平成30年 3月28日(水):初稿 |
○自動車売買で所有権留保の合意がされ,代金債務の保証人が販売会社に代金残額を支払った後,購入者の破産手続が開始した場合において,その開始の時点で自動車につき販売会社名義の登録がされているときは,保証人は,留保所有権を別除権として行使することができるとした平成27年12月7日最高裁判決(金融法務事情2080号6頁)を紹介します。 ○事案は以下の通りです。 ・自動車販売会社から自動車を購入したAの売買代金債務を連帯保証した被上告人(原告・被控訴人)Xが、保証債務の履行として販売会社に売買代金残額を支払う ・Xは販売会社に留保されていた自動車の所有権を法定代位により取得したと主張し、上記支払後に破産手続開始の決定を受けたAの破産管財人の上告人(被告・控訴人)Yに対し、別除権の行使として自動車の引渡しを求めた ・一審、控訴審ともXの主張を認め、YにXへの自動車引渡を命じたので、Yが上告 ******************************************** 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告人の上告受理申立て理由について 1 本件は,札幌トヨタ自動車株式会社(以下「本件販売会社」という。)から第1審判決別紙物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)を購入した者(以下「本件購入者」という。)の売買代金債務を連帯保証した被上告人が,保証債務の履行として本件販売会社に売買代金残額を支払い,本件販売会社に留保されていた本件自動車の所有権を法定代位により取得したと主張して,上記支払後に破産手続開始の決定を受けた本件購入者の破産管財人である上告人に対し,別除権の行使として本件自動車の引渡しを求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)本件購入者,本件販売会社及び被上告人は,平成25年8月20日,三者間において,本件販売会社が本件購入者に対し本件自動車を割賦払の約定で売却すること,売買代金債権を担保するため本件販売会社に本件自動車の所有権が留保されること(以下,この留保される所有権を「本件留保所有権」という。),被上告人が本件購入者の委託を受けて本件購入者の本件販売会社に対する売買代金債務を連帯保証することなどを内容とする契約を書面により締結し,同契約において,要旨,次のとおり合意した。 ア 本件購入者が売買代金の支払を1回でも怠り,被上告人が売買代金残額の一括弁済を必要と認めたときは,被上告人は,本件購入者に通知・催告することなく,保証債務の履行として本件販売会社に売買代金残額を支払うことができる。 イ 被上告人が保証債務の履行として本件販売会社に売買代金残額を支払った場合には,民法の規定に基づき,被上告人は当然に本件販売会社に代位して売買代金債権及び本件留保所有権を行使することができることを確認する。 ウ 本件購入者は,期限の利益を喪失したときは,被上告人が代位取得した売買代金債権の弁済のため,直ちに本件自動車を被上告人に引き渡す。 エ 被上告人は,上記ウにより引渡しを受けた本件自動車について,その評価額等をもって,売買代金債権の弁済に充てる。 (2)本件自動車について,平成25年8月20日,所有者を本件販売会社,使用者を本件購入者とする新規登録がされ、本件販売会社は,その頃,本件購入者に本件自動車を引渡した。 (3)被上告人は,本件購入者が売買代金の支払を怠ったため,平成26年9月2日,本件販売会社に対し,上記(1)アに基づいて,保証債務の履行として売買代金残額を支払った。 (4)本件購入者は,平成27年5月13日,破産手続開始の決定を受け,上告人が破産管財人に選任された。 3 所論は,本件自動車について本件購入者の破産手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録がされていない以上,被上告人が本件留保所有権を別除権として行使することは許されないのに,別除権の行使が許されるとした原審の判断には,法令解釈の誤り,判例違反がある旨をいうものである。 4 自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ,売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後,購入者の破産手続が開始した場合において,その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは,保証人は,上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができるものと解するのが相当である。その理由は,以下のとおりである。 保証人は,主債務である売買代金債務の弁済をするについて正当な利益を有しており,代位弁済によって購入者に対して取得する求償権を確保するために,弁済によって消滅するはずの販売会社の購入者に対する売買代金債権及びこれを担保するため留保された所有権(以下「留保所有権」という。)を法律上当然に取得し,求償権の範囲内で売買代金債権及び留保所有権を行使することが認められている(民法500条,501条)。 そして,購入者の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車については,所有権が留保されていることは予測し得るというべきであるから,留保所有権の存在を前提として破産財団が構成されることによって,破産債権者に対する不測の影響が生ずることはない。そうすると,保証人は,自動車につき保証人を所有者とする登録なくして,販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができるものというべきである。 5 以上によれば,被上告人は,上告人に対し,本件留保所有権を別除権として行使することができる。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例(最高裁平成21年(受)第284号同22年6月4日第二小法廷判決・民集64巻4号1107頁)は,販売会社,信販会社及び購入者の三者間において,販売会社に売買代金残額の立替払をした信販会社が,販売会社に留保された自動車の所有権について,売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため,販売会社から代位によらずに移転を受け,これを留保する旨の合意がされたと解される場合に関するものであって,事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 池上政幸 裁判官 小池裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口厚) 以上:2,712文字
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