令和 1年 7月28日(日):初稿 |
○「死因贈与土地は民法第922条相続財産に該当するとした最高裁判例紹介」の続きです。この最高裁判決は、限定承認をして相続債務の支払を免れながら、受遺者として相続財産だけを取得することは許されないとしましたが、相続放棄の場合も同じように考えられると思われると記述しておりました。被相続人の借金は免れて、被相続人の財産だけを取得することは、相続債権者を不当に害することになり、正義・公平の観点から許されないからです。 ○では、債務が多すぎるため債務全額を支払うことができず限定承認したものの、被相続人の居宅や事業用財産をどうしても取得したい場合、なにか手段がないかどうかを検討します。10年近く前ですが、事業に失敗して多額の負債を残して死去した父と同居していたその息子さんから、父の債務を免れ、同居している居宅を確保する方法を相談されたことがあります。死去した父の高齢の母も同居しており引っ越しが大変だったからです。 ○最も簡明な方法は、相続人全員が相続放棄をして相続人不存在とし、相続財産管理人を選任し、その相続財産管理人から居宅のみを時価で買い取ることですとアドバイスをしました。しかし、買い取りができるかどうかは就任した相続財産管理人によって決まり確実ではないので不安だと言います。 ○そこで死去した父と同居していた息子さん以外の相続人は全員相続放棄して、同居の息子さんが唯一の相続人として限定承認手続をとりました。限定承認者として所定の手続を取り、居宅以外の不動産は、全債権者の同意の元に任意売却して、売却金を債権者へ配当し、居宅と居宅に残された家財道具等動産類についてのみ家庭裁判所に鑑定申請をしました。鑑定人は申請時に候補者を記載しておくと、この候補者を家庭裁判所が鑑定人に選任してくれました。 ○この家庭裁判所選任鑑定人の評価に従った金額で息子さんが居宅を買い取り、その金額を債権者に配当しました。登記手続は限定承認によって唯一の相続人である息子さんに相続を原因として所有権移転登記手続をしていましたので特に新たに登記手続は不要でした。この方法は、民法第932条「前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。」の但し書き以下の規定による限定承認者の先買権と呼ばれるものです。 ○この先買権は、限定承認者のみに認められた権利ですが、念のため全債権者に裁判所選任鑑定人名・鑑定評価額・債権者への配当金額等を事前に報告してその事実上の同意を得ていた方が安全と思われ、私が実施したときは報告をしておきました。なお、居宅に抵当権者が居て、抵当権者が競売申立をした場合は、この先買権は行使できません。 ○「限定承認」が行われた場合、以下の所得税法の規定により、被相続人から相続人に、「すべての資産の譲渡」があったものとみなされます。ここでの譲渡価格は「相続開始時の時価」とされているため、相続時点で含み益がある資産については、「みなし譲渡所得課税」が発生します。この譲渡所得税の支払義務者は被相続人であり、被相続人の相続債務は増加しますが、あくまで被相続人所有財産の範囲内で支払えば良く、限定承認者に承継されることはありません。 所得税法第59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例) 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。 一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。) 以上:1,653文字
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