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推定相続人廃除遺言による推定相続人廃除請求を却下した家裁審判紹介

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令和 2年 8月 5日(水):初稿
○「被相続人に対する暴力を理由に推定相続人廃除を認めた高裁決定紹介」の続きで、その原審の平成31年4月16日大阪家裁審判(判時2443号52頁)全文を紹介します。関連条文は以下の通りです。

第892条(推定相続人の廃除)
 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

第893条(遺言による推定相続人の廃除)
 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。


○被相続人の遺言執行者である申立人が、被相続人の公正証書遺言において、被相続人経営会社で働いていた被相続人長男Bを被相続人の推定相続人から廃除する意思を表示したとして、Bが被相続人の推定相続人であることを廃除する審判を求めました。

○これに対し、Bは、遺言書に示された暴行の事実を認めながらも、その暴行の理由を被相続人がその妻(Bの母)に暴行を加えたのを咎めたためとか、会社の業務に関連して被相続人と口論になり、被相続人が殴りかかってきたのに反撃したためなどと反論したようです。

○大阪家裁は、推定相続人の行った言動が、廃除事由である虐待、重大な侮辱又は著しい非行に当たるといえるためには、被相続人の意向や推定相続人による言動の外形だけではなく、そのような言動がされるに至った原因や背景等の事情を考慮した上で、当該推定相続人からその相続権を剥奪するのが社会通念上相当と認められることが必要なところ、Bが被相続人に暴行を加えた原因や背景については、被相続人の言動がBによる暴行を誘発した可能性を否定できないというべきであり、暴行により生じた傷害の内容等を踏まえても、Bが被相続人に暴行を加えて傷害を負わせたこと自体を理由に、Bからその相続権を剥奪するのが社会通念上相当であると認めることはできないとして廃除申立を却下しました。

○この判断は、「被相続人に対する暴力を理由に推定相続人廃除を認めた高裁決定紹介」記載の通り、抗告審大阪高裁で、仮にBの暴行について、そのような理由があったとしても,推定相続人Bの被相続人に対する一連の暴行は許されるものではなく,その結果の重大性を踏まえ,社会通念上,推定相続人から相続権を剥奪することとなったとしても,やむを得ないものと言うべきであるとして,原審判を取り消し、Bを推定相続人から廃除しました。

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主   文
1 本件申立てを却下する。
2 手続費用は申立人の負担とする。

理   由
第1 申立ての要旨

 本件は、被相続人の遺言執行者である申立人が、被相続人が平成23年3月29日にした公正証書遺言(J法務局公証人F作成、平成×年第×号。以下「本件遺言」という。)において、Bを被相続人の推定相続人から廃除する意思を表示したとして、Bが被相続人の推定相続人であることを廃除する審判を求めた事案である。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 本件記録によると、以下の各事実が認められる。
(1)Bは、被相続人の長男であり、被相続人の推定相続人である。

(2)Bは、平成16年から、被相続人が経営する会社で働くようになった。

(3)Bは、平成19年5月頃、被相続人を殴打した。

(4)Bは、平成22年4月頃、被相続人を突き飛ばして転倒させた。

(5)被相続人は、平成22年4月19日、G病院を受診し、右第10肋骨及び左第8肋骨の骨折並びに外傷性の左気胸と診断され、同病院に入院した(同月22日付けの同病院・H医師作成の診断書では、左気胸は軽快し同月23日退院予定であり、肋骨骨折は全治約3週間である旨診断されている。)。

(6)Bは、平成22年7月15日、被相続人の顔面を殴打した。

(7)被相続人は、平成23年3月29日、本件遺言において、Bが、被相続人に対し、しばしば殴る蹴るの暴行を加えるなど虐待を繰り返し、また、重大な侮辱を加えたことを理由として,Bを被相続人の推定相続人から廃除するとの意思表示をした。

2 検討
(1)推定相続人廃除の制度は、遺留分を有する推定相続人(以下単に「推定相続人」という。)が被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えた場合、又は推定相続人にその他の著しい非行があった場合、それらが相続的共同関係を破壊する程度に重大であったときに、推定相続人の相続権を剥奪する制度である。 

 上記制度趣旨に鑑みれば、法は、推定相続人の廃除が被相続人の恣意によってなされることを想定していないというべきであり、推定相続人の行った言動が、廃除事由である虐待、重大な侮辱又は著しい非行に当たるといえるためには、被相続人の意向や推定相続人による言動の外形だけではなく、そのような言動がされるに至った原因や背景等の事情を考慮した上で、当該推定相続人からその相続権を剥奪するのが社会通念上相当と認められることが必要と解すべきである。

(2)本件においては、前記1で認定したとおり、Bが被相続人に対して、三度暴行を加え、そのうち一度の暴行により、肋骨骨折等の傷害を負わせたことが認められる(なお、申立人は、平成22年4月の暴行の態様について、Bが被相続人を掃除機のバッテリーで殴ったなどと主張するが、本件記録によってもそのような事実を認めるに足りない。)。

 もっとも、暴行を加えた理由に関して、Bは、平成19年5月の暴行については、被相続人がその妻(Bの母)に暴行を加えたのを咎めたためである、平成22年4月の暴行については、会社の業務に関連して被相続人と口論になり、被相続人が殴りかかってきたのに反撃したためである、同年7月の暴行については、Bが近隣のビルのオーナーから相談を受けて手配した契約(空調設備の修繕に係る契約)を被相続人が無断で取消したことに立腹したためであるなどと述べている(Bは、平成30年12月2日付けの陳述書において、申立人が具体的に主張していない暴行に言及するなど、自己に不利益な事柄についても述べていること、申立人の提出したIの陳述書にも、被相続人とBが共に仕事をする中で喧嘩をしていた旨の記載があること等に照らせば、上記供述は一応の信用性を有するものと認めるのが相当である。)。

 これに対し、申立人は、前記1で認定したBによる暴行の原因や背景については、Bの上記供述中に事実に反する部分があるか否かも含めて、特段主張をしておらず、また、申立人が提出した資料によっても、Bの上記供述の信用性を否定するだけの事実を認めるに足りない。
 そうすると、Bが被相続人に暴行を加えた原因や背景については、被相続人の言動がBによる暴行を誘発した可能性を否定できないというべきであり、暴行により生じた傷害の内容等を踏まえても、Bが被相続人に暴行を加えて傷害を負わせたこと自体を理由に、Bからその相続権を剥奪するのが社会通念上相当であると認めることはできない。


3 結論
 以上によれば、本件申立ては理由がないから却下することとして、主文のとおり審判する。
(裁判官 森本健)
以上:3,080文字

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