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継続的給付債権として4分3相当部分を差押禁止債権非該当とした高裁決定紹介

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令和 1年10月 8日(火):初稿
○「継続的給付債権として4分3相当部分を差押禁止債権とした地裁決定紹介」の続きで、その抗告審の平成30年6月5日東京高裁決定(金融法務事情2110号104頁、判時2413・2414号合併号36頁)を紹介します。

○相手方(債務者)の母である抗告人が、債務弁済契約公正証書の執行力のある正本に基づき、抗告人の相手方に対する損害賠償請求権等を請求債権とし、相手方が保険契約に基づき第三債務者に対して有する年払保険金(年金)支払請求権あるいは同保険契約が解約された場合には解約返戻金請求権を差押債権として、債権差押命令を申し立てたところ、原審が、本件債権は「債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権」(民事執行法152条1項1号)に当たるから、その4分の3に相当する部分は差押禁止債権に当たるとして、同部分についての申立てを却下していました。

○この決定について、却下部分の取消しを求めた事案で、本件保険契約は、もともと祖母が、その相続対策のために、相手方に年金保険の形式で生前贈与したものであり、当時、相手方は、両親の扶養の下にあり、特に生活に困窮するような状況にはなかったこと、本件保険契約に係る保険金を受給しなくとも生活に困窮するような状況にあるとは思われないことに照らせば、本件債権は、民事執行法152条1項1号に定める「生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権」には該当しないから、本件債権の全額を差し押さえることができるとして、本件債権の4分の3について、差押えの申立てを却下した原決定を変更し、差押えを命じました。

○民事執行法第152条の「生計を維持するために」とは、「債務者及びその家族の最低限度の生活を保障するなどの社会政策的配慮に基づくもの」であり、「本件保険契約に係る保険金を受給しなくとも、生活に困窮するような状況にあるとは思われない」として、4分の3相当部分は、差押禁止債権には該当しないとしました。本件では妥当な解釈と思います。

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主   文
1 原決定を次のとおり変更する。
(1)抗告人の申立てにより、別紙請求債権目録記載の債権の弁済に充てるため、同目録記載の執行力ある債務名義の正本に基づき、相手方が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。
(2)相手方は、前項により差し押さえられた債権について、取立てその他の処分をしてはならない。
(3)第三債務者は、(1)により差し押さえられた債権について、相手方に対し、弁済をしてはならない。
2 申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告状」及び「執行抗告理由書」のとおりである。

第2 事案の概要
 抗告人は相手方(債務者)の母であり、平成30年3月4日、債務弁済契約公正証書の執行力のある正本に基づき、抗告人の相手方に対する損害賠償請求権等を請求債権とし、相手方が保険契約(以下「本件保険契約」という。)に基づき第三債務者に対して有する年払保険金(年金)支払請求権(以下「本件債権」という。)あるいは同保険契約が解約された場合には解約返戻金請求権を差押債権として、水戸地方裁判所土浦支部に対し、債権差押命令(同支部平成30年(ル)第100号)を申し立てたところ、同支部は、本件債権は「債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権」(民事執行法152条1項1号)に当たるから、その4分の3に相当する部分は差押禁止債権に当たるとして、同部分についての申立てを却下した。
 本件は、抗告人が、同決定について、前記却下部分の取消しを求めた事案である。

第3 判断
1 当裁判所は、本件債権は、民事執行法152条1項1号に定める「生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権」には該当しないから、本件債権の全額を差し押さえることができると判断する。
 その理由は、次のとおりである。

2 一件記録によれば、次の事実を認めることができる。
(1)本件保険契約は、平成22年3月30日、相手方の祖母である乙野花子(以下「祖母」という。)が、相手方を被保険者として、第三債務者との間で締結した積立利率金利連動型年金(α型)保険契約である。

(2)年金保険においては、保険料負担者と年金受取人が異なる場合、年金の支払が確定した時点で、年金受取人は年金受給権を保険料負担者から贈与によって取得したものとみなされ、年金受給権評価額として贈与税額が算出されることとなるため、一時払保険料相当額を現金として贈与した場合よりも贈与税を圧縮することが可能となるものであり、本件保険契約も、前記内容を活用した贈与対策プランとして紹介されており、祖母に対しても、本件保険契約締結に際して前記内容が説明され、祖母は、相手方を含む孫4人を被保険者として、それぞれ前記内容の各保険契約を締結した。

(3)本件保険契約の一時払保険料7500万円は祖母により一括で支払済みであり、平成23年3月30日から、毎年3月30日に、年額257万2735円が相手方に支払われている。

(4)相手方は、本件保険契約に係る保険金支払開始時には23歳で、両親と同居しており、特に生計の維持のために本件保険契約に係る保険金の受給が必要な状況にはなかった。
 その後、相手方は、家族に反発して自宅を出て、アルバイトをするなどしているが、抗告人が、本件債権の平成29年3月30日支払分について、その4分の1を差し押さえ、残り4分の3については、相手方の口座に振り込まれたところを差し押さえて年払保険料全額を回収し、平成30年3月30日支払分についても、同様に年払保険料全額を回収したが、相手方は、特に異議を述べたり、振込口座を変更するなどしていない。

3 民事執行法152条1項1号は、「債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権」について、4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)について差押えを禁じているが、それは債務者及びその家族の最低限度の生活を保障するなどの社会政策的配慮に基づくものである。

 ところで、前記のとおり、本件保険契約は、その継続的給付の形式が、年に一度、一定額が支払われるという年払のもので、その実質としても、もともと祖母が、その相続対策のために、相手方に年金保険の形式で生前贈与したものであり、当時、相手方は、両親の扶養の下にあり、特に生活に困窮するような状況にはなかったこと、現在の相手方の生活状況は明確ではないが、本件保険契約に係る保険金を受給しなくとも、生活に困窮するような状況にあるとは思われないことに照らせば、本件債権は、民事執行法152条1項1号に定める債権に該当すると認めることはできず、本件債権の全額を差し押さえることができると解するのが相当である。

4 よって、本件債権の4分の3について、差押えの申立てを却下した原決定は相当ではないから、原決定を変更することとして、主文のとおり、決定する。
裁判長裁判官 甲斐哲彦 裁判官 脇由紀 裁判官 内野俊夫

【別紙】差押債権目録
金1939万0452円
債務者が、下記保険契約に基づき、第三債務者に対して有する、本命令送達日以降支払期の到来する〔1〕年払保険金(年金)支払請求権のうち、各支払期に受ける金額から所得税、住民税、及び社会保険料を控除した残額の4分の1にして、支払期の早いものから頭書金額に満つるまで
〔1〕により完済されないうちに下記保険契約が解約されたときは、〔2〕解約払戻金請求権にして、〔1〕と合計して頭書金額に満つるまで

       記
証券番号 《略》
保険種類 積立利率金利連動型年金(α型)
年払保険金種類 確定年金
保険金支払開始日 平成23年3月30日
支払期間 36年
支払日 3月30日
分割支払回数 1回
年額 257万2725円
受取人 債務者
被保険者 債務者
以上
以上:3,384文字

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