平成27年 6月23日(火):初稿 |
○判例時報平成27年6月11号に掲載された事前求償権を被保全債権とする仮差押えと事後求償権の消滅時効の中断に関する平成27年2月17日最高裁判決(判時2254号24頁)を紹介します。 平成2年2月;X(信用保証協会)はY1と信用保証委託契約締結 同年5月;Y1は、A銀行が貸越極度額500万円の貸越契約締結を締結し、Xが信用保証委託契約に基づきY1の連帯保証 平成6年10月;Y1がA銀行に対する分割債務支払遅滞のため、XがY1所有不動産に事前求償権を被保全債権とする仮差押登記 同年11月;Y1の期限の利益喪失によりXがA銀行にY1借入金残元本を代位弁済してY1に対し事後求償権取得 平成22年12月;XはY1およびその連帯保証人Y2に対し、事前求償権および事後求償権約504万円と遅延損害金の訴え提起、Yら消滅時効の抗弁 一審大津地裁は、事前求償・事後求償を分離して、事後求償については平成23年9月14日判決で認容し、事前求償については平成24年1月13日判決で、Xの請求事前求償権は消滅しているとして,請求を棄却 控訴審平成24年5月24日大阪高裁判決(金融法務事情1981号112頁)は、両者を併合し、Xが事後求償権請求と事前求償権請求を単純併合から選択的併合へと変更し、その上で、一審同様前者を認容すべきものと判断して、前者に関するXらの控訴を棄却し、選択的関係にある両者のうち、前者を認容したため、後者に対する判断は不要とした ○平成27年2月17日最高裁判決(判時2254号24頁)は、事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有すると明言しました。 ******************************* 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人井木ひろしの上告受理申立て理由1について 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1) 上告人Y1(以下「上告人Y1」という。)は,平成2年5月11日,株式会社Aとの間で,貸越極度額500万円の貸越契約を締結した。その際,被上告人は,上告人Y1との間で同年2月26日に締結した信用保証委託契約(以下「本件信用保証委託契約」という。)に基づき,Aに対し,上記貸越契約に基づく上告人Y1の債務を保証した。上告人Y1は,Aから,上記貸越契約に基づき借入れをし,平成6年10月当時の借入残元本の金額は,499万9548円であった。 (2) 上告人Y2は,平成2年2月26日,被上告人との間で,本件信用保証委託契約に基づき上告人Y1が被上告人に対して負担すべき債務について連帯保証する旨の契約をした。 (3) 上告人Y1がAに対する前記(1)の債務につき約定の分割弁済をしなかったため,被上告人は,平成6年10月17日,上告人Y1を債務者として,上告人Y1所有の不動産につき,本件信用保証委託契約に基づく事前求償権を被保全債権とする不動産仮差押命令の申立てをし,同日に仮差押命令を得て,仮差押登記をした。 (4) 上告人Y1は,平成6年11月4日,Aに対する前記(1)の債務の期限の利益を失った。被上告人は,同月18日,Aに対し,前記(1)の借入残元本499万9548円及び約定利息4万7461円の合計額504万7009円を代位弁済し,上告人Y1に対する求償権を取得した。 (5) 被上告人は,平成22年12月24日,上告人Y1及びその連帯保証人である上告人Y2に対し,前記(4)の求償権等に基づき,連帯して504万7009円及び遅延損害金の支払を求める本件訴訟を提起した。上告人らが上記求償権の消滅時効を主張するのに対し,被上告人は前記(3)の事前求償権を被保全債権とする仮差押えにより消滅時効が中断していると主張して争っている。 2 原審は,事前求償権を被保全債権とする仮差押えは,民法459条1項後段の規定に基づき主たる債務者に対して取得する求償権(以下「事後求償権」という。)の消滅時効をも中断する効力を有するなどとして,被上告人の請求を認容すべきものとした。 3 所論は,事前求償権と事後求償権とが発生要件等を異にし,別個の権利であることに照らせば,事前求償権を被保全債権とする仮差押えによっては事後求償権の消滅時効は中断しないと解すべきであるというものである。 4 事前求償権を被保全債権とする仮差押えは,事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有するものと解するのが相当である。 その理由は,次のとおりである。 事前求償権は,事後求償権と別個の権利ではあるものの(最高裁昭和59年(オ)第885号同60年2月12日第三小法廷判決・民集39巻1号89頁参照),事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるから,委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば,事後求償権についても権利を行使しているのと同等のものとして評価することができる。 また,上記のような事前求償権と事後求償権との関係に鑑みれば,委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをした場合であっても民法459条1項後段所定の行為をした後に改めて事後求償権について消滅時効の中断の措置をとらなければならないとすることは,当事者の合理的な意思ないし期待に反し相当でない。 5 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 木内道祥 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 山崎敏充) **************************************** 事前求償権に関する平成24年1月13日大津地裁判決( 金融法務事情1981号122頁) 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 請求の趣旨 (1) 被告らは、原告に対し、連帯して、金504万7009円及びこれに対する平成6年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 主文第1、2項同旨 第2 当事者の主張 1 請求原因 (1) 信用保証委託契約 被告森井春雄(以下「被告春雄」という。)は、平成2年2月26日、株式会社第一勧業銀行大津支店(以下「訴外銀行」という。)から500万円の借入れをするため、原告との間で、次の事項を特約して信用保証協会法20条に基づく信用保証委託契約を締結した(以下「本件信用保証委託契約」という。)。 第4条 求償権の事前行使 1項 被告春雄または保証人について、次の各号の事由が1つでも生じたときは、原告は代位弁済前に求償権を行使することができる。 5号 借入金債務の一部でも履行を遅滞したとき 2項 原告が前項により求償権を行使する場合には、被告春雄は民法461条に基づく抗弁権を主張しない。 第13条 管轄裁判所の合意 本件に関する訴訟・和解及び調停については、原告の所在地の簡易裁判所を管轄裁判所とする。 (2) 信用保証の実行 原告は、平成2年5月8日、本件信用保証委託契約に基づいて、訴外銀行に対して書面で信用保証した。 (3) 借入れ 被告春雄は、上記(1)の原告の信用保証のもとに訴外銀行から次のとおり貸越契約を締結した。 (ア) 取引契約日 平成2年5月11日 (イ) 貸越極度額 500万円 (ウ) 取引期間 平成4年5月7日。但し原告の変更保証書等が交付されたときは期限の延長をすることができる。 (エ) 弁済方法 約定返済方式(但し貸越残額契約期限一括弁済) (オ) 利率 年7.90パーセント (カ) 期限の利益喪失特約 被告春雄が訴外銀行に対する債務の一部でも履行を遅滞したときは、訴外銀行の請求によって債務の期限の利益を失い、直ちに債務を弁済する。 (4) 条件変更 原告は、被告春雄及び訴外銀行より最終弁済期限の変更の申込みを受け、次のとおり条件変更の保証をし、訴外銀行と被告春雄は次のとおり変更契約を締結した。 (ア) 変更保証日 平成6年5月25日 (イ) 最終弁済期限 平成8年5月7日 (5) 事前求償権の発生 被告春雄は、平成6年8月12日、上記債務につき約定分割返済の履行を遅滞した。 (6) 事前求償権の額 (ア) 本件借入金債務元金 499万9548円(事前求償権発生時における上記借入金債務の残元金) (イ) 本件借入金債務確定利息 4万7461円(上記元金に対する未収利息発生日である平成6年8月12日から原告による代位弁済により平成6年11月8日に本件借入金債務が消滅するまで(99日間(主張どおりの日数))の上記元金に対する年3.50パーセントの確定利息。 (ウ) 遅延損害金 事前求償権は、委託を受けた保証人による委任事務処理費用の前払請求権としての性質を有するものであるところ、本件信用保証契約の委任事務は訴外銀行に対する代位弁済であるから、本件事前求償債務は、本件代位弁済がなされた平成6年11月8日までに支払がなされなかったことをもって、同日遅滞に陥ったというべきである。 (エ) 小括 よって、原告は、被告春雄に対し、上記(ア)(イ)の合計額504万7009円及びこれに対する平成6年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の請求権を有する。 (7) 連帯保証 被告森井夏穂は、平成2年2月26日、原告との間で、被告春雄が本件信用保証委託契約により負担する求償権債務その他の債務について、書面にて連帯保証契約を締結した。 (8) まとめ よって、原告は、被告らに対し、本件信用保証委託契約による事前求償権に基づき、連帯して、504万7009円及びこれに対する平成6年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否 原告の代位弁済日が平成6年11月8日であることは否認し(事実は同月18日である。)、それ以外の事実は全て認める。 3 抗弁 原告は、平成6年11月18日、債権者である訴外銀行に504万7009円を代位弁済した。 4 抗弁に対する認否 抗弁事実は認める。 第3 判断 1 請求原因事実のうち、代位弁済日以外の事実は、当事者間に争いがない。 証拠(甲12)によれば、代位弁済日は、平成6年11月18日であることが認められる。そして、代位弁済日までの本件借入金債務確定利息額は4万7461円である(原告の主張どおり)と認められる。 2 抗弁事実は、当事者間に争いがない。 原告が代位弁済した504万7009円(本件借入金債務元金499万9548円と確定利息額4万7461円の合計額)は、保証債務の全部であり、債権者は全部の弁済を受けたことになる。 原告が本件で被告らに支払を求めるのは、上記の部分のみである。 したがって、本件で原告が請求する事前求償権は、消滅していると認められる。 第4 結論 以上のとおりであるから、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 (裁判官 種村好子) 以上:4,647文字
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