平成22年 2月25日(木):初稿 |
○仙台では,余り見られませんが、建物賃貸借契約更新の際、一定額の更新料を支払う特約が付される賃貸借契約があり、時にその更新料支払特約の効力が争われてきました。これまでの判例は、いずれもその金額が相当である限り有効であると判断してきました。以下、有効とした代表的判例です。 東京地裁昭和56年11月24日判決(判タ467号122頁) 建物賃貸借における更新料支払の合意はその金額が相当である限り、借家法6条に反しない。 東京地裁昭和54年9月3日判決(判タ402号120頁) 建物賃貸借契約中、更新料として賃借人が賃貸人に対し、賃料の3か月分相当を支払う旨の特約がある場合において、更新料の額が相当額である限り更新料支払の合意は借家法6条を潜脱するものではないとして、この特約を賃料の2か月分とする限度において有効と認める。 東京地裁昭和48年12月19日判決(下民24巻9~12号906頁) 契約更新の際当事者間で授受される更新料の性質をどのように把握するかについては、種々の考え方の存するところであるが、本件賃貸借のように、5年の賃貸期間に対し、店舗については約11か月分の賃料相当の更新料が、また居室についても、約3か月分の賃料相当の更新料が、それぞれ授受されている場合には、単に将来の賃料の補充としての賃料の前払いの意味だけでなく、営業上の利益もしくは場所的利益に対する対価としての意味をも包含しているものと解するのが相当である。 東京地裁平成2年11月30日判決(判時1395号97頁) 本条の文言上「更新の場合」として、更新料の支払に関して更新の事由を限定していないこと、右更新料は実質的には賃料の一部の前払いとしての性質を有するものと推定される。 ○更新料支払特約が存在する場合で、法定更新の場合の更新料支払義務如何は、判例の見解が分かれています。 肯定判例 東京地裁平成2年11月30日判決(判時1395号97頁) 本条の文言上「更新の場合」として、更新料の支払に関して更新の事由を限定していないこと、右更新料は実質的には賃料の一部の前払いとしての性質を有するものと推定されること、賃借人が更新契約をせずに法定更新された場合には更新料の支払義務を免れるとするとかえつて賃貸人との公平を害する恐れがあることなどを考えると、本件賃貸借契約においては法定更新の場合にも本条の適用があり、被告は更新料の支払義務を負うものと解するのが相当であるとして、更新料支払特約について、法定更新の場合にも適用があることを認める。 その他の建物賃貸借契約における更新料支払特約を認めた判例 東京地裁平成4年1月23日判決(判時1440号107頁) 東京地裁平成5年8月25日判決(判時1502号126頁) 東京地裁平成9年6月5日判決(判タ967号164頁) 東京地裁平成10年3月10日判決(判タ1009号264頁 ) 東京地裁平成12年9月29日判決 否定判例 更新料支払特約について法定更新の場合には適用されないと判断した判決 東京地裁平成2年7月30日 そもそも法定更新の際に更新料の支払義務を課する旨の特約は、借家法1条の2、2条に定める要件の認められない限り賃貸借契約は従前と同一の条件をもつて当然に継続されるべきものとする借家法の趣旨になじみにくく、このような合意が有効に成立するためには、更新料の支払に合理的な根拠がなければならないと解されるところ、本件において法定更新の場合にも更新料の支払を認めるべき事情は特に認められないから、この点からしても本件賃貸借契約における更新料支払の特約は合意更新の場合に限定した趣旨と解するのが相当であるとして、法定更新の場合について、更新料支払特約の適用を否定。 その他の建物賃貸借契約における更新料支払特約適用否定判例 東京地裁平成4年1月8日判決(判時1440号107頁) 東京地裁平成9年1月28日判決(判タ942号146頁) 東京地裁平成12年9月8日判決 京都地裁平成16年5月18日判決(裁判所ホームページ) 東京地裁平成16年7月14日判決 東京地裁平成16年10月28日判決 ○ところで消費者法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)「民法、商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」との規定の適用により、建物賃貸借契約更新時更新料支払特約を無効とする判例が現れました。 平成21年8月27日大阪高裁判決(判時2062号40頁)です。 一審平成20年1月30日京都地裁判決(判時2015号94頁)では、更新料は賃料の補充、更新拒絶権放棄・賃借権強化の対価の法的意味があるとして、消費者契約法第10条で無効にはならないと判示していました。 ところが大阪高裁は、本件更新料は賃料の補充、更新拒絶権放棄・賃借権強化の対価とは言えず、契約締結時及び更新時に更新制度等の説明が賃借人になされていない等の事情を考慮し、一見低い月額賃料額を明示して賃借人を誘引する効果があり、情報収集力の乏しい賃借人に借地借家法の強行規定から目を逸らせる役割を果たし、実質的に不平等な地位で賃貸借契約を締結したとして民法1条2項の基本原則に反し消費者契約法10条違反で無効としました。 この判決は上告されており、上告審の最終判断結果が注目されます。 以上:2,264文字
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