平成20年 3月15日(土):初稿 |
○Aが元夫Bに対する養育費請求権に基づきBの給料債権を差押中にBが多額の債務を抱えて支払不能になり、破産手続開始決定があった場合、この給料差押はどうなるか検討します。 Bに破産手続開始決定があり破産管財人が選任されると破産法第42条(他の手続の失効等) 「破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行又は企業担保権の実行で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。 2 前項に規定する場合には、同項に規定する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行及び企業担保権の実行の手続で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う。」 との規定により給料債権差押の効力を失い、また同法249条で破産管財人のつかない同時廃止事案の場合は免責申立裁判確定まで強制執行が中止されます。 第249条(強制執行の禁止等) 免責許可の申立てがあり、かつ、第216条第1項の規定による破産手続廃止の決定、第217条第1項の規定による破産手続廃止の決定の確定又は第220条第1項の規定による破産手続終結の決定があったときは、当該申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分若しくは破産債権を被担保債権とする一般の先取特権の実行若しくは留置権(商法又は会社法の規定によるものを除く。)による競売(以下この条において「破産債権に基づく強制執行等」という。)、破産債権に基づく財産開示手続の申立て又は破産者の財産に対する破産債権に基づく国税滞納処分はすることができず、破産債権に基づく強制執行等の手続で破産者の財産に対して既にされているもの及び破産者について既にされている破産債権に基づく財産開示手続は中止する。 ○Bに破産手続開始決定が出されて破産管財人がついた場合、破産管財人がBの破産手続開始決定書を添付して執行取消の上申をし、執行裁判所は職権で給料差押命令を取り消し、また同時廃止の場合はB又はその申立代理人弁護士が、同様に執行停止の上申をして執行裁判所は執行を中止します。執行中止の場合は、取消と違って、手続が現状のまま凍結されるだけですので、執行の効力は維持され、債権者の取立は出来なくなりますが、第3債務者の供託は可能です。しかし、免責決定が確定すると執行は破産法249条2項の規定により効力を失いますので、話しはややこしくなり、問題が生じます。 ○養育費債権は非免責債権ですから免責申立には無関係であり、養育料債権に基づく給料差押は破産手続開始決定には無関係だと言えそうですが、決定時に既に発生していた部分は、破産管財人がついた場合は取消になり、同時廃止の場合は中止になって免責許可決定が確定するまでは取立が出来ず、更に確定によって差押の効力は失われ、債務者の免責許可決定確定による執行取消上申を受けて取り消され、結局、この差押手続での回収は不能になるようです。 ○しかし破産手続開始決定後に弁済期の到来する養育費請求権は、破産債権ではなく新債権であり、破産手続開始決定の影響は受けず、給料差押の効力は維持されます。従って破産手続開始決定後に弁済期の到来する養育費請求権についてはAがBの会社に対し、従前通りBには支払わずAに支払えと請求することが出来ます。 ○問題は破産手続開始決定時に既に発生していた破産債権に該当する養育費請求権についての給料差押部分は、破産管財人がついた場合は取消になり、同時廃止決定で破産管財人がつかない場合は強制執行手続が中止になり、AがBの会社に対し取立請求が出来なくなる点です。Aが破産債権で非免責債権である養育費請求権については、取消の場合は取消後に改めて、また同時廃止事案で中止の場合は免責許可確定での失効後に改めて給料債権差押の申立をしなければならなくなるようです。私としては、極めて不合理な扱いと思われますが、破産手続のケジメがつくまでは、非免責債権であっても、取立は一時我慢せよとのことのようです。 以上:1,724文字
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