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自筆証書遺言を自筆とは認められず無効とした地裁判決紹介

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令和 4年10月 4日(火):初稿
○自筆証書遺言が無効かどうか、遺言無効確認の訴えの提起に関する相談を受け、遺言無効に関する裁判例を探しています。遺言無効訴訟は過去に数件取り扱っていますが、ここ10年以上扱っていません。

○原告aが、亡f名義の本件各遺言書は亡fが自書したものではなく、また、本件各遺言書が作成された際、亡fには遺言能力がなかったから、本件各遺言はいずれも無効であると主張して、他の相続人である被告b、被告c及び被告d並びに本件各遺言に利害関係のある被告eとの間で本件各遺言が無効であることの確認を求めました。亡fの相続人は、原告a、被告b・c・dで、被告eは、亡fの利害関係人で、本件自筆証書遺言は、亡fの依頼で自分が書いたと認めています。

○これに対し、本件各遺言書は、亡fの自筆ではないとして請求を認めた令和3年11月17日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。遺言書について、原告は亡fの自筆でないとする、被告らは亡fの自筆とする、それぞれ相反する内容の筆跡鑑定書を証拠提出しています。判決は、被告eの証言等周辺事情を考慮し、自筆ではないとする鑑定結果を採用しました。

○自筆ではないため自筆証書遺言としては無効とされましたが、作成経緯からは、この遺言が亡fの意思を反映しているもので、被告b・c・dとしては納得出来ないと思われます。しかし、遺言要件は厳格に定められており、自筆で無い以上無効とされるのはやむを得ません。

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主   文
1 別紙1の遺言書による遺言及び別紙2の遺言書による遺言が無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要
 本件は,原告が,亡f(以下「亡f」という。)名義の別紙1の遺言書及び別紙2の遺言書(以下,これらの遺言書を順に「本件遺言書1」,「本件遺言書2」といい,これらを併せて「本件各遺言書」という。また,本件遺言書1による遺言を「本件遺言1」といい,本件遺言書2による遺言を「本件遺言2」といい,これらを併せて「本件各遺言」という。)は亡fが自書したものではなく,また,本件各遺言書が作成された際,亡fには遺言能力がなかったから,本件各遺言はいずれも無効であると主張して,他の相続人である被告b(以下「被告b」という。),被告c(以下「被告c」という。)及び被告d(以下「被告d」という。)並びに本件各遺言に利害関係のある被告e(以下「被告e」という。)との間で本件各遺言が無効であることの確認を求める事案である。

1 前提事実(末尾に証拠等を記載した事実は当該証拠等により認められ,その余は当事者間に争いがない。)
(1)被相続人の死亡
 被相続人である亡fは,令和元年8月31日,死亡した。

(2)亡fの相続人等
ア 被告bは,亡fと最初の妻・gとの間の二男である。
イ 被告cは,亡fと2番目の妻・hとの間の長男であり,被告dは,その間の二男であり,原告は,その間の長女である。
ウ 亡fの相続人は,被告b,被告c,被告d及び原告の4名である。
エ 被告eは,亡fが亡くなる1年ほど前から,対価を受けて業として亡fの身の回りの世話をしていた者である。

(3)亡fの公正証書遺言等

         (中略)


2 争点及びそれに関する当事者の主張
(1)本件各遺言書は亡fが自書したものか否か(争点1)
ア 被告c及び被告dの主張
 本件各遺言書は,亡fが自書したものであり,原告主張のように被告eが書いたものではない。このことは,jの筆跡鑑定書等(乙C2,3,5ないし7,11)により明らかである。

イ 被告bの主張
 亡fが本件各遺言書を自書したか否かについては判断できない。

ウ 被告eの主張
 原告主張のとおり,本件各遺言書は,被告eが書いたものであり,亡fが自書したものではない。

エ 原告の主張
 本件各遺言書は,被告eが書いたものであり,亡fが自書したものではない。このことは,大和科学鑑定研究所中野分室の筆跡鑑定書(甲25ないし27)及び被告eの陳述等により明らかである。

(2)本件各遺言がされた際,亡fが遺言能力を欠如していたか否か(争点2)
ア 原告の主張
 仮に亡fが本件各遺言書を自書したとしても,亡fは,本件各遺言をした際,それらの内容を理解し,それらの結果を認識できるだけの判断能力がなかったから,遺言能力を有していなかった。

イ 被告c,被告d及び被告eの主張
 原告の主張は争う。本件各遺言がされた際,亡fは十分な判断能力を有していたから,遺言能力を有していた。

ウ 被告bの主張
 本件各遺言がされた際に亡fが遺言能力を欠如していたか否かについては判断できない。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件各遺言書は亡fが自書したものか否か)について

(1)各末尾記載の証拠等によれば,次の事実が認められる。
ア 亡fは,平成27年3月以降,福島県喜多方市所在の自宅建物で暮らしていた。なお,亡fは,親族と同居していなかった。(甲29,弁論の全趣旨)

イ 亡fは,平成29年10月31日,原告との間で,亡fの生活,療養看護及び本件マンションを含む亡fの財産の管理・処分に関する事務の委任契約を締結した。そして,原告は,上記委任契約に基づき,本件マンションの管理をした。
 また,亡fは,同日,上記委任契約の締結と同時に,本件公正証書遺言をした。(甲1,9,弁論の全趣旨)

イ 原告は,平成30年8月18日,被告eとの間で,同月19日を勤務開始日とし,ホームヘルパーとして亡fの身の回りの世話などをすることなどを内容とする業務委託契約を締結した。(甲10,20,乙D3,弁論の全趣旨)。

ウ 亡fは,平成30年10月に転倒をして負傷した。その頃から,被告eは,自宅建物に住み込み,亡fの介助もするようになった。(乙D3,7の1の5,被告e本人)

エ 上記のとおり,亡fは,原告に対し,財産の管理を委任していたが,平成31年1月4日,東京都港区から住民税の未納付を理由に亡fの預金が差し押さえられたため,亡fは,原告に対する不信感を持つようになった。そこで,亡fは,G弁護士に相談し,同弁護士は,同年2月3日,亡fの代理人として,原告に対し,書面をもって,同書面到達後1週間以内に亡fの金銭の収支等を文書で報告すること,その報告がない場合は上記期間の経過をもって原告との金銭管理について一切の委任関係を解除すること,原告に預けてある亡fの実印,銀行印,キャッシュカード,通帳,その他財産に関する一切の契約書,書類等並びにマイナンバーカード及び原告の居住する×××号室を除く本件マンションの鍵一式を直ちに引き渡すべきこと,亡fの預金等の引出しや動産類の処分,移転を禁止することを通告した。(甲32,乙D3,乙E1の2の1ないし3,乙E2の1の1及び2,被告e本人)。

オ 原告は,平成31年2月8日,G弁護士に対し,回答のメールを送信した。原告は,そのメールにおいて,本件マンションの○○○号室,△△△号室及び□□□号室については民泊の営業を開始していることを伝えた。(甲33)

カ 亡fは,本件公正証書遺言を変更することを考えたが,金銭的余裕がなかったことなどから,新たに公正証書遺言をすることができない状況であった。そこで,亡fは,平成31年3月下旬頃,G弁護士に相談し,同弁護士は,亡fに対し,本件遺言書1の原稿を交付した。その際,亡fは,自らの体力と相談しながらゆっくりでも自書すると述べた。(乙D13,被告e本人,弁論の全趣旨)

キ 亡fと被告eとの間で,平成31年4月1日付けで,支払開始日を平成30年10月14日とし,1か月当たりの勤務時間数を670時間以上とし,支払額を1か月120万円並びにそのほかに食費5万円,洗剤などの日用雑貨類及びガソリン代等を別途支給とし,業務委託内容を家事全般,健康管理,生活動作全般の支援,秘書業務及び緊急時の対応とし,退職金を2000万円とする契約書が作成された。また,亡fと被告eとの間で,平成31年4月4日付けで,平成30年10月14日から同月31日までの未払分45万円,同年11月の未払分90万円,同年12月の未払分90万円,平成31年1月の未払分90万円,同年2月の未払分120万円及び同年3月の未払分120万円の合計555万円を借入金とする準消費貸借契約が締結された。なお,その後も,同年4月ないし同年7月の各120万円の未払分について借入金とする準消費貸借契約が順次締結された。なお,その当時,亡fには,そのような支払をすることができるような資金的な余裕はなかった。(甲18,24の1ないし5,乙D3,弁論の全趣旨)。

ク G弁護士は,平成31年4月23日頃,亡fの代理人として,原告に対し,書面をもって,原告が亡fに無断で民泊業を開始して,委任の趣旨・目的を逸脱し違法な管理・処分行為に及び,亡fとの信頼関係を破壊したなどとして,民泊業の廃業,民泊業のために使用した部屋の原状回復及び損害の賠償を求めるとともに,既に上記エの通知後に原告から適切な報告がなかったことから委任契約は解約されているが,予備的に委任契約を解約することなどを通告した。(乙E2の2)

ケ 亡fが,G弁護士に対し,本件遺言書2と同旨の遺言書の作成を相談したため,同弁護士は,令和元年5月12日,亡fに対し,本件遺言書2の原稿を交付した。その際も,亡fは,自らの体力と相談しながらゆっくりでも自書すると述べた。(弁論の全趣旨)

コ 亡fと被告eとの間では,被告eが亡fの養女になる話も出るようになっていた(甲21の1及び2,乙D3,被告e本人)。

サ なお,平成31年4月19日付け主治医意見書では,亡fについて,認知症の診断名はなく,「心身の状態に関する意見」欄においても,「(1)日常生活の自立度等について」の「障害高齢者の日常生活自立度」は「自立」とされ,「認知症高齢者の日常生活自立度」は「自立」とはされていないものの,最も程度の軽い「〈1〉」とされ,「(2)認知症の中核症状(認知症以外の疾患で同様の症状を認める場合を含む)」の「短期記憶」は「問題あり」とされているものの,「日常の意思決定を行うための認知能力」は「いくらか困難」にとどまり,「自分の意思の伝達能力」も「伝えられる」とされ,「(3)認知症の行動・心理状態(BPSD)」は「無」とされ,「(4)その他の精神・神経症状」も「無」とされていた。また,令和元年6月6日を調査日とする「認定情報(事務局用)」では,亡fについて,日常の意思決定は,「特別な場合以外可」とされていた。他方,上記「認定情報(事務局用)」では,亡fは一次判定で要介護4と判断され,歯磨き,洗顔,整髪,上衣やズボン等の着脱等についても一部介助を要する状態であるとされた。(甲11の1及び2)

(2)前記認定事実を前提に,本件各遺言書は亡fが自書したものか否かについて検討する。
ア 弁論の全趣旨によれば,本件各遺言書は亡fの居住する自宅建物で作成されたことが認められるところ,亡fが死亡した現在において,本件各遺言書作成時の事情を知る者は,その当時自宅建物において住み込みで働いていた被告eしかいない。

そして,その被告eは,亡fが,遺言書を書いては破棄し,書いては破棄し,結局遺言書を書けず,被告eに代わりに書くよう依頼したこと、そのため被告eが遺言書を書いたこと,亡fからそのことは秘密にし,誰にも言わないよう求められ,亡fの名誉を守るためにそのことを秘密にしたこと,ただし,本件訴訟で嘘をつき続けることに耐えられなくなり,真実を述べることにしたことを供述している。

イ ところで,被告eが本件各遺言書を書いた者についてあえて虚偽の事実を供述しなければならないような事情があるとは認められない。この点につき,被告c及び被告dは,被告eには虚偽の陳述をすることによって原告の攻撃から逃れられる利益があると主張するが,想像の域を出ていない上,説得力もないから,採用することはできない。 

ウ また,前記認定事実によれば,亡fの令和元年6月6日現在の身体状況を見ると,亡fは,一次判定で要介護4と判断されるような状況にあり,歯磨き,洗顔,整髪,上衣やズボン等の着脱等についても一部介助を要する状態であったものであったところ,亡fは,G弁護士から本件各遺言書の原稿を交付された際に,自らの体力と相談しながらゆっくりでも自書すると述べており,亡f自身も,遺言書の作成が決して容易ではないことを自覚していたことが認められるところである。

また,前記認定のとおり,被告eは自宅建物において住み込みで働いていたこと,亡fは,住み込みで働いている被告eに対し,家事全般,健康管理,生活動作全般の支援等を委任し,高額の報酬や退職金を約束していたこと(なお,前記認定事実サによれば,その当時,亡fの判断能力が著しく低下していたとは考えにくい。),亡fと被告eとの間では養子縁組の話も出るようになっていたことが認められるのであって,亡fと被告eは密接な関係にあり,亡fは被告eに大きく依存していたことが認められるところである。

こられの事情に加え,前記認定のとおり,亡fは,金銭的余裕がなかったことなどから,新たに公正証書遺言をすることができない状況にあったことが認められ,亡fが本件公正証書遺言を変更するには自筆証書遺言をせざるを得ない状況にあったことを考慮すると,被告eが供述するとおり,亡fが遺言書を自書して完成させることができなかったため,被告eが亡fの依頼で本件各遺言書を作成した可能性は否定できず,少なくとも,被告eの供述が虚偽であると判断できるだけの事情は認められない。

エ なお,被告dの提出する筆跡鑑定書等(乙C2,3,5ないし7,11)では,本件各遺言書の筆跡は亡fの筆跡であり,被告eの筆跡ではないとされるが,他方で,原告が提出する筆跡鑑定書(甲25ないし27)では,本件各遺言書の筆跡は亡fの筆跡ではなく,被告eの筆跡と同一又は類似性が認められるとされている。

原告が提出する筆跡鑑定書は,本件各遺言書の署名と亡fの文字及び被告eの文字を,文字線の形状(各画の線の方向や形状,始筆や終筆部分のハネやハライの種別,線同士の位置関係などといった,文字の線に絡んだ要素),運筆(筆順など筆記具の動き),字形(文字全体が横広か,縦長か,正方形状か),文字列における字の位置(文字列で特定の方向に偏って書かれる等配置の特徴),字の向き(まっすぐか,左右に多々向いているか等)の観点から詳細に比較し検討しているものであること(甲25ないし27),被告d自身が,筆跡鑑定書の信憑性については,多くの筆跡鑑定人が信頼に値する鑑定能力を備えていないために,鑑定精度のばらつきが大きく,評価が分かれていると述べるように,筆跡鑑定の証拠力には一定の限界があることや被告eの供述を考慮すると,原告が提出した筆跡鑑定書を全面的に排斥して,被告dが提出した筆跡鑑定書等を全面的に採用すべきであるとまで認めることはできない。

オ したがって,本件各遺言書は亡fが自書したものであると認めることはできない。

3 よって,原告の請求は,その余の点について破断するまでもなく,いずれも理由があるからこれらを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第4部 裁判官 伊藤繁

別紙1
別紙2
以上:6,360文字

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