令和 1年 8月28日(水):初稿 |
○「親子関係不存在確認の訴えの適否について判断した最高裁判決紹介」の続きでこの判決の事案等の説明です。 平成12年3月14日最高裁判決(判タ1028号164頁、判時1708号106頁)は、夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情が存在することの一事をもって、夫が、民法772条により嫡出の推定を受ける子に対して、親子関係不存在確認の訴えを提起することは許されないとしたものです。 ○事案概要は以下の通りです。 ・A女とXは、平成3年2月2日、婚姻の届出をし、婚姻成立の日から200日を経過した後である同年9月2日、Yを出産し、Xは、同月11日、出生届をし、Yは戸籍上、XとAの嫡出子(長男)となった。 ・XとAは、平成6年6月20日、Yの親権者をAと定めて協議離婚。Yは、同年7月4日、その氏をAの氏に変更し、現在までAの下で養育。 ・Xは、離婚後、Yは自分の子ではないとのとの噂を聞き、これをAに問いただしていたところ、平成7年1月22日、AはXに対してこれを肯定。その後、BがXにYは自分の子と伝えた。 ・Xは、速やかにYに対し、親子関係不存在確認の訴えを提起。嫡出否認の訴えの出訴期間経過後でも、親子関係不存在確認の訴え提起が可能と主張。 ・Yは、AがXにYはXの子ではないと言ったのは、Xが子供が居ることで再婚に踏み切れないで居ると聞いて嘘を言ったと主張。 ○一審平成7年6月22日東京地裁八王子支部判決は、民法772条の規定により、YがXの子であることが推定されるのであるから、AがXによって懐胎することが客観的に不可能な事実がある場合を除いては、XがYに対し親子関係不存在確認の訴訟を提起することはできないとして、Xの訴えを却下しました。 ○二審平成7年10月25日東京高裁判決は、嫡出推定及び嫡出否認の制度の基盤である家族共同体の実体が既に失われ、身分関係の安定も有名無実となった場合には、少なくとも父子間の自然的血縁関係の存在に疑問を抱かせるべき事実が知られた後相当の期間内に提起される限り、いわゆる血縁主義、真実主義を優先させ、真実の血縁関係に合致した父子関係の確定のために、例外的に親子関係不存在確認の訴えを許すのが相当であるとして、第一審判決を取り消して事件を第一審に差し戻すべきものとしました。 ○民法772条の嫡出推定を受ける子について、父子関係の存否を争うには、嫡出否認の訴えによることとされており(民法775条、774条)、これと異なる方法により夫と子との間の法律上の身分関係を争う訴えは、不適法とされるのが原則で、嫡出否認の制度の設けられている趣旨としては、①夫婦関係の秘事の公開防止、②家庭の平和の維持、③法律上の父子関係の早期安定、④子の養育の確保と、説明されています。 ○親子関係不存在確認の訴えが認められる要件については、 嫡出推定否認制度の趣旨が家庭の平和と夫婦間のプライバシーの非公開にあり、夫婦関係の秘事に立ち入るべきではないことを根拠として、夫の失踪・出征・在監・外国滞在・夫婦の事実上の離婚など父子関係のあり得ないことが外観上明白な場合に限定して認める外観説、 夫の生殖不能や血液型の不一致など、科学的・客観的にみて妻が夫の子を懐胎することがあり得ないことが証明された場合にも認める血縁説ないし実質説 血縁説の説く場合で、かつ、子が置かれている家庭にもはや守るべき平和が存在しない場合には、血縁主義を優先させて認める家庭破綻説ないし家庭崩壊説 問題の子と母とその夫の三者の合意があれば、嫡出推定が排除され親子関係不存在確認訴訟が提起できるとする合意説 があります。 ○上記学説で、最も要件が緩やかなのは血縁説ないし実質説ですが、二審東京高裁判決は、上記家庭破綻説ないし家庭崩壊説を採用したものです。これに対し本最高裁判決は、夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、右の事情が存在することの一事をもって、嫡出否認の訴えを提起し得る期間の経過後に、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との父子関係の存否を争うことはできないとして家庭破綻説を排除し、外観説を再確認したものと説明されています。 以上:1,754文字
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