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自動車保険契約の酒気帯び免責条項による免責を認めた高裁判決紹介

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令和 2年 8月 4日(火):初稿
○「自動車保険契約の酒気帯び免責条項による免責を認めた地裁判決紹介」の続きで、その控訴審である令和元年5月30日大阪高裁判決(判時2444号20頁、判タ1469号89頁)を紹介します。

○損害保険会社である被控訴人が、控訴人との間で締結した自動車保険契約に基づき、控訴人が当事者となった交通事故について、控訴人に保険金を支払ったところ、当該交通事故は控訴人が酒気帯び運転をしていた際に発生したものであり、保険約款上の免責事由に該当するとして、控訴人に対し、不当利得返還請求権に基づき、既払の保険金相当額及び遅延損害金の支払を求めました(本訴請求)。

○これに対し、控訴人が、被控訴人に対し、上記自動車保険契約に基づき、上記交通事故によって控訴人に生じた人的損害に係る人身傷害保険金のうち未払分及び遅延損害金の支払を求めました(反訴請求)。原審は、被控訴人の本訴請求を認容し、控訴人の反訴請求を棄却する旨の判決をしていました。

○控訴人は、控訴審で、本件免責条項の適用による経済的不利益は数千万円にも及ぶ刑罰よりも過酷なものになること、本件免責条項が適用されるのは、単に運転者が酒気帯び運転をしていたというだけでは足りず、運転者がアルコールの影響により正常な運転をすることができないおそれがある状態で車両を運転をしていた場合に限られると解すべきであると主張しました。

○しかし、高裁判決も、本件事故の前日の晩に決して少量とはいえない程度の飲酒をしたのであるから、翌朝、身体に相当程度のアルコールを保有していることを認識することが可能であり、運転を控えるべきであったということができるところ、それにもかかわらず、控訴人は、本件車両を運転し、本件事故を惹起するに至ったのであるから、本件免責条項の適用を否定すべき特段の事情は認められないというべきであるとして、本件控訴を棄却しました。

○兎に角、世間は、飲酒運転には厳しいと自覚すべきです。夜、飲んだら、翌朝も乗るな!に徹すべきでしょう。

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主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の本訴請求を棄却する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、366万0411円及びこれに対する平成30年10月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要(以下、略称は原判決の表記に従う。)
1 事案の要旨

 本件本訴事件は、損害保険会社である被控訴人が、控訴人との間で締結した自動車保険契約に基づき、控訴人が当事者となった交通事故について、控訴人に保険金を支払ったところ、当該交通事故は控訴人が酒気帯び運転をしていた際に発生したものであり、保険約款上の免責事由に該当するとして、控訴人に対し、不当利得返還請求権に基づき、既払の保険金相当額である213万3510円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年5月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であり、他方、本件反訴事件は、控訴人が、被控訴人に対し、上記自動車保険契約に基づき、上記交通事故によって控訴人に生じた人的損害に係る人身傷害保険金のうち未払分366万0411円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である同年10月23日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、被控訴人の本訴請求を認容し、控訴人の反訴請求を棄却する旨の判決をしたところ、控訴人が、これを不服として、控訴をした。

2 前提となる事実
 原判決「事実及び理由」中の第2の1の「判断の前提となる事実」に記載のとおりであるから、これを引用する(以下、引用に際しては、「原告」を「被控訴人」と、「被告」を「控訴人」とそれぞれ読み替える。以下同じ。)。

3 争点及び争点に対する当事者の主張
 次の4において当審における控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の第2の2の「争点及びこれに対する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

4 当審における控訴人の補充主張
(1)本件免責条項の適用が認められた場合、被保険者は、自らの車両損害及び人身損害について、保険会社から一切の保険金を受け取ることができなくなるのであり、その額は数千万円にも及び得るものである。これに対し、酒気帯び運転の罰金額の上限が50万円であることに照らせば、本件免責条項の適用による経済的不利益は、刑罰よりも過酷なものとなる。そうとすれば、本件免責条項の適用は限定的にされるべきであり、刑罰法規との均衡上、刑罰が科され得る呼気1リットル当たり0.15ミリリットル以上のアルコールを身体に含有する場合にのみ適用があると解すべきである。

(2)また、本件保険契約約款には、無免許運転の際に生じた事故及び麻薬や覚せい剤等の影響により正常な運転をすることができないおそれがある状態で車両を運転した際に生じた事故も免責事由として規定している。
 これらの規定に照らすと、本件保険契約約款における免責条項は、本件免責条項を含め、運転者が、違法行為に及び、かつ、当該行為により正常な運転をすることができない場合について、運転者が自ら事故を招致したものであり、損害を填補しないこととしたものと考えられる。加えて、上記のとおり、本件保険契約約款では、飲酒よりも法的非難の程度が高い麻薬等の薬物を使用していた場合でさえ、薬物等の影響により、正常な運転をすることができないおそれがある状態で車両を運転していた場合のみを免責事由の対象としている。
 そうすると、本件免責条項が適用されるのは、単に運転者が酒気帯び運転をしていたというだけでは足りず、運転者がアルコールの影響により正常な運転をすることができないおそれがある状態で車両を運転をしていた場合に限られると解すべきである。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由があり,控訴人の反訴請求は理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり補正し、後記2で当審における控訴人の補充主張についての判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決9頁20行目の末尾を改行の上、次のとおり加える。 
 「なお、丙川車は、本件事故直前に、西行側道を西進してきたものであり、本件事故現場付近で途切れている約1.2m幅の南側分離帯を抜けて、北向きに4m程度進行し、本道西行車線を横断する途中であり、本件事故現場において北向きに停止した状態にあった。他方、控訴人は、本件事故現場から約37.8m手前付近から前方注視を怠り、左側車線の後方の様子を確認しながら進行していたため、上記のとおり、丙川車に気付くのが遅れたものである。」

(2)原判決10頁6行目冒頭から12頁22行目末尾までを次のとおり改める。
 「2(1)そこで、まず本件免責条項の解釈について検討を加える。
ア 酒気帯び運転の場合、運転者が身体に保有するアルコールの量が刑事罰の対象とならない程度であったとしても、認知力、注意力、集中力及び判断力等が低下し、反応速度が遅くなるなどして、交通事故の発生の危険性が高まることは公知の事実である。そして、酒気帯び運転の結果、数々の悲惨な事故が惹起されたことなどから、酒気帯び運転をしてはならないということは、社会全般の共通認識であり、公序を形成しているといえる。本件免責条項は、こうした点を踏まえた上で設けられたものと推認される。

 そうとすれば、本件免責条項にいう「道路交通法(昭和35年法律第105号)第65条(酒気帯び運転等の禁止)第1項に定める酒気帯び運転」とは、文言どおりに解するのが相当であり、刑事罰の基準と同程度のアルコールを身体に保有している状態で車両を運転する場合とか、酒気を帯びることにより正常な運転をすることができないおそれがある状態で車両を運転する場合などと限定的に解釈するのは相当とはいえない。

 そして、上述した本件免責条項の趣旨目的等に照らせば、本件免責条項にいう酒気帯び運転とは、通常の状態で身体に保有する程度を超えてアルコールを保有し、そのことが外部的徴表により認知し得る状態で車両を運転する場合を指すと解するのが相当である。

 もっとも、本件免責条項が適用されると、被保険者は、交通事故による損失を一切填補されないという過酷な状況に置かれることとなる。この点に、本件免責条項の趣旨目的が上述のとおりであることなどを併せ考慮すれば、酒気帯び運転をするに至った経緯、身体におけるアルコールの保有状況、運転の態様及び運転者の体質等に照らして、酒気帯び運転をしたことについて、社会通念上、当該運転者の責めに帰すことができない事由が存するなど特段の事情がある場合には、本件免責条項は適用されず、保険者は免責されないと解すべきである。

イ これに対し、控訴人は、本件免責条項にいう酒気帯び運転とは、刑事罰を科され得る場合と同程度のアルコールを身体に保有する状態で車両を運転する場合を指すと解すべきであると主張するが、そのような限定的解釈が相当でないことは上記説示のとおりである。
 また、控訴人は、本件保険契約約款が、免責事由として、麻薬や覚せい剤といった薬物の影響等により正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転する場合を挙げていることとの均衡から、本件免責条項にいう酒気帯び運転も、道路交通法65条1項の酒気帯び運転のうち、アルコールの影響により正常な運転をすることができないおそれがある状態で車両を運転する場合を指すと解すべきであると主張する。

 しかし、このような限定的解釈をすることが相当でないことは上記説示のとおりである(薬物を使用した上で運転をした場合と異なり、本件免責条項においては、上述した社会全般の共通認識等を踏まえ、あえて正常な運転をすることができないおそれを要件として掲げていないのであるから、こうした文言の相違に即した解釈がされるべきである。)。
 したがって、控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。

(2)進んで、本件事故における本件免責条項の適用の有無について判断する。
 前記認定のとおり、控訴人は、平成28年4月29日の晩に、少なくとも500ミリリットル入りの缶ビール1本と焼酎の水割りを3杯飲んだ上、翌日午前8時30分頃、本件車両を運転して、本件事故を起こしたこと、その後、警察署で実施された飲酒検知において、控訴人の呼気1リットルにつき0.06ミリグラムのアルコールが検出されたことが認められる。

 そうすると、控訴人は、通常の状態で身体に保有する程度を超えてアルコールを保有し、そのことが外部的徴表により認知し得る状態で本件車両を運転したということができるから、本件免責条項が適用されるものというべきである。

 そして、控訴人は、上記のとおり、本件事故の前日の晩に決して少量とはいえない程度の飲酒をしたのであるから、翌朝、身体に相当程度のアルコールを保有していることを認識することが可能であり、運転を控えるべきであったということができる。それにもかかわらず、控訴人は、本件車両を運転し、本件事故を惹起するに至ったのであるから、本件免責条項の適用を否定すべき特段の事情は認められないというべきである。

2 当審における控訴人の補充的主張について
 控訴人は、当審において、前記第2の4のとおり補充主張をするが、いずれも採用することができないことは、原判決を補正の上説示したとおりである。

3 結論
 以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
 裁判長裁判官 志田原信三 裁判官 濱谷由紀 中村昭子

以上:4,913文字

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