令和 2年11月13日(金):初稿 |
○「遺留分減殺請求のポイント整理」に 遺留分侵害額の算定は、以下の方法で行います(最判平成8年11月26日判決)。 ①遺留分基礎財産額の確定-相続開始時の財産全体の価額に贈与財産価額を加え、債務全額を控除 ②これに相続人の個別遺留分率を乗じる ③遺留分権利者自身の特別受益財産額と相続による取得財産額を差し引き ④遺留分権利者自身が相続した債務額を加算する と記載していました。 ○遺留分基礎財産額の確定は、相続開始時の財産全体の価額に贈与財産価額を加え、債務全額を控除しますので、遺留分を請求された側としては、遺留分侵害額を少なくするためには相続開始時の債務額が大きくカウントされるほど有利になります。遺留分基礎財産額が少なくなるからです。 ○会社法は以下の通り規定しています。 会社法第611条(退社に伴う持分の払戻し) 退社した社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる。ただし、第608条第1項及び第2項の規定により当該社員の一般承継人が社員となった場合は、この限りでない。 2 退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。 3 退社した社員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。 ○本件は,亡Aの長女であるXが,Aがその所有する一切の財産を長男であるYに相続させる旨の遺言をしたことにより遺留分が侵害されたと主張して,Yに対し,遺留分減殺請求権の行使に基づき,Aの遺産である不動産について遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求め、Yが上記遺言によって取得した預貯金及び現金並びに上記不動産の一部についてYがAの死後に受領した賃料に係る不当利得の返還等を求めました。 ○Aは,合資会社Bの無限責任社員で,後見開始の審判を受けたことによりB社を退社しましたが、Aが退社した当時,B社は債務超過の状態にあり、Xの遺留分の侵害額の算定に関し,B社の無限責任社員であったAが,退社によりB社に対して金員支払債務を負うか否かが争われました。 ○Yは、Aが債務超過のB社を退社したことによりB社に対して金員支払債務を負いこれも遺留分基礎財産から控除すべきと主張していましたが、原審名古屋高裁は,合資会社が債務超過の状態にある場合であっても,無限責任社員は,退社により当該会社に対して金員支払債務を負うことはないとして,AのB社に対する金員支払債務を考慮することなくXの遺留分の侵害額を算定しました。 ○これに対し,Yが上告受理の申立てをしたところ,最高裁判決は、無限責任社員が合資会社を退社した場合において,退社の時における当該会社の財産の状況に従って当該社員と当該会社との間の計算がされた結果,当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときには,定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り,当該社員は,当該会社に対してその超過額を支払わなければならないとして、原判決中Yの敗訴部分を破棄し,同部分を原審に差し戻しました。 ○会社法611条1項により,退社した社員は,持分会社から持分の払戻しを受けることができるものとされ,同条2項により,退社した社員と持分会社との間の計算は,退社の時における持分会社の財産の状況に従ってするものとされています。しかし、本件のように社員の退社時に持分会社が債務超過である場合に,退社した社員が持分会社に対して負う責任について,同条の文言には明記がされていません。 ○この点についての学説は、退社した無限責任社員が消極的持分を有する場合には,当該社員は,会社に対して消極的持分に相当する額の金員を支払わなければならないとするものが多数とのことでしたが、この点を判断した裁判例がありませんでした。そこで最高裁は、前記の通り合資会社を退社する無限責任社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超える場合には,定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り,当該社員は,当該会社に対してその超過額を支払わなければならないとの初めての判断を示しました。 ○その理由としては、このように解することが,合資会社の設立及び存続のために無限責任社員の存在が必要とされていること(同法576条3項,638条2項2号,639条2項),各社員の出資の価額に応じた割合等により損益を各社員に分配するものとされていること(同法622条)などの合資会社の制度の仕組みに沿い,合資会社の社員間の公平にかなうからとしています。 以上:1,854文字
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