平成30年 7月25日(水):初稿 |
○建物建築請負工事を依頼して完成した建物が、引渡後、3ヶ月程度で床にカビが生えてきたので、床下に潜って調査したら床下土台木材の含水率が数十パーセントもあったという事案の相談を受け、似たような事案の裁判例を探しています。 ○竹集成材を多く用いた建物が築後間もなくカビや虫害が発生し、かつ、床下の基礎ピットに水が溜まるという欠陥が生じたことから、建築を依頼した原告が、当該成材の使用を勧めて当該建物の建築設計監理に当たった被告A及び当該竹集成材を納入した業者である被告Bを相手に損害賠償を請求した事案がありました。 ○これについて被告Aには建物の立地条件や湿度などの気候条件をも勘案した成材の選択を誤り、床下ピットに水が溜まる施工監理上の責任もあること、被告Bにも本件建物に用いられた竹集成材に欠陥があったものと推認されることを理由に、原告による被告Aに対する補修工事費用の損害賠償請求(全部認容)及び被告Bに対する不法行為による損害賠償請求(一部認容)を認めた平成16年9月14日東京地裁判決(WLJ)が見つかりました。参考箇所を紹介します。 ******************************************* 4 被告Aの責任原因について (1) 被告Aは、原告と本件建物の設計監理契約を締結し、専門家として、その技術水準において、誠実に業務を遂行する義務があった。本件建物の設計に当たっては、その立地条件を十分検討し、適切な材料の選択を行うことは当然の責務である。 (2) 本件建物の敷地は、斜面を切土した地盤であり、通風が不良であることは被告Aの代表者Bも認識し、それ故に3方にドライエリアを設けるなどの設計上の配慮をしている。そうであるならば、竹がでんぷん質、糖分を多く含み、かびや虫害に弱いという特質について十分な検討が必要であったと言うべきである。 (3) 本件建物のかび、虫害は、竹集成材に集中し、他の木材と明らかな有意差をもって現れているのであるから、竹集成材を本件建物に採用することは、結果的に誤りであったと考えるべきである。 (4) Bはその本人尋問で、竹集成材を用いた建築を行ったのは本件が2回目であり、被告Oから提供された竹集成材のデータを十分検討し、それまでの竹集成材の欠点を克服したと判断できたので採用した、提供されたデータが正しければ、本件のようなかび、虫害、建具の歪みは起こらなかったと述べる(したがって、原因はひとえに竹集成材の欠陥であるという。)。 しかし、本件で提出されている資料は、竹集成材の物性のデータであり(乙2)、防かび・防虫に関するデータの提出はない。したがって、本件建物の立地条件においても、竹集成材が他の木材と同程度にかび、虫害に対応できると判断した根拠は明らかでない。また、Bは、竹の特性として一旦乾燥させると湿度を吸いにくいという特性があると述べるが(本人尋問49頁)、被告Oの代表者Cの本人尋問(23頁)では、木材と違って、水分を吸い込む性質を持っていると述べるところと食い違いがある。どちらの見解が正しいか確定はできないが、Bがどれほど竹の特性について精通していたのか疑問を抱かざるを得ない。 (5) したがって、被告Oから提供されたデータで、本件竹集成材を他の木材と同程度の配慮で本件建物に用いて設計した点において、被告Aに落ち度があったと言わざるを得ない。 (6) また、本件建物の床下ピットの水の滞留の原因は、前記のとおり、雨水が西側ドライエリアから大量に流入し、連通管から各ピットに回ること、基礎床面のレベルの誤差にあると認められる。雨水が大量に流れ込むことの問題は、建物の設計上の問題であり、基礎床面のレベルの誤差は施工上の問題と考えられる。基礎床面のレベルの誤差は、排水という観点で重要なポイントであり、施工監理の任にある被告Aは、基礎工事が完成した時点において、基礎工事の出来に問題がないか点検する義務がある。 Bが本人尋問で述べるとおり、連通管が基礎床面よりも高い位置にあることを指摘したというのであるから、基礎工事の出来上がりについて点検していたのであるが、基礎床面のレベルが正しく施工されているかどうかの点検を見逃していたというほかはない。この点で、被告Aに施工監理上の落ち度があったと言うべきである。なお、床下ピットの水の滞留は、本件建物のかび・虫害の原因の一つとなっており、その関連での落ち度でもある。 (7) 以上によれば、被告Aは、設計監理契約上の義務の不履行を原因として、原告の後記損害を賠償する義務があると言うべきである。 5 被告Oの責任原因について (1) 本件建物のかび、虫害、歪みの原因の一つに本件集成材の防かび・防虫処理、乾燥の不完全な点があることは前述のとおりである。その欠陥が製造過程のどの段階で生じたものであるか詳細に確定することは困難であるが、中国での生産について被告Oがこれを指導する立場にあったことに照らせば、どの段階における問題かを問わずに、被告Oに落ち度があったと推認することができる。 (2) また、竹集成材の物性的・化学的仕様について基準が設定されているわけではないから、通常の品質を記述する数値的表現はない。しかし、被告Oが販売に当たって、使用場所等を制限するなどをせず、他の木材同様にあるいはそれ以上に水に強いことを標榜していることに照らせば、通常の使用においてかびが発生するのは建材としての通常の性質を具備していないと言うほかはない。 (3) 被告Oは、平成8年10月11日の打合せ(丙4)において、施工業者に対して、竹集成材の加工に当たっては、削った部分に防かび剤、防虫剤を塗布するよう指示したと主張する。施工業者の担当者である証人Fは、このような指示があったことを否定している。 Cは、その本人尋問で、上記の趣旨をBやFに話した旨述べるが、もし、平成8年10月11日の打合せにおいて、施工業者において、防かび剤、防虫剤の塗布が必要であるということになれば、その薬剤費、手間の問題が生じ、施工業者としては、ただ単に了解しましたということにはならないはずである。その費用・手間が軽微であるならばともかく、作成した建具、取り付ける造作のうち、相当程度の部分に防かび剤、防虫剤の塗布が必要であるということになれば、竹集成材の採用自体に伴う予算の再検討の問題が生ずることになる。 しかし、上記打合せにおいて、竹集成材の使用量が大幅に増加しながら、特に変更契約を行わなかったことに照らせば、単価としては予定していた他の木材と異ならないことを前提にしていたと考えられる。そうすると、施工業者にしても、設計監理者の被告Aにしても、建築現場での防かび・防虫剤の再度の塗布ということは意識になかったと考えられる。また、前記のとおり、補修工事をしてもなおかびの発生がみられたことに照らせば、本件竹集成材の欠陥は表面の防かび剤、防虫剤の存否の問題ではないことが窺われることも併せ考えると、被告Oのかびの原因を施工業者の加工に求める上記主張は採用しがたい。 (4) 被告Oは、かび・虫害の原因を本件建物の環境、構造からくる高湿度にある旨主張する。前記のとおり、本件建物の環境、構造さらに床下ピットの水の滞留等の欠陥にかび・虫害の原因があり、また、本件竹集成材が通常の性状を備えていないことも相まって発生したものであると判断するので、この点の主張が被告Oを免責させるものでないことは、改めて述べる必要がない。 (5) 被告Oは、不法行為を原因として、原告の後記損害のうち、竹集成材の除去に伴う工事費用の損害を賠償する義務がある。 6 損害について (1) 既に述べたとおり、本件建物には、竹集成材のかび、虫害、建具の歪みがあり、その程度に照らせば、その全部を撤去して、その関連の造作、建具の工事が必要である。また、床下ピットへの雨水の流入、水の滞留についても手直し工事を必要とする。 (2) その費用の総額は、甲23によれば、1302万1050円(消費税込み)と認められる。そのうち、床下ピットの瑕疵補修に要する費用は、直接費用94万9672円(90万4450円に消費税を加算した金額)と現場管理費及び一般管理費14万5602円(算出方法は下記のとおり。)の合計109万5274円である。竹集成材の瑕疵補修に要する費用は、工事総額1302万1050円から109万5274円を除いた1192万5776円である(原告の計算方法は、一般管理費全部を竹集成材の瑕疵補修に要する費用に算入している点で不相当である。)。 (1,058,600+590,000)*904,450 10,752,750*1.05=145,602 (現場管理費+一般管理費)×雨水対策工事費÷全体費用×消費税率 (3) 原告は、Nコーポレーションと和解契約を締結し、上記の損害のうち240万円の支払を受けているから、これをそれぞれ控除すると、損害全体の残額は1062万1050円であり、竹集成材の瑕疵補修に要する費用の損害の残額は952万5776円である。被告Aは、損害全体の残額の支払義務があり、被告Oは、竹集成材の瑕疵補修費用の損害の残額の支払義務がある(金額の重なる限度で不真正連帯の関係になる。)。 (4) 被告Aは、原告の建物管理に問題があり、初期の段階で対処していれば、被害の発生を最小限度に止められたはずであると主張する。しかし、前記のとおり、原告の建物の管理状況について特に問題があったとは認められないし、平成9年12月に行われた補修工事にもかかわらず、被害が拡大していったものである。竹集成材の問題は、応急措置で対処できるものではなく、その全部を撤去して造作及び建具の取り替えが必要であるから、前記の工事は必要不可欠なものというべきであるし、過失相殺の余地もない。 7 以上の次第であるから、原告の被告Aに対する請求は、損害金1062万1050円に対する訴状送達の日の翌日である平成11年6月18日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金を求める部分を含めて全部理由があり、被告Oに対する請求は、損害金952万5776円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年6月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、これを超える部分は理由がない(被告Oに対する請求は、不法行為を理由とするから、商事法定利率による遅延損害金の請求は理由がない。)。よって、主文のとおり判決する。 (裁判官 浅香紀久雄) 以上:4,361文字
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