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全財産を顧問弁護士に遺贈する内容の遺言を無効とした高裁判決紹介1

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令和 3年 8月21日(土):初稿
○「全財産を顧問弁護士に遺贈する内容の遺言を無効とした地裁判決紹介」の続きで、その控訴審平成26年10月30日大阪高裁判決(エストロー・ジャパン)関連部分を紹介します。

○一審京都地裁判決は、亡竹子について、平成17年10月3日当時、遺言能力がなかったものと認めるのが相当としていました。しかし、控訴審判決は、平成17年10月3日の本件秘密遺言証書作成当時、竹子のアルツハイマー病は、平成15年当時の初期段階からさらに進行した状態にあり、短期記憶の欠如といった中核症状のみならず、しばしばせん妄等の周辺症状を発症する状況にあったと認められるとしながら、未だ、高度のアルツハイマー病に罹患していたとまでは認められないとして、竹子が本件遺言の内容とその効果を弁識する能力まで欠く状態にあったとは認めるに足りないとして、竹子の遺言能力を認めました。

○控訴審判決は、「本件遺言書作成時及び本件秘密遺言証書の作成時のいずれにおいても竹子の遺言能力が欠如していたとまでは認められず,このことを根拠に本件遺言の効力を否定する被控訴人の主張は理由がない。」としながら、結論として本件遺言は無効として、一審判決を維持し控訴を棄却しています。その理由については別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 当審において参加により生じた訴訟費用は参加人の負担とし,当審におけるその余の訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,被相続人亡竹子(大正5年○月○日生,平成21年2月18日死亡。以下「竹子」という。)の戸籍上法定相続人に該当する被控訴人が,京都弁護士会所属の弁護士である控訴人に対し,竹子が平成15年12月11日に自筆で遺産をすべて控訴人に遺贈する旨記載した遺言書(以下「本件遺言書」という。)について,同17年10月3日に秘密遺言証書封紙を作成して秘密証書とされた秘密証書遺言(以下「本件秘密証書遺言」,本件遺言書を秘密証書とした手続を「本件秘密遺言証書の作成」,これら一連の手続によりなされた遺言を総称していうときは「本件遺言」という。)が,自筆証書遺言としても,秘密証書遺言としても無効であることの確認を求める事案である。参加人は,本件遺言により遺言執行者として指定された者であり,京都弁護士会所属の弁護士である。原審は,竹子の遺言能力を否定して本件遺言を無効と判断したことから,控訴人及び参加人が控訴した(参加人は後に控訴を取り下げた。)。

2 前提事実及び争点は,

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 本案前の争点について

 当審も,原審同様,被控訴人は竹子の相続人(竹子の姉Bの代襲相続人)であると認められ,本件訴えは適法であると判断する。その理由は原判決「理由」中の第1の1ないし4記載のとおりであるから,これを引用する。

2 認定事実

         (中略)




3 本案の争点(本件遺言の効力)についての当裁判所の判断
 本案の争点について,控訴人の当審における主張も踏まえた当裁判所の判断は次のとおりである。
(1) 本件遺言の内容について
 控訴人は,当審において,本件遺言の内容を信託的趣旨の遺言として解釈すべき旨主張するので,まずこの点を検討する。
 なお,被控訴人は上記控訴人の主張が時機に後れたものとして却下すべき旨主張する。しかし,本件遺言が,控訴人がいったん遺贈を受けた上で竹子の意向に沿ってその使途を決する趣旨のものであったことは原審でも主張され,控訴人は原審の本人尋問において,竹子の意向に基づいて控訴人において竹子が世話になった人に配分するつもりであった旨を供述しており,当審においては,同主張の審理のため新たな証拠調べをすることなく判断可能なものであるから,訴訟の完結を遅延するものとはいえない。したがって,時機に後れた攻撃防御方法には該らない。

 遺言内容の判断に当たっては,その文言を形式的に判断するだけではなく,遺言者の真意を探求すべきものであり,遺言書の特定の条項を解釈するに当たっても,当該条項と遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して当該条項の趣旨を確定すべきものである(最高裁昭和55年(オ)第973号同58年3月18日第二小法廷判決参照)。

 本件遺言についてこれをみると,本件遺言書に記載された文言は,控訴人に対しすべての遺産を遺贈するとの内容が明確かつ一義的であり,その文言から信託的趣旨を読み取ることは困難である。
 この点,控訴人は,本件遺言書に「すべておまかせしている」との文言が入っていること,竹子は控訴人に対し従来から別紙「信託内容」のとおりの遺贈先に遺贈してほしいと依頼していたことから,竹子の真意は信託の趣旨であったといえるから,信託的趣旨と解すべき旨主張する。しかし,「すべておまかせしている」という文言は,すべてとはいうものの漠然としていて曖昧であり,「後のことをすべておまかせしている弁ご士Yにいぞうします」との前後の文脈からすると,全面的に信頼を寄せた控訴人に単純に遺贈するものと解するのが自然であって,これをもって控訴人に対し竹子の全財産をさらに他の者に配分することまでを法的に義務付ける趣旨のものと解することは困難である。

 控訴人は,当時竹子は天涯孤独であると思っていたところに多数の法定相続人がいることを知り,形骸的な法定相続人らに遺産が散逸することを懸念して控訴人に相談をしていたとの事情からすれば,竹子にはこのような信託的な遺言をする十分な動機があった旨主張するが,竹子が遺産を法定相続人以外の者に配分したかったのであれば,単に希望する遺贈先を具体的に記載した遺言書を作成すれば足りるのであって,控訴人の主張するような信託的な遺言にする必要性はない。

控訴人は,竹子がそれを決めかねていたから控訴人に任せる(信託する)ことになったなどとも主張するが,前認定のとおり(本判決前記第3の2(1)アの「(5)オ」イ「7(1)」),竹子の希望する遺贈先は平成15年11月の時点でそのほとんどが確定していたことが認められ(控訴人の主張する主たる最終遺贈予定者も,平成17年5月に被控訴人が追加されるなどしたほかは,同時点で竹子が指定した遺贈先とほぼ同じである。),これを妨げる特段の事情もなかったといえるし,仮に遺贈先を決めかねていたとしても,信託的な趣旨なのであれば,少なくとも,遺言自体に,控訴人に遺産の配分を任せる旨を明記することは十分可能であるし,場合により,相続分の指定の委託(民法902条),遺産分割方法の指定の委託(民法908条)をすることも可能であった。したがって,竹子の境遇や当時の状況等を考慮しても,必ずしも,控訴人の主張するような信託的包括遺贈の遺言を作成する理由にはならない。

 また,実際にも,控訴人は,竹子の死亡後本件訴訟の提起までの約2年間,控訴人の主張するところの信託の内容を履行しておらず,また,遺言執行者である参加人も,検認手続後直ちに不動産等の竹子の遺産について,直接控訴人名義に移転する手続に着手し,平成21年12月には遺言執行を完了していることからすれば,控訴人や遺言執行者において本件遺言を信託的遺言であることを前提として行動していたとは考え難い。

控訴人は,本件訴訟が提起されたり,譲渡所得税がかかることから履行が遅れている旨主張するが,前認定(本判決前記第3の2(1)エ「13」)のとおり,他方で,自宅不動産の控訴人への移転登記や預金口座内の残高の確認及び控訴人への振込,動産の控訴人への引渡し等竹子の全財産についての遺言執行は平成21年12月4日までにすべて完了しており,控訴人は,本件株式の取得や,訴外会社からの未収金等の回収はすみやかに実行していること,被控訴人代理人から本件遺言に関する書簡が来たのは竹子の死後1年以上経過した後であること,さらには贈与税がかかることは当初から予期できたことからすれば,信託の内容を遅滞なく実行していないことに合理的な理由があるとはいえない。
 したがって,竹子が多数の法定相続人がおり遺産が散逸することを懸念していた境遇にあったとか,控訴人に対し遺産の配分を任せたいとの心情を有していたとの当時の事情を考慮しても,本件遺言を控訴人の主張するような信託的趣旨の遺言と解することはできない。
 よって,信託的負担付遺贈であったとの控訴人の主張は認められず,本件遺言は,形式的にも実質的にもすべての財産を無条件に控訴人に遺贈するとの遺言であると解される。

(2) 竹子の遺言能力について
ア 本件遺言書作成時(平成15年12月当時)の遺言能力

(ア)遺言能力は,民法上15歳以上であれば認められ,成年被後見人であっても本心に服しているときは遺言ができるとされていることからすると(民法961条ないし963条,973条1項),取引における行為能力までは必要とされているとはいえないものの,当該遺言の内容及びその効果を理解する意思能力を有していることが必要であり,それは当該遺言の内容や遺言時の遺言者の心身の状況等から個別具体的に判断すべきものである。

(イ)このような観点から本件遺言書作成時竹子に遺言能力が欠けていたか否かにつき検討すると,前認定(原判決「理由」第3の2,3,第4)のとおり,竹子には平成14年頃から物忘れ等,認知症の初期症状が始まっていたことは認められる。しかし,平成14年11月の時点での介護認定時の生活自立度は「Ⅰ」であり,「日常生活は家庭内,社会内でほぼ自立している」との評価であること,本件遺言書作成直前の同15年11月の時点でも,介護認定での生活自立度は「Ⅱb」と悪化しているものの,その具体的な内容をみれば,短期記憶に問題が生じていること以外は,見当識障害はなく,日常の意思決定もほぼ可能であり,他者とのコミュニケーションもできるとされ,問題行動は改善している部分もあるのであるから,この調査をもって直ちに遺言能力がないものとは認め難い。加えて,介護認定における生活自立度がそもそも認知症の診断を受けた者に対する介護の要否や程度を,医師以外の者が容易に短時間で判断できることを目的に作成されたもので,治療のため認知症を診断することが目的ではなく,したがって中核症状と周辺症状を区別もせずに判定がなされていること(本判決前記第3の2(2)ア)に照らせば,当時未だ認知症の診断を受けたことがない竹子について,生活自立度の指標をもって認知症の程度を測ることは相当でない。

 次に,当時の竹子の日常生活の状態をみると,前認定(原判決「理由」第4の2(3))のとおり,竹子は,平成15年2月には友人とデパートに買物に行ったりし,本判決前記第3の2(1)アのとおり控訴人と委任契約を締結し,遺言書作成についての相談を頻繁に行い,その中では遺産の総額が約5億円であることや,相続人が多数いること,訴外会社の後継者選びを相談したり,自分の遺骨は東光寺に納めてほしいなど自分の依頼内容を伝えていること,平成15年11月の話合いでは,控訴人から3種類の遺言例を示されると,自ら訂正を求め,また結論も考えさせてほしいなどと述べていること,本件遺言書を作成する前後にも参加人や控訴人と会食をし,通常の会話を楽しめていることなどが認められる。

 さらに,本件遺言の内容は,前説示のとおり控訴人にすべてを遺贈するという一義的かつ単純なものであり,また,遺贈する金額が高額になることが認められるが,竹子は,自ら遺産額を約5億円と認識し,主要な財産が自宅不動産,預貯金,本件株式であることも把握していること(本判決前記第3の2(1)ア「(5)ウ」),当時も年商3億円を超える(平成19年度(甲145))訴外会社の代表者として活動していたことを考慮すれば,竹子にとって認識可能な遺言内容であったというべきである。

 被控訴人は,本件遺言の内容がわずか1年足らず受任関係にあったにすぎない弁護士にすべての財産を遺贈するという不合理な内容であることからすると,竹子にはその意味内容を理解する能力がなかったはずである旨の主張もするが,後記のとおり,竹子は控訴人に頻繁に相談をするうち控訴人に大きな信頼を寄せるようになっていたのであり,そのこと自体は,身寄りがなかったり,判断力や体力が減退したりしている高齢者には,特に重大な判断能力の障害がなくてもあり得ることであるから,当時の竹子が戸籍上の相続人に財産が分散されることを懸念して遺言の作成を依頼していたことをも併せ考慮すれば,控訴人に全財産を遺贈するとの内容であるからといって,直ちに竹子に遺言能力がなかったとまでは認め難い。

 以上の認定・判断に,後記のとおり,上記認定の平成15年頃の竹子の物忘れ等の症状はその後の数年間にさらに悪化し,遅くとも平成19年5月にはアルツハイマー病との診断を受けていることなどを考慮すれば,竹子は平成15年当時既にアルツハイマー病の初期症状を発症していたものと推認されるが,日常は,ほぼ正常な判断能力を備えていたものと認められ,本件遺言書作成時においても,本件遺言書の具体的な意味内容が分からない程度まで判断力が低下していたとまでは認め難い。

イ 本件秘密遺言証書の作成時(平成17年10月当時)の意思能力について
 被控訴人は,遅くとも平成17年10月3日の本件秘密遺言証書の作成時においては竹子の遺言能力は失われていたことが明らかである旨主張する。

 前認定(原判決「理由」第3,第4・本判決前記第3の2(2)(3))のとおり,本件遺言書作成後,竹子の物忘れ等の症状が悪化し,①平成16年11月29日には西陣病院でアルツハイマー病との診断がされ,②同17年4月からは,訪問看護指示書(以下「看護指示書」という。)の傷病名に「アルツハイマー病」が加わり,訪問看護報告書(以下「看護報告書」という。)でも,尿失禁,せん妄,幻覚等の症状が報告されるようになり,同年11月からは,看護指示書上の生活自立度が「Ⅰ」から「Ⅳ」に低下したこと,③同年12月26日から同18年1月19日までの京都赤十字病院入院時において,竹子に興奮状態や,せん妄症状があり,同19年5月にはアルツハイマー病の診断を受け,投薬が開始されたことが認められる(乙38)。

 しかし,他方で,①西陣病院入院時のアルツハイマー病との診断については,前認定のとおり,病室において家に帰りたいと騒ぐ等の不穏行動がみられたという事実によるもので(本判決前記第3の2(2)ウ),入院当日,スクリーニング検査等の客観的な検査に基づかずに診断されており,平成18年3月に西陣病院を退院して以降は状態が落ち着き,同月25日には治療が中止されていること,②看護指示書における診断は,介護従事者に宛てて介護の指標として記載されたものであり,K医師が,竹子に対し認知症との診断をし,投薬治療を開始したのは平成19年5月になってからであること,同指示書の生活自立度の指標も,ランクがⅠからⅣに3段階も突如変更された具体的な根拠は明らかでなく,看護報告書ではせん妄等の症状が報告されているが,せん妄等は認知症の周辺症状として生じることがあるに過ぎないこと(丙1,4),③京都赤十字病院入院時の状況は,本件秘密遺言証書の作成から3か月程度後の状況で当時の状態と同一視することはできない上,これらの症状はいずれも周辺症状であり,入院への拒否反応から一時的に悪化している可能性もあり,本件秘密証書遺言作成時の竹子の精神状態がこれと同様であったと認定することはできない(なお,平成17年から同21年にかけて竹子の口座から控訴人が約1億7000万円を引き出していた事実(原判決「理由」第2の9)は,その際の具体的経緯が明らかでない以上,同事実のみで竹子が判断能力を欠いていたとまではいえない。)ことなどが認められる。

 これらの状況からみれば,平成17年10月3日の本件秘密遺言証書作成当時,竹子のアルツハイマー病は,平成15年当時の初期段階からさらに進行した状態にあり,短期記憶の欠如といった中核症状のみならず,しばしばせん妄等の周辺症状を発症する状況にあったと認められるが,未だ,高度のアルツハイマー病に罹患していたとまでは認められない。

 そして,本件秘密遺言証書の作成時においては,竹子は,公証人や遺言執行者に対し普通に応対し,公証人が,証人2人の立会いの下,その職務として実施した本人確認や本人の遺言能力及び遺言意思の確認において特に問題を認めなかったことや,本件秘密証書遺言の内容が,控訴人1人への単純な包括遺贈であり,かつ,2年前に竹子の意思に基づいて作成した本件遺言書の内容をそのまま確認するものであったことに照らすと,本件秘密遺言証書の作成当時,竹子が本件遺言の内容とその効果を弁識する能力まで欠く状態にあったとは認めるに足りないというべきである。

ウ したがって,本件遺言書作成時及び本件秘密遺言証書の作成時のいずれにおいても竹子の遺言能力が欠如していたとまでは認められず,このことを根拠に本件遺言の効力を否定する被控訴人の主張は理由がない。
以上:7,179文字

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