令和 4年10月 7日(金):初稿 |
○判例タイムズ令和4年10月号に、相続させるとの遺言にも、民法第1002条1項負担付遺贈の規定が適用されるとした令和3年9月29日大阪地裁判決(判タ1499号195頁)が掲載されましたのでその関連部分を紹介します。 事案は以下の通りです。 ・被相続人A、相続人はX1乃至4、代襲相続人B1・2、代襲相続人X5乃至7、Y ・被相続人Aは、Yに甲土地持分3分の1を相続させ、Yは、X1乃至3に各500万円、X4に1000万円、B1・2に各500万円、X5に333万3334円、X6・7に各333万3333円を支払うとの公正証書遺言 ・遺言対象地にはD社所有賃貸用マンションがあり、D社代表者がY ・Yは、Aの遺言は実質遺贈であり、民法第1002条1項が準用ないし類推適用され、遺産対象地の持分価格からD社借地権価額931万円を控除した残額を超えてYがXらに支払う必要はないと主張 ・Xらは、遺産対象地の持分価格は4827万円で、賃借人会社代表者はYで賃料が不当に安いので借地権価額を控除する必要はないと主張 ○判決は、Y主張の民法第1002条1項類推適用を認め、但し、遺産対象地の価格を3175万円として、負担総額4500万円に比例配分した金額の支払を認めました。 民法第1002条(負担付遺贈) 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。 2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。 ********************************************** 主 文 1 被告は,原告X1,原告X2及び原告X3に対し,各352万8359円,原告X4,原告X5及び原告X6に対し,各235万2239円,原告X7に対し,705万6718円,並びにこれらに対する令和2年3月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その3を原告らの,その7を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告X1,原告X2及び原告X3に対し,各500万円,原告X4に対し,333万3334円,原告X5及び原告X6に対し,各333万3333円,原告X7に対し,1000万円及びこれらに対する令和2年3月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は,亡A(以下「亡A」という。)が,その遺産である別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)の持分3分の1(以下「本件持分」という。)を被告に取得させる代わりに,被告が原告X1(以下「原告X1」という。),原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)に各500万円,原告X7(以下「原告X7」という。)に1000万円,亡Bの子である原告X4(以下「原告X4」という。)に333万3334円と原告X5(以下「原告X5」という。)及び原告X6(以下「原告X6」という。)に各333万3333円を支払うとの公正証書遺言をし,平成元年5月19日に死亡したとして,原告らが,被告に対し,本件遺言に基づき,原告X1,原告X2及び原告X3に各500万円,原告X7に1000万円,原告X4に333万3334円,原告X5及び原告X6に各333万3333円及びこれらに対する支払催告日の翌日である令和2年3月11日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実,後掲各証拠並びに弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (中略) 3 争点及びこれに対する当事者の主張 (1) 本件公正証書遺言の性質 【被告】 本件相続させる旨の遺言は,本件負担と抱き合わせになっており,その負担金4500万円の趣旨が明確にされていないことからすれば,遺贈と解すべき特段の事情があるから,本件公正証書遺言には,1002条1項が適用される。 【原告】 本件相続させる旨の遺言は遺産分割の方法の指定であり,遺贈の規定である民法1002条は本件公正証書遺言には適用されない。本件相続させる旨の遺言が,遺産分割の方法の指定ではなく遺贈と解すべき特段の事情はない。 (2) 本件公正証書遺言(遺産分割の方法の指定)に民法1002条1項が準用又は類推適用されるか 【被告】 本件公正証書遺言が遺産分割の方法の指定であるとしても,遺言者が相続人にその受けるべき利益より重い負担を課すことはできず,民法1002条1項の趣旨は,遺産分割方法の指定である相続させる旨の遺言にも当てはまるから,同条を準用又は類推適用すべきである。 【原告】 本件公正証書遺言に民法1002条1項を準用又は類推適用する余地はない。被告が本件持分と本件負担との不均衡を問題とするのであれば,原告らに遺留分減殺請求をすれば足りたが,被告がこれをすることはなかった。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件公正証書遺言の性質) (中略) 2 争点(2)(本件公正証書遺言に負担付き遺贈の規定が準用又は類推適用されるか)について 前記1のとおり,負担付きで「相続させる」趣旨の遺言がされた場合も遺産分割の方法の指定であると解されるところ,当該負担が特定の遺産の価額を超える場合,遺言者の意思として,遺言による遺産分割の方法の指定とともに遺言による相続分の指定によって相続分が変更されたと解すべき場合がある一方で,被相続人である遺言者が相続人間の公平を図る趣旨で特定の遺産を取得する相続人にその対価を他の相続人に支払うことを求めたものの,その後の事情の変更などによって当該負担が特定の遺産の価額を超えたにすぎない場合もある。 そして,遺言者が負担付きで「相続させる」趣旨の遺言をした意図が,相続分の変更を含むものであれば,民法1002条1項が類推適用される余地はなく,遺留分減殺請求による調整や相続放棄による負担からの解放が残るのみであるが,相続人間の公平を図る趣旨に基づくものであれば,特定の遺産の価額を超える負担を特定の相続人に負わせることまでは被相続人として予定していなかったのであり,当該相続人が過大な負担を甘受すべき理由もないのであって,同項の趣旨がこのような遺言にも当てはまることになるから,同項を類推適用するのが相当である。 本件公正証書遺言については,その遺産のうち特定の財産である本件持分に限定したものであり,遺言者である亡Aが,本件負担について,本件持分を取得させる代わりに被告に負わせる意図,すなわち,相続人間の公平を図る趣旨に基づくものであったと解され,これを超えて,本件持分の価額にかかわらず,遺言による相続分の指定によって相続分を変更させる意図まで有していたことはうかがわれない。よって,本件公正証書遺言については,民法1002条1項が類推適用される。 (中略) 4 まとめ 被告は,民法1002条1項の類推適用により,3175万5233円の限度で本件負担に係る義務を履行する責任を負うのであり,原告らの請求は,それぞれの請求額に4500万分の3175万5233を乗じた額及びこれに対する令和2年3月11日(前記前提事実(8)の調停の期日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があることになる。 第4 結論 以上のとおり,原告らの請求は,原告X1,原告X2及び原告X3にそれぞれ352万8359円及びこれに対する上記起算日・割合の遅延損害金の支払を求め,原告X4,原告X5及び原告X6にそれぞれ235万2239円及びこれに対する上記起算日・割合による遅延損害金の支払を求め,原告X7に705万6718円及びこれに対する上記起算日・割合による遅延損害金の支払を求める限りにおいて理由があるから,その限度でこれらを認容することとし,その余はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,よって主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第23民事部 (裁判官 西岡繁靖) 以上:3,472文字
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