令和 4年 7月27日(水):初稿 |
○「死後離縁申立てを恣意的申立てとして却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和3年3月30日大阪高裁決定(判タ1489号64頁)を紹介します。 ○抗告人(原審申立人)は、亡Eと婚姻し、亡I(D)は、抗告人及び亡Eの間の長女Fと婚姻し、その後に抗告人及び亡Eは、亡I(D)と養子縁組し、利害関係参加人は、抗告人及び亡Eの間の二女Gの子であり、親権者父母の代諾により、亡I(D)及びFと養子縁組していました。その後に亡I(D)が死亡し、さらに亡Eが死亡したところ、抗告人が、利害関係参加人を申立人の推定代襲相続人の地位にとどめたくないとの意思を有するに至ったことから、抗告人と亡Iとの養子縁組の解消を求めて、死後離縁を申し立てました。ところが、原審が本件申立てを却下したため、抗告人が抗告しました。 申立人_____________亡E | |養子縁組 | 長女F__亡I(D) 二女G |養子縁組 | 利害関係参加人 利害関係参加人 ○これに対し、抗告審令和3年3月30日大阪高裁決定(判タ1489号64頁)は、離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなど、当該申立てについて社会通念上容認し得ない事情がある場合には、これを許可すべきではないと解されるところ、本件においては、本件申立てを許可することにより、利害関係参加人が抗告人の代襲相続人の地位を失うこととなることを踏まえても、本件申立てについて、社会通念上容認し得ない事情があるということはできないとして、原審判を取り消し、抗告人の死後離縁を許可しました。 ○利害関係参加人は、大学を卒業して就労実績もある上,亡I相続で7400万円、亡E代襲相続で1億2700万円の遺産を相続しており、抗告人について推定代襲相続人の地位を喪失することとなったとしても,生活に困窮するなどの事情はおよそ認められないことを理由としています。 *************************************** 主 文 1 原審判を取り消す。 2 抗告人が,本籍C養子亡Dと離縁することを許可する。 3 手続費用は,第1,2審を通じ,抗告人の負担とする。 理 由 第1 抗告の趣旨 主文と同旨 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は,抗告人が,死亡した養子との死後離縁の許可を求める事案である(令和2年6月16日審判申立て)。 原審は,同年11月16日,本件申立てを却下する旨の審判をしたところ,抗告人が,これを不服として,即時抗告した。 2 抗告理由 別紙1「抗告状」(写し)の「抗告の理由」のとおり 3 利害関係参加人の意見 別紙2「意見書」(写し)のとおり 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 一件記録によれば,以下の事実が認められる。 (1)抗告人(昭和10年*月*日生)は,昭和32年5月20日,亡E(以下「亡E」という。)と婚姻した。抗告人と亡Eは,長女であるF(以下「F」という。)と二女であるG(以下「G」という。)のほか,2人の娘をもうけた。 亡Eは,昭和32年に家業を法人化し,昭和44年にH株式会社(以下「H」という。)に商号変更して,これを経営していた。Hは,亡Eと抗告人及びその子らを株主とする同族会社である。 (2)亡I(以下「亡I」という。)は,昭和56年6月15日,Fと婚姻した。 亡Iは,J家の当主及びHの経営の後継者となるため,Fとともに,亡E及び抗告人夫婦と同居を開始するとともに,平成11年1月4日,亡E及び抗告人夫婦と養子縁組をした(これにより,亡Iは,J姓となった。)。 亡Iは,平成4年にHに入社し,平成15年1月には,代表取締役社長に就任し,主としてその経営に当たり,亡Eが代表取締役会長としてこれを支援していた。 (3)他方,亡I及びF夫婦には,子がいなかったことから,将来のJ家の当主及びHの経営の後継者となることを期待して,平成14年6月11日,Gの三男である利害関係参加人(平成2年*月*日生。当時12歳)と,G及びその夫の代諾により養子縁組した。もっとも,利害関係参加人は,その後も亡I及びF夫婦とは同居せず,G及びその夫により養育されていた。 利害関係参加人は,平成24年に大学を卒業し,他社に就職した後,平成29年4月,Hに入社した。 (4)亡Iは、平成30年*月*日,死亡した。そのため,同年*月,利害関係参加人が,Hの代表取締役社長となり,亡Iの葬儀や一周忌法要を喪主等として主催した。利害関係参加人は,亡Iの相続により約7400万円の遺産を相続した。 亡Eは,平成30年*月*日,死亡した。利害関係参加人は,亡Eの相続において,亡Iを代襲して,約1億2700万円の遺産を相続した。 (5)その後,抗告人及びFと利害関係参加人とは,Hの経営を巡って対立するようになり,その関係が著しく悪化したところ,利害関係参加人は,令和元年11月29日,Hの代表取締役及び取締役を辞任した。 利害関係参加人は,令和元年*月の亡Eの一周忌,令和2年*月の亡Iの三回忌の各法要をいずれも欠席した。 2 判断 (1)養子縁組は,養親と養子の個人的関係を中核とするものであることなどからすれば,家庭裁判所は,死後離縁の申立てが生存養親又は養子の真意に基づくものである限り,原則としてこれを許可すべきであるが,離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなど,当該申立てについて社会通念上容認し得ない事情がある場合には,これを許可すべきではないと解される。 (2)これを本件についてみると,一件記録によれば,本件申立ては,抗告人の真意に基づくものであると認められることから,社会通念上容認し得ない事情があるかにつき検討する。 上記認定事実によれば,抗告人と亡E夫婦は,亡Eが引き継いできたJ家の財産やHの経営を承継させることを目的として,亡Iと養子縁組したものであるところ,亡Iは,抗告人と亡Eよりも先に死亡して,その目的を遂げることができなくなったことが認められる。 そして,利害関係参加人は,亡Iの死亡により,抗告人の代襲相続人の地位を取得したものではあるが,既に,大学を卒業して就労実績もある上,亡I及び亡Eから相当多額の遺産を相続しているものであって,上記代襲相続人の地位を喪失することとなったとしても,生活に困窮するなどの事情はおよそ認められない。その上,抗告人と利害関係参加人との関係は著しく悪化しており,利害関係参加人は,Hの代表取締役及び取締役を辞任したことも認められる。 上記の諸事情に照らせば,本件申立てを許可することにより,利害関係参加人が抗告人の代襲相続人の地位を失うこととなることを踏まえても,本件申立てについて,社会通念上容認し得ない事情があるということはできない。 この点,利害関係参加人は,本件申立ては,抗告人の推定相続人から利害関係参加人を廃除することを目的としてされた恣意的なものであると主張するが,抗告人と利害関係参加人との関係は著しく悪化しており,一件記録によれば,抗告人には,利害関係参加人を自らの相続人から廃除したいという思いがあることはうかがわれるものの,そのような意図があるからといって,上記の諸事情に鑑みれば,本件申立てについて社会通念上容認し得ない事情があるとはいえないとの上記判断を左右するものとは認められない。 以上によれば,本件申立ては,これを許可すべきである。 3 以上の次第で,上記判断と異なる原審判は相当ではないから,これを取消した上,本件死後離縁の申立てを許可することとする。 よって,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 志田原信三 裁判官 中村昭子 裁判官 國分晴子) 別紙 1 抗告状(写し)〈省略〉 2 意見書(写し)〈省略〉 以上:3,228文字
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