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栄養失調凍死と瑕疵担保責任判例紹介5

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平成20年10月18日(土):初稿
「栄養失調凍死・幽霊の噂と瑕疵担保責任判例紹介4」の話を続けます。
 不動産内での自殺と瑕疵の判例は多数ありましたが,不動産内での餓死と幽霊話が瑕疵に該当するとの判例は見出せずちと不安を感じて、請求原因で「詐欺による取消」まで主張しましたが、この点は「積極的に自らの調査内容と異なる虚偽の説明をして原告を騙そうとする故意」までは認められないと排斥されました。こんな曰く付き物件を買わされた方としては「不作為による騙取」を認めて然るべきけしからん事案と確信していました。

○注目すべきは、買主の本件土地建物買受目的が老人通所介護施設利用であることを売主が認識していたので元所有者花子の栄養失調による凍死の事実は重要事実として告知義務があるところ、これをしないのは売主としての債務不履行であり、違約金支払義務があると認めたことです。

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仙台地方裁判所平成18年8月31日判決言渡 その5

2 詐欺による取消について
(1) 当裁判所は、前記前掲事実に証拠(前掲各証拠と後掲の証拠)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件売買契約締結の際の被告会社の原告に対する説明内容が詐欺に該当するとは認めがたいと判断する。その理由は以下のとおりである。
ア 上記1の(1)アのとおり、花子の死因を原告主張のように餓死と表現することは正確性を欠く上、本件建物に幽霊が出るという噂があることについては、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

イ 一方、本件事情に照らすと、被告らの主張のように、花子の死因を病死と表現したり、自然史と変わらないと評価することは妥当とは言えないが、これらの表現や評価は、被告乙野が、8・17売買の際に丁野の家に花子の死体が発見されたときの様子を調査しに行った際、丁野夫婦から聞いた内容をそのまま原告に伝えたに過ぎないことが認められる(甲14,乙2,8,被告会社代表者本人)。

ウ また、被告乙野は、8・17売買にあたり、売主である相続財産管理人の山田弁護士から、花子の死因は重要事項説明書に記載すべき事項には当たらない旨の説明を聞いていた(乙8、被告会社代表者本人)。

エ 以上の事情を総合すると、本件売買契約締結当時、被告乙野に、積極的に自らの調査内容と異なる虚偽の説明をして原告を騙そうとする故意があったとまでは認め難い。

(2) したがって、詐欺による本件売買契約の取消を前提とする原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

3 重大な債務不履行による損害賠償請求について
(1) 当裁判所は、前記前掲事実に証拠(前掲各証拠と後掲の証拠)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告会社は、本件損害賠償の予定特約による損害賠償義務を負うが、被告乙野は上記義務を負わないと判断する。その理由は以下のとおりである。

ア 上記2の(1)アのとおり、花子の死因を餓死と表現することは正確性を欠く上、本件建物に幽霊が出るという噂の存在は認め難いから、被告らにこれを原告に説明すべき義務はない。

イ しかし、被告乙野は、8・17売買にあたり、丁野の家に花子の死体が発見されたときの様子を調査しに行った際、本件建物内で独り暮らしをしていた花子が栄養失調で凍死して数日後に発見されたという事実を丁野夫婦から聞いて知っていた(被告会社代表者本人)。

 被告会社が宅地建物取引業者であることを考慮すると、本件土地建物の売主である被告会社としては、本件売買契約の際、その目的物に関して認識していた事実であってかつその買主にとって重要と考えられる事実については、買主である原告に正確に告知すべき義務があったというべきである。被告会社は、本件売買契約の際、原告が本件土地建物を不特定多数の老人の利用を前提とする通所介護施設として使用することを認識していたのであるから、本件建物内で独り暮らしをしていた花子が栄養失調で凍死して数日後に発見されたという事実が、買主である原告にとって売買取引上重要な事実であると認識し得たと認めるのが相当である(被告会社代表者本人)

ウ そうすると、本件売買契約の際、売主である被告会社が、本件建物内で独り暮らしをしていた花子が栄養失調で凍死して数日後に発見されたという事実を認識しながらこれを原告に説明しなかったことは、本件売買契約上認められる売主の債務の不履行にがいとうすると言わざるを得ない。

 そして、上記1のとおり、被告会社の上記債務不履行と本件解除との間には相当因果関係が認められるから、被告会社は、本件損害賠償の予定特約に基づく損害賠償義務を免れないというべきである。

エ なお、上記説明義務は、本件売買契約に付随するものであり、本件売買契約の当事者ではない被告乙野が個人としてその義務を負うものではないから、原告の被告乙野に対する債務不履行に基づく損害賠償請求は失当といわざるを得ない。

(2) 以上のとおり、被告会社は、本件損害賠償の予定特約に基づき、原告に対し、売買代金額の20パーセント相当額である280万円の損害賠償義務がある。前記前掲事実のとおり、原告は、平成17年6月21日、被告会社に対し、本件解除の意思表示とともに売買代金の返還を請求したが、この催告には上記損害賠償を請求する趣旨も含まれていると認めるのが相当であるから、被告会社は、その翌日である同月22日から、上記損害賠償280万円について遅滞に陥ったというべきである。

(3) したがって、原告の被告会社に対する本件損害賠償の予定特約に基づく損害賠償請求は、280万円及びこれに対する本件解除の日の翌日である平成17年6月22日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、被告会社に対するその余の請求及び被告乙野に対する請求はいずれも理由がないというべきである。

4 被告乙野の責任について
(1) 当裁判所は、前記前掲事実に証拠(前掲各証拠と後掲の証拠)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告乙野の原告に対する不法行為責任は認め難いと判断する。その理由は以下のとおりである。

ア 上記3の(1)アのとおり、花子の死因を餓死と表現することは正確性を欠く上、本件建物に幽霊が出るという噂の存在は認め難いから、被告乙野にこれを原告に説明すべき義務はない。また、上記2の(1)イのとおり、本件売買契約の際の被告乙野の原告に対する説明内容は、被告乙野が、8・17売買の際に丁野の家に花子の死体が発見されたときの様子を調査しに行った際、丁野夫婦から聞いた内容をそのまま原告に伝えたに過ぎないことが認められ、被告乙野が、花子の死因について原告に積極的に虚偽の事実を告げたとは認め難い。

イ 上記3において当裁判所が認定した説明義務は、宅地建物取引業者である被告会社が売主として負担する義務であって、被告乙野が個人として負う義務ではない。

ウ 売買の目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥が当該目的物の瑕疵に当たるかどうかは、具体的事情を壮語して評価・判断される結果、その基準は一義的に明確であるとは言えず、宅地建物取引業者と言えどもその判断は容易ではない。まして、元所有者の死亡に至る原因、経緯等について、どの範囲までの事実を買主に伝えるべきかは、当該売買契約の具体的事情如何によって変わり得るものであり、宅地建物取引主任者の資格を持つ者であっても、その判断は容易ではないと言える。したがって、その判断に結果的に誤りがあったとしても、それだけで不法行為上の過失があったとは言えず、売買契約の当事者ではない個人の不法行為責任を問うことは相当ではない。本件において、花子の死亡に至る原因、経緯等については原告に伝える必要はないとした被告乙野の判断(被告会社代表者本人)に故意又は過失があったとまでは認め難い。

(2) したがって、原告の被告乙野に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

5 よって、主文のとおり判決する。
仙台地方裁判所第1民事部
裁判官 潮見直之

以上:3,339文字

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