平成27年 6月23日(火):初稿 |
○「事前求償権を被保全債権とする仮差押えと事後求償権の消滅時効の中断2」の続きで、控訴審平成24年5月24日大阪高裁判決全文(金融法務事情1981号112頁)です。 ******************************************* 主 文 1 控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。 2 事前求償金等請求及び事後求償金等請求に関する控訴費用は、控訴人らの負担とする。 3 事前求償金等請求に関する原判決(控訴費用に関する裁判も含む。)は、被控訴人が、当審において、第1審が棄却した事前求償請求を事後求償請求との選択的請求へと併合態様を変更し、当審が事後求償請求を認容したことにより、失効している。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人らの控訴(事後求償金等請求について) (1) 控訴の趣旨 ア 事後求償金等請求(以下「事後求償請求」という。)に関する原判決(以下「事後求償原判決(編集部注:後掲原審①)」という。)を取り消す。 イ 被控訴人の事後求償請求を棄却する。 (2) 控訴の趣旨に対する答弁 控訴人らの控訴を棄却する。 2 被控訴人の控訴(事前求償金等請求について) (1) 控訴の趣旨 ア 事前求償金等請求(以下「事前求償請求」という。)に関する原判決(以下「事前求償原判決(同後掲原審②)」という。)を取り消す。 イ 控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して504万7009円及びこれに対する平成6年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(事後求償請求との選択的請求) (2) 控訴の趣旨に対する答弁 被控訴人の控訴を棄却する。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 (1) 請求の骨子 本件は、控訴人春雄の銀行からの借入債務につき信用保証委託を受け代位弁済した被控訴人が、控訴人春雄に対しては、同額の事後求償権又は事前求償権に基づき、控訴人夏穂に対しては、その連帯保証契約に基づき、連帯して求償金504万7009円及びこれに対する平成6年11月19日(代位弁済日の翌日)から支払済みまで事後求償金については年14パーセント、事前求償金については年5分の各割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 (2) 訴訟の経過 ア 原審の判断 原審においては、被控訴人の事後求償請求と事前求償請求とが単純併合されており、原審は、それぞれについて次のとおり判断した。 (ア) 事後求償請求について 原審は、控訴人らの消滅時効の抗弁を認めたが、被控訴人が主張する時効中断効とその継続を認め、また控訴人らの権利濫用の抗弁を排斥して、事後求償請求を認容した(事後求償原判決)。 (イ) 事前求償請求について 原審は、控訴人らの代位弁済による消滅の抗弁を認め、事前求償請求を棄却した(事前求償原判決-追加判決〔民訴法258条1項〕)。 イ 双方の控訴 (ア) 控訴人らは事後求償請求について、被控訴人は事前求償請求について、それぞれ原判決を不服として控訴した。 (イ) 被控訴人は、当審において、原審が棄却した事前求償請求につき、遅延損害金請求の起算点に関わる代位弁済日の誤りを改め(平成6年11月8日から同月18日に訂正)、これに伴い請求を減縮した上で、後期(ウ)の弁論併合後、事前求償請求と事後求償請求との選択的請求へと併合態様を変更した。 (ウ) 当裁判所は、平成23年(ネ)第3120号事件(事後求償金等請求控訴事件)に平成24年(ネ)第504号事件(事前求償金等請求控訴事件)を併合した。 2 当事者の主張 (1) 原判決の引用 当事者の主張は、次の(2)(3)のとおり原判決を補正し、(4)のとおり被控訴人の当審補充主張を付加するほかは、事後求償原判決2頁3行目から6頁14行目まで(同本誌本号119頁右段44行目~121頁右段21行目)、事前求償原判決2頁3行目から4頁末行まで(同123頁左段7行目~124頁左段13行目)に各記載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 事後求償原判決の補正 ア 同原判決2頁12行目「履行を求め、」から文末まで(同120頁左段11~13行目)を、「履行を求めたときは、被控訴人は、控訴人らに対し通知・催告せずに代位弁済することができる。」と改める。 イ 同原判決2頁21行目(同120頁左段21行目)の「上記第1(1)の」を「本件」と、同原判決4頁2行目(同右段21行目)の「上記1(1)の」を「本件信用保証委託」と各改める。 ウ 同原判決4頁7行目(同120頁右段27~28行目)の「求償金請求権」を「事後求償請求権」と、同頁8行目(同29行目)の「同請求権に対する」を「上記(6)の」と改める。 エ 同原判決4頁18・19行目(同120頁右段43行目)の「第2回口頭弁論」を「同日の原審第2回口頭弁論」と改める。 オ 同原判決6頁12行目(同121頁右段18~19行目)の「本件求償債権」を「本件求償権」と改める。 (3) 事前求償原判決の補正 ア 同原判決3頁23行目及び4頁4行目(同123頁右段23行目・30行目)の各「11月8日」をいずれも「11月18日」と改め、同原判決4頁8行目及び17行目(同35行目・124頁左段2行目)の各「11月9日」をいずれも「11月19日」と改める。 イ 同原判決4頁20・21行目全文(同124頁左段6~8行目)を「請求原因事実はすべて認める。」と改める。 ウ 同原判決4頁22行目から同頁末行まで(同124頁左段9行目~13行目)を次のとおり改める。 「 3 抗弁 (1) 代位弁済 被控訴人は、平成6年11月18日、訴外銀行に対し、504万7009円を代位弁済したから、被控訴人の事前求償権は消滅している。 (2) 消滅時効 被控訴人の事前求償権は、これを行使しえた時から5年が経過し、消滅している。 4 抗弁に対する認否 抗弁(1)(2)の各事実は認め、主張は争う。 5 再抗弁(抗弁(2)に対し) 被控訴人の事前求償権は、本件仮差押えによって消滅時効が中断している。 6 再抗弁に対する認否、再々抗弁、再々抗弁に対する認否は、事後求償原判決5頁9行目から6頁14行目まで(同121頁左段22行目~右段21行目)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、「本件求償権」を「事前求償権」と読み替える。)。」 (4) 被控訴人の当審補充主張 被控訴人らは、被控訴人の代位弁済による事前求償権の消滅を抗弁として主張する。 しかしながら、主債務者から委託を受けた保証人の事前求償権は、同保証人が代位弁済により保証債務全部を履行しても消滅せず、保証人が新たに取得した事後求償権と併存する。 したがって、被控訴人は事前求償権を失っておらず、控訴人らの主張は抗弁として成立しない。 第3 当裁判所の判断 1 事後求償請求について (1) 請求原因及び抗弁(消滅時効) 請求原因事実及び抗弁事実は、当事者間に争いがない。 (2) 再抗弁(時効中断) ア 再抗弁の事実中、本件信用保証委託契約に基づく被控訴人の事前求償権につき、これを被保全債権として平成6年10月17日付け仮差押命令(本件仮差押え)があったことは、当事者間に争いがない。 イ しかしながら、控訴人らは、事前請求権についての本件仮差押えによる時効中断効が事後求償権(本件求償権)に及ぶことを否定するので、以下、この点について検討する。 (ア) 検討1 a 確かに、事前求償権と事後求償権とは、その発生事由及び消滅事由を異にし、債権内容も異なるから、両者は別個の権利であり、その法的性質も異なるものというべきである(事後求償権の消滅時効の起算点に関する最高裁60年2月12日第三小法廷判決・民集39巻1号89頁参照)。 しかしながら、そもそも事前求償権は、保証人が債権者に対する免責行為をしたことにより取得する事後求償権を保全するために認められた権利であり、このことは、事前求償権の発生事由(民法459条1項前段、460条各号)又は消滅事由(同法461条)が、すべて事後求償権を保全する必要性の発生又は消滅に依拠していることからも明らかである。 とすれば、両者は、たとえ法的性質が異なる別個の権利ではあっても、密接な関係にあるというべきであり、事後求償権の発生後であっても、その保全の必要性があれば、事前求償権について認められた権利の行使を事後求償権についても認めるのが相当である。 b 本件仮差押えは、まさに本件求償権を保全するために行使された事前求償権に基づくものであるところ、事前求償権の行使によって事後求償権が保全されなくなるというのは本末転倒であり、また、事前求償権保全のため本件仮差押えをした保証人に、免責行為後に事後求償権保全のため改めて仮差押えをすべきことを求めるというのも不合理であるから、本件求償権発生後は、本件仮差押えにより本件求償権も保全されているとみるべきである。 したがって、事前求償権についての本件仮差押えは、事後求償権についても、被控訴人の代位弁済により本件求償権が発生した平成6年11月18日に効力が及び、同日、消滅時効が中断したと解するのが相当である。 c したがって、控訴人らの主張は採用できない。 (イ) 検討2 仮差押命令は、当該命令に表示された被保全債権と異なる債権についても、これが上記被保全債権と請求の基礎を同一にするものであれば、その実現を保全する効力を有する(最高裁平成23年(受)第268号同24年2月23日第一小法廷判決・裁判所時報1550号17頁)。 本件仮差押えの被保全債権は、本件信用保証委託契約に基づく事前求償権であるが、本件信用保証委託契約に基づく事後求償権とは請求の基礎を同一にするものであり、本件仮差押命令は、本件信用保証委託契約に基づく事後求償権の実現も保全する効力を有するから、本件仮差押命令に基づく消滅時効中断の効力は、本件求償権(事後求償権)にも及び、消滅時効が中断したと解するのが相当である。 (3) 再々抗弁1(時効中断効の消滅) 控訴人らは、仮に本件仮差押えによる本件求償権の時効中断が認められうるとしても、その時効中断効は本件仮差押えの執行手続の完了により終了し、再び時効の進行が開始すると主張する。 しかしながら、仮差押による時効中断の効力は、仮差押の執行保全の効力が存続する間は継続すると解するのが相当である(最高裁昭和59年3月9日第二小法廷判決・裁判集民事141号287頁等参照)。 なぜなら、民法147条が仮差押えを時効中断事由としているのは、それにより債権者が、権利の行使をしたといえるからであるところ、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者による権利の行使が継続するものと解すべきだからであり、このように解したとしても、債務者は、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができるのであって、債務者にとって酷な結果になるともいえないからである(最高裁平成10年11月24日第三小法廷判決・民集52巻8号1737頁参照)。 したがって、控訴人らの主張は採用できない。 (4) 再々抗弁2(権利の濫用) 控訴人らは、本件仮差押え後16年以上本件訴訟が提起されず、もはや本件求償権は行使されないと信頼して生活してきたもので、その信頼は法的保護に値し、他方、被控訴人は、能力的、資力的に何らの妨げがないのに本件訴訟を提起してこなかったのであるから、本件求償権の行使は権利の濫用であると主張する。 しかしながら、控訴人らは、前記平成10年最高裁判決が指摘するように、本件仮差押え後、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができた。他方、証拠(甲9ないし11)によれば、控訴人春雄は、平成6年10月4日、被控訴人に対し、もはや住民票上の住所では生活しておらず、新たな住居、連絡先は明かせない旨告げたこと、訴外銀行の控訴人ら宛て同月5日付け内容証明郵便は到達せず、訴外銀行の調査によっても控訴人らの新たな居住地の情報は得られなかったことが認められ、被控訴人が本件訴訟を早期に提起できなかった合理的な事情が認められる。 したがって、本件求償権の行使が権利の濫用であるとは認められず、控訴人らの主張は採用できない。 (5) まとめ したがって、被控訴人は、控訴人春雄に対しては事後求償権に基づき、控訴人夏穂に対しては連帯保証契約に基づき、連帯して求償金504万7009円、及びこれに対する平成6年11月19日(代位弁済日の翌日)から支払済みまで年14パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めることができ、選択的請求である事前求償請求について(当審補充主張を含む。)判断するまでもなく、被控訴人の請求は認められる。 2 結論 以上の次第で、被控訴人の各請求は理由があるから、これを認容した事後求償原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 なお、事前求償原判決は、被控訴人が、当審において、第1審が棄却した事前求償請求を事後求償請求との選択的請求へと併合態様を変更し、当審が事後求償請求を認容したことにより、失効しているので、その旨を判決主文3項で注記した。 (裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 田中 敦・堀内有子) 以上:5,452文字
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