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死因贈与契約に民法第1022条適用を認めた高裁判決紹介

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令和 4年 2月10日(木):初稿
○「夫婦間贈与契約取消の主張を認めない地裁判決紹介」の続きで、その控訴審昭和46年9月29日福岡高裁判決(判決民集26巻4号815頁)を紹介します。

○高裁判決は、民法第754条に基づく夫婦間の契約の取消は、夫婦が正常な関係にある間に限られ、夫婦の関係が破綻した後においてはもはや同条による取消権の行使は許されないとしながら、死因贈与には遺贈に関する規定(民法554条)ひいては遺言の取消に関する民法1022条の規定が準用され、贈与者はいつでもこれを取り消すことができるとして、一審判決を覆しました。

○被控訴人妻は上告し、昭和47年5月25日最高裁判決(判タ283号127頁、判時680号40頁)となりましたが、これは別コンテンツで紹介します。

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主  文
原判決を左のとおり変更する。
別紙目録記載の物件につき、控訴人X1は9分の1、その余の控訴人らは各18分の1の共有持分権を有することを確認する。
被控訴人は控訴人らに対し、別紙目録記載の宅地につき、福岡法務局三井出張所昭和41年1月12日受付第158号をもつてなした所有権移転仮登記、別紙目録記載の建物につき、同法務局同出張所同日受付第156号をもつてなした所有権移転仮登記を、いずれも昭和41年4月21日相続を原因とする共有持分権9分の3の移転仮登記にそれぞれ更正登記手続をせよ。
控訴人らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第1、2審を通じて3分し、その1を控訴人らの連帯負担とし、その2を被控訴人の負担とする。

事  実
一、当事者双方の申立

控訴代理人らは「原判決を取り消す。別紙目録記載の物件(以下本件宅地建物という)につき、控訴人X1は18分の10、その余の控訴人らは各18分の1の各割合による共有持分権を有することを確認する。被控訴人は控訴人らに対し、別紙目録記載の宅地(以下本件宅地という)につき、福岡法務局三井出張所昭和41年1月12日受付第158号をもつてなした所有権移転仮登記、別紙目録記載の建物(以下本件建物という)につき、同法務局同出張所、同日受付第156号をもつてなした所有権移転仮登記の各抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

二、当事者双方の主張

         (中略)


三、証拠関係(省略)

理    由


一、控訴人らの請求原因(1)、(3)の各事実については当事者間に争いがない。

二、控訴人らは、Aが昭和38年4月21日、控訴人X1と被控訴人に本件宅地建物の2分の1宛の持分権をそれぞれ贈与(但し被控訴人については負担付死因贈与)した旨主張し、これに対し被控訴人は本件宅地建物全部の贈与を受けた旨主張する。

(1) 原審証人I、同Jの各証言、原審における控訴人F、当審における控訴人D、および被控訴人各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、昭和36年4月3日Aの後妻として嫁ぎ同年9月19日婚姻の届出をなし、本件建物に同居したが、当時Aは67歳の老人で22年の年令差があるため、同人の死後における自己の生活に不安を抱き、Aもまたこれを配慮し、自己の死後における被控訴人の生活の方策をたて、かつ自己の遺産相続について、控訴人らと被控訴人が争うことを予防すべく考え、昭和38年4月21日、控訴人X1方にA、被控訴人夫婦と控訴人大山、同久富を除くその余の控訴人が集まり、花見の宴を催した際、同人らに右自己の考えを述べるとともに、被控訴人および控訴人らに自己の主要な財産を、死亡により効力を生ずる死因贈与をなす旨申し出で、右出席者一同もこれを了承してその口述内容を書面に作成したことが認められる。右認定に反する証拠はない。

(2) ところで控訴人らは、その際、Aの意思に基づき作成された書面は甲第4号証(決議事項)である旨主張し、被控訴人は乙第1号証(決議事項)がその書面である旨主張する。
しかして甲第4号証と乙第1号証を対照して検討すると、両者はインクを異にし、かつ作成署名者名下の印が一部異つている(X1、Fにつき甲第4号証は指印であるのに乙第1号証では印鑑が押捺されている)ことから、両者は機会を異にして作成されたものと認められる。そうして
(イ)甲第4号証の決議事項第3項には「小郡の家・屋敷は全部X1に譲る」同第4項には「小郡の家・屋敷は全部Yに譲る」(なお、小郡の家・屋敷が本件宅地建物を指していることは弁論の全趣旨より明らかである。

なお、乙第1号証には右第3項のX1に譲る旨の記載はなく、Yに譲るとのみ記載されている。)と記載されており、右記載が控訴人ら主張のごとき趣旨、すなわち、本件宅地建物を控訴人X1と被控訴人の両名に平等の持分による共有とする趣旨とは到底理解することのできない文面であり、むしろAが甲第4号証掲記のごとく相矛盾する2項目を口述した場合には、事柄の性質上、控訴人X1と被控訴人のいずれに贈与するのか或いは両名の共有にするのか、その趣旨を明確にして記載するのが社会通念に合致した方法といえるのであつて、かかる措置が執られていない甲第4号証の記載自体から、同号証が前示花見の宴に際し全員の前で作成された文書ひいてはAの意思を正しく記載している文書であるかどうか極めて疑わしいのであつて、右記載が共有の趣旨をもつてAの真意を表わしている旨の原審証人K、同Iの各証言、原審における控訴人X1、同X2、同F、当審における控訴人D各本人尋問の結果は到底信をおきがたい。

(ロ)原審における控訴人X1、同X2各本人尋問の結果中には、乙第1号証は、甲第4号証が作成された後甲第4号証の写がほしいとの被控訴人の要請により、被控訴人の記憶に基づいて同人が口述するままに控訴人X2が筆記したもので、内容の正確性を吟味しないままAや控訴人ら(大山、久富を除く)が署名して作成したものである旨の陳述がある。

しかし、甲第4号証と乙第1号証を対比すると、「小郡の家・屋敷は全部X1に譲る」とある部分を除いて、両者に一字一句相違がなく、基本となる文書を対照することなく記憶のみで口述されたものとは到底信じ難く、しかも右陳述のごとくであるならば、本来同一内容たるべき文書であり、かつ利害の対立する被控訴人が後日の証拠にするため求めたと思われる文書に、Aおよび控訴人らのうち4名の者までが署名押印しているのに(なお乙第1号の成立については当事者間に争いがない。)、前記の相違があることを誰も気がつかなかつたということはあまりにも不自然であり、乙第1号証の作成経過に関する前記陳述は措信できない。

(ハ)右(イ)(ロ)に加えて、後記のごとく乙第1号証の記載内容が、当時のAの真意に合致していると認められることを併せ考えると、甲第4号証は前示Aの贈与の意思を正しく記載した文書とは認めることができない。
そうして、他に、控訴人X1が本件宅地建物の2分の1の持分権の贈与を受けた事実を肯認するに足る証拠はないので右主張は採用しない。

(ニ)成立に争いのない乙第1号証、乙第4号証の1ないし4、原審証人Jの証言原審における控訴人X2本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、乙第1号証に存する署名押印が各名義人のものであることについて争いがないのみならず、控訴人X1、同D、同F名下にはそれぞれの印鑑が押捺されており(但し控訴人山田のそれは夫Gの実印であることが同控訴人の原審における本人尋問の結果より認められる。)、また乙第1号証の第3項および第5項中には被控訴人の通称「井手信子」と記載された後「信子」を戸籍名の「絹枝」に訂正されていること(この点甲第4号証には「絹枝」と記載されて右のごとき訂正はない。

もし控訴人ら主張のごとく乙第1号証が甲第4号証を基本にして作成されているのであれば、前示のごとく、文言に一字一句相違がなく、右両文書のいずれかは他の基本となる文書を対照筆写されたと推認されることを併せ考えると、乙第1号証には右のごとき訂正を生ずる余地はないのであつて、これが存すること自体同号証が甲第4号証を基本としていないものであることの証左というべきである。)、更には、被控訴人は、昭和40年10月21日Aを相手方として、福岡家庭裁判所久留米支部に、本件宅地建物のほか現金100万円の贈与を求める調停を申立て、右事件の調査ならびに同年12月8日の調停期日において、Aは本件宅地建物の死因贈与を主張し、かつ金100万円の贈与約定を否定しながら、本件宅地建物の二分の一の持分権を控訴人X1に贈与している趣旨のことは何ら述べていないことなどの事実が認められ、これらの事実に原審ならびに当審における被控訴本人尋問の結果を総合すると、乙第1号証が前示Aの意思を正しく記載した文書であつて、Aは昭和38年4月21日、被控訴人に本件宅地建物全部を死因贈与したことが認められるのである。

(ホ)なお右贈与が負担付であつたとの控訴人らの主張はこれを肯認するに足る証拠はない。
また原審証人Iの証言および原審における控訴人X2本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によると、乙第1号証の第1項に記載されている端間の家・屋敷とは、控訴人X1の居住する乙第9号証の1、2の宅地建物と目され、成立に争いのない乙第9号証の1、2、4によると、右宅地建物が、Aの生存中に、売買或いは贈与名義で同控訴人へ所有権移転登記が経由され、またA所有の九州電力株式会社の株式がその生存中に控訴人らの子供らに名義変更されており、前記乙第1号証の第1項(端間の家・屋敷はX1に譲る。)、第4項(九電株600株宛は女姉妹5人に譲る。)がほぼ同記載の趣旨に副つて実現されていることが認められるけれども、右は、いずれも乙第1号証作成後既に約2年8ケ月を経過し、かつ前記調停期日が開かれ、被控訴人が前示のごとく生前贈与を求めていることが明確になつた後のことで、被控訴人の調停申立(しかも当時Aが病気療養中であつたことが、前示西本証言ならびに原審における被控訴本人尋問の結果より明らかである。)という新たな事態が生じたことに対応し、Aの財産処分がなされたものと推測されるから、右認定のごとき生前の財産処分があるからといつて、乙第1号証作成時における同号証掲記の贈与の趣旨が、死因贈与であると認定する妨げになるものではない。

三、そこで控訴人らの契約取消の主張につき判断する。
(1) 成立に争いのない甲第5号証の1、2、ならびに弁論の全趣旨によるとAは弁護士Lに前示被控訴人に対する贈与契約の取消方を委任し、同弁護士は被控訴人に対し、昭和41年1月14日到達の同月11日付内容証明郵便をもつて、民法第754条の夫婦間の契約取消権に基づいて右契約を取り消す旨の意思表示をなしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、民法第754条に基づく夫婦間の契約の取消は、夫婦が正常な関係にある間に限られ、夫婦の関係が破綻した後においてはもはや同条による取消権の行使は許されないと解すべきである(最高昭和42年2月2日判決民集21巻一号88頁)。

しかして成立に争いのない乙第3号証、第4号証の1ないし4、第5号証の1、2、第6号証の1、2、原審証人福永進、同Iの各証言、原審における控訴人X2、同F、同X1、当審における控訴人D、原審における被控訴人各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によると、「Aは肝硬変(癌疑)、慢性胃腸炎により、昭和40年8月21日より同年9月26日まで、小郡町の嶋田医院に入院し、全治せぬまま退院して本件建物において療養を続けたが、この間、被控訴人は、被控訴人がAより本件宅地建物の贈与を受けることにつき、控訴人らが妨害することをおそれ、Aの生存中にその移転登記手続を受けようと考え、再三同人にこれを要求したが、同人が死因贈与を主張してこれに応じなかつたので、夫婦の仲は円満を欠くようになり、被控訴人の同人に対する看護もとかくおろそかになり、前示調停係属もあつて、同年12月22日頃、控訴人X1、同X2、同F、同Dらが相談のうえ、被控訴人の反対をおしきつて、Aを家財もろともX1宅に移転させ、同家において同人を看護するに至り、他方被控訴人はX1方への移転を拒み、Aと別居して本件建物に独居し、時折Aを見舞うくらいであつた。

しかしてこれより先、被控訴人は、前示のとおりの調停を申し立て、本件宅地建物の登記を求めたが、Aは当初あくまで生存中の登記を拒否し、次いでその後右調停係属中に前示のとおり前記贈与契約取消の意思表示をなし、不成立となつた昭和41年1月17日の調停期日には、Aの代理人弁護士Lが『離婚を承知すれば現金50万円を支払う』旨述べて被控訴人に離婚を求めている。

次いでAは、同年2月7日、被控訴人を相手方として、福岡家庭裁判所久留米支部に離婚の調停を申立て、同年3月4日不成立となり、更には、同年3月22日、被控訴人よりAを相手方として本件建物への同居ならびに生活費の支払を求める調停を申立てたが、その係属中にAは死亡した。

これらの家事調停係属中の昭和40年1月初旬、Aは本件宅地建物を第三者に売却すべく、買主との間に代金をもとりきめ、その所有権移転登記手続を準備しているうち、これを知つた被控訴人が前示のとおり仮登記手続をした。」以上の事実が認められる。原審ならびに当審における被控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によると、前示契約取消の意思表示がなされた当時、もはやAと被控訴人間の夫婦関係は破綻状態にあつたというべく、かかる状態のもとになされた取消の意思表示は、夫婦間の契約取消権の行使としてはその効力を生じ得ないものといわなければならない。

(2) しかしながら、Aと被控訴人間の贈与契約は、前示のとおり、Aの死亡により効力を生ずる死因贈与と認められるところ、死因贈与には遺贈に関する規定(民法554条)ひいては遺言の取消に関する民法1022条の規定(遺贈が単独行為であることに由来する同条の取消の方式に関する部分を除いて)が準用され、従つて、贈与者はいつでもこれを取り消すことができるものというべく、かつ弁論の全趣旨によると、前示贈与取消の主張には死因贈与の取消の主張を包含しているものと解されるので、前示取消の意思表示によつて、前示死因贈与契約は有効に取り消されたものといわなければならない。

四、してみると、その余の点につき判断するまでもなく、本件宅地建物はAの遺産として残されたものというべきところ、同人が昭和41年4月21日死亡して相続が開始し、控訴人らは子として、被控訴人は妻として相続分に応じて、同人の遺産を相続したことについては当事者間に争いがなく、法定相続分に従い本件宅地建物を相続すると、控訴人らの持分が各9分の1、被控訴人の持分が9分の3であることが明らかである。

五、だとすれば、被控訴人がなした前示仮登記は、その登記時においては何ら実体的権利を伴わないものとして全部抹消さるべきであつたが、その後生じた相続により、現在においては、右仮登記は9分の3の持分権の移転仮登記として真実の権利関係と符合しているので、かかる場合には右仮登記を全部抹消することなくこれを真実の権利関係に符合するよう更正登記をすれば足りるものと解する。

六、よつて、控訴人X1の持分権確認請求は、前示認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、その余の控訴人の持分権確認請求は前示認定の持分権の範囲内の請求であるから、正当としてこれを認容し、また控訴人らの仮登記抹消登記請求は、昭和41年4月21日相続を原因とする持分権9分の3の移転仮登記に更正登記をなす限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄卸すべきところ、これと趣旨を異にする原判決は失当として変更を免れず、本件控訴は一部理由がある。
よつて民訴法386条、96条、92条、93条を適用して主文のとおり判決する。

物件目録
一 福岡県三井郡小郡町大字小郡字前伏247番地の5
  宅地 283・04平方米(85坪6合2勺)
二 同所同番地の5
  家屋番号第247番5
  木造セメント瓦葺平家建居宅
    床面積 81・98平方米

以上:6,775文字

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