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共同遺言無効の主張を排斥し夫婦連名遺言を有効とした地裁判例紹介2

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令和 2年 1月23日(木):初稿
○「夫婦共同作成名義遺言書を夫単独遺言として有効とした高裁決定紹介」に続けて共同遺言に関する判例の紹介です。現在取扱中の、共同遺言に関する事例を集めています。この事案は最高裁まで争われましたので、別コンテンツで仙台高裁、最高裁判決まで紹介します。

○原告は、本件遺言書は筆跡が全文同一ではなく全文自書が欠けていること、カーボン紙の複写は自書に当たらないこと、妻との共同遺言であることを理由に無効と主張して提訴しました。

○平成2年10月4日仙台地裁気仙沼支部判決(家庭裁判月報46巻4号37頁)は、本件遺言書のうち、3枚目がカーボン紙による複写であるが、これが偽造と結びつくような状況が存在しない場合には、カーボン紙には本人の筆跡が残り、その意思に基づく記載かどうかの判定は比較的容易であると考えられ、かつ、加除変更の危険も少ないと考えられるから、被相続人の自筆証書遺書として有効であるとし、4枚目は後妻名義の遺言となっているが、被相続人の遺言書の配字形態や字画構成が極めて類似しており、これも被相続人の自書と認められ、後妻は本件遺言書の作成に関与せず、被相続人が本件遺言書を作成したことは同人の死亡まで知らなかった等の事情があるから、本件遺言書は実質的には被相続人の単独遺言であって、後妻との共同遺言ということはできないとして、原告の請求を棄却しました。

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主   文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。

事   実
一、原告の請求の趣旨

1. 原告と被告らとの間において、別紙遺言書目録記載の遺言書による亡Aの遺言が無効であることを確認する。
2. 訴訟費用は被告らの負担とする。

二、原告の請求原因
1. 訴外A(以下「亡A」という。)は、昭和58年12月10日死亡し、原告及び被告らが相続人となった。
 亡Aと亡齋藤Bの子が原告、被告E及び同Fであり、亡Aの後妻が被告齋藤C(以下「被告C」という。)であり、亡Aと被告Cの子が被告齋藤G、同齋藤H(以下「被告H」という。)、同齋藤I、J及び同齋藤K(以下「被告K」という。)であり、亡Aと被告Cの養子が被告齋藤L(以下「被告L」という。)である。

2. 仙台家庭裁判所気仙沼支部昭和59年家第3号遺言書検認事件にかかる昭和56年8月30日付の別紙遺言書目録記載の遺言書(以下「本件遺言書」という。)が存在する。

3. そして、被告らは原告に対し、本件遺言書による亡Aの遺言(以下「本件遺言」という。)が有効であると主張している。

4. しかしながら本件遺言は、次の理由により無効である。
(1) 本件遺言書は、その全文が亡Aにより自書されたものではなく、自筆証書遺言の法定要件である「全文について自書」の要件が欠けており、本件遺言は、無効である。

 すなわち、本件遺言書の1枚目と2枚目及び3枚目は同一人の筆跡ではなく、同一人によって記載されたものではない。

(2) 本件遺言書3枚目は、カーボン紙による複写であるが、複写はいわゆる自書にあたらず、自筆証書遺言の法定要件である「自書」の要件が欠けており、本件遺言は、無効である。

(3) 仮に本件遺言書の全文が亡Aの自書であったとしても、本件遺言は、民法975条の共同遺言にあたり、無効である。
 すなわち、本件遺言書は、各葉毎に割印した一通の遺言書であるが、その1枚目には遺言書なる文言及び遺言者として亡A名義の署名押印、4枚目には遺言書なる文言及び遺言者として被告C名義の署名押印があり、遺言が右両者によってなされた形式をとっており、また、被告C名義の遺言の内容は、亡Aが被告Cに贈与した宅地並びに亡Aが所有する建物の敷地である宅地を被告Cが死亡したときに被告Kに贈与するというAの意思を含ませているから、形式及び内容ともに共同遺言となっている。

三、請求原因に対する被告らの認否(被告E及び同Fを除く)
1. 請求原因1ないし3の事実は認める。

2. 請求原因4(1)の事実は否認する。
 本件遺言書は、亡Aによって全文自書されたものである。
 亡Aが生前書いた字を調べてみるとこれが同一人の字かと思われる程、例えば同人が書いた齋藤家の事跡ともいうべき書類(乙第1号証)や家業であった樽屋の取引のために振出した手形(乙第2号証)のように、その筆跡の形は実に様々であり、原告提出の鑑定書(甲第20号証)が、亡Aが原告に宛てた手紙(甲第21号証の5)の筆跡のみをもって本件遺言書と比較しても必ずしも妥当とはいいがたい。例えば、右乙第1号証の27、29の「L」の筆跡と本件遺言書2枚目の「L」の筆跡は、同じであることは明白である。また、乙第1号証の27、29の「K」の筆跡と本件遺言書1枚目及び3枚目の「K」の筆跡は、同じであることは明白である。

3. 請求原因4(2)の事実は否認する。
 仮に、本件遺言書3枚目がカーボン紙による複写であるとしても、「自書」については記載される材料、記載する方法手段は特に制限はなく、カーボン紙による複写は、タイプライター、電子コピーなどの複写版と異なり、本人の真意に基づくものかどうかの判定は容易であり、加除変更の危険は少ないから、「自書」として有効である。

4. 請求原因4(3)の事実は否認する。
 本件遺言書は、形式的には一通の自筆証書に亡A及び被告C名義の署名押印があって、2つの遺言がなされた形となっているが、亡Aは、本件遺言については被告Cと一切話し合ったことがなく、本件遺言書の全文、日付、氏名のすべてを自書し、自ら押印し、一人ですべて作成したものであるし、被告Cは、亡Aが本件遺言書を作成したことを同人の死後まで知らなかったのであるから、本件遺言は、実質的にみると亡Aの単独の遺言であるし、遺言の内容も、被告Cが同人所有の土地を処分したり、遺言を撤回したりすると、亡Aの遺言はなかったであろうとの関係、すなわち、一方の遺言が他方の遺言によって効力が左右される関係にはなっておらず、共同遺言の禁止の法意に触れることはなく、単独の遺言として有効である。

四、証拠〈略〉

理   由
一、亡Aと原告及び被告らとの関係、本件遺言書(乙第3号証)の存在等並びに本件遺言の効力についての争いの存在に関する請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない(被告E及び同Fについては、弁論の全趣旨によりこれを認める。)。

二、本件遺言の効力について
1. 本件遺言書は、自筆証書であるか否かについて検討する。

(1) 本件遺言書の1枚目と2枚目及び3枚目のそれぞれの筆跡を比較対照すると、その配字形態(文字間の大小、間隔、行や文字の傾斜)や字画構成(字画の位置、傾斜、曲直、比率)が一見類似しているし、個々の同一字画の字画構成や筆勢、運筆などの点をみても偶然とは思われない共通した個性が多くみられ、例えば、「気、仙、沼、市、字、岩、月、台、沢、斉、清、重、良」の各文字をみると(「台」「沢」「清」「重」の各字は、1枚目及び2枚目に、「良」の字は、1枚目及び3枚目に、他の各字は、1枚目ないし3枚目に共通して記載されている。)、顕著にあるいは良く共通している点がみられる。(乙第3号証及び鑑定の結果)

(2) 本件遺言書1枚目が亡Aの自書であることは、原告も、「1枚目は全部父が書いたと思います。」と供述しており、ほとんどの相続人の認識がほぼ一致している。(原告、被告C及び被告H各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨)

(3) 亡Aからの原告宛ての郵便はがき二通(甲第21号証の5、6)の宛名の住所、氏名の記載は、亡Aの自書であるが(原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨)、これらと本件遺言書のそれぞれの筆跡を比較対照すると、同一字画の「仙、台、市、斉、藤、子、番」の各字において字画、構成、筆勢、運筆などに多くの共通性がみられ、特に「斉」の字における右共通性は、顕著である。(甲第21号証の5、6、乙第3号証及び鑑定の結果)

(4) 齋藤家の事跡(乙第1号証の1ないし40)の全文、約束手形(乙第2号証の1ないし13)の亡Aの住所、氏名、貯金払戻請求書(甲第21号証の1ないし3)の亡Aの氏名、昭和48年4月1日付契約書住所氏名欄(甲第21号証の四)の亡Aの住所、氏名は、いずれも亡Aの自書であるが(被告H本人尋問の結果、鑑定の結果及び弁論の全趣旨)、これらと本件遺言書のそれぞれの筆跡を比較対照すると、本件遺言書と右各書類中の同一字画である、右事跡中の「地、清、重、良、子、字、年、台、番、」の各字、右事跡及び右約束手形中の行書体の「藤」の字、右事跡、右約束手形、右貯金払戻請求書及び右契約書住所氏名欄中の「斉、景」の各字、右の事跡、右約束手形及び右契約書住所氏名欄中の「気、仙、沼、岩、沢」の各字、右事跡、右貯金払戻請求書及び右契約書住所氏名欄中の草書体の「藤」の字、右約束手形及び右契約書住所氏名欄の「市」の字、以上の同一字画において字画構成、筆勢、運筆などに多くの共通性がみられる。(甲第21号証の1ないし4、乙第1号証の1ないし40、第2号証の1ないし13、第3号証及び鑑定の結果)

(5) 昭和56年8月30日付の本件遺言書は、亡Aの死亡後(昭和58年12月10日死亡)、約1か月後に亡A宅の手提金庫の中から昭和56年8月11日付の亡Aの印鑑登録証明書と共に郵便封筒に入った状態で被告Cに発見され、昭和59年1月23日に仙台家庭裁判所気仙沼支部において検認されたものであり、その物理的状態は同種のB五版罫紙4枚を合綴したもので、3枚目のカーボン紙による複写を除いて1枚目、2枚目、4枚目は黒色ボールぺンで記載され、右印鑑登録された亡Aの印鑑が亡A名下に押され、更に各葉毎の割印として押されている。(甲第9号証、乙第3、第4号証、被告H及び被告C各本人尋問の結果)

(6) 本件遺言によって亡A所有の土地を贈与されることとなった被告L及び同Kは、原告を含めて亡Aの長男らが亡Aのもとを離れて跡継ぎがいなかったために、その跡継ぎとして、昭和55年9月ころ、東京から亡A及び被告Cのもとに移り住み、さらに被告Lは、同年10月31日付で亡A及び被告Cと養子縁組を結んでいる。(甲第8号証、乙第1号証の26、27、30、34、37及び被告H本人尋問の結果)

 以上の認定事実を総合すると、本件遺言書(1枚目ないし3枚目)は、そのすべてを亡Aが自書したものと認められ、亡Aの自筆証書ということができ、これと結論を異にする甲第20号証(原告提出の私的な鑑定書)は、筆跡対照文書がはがき一通(甲第21号証の5)に限定されている上、筆跡対照以外の本件遺言書の形態的特徴だけから本件遺言書の作成者に作為欺罔の意思が存在していると即断するなど臆測や先入観念にとらわれ、筆跡鑑定の本来の姿勢から逸脱している傾向がみられ、採用することはできない。

 なお、本件遺言書2枚目及び3枚目には、1枚目の草書体の「藤」の字と相違している行書体の「藤」の字が記載されているが、斉藤家の事跡(乙第1号証の4、5、21、34)や約束手形(乙第2号証の2、6、7)には行書体の「藤」の字も記載されており、亡Aは右両用の書き方をしていることが認められるし、本件遺言書2枚目、3枚目の記載は、1枚目の遺言本文に対する目録と位置づけられるものであるから、「藤」の字の書体に相違があることをもって亡Aの自書ではないとの疑いをいれる理由とはならない。又、本件遺言書2枚目及び3枚目に土地の面積の単位記号として「平方メートル」の記載があり、これについて原告は、「父は尺貫法で生活してきており、平方メートルというのはほとんど使っていないと思います。」と供述しているが、亡Aがどのような状況においても「平方メートル」の単位記号を使用しないとの事実を裏付ける証拠はなく、贈与する土地の表示を不動産登記簿謄本の表示どおりに記載したのであれば、「平方メートル」の単位記号を記載しても何ら不可解ではないから、この点も亡Aの自書ではないとの疑いをいれる理由とはならない。

 なお、本件遺言書3枚目は、カーボン紙による複写であるが、その経緯は不明であるものの、これが偽造と結びつくような状況はうかがわれないし、右複写の筆跡が亡Aのものであることは認められるところ、自書については記載する方法手段に特別の制限はなく、カーボン紙による複写は本人の筆跡が残り、その意思に基づく記載かどうかの判定は比較的容易であると考えられ、かつ、加除変更の危険も少ないと考えられるから、本件遺言書3枚目も亡Aの自書にあたるということができる。

2. 次に、本件遺言は共同遺言であるか否かについて検討する。
(1) 本件遺言書4枚目は、被告C名義の遺言となっているが、これと亡Aの自書である本件遺言書1枚目の双方の筆跡を比較対照すると、その配字形態や字画構成が極めて類似しており、本件遺言書4枚目もそのすべてが亡Aの自書である。(乙第3号証、被告H及び被告C各本人尋問の結果)

(2) 被告Cは,本件遺言書の作成に全く関与せず、亡Aが本件遺言書を作成したことを同人の死亡後まで知らなかった。(被告C本人尋問の結果)

(3) 本件遺言の内容をみると、亡A名義の遺言は、亡A所有の土地を被告L及び同Kに贈与するというもの、被告C名義の遺言は、被告C所有の土地を被告Kに贈与するというものであって、一方の遺言が他方の遺言によって効力が左右される関係にはなく、直接的な関連性はない。(乙第3号証)

(4) 本件遺言書は、1枚目ないし4枚目まで各葉毎に亡Aの印鑑で割印されているが、4枚目は容易に切り離すことができ、切り離せば亡A名義の遺言書とは別個独立の被告C名義の遺言書となりうる。(甲第九号証及び乙第3号証)

 以上の認定事実によれば、本件遺言書には、形式的には1通の遺言書に2人の遺言がなされている形となっているが、実質的には亡Aの単独の遺言であり、被告C名義の遺言は無効で、亡A名義の遺言が有効に存在するにすぎず、遺言の内容においても、被告C名義の遺言によって影響を受ける関係にはないから、共同遺言禁止の法意(共同遺言は、他の遺言者の意思によって制約を受けやすく、遺言者の自由意思を保障し難い、又、他方の遺言との関係においてその効力が問題となり、法律関係が混乱しやすいなどの理由から禁止されている。)に触れることはなく、したがって、本件遺言は、共同遺言にはあたらず、亡Aの単独の遺言であるということができる。

三、結論
 前記認定のとおり、本件遺言は、亡Aが全文、日付、氏名を自書し、押印して作成した単独の自筆証書遺言であり、法定の方式を具備したものであるから有効である。
 したがって、原告の本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、本文のとおり判決する。

遺言書目録
(1枚目)
遺言書
私所有の左記の土地を私死後斉藤Lと妻Kに贈与します
遺言執行人を気仙沼市字赤岩水梨子斉藤政雄とします

昭和56年8月30日

気仙沼市字岩月台ノ沢20
斉藤A
(2枚目)
気仙沼市字岩月台ノ沢18番の1 1289平方メートル

斉藤L
気仙沼市字岩月台ノ沢18番の2 364平方メートル

斉藤L
気仙沼市字岩月台ノ沢18番の2 991平方メートル

斉藤L
気仙沼市字岩月台ノ沢19番の1 162平方メートル

斉藤L
気仙沼市字岩月台ノ沢20番の1 99平方メートル
斉藤L

(3枚目)
気仙沼市字最知北最知44番の1 1604平方メートル
斉藤K

186番 340平方メートル
斉藤K

230番の1 399平方メートル
斉藤K

気仙沼市字岩月星谷37番の2 165平方メートル
斉藤K

山林155の3 694平方メートル
斉藤K

(4枚目)
遺言書
私所有の左記の土地を私の死後斉藤Kに贈与します
遺言執行人を気仙沼市字赤岩水梨子斉藤政雄とする

昭和56年8月30日

気仙沼市字岩月台ノ沢20
斉藤C

気仙沼市字最知森合24ノ1番地宅地 236・00平方メートル
斉藤K

気仙沼市字最知森合25ノ1番地宅地 62・0平方メートル
斉藤K
以上:6,622文字

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