平成29年12月20日(水):初稿 |
○建物賃貸借契約の賃料の増減については、以下の旧借家法第7条、現行借地借家法第32条で「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約」は有効ですが、増額する特約については、賃貸人の一方的意思のみで増額要求ができる旨の特約は、原則として無効と解されています。 旧借家法第7条 第7条 建物ノ借賃カ土地若ハ建物ニ対スル租税其ノ他ノ負担ノ増減ニ因リ、土地若ハ建物ノ価格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ建物ノ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキハ契約ノ条件ニ拘ラス当事者ハ将来ニ向テ借賃ノ増減ヲ請求スルコトヲ得 但シ一定ノ期間借賃ヲ増加セサルヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ従フ 借地借家法第32条(借賃増減請求権) 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 ○古い判例ですが、家屋の賃貸人が契約更新時に賃料の増額請求をしたときには賃借人は右請求を異議なく承認する旨の特約は、借家法7条の趣旨に照らし無効であるとした昭和50年8月13日大阪地裁判決(判例タイムズ332号303頁)全文を紹介します。 なお、自動定率増額特約(自動改訂特約)については、限定的に有効とする判例もあり、別コンテンツで紹介します。 ********************************************** 主 文 原告が被告甲野太郎に賃貸している別紙物件目録記載の(一)の建物部分の賃料を昭和49年1月1日から一か月金2万9530円に確定する。 原告が被告乙野二郎に賃貸している同目録記載の(二)の建物部分の賃料を同日から一か月金2万9530円に確定する。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は3分しその1を原告の、その余を被告らの各負担とする。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 一 原告会社 原告が被告甲野太郎に賃貸している別紙物件目録記載の(一)の建物部分の賃料を昭和49年1月1日から一か月金3万4000円に確定する。 原告が被告乙野二郎に賃貸している同目録記載の(二)の建物部分の賃料を同日から一か月金3万2500円に確定する。 訴訟費用は被告らの負担とする。 との判決。 二 被告ら 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 との判決。 第二 当事者の事実上の主張 一 本件請求の原因事実 (一) 原告会社は、被告甲野太郎に対しては昭和47年1月末日から、別紙物件目録記載の(一)の建物部分を、被告乙野二郎に対しては昭和44年4月8日から、同目録記載の(二)の建物部分を、クーラー、ガスレンジ、瞬間湯沸器、換気扇、照明器具、流台などの造作設備一切付きで賃貸している(1年ごと更新)。 被告甲野太郎に対する昭和47年1月末日からの月額賃料は、一か月金2万8000円、被告乙野二郎に対する昭和46年5月末日からの月額賃料は、金2万6000円である。 (二) この現行賃料は、公租公課の増額、土地建物価格の上昇、諸物価の高騰並びに近隣家賃の上昇により著しく不相当になつたので、原告会社は、昭和48年11月24日、被告甲野太郎に対しては昭和49年1月1日からの月額賃料を金3万4000円に、被告乙野二郎に対しては同日からの月額賃料を金3万2500円にそれぞれ値上げする旨の意思表示をした。 なお、原告会社と被告らとの間の賃貸借契約には、原告会社から1年に年1割の範囲内の割合による賃料値上げの請求があつたときには、被告らは異議なく承諾する旨の特約がある。原告会社がした値上げの請求は、前記特約にもとづく。 (三) そこで、原告会社は、被告らに対する賃貸部分の月額賃料が昭和49年1月1日から被告甲野太郎が金3万4000円、被告乙野二郎が金3万2500円であることの確定を求める。 二 被告らの答弁と主張 (認否) (一) 本件請求の原因事実中第一項の事実は認める。 (二) 同事実中第二項の事実のうち、原告会社から賃料値上げの意思表示のあつたこと、本件賃貸借契約に原告会社主張の特約のあることは認め、その余の事実は争う。 (抗弁) 原告会社主張の特約は、借家法7条に違反し無効である。 第三 証拠関係(省略) 理 由 一 本件請求の原因事実中第一項の事実は、当事者間に争いがない。 二 原告会社主張の特約について 本件賃貸借契約には、1年ごとに契約を更新する際、原告会社から年1割を超えない範囲内で賃料の増額請求をしたときには、賃借人は異議なく承認する旨の特約のあることは当事者間に争いがない。 しかし、当裁判所は、この特約が次の理由で効力がないと判断する。 (1) 借家法7条には、賃料の増減の発生要件が規定されているのであるから、賃貸人は、同条によるしか、賃料増額の請求はできない筋合である。もし、特約が有効であるとすると、賃貸人は、同条の要件がなくても、賃料増額の請求ができ、賃借人は、その値上額に拘束される結果になり、これでは、賃借人の利益が無視されるばかりか、同条の規定の存在価値がなくなつてしまう。 (2) 同条一項但書は、賃料を一定期間増額しない特約を有効としている。この反対解釈からして、借家法は、賃料を当然増額する特約の存在を認めない趣旨であると解される。 三 原告会社主張の借家法七条による賃料増額請求について (一) 原告会社は、昭和48年11月24日、被告甲野太郎に対しては昭和49年1月1日から月額賃料を金3万4000円に、被告乙野二郎に対しては同日から月額賃料を金3万2500円に、それぞれ値上げする旨の意思表示したことは当事者間に争いがない。 そうして、被告甲野太郎の月額賃料が昭和47年1月末日から金2万8000円、被告乙野二郎の月額賃料が昭和46年5月末日から金2万6000円であることも当事者間に争いがない。 (二) ところで、被告らの現行賃料がきめられた昭和46年5月ないし昭和46年1月と賃料増額の意思表示のあつた昭和48年11月24日ころとを比較したとき、経済事情が変つた結果その賃料が不相当になつたことは、当裁判所に顕著な事実である。そうすると、原告会社の被告らに対する賃料増額の請求は、借家法7条の要件があることに帰着する。 鑑定人丙野三郎の鑑定の結果によると、昭和49年1月1日現在の本件賃借建物部分の適正賃料は、いずれも金2万9530円であることが認められ、この鑑定の結果が、不合理、不相当であることが認められる資料はない。そこで,当裁判所は、この鑑定の結果を採用してその賃料額を確定することにする。 四 むすび 原告会社が被告らに賃貸中の本件各建物部分の昭和49年1月1日からの月額賃料を、いずれも金2万9530円に確定することにし、これを超える原告会社の本件請求部分を棄却し、民訴法89条、92条、93条に従い主文のとおり判決する。 (裁判官 古崎慶長) (別紙)物件目録 豊中市○○四丁目38番地、38番地の二 家屋番号同町38番 軽量鉄骨造陸屋根三階建共同住宅一棟 床面積 一階 141・66平方メートル 二階 160・55平方メートル 三階 160・55平方メートル 附属建物 鉄パイプ造ポリエステル葺平家建車庫 床面積 48・06平方メートル (一) 被告甲野太郎の賃借部分 二階四室のうち東端の室(40平方メートル) (二) 被告乙野二郎の賃借部分 三階四室のうち西から二番目の室(40平方メートル) 以上:3,149文字
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