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栄養失調凍死と瑕疵担保責任判例紹介4

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平成20年10月17日(金):初稿
「栄養失調凍死・幽霊の噂と瑕疵担保責任判例紹介3」の話を続けます。
今回は、裁判所の判断の前半です。原告の「元所有者花子の本件土地建物内で餓死と幽霊が出るとの噂は通所介護施設建物として契約の目的が達せられない重大な瑕疵に該当するので解除する。」との主張について、「餓死」との表現は正確性を欠く「幽霊が出るとの噂」は証拠上認められないとして冷やっとさせられました。

○しかし、本件土地建物買受目的は老人通所介護施設であり、これを利用する老人は「自分の余命が長くないことを痛切に認識している人々であり、自分の将来がどうなるかについては非常に敏感な人々」であり、「本件建物内で6年前に独り暮らしの女性が栄養失調で凍死して数日後に発見されたなどという事実を耳にすれば、自分の行く末と比較、想像して本件建物に立ち入るのを避けようとする心情になることは容易に予想される」もので、「この点に鑑みれば、花子が本件建物内で死亡したという上記状況事実は、本件売買契約の目的物である本件土地建物の瑕疵を構成する事実に当たると認めるのが相当」と原告主張を認めました。
極めて妥当な判決でした(^^)。

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仙台地方裁判所平成18年8月31日判決言渡 その4

第3 当裁判所の判断
1 瑕疵を原因とする契約解除について
(1) 当裁判所は、前記前提事実に証拠(前掲各証拠のほか、後掲のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事情は、本件売買契約の目的物である本件土地建物に存在する隠れた瑕疵に該当し、買主である原告は本件事情の存在を知らず、かつ、そのために本件売買契約をした目的を達することができないと認められるから、本件解除は有効であると判断する。その理由は以下のとおりである。

ア 売買の目的物に瑕疵がある(民法570条)というのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであり、目的物が通常有すべき設備を有しない等の物理的血管がある場合だけでなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥がある場合も含むと解される。例えば、本件建物内で人が悲惨な死を遂げたことは、売買の目的物たる本件土地建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥に当たる余地があると言える。

 本件の場合、本件土地建物は、花子が、平成10年2月の退院以降、単独生活をしていた場所であり、花子の死体が発見された場所でもある。その様子は、花子が近隣の人との接触・交流もなく本件建物内に独りで引きこもり、平成11年2月1日ころから同月10日ころまでの間に栄養失調により凍死し、その死体が死亡後少なくとも5日以上経過してから見回りに来た民生委員によって発見されるというものであった。室内の様子は、水道管が破裂して水浸しとなっているというものであった。花子の死亡原因及び死亡に至る経緯に関する上記の事情を総合すると、花子の死に至る状況は、独り暮らしの女性の孤独な死と印象を免れず、その発見された状況は、人々に惨めさ、寂しさ、哀れさを強く抱かせるものであると言える(甲23の1ないし3)。

 原告は、本件土地建物を通所型の老人介護施設として利用する目的で購入し、平成17年6月1日から、本件土地建物で通所介護施設「甲」の営業を開始した。本件土地建物は、個人が居住目的で購入したものではないが、「甲」は、不特定多数の老人が利用することを目的とした施設であり、被告会社も原告から説明を受けてその利用目的は知っていた。老人は、自分の余命が長くないことを痛切に認識している人々であり、自分の将来がどうなるかについては非常に敏感な人々である。このような人々が、本件建物内で6年前に独り暮らしの女性が栄養失調で凍死して数日後に発見されたなどという事実を耳にすれば、自分の行く末と比較、想像して本件建物に立ち入るのを避けようとする心情になることは容易に予想される(甲15)。

 この点に鑑みれば、花子が本件建物内で死亡したという上記状況事実は、本件売買契約の目的物である本件土地建物の瑕疵を構成する事実に当たると認めるのが相当である。本件土地建物の所在場所が宮城県の田園地帯に点在する小さな田舎町であり、住民の移動もあまりなく、外部からの転入者も多くない土地柄であることも考えれば、6年という年月は、上記瑕疵を解消するに十分な期間とは言えないし、花子の死亡以降本件売買契約に至るまで本件土地建物について数回の売買取引がなされていること、改修工事により本件建物その外観・内装が相当異なるようになったこと(乙8,11,13被告会社代表者本人)は上記判断を覆すに足りるものではない。

 なお、本件事情に照らし、花子の死因を原告主張のように餓死と表現することは正確性を欠く(原告は自殺の可能性もあると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。)と言わざるを得ないが、被告らの主張のように病死と表現したり、自然死と変わらないと評価することも妥当とは言えない。本件建物に幽霊が出るという噂があることについては、これを認めるに足りる的確な証拠はないが、そのことは上記判断を覆すに足りるものではない。

イ 上記アのとおり、花子の死因は、本件土地建物を通所介護施設として利用する老人にとって、当該施設を利用し得ないような心理的欠陥に十分該当すると言える(甲14,15,。乙2は、上記認定判断の覆すに足りるものではない。)。そのため、「甲」は、職員による利用者開拓の努力にもかかわらず、利用者数及び登録者数は開設後の時間経過とともに減少し、平成17年7月に入ると一人の利用者もいなくなり、同月2日、原告は、「甲」の閉鎖を決定した(甲13,16ないし19、20の1ないし3、21の1ないし8。乙3の1ないし6,4,5の1ないし6,6の1ないし3、7は、上記認定判断を覆すに足りない)。

ウ 被告らは、瑕疵となりうる心理的欠陥かどうかはあくまでも売主として比較的調査が容易な直接的死因だけを考慮すべきで、死亡に至る原因、経緯等は考慮すべきではないと主張するが、瑕疵の認定資料をそのように限定すべき合理的理由はないから、被告らの上記主張は採用できない。

(2) 本件解除は有効であるから、被告会社は、原告に対し、本件売買契約の履行として受領した売買代金1400万円を返還すべき義務を負う(この返還債務は、期限の定めのない債務として成立する。)ところ、前記前提事実のとおり、原告は、平成17年6月21日、被告会社に対し、本件解除の意思表示とともに売買代金の返還を請求したから、被告会社は、その翌日である同月22日から、上記売買代金1400万円について遅滞に陥ったというべきである。

(3) したがって、原告の被告会社に対する本件売買契約の本件解除に基づく原状回復請求は、売買代金1400万円及びこれに対する本件解除の日の翌日である平成17年6月22日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないというべきである。
以上:2,935文字

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