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相続させる遺言一部相続人死亡の場合遺言全部無効否認地裁判決紹介

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令和 4年 8月18日(木):初稿
○遺産の一部を相続させるものとされた複数の推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡したとしても、直ちに遺言全部が無効となるとは認め難いとした令和3年11月25日東京地裁判決(判時2521号○頁)全文を紹介します。

○民法第994(受遺者の死亡による遺贈の失効)条で「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」と規定されており、遺贈ではなく相続人の1人に「相続させる」との遺言の場合も、遺言者が、代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り、遺贈の場合と同様当該遺言部分は失効すると解されています(平成23年2月22日最高裁判決)。

○本件事案は次の通りです
・平成2年6月22日被相続人亡Aは以下の公正証書遺言作成、
本件土地1の共有持分5分の3(亡A持分1)を亡C及び原告X2に相続させ,共有持分は各10分の3宛とする
本件土地1上の建物を原告X2に相続させる
本件土地2の共有持分5分の3(亡A持分2)を原告X1に相続させる
預貯金中500万円を亡Bに相続させ,残額を原告X2に相続させる
・亡Cは平成17年11月15日、亡Bは平成29年9月23日に死亡にそれぞれ死亡し、その後亡Aは平成30年5月21日に死亡
・原告X1・X2は、亡C・亡Bの遺言部分のみを無効として遺産分割調停申立するも相手方らは遺言全部無効を主張して遺産分割不調終了


○原告らは、特定の遺産を複数の推定相続人に「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,死亡した当該推定相続人に関する部分に限り一部無効となるのであって,生存する他の推定相続人に関する部分を含めて全部無効となるのではないと主張し、被告らは全部無効となると主張しましたが、判決は、原告らの主張を認めました。妥当な判決と思います。

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主   文
1 原告X2と被告らとの間において,原告X2が,別紙物件目録記載1の土地につき,亡A(明治43年○月○日生,平成30年5月21日死亡,本籍東京都中野区〈以下省略〉)の有していた共有持分10分の3を有することを確認する。
2 原告X1と被告らとの間において,原告X1が,別紙物件目録記載2の土地につき,亡A(明治43年○月○日生,平成30年5月21日死亡,本籍東京都中野区〈以下省略〉)の有していた共有持分5分の3を有することを確認する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は,原告らが,「相続させる旨」の遺言によって被相続人から土地の共有持分を取得した旨主張して,被告らとの間において,その共有持分を有することの確認を求めた事案である。

2 前提事実
 次の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。
(1) 当事者等
 原告らは亡A(以下「亡A」という。)の子である。
 被告らは亡B(以下「亡B」という。)の子であり,亡Bは亡Aの子である。
 亡C(以下「亡C」という。)は亡Aの子である。
 なお,亡Aの相続関係は別紙相続人関係図のとおりである。(いずれも争いのない事実)

(2) 遺言当時の共有関係
 亡Aは,平成2年6月22日当時,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地1」という。)の共有持分5分の3及び同目録記載2の土地(以下「本件土地2」という。)の共有持分5分の3を有していた(以下,亡Aが有していた本件土地1の共有持分を「亡A持分1」,亡Aが有していた本件土地2の共有持分を「亡A持分2」ということがある。)。(争いのない事実)
 なお,同日当時,原告X1は本件土地2の共有持分5分の2を,原告X2は本件土地1の共有持分5分の1を,亡Cは本件土地1の共有持分5分の1を,それぞれ有していた。(甲12,13)

(3) 公正証書遺言
 亡Aは,平成2年6月22日,民法969条に定める方式に従い,公正証書(東京法務局平成2年第2245号)によって遺言をした(以下,この遺言公正証書を「本件遺言書」,この遺言を「本件遺言」という。)。(甲11,弁論の全趣旨)
 本件遺言は,特定の遺産を特定の推定相続人に相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する次の各条項を含んでいた。(争いのない事実)
ア 本件土地1の共有持分5分の3(亡A持分1)を亡C及び原告X2に相続させ,共有持分は各10分の3宛とする旨(1条)
イ 本件土地1上の建物を原告X2に相続させる旨(2条)
ウ 本件土地2の共有持分5分の3(亡A持分2)を原告X1に相続させる旨(3条)
エ 預貯金中500万円を亡Bに相続させ,残額を原告X2に相続させる旨(4条)

(4) 推定相続人及び相続人の死亡
 亡Cは平成17年11月15日に死亡した。
 亡Bは平成29年9月23日に死亡した。
 亡Aは平成30年5月21日に死亡した。(いずれも争いのない事実)

(5) 遺産分割調停
 原告らは,令和元年10月23日頃,東京家庭裁判所立川支部に,被告ら及び訴外D,訴外E及び訴外Fを相手方として,亡Aの遺産に係る遺産分割調停を申し立てたが,被告らは,本件遺言が全部無効であり,亡A持分1及び亡A持分2が遺産分割の対象となる遺産であると主張し,遺産分割の協議が整わなかったことから,原告らは,令和3年2月5日,上記申立てを取り下げた。(甲14,弁論の全趣旨)

3 争点及び当事者の主張
 本件の争点は,本件遺言のうち原告らに関する部分の有効性であり,この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

(被告らの主張)
 本件遺言のうち原告らに関する部分は無効である。
(1) 特定の遺産を複数の推定相続人に「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,死亡した当該推定相続人に関する部分に限らず,生存する他の推定相続人に関する部分を含めて全部無効となり,その効力を生ずることはない。

 判例(最判平成23年2月22日・民集65巻2号699頁(以下「平成23年最判」という。))も,「遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」としている。

 本件においては,本件遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人であった亡C及び亡Bが,遺言者である亡Aの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言は,生存する推定相続人である原告らに関する部分を含め,その効力を生ずることはないというべきである。

(2) 遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,推定相続人の人数や属性が変わり,遺言の時点における分配の前提が失われる。
 遺言のうち死亡した推定相続人に関する部分のみを無効とすると,遺言の時点から相続開始の時点までに時間が経過していることも少なくないから,流動資産が生活費のために費消されると,不動産を相続する者が流動資産を相続する者の遺留分を侵害するし,あるいは,死亡した推定相続人に相続させるものとされた遺産がさらに遺産分割の対象となると,生存する推定相続人が望外の利益を得る一方で,死亡した推定相続人の代襲者が予期せぬ不利益を被ることになるなど,推定相続人間で紛争を生じる。このように遺言を一部無効とすることは,遺言者の一般的な意思に反するものというべきである。

(3) 本件遺言書には,推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合に,死亡した推定相続人に関する部分のみを一部無効とするとの記載はない。
 亡Aは,本件遺言の当時,既に79歳であったから,相続開始の時点において子が全員生存していることを念頭においていた。
 したがって,本件遺言を一部無効とするは,亡Aの意思に合致しない。

(4) 原告らの主張に係る生前贈与の事実は認められない。
 亡Aは,本件遺言が有効であればわざわざ生前贈与をする必要もないのであるから,仮に,生前贈与をしたのであれば,亡Cが死亡したことによって本件遺言が全部無効であると認識していたと考えられる。

(原告らの主張)
 本件遺言のうち原告らに関する部分は有効である。
(1) 特定の遺産を複数の推定相続人に「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,死亡した当該推定相続人に関する部分に限り一部無効となるのであって,生存する他の推定相続人に関する部分を含めて全部無効となるのではない。
 平成23年最判は本件とは事案を異にする。

(2) 本件遺言書には,推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合に,生存する他の推定相続人に関する部分を含めて全部無効とする旨の記載はないし,本件遺言書からはそのような意思を読み取ることもできない。

(3) 亡Aは,亡Cの死亡後,平成23年2月10日頃に亡Bに対して合計514万0467円の定期預金を,平成26年10月29日頃に亡Bに対して合計71万円の定額郵便貯金を,それぞれ生前贈与することで,本件遺言書4条を前倒しで実現しているから,推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合に本件遺言を全部無効とする意思を有していなかったことが明らかである。

第3 当裁判所の判断
1 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきであり,かかる遺言があった場合には,当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,当該遺産は,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。(最判平成3年4月19日・民集45巻4号477頁)

2 被告らは,平成23年最判を引用し,本件遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人であった亡C及び亡Bが,遺言者である亡Aの死亡以前に死亡したことから,本件遺言が,生存する推定相続人である原告らに関する部分を含めて全部無効となり,その効力を生ずることはないと主張する。

 しかしながら,遺言者が特定の推定相続人に特定の遺産を相続させる旨の遺言をし,当該遺言により遺産の一部を相続させるものとされた複数の推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡したとしても,必ずしも他の生存する推定相続人に特定の遺産を相続させる意思が失われるとはいえず,直ちに当該遺言が全部無効となってその効力を生じないとは認め難い。

 平成23年最判は,遺言により遺産の全部を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合において,死亡した当該推定相続人に関する部分の効力が問題とされたものであるのに対し,本件は,本件遺言により遺産の一部を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合において,本件遺言のうち生存する他の推定相続人に関する部分の効力が問題とされるものであるから,平成23年最判と本件とでは事案を異にするものというべきである。

3 被告らは,遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,推定相続人の人数や属性が変わり,遺言の時点における分配の前提が失われると主張するが,特定の遺産を特定の相続人に相続させる理由には様々なものがあり得るから,必ずしも推定相続人の一部が死亡したからといってその前提が失われるともいえない。

 また,被告らは,不動産を相続する者が流動資産を相続する者の遺留分を侵害し,あるいは,生存する推定相続人が望外の利益を得る一方で,死亡した推定相続人の代襲者が予期せぬ不利益を被ることになるなど,推定相続人間で紛争を生じ,遺言を有効とすることが遺言者の一般的な意思に反すると主張するが,いずれも遺言を有効とすること自体に起因するものといえない。

4 そして,遺言者である亡Aが別段の意思表示をしたなどの事情についての主張立証はない。
 仮に,本件遺言のうち亡C及び亡Bに関する部分が同人らの死亡によって無効になるとしても,原告らに関する部分がこれらを前提としていたとか,これらと不可分の関係にあるなどの事情は認められない。

 かえって,前記前提事実によれば,本件遺言は,その当時において,本件土地1の共有持分を有する亡C及び原告X2に対して亡A持分1を,本件土地2の共有持分を有する原告X1に対して亡A持分2を,それぞれ相続させるものであり(前提事実(3)),亡Aが,各推定相続人の生活状況,資産,特定の不動産についての関わりあいの有無,程度等の事情を考慮し,不動産の共有関係を複雑なものとしないように配慮した上で,特定の推定相続人に特定の遺産を相続させる意思を有していたことが推認される。そうすると,亡C及び亡Bが亡Aの死亡以前に死亡したとしても,原告らに特定の遺産を相続させる意思は失われないものと考えられる。

5 したがって,本件遺言のうち原告らに関する部分が無効とは認められず,亡Aが有していた本件土地1の共有持分10分の3(亡A持分1の半分)は原告X2に,亡Aが有していた本件土地2の共有持分5分の3(亡A持分2)は原告X1に,それぞれ亡Aの死亡の時に直ちに相続により承継されたものと認められる。

第4 結論
 以上によれば,原告らの請求はいずれも理由があるからこれらをいずれも認容することとし,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第5部 (裁判官 中村英晴)
以上:5,939文字

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