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被相続人に対する暴力を理由に推定相続人廃除を認めた高裁決定紹介

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令和 2年 7月14日(火):初稿
○被相続人の遺言執行者である抗告人が,被相続人の遺言に基づき,被相続人の長男を推定相続人から廃除することを求めた事案において,原審は,推定相続人が被相続人に対して暴行を加えた事実を認定しつつ,被相続人の言動がこれを誘発した可能性を否定できないなどとして,申立てを却下する旨の審判をしました。

○これに対し、暴行に至った理由についての推定相続人の陳述の信用性を否定した上,仮にそのような理由があったとしても,推定相続人の被相続人に対する一連の暴行は許されるものではなく,その結果の重大性を踏まえ,社会通念上,推定相続人から相続権を剥奪することとなったとしても,やむを得ないものと言うべきであるとして,原審判を取り消し,申立てを認容し,推定相続人の廃除を認めた令和元年8月21日大阪高裁決定(判時2443号50頁)を紹介します。

○民法の廃除の規定は以下の通りです。当事務所では、随分昔、遺言に「廃除」を盛り込んだことはあります。しかし、「廃除」の申立の相談は殆どなく、珍しい事案と思います。「廃除」はいずれにしても家庭裁判所に請求して認められなければ効力が生じません。

第892条(推定相続人の廃除)
 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

第893条(遺言による推定相続人の廃除)
 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。


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主   文
1 原審判を取り消す。
2 Bを被相続人の推定相続人から廃除する。
3 手続費用は,第1,2審を通じ,抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨
 主文と同旨

第2 事案の概要(以下,略称は原審判の表記に従う。)
1 事案の要旨

 本件は,本件遺言により被相続人の遺言執行者に指定された抗告人が,本件遺言に基づき,被相続人の長男であるBを推定相続人から廃除することを求める事案である。
 原審は,平成31年4月16日,Bには民法892条所定の廃除事由がないとして,本件申立てを却下する旨の審判をしたところ,抗告人が,これを不服として即時抗告をした。

2 抗告の理由
 別紙「即時抗告理由書」(写し)記載のとおり

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,Bを被相続人の推定相続人から廃除するのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおり補正し,後記2で抗告理由についての判断を付加するほかは,原審判「理由」中の第2の1,2に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,引用に際しては,「申立人」を「抗告人」と読み替える。)。
(1) 原審判2頁2行目の「B」の後に「(昭和46年○○月○○日生)」を,最初の「被相続人」の後に「(昭和19年○○月○○日生)」をそれぞれ加える。
(2) 原審判2頁5行目,3頁5行目及び同頁10行目の「4月」を,いずれも「4月16日頃」と改める。
(3) 原審判2頁11行目の「殴打した。」の後に「これにより,被相続人は鼻から出血した。」を加える。
(4) 原審判3頁14行目の「などと」から同頁19行目末尾までを,「などと陳述書において陳述する。」と改める。
(5) 原審判3頁20行目から4頁2行目までを次のとおり改める。
 「しかし,Bは,平成23年2月2日,D法律事務所のE弁護士に宛ててファクシミリにより送信した書面において,平成22年4月16日頃の暴行に関し,被相続人が「オマエが体調を壊すと会社の支障になる。だから妻の世話などするな。」と言ったことに激怒し,被相続人を殴り倒した旨記載しているのであって(甲3),被相続人が殴りかかってきたため反撃した旨のBの上記陳述は信用することができない。また,そのほかの暴行の理由についても,上記そごの点に,上記陳述書の記載内容にいずれも客観的な裏付けを欠くことなどを併せ考慮すれば,直ちには信用することができない。

 のみならず,仮に,平成22年4月16日頃を除く各暴行についてBが陳述するような理由があり,被相続人の言動にBが立腹するような事情があったとしても,それに対し,当時60歳を優に超えていた被相続人に暴力を振るうことをもって対応することが許されないことはいうまでもないところであって,このように,Bが被相続人に対し,少なくとも3回にわたって暴行に及んだことは看過し得ないことと言わなければならない。しかも,被相続人は,平成22年7月の暴行により鼻から出血するという傷害を負い,同年4月16日頃の暴行に至っては,その結果,被相続人において,全治約3週間を要する両側肋骨骨折,左外傷性気胸の傷害を負って,同月19日から同月23日まで入院治療を受けたのであり(甲1),その結果も極めて重大である。これらによれば,Bの被相続人に対する上記各暴行は,社会通念上,厳しい非難に値するものと言うべきである。

 以上によれば,Bの被相続人に対する一連の暴行は,民法892条所定の「虐待」又は「著しい非行」に当たり,社会通念上,Bから相続権を剥奪することとなったとしても,やむを得ないものと言うべきである。したがって,Bを被相続人の推定相続人から廃除することが相当である。」

2 抗告人は,第2の2のとおり抗告理由を述べるところ,上記1において認定・説示したところによれば,当該抗告理由には理由がある。

3 以上によれば,上記判断と結論を異にする原審判は相当ではないから,これを取り消し,Bを被相続人の推定相続人から廃除することとする。
 よって,主文のとおり決定する。
 大阪高等裁判所第10民事部 (裁判長裁判官 志田原信三 裁判官 中村昭子 裁判官 島戸真)
以上:2,521文字

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