と述べてこれを断った。
ウ 被告Bは,原告の態度に腹を立て,声を荒げて原告を非難し,これに対し,原告も声を荒げて応じたため,2人はしばらくの間言い争いとなった。
エ 被告Cは,言い争いの途中,両名に対して「うるさい。」と注意した後,本社事務室を出て,その隣にあるガレージや倉庫において,当日の作業の準備を始めた。
オ 被告Bは,原告との言い争いの中で,本件発言をした。これに対し,原告は,「退職勧告する権限はないだろう。」,「人権侵害だ。」などと言い返した。
カ 被告Cは,ガレージや倉庫で作業中,本件発言のうち,原告に対して退職を迫る趣旨の発言が聞こえた。被告Cは,日頃から原告に対して悪感情を抱いていたため,「そうだ。」などと発言し,退職を迫る趣旨の被告Bの発言に賛同する意を示した。

(4)本件発言の後の状況
ア 被告Bは,本件発言の後,本社事務室の隣にあるガレージに移動し,原告との言い争いが終了した。
イ 被告Bは,ガレージで煙草を一服した後,本社事務室に戻り,原告に対し,「すみません。」などと謝罪の言葉を述べた。
ウ 被告Bは,その後,被告Cとともに,当日の作業を予定していた現場へ向かった。

2 争点(1)(本件発言の違法性の有無)について
 確かに,本件発言は,癌の手術から間もない原告に対し,強い不快感や屈辱感を与えるものであり,不適切な発言というほかない。

 しかしながら,本件発言は,原告と被告Bがお互いに興奮状態で言い争いをする中,感情的かつ突発的に発せられたものといえる。被告Bは,慢性的な人手不足にある被告会社において,現場責任者としてシフトの欠員補充に迫られる中,原告の詳しい病状や体調を知らないまま,原告に対してトイレ清掃を要請したところ,これを「無理。」の一言で断られたのであり(しかも,原告としては,被告Bが体調を気遣う発言をしなかったことや,十分な説明をしなかったことに気分を害していたというのであるから,断り方にとげがあったことが窺える。),被告Bが本件発言をしたこと自体は非難に値するが,感情的になってしまった点において,全くもって理解できないものではない。

 また,本件発言はその場限りのものであって,一方的かつ執拗なものではない。加えて,被告Bは,煙草を一服して興奮状態が静まった後,原告に対して謝罪の言葉を述べている。
 これらの事情を総合的に見ると,本件発言が違法とまでは認め難い。


3 争点(2)(被告Cの言動及びその違法性の有無)について
 被告Cは,本件発言のうち,退職を迫る趣旨の発言に賛同する意を示したものと認められるところ(認定事実(3)カ),前述のとおり,本件発言は違法とまでは認め難いから,被告Cの言動も違法とは認められない。

第4 結論
 以上のとおり,被告Bの本件発言及び被告Cの言動は,いずれも違法とは認められないので,両名は原告に対して不法行為責任を負わない。そうすると,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,いずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部 裁判官 森田淳
以上:5,133文字

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