令和 4年 7月28日(木):初稿 |
○異議対象審判事件の申立人である子が、本件審判事件の相手方である戸籍上の父を相手として、大阪家庭裁判所に対し、本件子と本件父との間に親子関係が存在しないことを確認することを求める調停を申し立てたところ、原審裁判所が、家事事件手続法277条に基づき、本件子と本件父との間に親子関係が存在しないことを確認する旨の合意に相当する審判をしました。 ○これに対し、抗告人が、同法279条1項本文に基づき、本件審判の利害関係人として、本件審判に対して異議を申し立て、原審裁判所が、抗告人は、同法279条1項本文所定の利害関係人には当たらないとして、当該異議の申立てを却下する旨の審判をしました。 ○そこで、抗告人が即時抗告をしましたが、本件審判が確定することにより、抗告人は、母から認知請求を受け、本件子との親子関係が形成され、さらには、母から養育費の請求を受け、養育費の支払義務が形成される蓋然性があることが認められるから、抗告人は、本件審判に関し、法律上の利害関係を有すると認めることが相当であり、抗告人がした同法279条1項本文に基づく本件審判に対する異議は適法というべきであるとして、原審判を取り消した令和3年3月12日大阪高裁決定(判時2517号59頁)全文を紹介します。 ○本件子と本件父との間に父子関係がある確率は0%である旨の鑑定書があり、この鑑定書の信用性を覆す新たな鑑定書でも出ない限り、抗告審でも結論は変わらないと思われます。 家事事件手続法 第277条(合意に相当する審判の対象及び要件) 人事に関する訴え(離婚及び離縁の訴えを除く。)を提起することができる事項についての家事調停の手続において、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、家庭裁判所は、必要な事実を調査した上、第一号の合意を正当と認めるときは、当該合意に相当する審判(以下「合意に相当する審判」という。)をすることができる。ただし、当該事項に係る身分関係の当事者の一方が死亡した後は、この限りでない。 一 当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立していること。 二 当事者の双方が申立てに係る無効若しくは取消しの原因又は身分関係の形成若しくは存否の原因について争わないこと。 第279条(異議の申立て) 当事者及び利害関係人は、合意に相当する審判に対し、家庭裁判所に異議を申し立てることができる。ただし、当事者にあっては、第277条第1項各号に掲げる要件に該当しないことを理由とする場合に限る。 ******************************************** 主 文 1 原審判を取り消す。 2 抗告費用は抗告人の負担とする。 理 由 第1 抗告の趣旨 主文同旨 第2 事案の概要(以下,略称は,本決定において新たに付すもののほかは,原審判の表記に従う。) 1 本件は,異議対象審判事件(以下「本件審判事件」という。)の申立人である子(以下「本件子」という。)が,本件審判事件の相手方である戸籍上の父(以下「本件父」という。)を相手として,大阪家庭裁判所(以下「原審裁判所」という。)に対し,本件子と本件父との間に親子関係が存在しないことを確認することを求める調停を申し立てたところ,原審裁判所が,令和2年10月19日,家事事件手続法(以下「法」という。)277条に基づき,本件子と本件父との間に親子関係が存在しないことを確認する旨の審判(以下「本件審判」という。)をしたことについて、抗告人が,法279条1項本文に基づき,本件審判の利害関係人として,本件審判に対して異議を申し立てた事案である。 原審裁判所は,同年12月21日,抗告人は,法279条1項本文所定の利害関係人には当たらないとして,当該異議の申立てを却下する旨の審判をしたことから,抗告人が,これを不服として,即時抗告をした。 2 抗告理由 別紙「抗告状」の「第2 抗告の理由」(写し)のとおり 第3 当裁判所の判断 1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。 (1)本件子は,母と本件父との婚姻中である平成29年*月*日に出生したが,母と本件父は,平成30年4月24日,本件子の親権者を母と定めた上,離婚した。 抗告人は,平成28年頃,母との間で,性交渉を伴う交際関係にあったところ,令和元年10月1日,本件父との間で,抗告人が,母と5年以上にわたり不貞行為をしたことを認め,本件父に対し,不貞行為の慰謝料及び養育費の不当利得として500万円の支払義務があることを認めることなどを内容とする合意書(以下「本件合意書」という。)を作成し,同金額を本件父に支払った。 (2)本件子は,令和2年5月13日,母を法定代理人とし,本件父を相手として,原審裁判所に対し,本件子と本件父との間に親子関係が存在しないことを確認することを求める調停を申し立てた。母は,申立ての理由として,「母と本件父は,平成30年4月に離婚しており,以前より不仲のため交渉はなく,本件子は抗告人との間の子であり,本件父との間に親子関係はない。」などと記載し,本件子と本件父との間に父子関係がある確率は0%である旨のNPO法人作成の令和元年8月30日付けDNA鑑定報告書を提出した。 令和2年10月14日,本件調停期日において,本件子(出頭者母)と本件父との間で,上記申立ての理由記載の事実関係に争いがないことを確認した上,申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立した。 これを受けて,原審裁判所は,令和2年10月19日,本件子と本件父との間に親子関係が存在しないことを確認する旨の本件審判をした。 (3)母が委任した弁護士は,同月29日頃,抗告人の手続代理人に対し,今後,抗告人を相手方として,認知調停の申立てや,養育費の請求をすることを予定していることなどが記載された事件受任通知書を送付した。 抗告人は,母が本件子を懐胎したと考えられる平成28年当時,母と性交渉があったことは認めているものの,母から,同年10月9日,本件父と避妊をすることなく性交渉したことや,令和元年8月頃,母,本件父及び本件子が一緒に沖縄旅行に行ったことを聞いたことなどから,母と本件父が不仲であったという事実は虚偽であると主張している。 2 以上の事実を前提として,抗告人が,法279条1項本文の利害関係人に該当するかについて検討する。 法279条1項本文の利害関係人とは,法律上の利害関係を有する者をいうと解されるが,法277条に基づく審判が対世効を有することを考慮すれば,審判により直接身分関係に何らかの変動が生ずる者に限られず,当該審判によって変動する身分関係を前提として,自らの身分関係に変動を生ずる蓋然性のある者も含まれるというべきである。 これを本件についてみると,上記認定のとおり,抗告人は,母が本件子を懐胎したと考えられる平成28年当時,母と性交渉をしたこと,一件記録によれば,本件父と母が平成28年当時に性交渉をしたかはひとまず措くとしても,少なくとも本件父と抗告人以外に,母が平成28年当時性交渉をした男性がいる事実は認められないこと,しかるところ,前記認定のとおり,本件子と本件父との間に父子関係がある確率は0%である旨の鑑定書が存在すること,抗告人は,本件父及び母の双方から,本件子の実父であるとされ,本件父に慰謝料及び不当利得金を支払う旨の本件合意書を作成したり,母から認知及び養育費の支払に係る法的手続を申し立てる旨の予告を受けていることが認められることなどからすると,本件審判が確定することにより,抗告人は,母から認知請求を受け,本件子との親子関係が形成され,さらには,母から養育費の請求を受け,養育費の支払義務が形成される蓋然性があることが認められる。 そうすると,抗告人は,本件審判に関し,法律上の利害関係を有すると認めることが相当である。 3 以上によれば,抗告人がした法279条1項本文に基づく本件審判に対する異議は適法というべきであるから,これと異なる原審判は相当ではなく,本件抗告は理由がある。 よって,原審判を取り消すこととして,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 志田原信三 裁判官 中村昭子 裁判官 國分晴子) 別紙 抗告状(写し)〈省略〉 以上:3,405文字
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