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民法第1027条負担付遺贈遺言取消規定適用を認めた家裁審判紹介

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令和 4年 2月19日(土):初稿
○「民法第1027条負担付遺贈遺言取消規定適用を否定した高裁決定紹介」の続きで、その原審令和2年1月16日福島家裁いわき支部審判(判時2503号17頁<参考収録>)前文を紹介します。

○事案は、遺言者が一切の財産を長男に相続させ、その相続の負担として、申立人(二男)の生活を援助するものと定めた遺言について、申立人が、遺言者の死亡後、長男は「申立人二男の生活を援助する」義務を負ったのにこれを履行していないとして、遺言の取消しを求め、福島家裁いわき支部は、これを認めて遺言を取り消したものです。

○本件遺言の内容は、「遺言者は,遺言者の有する一切の財産を,遺言者の長男Aに相続させ、その代わりAは,遺言者の二男Bの生活を援助するものとする。」として、付言として、「私の相続人らは,この遺言に従い,遺留分の減殺請求等をすることなく,お互いに助け合うようにしてください。」と記載された極めてシンプルなものです。

○申立人二男Bは、統合失調症で,障害等級2級の障害者手帳を交付され、年額155万円余りの障害基礎厚生年金を受給しているだけだったので、遺言者は生前最低でも月額3万円(ただし,医療費や電気製品等の買い替えなどが必要な場合には別途加算する)を送金するなどして経済的な援助を継続していました。

○そこで前記遺言を残しましたが、長男Aは、月額3万円の送金については,遺言者の意思を尊重したものであるが努力義務であって,送金の有無や金額の決定は自分が行うとして3万円の送金を停止したことで、申立人が民法第1027条を適用して、全財産を長男Aに相続させるとの遺言取消を求め、福島家裁いわき支部も、遺言者としては,全ての遺産を相続させる代わりに,申立人の存命中は少なくとも月額3万円(年額36万円)の経済的な援助を申立人にすることを法律上の義務として利害関係参加人に負担させる意思であったと認められるとして、取消を認めました。こちらの判断方が合理的と思うのですが、高裁では取消が認められませんでした。

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主   文
1 I地方法務局所属公証人J作成に係る平成○○年第○○号遺言公正証書による亡Cの遺言はこれを取り消す。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨及び実情

1 申立ての趣旨
 主文第1項と同旨

2 申立ての実情
 遺言者は,I地方法務局所属公証人J作成に係る平成○○年第○○号遺言公正証書(以下「本件遺言」という。)をもって,一切の遺産を利害関係参加人に相続させるとともに,この相続の負担として,利害関係参加人が申立人の生活を援助するものとの負担付遺言をした。
 遺言者は,平成29年○○月○○日死亡した。利害関係参加人は,平成29年3月,同年4月にそれぞれ3万円ずつ申立人に支払ったものの,その後,申立人に対する生活援助の義務を履行しなかった。
 そこで,申立人は,利害関係参加人に対し,書面をもって本件遺言の定める義務の履行を催告し,平成30年2月24日,上記書面は,利害関係参加人に到達したが,利害関係人は,相当期間が経過するまでに義務の履行をしなかった。
 よって,申立人は,民法1027条により,本件遺言の取消しを求める。

第2 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 遺言者は,昭和34年1月26日,E(旧姓K。以下「E」という。)(昭和5年○○月○○日生)と婚姻し,同人との間に,長男である利害関係参加人(昭和35年○○月○○日生),二男である申立人(昭和38年○○月○○日生)をそれぞれもうけた。

(2) 申立人は,平成8年頃から統合失調症を発症し,入院中であった平成17年5月27日,障害等級2級の障害者手帳を交付された。
 申立人は,平成21年に退院し,現在,G住宅に独居し,年額155万円余りの障害基礎厚生年金を受給している。

(3) 遺言者は,申立人の病状や生活状況等に鑑み,平成25年頃から,最低でも月額3万円(ただし,医療費や電気製品等の買い替えなどが必要な場合には別途加算する)を申立人に送金するなどして申立人への経済的な援助を継続的に行うようになった。

(4) 遺言者は,平成26年10月15日,本件遺言の作成を公証人に嘱託した。
 本件遺言の内容は次のとおりであった(なお,第2条は遺言執行者の指定,第3条は祭祀承継者の指定である。)。
 「第1条 遺言者は,遺言者の有する一切の財産を,遺言者の長男A(平成35年○○月○○日生)に相続させる。

2 前項の相続の負担として,前記のAは,遺言者の二男B(昭和38年○○月○○日生)の生活を援助するものとする。」
「付言 私の相続人らは,この遺言に従い,遺留分の減殺請求等をすることなく,お互いに助け合うようにしてください。」

(5) 遺言者は,平成28年夏頃,利害関係参加人に対し,自己に代わって送金するよう指示し,利害関係参加人は,申立人に対し,平成29年4月まで,最低でも月額3万円を送金した。

(6) 遺言者は,平成29年○○月○○日死亡し,相続が開始した。
 遺言者の相続人は,E,利害関係参加人,申立人の3名である。

 なお,Eは,平成29年6月当時,要介護認定(要介護4)を受け,障害等級3級(呼吸器機能障害)の障害者手帳を交付されており,D市から重度心身障害者医療費受給資格者とされ,施設内で寝たきりに準じた状態であった。

(7) 申立人は,利害関係参加人に対し,自己の代理人を介して,平成29年6月16日付け書面をもって,公正証書遺言の開示,月額3万円の送金の継続,Eの入所先の開示を求めた。

(8) 利害関係参加人は,平成29年6月25日付け書面をもって,申立人の代理人に対して,本件遺言を同封して開示するとともに,月額3万円の送金については,遺言者の意思を尊重したものであるが努力義務であって,送金の有無や金額の決定は利害関係参加人において行う,心理的影響を配慮するとEの入居先は開示できないとの考えを示した。

 また,利害関係参加人は,上記書面において,遺産分割協議の申出には応じられない,申立人が叔父の告別式に参列したことから申立人にはL間の往復の新幹線代や駅から式場までの往復のタクシー代を負担できるだけの経済的余裕があるとの考えで送金を停止した,節度ある支出に留めれば申立人は年金の範囲内で生活が十分可能であるとしていた(なお,申立人によれば,式場の控室に到着したものの結果的に参列はしていないとされている。)。

(9) 申立人は,利害関係参加人に対し,代理人を介して,平成30年2月13日付け書面をもって,本件遺言の第1条で定められた義務の履行として,同書面到達の日から14日以内に,次のア及びイの合計55万円の支払義務を履行するよう催告した。
 ア 35万円
 ただし,平成29年5月から平成30年2月まで月額3万5000円の合計
 イ 20万円
 ただし,故障した電話機及び冷蔵庫の買い替え費用,礼服の購入費用の合計

(10) 上記(9)の書面は,平成30年2月24日,利害関係参加人に到達した。
 利害関係参加人は,申立人から催告された上記(9)の義務の履行をしなかった。

(11) 申立人は,平成30年4月8日,本件遺言の取消しを求めて,福島家庭裁判所いわき支部に本件申立てをした。

2 判断
(1) 負担付き遺贈については,催告後,相当期間内に履行がないときは,家庭裁判所に取消請求をすることが認められているところ(民法1027条),本件遺言の第1条は,負担付き相続させる旨の遺言である。ここで,「相続させる旨の遺言」は,遺産分割方法の指定であるものの,その権利移転効果は遺贈に類似するものといえるから,遺言者の意思を推測すれば,同条の準用を認めるべきである。

(2) 次に,負担の内容は,履行・不履行の判定ができる程度に客観的に特定可能なものであることを要するものであるが,上記1で認定した事実によれば,遺言者は,その生前から,申立人に対し,最低でも月額3万円を送金していたのであって,本件遺言第1条2にいう生活の援助とは,遺言者が生前から申立人にしていた金銭的な援助としての送金を指すというべきである。
 このことは,本件遺言の付言として遺言者が申立人を含む相続人らに対して遺留分減殺請求という財産的な請求をしないよう求めていたことからも明らかであるといえる。

 また,本件記録によれば,本件遺言作成時において,申立人は51歳であったこと,遺言者の遺産には,年額130万円程度の不動産所得が見込まれる賃貸物件が含まれており,相続開始の直前に遺言者名義の預貯金が少なくとも1800万円以上あったと認められる。これらのことと,Eが高齢で病弱であって,遺留分減殺請求権を行使する現実的な可能性が低く,いずれはさらに相続が発生することが見込まれたことなどに照らせば,遺言者としては,全ての遺産を相続させる代わりに,申立人の存命中は少なくとも月額3万円(年額36万円)の経済的な援助を申立人にすることを法律上の義務として利害関係参加人に負担させる意思であったと認められる。

(3) 上記1で認定した事実によれば,利害関係参加人は申立人からの催告後,相当期間内に本件遺言の定める義務の履行をしなかったと認められるから,本件申立ては理由がある


(4) よって,主文のとおり審判する。
 福島家庭裁判所いわき支部(裁判官 中嶋万紀子)
以上:3,856文字

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