令和 1年10月 7日(月):初稿 |
○相手方(債務者)の母である抗告人(債権者)が、債務弁済契約公正証書の執行力のある正本に基づき、抗告人の相手方に対する損害賠償請求権等を請求債権とし、相手方が保険契約に基づき第三債務者に対して有する年払保険金(年金)支払請求権あるいは同保険契約が解約された場合には解約返戻金請求権を差押債権として、債権差押命令を申し立てました。 ○これに対し、抗告人は、年払保険金(年金)支払請求権については、4分の1の金員のみならず、本件年金の支払請求権の全部を差押債権として挙げ、本件差押命令の申立てをしているが、本件年金に係る債権は、「債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権」(民事執行法152条1項1号)に当たると認められ、その4分の3に相当する部分は差押禁止債権に当たるとして、本件年金の支払請求権のうち、4分の3に相当する部分については申立てを却下した平成30年3月16日水戸地方裁判所土浦決定(判時2413・2414号合併号41頁)を紹介します。 ○民事執行法の差押禁止債権に関する条文は以下の通りです。 第152条(差押禁止債権) 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。 一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権 二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権 ○生命保険会社と締結する私的な年金給付契約に基づく継続的給付債権は、上記民事執行法第152条1項一号の規定で、「生計を維持するために支給を受ける」場合は、4分の3相当部分は差押が禁止されます。問題は「生計を維持するために」との解釈です。本件では、「単に債務者がアルバイトをしているというだけでは、本件年金が『生計を維持するために』支給を受けるものであることは否定されない」とされました。 ○なお、公的な年金債権は全額差押禁止債権とされており、その根拠条文は以下の通りです。 国民年金法第24条(受給権の保護) 給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、年金給付を受ける権利を別に法律で定めるところにより担保に供する場合及び老齢基礎年金又は付加年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。 厚生年金法第41条(受給権の保護及び公課の禁止) 保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、年金たる保険給付を受ける権利を別に法律で定めるところにより担保に供する場合及び老齢厚生年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。 ************************************************* 主 文 1 債権者の申立てにより、上記請求債権の弁済に充てるため、別紙請求債権目録記載の執行力ある債務名義の正本に基づき、債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。 2 債務者は、前項により差し押さえられた債権について、取立てその他の処分をしてはならない。 3 第三債務者は、第1項により差し押さえられた債権について、債務者に対し、弁済をしてはならない。 4 債権者のその余の申立てを却下する。 理 由 1 債権者は、別紙差押債権目録記載の年払保険金(年金)(以下、「本件年金」という。)支払請求権については、4分の1の金員のみならず、本件年金の支払請求権の全部を差押債権として挙げ、本件差押命令の申立てをしている。 2 しかしながら、本件年金に係る債権は、「債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権」(民事執行法152条1項1号)に当たると認められ、その4分の3に相当する部分は差押禁止債権に当たる。 これに対して、債権者は、本件年金に係る保険契約は、債務者の祖母が、相続税対策の一環として、債務者に生前贈与を行う目的で締結されたものであること、債務者がアルバイトによって生計を立てており、本件年金がなければ生活を維持できない状況にはないこと等を主張して、本件年金は「生計を維持するために」支給を受けるものではない旨主張する。 しかしながら、仮に上記契約が上記の目的で締結されたものであるとしても、本件年金が「生計を維持するために」支給を受けるものであることは直ちに否定されない。また、債務者の収入等は明らかでないところ、単に債務者がアルバイトをしているというだけでは、本件年金が「生計を維持するために」支給を受けるものであることは否定されない(なお、債権者は、債務者の資力等につき、疎明資料の追加を行わない。)。 したがって、債権者の主張によっても上記の結論は左右されない。 3 よって、主文第4項記載のとおり、本件年金の支払請求権のうち,4分の3に相当する部分については申立てを却下する。 裁判官 高木航 【別紙】当事者目録 抗告人 X 上記抗告人代理人弁護士 小柳茂秀 同弁護士 伊藤一志 被抗告人 Y 第三債務者 Z生命保険株式会社 代表者代表取締役 甲野太郎 【別紙】請求債権目録《略》 差押債権目録《略》 以上:2,258文字
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