平成26年 3月 5日(水):初稿 |
○「預金口座帰属者についての平成15年2月21日最高裁判決説明1」の続きです。 X保険会社の損害保険代理店A社の関係での「X社代理店A社」名義口座預金が、「X社」・「A社」いずれに帰属するかの問題ですが、この問題には、預金債権の帰属の判定に関する説の対立も関連しています。 ○預金者が誰であるかを認定するための基準は、以下の三説がありました。 ①客観説 金銭出捐者を預金者とします。自らの出損によって、自己の預金とする意思で自らまたは代理人・使者を通じて預金契約をした者が預金者で、預入れ行為者が出損者の金銭を横領し、自己の預金とするなどの特段の事情がない限り、出損者が預金者になります。 ②主観説 預け入れ行為者を預金者とします。 預入れ行為者が、「A代理人B」の様な、他人のための預金であることを表示しない限り、預入れ行為者を預金者となります。 ③折衷説 原則として金銭出捐者が預金者ですが、例外的に預入れ行為者が明示または黙示に自己が預金者であることを表示したときは、預入れ行為者が預金者とします。 ○最高裁は、定期預金については、「定期預金帰属者に関する昭和57年3月30日最高裁判決全文紹介」で「預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で記名式定期預金をしたなどの特段の事情の認められない限り、出捐者をもつて記名式定期預金の預金者と解するのが相当である。」記載したとおり、客観説が確定判例とされています。 ○では、普通預金も客観説かというと、これまで普通預金については最高裁判例は存在しませんでした。普通預金は、いったん預金契約を締結し、口座を開設すると、以後預金者がいつでも自由に預入れ、払戻しをすることができる継続的取引契約で、口座に入金があるたびにその額についての消費寄託契約が成立します。その結果発生した預金債権は、口座の既存の預金債権と合算され、1個の預金債権として扱われます。このような性質を有する普通預金について、預金者を確定するにあたり、ある特定の時点での口座残金についてその出損者を確定することは困難な場合があり、その点、満期まで原則として払戻をしない定期預金とは異なります。 ○平成15年2月21日最高裁判決の前の控訴審判決は、控訴審判決が本件預金債権の帰属の認定について、客観説を採用していました。しかし、平成15年2月21日最高裁判決は、本件の事実関係の下においては、本件預金債権はX保険会社にではなくA保険代理店に帰属するとの事例判断を示しました。本判決が判断の基礎とした事実関係は、 第1に、代理店が「X社代理店A社某」名義の本件預金口座を開設したが、保険会社から普通預金契約締結のための代理権を授与されていなかったこと、 第2に、代理店のみが本件預金口座の通帳および届出印を保管し、人出金事務を行っていたこと です。 ○代理人が第三者から本人のために収受した金銭の所有権が代理人に帰属することは、金銭の所有と占有を一致させる判例・通説からは当然のことです。従って、保険料の所有権は代理店に帰属しますので、出捐者は代理店であるとも評価できます。しかし、本判決は、預金者の帰属を決めるのに、原資の出損者は誰かということを決め手はしませんでした。上記のように「保険会社から普通預金契約締結のための代理権を授与されていなかったこと」と、「代理店のみが本件預金口座の通帳および届出印を保管し、人出金事務を行っていたこと」を理由にこの預金は、A社に帰属すると判断しました。 ○本判決は、最高裁が初めて普通預金の帰属問題について判断を示した一事例判決ですが、今後、関連する問題、例えば、弁護士が依頼者から預かった金銭を保管する預金口座、マンションの管理会社が管理組合から預かった管理料を保管する預金口座、サービサーが顧客の債権を回収した金銭を保管する預金口座等の帰属の問題が争われた場合に参考になります。 以上:1,604文字
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