令和 2年 9月24日(木):初稿 |
○以下の民法の規定により、相続が開始した場合、相続開始を知った時から3ヶ月以内に相続放棄をしないと単純承認したものとみなされます。良く問題になるのは、被相続人死亡後数年を経て、被相続人の借金が判明したときです。3ヶ月以内に放棄していないと単純承認したものと見なされ、その借金を相続したことになるからです。 第921条(法定単純承認) 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。 二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。 第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間) 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。 ○この問題については、昭和59年4月27日最高裁判決「相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,このように信じるについて相当な理由がある場合には,熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算する」によって、借金の存在を知らないことについて相当な理由があれば、借金の存在を知った時(通常催告書が届いたとき)から起算して3ヶ月以内であれば相続放棄の申述ができるとされており、3ヶ月経過後の相続放棄申述を依頼されたことは結構な数あります。 ○市長作成の「亡C様に係る固定資産税の相続人代表者について」と題する書面を受領したことで、相続財産の存在を認識していたと認められるから,熟慮期間もその頃から起算するのが相当として、3ヶ月経過後の相続放棄申述が却下された令和元年9月10日前橋家裁太田支部審判(判時2450・2451号8頁<参考収録>)全文を紹介します。 ******************************************** 主 文 1 申述人の相続放棄の申述を却下する。 2 手続費用は申述人の負担とする。 理 由 1 本件記録によると,申述人は,被相続人の姉(G。昭和62年○○月○○日死亡)の子であり,被相続人が平成29年○○月○○日に死亡したことにより,その相続人となったことが認められる。 2 民法915条1項に定める相続放棄の熟慮期間は,相続人が,相続開始の原因となった事実及びこれにより自己が相続人であることを知った時から起算すべきものであるが,相続人が上記事実を知った時から3か月以内に限定承認又は放棄をしなかったのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,このように信じるについて相当な理由がある場合には,熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算するのが相当である(最高裁判所昭和57年(オ)第82号同59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698頁)。 3 本件記録によると,①申述人は,平成31年2月18日付けのD市長作成の「亡C様に係る固定資産税の相続人代表者について」と題する書面(以下「本件文書」という。)を同月下旬頃受領しているところ,本件文書には,被相続人はD市に固定資産を有していた者(被相続人の夫)の相続人である旨,申述人が被相続人の相続人の一人である旨,上記固定資産の固定資産税に関する書類の受け取りについて,被相続人の相続人の中から代表者を決めてほしい旨記載されていること,②申述人は令和元年7月16日に本件申述をしたことが認められる。 4 前記①によると,申述人は,遅くとも本件文書を受領した平成31年2月下旬頃には,本件文書により相続財産の存在を認識していたと認められるから,熟慮期間もその頃から起算するのが相当である。 そうすると,本件申述は,前記②のとおり,令和元年7月16日に当庁に申述されたものであるから,その熟慮期間が既に経過していることは明らかである。 なお,申述人の子(I)は,本件文書を読んで,被相続人の相続放棄申述受理申立ては相続人の代表者がすればよいと誤解し,被相続人の共同相続人であるEを代表者として相続放棄申述受理申立てをしたなどと主張しているが,そもそも,Eが共同相続人の代表者であることを明示して被相続人に係る相続放棄申述受理申立てをしたという事実はなく(なお,仮にそのような申立てがされていたとしても,有効であるとはいえない。),また,申述人が上記のような誤解をしたことなどは熟慮期間の起算点を後にする理由にならない。 5 よって,本件申述は不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり審判する。 前橋家庭裁判所太田支部 (裁判官 奥山雅哉) 以上:2,012文字
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