令和 2年11月11日(水):初稿 |
○「遺留分減殺請求への合資会社退社債務について判断した最高裁判決紹介」の続きで、その第一審判決である平成28年11月22日名古屋地裁判決(金融・商事判例1591号26頁)の一部を紹介します。 ○被相続人の長女である原告が、被相続人Aの長男であり遺言によりその全遺産を相続した被告に対し、遺留分減殺請求権を行使し、 〔1〕遺産である各不動産につき遺留分減殺請求を原因として持分各4分の1の所有権移転登記手続を、 〔2〕遺産である解約済みの預貯金、現金、及び貸付金にそれぞれ遺留分減殺率である4分の1を乗じた額並びに被告が被相続人から生計の資本として贈与を受けたとする金員に遺留分減殺率である4分の1を乗じた金額及び遅延損害金の支払を、 〔3〕被相続人の死亡日の翌日から各建物の賃料に遺留分減殺率である4分の1を乗じた金員及び遅延損害金の支払を、 〔4〕遺産である出資金の持分払戻請求権につき4分の1の準共有持分を有することの確認を求めた事案で、各財産に対する遺留分減殺率は、7640万3088分の1894万7348と判断され、また計算式は「原告の遺留分侵害額÷減殺対象となる相続積極財産の価額の総和」となる として、各財産につき、上記計算式に基づいて原告に帰属する額を算定し、原告の請求を一部認容した事例です。 ○この第一審時点では、被相続人Aが本件会社(合資会社B)に対してその超過額の支払債務を負う以上、遺留分計算においては債務も計上すべきとの主張はなされていないようです。 ******************************************* 主 文 1 被告は,原告に対し,別紙遺産目録1ないし5記載の各土地及び建物について,平成24年4月20日遺留分減殺請求を原因とする持分各7640万3088分の1894万7348の所有権移転登記手続をせよ。 2 被告は,原告に対し,67万5121円及びこれに対する平成24年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告に対し,95万3835円及びこれに対する平成27年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告が,別紙遺産目録11記載の合同会社Bに対する出資金220万円分につき,7640万3088分の1894万7348の持分払戻請求権の準共有持分を有することを確認する。 5 原告のその余の請求を棄却する。 6 訴訟費用はこれを4分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 7 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,別紙遺産目録記載の各不動産について,平成24年4月20日遺留分減殺請求を原因とする持分各4分の1の所有権移転登記手続をせよ。 2 被告は,原告に対し,1342万7747円及びこれに対する平成24年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成27年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告が,別紙遺産目録記載の合同会社Bへの出資金につき,1815万573分の453万7643の持分払戻請求権の準共有持分を有することを確認する。 第2 事案の概要 1 本件は,被相続人の長女である原告が,被相続人の長男であり遺言によりその全遺産を相続した被告に対し,遺留分減殺請求権を行使し, 〔1〕別紙遺産目録記載の各不動産につき平成24年4月20日遺留分減殺請求を原因として持分各4分の1の所有権移転登記手続を, 〔2〕別紙遺産目録記載の解約済みの預貯金,現金,及び貸付金にそれぞれ遺留分減殺率である4分の1を乗じた額の合計863万6219円並びに被告が被相続人から生計の資本として贈与を受けたとする1916万6113円に遺留分減殺率である4分の1を乗じた479万1528円を合計した1342万7747円及びこれに対する遺留分減殺請求の意思表示をした日の翌日である平成24年4月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を, 〔3〕被相続人の死亡日の翌日である平成24年3月5日から平成27年7月4日までの別紙遺産目録記載の各建物の賃料合計400万円に遺留分減殺率である4分の1を乗じた100万円及びこれに対する催告の後の日である平成27年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を, 〔4〕別紙遺産目録記載の出資金220万円分の持分払戻請求権につき4分の1の準共有持分を有することの確認 を求めた事案である。 2 前提事実(各項末尾に証拠(以下,特に明記しない限り,枝番があるものは枝番を含む。)等を掲記したもののほかは,当事者間に争いがない。) (中略) 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。 (1)Bに対する出資金について 平成22年4月1日から平成23年3月31日までの期間のBの出資金総額は300万円であり,cの持分権220万円を除いた80万円分のうち,40万円分が被告の持分権,残りの40万円分が原告の持分権であった。なお,原告の持分権40万円分は平成24年2月21日に被告に譲渡されている。(甲9,乙167,弁論の全趣旨) (2)本件不動産について 本件土地1及び2の土地上には,本件建物5(c専有部分)を含む鉄筋コンクリート造陸屋根5階建の建物(以下「本件ビル」という。)があり,同建物のc専有部分以外の大部分はBが所有している。また,本件土地1及び2並びに本件建物は,cからBに賃料月額10万円で賃貸されていたところ,c死亡後も賃料月額10万円でBに賃貸されており,c死亡後の賃料は被告が受領している。(甲9,31~33,乙98,弁論の全趣旨) (3)被告名義の預金について 平成9年8月11日から平成17年8月23日まで,被告名義の定期預金口座及び定期積金口座から,合計1916万6113円の出金がされている(乙64の1)。 (中略) 4 争点(3)(cの債務等の額)について (1)証拠(甲1,乙18~21)によれば,別紙遺留分算定基礎財産表の「D.債務等」の項目の各「債務等の内容」が各「認定額」欄記載のとおり,合計61万3695円の限度で,遺留分算定の基礎財産としてcの財産から控除すべき債務等として認められる。 (2)上記認定に対して,まず,原告は,成年後見人報酬・事務管理費用について,被告ではなくcの遺産の中から支払われている旨主張する。確かに,証拠(甲12)によれば,名古屋家庭裁判所は,cが死亡して後見人の任務が終了した後である平成24年6月18日に,cの成年後見人に対する報酬として,成年被後見人の財産から12万円を与える旨の審判をしたことが認められる。しかし,証拠(甲30,乙20)によれば,cの遺言執行者が業務終了に伴い作成した同年8月6日付け遺言執行報告書には、上記報酬・費用の支出について記載されていないこと,及び,被告は,同日,cの成年後見人の口座に上記報酬・費用12万9310円を送金したことが認められ,これらの事実に照らすと,cの成年後見人に対する報酬・費用は,cの遺産から支出すべきものであるところ,被告がこれを立替え支払ったものと認めるのが相当であるから,上記主張は採用できない。 次に,被告は,葬儀関係費用をcの債務として主張するが,葬儀関係費用は,葬儀等の挙行者である喪主において負担すべきものと解されるところ,証拠(乙17)によれば,亡cの葬儀等の挙行者は被告であると認められるから,この点に関する被告の主張は採用できない。 また,遺言執行費用及び移転登記費用については,遺留分算定において控除すべき債務には当たらないと解される(民法1021条ただし書き参照)から,これらの点に関する被告の主張は採用できない。 さらに,被告が主張する債権者を被告とする借入金及び小口借入金については,証拠(乙64)によれば,被告名義の預金口座から1916万6113円が引き出されたことが認められるが,仮に,これらを引き出したのがcであったとしても,そもそもこれらの預金の原資がcの金銭であったのか,被告の金銭であったのかについては,これを認めるに足りる的確な証拠はないから,上記引出額がcの被告に対する債務であるとは認められない。その他にcが被告に対して上記借入金等の債務を負っていたことを裏付ける証拠も見当たらないから,これらの点に関する被告の主張も採用できない。 5 争点(4)(原告の特別受益の有無)について (中略) 8 結論 以上によれば,cの遺留分算定基礎財産は,別紙遺留分算定基礎財産表記載のとおり,7578万9393円となり,この額に原告の遺留分率である4分の1を乗じた1894万7348円が原告の遺留分侵害額となる。 そして,各財産に対する遺留分減殺率は,18947348 76403088(計算式:原告の遺留分侵害額÷減殺対象となる相続積極財産の価額の総和)となるから,各財産は,以下の限度で原告に帰属するといえる。 (1)本件不動産 7640万3088分の1894万7348 (2)解約済みの預貯金及び現金 67万5121円 (3)本件持分払戻請求権 7640万3088分の1894万7348 (4)賃料相当額 95万3835円 (5)合同会社Bへの貸付金 789万1730円 第4 結論 よって,原告の請求は,上記の限度で理由がある。なお,合同会社Bへの貸付金につき,被告に対する給付請求は理由がない。 名古屋地方裁判所民事第7部 裁判長裁判官 倉田慎也 裁判官 湯浅徳恵 裁判官 森田千尋 (別紙)遺産目録 (省略) 以上:4,039文字
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